特級不死 デッドムカデ   作:ゾエア

20 / 27


本誌からの初出設定があります。ご注意ください


天災

 

 

 21:46

 首都高速3号渋谷線 Cタワー前

 

 猪野・伏黒・虎杖は突然空から降ってきた呪詛師との戦闘を終え、"帳"の基を2つ破壊する事に成功した。音を立てて"術師を入れない帳"が上がったことで、3人は五条悟救助を目指して渋谷駅へ走る。

 

 

「なぁ。あのタワーの屋上って……」

 

 

「気にすんな。明らかにヤツがいる。百足の群れをどうこうするより、今は五条さんを優先するぞ」

 

 

 タワーへと群がる百足は誰から見ても明らかな異常であったが、伏黒はその杞憂を断ち切って目的を再確認した。交流会の件で借りがある相手──出戸環は改造人間狩りをしている。今はその事実に即して動く他ないと。

 

 

 渋谷駅構内へと入った3人は閑散とした改札口を見て息を呑んだ。

 

 

「人がいねぇ!!駅の中に大勢閉じ込められてたんじゃなかったのか──ッ」

 

 

「……()()

 

 

 エレベーターを駆け下りた3人の前に立つ青年。2つ結びの髪と、鼻の中央を走る赤い横一線が特徴的な男は、虎杖悠仁の顔を見た瞬間に殺気立った。中空に漂う赤い血液へ術式を行使するその姿から、全員が戦闘態勢を取ることになる。

 

 

百斂(びゃくれん)』!!

 

 

「!!」

 

 

 赤血操術『百斂』──血液を加圧し、限界まで圧縮する技である。男はその血球を両手で挟み、狙いを定めた。鳴った拍手の音が聞こえたところで圧縮は完了している。血液を1点から解放し撃ち出す赤血操術の奥義とはすなわち──

 

 

穿血(せんけつ)』!!

 

 

「虎杖!!」

 

 

 撃ち出された血液を両腕で防いだ虎杖に、戦慄が走った。防ぎきることが不可能だと察知したためだ。故に腕を犠牲にして、軌道を逸らす他ない。

 

 

(ヤバイ……!!貫かれる!!)

「ヅあっ!!!」

 

 

 上体を傾け、姿勢を低くすることで頭部への貫通を避けた虎杖。続けて血液を圧縮して構える男を前に、虎杖は叫んだ。

 

 

「先生を頼んだ!!」

 

 

「……ッ!!死んだら殺す!!()()()!!」

 

 

 3人は理解した。敵は特級呪霊相当。五条悟の救助を最優先するなら、1人足止めに徹する選択肢がある。血のビームで誰かが撃ち抜かれるリスクを負ってでも、全員で相手をするべきか。満象による制圧力と領域という手札。狭い場所で敵から放たれる高い貫通力への警戒。諸々を考慮したうえで、猪野と伏黒は五条悟を優先した。

 

 再び直線的に放たれた『穿血』を躱して、虎杖は左拳を男へ叩きつけた。横を走り抜けていく猪野と伏黒から気を逸らすための打撃ではあったが、男は見向きもせずに虎杖へ向かい合う。

 

 

「オマエに聞きたいことがある。弟は──最期に何か言い遺したか?」

 

 

「弟……!?」

 

 

 男は──脹相は舌打ちをしてすぐに切り替えた。もとより彼にとって用がある相手は虎杖悠仁のみ。他の二人は釘崎野薔薇でもないため、逃走を無視して1体1の戦闘を受け入れた形だ。

 

 質問を耳にして、虎杖の表情が変わろうとも、脹相は兄弟の仇である相手に最期の言葉を聞くしかなかった。

 

 

「オマエ達が殺した二人の話だ」

 

 

「……別に、何も。でも──泣いてたよ」

 

 

 対峙する二人の脳裏には同じ人物達が過ぎっていた。受肉体を葬った罪悪感を忘れない虎杖悠仁も、兄弟の死に何も出来なかった脹相も、お互い戦う以外の選択肢はなかった。故に──

 

 

「──っ壊相!!血塗!!見ていろ!!これがオマエ達のお兄ちゃんだ!!!」

 

 

 顔に走る横一線がより激しく荒ぶっていた。戦闘が再開される。

 

 

 


 

 

 

 21:52

 渋谷駅 JR線 中央改札

 

 立ち止まった1人の少年──出戸環。巻き付いたシナズは触角を熱心に振っている。環の目線の先には1つ目の火山頭がいた。ようやく呪霊側の仲間を見つけられた……なんてことを二人は毛ほども思っていないようで。

 

 

「よう。封印お疲れ様」

 

 

(お互い五条悟封印の利が一致していただけ。確かにその通りではあるが……この殺気は何だ?)

 

 

 労いの言葉を沈黙で返されても、環は気にせずいつも通りの口調で話しかけている。纏う呪力は不気味に凪いでいながら、静かな殺意が漏瑚へ向けられていた。冷や汗を流す漏瑚を後目に、環は続けて質問を投げかける。

 

 

「今は単独行動か。"指"は誰が持ってる?」

 

 

「貴様に教えるとでも……?」

 

 

 漏瑚は熱くなりやすいことを自覚しながらも、この状況を冷静に理解し始めた。環の雰囲気とその質問。彼がこちらの──呪霊側の意思を尊重する気がこれっぽっちもないことを。つまりは──

 

 

「分かった。ごちゃごちゃ言うのはなしで──さっさと()ろう」

 

 

「やはり貴様も──紛い物か」

 

 

 瞬時に肉薄した環は、漏瑚の拳による迎撃を軽く逸らす。続いて打撃を胴体へ撃ち込み、すぐに術式を行使した。

 

 

死蟠輪廻(しばんりんね)

 

 

「チィッ!!」

 

 

 漏瑚は発生した百足を焼き払い、距離を取って両手を構えた。

 

 掌から噴き出した火炎が構内に熱気を生み出す。パチパチと弾けて焼ける音が上がったが、炎を防いだシナズの甲殻は依然健在だった。

 

 環は腰に手を当て居合の構えを取る。抜き放たれるのは刀剣の類ではなく、百足を束ねた黒い鞭。音速を超えた鞭の先端は衝撃波を放ち、硬質な体節が漏瑚の体側面を打ち付けた。

 

 

黒縄棍(こくじょうこん)

 

 

「ツッ!!」

 

 

 漏瑚は受けた衝撃によって吹き飛ばされ、壁にめり込んでいる。そこへ殺到する百足の群れ。続けて環は掌印を構え、小型の『(あららぎ)』を中空に形作る。宝塔の先端は漏瑚へ向けられ、手順を省略した簡易的なエネルギー抽出。

 

 

「まだまだァ!!」

 

 

 指向性を持った『塔』のエネルギーと膨れ上がった豪炎が衝突した。煙の中から飛び出した漏瑚は右蹴りを環へ撃ち込み、続けて三発拳を打ち付けた。その拳からは──紫色の血を滴らせている。

 

 

「アげていこうか。シナズ」

 

 

「硬い!!これ程までとはな!!」

 

 

 シナズから供給されたのは百足の群れ。対して漏瑚は自らの手を大地へと押し当てて熱を伝える。瞬く間に融点を超え、溶岩と化したその地面を差し向けた。

 

 

 黒い濁流と溶岩流が激突を繰り返す。灼熱の大地と不死の百足が渦巻いていた。

 

 

 


 

 

 

 22:02

 井の頭線 渋谷駅 アベニュー口

 

 

 禪院直毘人、七海建人、そして禪院真希の3人はその呪霊の気配に気づいた。

 

 

「ぶふぅ━━。ぶ━━」

 

 

「!!」

 

 

「ええ。私が」

 

 

 ずんぐりむっくりとした赤い蛸の呪霊。放つ呪力は間違いなく特級のソレだった。七海が呪具を構えて初撃を狙おうとしたところで──

 

 

「!?」

 

 

(なまくら)だな」

 

 

 持っていたはずの鉈型の呪具。それを奪い手にしていたのは白セーターの男だった。黒髪の長身で、口元には特徴的な傷がついている。しかしそれらを霞ませるのは表出する圧倒的な──暴力性。呪力を感じない肉体からは考えられないそれに3人は気圧された。

 

 

 唯一その為人を知っていたのは──

 

 

「……!!甚爾か!!」

 

 

「オマエは老けたな」

 

 

 昔話に花を咲かせることもなく、直毘人は状況を認識した。死人が蘇ったという事実。返り討ちにされた直哉の証言。所在不明の遺骨。思考した全てが繋がった瞬間を待っていられるほど、呪霊は優しくはなかった。

 

 

「オ゙ロロロロ゙ロ゙ロ゙ロ゙ッ」

 

 

「フッ。その鈍で我慢しておけ。ひとまず──」

 

 

 大量の人骨を吐き出した呪霊──陀艮は未だ呪胎であった。幼かった時の外膜を脱ぎ捨て、現れる姿こそ本領である。

 

 飛び上がって滞空する赤い人型。顔面はタコそのものであり、腰に生えた翼の膜と胴回りが黒く染まっていた。右人差し指に渦巻く水球には規格外の呪力が練り上げられている。

 

 

「──呪霊狩りといこうか」

 

 

 


 

 

 

 渋谷の空へと投げ出されていたのは漏瑚であった。その1つ目は白く染まり、意識が飛んでいることが見て取れる。

 

 空中へ追いかける黒い影。両腕に百足を巻き付けた即席のグローブはギチギチと音を鳴らしていた。

 

 

「ッ──」

 

 

 歯を食いしばって意識を取り戻した漏瑚。その両手を重ねた先に火炎が顕現した。練られた呪力によってそれは絶大な威力を秘めている。火炎が環へ放たれ──黒い拳がかき消した。

 

 

「──ガッ!!?」

 

 

 打撃の勢いそのまま、胴体目掛けて環は殴り抜く。吹き飛ばされた漏瑚はビルの外壁を破って着弾。破壊の跡は痛々しく、剥き出しになった鉄筋がねじ曲がって見えている。

 

 

「ちょうどいい。こっちも集めておこう」

 

 

 環の掌印とともにザワザワと音が鳴り始めた。地上の渋谷に蔓延っていた改造人間を鏖殺し、産み出された百足が黒い大河となって押し寄せてくる。

 

 

 すると、環が感じたのは呪力の"起こり"。それは術式発動直前に術師から漲る呪力だ。大技の発動前には必ず"起こり"がある。そして、爆発的に上昇する呪力出力は──人類の畏れた災いを再現するためのもの。

 

 

「……いいんじゃない!?」

 

 

 ビルから噴き出した豪炎。窓からは火柱が上がっていた。バキバキと音を立てながらビルは()()へと変わっていく。飛び出した漏瑚の思考には手加減や周囲の被害のことなどあるわけもなかった。構えとともに、術式の果て──その奥義を開示する。

 

 

極ノ番『(いん)』!!

 

 

 派手に光を放ちながら迫る巨大な火球。環はそれを下から見て笑みを深めていた。おもむろに右手を構えて百足達へと指示を出す。

 

 集めた百足達が螺旋を描くように圧縮されていく。対抗すべく呪力を練り上げて、用いる技は術式の果てに起きる進化。右掌に形作られる宝塔から球状の力場が溢れ出す。

 

 

極ノ番『(あららぎ)

 

 

 隕石と力場の衝突。力場は球から徐々に形を変えて、中央へ向けて凹みを作っていく。落ちる巨石に嵌るような凹みがある扁平なそれ。ゆっくりと地面へと沈んでいき──着弾した。

 

 渋谷ストリーム周辺は火の海へと変わっていた。落とされた隕石からは陽炎が上っている。衝突の余波によっていくつものビルは倒壊し、首都高速3号渋谷線は見るも無惨な状態へ。その隕石頂上に立つのは1つ目の呪霊の姿だ。

 

 

「フーッ。フーッ」

 

 

 漏瑚は自らの呪力の消耗を感じてはいたが、これで環が死んでいると考えるほど、力量を甘く見積もってはいなかった。あの五条悟の一撃を防いだ術師。極ノ番といえどダメージを通すまでに至らないことは予想がついていた。故にまだ手を止めることはしない。象った掌印は大黒天印。ダメ押しの手段として──

 

 

領域展開蓋棺鉄囲山(がいかんてっちせん)

 

 

 引き込んだそこは四方を溶岩に囲まれた火山内部。領域内の灼熱は並の術師を焼き殺す程で、必中の溶岩と火山岩が押し寄せる死地だ。そこでは『塔』による力場も意味を成さない。領域内の空間そのものへ付与した術式効果を、力場で防御できないことは呪霊側にも知られていた。

 

 

(領域を展開する隙は与えん!!質量で押し潰す!!)

 

 

 漏瑚の取った手段は考えられる中の最善手だった。出の速い通常の火炎攻撃は甲殻と呪力に阻まれてしまうため、『隕』による大技の撃ち合いを仕掛けたこと。着弾後、間髪入れずに領域内へ引き込み必中の攻撃で焼き潰す選択をとったこと。

 

 並の術師どころか、仮に1級術師複数人でかかったとしても漏瑚の祓除は不可能だろう。それほどの速さと火力を兼ね備えた漏瑚は、特級呪霊達の中でも別格の存在であることは間違いなかった。

 

 

(……溶岩流による高熱。火山岩による高圧力。それら全ての必中効果を耐え凌ぐことなどありえん……そのはずだ!!)

 

 

 巨石に走る罅割れ。接地面から始まったそのヒビはより大きく広がりながら──漏瑚の足元へと届いた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 砕けた『隕』の巨石──その中央から飛び出したのは黒く蠢く百足の群れだった。辛うじて輪郭が人型に見えるが、たなびく髪どころか、手足すらも全て百足によって構成されている。爛々と赤く光る双眸だけが唯一環と似た特徴を示していた。

 

 

「──させんッ!!」

 

 

 掌印を組もうとするソレに向けて漏瑚は術式効果をぶつける。全身を叩く岩石も溶岩流も全て意に介さず、異形が象ったのは毘沙門天印。百足で編まれたその印は灼かれてもなお形を戻してしまう。漲る呪力の"起こり"から漏瑚は領域展開を察知した。

 

 

領域展開不忘殞牢閣(ふぼういんろうかく)

 

 

 地面へ打ち付けられた六本の赤柱。それらは白い百足を巻き付かせて装飾されている。中央には顕現した錫杖が真っ直ぐ佇んでいた。各柱の根元、火山の岩肌が清潔な白床へと変わった。その変化は止まることなく、それどころか徐々に勢いを増して領域を侵食していく。

 

 

「──ふう。アドリブだったが……上手くいったみたいだ」

 

 

 百足の塊はザワザワと音を立てて人型に圧縮され、やがて環のシルエットを形作り、元の環の姿へと戻った。

 

 『塔』によって生じた余剰エネルギー。それで空間や術式自体を中和することは出来ない。しかし環は術式の解釈を広げ、『意路不倒』により肉体を素材として変えた百足へ、『塔』のエネルギーを注いで補強、必中効果を耐え凌ぐ程の頑強さを保持した。

 

 交流会で高専から遁走した経験は、以前からあった環の懸念を浮き彫りにしていた。『塔』による防御面の性能は申し分ないものの、領域内では意味をなさない。攻めへ転じるためにも、より多彩に扱う工夫が必要であった。

 

 肉体を百足へと変えて操ることこそ『意路不倒』の真骨頂。素の肉体を呪力でカバーするよりも、『塔』によるエネルギーの受け皿として百足を活用した方が効率がよかった。『塔』の力場を無闇に放つよりも、得られたエネルギーを式神等に注ぐ方がより便利に扱える。

 

 

(領域で押し負ければ勝ち目はない!!なんとしても食い止める!!)

 

 

 掌印を象った漏瑚の奮闘によって、領域の侵食が止まった。歯を食いしばって領域の押し合いを続けている漏瑚へ向けて、環は賞賛の気持ちが芽生え始めている。感謝の気持ちも同様に。だからといって見逃すつもりはないが、この呪いを百足へと変えることは忍びないと感じていた。

 

 呪力操作による反転術式。生じた正のエネルギーを術式へ流し込むことで発動する──呪霊への最期の手向け。

 

 

術式反転『五塵終葬(ごじんついそう)

 

 

 環の右手から感じた明確な死の気配。それに対抗すべく漏瑚は火炎を構え────

 

 

 

 

「──人に成り代わる必要はなかったな」

 

 

 白い空間に1人立つ漏瑚の姿。声が聞こえた方へと顔を向ければ、そこにはもう1人──出戸環が立っていた。

 

 

「呪霊は廻っていくんだろう。オマエ達は明日でも、百年後でも、皆仲良く人を呪い続けてるはずさ。人間を目指すには、少しばかり高尚な輪に囚われてる」

 

 

「そうか……そう、かもしれんな」

 

 

 気落ちしたように漏瑚は目線を下げている。環の言う通りかもしれないと。偽物が蔓延るこの世に、本物としての地位を確立したいと願った漏瑚。呪いがそれを欲しがろうとしても、手に入るものではなかった。そう言われても無理はない。

 

 

「でも、まぁ……オマエを百足に変えるのは惜しいと思ったかな。だから順転は使わなかった。それでいいだろ?()()

 

 

「……あぁ。さらばだ。出戸環──()()よ」

 

 

 

 

 掌で触れていた呪霊だったもの。手を離せば消失反応が起こるだけに終わる。百足へと変わることもなく、蘇ることもなく消えていった。上がった煙を後目に、領域が解除されていく。

 

 

 環は巨石の残骸の上から渋谷を見下ろすと、渋谷駅構内から感じる呪力の気配を目指して、再び走り出した。

 

 

 







伏黒恵と猪野琢真の行動が不自然にも見えますが、取りうる選択肢の1つでもあると思います。恵君が領域を使えば勝てる可能性は高いですが、呪力切れも避けられずに、結局誰か1人はリタイアに繋がる……というレベルの敵が脹相かと考えました。


なんで甚爾が恵君のもとへ一直線してないかというと……"術師を入れない帳"が上がるより先に渋谷駅へとダッシュしていました。武器がないので困ってはいます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。