ルドルフのグルメ または生徒会長が庶民のご飯をおいしく食べるだけのお話   作:雅媛

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ルドルフとカツ丼

 生徒会の仕事で外出し、ようやく府中駅に帰ったころにはすでに夜も遅くなっていた。

 別に珍しいことではない。生徒会長として、イベントを運営し、そして皆が帰るまで見送った後に最後の片づけをして、それから帰るのだから、遅くなるのはいつものことである。

 

 ただ、遅くなると一つ問題がある。夕食である。

 

 

 寮に泊まるウマ娘には、基本朝晩の食事が寮から提供される。

 だが、当然提供される時間には決まりがあり、ルドルフが府中駅に着いた時には食堂はとうに閉まっている時間であった。

 このまま帰っても食事にはありつけないだろう。だが、さすがに朝まで何も食べないというのはそれはそれで体が持たない。ということで、ルドルフはその辺の店に入って食事をすることにした。何を食べようか、とあてもなくふらふら歩いていると大通りの向こう側に「とんかつ専門店」の文字が見えた。

 

「たまにはトンカツも悪くないな。カツを食べて勝つ、だ」

 

 誰に聞かせるわけでもない独り言をつぶやいたルドルフは、その光る看板に吸い寄せられるように店へと入る。店内は合板とプラスチックでできており、明るく清潔感があるが、高級店に慣れ親しんだルドルフには少し作りは安っぽく感じる。こういった店に入ったのはよく考えたら初めてだな、と気づいたルドルフは少し悪いことをしている気分になりちょっとだけ緊張しながら、周りを見回した。

 

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

「あ、ああ、一人だ」

 

 奥から出てきた女性の店員さんの声の大きさに少し戸惑いを覚えながら、答えるルドルフに、店員さんは特に気にした様子もなく

 

「カウンターでもテーブル席でもお好きなお席にどうぞ!」

 

 と答える。

 店内にはほかに客の姿はなく、ルドルフ一人だ。どこに座っても迷惑にはならないだろう、と考えながら、何となくカウンター席の真ん中に座った。

 

「メニューはこちらです。お決まりになりましたらまた声をおかけください」

「ああ、わかった」

 

 カウンター席の正面に立てかけてあったメニューを店員さんから受け取り目を通すルドルフ。

 基本はカツ丼、カツカレー、カツ定食の3種類だ。それぞれ松、竹、梅とヒレカツがある。

 

「ちょっと聞いてもいいかな」

「はい、なんでしょうか?」

「この松、竹、梅というのは何が違うんだい?」

 

 ウナギだとサイズの差であり内容に差がないが、寿司ならば内容の差であり量に差はない。

 そもそも、松が上か梅が上か、というのすら店によって違ったりする。

 幸い値段的に松が上だというのはわかるが、それ以外の違いがルドルフにはわからなかった。

 

「それぞれカツの量が違うんです。梅は90gで、竹は130g、松は180gです。あと、お肉も梅はロースで、松と竹はリブロースです」

「なるほど……」

 

 なるほど質も量も違うようだ。しかし、竹でも1000円もしないのは安すぎはしないだろうか。ルドルフは不思議に思った。

 

「あと、ウマ娘向けのメニューはあるかな?」

「すいません、うちのは全部人間むけの量です」

「なるほど……」

 

 ウマ娘は基本的に人間の3倍、4倍と食べる。そのため、ウマ娘用の量を置いている店も少なくない。だが、ここにはそういったメニューは無いようだ。普通の大盛はあるが……

 さて、ここで選択肢は3つ、定食か、カレーか、丼か、だ。

 どれにしようかと考えたとき、特に理由もなく浮かんだのはトウカイテイオーだった。そういえば、彼女はよく学食でカツ丼を食べていたな、と思い出したルドルフは、カツ丼を食べることを決めた。

 あとは、1つでは当然足りないから、いくつか頼むとして……

 

「店員さん、すまない」

「はい、ご注文ですか」

「カツ丼の松と梅、そしてヒレカツのカツ丼を頼む」

「はい、わかりました。ロースかつ丼の松と梅、そしてヒレカツ丼ですね。少々お待ちください」

 

 松を3つ頼むことも考えたが、さすがに同じ味だと飽きるだろう、と考え、肉が違う松と梅、そしてヒレカツのカツ丼3つをルドルフは選択した。

 被って後悔する、ということは聡明なルドルフにはありえないのだ。

 料理が出てくるのにしばらく時間がかかるだろう。出された冷たいお茶を飲みながら、ルドルフはぼんやりと店内を見回す。

 店にはだれもおらず、よくわからない音楽がBGMとして流れている。

 店自体は広く、今は誰もいないが、国道沿いだから人が多い時間ならばこの店の席も埋まるのだろう。

 そんなことを考えている間に

 

「まずはロースカツ丼の梅です」

「早いね」

 

 最初のメニューが届いた。まだ5分も経っていないが早すぎないだろうか。

 こういう店だとこれくらいの早さは普通なのだろうか。

 普段高級店しか行かないルドルフにはそのあたりはよくわからなかった。

 なんにしろ丼の上全面に卵でとじられたトンカツが鎮座するカツ丼は、見た目もおいしそうだ。

 箸は…… この丸い容器に大量に突き刺さっている割り箸を使えばいいのだろうか。

 少しおっかなびっくり割り箸を取り出し、割る。あまりきれいに割れずにちょっとションボリルドルフであった。

 気を取り直して、カツ丼に箸をつける。まずは一口、カツを一切れ頬張る。甘めの出汁と卵、そしてトンカツの味が広がる。味は悪くない。衣に出汁が染みていてふんにゃりしているのがおいしい。そのままご飯を箸で口に入れる。ごはんとカツの相性も良い。この値段でここまでの味が出せるのか、ルドルフは驚きであった。

 少しはしたないが、丼をもって掻き込むようにカツ丼を食べる。丼物はこう食べるものだと、昔ブライアンが持っていた漫画に書いてあった気がするからだ。普段なら決してしない、ウマ娘の代表として他人に見せられない食べ方だ。ただ、今はこの場にいるのは店員さんのみである。夜も遅く時間もかけたくないのもあり、ガツガツと食べていく。

 出汁で柔らかくなったカツの衣と、半熟の卵、そして出汁が染みたご飯はすべて柔らかく、掻き込むにはちょうどいい塩梅である。ロース肉の、脂身部分と肉部分の食感の違いもまた、食事が単調にならずにちょうどいい具合だ。ものの1分程度でどんぶり1杯を完食してしまった。

 

「次はヒレカツ丼です」

「ありがとう」

 

 冷たいお茶のお代わりも一緒に受け取り、ヒレカツ丼を食べ始める。

 味付けは、ロースかつ丼とまったく同じようだ。肉が違うのだから味付けも変えればいいのに、とルドルフは少し不満を覚えたが、さすがに高望みが過ぎるか、と思い直す。

 味自体はこちらも良い。ヒレカツの肉は柔らかくきめが細かいので、ロース以上に掻き込むにはちょうどいい塩梅である。ただ、肉自体に脂身がないので、人によっては若干物足りなさを感じるかもしれない。ルドルフ的には箸休めも考えると1杯食べるにはちょうどいい感じだが、これだけだと少し淡白すぎて物足りないと感じるぐらいだろうか。

 肉が柔らかく一体感があり、するっと食べられてしまうため、最初のカツ丼よりも早く食べてしまう。

 少しはしたなすぎるか、そんなことを考えながら、テーブルの上に置いてあった紙ナプキンで口を拭う。

 こんなのを実家の者に見せたら卒倒されるかもな、とふと思った。

 

「最後、ロースかつ丼の松です。ご注文は以上でおそろいですか?」

「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」

 

 最後に来たのはロースかつ丼の松である。

 これは最初のものとまず見た目から違った。カツが明らかに大きく、端が丼からはみ出していた。

 そういえば、最初に松竹梅の違いを聞いたときに、松は180g、梅は90gといっていた。サイズが違うんだなと軽く流してしまったが、よく考えたらカツの量が倍である。それはぱっと見でも圧倒的に違いが判るレベルである。

 

「味は、どんなものだろうか」

 

 ひとまず一切れカツをつまみ、口に運ぶ。

 味付けはやはり全く前の二つと同じだったが、肉が全く違う。

 リブロースだといっていたが、肉自体脂がのっていておいしいが、一方でロースと違い肉が柔らかい。

 ロースとヒレ肉の良いところどりみたいな味であった。

 丼をもって、やはり勢いよく掻き込むルドルフ。はしたないのはわかっているが癖になってしまっていた。肉が柔らかいので、掻き込むにもちょうどよい。ヒレカツの時のような物足りなさも感じない。

 最上級だけある、まさにこれがルドルフが求めていたカツ丼であった。

 こちらもやはり1分もかけずに食べきる。

 食事時間が10分も行かない。普段では考えられない速度であった。

 

 注文してから出てくるのも早かったことを考えると、店に入ってから完食するまでの時間はかなり短かった。これならギリギリ寮の門限にも間に合うかもしれない。遅れるとは一応連絡してあるが、門限を守ったほうが良いに決まっている。

 これがファストフードというものか。ルドルフは感心するが、ここでぼんやりしているとやはり遅くなってしまう。さっさと帰ることにしようとルドルフは席を立ちあがった。

 

「おいしかったよ。お会計はいくらだい?」

「はいはい、えっと、ロースかつ丼の梅と松、あとヒレカツ丼で、2200円です」

「これでいいかな」

「はい、ちょうどいただきました」

 

 これだけ食べて2000円ちょっととは安いな、とルドルフは感心しながらレシートを受け取る。

 さすがに栄養バランスの問題があるから、そうそう食べに来るわけにはいかないが、また来ようと思いながらルドルフは寮へと帰るのであった。




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