特級不死 デッドムカデ   作:ゾエア

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「色災」の頂

 

 

 金具の擦れる音。空を切り裂く音。いずれも振り回される三節棍から上がっていた。眼鏡の女が"游雲"を振るい扱う様はかつての記憶を僕に想起させてしまう。そんな感傷に浸る暇は用意されていないようだが。

 

 

「ははっ。やっぱり死蔵するには勿体ないだろ」

 

 

「──何発ッ!!ぶち込めばいいんだよ!!」

 

 

 僕の軽口にもわざわざ悪態を返してくるようだった。こちらは無理に攻める必要はなく、三節棍の届く範囲で適度に受けて躱せば事足りる。

 

 特級呪具として申し分ない破壊力は感じられたが、その真価を発揮するためにもう少し膂力(パワー)が欲しいぐらいか。せっかくだから思い切り使ってくれればいいのに。相手は三節棍のリーチ差を活かして距離を置いた立ち回りだった。こちらが隙を晒してみれば──

 

 

「──おっと。暗器か」

 

 

 クナイの投擲。手の甲を狙ったそれに呪力を貫く威力はなかったが、僕の左肩へと打撃が続いた。

 

 

「!!」

 

 

 遠心力を乗せた縦振りの一撃。耳元で轟音が聞こえたところで、連撃は終わらない。もう一節の棍が回転の角度を変えながら──僕の脇腹に突き刺さった。

 

 

「……いいんじゃない?」

 

 

「流石に堪えたか──っ!?」

 

 

 棍をようやく捕まえられた。シナズと呪力の補助でガチガチに押さえ込んである。すぐには動かせないだろう。こちらはもう右腕を振りかぶって準備を終えていた。百足で出来た強靭な黒い縄。しならせて力を溜めたそれを勢いよく叩きつける。

 

 

黒縄棍(こくじょうこん)』!!

 

 

 水平に薙ぐ一撃。咄嗟に游雲でガードされたようだが、衝撃は彼女の体を真横へ吹き飛ばした。その先には一心に百足を鏖殺しているトゲトゲ頭がいる。受身を取り立ち上がったところだが、彼女はすぐにこちらへ向かってこないようだ。

 

 

「真希さん!!さっきの──」

 

 

「──受けきれてねェ。骨イッたかもな」

 

 

(游雲は結界の外に弾き飛ばした。トゲトゲ頭は式神も解いてるし、多分呪力切れだろ。あっちの攻め手はもうなさそうだし、あとはのらりくらり……?)

 

 

 何か打ち付ける音。結界の直上部からだ。外縁の百足達が構築を維持しようと努力しているが、物理的な干渉に対応しきれていない。すぐに外殻を拳が突き破った。入って来たのは──

 

 

「いけるか!?虎杖(マイフレンド)!!」

「応!!」

 

 

 ──ちょんまげ男と宿儺の器。二人は頭上から結界を破って降りて来た。すぐに外殻の補修は可能であり、ただ敵地に侵入してきただけではあったが……都合がいいのでこの隙を利用させてもらう。

 

 

 まずは結界を解除する。すると外で控えていたパンダが、帳の外へ出るように促し始めた。対五条悟用の結界条件であって、学生は帳から問題なく出られることも同様に伝えている。

 

 呪力切れのトゲトゲ頭と眼鏡の女は、ひとまず帳の外へ脱出するみたいだが、新たな侵入者二人はこっちの相手をしてくれるようだった。

 

 あたかも結界を保てなかったかのように解除し、選手交代を黙って見ていることにもワケがある。僕が"指"に仕込んだ小さな百足。その操作に集中するためだ。忌庫という天元の懐近く、特殊な結界にほど近い場所の小型式神を遠隔で動かすのは繊細な操作が要る。

 

 既にある程度時間も稼げたところであり、学生が数人残っていれば五条悟も直に来ることだろう。仕事は半ば終わり、あとは生き延びるだけ。僕の得意分野である。

 

 そういった事情が重なっていたので、この小休止はお互いに利点があった。僕は学生達を殺しに来たのではなく、あくまで自らの目的のため戦いに来ていた。宿儺の指集めに本腰入れて協力しているワケでもない。

 

 

「俺は手を出さんぞ。虎杖オマエが──"黒閃"をキメるまでな!!」

 

 

 あのちょんまげゴリラは宿儺の器を見殺しにするつもりだろうか。噛ませ犬じみた扱いは不快だが、おおよその見当はついた。摑まんとするのは──呪力の核心。黒閃経験の有無によって、術師としての段階は大きく変わる。

 

 

「1つ聞きたいことがある」

 

 

 宿儺の器──虎杖悠仁からの問い。式神の操作対象を()()()()()()()、真人からの証言を思い出していた。

 

 アイツに弄ばれた吉野順平の末路。親しくなった者の死が、虎杖悠仁にどんな影響を与えたのか。本人でもない以上僕に知る由もないし、聞きたいわけでもなかったが、その表情からはありありと伝わってくる。真人と虎杖悠仁の間にある確執も。

 

 

「オマエの仲間に──ツギハギ面の人型呪霊はいるか?」

 

 

「──いるよ。まだ何か聞きたいか?」

 

 

 返答は地面を殴る拳だった。衝撃が走り土煙が姿を覆い隠す。あとは直接拳で聞き出したいようだ。

 

 虎杖悠仁の目の前にいる僕は真人じゃない。確かに一派としてまとまっているし、現に敵として対峙している。しかしながら、怒り顕に呪力出力を上げたところで、その精度もつられて増す保証はない。余念を残したまま黒閃をキメられる程、甘く相手する義理は──僕にあるわけもなく。

 

 既にここへ呼んであるのは地下へと流されていた式神。合図を出せば地面から──百足の群れが噴出した。

 

 

「なッ……!!」

 

 

「呪力が乱れてる」

 

 

 気圧された相手へ肉薄し、防御する腕の上から蹴り抜く。

 

 

「──ッ!!」

 

 

 軽く防げる威力でもない。鈍い音が響いたところだが、眼前の彼はまだまだ戦えそうではあった。器としての肉体強度は申し分ないようで。

 

 

「考え事かな。そのままだと僕は助かるよ」

 

 

「……オマエは何がしてェんだよ」

 

 

 あちらは僕の行動に疑問が出てきたらしい。百足による広範囲攻撃と堅牢な防御性能。それと結界による封じ込めなど……いずれも学生達の足止めぐらいにしか使っておらず、死者は1人も出ていない。気絶した者も中にはいるが、戦闘不能にする狙いであることを勘づかれただろうか。

 

 

「仕事だよ。僕にも目的があるんでね。オマエは仇討ちがしたいのか?()()()

 

 

「いいや。血ィ上ってたみたいだ。もう迷わねぇ……!!」

 

 

 軽口を叩き合っても僕は構わないのだが、彼はどこか吹っ切れた様子だ。その表情から雑念は消え、構えたまま感覚を研ぎ澄ましている。

 

 

(余計な言葉だったな…!!)

 

 

 下手な小細工は要らない。彼は右の一撃でキメる確信があるのだろう。こちらは右半身で構える。呪力を淀みなく左腕に纏わせながら、あちらのお望み通り真っ向からのぶつけ合いだ。

 

 膂力(パワー)はあちらに、呪力量はこちらに分がある。衝突の際、()()()()()()のはどちらか。その答えは──

 

 

 

 

黒 閃

 

 

 

 

「───はっはっは!!いいね!!()()か!!」

 

 

「今のが"黒閃"……!!」

 

 

 お互いが同時に散らした火花は黒々と輝いた。打撃との誤差──百万分の一秒以内。その刹那に呪力が衝突することで生じる現象をすなわち黒閃と呼ぶ。

 

 二発の黒閃がぶつかり合ったという異常。あちらの並外れた集中を褒めるべきか、僕の精度を誇るべきか。

 

 そして、虎杖悠仁は気づいたはずだ。黒閃の経験。それが単純に威力を上げるだけの代物ではないことを。引き出されたポテンシャルと呪力の新たな境地を噛み締めているはずだ。

 

 黒閃をキメることで得た高揚と万能感は、僕の左手の鈍痛を帳消しにしていた。砕けた拳から血が滴り落ちている。純粋な拳の強度はあちらの方が上のようだ。

 

 瞬く間に再生を済ませたが、ちょんまげ男はそこを目敏く見ていた。虎杖悠仁の背後から合流した彼も、共に遊んでくれるらしい。独特な構えは二人お揃いのモノ。

 

 

「反転術式……!!やはりただの呪詛師ではないらしい。だが!!虎杖(ブラザー)!!俺たちが負ける道理はない!!」

 

 

「勝てる道理でもあるのか?」

 

 

 両手に百足を巻き付け補強する。黒く光沢のあるグローブを嵌めた拳はさっきと別物だ。それと同時に足元を百足の群れで埋めつくした。

 

 

 あちらの二人は百足をものともせずに仕掛けてくる。息の合った二発の打撃。両の腕で防ぎつつちょんまげ男へ式神の狙いを定めた。

 

 

「東堂!!もっとタイミングを合わせよう!!」

 

 

「あぁ!!俺も術式を解禁し──?」

 

 

 足首へ這わせた長大な百足個体。群れでカモフラージュされたそれに気づくのは、巻き付かれた瞬間のみ。ちょんまげ男──東堂と呼ばれていた──は文字通り、足を掬われた体勢のまま僕の下へ引き寄せられ──

 

 

 ──拍手の音。

 

 

「!!」

 

 

 僕の足首に百足が巻きついている。後方へ引っ張る勢いによって、つんのめるように体勢が崩れた。その隙を逃す相手ではないようで、待ち構えたように東堂の回し蹴りが背中へ打ち込まれた。

 

 

「ッなるほど!!位置替えか!!」

 

 

「そう、俺の術式は相手と自分の位置を入れ替える"不義遊戯"!!発動条件は手を叩くことだ!!」

 

 

 衝撃が運んだ先は虎杖悠仁の眼前。術式の開示と共に味方への説明も済ませる抜け目なさが東堂にはあるようだ。既に虎杖悠仁は状況を理解して迎撃を構えている。

 

 

「いいね!!僕が攻めれば──」

 

 

 会敵と同時に打撃の応酬。すると再び拍手の音がした。今度は虎杖悠仁と東堂が入れ替わり、体格差がそのままこちらの拳のミートをずらすことになる。

 

 

「──替えて反撃!!状況が読めてきたようだな呪詛師よ!!」

 

 

 僕の言葉の先を東堂が代わって発言する。同時に打撃が僕を揺らすがそれは問題ない。肝心なのはアイツらの相性の良さだ。憎たらしいことにあちらは入れ替えに動じることなく、対応して攻め手を組み立てられる。

 

 

「遊ばせておくのも忍びない。シナズ。しっかり凝らして先を読め」

 

 

 マニュアル操作から半自立操作へ切り替える。シナズは僕の体に巻きついたままだ。触角と複数ある眼を入れ替えに対応させる。やられっぱなしじゃ終われない。周囲の百足達を渦巻くように動かし、空間ごとかき混ぜる。

 

 

玄渦(くろうず)』!!

 

 

 黒い渦に飲まれながらも、ヤツは術を発動するはずだ。その前に呪力を練り上げておく。感覚を研ぎ澄ましたところで──拍手の音。

 

 

「すかさず範囲攻撃!!エグイな!!……だが!!」

 

 

 入れ替えられた先は百足の濁流の只中。しかし対応は可能だ。さっきまで僕がいた渦の中心。入れ替わったことで、そこに東堂が位置しているはず。拳を構えたところで──違和感を覚えた。

 

 

(拍手の音が止まらない……?いや、呪力があちこちを移動してる……!!術式効果も対象もブラフか!!)

 

 

「気づいているか?"不義遊戯"の真の効果を…!!式神も、自分以外でも入れ替えは可能!!俺たちは自由に動ける!!渦の中に閉じ込められたのは!!」

 

 

「──僕の方……って言いたいのか?…甘ェんだよちょんまげ!!」

 

 

 式神の制御を放棄する。遠心力で百足達が渦の外へ投げ出されていった。開けた視界に見えたのは、拳を構えた虎杖悠仁と、()()を構えた東堂の姿。

 

 左右からの攻撃、どちらへ対処すべきか。答えは決まっていた。もちろん両方──総取りだ。

 

 

 

 

黒 閃

 

 

 

 

「二発目も同時……!!お互い元気いっぱいだな!!」

 

 

 再び黒い光が辺りを彩った。僕と虎杖悠仁──互いの黒閃は互いに威力を相殺。シナズの甲殻と游雲が衝突したことで、同時に鈍い音を響かせながら。

 

 

 再び拍手の音。それは東堂が游雲を手放した証左だ。自らの攻め手を捨ててまで入れ替えたのは、游雲と──僕に巻きついていたシナズ。頑なに入れ替えなかったのは僕の意識から逸らすためか。

 

 

「──僕の相棒だ。丁重に扱えよ」

 

 

「鎧を剥がさねば攻撃は通らん!!今だ虎杖(ブラザー)!!」

 

 

 シナズは東堂の傍にいる。すぐに巻きついてヤツの腕の自由を奪ってくれていた。もう入れ替えを考える必要はない。眼前の虎杖との1対1を制すまで!!

 

 

 

 

黒 閃

 

 

 

 

 三度散った黒い火花。互いの拳を砕き合いながらも、勝負はつかないまま──帳が上がる。

 

 

 


 

 

 

「さて──どこからいこうか」

 

 

 上空に立つのは現代最強の術師──五条悟。対五条悟用に誂えた帳を30分足らずで破り、眼下を見下ろしながら状況を把握し始めた。

 

 

(悠仁のレベルが格段に上がっている……!!多分葵かな?相性は良さそうだし。だけど相手にしてるのは──)

 

 

「ムカデ。去年も手ェ引いてたろ?舐めやがって」

 

 

「やっと来たな最強。ウチの家族が世話になったな」

 

 

 五条と環がついに対峙した。シナズも東堂から離れて環と合流している。

 

 

 五条がムカデ呼ばわりする理由には、昨年の百鬼夜行で呪霊に仕込まれていた式神の存在が関わっている。施された厄介な不死性は呪霊を掃討する呪術師の手を焼かせた。夏油傑以外に何者かが術を重ねてかけていたことは推測されていたが──その下手人は他でもない出戸環であった。百足の式神が放つ異質な呪力は五条の記憶にも新しく、今回の式神と比べて間違えることはなかった。

 

 

 百鬼夜行への関与と今回の襲撃。それは五条悟の忌諱に触れている。今回学生達が1人も死んでいないことは知っていても、それが腕の立つ呪詛師を逃がす理由にはならない。

 

 

 掌印および全ての手順を省略し、予備動作なしで発生したのは──引き寄せる力場。対象は周りに蔓延る百足達だった。

 

 

術式順転『蒼』

 

 

「!!」

 

 

「生け捕りはナシだ」

 

 

 五条は手で照準を合わせていた。反転術式によって生じた正のエネルギーを術式へ流し込み、斥力場を炸裂させる術。高出力のそれが当たれば如何に不死と言えども──

 

 

術式反転『赫』

 

 

「──ははっ。腕1本か。高くついたね」

 

 

 呪力防御とシナズの甲殻。それらを無為に帰す斥力が環を遥か後方へ吹き飛ばした。衝撃が森の葉を揺らし、土煙が遠くまで広がっている。直接受け止めたシナズの甲殻は無惨な姿になり、環の右肩から先は残っていない。

 

 尚も止まらない白髪の最強は環へ肉薄していた。既にフルスロットルの術式行使。死が迫る中、環は思考を加速させる。

 

 

(群れとも離された。シナズは傷を塞ぐ必要がある。僕は隻腕状態……つまるところ──)

 

 

「まだ生きてるのか。頑丈だな」

 

 

()()()()()。シナズ──ありったけだ」

 

 

 五条から放たれる無造作なジャブ一撃で、環から血反吐が上がったが、お互い気にしていない。依然劣勢な環だったが、最強の術師相手に時間を稼ぐことは可能だった。取り出した杖。呪力を込めて手順を省略し、環は一瞬でそれの展開に成功した。

 

 

伊賦夜坂(いふやざか)

 

 

「領域?いや、これは……」

 

 

 環を中心に結界が広がり始める。すぐに五条の無下限と外殻がぶつかり合ったところで、外縁を構成する百足達が取った行動は──無下限の術式を裡へ流し込むこと。五条はその悪あがきをすぐに悟った。

 

 

「──虚しいな」

 

 

 伊賦夜坂の空間内に術式は付与されていない。そのため外から術式効果を流し込むリソースがある。外殻の表面で無下限を僅かばかり中和する働きは──領域展延に近い挙動で五条の動きを止めることになった。

 

 

(苦しまぎれの領域でもない……簡易領域か?けど意味ないだろ)

 

 

 もちろん領域に満たないレベルの結界であって、数秒程術式と拮抗できただけである。五条は瞬時に出力を上げて外殻を崩し、死に体の環へ向けて掌印を構えた。

 

 

 環は自然な動作でシナズの口元へ左手を添えた。まるで零れる雫を掬うように手のひらを上に。シナズの口から勢いよく流れ出る百足達は、全て手のひらで圧縮され形を作っていく。

 

 

虚式『茈』

 

 

極ノ番『(あららぎ)

 

 

 

 

 






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