特級不死 デッドムカデ   作:ゾエア

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こんなの夏油様じゃない……と思う私の感覚とこれぞ夏油傑!!という私の感覚がぶつかり合いました。よければ、読んで感想お聞かせください。


グレイトフル・デッド

 

 

 

「なんか環変わったよね。まえは拾った子猫みたいだったのにー」

「結構分かりやすかったのに。可愛くない」

 

 

「どういう意味なのそれ……?」

 

 

 術式の本領を発揮させ、黒閃を経験してもなお、この双子が僕を弟扱いすることは変わらなかった。未だに二人の背を追い越せていないことが原因かと、この矮躯を疎ましく思うが、現実は非情である。それに、夏油さんの手伝いを率先して行うようになれば、僕が変わったように見えるのも当たり前だろう。術式があるとはいえ、生け捕りを前提に呪霊と戦っているのだ。戦闘の雰囲気を纏ったまま帰ってくることも当然有り得る。そういった切り替えが上手くいってないとも捉えられるが。

 

 

「なんか余所余所しいっていうか、触らないでオーラみたいな。でも腕取れて帰ってきた時から、違う感じー」

「やけにテンション高い環は面白かったけど」

 

 

「……色々収穫があったんだよ。それで……こう、楽しくなったっていうか」

 

 

 二人してケラケラ笑っている。僕が頑張って強くなろうとしているのにこの調子だ。だいたい彼女たちが夏油さんにベッタリと付きまとうのも考えものだった。夏油さんは気にすることなく受け入れるため、二人が益々つけあがってしまう。崇拝と愛を彼に向けているのも分かるが、それに僕まで付き合わされるのはごめんだ。

 

 

「……シナズじゃないよね。腕から生やしてるのも、呪霊から生やすのも。やっぱり百足の術式?」

 

「まぁそんな感じ。……あ、もしかしてコレ不評?不便じゃないのになぁ──」

 

「──腕だけじゃないでしょ。あんたの雰囲気とか。何か掴んで嬉しそうだけど、()()()()()()もあるんじゃないの?」

 

 

 彼女たちには不死や蘇生を伝えてはいないが、呪霊を相手に百足を生やせることは別に隠していない。家族なら全員知っているだろう。

 

 しかし、手放したものとはなんなのか。具体性がないその問いは禅問答か何かかと思えた。得れば失う……いまいちピンと来ないが、死ねば変わることもあるだろう。2回ぐらいだっけか。術式とシナズのせいかもしれないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……そういう美々子と菜々子は変わんないね。夏油さんの取り巻き。ちんちくりん呪詛師のままで」

 

「カッチ〜ン。頭きた。吊るそっか」

「言うじゃんちんちくりんムカデ!!」

 

 

 逃げる僕と追いかける二人。当然夏油さんに見つかったそのじゃれ合いは呪術アリのものだった。ところが、夏油さんは僕達が争うことを嫌うため、後に真剣なトーンで説教してきた。僕が手を出していないことだけは明確に弁解するも、彼に効き目はなく。穏やかに目を細めるだけで終わってしまった。

 

 

 


 

 

 

「幾ツダ?呪術師ニ歳ハ関係ナイガ……チャント食ベテルノカ?」

 

 

「14です。夏油さん……今度は海外で変な人拾って来たんですか」

 

 

 夏油さんの紹介で会ったのは、ミゲルと名乗る黒人男性だ。身長は190cmはありそうで……多分夏油さんよりも高い。サングラスと耳には大きなピアス、白のハンチング帽が特徴的だった。カタコトで喋るその様子と見た目から、恐らく外国からやってきた人だと判断した。

 

 夏油さんが呪霊集めから帰ってきてすぐに、海外で逸材を発見したとか聞いていたけど、こういうことだったらしい。呪術師相手に懐が広すぎて、色物を見つけてくる傾向がある気がする。あのラルゥとかは特に。

 

 

「出先でスカウトしたんだ。海外の呪術師は少ないんだけど。家族として仲良くしてほしいな」

 

「僕は異論ないです。凄く強いのは理解できますし。今更追い出せとか言いませんって」

 

「コイツダナ。夏油ニ続ク特級──式神モ厄介ナ感ジガ分カル。ソノ歳デ、ドンナ人生歩メバコウナル?」

 

 

 恐らく夏油さんは僕のことを詳しく話していないはずだ。未成年も仲間にいることを伝えたぐらいか。ミゲルさんは僕の背丈から、食生活を心配するような言葉を吐いていたが、シナズや術式にある程度勘づいている。腰にあるあの縄のような呪具も──異質な呪力を放っていた。スカウトされるだけのことはある。ガタイの良さとあの呪具。相手すれば面倒くさいことは間違いないだろう。

 

 

「色々あったので。そういうミゲルさんは恐らく……夏油さんのカリスマに呑まれたタイプですね!!」

 

 

「マ、否定ハシナイ。夏油ノ誘イニ乗ッテ日本マデ来タンダカラナ」

 

 

「ははっ。私の理想にはどうしても強い人材が必要になるからね。お互い仲良くできそうでよかったよ。ぜひやってもらいたいことがあるんだ。ミゲルには私抜きで──五条悟の足止めを任せたい」

 

 

(僕の仮想死刑執行人なんだけど。それを足止めは……無理でしょ)

 

 

「五条悟って、僕を殺しきれるんですよね。シナズと群れ込みで」

 

 

「うん。君が暴れることはすなわち、悟がフリーで動けるということだからね。1人の時が最も厄介だ」

 

 

 仮に、僕が群れを作ろうとして一般人を犠牲にしたとする。もちろん効果時間が過ぎれば助かる人も中にはいるだろうが、それよりも群れに飲み込まれる人の方が圧倒的に多いだろう。そうなると現場にあるのは百足と不死者と僕。五条悟の守る対象がいない──それは最強が存分に全力を発揮できる状況だ。僕を文字通り消し飛ばしてからの百足駆除。それで事態が終息する……というシナリオが描かれることになる。

 

 

「環ノ術式ハ周リヲ巻キ込ムタイプカ。俺ガ、ノラリクラリ時間ヲ稼グプランナラドウダ。術式ニヨル攻撃ナラ、乱シテ相殺マデデキルダロウ」

 

 

「私から呪霊の援護を加え……そこに高専関係者の足手まといが居れば、時間稼ぎは可能だろう。その間に私と環で──呪術高専を落とす。現在の戦力から見積もっても成功確率は3~4割かな?」

 

 

「え……今の話で僕の出番ありますか?雰囲気に流されて、僕が危うくテロリストに……」

 

 

 僕が群れを使って派手に暴れるか、夏油さんが呪霊を率いて襲撃するか、という二つの手段。どちらかと言えば、夏油さんの呪霊操術による操作の方が、僕の大雑把な命令を下す手法よりも、作戦として成り立ちそうではある。

 

 

「日本国内あらゆる結界の要であり、呪術界を支える基盤としての存在──"天元"を押さえる。そのためには環の術式が必要だ。一般社会……非術師達(さるども)の社会は呪いに敗れることになるだろうね」

 

 

 天元。呪術界の中枢そのもの。呪術師の活動──呪いと対抗し祓うためには、なくてはならない存在。確かに、夏油さんが呪詛師として活動することに矛盾はない。しかし天元を押さえることで瓦解する呪術界、ひいては呪術師を憎んでいる訳ではないはずだ。結果的に一般社会を混乱に陥れることは不可能ではないが、混沌の矢面に立つのは同じ術師だ。それに、僕の術式が何の役に立つのか意味が分からない──

 

 

「ところが、このプランはまだ思考された段階に過ぎない。呪いの質と量を上げたところで、勝率を五分には持っていけないからね。今はまだ雌伏の時さ。あと1つ。何かダメ押しのカードが欲しいものだ」

 

 

「なんだ……焦りましたよ。呪術界ひっくり返すとか大層なこと、僕は決断してませんから。そんな僕が重要な役割を担う計画だったなんて、かなりの見切り発車ですよ」

 

 

 焦っているのは夏油さんの方──そう考えてもおかしくなかった。ミゲルさんという逸材。そして何やら必要であるらしい僕の術式。これらのピースが揃いつつある所で、理想までのあと1歩が見えてきたのだ。

 

 

「その通り。でも、足止めを悟られないよう、派手にすることはもう決めてるんだ。大々的に呪霊を放ち、宣戦布告をして足手まといの術師も集めさせて。こういう時は分かりやすく悪役を務めて、勝ち筋を見せてやれば皆こぞって頑張ってくれる。悟1人で事足りるというのにね」

 

 

(すごい悪そうな顔してる……やっぱり前髪のせいかな。まるで悪の教団の親玉だ)

 

 

「起こす事変の名前は……そうだね。数多の呪霊を(みやこ)へ放つ──百鬼夜行」

 

 

 


 

 

 

「それで──夏油さん。話があるんです。忙しければ出直しますけど」

 

 

「いやいや、それには及ばないよ。私も話をしたかった所なんだ。他でもない君の話を後回しにする用件はないからね」

 

 

 どうやらタイミングは良かったらしい。先刻、ミゲルさんを交えて話した夏油さんの悪巧み。会話の中で出てきた僕の術式の存在について、聞き出しておく必要があった。

 

 

「君も気になっていることについて。何故天元を押さえるために術式が必要か……といったところかな」

 

 

「はい……だいたいそうなんですけど。コレ天元に使うんですか?」

 

 

 そもそも人間相手にはまともに術式を使ったことはなかった。専ら呪霊相手に使っており、試した人間は僕自身だけ。それも数える程だし、自分に向けたものと、相手に向けたものが異なることだって有り得なくはない。

 

 

「そうだね。天元に使うことを考えている。そもそも天元の術式が──不死の術式だ。君が術式を行使することで起こりうる事象が推測できる」

 

「天元は不死だが不老ではない。老いる肉体を術式が書き換えることで、より高位の存在へと昇華──といった現象が起こる。500年周期でね。そして今周期の状況を私はある程度知っている。昇華を抑える方法を取ることで、天元は安定しているようなんだ」

 

 

「昇華?抑えるってことは昇華しない方がいいってことなんですか?」

 

 

 術式が肉体を書き換える──不死の術式。未だ僕は確認していないが、そういう副次効果が不死の術式には隠れているのだろうか。その昇華は口ぶりからして好ましくはなさそうだが。

 

 

「その段階には意志というものがないらしくてね。どうなるか分からないし──呪術界に仇なす存在になるかも……と恐れられていた。今は昇華を抑え、結界の補助や維持などを行い、天元はいつも通り健在のようなんだ」

 

「安定した不死の天元を脅かすことなど、並大抵の術師では不可能。しかし不死の存在そのものを贄として、式神を産み出す術──すなわち君の術式ならば、天元を対象に式神を産み出すか、もしくは天元を、式神でも人間でもない存在へ昇華させることが可能だろう」

 

 

「所業は極悪呪詛師ですよ……そんなことやらせようとしてるんですか」

 

 

 意図的に呪術界を脅かすことを計画している。特級認定よりもよっぽど酷い。それの手伝いをしなければならないのか。夏油さんには恩があるし、呪霊集めも苦ではなかったが、それとこれでは差が大き過ぎる。

 

 

「……君の術式が関係しているんだ。蘇生についてもね。アレの前後で君の実力は大きく伸びた。死の瀬戸際で呪力の核心を掴んだり、あるいはインスピレーションを受けることもあるだろう。呪術師の成長曲線は緩やかではないし、段階的に上昇することもよくある話だ。しかし──君は死んで、そのうえで帰ってくる」

 

 

「はい。体験したことは二度。先天性疾患の発症は胎内でも起こっていたみたいで、死からの帰還を数えれば三度です。その回数死に触れて、生き返っているはずです」

 

 

 僕の記憶にはないが、術式が発動して胎内で生き返ったのだろう。そもそも死産で終わるはずだった命のようだ。今更僕が死のうが生きようが、勝手にしていいと思っていた。

 

 

「不死として蘇生を繰り返し君は在り続けるだろう。しかしいずれ慣れ果てる。自分にも、他人にも死がないことは決して幸福なことではないんだよ」

 

 

「え?でも一緒にいられるじゃないですか。そんなに先のことなんて考えないですし、生きていればそれで──」

 

 

「──箍が外れると、命の価値を見誤ってしまう。仮に私が死んだ時にも、また生き返らせればいいと、そう思い始めたんじゃないかな?」

 

 

 夏油さんが死ぬ可能性。もちろん人はいつか死ぬ。彼は老衰による穏やかな死に様を望んでいる訳ではないだろうが、それでも僕は死んでほしくない。生き返らせればそれで大満足──皆がそれを喜んでくれるはずなのに。

 

 

「夏油さんが死ぬなんて嫌ですよ。家族皆も悲しみます。シナズなら死因ごと取り除けますし、呪詛師やってるなら、殺される可能性の方が高いでしょう?僕に可能なことをやるだけの話です。何が悪いんですか」

 

 

「死を望んでいるわけじゃない。私の生き方はもう決めている。私から──()()()を奪うことはしないでほしいんだ」

 

 

「……嫌です。夏油さんが生き返りたくないんなら、まず殺されないでくださいよ。天元をどうにかしたいんなら百足ぐらいは貸します。それでいいでしょ?他に何かありますか」

 

 

「よければ君自身に手伝ってほし──」

 

 

 ──話は終わった。引戸を思い切り閉めて退室する。身勝手な彼にはこのくらいで十分だろうし、僕も頭を冷やしたかった。非術師を皆殺しなんて考えるテロリストに──命の価値を問われている。馬鹿げた能力を持った狂人は一体どちらなのか。少なくとも僕は、彼との死別なんて考えてなかった。シナズと共に居ればお手軽に蘇生できる。そのアドバンテージを存分に活かした……文字通りのゾンビアタックだってできるのに。彼に僕の術式を、僕の願いを否定されたことが、予想よりもずっと──

 

 

 


 

 

 

(……気づいてないんだろう。死に触れる度、君の()()()()()()()。きっと最後に残るものは──親しい者達で構成された動く死体の群れ。手伝ってほしいことも私の本心だが、そうではないんだ)

 

 

 気分を悪くさせたようで、環は部屋を出ていってしまった。急に話が進んだので彼も混乱しているのだろう。呪詛師としての道を選んだわけではないが、かといって呪術師として生きていくことを決めたわけでもなく。非術師を害することの決断を急かされたように感じたかもしれない。

 

 

「たはー。やっぱり難しいねー。衆愚を煽るよりもよっぽどだ。風の噂で教師をやってると聞いたけど、悟だったら上手くやれてるのかな?」

 

 

 高専で教師になったという()親友のことを思い出した。馬鹿げた理想も、受け入れ難い術師の現実も、そして、変わりゆく家族を引き止めることも……あいつならどうにかできるだろうか。そんなことを考えてしまうほど、私は焦燥に駆られているようだった。しばらく時間が要る。しかし環には分かってほしかった。

 

 

(理想の世界を夢見てきたんだ。死ぬつもりはないし、彼の願いを、家族として叶えてやりたい……が、大義のために私が死ぬ可能性の方がより高い。その時に彼がどう決断するのか。せめて後悔がないようにしてほしいだけさ)

 

 

 言い訳するように独り思考していたが、もちろん彼はここにはいない。術師として冷静さと強さを持つ割に、どこか幼いように見える環の魂が、健やかであり続けることを願うばかりだった。

 

 

 






まだ祈本里香が見つかる前ですが、環君の存在でこうなってます。五条先生が言ってた──憂太がいなくてもあいつは来てたよ──という言葉通りなら、こうなってるイメージです。
夏油さんの真面目さなら、ゾンビアタックを家族に強制することは難しいとなり、独自の解釈と生命倫理で環君を諭すこともあるはずです。
そして死に近づくことと"死ぬ"ことの違い。彼岸を渡ってしまうことの重大さは環君にはまだ感じられません。夏油さんは勘づいています。
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