特級不死 デッドムカデ   作:ゾエア

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独自展開が含まれています。ご注意ください。


呪術と脈動の刃

 

 

 

 

領域展開蕩蘊平線(たううんへいせん)

 

 

 呪胎から変貌を遂げた呪霊──陀艮は、領域という手札を切る。物量による制圧力も、水の防壁も()()の前では意味を成さなかった。掌印を構える隙もないため、腹部に呪印を描いての発動。そのまま式神による圧殺を企てる羽目にまで陥った。

 

 広がる領域は穏やかなビーチそのもの。打ち付ける白浪と、ヤシの木が砂浜に沿って防風林のように生えている。陀艮は損傷した身体や翼を修復しながら、小手調べの術式効果を行使した。

 

 領域の空間へ付与された術式は必中である。術式による式神の攻撃も同様に。そのうえ、『蕩蘊平線』内では攻撃が当たるまでその式神は存在していない。そのため、飛びかかる魚型の式神を事前に空中で撃ち落とす──という対策を講じることはできない。牙が身体へ触れる瞬間、同時に式神は顕現している。

 

 陀艮は式神が人間達の身体を食いちぎる様を想定していた。しかし現実は──

 

 

(やはり……!!あの男達は違う……!!)

 

 

「式神による攻撃か」秘伝『落花の情』

 

 

「そういう感じね」

 

 

 和服を着こなす特徴的な髭を携えた老人──禪院直毘人の取った手段は、御三家に伝わる対領域の術だった。必中の術式が発動し、触れた瞬間カウンターで呪力を解放し身を守る『落花の情』。今しがた攻撃してきた魚型の式神は、彼の放出した呪力によって身を裂かれていた。

 

 

 一方白セーターの男──()()甚爾の取った手段はシンプルなものだった。必中の術式、つまり式神が呪具の周辺に顕現した瞬間、反応して叩き落としただけ。式神がその後肉へ食いついて噛みちぎるまでの刹那、彼は呪具によって対応していた。

 

 七海建人の持っていた呪具を拝借し、(なまくら)と評しながらも、式神の残骸から見える切り口は鮮やかなものであった。

 

 

 無手となった七海と、薙刀を構えた禪院真希は既に肉を抉られていた。領域の必中効果へ対応するには特殊な技術か、圧倒的な反射スピードが必要となる。両者ともそれが万全に備わっているとは言い難かった。

 

 

 陀艮は掌印を構えて術式を解放する。その呪霊は無数に湧き上がる式神の軍勢を引き連れていた。

 

 

(力を男が持つ呪具8:髭の男2に調整……!!)

「術式解放」死累累湧軍(しるるゆうぐん)

 

 

 陀艮の周りにぞろぞろと並んで佇む式神達。ヤツメウナギ型から、鮫型といった魚型も多いが、イモガイ型という変わり種の姿もあった。式神全てに共通する特徴は──敵を害する術を持つことだ。

 

 

「真希さん!!考えては駄目です!!触れられたと感じたら、片っ端から叩き落として下さい!!ほとんど呪力のないアナタにはそれしか──ッ!!」

 

 

 七海の言を黙らせるかのようにウツボが食らいついた。続けて3種類の式神が彼の上体へ食いついていく。真希が慌てたように言葉を発したが、陀艮の視界にそれらのやり取りが入ってくることもなかった。

 

 

「なっ……!!」

 

 

 連続する火花。それと聞き間違えかねない音があがっていた。神速で切りつけられる式神の群れ。積み上がる骸の山は、徐々に陀艮のいる方向へと移動していた。

 

 際限なく湧き出る式神の最高出力。その8割の力を以ってしても"天与の暴君"に傷をつけることはできない。片っ端から叩き落とすと言えば易いものの、陀艮の想定では対応不可能な物量のはずだった。その早業を可能とする程の反射速度と俊敏性を併せ持つ肉体。フィジカルギフテッドは確実に領域へ対応していた。

 

 しかしながら──

 

 

(……マズいな。このままでは甚爾の動きに呪具が持たん。式神の勢いの方は一向に衰えずか……)

 

 

 直毘人に浮かぶ懸念。彼へ差し向けられた2割の式神達は『落花の情』によって細切れに変わっていくが、未だ群れの勢いは続いている。それに、甚爾の肉体が如何に速く動けようとも、振るう呪具が壊れれば打つ手はなくなる。武器の消耗は避けられないうえに、必中効果を受けながらあの呪霊へ攻撃することは容易ではなかった。

 

 直毘人の脳内に緊張が走る中、突如領域内の水面に黒い液体が染み出し──

 

 

領域展開

嵌合暗翳庭(かんごうあんえいてい)』!!!

 

 

「真希さん!!」「恵!!」

 

 

 伏黒恵による領域内への侵入。領域展開と同時に行われたそれによって最も恩恵を得たのは他でもなく──甚爾であった。領域の押し合いが始まったことで、必中効果が領域内から消えていく。

 

 

「私はいい!!アイツに──」

 

 

 真希の足元へ伸びる黒い影。恵は呪具を預かっていたために、視界へ入った信頼を置く先輩の真希へいち早く『游雲』を渡すことに尽力した。

 

 しかし真希は先程から、直毘人の知り合いと思われる白セーターの男が活躍する姿を見ていた。呪力が全くない事実も同様に知り得ている。それ故に、この状況で『游雲』の力を最も引き出せる者が誰であるか理解していた。真希は今しがた移動を止めた式神の骸の山へ、游雲を運ぶことを決断する。

 

 

 それぞれの思惑に関せず、伏黒甚爾の脳裏に過ぎったのは──女性に抱かれた赤子の姿。

 

 少年の術師が用いたのは影法術であり、それは禪院家相伝の術式。うずまきのボタンは呪術高専に在籍する証である。そして呼ばれた名前は……

 

 

 加速した思考の中で、タコ型の特級呪霊が、いち早く仕留めるだけの雑魚へと置き換わっていく。

 

 

「……高専の術師か」

 

 

 真希が游雲を掴むよりも先に、視界へ入ったのは筋骨隆々とした背中。セーターは破け、見えた黒いインナーに圧倒的なフィジカルを押し込めたソレだった。

 

 

(速ッ!!?今あっちにいたろ!!それだけじゃねぇ、さっきとは──雰囲気がまるで別物!!)

 

 

 甚爾は既に游雲を手に取り構えていた。波打ち際に立つその男には、先程領域へ入ってきた少年に対して1つだけ用があった。迅速に呪霊を祓ってでも聞いておきたいこと──彼の残した()()とは。

 

 

 禪院家の呪いを継いで生まれた者、その呪いを捨てきれなかった者。彼らは目撃する。

 

 全てを捨て去った者。

 

 剥き出しの肉体──その躍動を!!

 

 

 


 

 

 

「いた……生きてる…よね?」

 

 

「うん。始めるよ」

 

 

 茶髪を団子に纏めたセーラー服の菜々子と、長い黒髪に黒セーラー服の美々子は瀕死の虎杖悠仁の前に立っていた。

 

 倒れ込んでいた虎杖をトイレ入口にまで移動させた2人。美々子と菜々子が企んだのは──宿儺へ助力を願うことだった。

 

 

「急ごう菜々子。指で呪霊が寄るかも」

 

 

「分かってる。お願い出て来て。宿儺様」

 

 

 意識のない虎杖へ飲み込ませたのは宿儺の指。肉体の主導権を宿儺へ握らせ、そのうえで2人の目的の協力を乞うために用意した"指"である。封印を解いたことで表出する圧倒的な存在感。呪霊が寄ってくる可能性もあった。それでも尚叶えたかった願い。それは──

 

 

あなた達。指を何本与えましたか

 

 

 駆けつけた呪霊は白い肌の大男のような姿だった。目に当たる部分からは枝が生えており、左腕は黒く染まり、白を基調とした身体には黒い紋様が走っている。声を聞くだけで言葉の意味だけが伝わってくるという──独自の言語体系を確立していた。

 

 特級呪霊"花御"。この渋谷で起こる事変の主犯格の1体であり、指を託された呪霊でもあった。

 

 

 遡ること1時間程前──呪霊達は()()()()()()()()()()五条悟封印に成功していた。

 

 如何に固く頑強な花御であっても、五条悟の前ではその耐久力など無いに等しいもの。仮に、花御の弱点たる頭部の枝へ攻撃を受け、消耗した状態が続いていれば命はなかっただろう。

 

 しかし花御の情報は高専側にそこまで露呈しておらず、弱点へ容易く攻められるような戦闘をすることもなかった。逆に言えば、"戦いの愉悦"などを感じず、堅実に任務遂行を目指したともとれる戦法である。

 

 そういった積み重ねが生きながらえた理由であり、その点を評価した漏瑚が花御へ指を託すことを決めた。生き残る可能性が高ければ、すなわち指を宿儺へ献上する可能性も高い。花御は虎杖悠仁へ特別殺意を抱いておらず、故に宿儺復活を目指していたことも漏瑚は加味していた。

 

 

 感じた指の気配を辿り、目にしたのは紋様が薄らと残る宿儺の器と、指を呑ませたであろう術師達の姿。

 

 穏やかに質問した花御であったが、その実本数はどうでもよく、あくまで不測の事態を活用するだけに留める。そのため──

 

 

「いづッ──!!」

 

 

「菜々子!!」

 

 

やめておきなさい

 

 

 指で弾いた種子弾が菜々子のスマホを貫いた。構えた指ごと傷ついた形にはなったが、それ程殺意の込もった一撃でもない。

 

 

 続けて花御は樹木を生やして彼女らの身動きを封じた。重い苦悶の声があがっても素知らぬ態度のまま、花御は託された指を懐から取り出した。全部で10本。夏油の言う通りであれば、一時的に肉体の主導権が宿儺へ移るはずだとして。

 

 

 花御は焦ることなく、順に指を宿儺の器へ喰わせていく。残り3本、2本……1本と。10本の指を全て取り込ませた。そして──

 

 

「よう。封印お疲れ様」

 

 

!!

 

 

 姉妹の前に立つ少年。彼女らを拘束していた樹木は瞬く間に砕け散り、巨大な百足は血の滴る菜々子の手を癒していた。

 

 驚愕の声を花御があげた理由は、味方であるはずの──出戸環から放たれる、圧を持った呪力と殺意によるものか。もしくは、呪霊としての本能が察知した明確な死の気配によるものか。

 

 

 答えを考える暇もなく、花御は更なる災厄と対峙することになる。

 

 

 

「1秒やる」

 

 

 

「どけ」

 

 

 

 顎を押さえていた花御の腕を切り落とし、立ち上がったのは圧倒的邪悪──宿儺。

 

 

 瞬時に花御は姉妹の立つ隣へ退いた。感じる強さは五条悟とは異質のものであり、一挙手一投足が全て死因に成りうる、その恐怖はまさに呪いの王。

 

 

(息……!!息息息息!!息していいんだよね!?殺されないよね!?)

 

 

 美々子と菜々子、そして花御の脳裏に戦慄が走る中、自然体であるのは宿儺と──出戸環。顔を合わせたその2人の間に、穏やかな空気など存在する訳もなく。

 

 

「頭が高いな」

 

 

 宿儺の発した言葉から、咄嗟に膝をついた花御。這い蹲って頭を垂れた美々子と菜々子。2種それぞれの対応は宿儺へ対して当然のものではあったが、環の目線が下がることはなく──

 

 

「──蹲るならば死ぬ方がマシか?」

 

 

「あぁ──なんせ死なないもんでな」

 

 

 横一線の飛ぶ斬撃。それに対して環は何ら抵抗することなく、切断された自らの生首を中空で掴み、そのまま元に()()()()()()()

 

 高度な反転術式によって首は瞬時に癒着。その様は人間と呼ぶにはあまりにも異様なもの。隣では花御の頭が一部切り取られていた。

 

 

「ククッ……ガキ共。俺に何か話があるのだろう。指1本分くらいは聞いてやる。言ってみろ」

 

 

 それを見て機嫌を良くした宿儺は、そのまま問いを投げかける。立ち位置や反転術式の行使によって、目の前の人間3人は知己の仲だと仮定されていた。

 

 宿儺の読みは正しく、3人は家族として纏まっている。しかし宿儺の脅威を認識し、死をも厭わない圧倒的な個である──出戸環が譲ることはなかった。それ故に、彼は姉妹の発言よりも先んじて"呪いの王"へ布告する。

 

 

「用はない。ウチの家族が先走っただけでね。羂索とオマエの関係にも興味は無いし。僕が羂索(ヤツ)()るから──黙って見といてくれ」

 

 

「た……環っ」

 

 

「そうかそうか。ならば──死ね」(カイ)

 

 

 格子状の斬撃。軽い掌印と共に放たれたそれは、先程とは比にならない威力。もとより何を頼まれようと、何を願われようとも、指1本程度で指図でもすれば殺すことは宿儺の(うち)で決まっていた。

 

 

 姉妹の上げる声も無視して迫る斬撃を──力場が受け止める。

 

 

(あららぎ)……ガキんちょの戯言だろ?聞き流せよ()()()

 

 

「駆除……といった所か?」

 

 

 


 

 

 

 領域が崩壊する。特級呪霊──陀艮は伏黒甚爾の前に倒れ付していた。『游雲』はその先端を尖らせており、接続部の金具は壊れている。

 

 頭部への刺突によってトドメをさし、結果的に1人で祓ったのは他でもなく甚爾であった。理性の残る彼が次に行うことは──

 

 

(あのタコを圧倒した化物。なんで味方してくれたのか……それとも一体……)

 

 

 伏黒恵は息を切らしながらも、思考を止めることはなかった。彼が領域内へ決死の覚悟で飛び込んで見たものは、黒インナーの男が游雲をかっさらった挙句に破壊、そのまま特級呪霊を圧倒した様だった。恵は甚爾の活躍ぶりも、直毘人との会話なども目撃してはいない。故に警戒を怠らず、男から目を離さなかった。そのはずだった。

 

 

(は?)

 

 

 一瞬で眼前に立つ男の姿。手には游雲を尖らせた一節だけ。次に矛先が向けられる相手は──

 

 

「オマエ名前は」

 

 

「……?伏黒……」

 

 

 シンプルな問いに恵はただ答える。男の目に慈愛などといった上等なものは見えなかったが──少なくとも敵意は感じられなかった。

 

 

「……禪院じゃねぇのか──よかったな」

 

 

 "指"の気配。それと同時に男は姿を消した。恵は何も知ることはなく、甚爾はそれ以上何も言うことはなかったが、それだけで彼の未練はなくなったようで。

 

 

 故に甚爾の目的を恵は知る由もない。"天与の暴君"が定めた──己の死に場所も。

 

 

 


 

 

 

 

 合図は必要無かった。

 

 シナズの口から放たれる黒い濁流。百足の群れはその1匹1匹が術式行使を可能とするサイズと強度である。呑まれれば瞬く間に肉体を百足へと変える不死の大河だ。それが狭い駅構内を埋めつくすように供給されていく。

 

 

 対するは乱れ飛ぶ高密度の斬撃。不可視の刃が触れれば、百足を微塵へと変えていく現象が起こっていた。

 

 塵へと変わった仲間の骸を踏みながらも、百足達は止まることを知らないまま走り続ける。

 

 

 その群れを蹴散らすのは極大の樹木。3つの影を地上へと押し上げながら、独自の言語が語りかけた。

 

 

宿儺。あなたが肉体の主導権を永劫と握ればそれでいい。完全復活こそ私の望みです

 

 

「なるほど。ならばオマエがこの()()を殺してみろ。さすれば──俺は呪霊(オマエら)の下についてやる」

 

 

「ゴチャゴチャと話す暇があるのか?呪い共」

 

 

 黒い渦と不可視の刃、そして巨木が渋谷を彩り始めた。

 

 

 黒い渦の中心に輝く赤い双眸。百足で構成されたその姿こそ──出戸環の本領だった。

 

 顕現する六つの宝塔は遠隔操作の『(あららぎ)』によるもの。環は進化によって生じた余剰エネルギーを器たる──自らの肉体へ注ぎ込む。『意路不倒』によって体は一時的に人間を外れており、供給されるエネルギーがフィジカルを数段飛ばしに押し上げた。

 

 

無常我修羅(むじょうがしゅら)

 

 

 紫の紋様が走る灰緑の身体には、たなびくように百足の群れが付き従っている。眼窩に嵌っている赫い光は呪い達を見定めながら──

 

 

「!!」

 

 

 宿儺の防御へと突き刺さる蹴撃。ミシミシと鳴る音と蹴りの威力は、受けて止める選択を放棄するまでに及んだ。

 

 

 吹き飛んだ勢いは計3棟のビルを貫通する程だった。その人影は4棟目のビル内に飛び込んだことでようやく止まる。オフィスの雑多な瓦礫に背をつけていたのは笑顔の宿儺。ニヤケ面は未だ健在ではあった。

 

 

「クックックッ。やってくれたな百足!!」

 

 

 そこへ殺到する百足の濁流。宿儺は線ではなく面を捉える広い斬撃で迎え撃つが、これが牽制であることは承知であった。

 

 

 斬撃を破って飛び出した環の拳は──空を切る。打撃をいなしていた宿儺はお返しとばかりに拳を二発叩き込み、右の蹴りを加えた後、ダメ押しの斬撃を放った。

 

 

(カイ)

 

 

 斬撃は環の頭蓋を横から三枚におろしていた。その断面からはいくつもの百足が生え、すぐさま切断部位を繋ぎ止めた。首から下の肉体は勢い衰えずに宿儺との格闘戦を続けていたが──その空間は鬱蒼とした樹海に塗り替えられた。

 

 

領域展開朶頤光海(だいこうかい)

 

 

 樹海の主たる花御は環を領域内へ閉じ込めることに成功した。

 

 

 だがこれにより──花御の勝ちの目は潰えたことになる。

 

 

 






花御は交流会に行かなかったことが大きな分岐でした。交流会では顔の木という弱点がバレて、五条悟からのヘイトが溜まる原因にもなっているので。前話で陀艮が泣いていなかったり、漏瑚の最期に呪霊が誰も表れなかったのは、花御が死んでいなかったためでした。



無常我修羅:五条悟の打撃で血反吐出たことから、フィジカル面の強化が環の頭にあった。魔虎羅みたいな馬力が出てるけど、色味は天元様に寄ってる。
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