特級不死 デッドムカデ   作:ゾエア

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キャラクターの口調の独自解釈があります。ご注意ください。



ダンス・オブ・パペッツ

 

 

「……ふぅ。それじゃあ──用件を聞こうか。話があるんだろ?」

 

 

「……聞きたいことがあル」

 

 

 天元との話し合いを終え、式神との同調を断ったばかりのこと。ソファーに体重をあずけてくつろいでいるように見えるかもしれないが、実際の所は式神の操作に集中していただけだった。

 

 そこで話しかけるタイミングを作ってやれば、小型の傀儡が現れた。茶色いロボットのような外観をしており、その特徴的な顔からは機械的な音声が聞こえてくる。それを操る術師は高専の学生であり、こちら側の人間でもある。いわゆるスパイ──内通者というわけだ。

 

 

 与幸吉。天与呪縛によって傀儡操術の操作範囲が日本全土に及び、小型の傀儡を用いてあらゆる場所で動かせるという、まさに情報収集にはうってつけの人材でもあった。高専ではメカ丸の通称で呼ばれているようだが、前回の交流会襲撃では僕と出会すこともなかった。

 

 彼が傀儡を操りこちらへ出向いた理由。何か高専から疑われることでもあったのだろうか。はたまた二重スパイでもする気か。いずれにせよ、真人と羂索──現在は夏油と名乗っている──のいない間を狙って僕と話そうとするからには、後ろめたいことを考えている可能性があった。

 

 

「京都校の人間に手を出さない"縛り"。守る気はないと見ていいんだナ?」

 

 

「あの縫い目と真人がそんなこと気にするワケないだろ。交流会じゃ後遺症も大ケガもなし。寧ろ僕に感謝してほしいくらいだ。花御が出張るよりもマシだったと思うよ?」

 

 

 与幸吉と真人らの間で結んだ"縛り"。天与呪縛による身体の不自由さを真人の術式で治す条件だ。その代わりに彼は内通者として情報提供を行っていた。"縛り"の詳しい内容の中には京都校の人間へ手を出さない──という条件もあったが、彼は改めてその条件を僕に確認しているようだ。

 

 彼も見当はついているはず。関わっている相手は呪いそのものだ。そんな相手にマトモな良識を期待する意味はない。それどころか、積極的に人類を脅かす呪霊として日々力を蓄えていた。

 

 この一派の中で比較的まだ()()な僕にのみ接触してきた事実。彼が京都校の人間達を案じていること。それらを加味したうえで、話の内容が少しずつ見えてきた。

 

 

「アンタの行動の中にハ、一見無意味で非合理的な蘇生がいくつかあっタ。一方で真人達と共に動く冷徹な面もあル。少なくとも夏油と真人、そして呪詛師達が一枚岩で纏まっていることはないはずダ。アンタはその中でモ、いくらかマシなタイプと判断しタ」

 

 

「へぇ。面白いな。流石色々見てきたヤツの推理は違うね。そんなにお優しく見える僕へ──コソコソお願いしたいことでも?」

 

 

「──俺がもし死んだら、京都校の……皆のことを頼みたい」

 

 

「………頼む相手が良くないな。つい先日そいつ等を痛めつけたのは呪詛師である僕だ。だいたい、そんなに僕が甘っちょろいヤツにでも見えたんなら、オマエの方に問題がある」

 

 

 半ばダメ元で僕の所へ来たのかもしれない。彼が健康体で仲間に会えるのは、五条悟封印に成功した時か──僕達と決裂したうえで逃げ果せた時ぐらいだ。随分と確証のないこんな頼み方からして、まだいくつか保険を考えているのだろう。

 

 

「僕はあくまで五条悟封印を必要としている。そういう呪詛師だ。起こる混乱の中で高専の面々がどうなろうと知ったこっちゃない。だから──オマエが自分でやればいい」

 

 

「そう……カ……そうだナ。それト、あと1つ聞きたいことがあル。アンタがこの前見せた簡易領域の件についてダ。アレは五条悟の術式すら一瞬阻んでいタ。どうやって成立させタ?」

 

 

 彼がどういう役割を担っているのか、詳しいことは知らないが必要な知識らしい。簡易領域。シン・陰流のものが1番オーソドックスで使いやすいと思うのだが、彼は傀儡操術で再現したいのだろうか。であれば──

 

 

「僕のは我流だ。核として式神を使ってるし、外殻にも同じく用いてある。再現するには向かないだろう。シン・陰流をこっそり見て盗めばいいじゃん」

 

 

「……傀儡で使えるようにしたイ。アンタのものハ、術師自ら発動しているようには見えなかっタ。式神が代わりに展開しているのカ?」

 

 

「いい線いってるよ。結界術は0から術式を構築して使うだろ?その術式を先に封じ込んでおけばいいってこと。それに呪力を流せば簡易領域の出来上がり。呪具みたいに扱うと言えば分かりやすいか」

 

 

 言うは易しである。結界術に才能が必要な理由は、術式を自らで構築する手間があるためだ。本来これが可能ならば、わざわざ物に封じ込めておかなくても自分で発動すれば事足りる。しかし僕の場合は外殻に式神を使う関係上、事前にセットアップしておく方が都合がよかった。

 

 領域を展開するうえで避けては通れない結界術の練度上達。僕も色々やってきたが、こればかりは才能が関わってくるし、シン・陰流の簡易領域だって同じく才を必要とするだろう。今教えたものはどちらかと言えば邪道な運用方法だが、彼はそれを知りたかったようだ。どんな使い方をするかなんて僕には知る由もない。

 

 

「なるほド。だいたい分かっタ。あとはこっちで試行錯誤しよウ。礼を言っておク」

 

 

「はいはい。わざわざそれだけのために来たのか。暇してるんだなー……って──」

 

 

 僕の嫌味にも表情は変わらず(傀儡なので当たり前だが)、彼はそのまま部屋を出ようとして──

 

 

「──まぁ待て。何も手ぶらで帰ることはないだろ」

 

 

 少し会話した程度だったが、分かることもある。仲間を案じて結んだであろう"縛り"。それを反故にされる恐れがあったから僕を頼ろうとしたのか。彼の中で何か決断を済ませたのなら、少しばかり協力してもいいとも思えた。

 

 

「最近は折衷案を出すことが多くてね。お互い譲れない部分が相反するなら、そこは一旦置いとこう。一致してるところなら他にあるだろ?」

 

 

「……アンタに頼り切るつもりはなイ。俺のできることをやるまでダ」

 

 

 彼の仲間を守るために動く気はない。だが、彼が仲間を思うことに報いるぐらいはできる。

 

 

「五条悟封印に成功さえすればいいんだ。後のことは僕が勝手に決めるだけ。その時にオマエがいれば──話ぐらいは聞くよ」

 

 

 お互い何かと便利な術式を持っている。連絡用──というか位置を把握できる式神と、通信機代わりの傀儡を交換した。例によって百足のサイズはそこまで大きくない。呪力を抑えれば一見してトビズムカデの成体だ。彼が百足嫌いでないといいのだが。

 

 

 ようやく傀儡が部屋を出て、後に残された僕はソファでだらけながら、真人と羂索の帰りを待つことに。

 

 

(他の呪詛師よりもよっぽど立派な人格してるな。内通者なんて向いてないだろ……)

 

 

 身体の自由を手に入れることと、仲間を思う気持ちのどちらを彼は優先するのか……あるいは両方を取るのかもしれない。後悔しないようであればきっといいはず。

 

 生まれついての疎ましい身体の特徴。どこかシンパシーを感じているのかもしれない。これでは真人のことを笑えそうになかった。そういえば最近は暴れてばかりで、この黒班を気にすることもなくなっている。しかし未だ僕の背丈には満足していない。デカいシナズの迫力で誤魔化すにも限界があったから。

 

 

 


 

 

 

 疲労も呪力もすっかり癒えた頃に突然の呼び出しがかかった。あの縫い目──ではなく、呪詛師の1人からだ。

 

 

 五条悟の存在が抑止力となって、現在呪詛師の商売は立ち行かなくなっている。その厄介な最強を封印する手伝いということならば、縫い目の人望であっても幾人か人間は集まる。揃いも揃ってマトモなヤツらではないのだが。

 

 

 計画のために必要なものは特殊な帳。それを預ける相手には呪詛師もいて、ある程度戦える者でなければ役割が務まらないという。

 

 その中でも降霊術を使うナントカ婆さんには必要な素材?があるらしく、計画のために探していたと。それが御三家だか高専の上層部だかに嗅ぎ付けられたようで、ブツの取引の際に護衛が欲しくなったそうだ。

 

 僕は話半分に聞いていたのだが、よっぽどのモノであり、確実に手に入れるため腕の立つ人材が必要になったそうで。呪詛師である取引先と呪霊達との相性は良くないし、縫い目は顔を出すわけがない。白髪おかっぱの裏梅は嫌がって、回り回って僕の下へ御鉢が回ってきた。

 

 肉体と魂の情報をコピーして貼り付ける──降霊術という技術には興味があったし、最近は年寄り婆さんの扱いも上手くなってきた気がする。そのため特に断る理由もないと、気楽に構えて現場へ足を運んだのだが……

 

 

「デカい百足……噂なってんで(きみ)。悟君から尻尾巻いて逃げたゆうて」

 

 

 和服の男が立っていた。明治時代の学生服、いや、書生服と言えばいいだろうか。その服装に似合わず髪を金色に染め、毛先は黒いスタイル。両耳のピアスも相まって軽薄な印象だ。身長は170cm後半といったところで、一言目から明らかな関西弁を使ってきた。

 

 口調はともかく、会話の内容について特に間違ったことは言っていない。問題は、取引していたナントカ婆さんも、孫呼ばわりされてるついてきた男も、皆一瞬で倒してしまったコイツが──恐らく護衛が必要となる()()()()であることだった。

 

 

「──おっと?」

 

 

 一瞬のすれ違いざま。触れられると同時に変な感覚がしたかと思えば──僕の動きが止まった。そのまま打撃を撃ち込まれる。ガラスを割ったような音が響いた。

 

 

(かった)。式神の方はやめとこか」

 

 

「速いな。でも軽いね」 

 

 

 少し眉間にシワがよったか。シナズの甲殻を砕くには及ばないだけなので、少し煽ってみた程度だ。こちらが攻撃を構えれば──

 

 

「当たるわけないやん」

 

 

「うーん。術式かな。なんか種があるだろ」

 

 

 攻撃の起点。防御の始まり。それらを僕に先んじて抑える程の速さは恐らく術式由来だ。

 

 こちらがコンパクトな呪力操作と立ち回りで攻めても、ヤツの身体には掠ることがない。一方こちらが防御に回れば、動きを止められ拳が打ちつけられる。

 

 

「ワンパターンやね。やる気あんの君?」

 

 

「……止まる効果は最大一秒。後に引くこともなし。変な速さと関係あるのか?」

 

 

 何度か攻防を繰り返したが、相手は術式開示をしそうな感じでもない。まだまだこちらの呪力には余裕があるし、五条悟の打撃を経験していた僕にこの程度の火力は効かない。しかしながら──少々鬱陶しいことは確かだった。

 

 シナズの口から百足の群れを手早く放出し、光沢のある黒い濁流で僕の周りを囲む。

 

 

玄渦(くろうず)

 

 

(群れの足しにしておくか?脚や腕の1本ぐらい)

 

 

「キッショ!!すぐにぶち抜いたるわ!!」

 

 

 複眼を持つハエはある光の点滅数──1秒間に240回まで──を知覚できるそうだ。アニメーションで表すと、240FPSまでの動きを捉える高い動体視力を持つことになる。ところが、僕に関わるムカデの場合、頭部に付いているのは単眼であり、光の明暗を判別するだけのもの。動体視力なんて高等なものを備えてはいない。当然ながら、動く獲物を捕らえる時に視覚が役に立つこともない。

 

 ではどうやってムカデは狩りを行うのか。獲物の動きを捉える時に用いるのは眼ではなく──触角。

 

 

「──あ゙?」

 

 

「捕まえた」死蟠輪廻(しばんりんね)

 

 

 渦巻く百足の群れで出来た防壁。それをぶち抜いたコイツの動きを──シナズは確かに捉えていた。僕の右斜め後方から、顎を狙って撃ち込まれた打撃。恐らく1発で仕留めたかったのだろう。それをノールックで受け止めたところ、コイツは濁った声を上げた。少し愉快でもあったが、既にこちらの掌で触れた部位から侵食を始めている。コイツの曲げていた指の中ほどからは、勢いよくムカデが生えてきた。

 

 

「ッチィ!!」

 

 

「いいね。迷いなし?」

 

 

 余計な追撃もせずヤツは瞬時に離脱した。手刀か何かで小指と薬指を切り落とし、すぐさま立て直しを図っている。反転術式使いならば再生してくる可能性もあるが、これで少しは攻めの手を緩めるだろう。

 

 シナズの触角なら接近の知覚は容易だ。さっきのカウンターと術式を見せたので、相手は別の手札を切ってくることも考えられる。もしくはカウンターを警戒しつつ──止める術式での畳み掛け。反撃を許さずに、ヤツが一方的に攻めたければこれを狙うはずだ。こちらはあえて『玄渦』を解除しておく。

 

 

「せっかくだしな。見やすくしようか」

 

 

 開けた視界。ヤツの手から滴る血が地面に跡を残していた。渦巻いていた百足の群れを地面へ薄く広げて、僕を中心に黒い円を形作る。相手は円の外周を走りながら、さらに加速していた。地面を蹴る音が大きくなっていく。

 

 ヤツが止める術式を使う時は僕に触れる必要がある。他者へ行使する時には殴るよりも掌の方が感覚的に扱いやすいことは僕も理解出来た。つまり、次の接触は対峙して殴ることではなく、すれ違いざまに掌を当てる一瞬。そこを仕留める。呪力を全身へ纏わせ迎撃を構えた。

 

 

「──コイツからや!!」

 

 

「なるほど」

 

 

 ヤツの掌が触れたのはシナズの触角。反応して動いたシナズがフレームのようなものに閉じ込められたが、僕は未だ健在。恐らく術式の対象分けで、シナズのみに効果が適用されたみたいだ。カウンターが届かない間合いのまま、先にシナズを止められた。感知する手段を断って僕を制するつもりだろうか。

 

 

 ヤツは続けて折り返し攻めるはず。シナズの触角がない僕に対応する術はないと見越して。しかし僕にはまだまだ引き出しがあった。

 

 纏った呪力による自動(オート)迎撃。プログラムに従って呪力を放出する単純なものだが、僕の呪力量と出力で補えば立派な大砲だ。

 

 

 この金髪は確かに速い。攻めるにも避けるにも、速さは役立つ。重要な因子の1つではあるが、コイツにあるのは──

 

 

「──速さ(それ)だけだろ」

 

 

「落花の情!?」

 

 

 僕に触れる直前──弾けた呪力がヤツの左手を砕いた。数本指がひしゃげており、衝撃がヤツの体勢を崩したところで、既にこちらは拳を構えている。もうコイツの腕や脚など要らないのだが、ポコポコ殴られたことで単純にムカついてはいた。

 

 

「なんでオマエ゙ッ」

 

 

「知るか」

 

 

 頬を捉えた打撃。もんどりうって回転し、地面へ放り出されたこの金髪には意識も残っていない。お返しできたのはせいぜい2発分ではあったが、僕のストレス発散にはなった。

 

 僕の考えた自動迎撃にも前例か何かあるようで、ヤツは知っているようだった。落花の情とは……少なくとも僕のオリジナルではなかったらしい。

 

 

 この場でまともに意識が残っていた者は僕だけだった。仕方なく、ナントカ婆さんと他称孫の呪詛師共を担いで帰る準備をする。それと忘れないうちに目的のブツも回収しなくてはならない。

 

 

 目当ての代物は小さな木箱。何か文字が書いてある。

 

 

「伏黒……とう、じ……誰の名前だ?」

 

 

 

 






金髪術師は24FPSの動きを事前に作成して、ある程度物理法則通りなら速く自分を動かせます。重ねがけしてさらに速く動くことも出来ますが、詳しくは原作を読んでいただけるとより楽しめます。





メカ丸の口調で一部カタカナではないところがありますが、それはメカ丸ではなく与幸吉が喋っているところです。
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