大人になった生徒たちが先生の時間を頂く話   作:アラベスク@arabesuque_38

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コスプレイヤー猫塚ヒビキの葛藤

「夏、と言えば水着……水着、と言えば夏」

 

 目の前に鎮座する布地をむむむ、と睨みつける。いくら睨んだところで露出度が低くなってくれることはないとしても。

 それが無駄な行為だとわかっていても人にはやらねばならぬときがある。今がまさにそのときだった。

 医療用のガーゼを少し大きくしたようなサイズの布地が二つ。それらを支える二本の細い紐。ゲームの中と現実とでは物理法則という壁があるにしても、それを無視しすぎなのではないか、と呪いそうになった。

 どうすればこれであんなに大きな胸のふくらみを支えられているのだろうか、などと考え抜いた末になんとか実現したはいいものの、頼りないことには変わりない。

 これでも上はまだいい方で。下に穿くトライアングルの布はデリケートゾーン以外、ほとんど肌を覆う部分がない。

 上にジャケットを羽織る衣装だからまだ隠せはするけど、お尻なんてほとんど丸見えみたいなものだった。

 

「──……どうしてこれにしちゃったのかな」

 

 今更言っても仕方がないことだけれども、それでも呟かざるを得ない。先生もやっているゲームの人気キャラ。それも満を持しての水着実装だったのだ。ほとんど反射的に作ってしまった。

 元々、布地が少ない衣装だから、それほど時間は掛からないだろう──なんてたかをくくっていたことが最大の失敗。

 トップスを再現するために無駄に奮闘してしまった結果、もはや引き返せないところまできてしまっていた。

 コミセンまでもう三日を切っている。今から新しい衣装を作ることなんてできそうもなかった。

 

『ヒビキ、衣装ができたって聞いたけど』

 

 ピロン、と端末から電子音が聞こえる。見なくてもわかる。昨日の深夜に、ようやく完成した衣装を手にほとんど深夜テンションで先生にモモトークを送ったのだ。その後寝落ちしてしまったせいで、送信を取り消す前に既読が付いていた。

 まさか朝起きて、冷静になってから後悔するなんて昨日時点では思ってもみなかったけれども。

 

『うん……先生、ちょっと時間大丈夫?』

 

 わくわくしながら待ってくれていたであろう先生の期待は裏切れない。何より衣装は自信作なのだ。マイスターの誇りにかけて、再限度は群を抜いているだろう。

 

 ──ちょっと色々と、処理をしないとダメかも……。

 

 覚悟の決まったVラインに想いを馳せる。最近は仕事と衣装製作に追われてたせいで身だしなみに気を遣う余裕もなかった。

 シャワーもせずに寝落ちしてしまったことも思い出して、いそいそとバスルームへと足を運んだ。

 

 ────先生が来る前に準備が終わるといいけれど。

 

 なんて、熱くなった頬とのぼせ上った頭に浮かんだ妄想を、冷たい水で押し流した。

 

***

 

 足取りも軽くヒビキの家へと歩を進める。ついにあの衣装が完成したという知らせは私にとっても嬉しいものだった。

 ここ最近ハマっているゲームのイチ押しキャラ。その待望の水着バージョンが出たのだからそれはもう嬉しかった。それをヒビキに興奮気味に語ったところお互いにお酒も入っていたのも相まって、コミセンにコスプレで参加しようという話にまで発展した。

 私は主人公役で、ヒビキはそのキャラ役で。私の衣装は残念なことに既製品になってしまうけれど、それでも初めての経験に今からわくわくが止まらなかった。

 

「ヒビキ、お待たせ」

「待ってたよ、先生」

 

 衝立の向こうから聞こえてくる彼女の声。どうしたんだろう、と首を傾げていると、羞恥に顔を赤く染めたヒビキがおずおずと私の前に姿を現した。

 

「先生……ど、どうかな……? ちょっときわどいかもしれないけど結構自信作」

 

 そう、私もすっかり忘れてしまっていたのだ。件のゲームキャラの水着衣装がとても露出度の高いものだということを。

 通常衣装の頃から隠しきれていないグラマラスなボディを、これでもかというくらい見せつけるような衣装。発表された当時はそれはもうSNSが盛り上がったものだ。

 そして、それを着こなすヒビキもまた、昔よりも成長した身体を窮屈そうに水着へと押し込んでいた。

 

「うう……思っていたよりも露出度が高い……これはジャケットを着ないと後ろなんてもう丸見え……」

 

 恥ずかしそうに身を捩るたびにぷるぷるといろいろなものが震える。私に全身を見せようとして、くるりと一回転した時に見えてしまった彼女の臀部。小さすぎる布地では隠しきれていなかった。

 サイドで蝶結びにされた頼りない紐。少しでも激しく動いたらズレ落ちてしまいかねない上半身の布地。

 

「せ、先生……? もしかしてあんまり気に入らなかった?」

 

 心配そうに私の顔を覗き込むヒビキ。ほとんど裸みたいな彼女が近くによってきて、ふわりと甘いシャンプーの匂いが脳髄を刺激する。

 

 ────もう、限界だった。

 

「ひゃ────っ」

 

 着てきたジャケットを脱いでヒビキに被せ、彼女を覆い隠すように抱きしめた。他の誰にも、彼女のこんな魅力的な姿を見せたくはない。

 

「ヒビキ、やっぱりコミセンに行くのはやめよう。ヒビキのこんな姿を誰にも見せたくない。他の誰にも、ヒビキのことをそういう目で見られたくないんだ──!」

 

 嫉妬心丸出しでヒビキに懇願する。自分から誘っておいて、約束を反故にするダメな大人の典型。それでも、どうしても許せなかった。

 

「──……他の誰にも、ってことは。先生もそういう目で見てくれてたの?」

「あ、ああ……ごめ────」

「ううん、嬉しい。ふふ……恥ずかしいけど、先生になら大丈夫」

 

 そんなちっぽけな独占欲を彼女は肯定してくれた。ぎゅっと抱きしめ返してきた彼女の身体をもう一度受け止める。

 

 ────そうして私たちは、涼しい部屋の中で熱い時間を過ごすことになった。

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