悲鳴の上がる艦上、飛び散る人の破片。甲板では地獄絵図が広がっていた。この光景を作り出したのは、赤い鎧に身を包んだ。白い羽根の天使、ロバ・アル・カリイエで言う神鳥らしき存在だった。
空中戦艦では誰もが最前線に集中し、黒い鎧の死の騎士を大砲で狙っていた。人間ならば大砲など喰らえば、木っ端微塵だ。それが、あの黒い鎧は数発食らっても動きが止まらない。異常な化物だ。
しかし数体倒せたのも確か。全く通用しないという訳でもない。だからこそ、余計に全乗員が最前線に意識を向けていた。
そんな時にいきなり、フルアーマーの神鳥のような存在が降り立ったのだ。
唖然とする甲板の兵たち。だが声をかける間もなく、奇妙な槍を振り回し始めた。
次々とミンチと化していく兵。最初こそ、向かっていく者もいたが、今では背を向ける者ばかり。もっとも逃げられるかは、別の話だが。
艦長室の扉を叩き壊すかのようなノックが響く。
「王よ!ビャールナン王!」
「さっさと入れ!この騒ぎは何事だ!」
入室許可と同時に、いらだちをぶつけるビャールナン王。
報告に来た兵は、青い顔のまま口を開いた。
「し、神鳥が赤い神鳥が暴れております!」
「貴様!何を言ってる!?意味が分からん!」
「そ、その……見たままを報告しています!と、とにかく、たった一人の神鳥に上部甲板の兵は全滅しました!」
「な……!」
言葉のない藩王国国王。次に思いついたのは、絶対的な信頼を置いているあの傭兵たち。
「そ、そうだ!モモンとシズカは!?」
「き、聞いておりません!それに来たとしても、地上で戦ってるものかと……」
「ここに呼んでこい!」
「え!?ど、どのように?」
「そんな事も分からんのか!自分で考えよ!」
兵は唖然とするしかない。言っている事がメチャクチャだ。だが王命だ。聞かないわけにもいかない。しようがなく、踵を返すと部屋から出ていこうとした。そして一歩廊下に踏み出す。
「っ!?」
次の瞬間、わずかな呼吸音を発して、兵は破片となってしまった。
「なっ……!?」
開いた扉の先に見えた光景に、口を開けたまま身を固めるビャールナン王。
すると硬い足音と共に扉の外から姿を見せたものがあった。赤い鎧に白い羽根。奇妙な槍を持った存在が。兵の言っていた神鳥が。その存在はビャールナン王に気づくと、部屋の中へとゆっくり入ってきた。
王は血の気が引くという感覚を初めて味わう。そしてすぐさま床に身を投げ、土下座の姿を晒した。
「し、神鳥様!供物を今後二倍、いえ、十倍にいたします!ですので、私めに、お、お慈悲を!お慈悲を是非に!」
「は?」
マガーハ藩王国兵に神鳥と呼ばれていた存在、シャルティアは、身を縮こまらせている人間の言っている意味がまるで分からない。
もっとも理解する必要もないので、とっと始末しようかとスポイトランスを向けた。すると、彼の背後から黒い小さな影が現れた。シャドウ・デーモンだ。同時にアインズの言葉を思い出す。
「お前。顔を上げなんし」
「は、はいぃぃぃぃ!」
見えたその顔は、醜いとしかいいようがなかった。泣いていたのかギョロッとした目から涙が流れ、口元は唾で濡れている。脂ぎった肌も、冷や汗のせいか余計にベタついた感じを醸し出していた。さすがの吸血鬼も、こいつの血だけは飲みたくないと思ってしまう。
だが同時に、これだけ特徴的な姿だからこそすぐに気づいた。アインズの言っていた保護対象の一人だと。シャドウ・デーモンが付いているのだから、なおさらだ。
シャルティアは淡々と口を開く。
「お前の命は奪いんせん」
「え!?お、お許しを!?」
「それより、とっとと逃げなんし。この艦はもうすぐ沈むによって」
「は、はいぃぃ!このお慈悲、ビャールナン・カンマ・ヌシュラジ。決して忘れませんぞ!」
「早く行きなんし」
ビャールナンは急いで立ち上がると、シャルティアの脇を抜け駆け足でロック鳥が待機している格納庫へと向かった。シャドウ・デーモンは彼の陰に潜み、付いていく。
醜い男が出ていった扉を、つまらなそうに見るシャルティア。
「さてと、この艦に止めを刺してしまいんしょ」
踵をかえすと、歩き始める。この戦艦を飛ばしている、風石のある機関室へと。
この空中戦艦が郊外の平原に落ちるのは、その数分後だった。
漆黒の武神モモンと魔弾の射手シズカが泊まっているとされる高級宿屋。今は誰もが逃げ出しており、人気がない。その一室。モモン達がいるはずの部屋にゲートが開く。中から四人の姿が現れた。アインズとルプスレギナ、ナーベラル、シズである。
アインズが最初に口を開いた。
「シャドウ・デーモン」
するとベッドの下から陰が伸び、そして小人のような姿を形つくった。ただし羽が生えている。それが小声でアインズに話しかけてきた。頷くナザリックの支配者。そしてシズの方を向く。
「シズ。シャドウ・デーモンの案内に従い、例の行商人の元に向え。集合場所は変更なしだ」
「はい」
シズは頷くと、足元の陰となったシャドウ・デーモンの指示の下、部屋を出ていった。
彼女が向かう先にいるのは保護対象。ハルケギニアとエルフの国を調査する時に、手を借りた密売人達。戦争の混乱から彼らを守るためだ。受けた恩は返すというのが、アインズの信念の一つだった。
シズを見送った後、嫉妬マスクとガントレットを装備するアインズ。その間に別のシャドウ・デーモンから話を聞いていた。
「次は、メインディッシュだな。ルプスレギナ、ナーベラル行くぞ」
ゲートを開き、目的地に向かう。ビャールナンのいる場所に。
ビャールナンはロック鳥ですでに地上に降りていた。その行き先は王宮。逃げる準備をするためだ。溜め込んだ財宝と共に。この期に及んでも、状況の判断がまるでできない王だった。
宝物庫から彼自身が持ってきた宝物を、たった一人残った護衛の衛兵に渡す。馬車を指差し喚き散らした。
「積めるだけ積み込め!」
「し、しかし……一刻も早く逃げるべき……」
「いいから言う通りにしろ!」
そう言い残し、また宝物庫へと戻って行った。山程ある宝の全てを持ち出すことは、もちろんできない。選別するしかないが、それができるのは自分しかいない。
おかげで王である 自分が、荷物を運ぶために走り回る羽目になっている。憤慨ものだが、やむを得ない。頭に湧き上がるのは怒りばかり。
「全くモモンとシズカはどこへ行ったというのだ!王たるわしが、こんな苦労をしとるというのに!」
モモンとシズカは単なる傭兵で、彼の配下ではない。だからこんな事を言われる筋合いはないのだが、気づきもしないビャールナン王。
「アインズとかいうエルフの手先のクソめが!」
愚痴を吐きながら、厩舎へと入っていく。
「次の宝……え!?」
護衛の衛兵が倒れていた。すでに事切れているように見える。そしてその側に立っていたのは、奇妙なマスクを被り、これまた奇妙な姿のメイジ。アインズ・ウール・ゴウンだった。
「ひぃっ!」
慌てて、踵を返し逃げ出そうとするが、顔を何かに打ち付けた。そして尻餅をついて倒れるビャールナン王。
「痛っ!?」
鼻を押さえながら目を開くと、美しい女性が二人いた。赤毛三つ編みの女性が奇妙な形の斧を、盾かのように構えている。どうもあれにぶつかったらしい。
彼は状況を理解し始めると、その二人の事を思い出した。指さしながら叫ぶ。
「お、お前たちは……アインズの奴隷達!」
「この……!ウジ虫が!死ね!」
ただでさえ不機嫌そうだったナーベラルが、殺気を伴って魔法を放とうとし始めた。慌てて止めるルプスレギナ。
「まあ、まあ、まあ、ナーちゃ……、ナーベラル。抑えて、抑えて。殺しちゃ駄目ですって。最初に手をつけるのは、アインズ様って決まってるんですから」
「クッ……!」
歯ぎしりを伴って、魔法をやめるナーベラル。
するとアインズが悠然と話し始めた。
「ビャールナン……だったか。お前というヤツは……どこまでも愚かなだ。こんな下らぬ者に、手を下すのは不本意だが。借りは借りだ」
「き、貴様……。王たるわしに向かって……!」
ビャールナンの苛立ちを全く無視して、話を進めるアインズ。
「私の配下の者に、よくも無礼な態度を取ってくれたな。この借り、安く付くとは思うなよ」
「お、お前なぞ、モモンさえ居ればすぐさま餓鬼道行きだ!」
「モモン?モモンなら、ここいるぞ」
「ど、ど、どこに!?」
逃げ道を探すかのように、あたりを見回すデブ王。しかしモモンの姿はない。いや、いた。目の前に。旅のメイジがさっきまで立っていたその場所に。フルプレートを着込んだ漆黒の武神が。
「モ、モモン!?」
思わずつぶやくが、ビャールナンには状況が理解できない。ついさっきまで姿がなかった人物が、いきなり目の前にいるのだから。
「フッ……」
モモンが鼻で笑う。そして一瞬で姿変わった。アインズ・ウール・ゴウンに。
「な……何が……!?」
「モモンはこの国を調査するために、私が使っていたカバーに過ぎない。モモンなど、初めからいなかったのだよ」
「な……!?ま……!?」
酸欠した魚のように、口をパクパクするしかないビャールナン王。頭は思考を止めていた。
やがてアインズ、嫉妬マスクに手をかけた。マスクが消え、手にはめたガントレットも消える。現れたのは白骨の手に厳めしい頭蓋。そして目に灯る血のような赤い光。ナザリック地下大墳墓の絶対支配者はその正体を表す。
太った王は腰を抜かし、漏れるような悲鳴を上げるのが精一杯だった。
「……ッァ!?」
体中の脂肪を吐き出すかのように、冷や汗が流れ出す。一方の体は固められたように、微動だにしない。
凶暴さを具現化したような存在が目の前にいる。見たことも聞いたことない化物が。太ったこの体に満ちるのは絶望だけ。
アインズは満足そうにビャールナンを見下ろすと、言葉を綴る。
「さてと、なかなかいい反応してくれた所で、罰といこうか。お前を、恐怖公の元へ案内しよう。グレーター・テレポーテーション」
「きょ……きょ……」
言い終わる前に、ビャールナンは姿を消していた。ナザリックへ、その中でも五大悪と称される存在の一人の領域へと、転移させられたのだった。
アインズは二人の戦闘メイドに向き直る。
「恐怖公には、最後は無傷の状態に戻すよう指示してある。精神も崩壊しない程度にともな。その後は、あいつをお前たちの自由にしていい」
「「ありがとうございます。アインズ様!」」
深い礼を持って言葉を返す、ルプスレギナとナーベラル。どこか嬉しそうだ。特にルプスレギナは。
「さて、用件はあと一つか」
アインズはポツリとつぶやいた。
プーリヤンカは相変わらず謁見の間の露台、バルコニーにいた。眼下には死者の軍勢が城門に殺到し、門を破ろうとしている。だが苦戦しているようだ。
門や城壁は一見土壁のように見えるが、マジックアイテムにより何十にも硬質化の魔法、系統魔法で言う固定化の魔法がかけられており、表面からある程度は青銅のように固い。言わば、50mm以上の金属の壁でこの王宮は守られているようなものだ。
門は特に固く、表面の硬さは鉄に匹敵する。厚みもある。陸軍を圧倒した死者の軍勢と言えども、そう簡単には破れない。しかしその内、壁を超えればいいだけと気づくだろう。先程、空中戦艦を落とした存在は、実際空を飛んでいたのだから。
ここに来るのも時間の問題だ。彼女の父はというと、死者の軍勢が近づいただけで娘を置いて逃げ出してしまった。もっとも、どこへ逃げるというのか。
この藩王国の司祭である彼では、隣国に逃げるわけにも行かず、民達からも目の敵にされてるはず。逃げる当てなどないだろうに。最後まで愚かな父親だった。
半ば死を覚悟したプーリヤンカに、不意に声がかかる。
「プーリヤンカ様。まだ、こんな所にいたのですか」
思わず振り返るプーリヤンカ。目に入ったのは、この地では珍しいフルプレートの兵士、漆黒の武神モモンだった。一瞬、夢でも見ているのかという気になってしまう。
モモンは違和感を懐きながらも声をかける。
「もう城門に、敵が張り付いてる。すぐにでも逃げた方がいい」
「あ……。いえ、逃げません」
姿勢を正し、冷静に答える彼女。
対するモモン、アインズは少々、面食らっていた。何故この状況で逃げないのか分からない。彼は最終的勝利のために、一時の敗北は受け入れるというスタンスだ。全く、勝ち目のない状況で逃げないという発想は理解しがたかった。
「理由を聞いても?」
「私は神官階層でありながら、愚かな王を正すことができませんでした。しかも、この国の支配者層です。他の藩王国に、逃れる事はできません。それに……」
「それに?」
「旅人のメイジであるアインズ・ウール・ゴウン殿が、何故この地の王を倒そうなどと考えたのか。そんな人物がいかなる方か、見てみたくなったのです。そして王のいなくなったこの地に、どんな国を作るのかも」
「……」
アインズは黙り込んでしまう。最後の言葉に、少々衝撃を受けていた。
どんな国を作るのか、という言葉に。
世界征服という言葉は大層なものだが、要は大きな国を作るという話にすぎない。では、その国とはどんなものなのか。彼の頭には、そんなものは全くなかった。一方で、これをNPCの誰かに任せていいというものでもないというのも、今、悟ってしまった。
しばらく黙り込むモモン。プーリヤンカは声をかける。
「ですから、私はアインズ・ウール・ゴウン殿がここに来るまでいます。モモン殿も早く、この城を出たほうがいいですよ。そもそもあなたは、この国の臣下でもないのですから」
「……。私は恩には恩を返すべきと考えてるのですよ。ですから、あなたに受けた恩は返さねばなりません」
「ですが……」
「そのアインズ・ウール・ゴウンとやらを見極めるのは、何も今でなくてもよいのでは?」
「……」
次に黙り込んだのはプーリヤンカの方だった。確かのその通りではある。しかし逃げる当てなどない。
迷っているように見える彼女に、モモンは案を出した。
「実は、あなたに紹介された行商人ですが、彼らも逃がそうと思ってます。今はシズカが護衛してます。彼らと共にサハラに逃げては?」
「東ではなく西に?」
「ええ。東の藩王諸国に、逃げる場所はないでしょうから。そうなると、西に行くしかありません」
「しかし……エルフの領域ですよ?」
「意外に思われるかもしれませんが、人間嫌いなエルフばかりでもないのですよ。人間とエルフがともに暮らしてる町もあります」
「そうですか……」
腕を組み、少しばかり考える神官。そして意を決する。
「分かりました。あなたに従います。それでは準備がありますので、この格好で旅は無理でしょうから」
神官の証ある黒を基調とした服装見ながら、そう言う彼女。それにモモンはただ頷いた。
そしてプーリヤンカは自室へと走り出す。
見送った後、大きな爆発音がした。外を見るモモンことアインズ。城門が破られたらしい。それに王宮内でも何やら破壊音がする。しかし配下のアンデッドは城内に入ったばかりだ。王宮内の破壊音は別物だろう。例えば、火事場泥棒のような。
一方のプーリヤンカ。急いで自室に向かっていた。落城の憂き目にあっているというのに、何故か気分が高ぶっているのを感じている。モモンと共に、この嫌な思い出しかない地から離れるからだろうかなどと思ってしまう。
そして、自室の扉を開け、飛び込んだ。
すると目の前に鏡があった。あたかも水銀で出来たような、まっ平らな楕円状のものが宙に浮いていた。
「えっ!?」
勢い余って彼女は、その鏡へとぶつかる。いや、吸い込まれた。そしてプーリヤンカ・ラバリア・イエイマーは、ロバ・アル・カリイエから姿を消した。全く痕跡も残さず。
モモンは相変わらず謁見の間で待っていた。神官の女性を。しかし、いつまで経っても来ない。少し心配になり、彼女の自室へと向かう。シャドウ・デーモンから、彼女の自室は聞いていたので行き先は分かっていた。
そして部屋が見える廊下にたどり着くと、何故か扉が開けっ放しになっているのに気づく。
「ん?」
女性の部屋を覗くという行為に一瞬躊躇する、至高の御方。
「えー、失礼します。プーリヤンカ様」
開いた入り口から見えた部屋には、人影はなかった。旅の準備をした跡も、荒らされた跡すらない。
「これは……。ここに、来なかったのか?じゃあ、どこに?」
旅の準備をすると言って、ここ以外に向かうなど考えられない。だが自分が知らないだけと思い、しばらく待ったがやはり来なかった。
「しまった……。シャドウ・デーモンを最後まで付けとけばよかった」
彼女と接触した時点で、彼女に張り付いていたシャドウ・デーモンの任務を解いてしまっていた。なので、彼女の現在位置は不明なままだ。
周囲からは、相変わらず戦闘音と破壊音、混乱と悲鳴が聞こえている。ここまで来る途中でみた様子からすると、どさくさまぎれの略奪もあったようだ。ふと、アインズには思いつくもがある。
「もしかしたら……。攫われた?」
自暴自棄になった兵達が、連れ去った。可能性はなくはない。彼女は他の藩王国に寝返るにはいい土産になるかもしれないし、それに単純に奴隷としてもいい値になるような見た目をしていた。
アインズに後悔が過る。武装を解除し、パーフェクトウォリアーの魔法も解除。本来のマジックキャスターの姿に戻った。
「シャドウ・デーモン。プーリヤンカの居場所を探せ」
プーリヤンカに付いていたシャドウ・デーモンを呼び出すと、ただちに捜索を命令した。しかし結果は、見つけられなかったというもの。
後のことになるが、戦争が完全に終わっても彼女の行方は知れなかった。彼女を攫った人間がシャドウ・デーモンの追跡を逃れたというのは考えづらいが、死体すら見つからなかったのだから、逃げたと考えるしかない。
アインズは、この地で一番の恩を受けた相手に恩を返せなかった事を、再び後悔するのだった。
数時間前までビャールナン王が座っていた玉座は、無惨な残骸と化し、外へと捨てられていた。
玉座のあった場所には、アインズが魔法で作り出した黒い椅子が鎮座していた。それに身を沈めるアインズ・ウール・ゴウン魔導王。そして彼の前には、守護者達がひざまずいていた。代表してアルベドが口を開く。
「ナザリック地下大墳墓を代表し、守護者統括アルベドが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下に祝辞を申し上げたいと思います。アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下、万歳!」
アルベドに合わせ、後列に並ぶ階層守護者達もアインズへの万歳を重ねていった。
地上への第一歩を記したアインズは、鷹揚に返す。
「祝福を感謝する。だが、仲間の子とも言えるお前たちだ。魔導王陛下などという、畏まった言葉遣いはしなくてもよい。今まで通りアインズと呼んでくれ」
絶対の支配者からかけられた言葉に、感じ入る面々。歓喜の空気に包まれる、謁見の間。
やがて、少し落ち着きを取り戻す。するとデミウルゴスが口を開いた。
「アインズ様。このような喜ばしい場に大変恐縮なのですが、急ぎ論議すべき議題があります」
「なんだ?」
「マガーハ藩王国が滅び、新たな国が立ったとなると、周辺の藩王国が動き出すのは必定です」
「だろうな。これまで散々喧嘩を売ってきたからな」
「早急に、対策が必要かと」
「分かった。お前たちには忍びないが、魔導国が立ったばかりだというのにすぐに働いてもらわねばならん。アルベド、デミウルゴス。対策の草案はお前たちに任せる。直ちに行動せよ!」
「「はっ!」」
今、大仕事が終わったばかりだというのに、やる気で満ち満ちている守護者達。
その姿を眺めるアインズは、ふとかつて景色を思い出していた。仲間と共に難関攻略対象をクリアした後の、次のターゲットをどこにするかと高揚した気分で話し合う光景を。あの祭のような雰囲気を。
嬉しさとともに、寂しさのようなものが胸に去来する。だが目の前の配下の者達は、確かに存在する。まだ終わってない。まだ"この世界"では始まったばかりだ。そんな想いが脳裏に浮かんでいた。