無期迷途の短編 作:モース硬度
コンビクト:レタの取り調べ、および公式アカウントのディスシティ秘話の読了を推奨します。
「局長さんったらずるいわ、こんな面白そうなことを隠していたなんて。」
局長がいつものように書類に追われていると扉をすり抜けてレタが入ってきて言った。
「待て、一体何のことだ?それとノックはどうした。」
一組織の長として所属するコンビクト達に言えないことはあれど、隠し事をした覚えのない局長は首を傾げた。
「うっ、ごめんなさぁい。それよりこれよ。」
レタの手には『月刊 ディスシティ怪奇譚』と書かれた雑誌が握られていた。表紙には六芒星やピラミッド、人の顔をしたよくわからない生き物など、これでもかとばかりに胡散臭さを強調するようなものが描かれている。こんな雑誌を普段から読んでいるのだろうか、と局長はレタの以外な一面に驚くと同時に納得もした。以前二人で巡ったニューシティ四大怪奇譚名所の情報の出所はこれだったのだろう。
「この記事よ。MBCCの地下にこんな場所があったなんて知らなかったわぁ。それに、これなら脱走したことにはならないわよね?」
MBCCに地底の城!?四大怪奇譚との関係は!
レタが指差す記事の見出しを見て局長は頭が痛くなった。それと同時にこんな出鱈目な記事を鵜呑みにしてしまうレタが心配になった。
そこに追い打ちをかけるように記事の執筆者の名前が目に入る。
著:クロウ
一体どこから突っ込めばいいのだろうか。
「うふふ、楽しみだわぁ。」
「あー、レタ。その雑誌を貸してもらえるか?それと管理局内にも立ち入り禁止の場所があるんだ。勝手な行動は慎むように。」
「なら局長も一緒についてきて。それならいいでしょう?」
「わかった。だが確約はできないぞ。」
「約束よぉ。はいこれ、返すのは今度でいいわ。」
それじゃあねぇ、と部屋を出ていくレタを見送った後、局長も部屋を出る支度を始めた。
「それで、これは一体どういうことだ?」
机に雑誌を叩きつけそうになるが借り物であることを思い出し、そっと置く。記事の見出しを指で叩きながら目の前の彼女を問いただした。
「いきなり随分なご挨拶じゃないか。しかし、私の書いた記事を読んでくれたとは。ライター冥利に尽きるよ。」
インクのカラスを従え、ソファに寝転んでいたクロウは体を起こしながらそう答えた。
「質問に答えろ。管理局はコンビクトにある程度の自由を認めてはいるが目に余る場合は独房に入ってもらうことになるぞ。君も紙とペンを取り上げられたくはあるまい。」
「それは恐ろしい。それは物書きにとって死よりも辛いことだ。」
「では正直に話すことだ。君の罪状を理解していないとは言わせない。このようなデマを書いて一体どういうつもりだ。」
クロウは過去にネット上や週刊誌に多くのデマを流したことがある。
読者に誤った思想を植え付け、治安を乱し、大きな危害をもたらす恐れがあるということで収容されたはずのクロウが、何故再びこのようなデマを流す必要があるのか。
「ひとまず勘違いを訂正させてもらおう。私がデマを広めていると思っているのならばそれは大きな間違いだ。お前のその手の雑誌は全て私が作った、世界にたった一冊だけのものだ。
たった一冊でデマと言われては世界中の物書きが廃業することになってしまうよ。」
「では何故これをレタが持っていた?」
「私が渡したからだとも。デヴォンジャー嬢はこういった話が好きだと聞いてね。」
「ますますわからないな。そんなことをして一体何の利点がある。」
「それに関しては口をつぐませて貰おう。よく言うだろう、沈黙は金、雄弁は銀と。まあこの場合正しい使い方ではないが。
だが決して悪事を企んでいる訳ではない、それだけは信じてほしい。私は常々思っているのだよ。子供はよく学び、よく遊ぶべきだと。その点デヴォンジャー嬢はよく遊んできたとは言い難いのではないかね?
もし私の言に少しでも共感出来たのなら黙って彼女に付き合ってやってくれないか。
...っと雄弁が過ぎたかな。」
確かに思うところがない訳でない。彼女は両親の考えた『成長プラン』によって遊びを制限されてきた。だからこそ彼女が自分の『成長プラン』として自分で選んだことはできるだけ尊重してやりたかった。
「...だが管理局の地下にはここに書かれているようなものなどないぞ。珍しいものなど精々がエネルギー炉くらいだろう。」
「だろうね。だが本当にそうかな?
私自身、時に嘘をつくこともあるが決して意味のないことを書いたりはしないさ。」
これ以上話すことはないとばかりに、クロウはソファから立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「待て、話は終わってないぞ。」
「いや、これで終わりさ。後はお前の選択次第さ。
...というのもこれ以上ここにいると余計なことまで喋りそうでね。どうにも詩人というものは考えたことをすぐに口にしてしまいそうでね。余計なことを言う前に退散させてもらうよ。
もっとも、答えはすでに決まっているようだがね。」
残された局長は伸ばしかけた手を所在なく漂わせながら、とりあえずレタに返事をしなければならないなと考えていた。
翌日の夜ーー
「昨日話したばかりなのにもうついてきてくれるなんて、局長さんも実は楽しみだった?」
ランタンを片手にスキップでもしそうな足取りで歩くレタが振り返りながらそう言う。人通りの少ない管理局の廊下は無機質な白色灯に照らされていた。
「そうかもしれないな。それに、あまり遅くなると一人で冒険に行ってしまいそうだろう?」
「それは...そうかも?」
しばし無言で廊下を歩く。コツコツと靴音が響く中、ふと局長は足を止めた。
目の前に明らかな異常が存在している。本来なら扉が存在しているはずの場所が黒く塗りつぶされたかのように黒一色となっている。廊下の白色灯の光を一才反射することなく佇むそれは空間が切り取られたようにも見えた。
「まあ、MBCCの地下にはこんな面白いものがあったのね。」
「いや、管理局にこんなものは存在しない。」
局長が警戒し身構えていると目の前の暗闇から声が聞こえてきた。
「こんばんは、諸君。」
中から現れたのはアイティだった。
しかし...
「小さくないか?」
思わず口からそう溢れる。無理もないだろう。その身長はおそらく17cmほどだろうか、背中からは半透明な羽が生えており二人の顔の高さに浮いている。
「うわぁすごい。貴方は妖精さんかしら?」
「私は案内人、あなたたちが道に迷わないよう導く存在よ。」
そう言いながら周囲を飛び回るアイティ。その羽からはキラキラとした鱗粉のようなものが舞っており、妖精と呼ぶに相応しい印象を受けた。
「これは貴方の仕業か?だとしたらすぐにもとに戻すんだ。」
「のんのん、私だけじゃないわ。それに駄目よ。案内人に許されているのは手助けまで。そしてあなたたち冒険者に出来るのは正しい道を手探りで探ることよ。
そして今回の主役はあなたよ、お嬢さん。」
アイティがフワリとレタの前に移動する。
「あなた、永遠に枯れぬ花畑を見たことは?
怪物の咆哮響く鋼鉄の迷路に迷い込んだことは?
真夜中の幽霊舞踏会に参加したことは?
怪奇に満ちた謎の城を冒険したことは?」
「それ、ニューシティ四大怪奇譚名所ね。局長さんと行ってみたけど、残念ながらどれも本物ではなかったわ。」
「ならばついて来なさい。私はこの世界の創世の竜ではないけれど、あなたを冒険の世界に連れ出すことはできるわ。
さあ、冒険の世界にしゅっぱーつ!」
言うが早いか、アイティは目の前の暗闇に飛び込んでしまう。
おー、とランタンを掲げたレタもそれについていってしまった。
局長は少しの間逡巡するも結局二人を追って暗闇に飛び込んだ。
続きます
ゲーム内ではデヴォンシャーとデヴォンジャーで表記揺れがあったのですがデヴォンジャーに統一します