ムルヤール村から少しばかり離れた森。少し入った所にこの周辺では最も立派な建物があった。アインズがアウラ達に作らせた、旅のメイジとしての偽装拠点だ。
その一階のフロア。まるでロッジ風ホテルのロビーのような広い部屋に、各村の村長達が集まっていた。代表としてムルヤール村の村長、ラームが一番前で床に腰を下ろしていた。
そんな彼らの視線の先には、少々凝った木製の椅子に座ったアインズがいた。もちろん例の嫉妬マクスをつけている。両脇にはルプスレギナとナーベラル。
やがて、異邦人のメイジは話を始めた。
「二人から聞きましたが、私に何か用件があるとか」
「は、はい!」
ラーム村長は、こわばった声を返す。
「大変、厚かましいお願いですが、その……ビャ、ビャールナン王を倒していただけないでしょうか!」
「これはまた……。いったいどういう経緯でそのような話が?」
アインズは理由をすでに知っているが、ここはあくまで世情に疎い旅人メイジを演ずる。
村長は吐き出すように、言葉を並べた。
「この所の戦続きで、村は限界なのです。この村だけではありません。国中の村々が悲鳴を上げてます。確かに勝ち戦が続いていますが、戦は人手も物資も持って言ってしまいます。それに例え勝っても、我々の階層の者には得るものなどありません!」
「ふむ……」
「今の調子で戦を繰り返せば、次の収穫まで持ちそうにありません。それどころか、作物を育てる人手すら足らないのです!そもそもビャールナン王はこれまでも……」
「そこまでで結構。だいたいお話は分かりました。それでビャールナン王を倒し、戦をやめさせると。しかし、王がいなくなったこの国はどうするのです?余計に混乱するだけでは?」
ラーム村長は歯を食いしばると、絞り出すように話し始めた。
「私たちは、アインズ様に多くの恩を受けました。そしてあなたが、旅人である事も十分わかっております。いずれこの国を離れる事も。それを踏まえてもなお、お願いしたいのです!」
「何をです?」
「私たちの……この国の王になっていただけないでしょうか!」
「……」
話を聞き、いかにも考え込むような態度を取るアインズ。そして視線を流し、村長達を伺った。一様に自分に縋るしかないような態度だ。営業職だった経験がささやく。強気でいけると。
しばらく黙り込んでいたナザリック地下大墳墓の支配者は、重々しく話し始めた。
「その対価として、私には何が手に入る?」
「そ、それは……その……」
「お前たちは、私に全てを捧げられるか?」
メイジの旅人の気配が変わった。村長達の誰もが、この瞬間にそう思った。彼らの背筋に、冷たいものが走る。
「それが誓えるのなら、お前たちに繁栄を約束しよう」
「……!」
村長達は目の前にいるのは旅のメイジなどではなく、冥界から来た魔神かのように感じ始めていた。理由は分からない。何故だかそう直感してしまう。
だからと言って、この場で選択肢などない。すると、ラームは勢いよく頭を下げた。
「はい!全てを捧げます!」
その言葉に他の村長達も続いた。頷くアインズ
「分かった。ならば、これからお前達は我が民だ。望みを叶えてやろう」
「「あ、ありがとうございます!」」
村長達の一斉の返答。
するとアインズは立ち上がった。
「さてと。では、さっそくビャールナンを倒してしまうか」
「え!?」
驚いた声を上げるラーム。
「こ、これからですか?」
「そうだが?」
「ですが、戦の準備を今からするとなると……」
「ああ、そういう意味か。お前達は何もする必要はない。我が配下の者達だけで十分だ」
「配下?」
ラームはルプスレギナとナーベラルの二人を見やる。アインズを含めたったの三人で戦を?との考えが一瞬過る。
だが、本能が伝えていた。目の前の存在は、そんな小さな存在ではないと。まさしく大軍勢を率いる魔神であると。
彼は一つ、息を呑むと再び頭を下げた。
「全てお言葉の通りに!」
「ああ。いや、我々を知ってもらうためにも、戦いの様子を見てもらった方がいいか」
「え!?」
「別に戦いに参加しろと言う意味ではない。そうだな、高みの見物だ。特等席を用意しよう」
「は、はぁ……」
意味はよくわからないが、安全なのは確からしい。ラームは素直に頷く。
それを聞いたアインズは両脇の、戦闘メイドに指示を出す。
「ルプスレギナ、ナーベラル。お前たちは戦地でこの者達を守れ。それにユリとソリュシャンも加える。二人に伝えておけ。その際、戦力が不十分と思うならPOPモンスターの使用を許可する」
「「かしこまりました。アインズ様」」
深々と礼をするメイジの弟子。
村で見た雰囲気とまるで違う。まさしく魔神に仕える従者だ。村長達は、目の前の存在の認識を改める。何者だかは分からない。だが超絶の存在なのは間違いないと。
そしてナザリック地下大墳墓、アインズ・ウール・ゴウン魔導国の初陣が始まった。
マガーハ藩王国の王都ダラムトゥール。プーリヤンカは神官としての早朝の儀式を済ませ、王宮最上階の廊下を自室へと向かっていた。
ふと何気なく外を見る。
「ん?何か……」
奇妙な違和感が浮かぶ。
王宮は城として高い塀で囲まれており、その周りには町が無秩序に広がっていた。さらに、その先には畑がどこまでも広がっている。その畑に誰の姿も見えないのだ。
確かに戦続きで、若者は疲れ切っており休んでいるかもしれないが、女子供や老人までもいないのはおかしい。畑の世話は常にしないといけないのだから。
足を止め視線を凝らす。すると並ぶ畑のはるか先。地平線に何やら蠢くものが見えた。しかし遠すぎて、よく分からない。
「衛兵!」
「は、はい!プーリヤンカ様、いかがされました?」
「望遠鏡を」
「え?は、はい」
首を傾げながら衛兵は下がると、すぐに望遠鏡を持ってきた。そして彼女に渡す。
望遠鏡を覗き込む。そして地平線の先に見えたものは、信じがたいものだった。死体の群れが、真っ直ぐ王都へと向かってきていたのだ。それも軍勢と言っていいほどの数が。
「な……!?何?あれは!?」
「どうされました?」
「た、直ちに、ビャールナン王を起こしなさい!」
「えっ!?」
「急ぎなさい!」
「は、はい!」
慌てて走り出す衛兵。ビャールナン王は眠たくなったら寝て、目が覚めたら起きるという生活を送っていた。規則正しい生活とは、最も縁遠い。今はまだ寝ていた。
プーリヤンカはさらに指示を出す。地平の先に見えた死体達を、偵察してくるようにと。
その後、すぐさま司祭である父の元へ向かう。体中に走る冷たいものを抑え込みながら。
謁見の間は不機嫌そうなビャールナン王があくびをしながら、尋ねてきた。
「何事ですかな?プーリヤンカ様」
「まずは、露台にて望遠鏡で、あちらの方角を御覧ください。父上も」
首を撚る王と、戸惑いながら髭をいじるシャーマール司祭。そして衛兵から渡された望遠鏡で、露台、バルコニーに出ていく。そしてプーリヤンカが指さした方角を見た。すぐに顔色が変わる二人。
「な!?なんなのだ、あれは!?」
「し、死体?死体が歩いてる!?」
この世界にはアンデッドというモンスターは存在しない。偽りの生、負のエネルギーという概念もない。なので今、見えている光景が彼らには理解不能だった。
すぐさま脇を見るビャールナン王。死体の群れを指さしながら。
「シャーマール様!あ、あれは何なのですか!?」
「そ、それはその……。わ、分かりません……」
「分からない!?司祭ともあろう方が、死者について分からないと申されるか!」
「そ、その……あの……」
しどろもどろになるシャーマール。神秘については、このロバ・アル・カリイエでは神官階層の領域だ。その最高位である司祭が、動く死者について分からないなどと言うのだから。ビャールナンが怒るのも無理はない。
「お気持ちを確かに!」
叱りつけるようなプーリヤンカの声が響いた。冷水を浴びたような顔を、彼女に向ける二人。
「あれがなんなのかは、分かりません。しかし、王都に向かっているのは確かです。偵察隊の報告からは、数は5000を超えるとの事です。さらに背後に、本陣らしきものが見えるとの報告もありました」
「ほ、本陣!?あれは軍勢だと言うのですか!?」
ビャールナン王のギョロッとした目がさらに見開く。対する神官の女性は、冷静なまま。
「何にしても王都を目指してるのは確かです。王よ。対応を」
「た、対応と言われましても……。そ、そうだ!モモン!」
近くにいた衛兵へ向かって、王は唾を飛ばし命令する。
「モモンとシズカを呼び出せ!すぐにだ!」
「は、はい!」
慌てて衛兵は走り出した。するとシャーマール司祭は胸をなでおろし、気の抜けたような声を出す。
「ふぅ……。さ、さすがはビャールナン王。見事な判断ですな」
「ハハハ!この程度、王として当然です。あの漆黒の武神と魔弾の射手ならば、死体の群れなどすぐに地に帰してくれましょう」
さっきまで慌てふためいていた太った王は、すっかり余裕を取り戻していた。
「だが全てモモン任せという訳にもいかん。ただちに全軍を出撃させよ。旗艦をいつでも出せるようにしておけ」
「はっ!」
伝令の兵が方々へと、走り出した。
そんな中、プーリヤンカはマジックアイテムと望遠鏡を手に露台に出る。マジックアイテムには風石を入れた。そして魔法を発動させる。遠見の魔法だ。その状態で望遠鏡を覗いた。これでかなり遠方を見ることができる。
彼女が見たかったのは、死体の群れの本陣とやら。そして目に映ったのは、見覚えのある姿だった。
「な……!?あれは……!」
「ど、どうしたのだ?プーリヤンカ?」
娘の様子に、再び不安に襲われるシャーマール司祭。振り返ったプーリヤンカは、一つ深呼吸をすると口を開いた。
「あの死者の軍勢を率いているのは、アインズ・ウール・ゴウン殿です」
「な、何ぃ!?」
司祭の脇にいたビャールナン王は、声を荒げる。
さらに続ける司祭の娘。
「以前と違い、ドクロのようなマスクをつけてます。さらに側には見慣れぬ化物や、黒い肌のエルフが見えました」
「エ、エルフ!?そうか……そういう事だったのか!ヤツはエルフの手先だったのだ!エルフを倒したなどと言いよって。すっかり騙されたわ!」
脂ぎった肌からさらに汗を吹き出す太った王。怒りで熱を作り出しているかのようだ。
隣にいる長髭の司祭は、またも冷静さを失っていた。
「で、では、あの死体の群れは……エルフの魔法?」
「でしょうな。死体のように見せたゴーレムかもしれませんぞ。小賢しい真似を!」
ビャールナン王は踵を返し、望遠鏡を衛兵に放り投げる。そして命じた。
「すぐさまあの者共を叩き潰せ!わしも旗艦で出る!」
藩王国国王は、全ての企みを看破したとばかりに大股で、空中戦艦が繋がれている桟橋の方へと向かった。衛兵たちもそれに続く。
残されたシャーマールとプーリヤンカ。
「ああ……。王都が攻められるなど……。なんでこんな事に……」
うろたえる父に、娘は何も答えない。
つくづく情けない。何故こんな人物が司祭になれたのか。それも階層制度という、この地域特有の文化のためだ。
プーリヤンカは再び露台に出る。
アインズとは一度しか会ってないが、エルフの手先という程度の存在には思えなかった。むしろそれを超えるような、もっと大きい力のようなものを感じた。うまく表現できないが。そしてあの死体の軍勢は、本当に見せかけなのか。
今、肌を刺す感覚がある。それが違うと言っているように思えてしかたがなかった。
マガーハ藩王国の王宮がアインズ・ウール・ゴウン魔導国に気づく少し前。王宮をかろうじて見ることのできる距離、わずかに高い丘に豪奢な天幕があった。魔導国軍の本陣である。
そこへ丘の麓から近づいていくアインズ。その後ろからはアルベドとフル装備のシャルティアが続いていた。
脇に並ぶのは初陣となる魔導国軍だ。半分はPOPモンスターで構成されていた。残りは創造したアンデッドだ。ほとんどは最低レベルのゾンビ。そして一部にエルダーリッチとデス・ナイトがいた。
全軍、丘に隠れ、王宮から見えないように配置されている。
そして本陣から少し離れた後方。テーブルと椅子が並べられていた。これから軽食でも楽しむかのように。
しかしそこに座っている者達は、一様に身を固くして震えていた。顔も青い。ここにいるのは、アインズに忠誠を誓った村長達だ。
周りをプレアデス達、ユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラルが警護し、そしてナザリックのメイド達が村長たちへの軽食と飲み物を配っていた。
シズだけは、丘から少し降った場所で別命のため控えていた。エントマはナザリックに連絡係として待機中。
アインズはラーム村長の所で足を止める。
「そう、緊張しないでいい。お前たちの安全は私が保証する」
「あ、ありがとうございま……!?」
言いかけた言葉が切れた。その時、アインズが嫉妬マスクと手に嵌めたガントレットを外したのだ。骸骨の姿が露わになる。しかもただの骸骨ではない、頭部は恐ろしげな造形になっており、眼窩には血のような赤い光が灯っている。
息のできないラーム。いやここにいる全ての村長が、硬直していた。魔導王は、柔らかそう声色で話かける。
「そういう反応をするのは理解できる。見ての通り、私は人間ではないからな。配下のものもだ。しかし、私は約束を違えない。まあ、その内慣れるだろう」
「あ……は……」
「フッ……。何か用があったら彼女たち言うがいい。ユリ、彼らを持て成してやれ」
ユリは深々と頭を下げた。
「皆様。ご要望がございましたら、是非、私共にお申し付けください」
「は、はぁ……」
人間に見えるユリに言われ、多少、緊張をほぐす村長達。
その様子を見届けるとナザリックの絶対支配者は足を進めた。
本陣ではコキュートスとマーレがすでに控えていた。彼らは今回の副官だ。
中央にあるこれまた作りのいい椅子に、身を収めるナザリックの支配者。
「それでは始めるか。コキュートス」
「ハイ。第一陣、進軍開始!」
合図と共にゾンビ達が前進していく。その数5000。何事もなく進むゾンビの群れ。
ちなみに周辺の村人だが、村長達からの通達で深夜の内に避難していた。畑に誰もいないのはそのせいだった。
ほどなくして王宮に慌ただしさが伺えた。それからしばらくすると、兵たちが王都から出てくる。
「来たか。さて、調子に乗ってくれればいいが」
やがて戦端が開かれる。やはり動く死体という存在に恐れを抱いたのか、ゾンビを直接攻撃する兵はいない。魔法や銃弾、大砲での攻撃ばかりが繰り返される。
バタバタと簡単に滅びるゾンビ。
すると次第に兵たちが前進し始めた。今度は直接攻撃をしだす。ゾンビ達はやはりあっさりと倒れる。それを見ていた後方の兵たちも、前衛へ出て直接攻撃をしだした。
最弱のゾンビを第一陣にしたのは、死者の軍勢などという、この世界に存在に臆して城に立てこもらないようにするためだった。
アインズは笑みをこぼす。
「やる気になってくれたようだな。次の段階に移る」
「ハッ。第二陣ノ出撃ヲ、要請セヨ」
コキュートスは頷くと、配下の雪女の様なモンスター、フロストヴァージンに命じた。一人が天幕の後ろへと下がっていく。
ゾンビの数が残りわずかになり始める頃。
デス・ナイトとエルダーリッチが、フロストヴァージンに率いられ本陣のすぐ前に出てきた。ただしそれらは左右二隊に別れ、それぞれデス・ナイトが10体、エルダーリッチが3体ずついた。二隊のアンデッド達は色違いの布を首に撒いている。
遂にゾンビが全滅した。マガーハ藩王国軍はほとんど損耗してない。かなり士気が高くなった様子が伺える。
アインズは楽しそうに命を下した。
「フッ……。第二陣を出撃させよ」
「ハッ!出撃!」
デス・ナイトとエルダーリッチで構成された二部隊が、藩王国軍へ向かっていった。
アルベドがつぶやくように言う。
「どのような結果になるのでしょうか?」
「私はデザートエルフの方が、魔法適性があると考えてる。もし両方ともデザートエルフが上となると、素材集めに困るな。理想は、同程度のスペックである事だな」
彼らがやろうとしている事はアンデットの実験だ。二隊に分かれたアンデットは、それぞれ元となった素材が違っていた。人間を素材としたものと、エルフを素材としたものだ。どちらが戦士職向きか魔法職向きかを調べるためだった。
この戦争で勝つのは分かり切っていた。それだけでは面白くないので、実験を思いつたという訳だ。
それぞれの部隊のエルダーリッチが第三位階魔法『ライトニング』を放つ。雷撃の魔法だが、この世界のものと違い貫通魔法という特性を持っていた。
魔法に体を一瞬で貫かれ、バタバタと倒れる藩王国兵。何が起こったのか理解できないのか、少々パニックになっていた。
一方のアインズ達。
「ふむ……。やはりデザートエルフを素材にしたエルダーリッチの方が、倒した数が多いな」
「予想通りと言った所ですね」
「さて、デス・ナイトの方はどうなるか」
エルダーリッチは魔法を撃つのをやめ、その場に足を止めた。脇をデス・ナイト達が駆け抜ける。
向かってくる黒い巨体のアンデッドに、魔法や銃、大砲が次々と放たれる。元々デス・ナイトは、防御傾向の強いアンデッドだ。しかもダメージを受けても動きが鈍らない。攻撃に構わず突き進み、敵の前衛に突っ込んだ。次々と敵兵を葬っていく。
だがアインズは感じていた。自らと繋がっているデス・ナイトの変化に。
「ん……?これは……」
その時、金属がぶつかったような甲高い音が響いた。デス・ナイトの一体が大きく後ろに押し戻されていた。
アルベドが眉間を歪め、デス・ナイトを攻撃した主を探した。それはマガーハ藩王国の空中戦艦だった。デス・ナイトと乱戦中の味方に構わず、大砲を打ち込んでくる。
押されたのを堪えたデス・ナイト、再び進もうとする。すると何発も砲弾が打ち込まれ、最後は吹き飛ばれた。しかし起き上がるデス・ナイト。ところが敵陣に踏み込もうとした瞬間、滅びてしまった。
「人間共が、デス・ナイトを滅ぼすとは……」
アルベドが意外そう声を漏らす。一方のアインズの方は黙り込んでいた。
(ああ……大砲か。そりゃそうだよな、戦艦に積んでる大砲デカかったし。ユグドラシルには大砲なかったもんな。モモンの時も、敵戦艦に飛び乗って乱戦してたから、大砲の威力ってあんま気にしてなかった。それと止めは、多分ライフル銃だろうな。少しずつ、ダメージ入ってたし。それにしても火器か……。まいった……頭になかった)
この世界の魔法は、運用面では感心するものもあったが威力自体は大したことがない。人間そのものの力はさらに弱い。だからアインズは、デス・ナイトを倒すのは難しいだろうと考えていた。故に見落としていた。火器の存在を。
ユグドラシルにも火器はあった。しかし各種魔法や技を楽しむこのゲームでは、純粋な火器の威力は限られていた。
しかしこの世界にそんな制限はない。地上の大砲は人力で動かす都合上、重さに限界があり威力もそれに影響された。だが艦に積んでいるものは違う。
不機嫌そうな表情のアルベドの横で、アインズはどう見落としをごまかすか考えていた。そしてつぶやく。
「威力はあの程度か……」
「アインズ様は、大砲の威力の確認も考えておられたのですか?」
「う、うむ……。大砲はロバ・アル・カリイエ最強の武器だ。もちろん、我々にとっては大した脅威ではない。それは、モモンで戦に参加した時に分かってはいた。ただ、その……細かな威力がしりたくてな」
「そこまでお考えだったとは……。取るに足らない物に対しても、常に注意を払っておられるのですね」
「ま、まあな……。」
守護者統括は、頬を染め、崇拝するかのような表情を向けてくる。
とりあえず自分の見落としをごまかしたものの、まだまだアインズの焦りは収まらない。
何故なら、プランAしか用意していなかったからだ。それはPOPモンスターと創造したアンデッドだけで勝つという作戦。だが空中戦艦の火力が侮れないとなると、話は違ってくる。
もちろんアインズを含めた、守護者達が戦争に参加すればあっさり方は付く。だが魔導王として余裕で勝つという態度をNPCや村長達に見せていたので、ここで慌てて自分達も参戦するなんていうのは、メンツ丸つぶれだ。だいたいカッコ悪い。
とは言うものの、プランBはない。ない脳をフル回転させる。
すると至高の御方に、ひらめきが舞い降りた。
「シャルティア!」
「はい!」
元気な声が返ってくる。真紅の鎧を着込み、スポイトランスを手にしたフル装備の吸血鬼が、アインズの前にひざまいた。
「シャルティアよ。お前の名誉を挽回せよ。ハルケギニアでの失態を、帳消しにするのだ。あの鬱陶しい艦を落としてこい」
「はい!」
「ただし忘れるな。私が保護を指示した者には、傷一つつけてはならん」
「了解いたしました!」
すぐさまシャルティアは飛び立った。空中に浮かぶ戦艦へまっすぐに。
アインズは胸をなでおろしていた。実はシャルティアを連れてくる気はなかった。今回は、守護者レベルの強者は出すつもりはなかったので、シャルティアがいても意味がないのだ。
しかし、ナザリックの初陣だからと、あまりに同行を希望するので仕方なく了承したのだった。それが功を奏する。
(よし!これでシャルティアの罰の件も解決だし、厄介な空中戦艦も自然な流れで始末できる。ひょうたんから駒だな。あの時の俺、グッジョブ!)
過去の自分を褒めるアインズ。
空中戦艦で騒ぎが起こっているのが、遠目でも分かるようになった。シャルティアが中で暴れているだろう。砲撃も止まった。
魔導王はゆっくりと立ち上がった。
「戦もここまでだな。コキュートスを司令官とし、マーレを副官とする。本隊を使い、敵を全て始末せよ。私は野暮用を済ましてくる。アルベド、先にナザリックに帰還し、戦後の処理を進めておいてくれ」
「かしこまりました」
アルベドは礼でアインズを見送った。
アインズは村長達がいる場に近づくと、声をかけた。
「ルプスレギナ、ナーベラル。お待ちかねの借りを返しに行くぞ。ついてこい」
「「はい!」」
丘を下る主についていく戦闘メイド。
ナザリックの支配者は、丘の下で控えていたシズにも声をかけた。
「シズ。お前には、例の人物達の保護を任せる。集合場所は分かってるな」
「はい」
アインズと戦闘メイド達はゲートで、王都のモモンが泊まっているとされる宿の部屋へと転移した。
これから彼らが迎える客は、一方は仇を、一方は恩を返される事となる。
ユグドラシルの火器の設定は、自己解釈です。
ユグドラシルに一応火器はあるようなのですが、あまり詳しく書かれてません。
ただアサルトライフルを使うシズも、グレネードとか無反動砲とかは使ってませんし。
火器を積んでそうなパワードスーツも、最強クラスの攻撃は火器ではなく魔法ですし。
やっぱ火力の大きい火器はないんじゃないかと。