ルドルフのグルメ または生徒会長が庶民のご飯をおいしく食べるだけのお話 作:雅媛
移動中、空腹を覚えたルドルフは時計を見る。
正午を少し過ぎたころ、昼食の時間である。
普段なら慣れ親しんだ各地の高級店に足を運ぶのだが……
「たまには、違う店に入ってみるか」
ファストフードの味を覚えたルドルフは、違うファストフードを試してみることにした。駅を降りて周りを見渡すと、多くの駅の近くによくある、ルドルフも名前は知っているハンバーガー店が目に入った。
「ここがいいだろう」
昼時で人が多いその店に、ルドルフは足を踏み入れた。入り口はガラスがふんだんに使われ、外からでも中が良く見え開放感がある。人は多いが明るく清潔感があり、雰囲気は悪くない。
正面には注文するらしきカウンターが並んでおり、どこも人が列を作っている。ルドルフもそのうちの一つの最後尾に並び、カウンター上に掲げてあるメニューを眺め始めた。
「あの、お先にどうぞ?」
「ありがとう、お気持ちだけ受け取っておくよ」
並んでいた前の人がそんな声をかけるがルドルフは笑顔で断る。
皇帝の顔を知っていて忖度してくれたのかもしれないが、ただの店で、しかも客からそのような忖度をされても困ってしまう。あと、どう注文すればいいかまるで分っていないので、他の人の注文を観察したい気持ちもあった。
列の先頭の人が注文しているのを眺めると、メニューの名前を言う人と、カウンターに置いてあるメニューを指さす人がいる。メニューには写真も載っているので、初心者のルドルフは名前を言うよりも指を指した方がよさそうだ、と判断する。
あとは何を注文するか、である。カラフルな写真はどれもおいしそうで、なかなか迷うところである。食べられないこともないし、どうせなら全種類のハンバーガーを頼んでみるか。
そんなことも考えるが、さすがにハンバーガーとチーズバーガーはチーズ一枚だけでほとんど変わらないだろうということに気付き、迷いが生じる。いい加減に全部など選ばずに一つずつ吟味するべきではなかろうか。そんなことを考えていたら、目の前の列がなくなっており、ルドルフの番になってしまった。
「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」
「あ、ああ」
「ご注文をどうぞ」
「えっと、まずはこれとこれ」
ひとまずルドルフは、メニューの一番左上に書いてあるハンバーガー2個を指さす。おそらくこれがお勧めなのだろうと考えたからだ。
「セットでよろしいですか?」
「セット? セットとは何がつくんだい?」
「セットになりますと、サイドメニューとドリンクが付きます。100円追加でドリンクがLに出来ます」
「ふむ、なるほど……」
「あとは、こちらのウマ娘の方向けのセットもございます。こちら、好きなハンバーガー2つと、サイドメニュー2つ、ドリンクのLサイズを一つを選ぶことができます」
「そんなものもあるのか」
さすがに世界規模のチェーン店、ウマ娘向けのメニューもちゃんとあるようだ。
メニューを見て少し悩んだルドルフは、再度口を開く。
「ではそのウマ娘向けのセットを2つ頼む。ハンバーガーはこれとこれとこれとこれ、サイドメニューは…… ここから選べばいいのかな?」
「はい、ここから4つお選びください」
「じゃあこれとこれとこれとこれだ。ポテトはサイズを大きくできるのかな」
「はい、プラス100円でLサイズになります。また、こちらのチキンナゲットはプラス300円で15個入りのサイズにすることも可能です」
「ではどちらもサイズが大きいのにしてくれ。ドリンクは、このトロピカルブルーハワイと、バニラシェイクで」
「かしこまりました。お会計、4280円です」
無事に注文ができてほっとしながら、ルドルフはお金を払う。
店員さんはお金を受け取ると、レシートとプラスチックの番号札をルドルフに渡す。
「これは?」
「お席までお持ちしますので、こちらの番号札をわかりやすいところに置いておいてください」
「なるほど」
席まで持ってきてくれるとはなかなかのサービスである。番号札を受け取ったルドルフは、階段を登る。二階運んでいたので、さらにもう一つ上、三階に上がる。階段で二階層上がるのは面倒なせいか、2階に比べると3階は人が少なかった。だが、周りのには自分がシンボリルドルフだと気づいたようでこちらを見る人もいるが、ここで相手をしていると大変なことになるだろうことは容易に想像できたので、特に反応することなく、窓際のカウンター席に座った。
窓からの景色はそう良いわけではないが、眼下の道には人々が行きかっている。そんな風景をぼーっと見ていると
「お待たせいたしました」
と、トレイを二つ持った店員さんがルドルフに声をかけた。
まだ注文して10分もたっていないのに料理が出来上がって持ってくるとは、ルドルフが予想していたより圧倒的に早い。さすがファストフードと感心しているルドルフを尻目に、店員さんがルドルフの前にトレイを置いた。
「ご注文はお揃いでしょうか」
「…… 大丈夫だ。全部そろっている。ありがとう」
「ではごゆっくり」
レシートを見て、注文の品がそろっているのを確認したルドルフの答えに店員さんはそのまま下へと降りて行った。チップを渡そうかと一瞬思ったルドルフであったが、そういうことをする間もなかった。おそらく1階のレジの前はまだ列ができているだろうし、忙しいのだろう。あまり気にすることなくルドルフは目の前の料理を見た。ハンバーガーが6種類、大きなポテトフライと、チキンナゲットの箱、プラスチックのカップに入ったサラダにアップルパイ、あとはドリンクが二つである。
まずは一つハンバーガーを食べてみようと手に取ろうとしてふと考える。包み紙の模様がそれぞれ異なり、それで中のハンバーガーの種類が分かる様になっているようだが、そもそもよくわからずに写真で選んだルドルフにはどれがどれだか判別がつかない。まあ、どれでもいいだろうと手前に置いてあるものを手に取り、包み紙をはがす。最初に出てきたのは分厚いパティが二枚重ねされたハンバーガーであった。
「あれ、そういえば……」
ここまでして、ルドルフは気づいた。ナイフとフォークがない。店員さんが持って来るのを忘れたのだろうか。下までお願いしに行くのに少し面倒さを感じ、どこかに置いていないか周りを見る。ナイフとフォークが置いてある気配は全くなかったが、他の人がハンバーガーを包み紙ごと持ち、かぶりついているのをルドルフは発見した。
もしかして、これは、かぶりつくものなのだろうか。最初に見つけたその人以外の食べているのを見ても、誰もナイフとフォークなど使っておらず、手づかみで食べていた。ちょっと背徳感を感じながらも、ルドルフは最初に包装紙をはがしたハンバーガーを再度包み直し、半分だけ開けてそこにかぶりついた。
「ふむ、おいしい」
味は、悪くない。肉はちゃんと牛肉だし、余計なものが入っていない味がする。チーズはただのプロセスチーズだろうが、癖がなく誰もが食べやすいだろう。パンズも味に癖がなく、全体的に調和した味だ。なるほど、この値段でこれは、かなり味が良いと言えるだろう。シンプルかつ重厚な肉の味を楽しみながら、最初のハンバーガーを食べきった。
「次は、この箱入りのにするか」
この分だと次のものも期待できそうである。次は、箱に入っていたハンバーガーを開けた。こちらもまた二段重ねであるが、レタスや間にパンズが挟まっている。これは、包み紙がないが直接手でつかんで食べるのだろうか。素手でつかんで食べる、ということに背徳感が増すが、インドでは素手で食事をすることを考えれば、ファストフードでも素手で食事していけないことはないだろう。
「えい、ままよ」
素手でハンバーガーを掴み、端にかぶりつく。分厚いため大きく口を開けて食べないといけないのもまた背徳感がすごい。ファストフードが批判される理由がルドルフにはなんとなく分かった。悪いことをしている気持にすごくなるのだ。実際礼儀作法的にやってはいけない、程度であり誰に迷惑をかけるわけではないのだが、それでも正しい生活習慣をしていたルドルフにとって、すさまじイケないことをしている気持になる。
味はこちらはこちらでおいしい。パンズが薄く、肉の重厚さが減っているが、レタスとチーズ、味付けのトマトケチャップとマヨネーズ、そして薄いパンズの相性がとても良い。挟まっているピクルスもアクセントとして最適である。
ファストフードというとよくわからない添加物などが大量に入っている、という偏見がルドルフにはあったが、そういったものは味から全く感じない。100%ビーフのパティに、洗っただけのレタス、癖のないプロセスチーズ、トマト成分がたっぷりのシンプルなトマトソースとこちらもシンプルなマヨネーズ、そして小麦粉と塩とイーストだけのシンプルなパン。シンプルなものをうまく組み合わせている。よく考えたら添加物なんて高いのだから低価格には向いていないだろう。そんなことを分析しながら、二つ目のハンバーガーを完食した。手についたトマトソースを舐めとる背徳感に、背筋がゾクゾクした感覚を覚える。
「では箸休めに、他のものを食べるか」
サイドメニューも注文しているので、こちらを食べることにしよう。まずは箱に入っているチキンナゲットである。ついてきたソースにつけて食べる。衣はサクサクで、中は鶏肉のミンチであった。
「何というか、変わった味だね」
味から鶏肉なのはわかるが、食感が独特で若干得体の知れなさがある。味自体は悪いとは言わない。衣は竜田揚げっぽさと天ぷらっぽさがある独特の食感で悪いものではない。ただ、中身の鶏肉が今まで食べたことのない感覚であった。ひき肉にしては食感が良いし、かといって固まり肉としては食感が均一だ。特殊な成型肉だろうかとも思うが、普段成型肉なんて食べないルドルフにはよくわからなかった。
鶏肉のようで鶏肉ではない、ちょっと鶏肉ななぞのフライをもぐもぐと食べていく。ソースは3つついてきていてそれぞれ味が違った。赤いバーベキューソースは甘くこってりした味、黄色いマスタードソースは辛くてさっぱりした味、緑色のバジルマヨソースはすっぱくてやはりさっぱりした味で、どれもなかなかおいしい。
それぞれのソースの違いを楽しんでいたら、15ピースをあっという間に完食してしまった。
「一つずつ食べるのも行儀が良くないのだがな……」
そんなことを考えながら次はポテトに手を伸ばすルドルフ。こちらはジャガイモを油で揚げたものだ。やはり手で摘まんで食べるということに違和感を感じながらももぐもぐと食べてみると、特に美味しいわけではないがなんとなくやめられない味だった。
ナゲットについてきたソースの残りにつけて味に変化をつけながら食べ続ける。こう、体に悪そうな味である。油とポテトなのだから、体にいいわけはないだろう。これを野菜だと言い張って姉に怒られていたナリタブライアンを思い出す。あの時は何の話かあまり理解できていなかったが、今度そのような姉妹喧嘩を見つけたらちゃんとナリタブライアンを叱ることにしよう。
そんなことを考えていたらポテトを食べきってしまった。
紙ナプキンで手を拭ってここでドリンクに手を伸ばす。トロピカルブルーハワイという青い謎の飲み物だ。子供っぽいということで、こういうモノを飲んだことは小さいころからなかったルドルフは、この年齢になって初めて飲むケミカルな飲み物に内心で心を躍らせていた。
ストローを指し、吸うと……
「……っ!? げほっ、げほっ」
炭酸にむせた。そう、トロピカルブルーハワイは炭酸飲料だったのだ。そして、ルドルフはあまり炭酸が得意ではないのだ。というか全く飲めないまである。ショワショワした感覚が苦手なのだ。なので普段絶対に口につけないし、そもそも皇帝の前に炭酸が出てくることなどほとんどないから困ったことはなかった。
だが、ここにきての炭酸飲料である。メニューに書いてあったことを見逃したルドルフの責任であるが、テンションが一気に下がった。振って炭酸を抜くことも一瞬考えたが、ペットボトルのものと違ってプラスチックカップの飲み物だ。振ったら物理的に中身が飛んで行ってしまう。
あきらめてションボリルドルフになりながら、もう一つのシェイクに手を付けることにした。こちらはひんやりした飲み物だ。シェイクがどういうモノかよくわかっていないが、テイオーが昔おいしいと言っていた気がしたので頼んでみたものである。吸うと、バニラアイスのような濃厚な甘さと冷たさが口に広がった。
甘い。とても甘い。ウマ娘というのは甘いものが大好きだ。大人っぽいルドルフでもこれは変わらない。濃厚な甘さにションボリルドルフの機嫌は元に戻った。
飲み物を口にして、一息ついたところでハンバーガーの残りにチャレンジする。次の包装紙を開くと、目玉焼きみたいなものが挟まっているハンバーガーがでてくる。卵とハンバーグの相性がいいのだから、これがまずいわけがない組み合わせである。一口かぶりつくと、卵のまろやかさも加わって、今まで食べたほかの二つよりもおいしく感じた。
「しかし、どこがロコモコなんだろうな……」
ロコモコバーガーと呼ばれていたこのハンバーガーだが、卵が入っているハンバーガーならそう珍しくないだろう。そうすると卵入りハンバーガーはみんなロコモコバーガーではないのだろうか。そんな疑問を浮かべながら、ルドルフはハンバーガーを完食する。味は今までの三つの中ではルドルフ的には一番好きであったがロコモコの謎は解けないままであった。
最後のハンバーガーに行く前に、サイドメニューで頼んだサラダを食べようとルドルフは透明なカップに手を伸ばす。カップ入りなのは見た目だけでなく、ドレッシング入れて振るためというのもあるようだ。均一にドレッシングをまぶすためだろうか。ドレッシングはこれまた変わった形のプラスチック容器に入っていた。容器に入った説明書を読むと両端を摘まむと真ん中からドレッシングが出てくるのだとか。説明の通りにするとぷちっという音とともにドレッシングが出てきた。
これをサラダにまぶして、ふたをして、振る。どれくらい振ればいいのかわからず結構頑張って振ってしまったが、これでいいのかはルドルフにはよくわからなかった。ひとまず振ったのでふたを外し、さて……
「あ、フォークがあった」
今更ながらにフォークを発見である。これも素手で食べるのかと少し悩んでいたのだが、フォークがサラダの陰に隠れているのに今気づいたルドルフであった。まあ、先に気付いてたらハンバーガーをフォークで食べようとしていたかもしれないし良かったのかもしれない。
サラダは、特に変哲もない普通のサラダであった。特に感想はないが、わざわざここで食べたいと思うほどの味ではなかった。
そうして最後のハンバーガーである。開くと、間にはフライされた何かが挟まっていた。シュリンプとメニューに書いてあったから海老が入っているのだろう。
一口かじると、フライの衣と中身の海老、そしてタルタルソースの味が混ざり合う。相性がいい組み合わせだが……
「パンにはさむなら、肉の方がよさそうだな」
まずいわけではない。ただ、パンと海老の相性がそこまで言意図はルドルフは思えなかった。ロコモコ成分が行方不明なロコモコバーガーの方がパンとの相性がいいと思う。
ただ、ちょっとちぐはぐ感はあるが、海老自体は海老フライと同じで味は悪くないしタルタルソースとの相性も良い。ひとまずこのバーガーも完食する。
そして最後にデザートである。アップルパイと書いてあったが、パイというにはちょっと変わった感じであった。ルドルフは複数の層になっているフレンチパイを想像していたが、箱から出てきたのは層になっていないイングリッシュパイであった。そんなパイにアツアツのリンゴのフィリングが包まれている。スティック状になっていて食べやすいのを考えれば、ファストフードにはちょうどいいのだろう。リンゴを煮すぎてちょっと風味が薄いのがルドルフには気になったがとても甘かったので文句はなかった。
最後にシェイクを飲み干し、残ったトロピカルブルーハワイを手にもつ。しばらく時間が経てば、炭酸も抜けるかもしれないという悪あがきをしながらルドルフは席を立った。食べ終わったものはどうやら自分でごみ箱に捨てるシステムのようだが、ちょうど立ち上がったときに店員さんが後ろを通りかかり
「お食事がお済みでしたら、こちらで捨てておきますよ」
と言ってくれたので
「ああ、ありがとう、よろしく頼むよ」
と任せてルドルフはその場を離れる。
初めてのハンバーガーショップであったがルドルフはいくつか謎を得た。
チキンナゲットはいったい鶏肉のなんなのか。
ロコモコバーガーのロコモコは何をもってロコモコなのか。
これらを確かめるためには、また来る必要があるかもしれない。
そしてルドルフは学びも得た。
炭酸飲料かどうかはちゃんと調べてから購入するべきである。
手に持ったトロピカルブルーハワイのカップが結露でルドルフの手はしっとりと濡れていた。