世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

15 / 52
平賀才人

 

 

 

 

 ハルケギニアからはるか東。広大なサハラを越えたロバ・アル・カリイエという土地に、アインズ・ウール・ゴウン魔導国という化物を主として頂く国が出来てから、二年の月日が経っていた。

 

 トリステイン王国。ハルケギニアの西の端にある小国だ。東は帝政ゲルマニア、南にガリア王国という両大国に挟まれていた。北には島国であるアルビオン王国があった。

 このトリステイン王国には、トリステイン魔法学院があった。貴族の子息、子女が通う名門学府だ。

 その学生寮の一室に、一人の女学生がいた。小柄だが長いピンクブロンドに整った顔つきの少女。ただその顔は少々不機嫌そうだったが。その学生の名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステインの名門、ヴァリエール家の三女だ。

 不機嫌そうな彼女の視線の先にいるのが、床にしゃがみこんでいる彼女の使い魔。一見すると普通の黒髪の少年。もっともハルケギニアでは黒髪は珍しいが。

 彼の名は平賀才人。22世紀初頭の地球から、彼女に召喚された10代後半の少年だ。小卒の電子機器メーカーの元ライン工。ただこの経歴は、22世紀初頭の地球では珍しいものではなかった。それほどの酷い格差社会が、22世紀初頭の地球である。

 

 椅子に座っているルイズが、不満そうに言う。

 

「なんでギーシュの決闘なんて受けたのよ」

「ムカつくからに決まってんだろ。難癖つけやがって」

 

 それは今日の食堂での出来事だった。ギーシュ・ド・グラモンというルイズと同学年の男子生徒が、ひょんな事から浮気がバレてしまう。しかも間の悪いことに、付き合っていた二人の女生徒共、その場にいた。おかげで、彼は二人から痛い目に。

 切っ掛けを作り出した浮気の証拠、偶然ギーシュが落とした香水の瓶を、たまたま拾ったのが才人だった。そして八つ当たりされた訳だ。

 

 ルイズは文句をぶつけるように言う。

 

「分かってるの?貴族は魔法を使えるのよ。アンタ使えないでしょ?それじゃ勝負になる訳ないわよ」

「魔法くらい……、一応使える……」

「一応、って何よ」

「一応は、一応だよ……」

 

 言い淀んだ才人は、ふと床の方へ視線を落とす。最初に着ていたゴツく豪奢な鎧と大剣と盾が置かれていた。脇にはカゴがあり、才人のわずかな私物が入っている。その中に小箱があった。

 小箱の作りはしっかりしており、鍵はないものの隙間なく閉まるようになっている。中にはあるものが入っていた。3cm程度の電脳接続用無線アダプターだ。召喚された直後、鎧を脱ぐ時にこぼれ落ちたので気づいたのだった。いつのまにか、外れていたらしい。

 

 才人がいた22世紀初頭の地球では人間の電脳化が一般化しており、彼自身も電脳化している。小箱に入っているアダプターを首の付け根の、ジャックに差し込み電脳空間と接続する。ゲームをするには必須の機器だ。

 

 召喚後、一息ついた後に、やってみると出来た。ウインドウも開け操作もできた。試しに補助魔法を使ってみたが使えた。ただしGMコールは通じなかったが。

 一方で、この結果からいくつかの問題に気づいた。まずアダプターにはバッテリーがあり、切れると当然使えなくなる。そしてもう一つ。電脳世界と繋がるためには、ナノマシンを体内にある程度以上保持する必要があった。しかし排泄と共に、少しずつ体外へと放出されてしまう。そして一定以下になると、電脳世界と繋がれなくなるのである。

 地球ではそれを定期的に補充すればよかったが、ここではそうはいかない。

 アダプターを使わずとも、日々生活しているだけでユグドラシルの能力が使えなくなっていく。

 

 ただ、これらの問題はともかく、同時に才人には大きな疑問が浮かんでいた。

 そもそも、どこの電脳空間と接続しているのか。アダプターの受信範囲は狭い。せいぜい10mレベル。目に見える範囲にPCなり、アンテナなりがないと繋がらない。もちろん、そんなものは見当たらない。アダプターには有線のものもあるが、それを使っていたら分かったのだろうかなんて事を思ってしまう。ケーブルの行き先を辿って。

 

 では実はこの世界は何かのゲーム内で、現実ではないのか。しかし、とてもそうは思えない。姿が現実と同じとか、ゲームでは違法な匂いや味がするとかいう以上のものがあるからだ。

 まず腹が減る。そしてトイレに行きたくなる。眠たくなる。要は、生き物として必須要素があるのだ。

 しかしそうなると、最初の疑問に戻る。どこの電脳空間と繋がっているのかと。だとしてもゲームの能力が、現実世界でも使えるのは何故か。

 これらたくさんの疑問を解き明かす答は、小卒でただのライン工だった彼には想像もつかなかった。

 

 黙り込んだままのサイトに、ルイズはしびれを切らした。

 

「だったら見せてみなさいよ。あんたの魔法」

「やだ」

「何でよ」

「無駄にバッテリー使いたくねぇからだよ」

「ばって……何?」

「お前には分かんねぇ」

 

 ぶっきらぼうに答えるサイトに、頭に血が上りだすルイズ。

 

「あんたは私の使い魔なのよ!主の言う通りにするのは当然でしょ!」

「俺は使い魔になるなんて言ってねぇ!俺が寝てる間に、勝手にやっといて何言ってんだ!」

「あ、あんたの食事用意してやってんの誰だと思ってんのよ!泥棒がタダで食事貰ってるだけでも、感謝しなさいよ!」

「泥棒だ!?お前っ……!」

 

 怒りのあまり立ち上がるサイト。しかしルイズも引き下がらない。

 

 召喚したばかりの時、ルイズは豪奢な鎧を着込んだサイトを、宗教庁の聖堂騎士かと思った。しかもかなり位の高い人物。だからこそ敬語を使っていた。

 ところが、しばらくするとおかしい事に気づく。自分の鎧を纏いながら、身動きできない騎士などいるだろうか。実際、彼の武装はどれも重く、教師であるコルベール共に脱がすのに一苦労した。

 では何故、自分で使いこなせない鎧を着込んでいたのか。答はすぐに出た。この少年は泥棒である。どこからか聖堂騎士の鎧を盗んできたのだと。

 

 しかも鎧を脱いだ彼は、見るからに平民。泥棒の平民を、使い魔にしてしまったと気づいた時の絶望感は半端ではなかった。ハルケギニアでの使い魔契約は、どちらかが死なないと解除されない。もう一生、この泥棒と付き合っていかないといけないのである。

 目の前の使い魔に、ルイズがきつく当たるのも無理はなかった。

 

 対する才人の方も、泥棒呼ばわりされて黙っている訳がない。

 もちろん彼は泥棒ではない。それどころか盗んだと思われている彼の武装は、ユグドラシルで仲間に手伝ってもらいながら作り上げた言わば思い出の品だ。それを盗んだなどと言われてはたまらない。才人も頭に血を上らせていた。

 だが不思議と、彼女に対し本気で怒る気分になれない。怒ると同時に、嫌な気分が湧いてくる。なんとも心細げな気持ちが。

 

 大きくため息をつく使い魔。肩を落とす。

 

「分かったよ。魔法、見せてやる」

「え?」

「だからもう、俺の事泥棒呼ばわりするなよ。だいたい、これは盗んだじゃねぇ。これは……とっても大切なんもんなんだよ」

 

 あまりに神妙に言うサイトに、怒りのやり場に困るルイズ。気持ちを落ち着かせると、仕方がなく頷く。

 

「じゃ、じゃあお願い」

 

 才人は小箱からアダプターを取り出すと、首筋にセットした。すると隣から驚きの声が届く。目を大きく開け、サイトを指差すルイズ。

 

「あ、あんた……、く、首に穴が……!」

「そうだよ」

「そうだよって……。え!?」

 

 首に穴があるのに生きている。しかも平然としている。訳がわからない。そんな彼女に構わず才人は話しかけた。

 

「ちょっと、触るけどいいか?」

「は、はぁ!?いやらしい!いきなり何言い出すのよ!」

「ち、違うって、そういう意味じゃねぇって。頭とか手とか肩とかどこでもいいから」

「え?」

 

 首を傾げるしかないルイズ。

 

「あ~もう、魔法、見たくないのか?」

「う……。んじゃ……その……肩で」

 

 あまり男性慣れしてないルイズは、男から触れられるという行為にどこか色めき立っていた。そしてふと思い出す。自分のファーストキスの相手も、この平民だったと。急に顔が赤くなりだすピンクブロンドの子。

 そんな彼女の胸の内に気づかず、才人は肩に手を置いた。そして唱えた。

 

「フライ」

 

 すると二人の体が、宙に浮く。床から数十センチほどの高さに。驚きの声を上げるルイズ。

 

「あ、あんた、本当魔法使えたの!?」

「だから言ったじゃん。けど、口に出しても使えるんだな。タップしなくていいんだ。でも何でだ?分からん。メニュー開かなくていいのは楽だけど」

「?」

 

 また訳の分からない事を言う使い魔。やがて床へと二人は降りていった。そして才人はアダプターを抜き、小箱へとしまった。

 ルイズは使い魔への見方が少しばかり変わる。

 

「あんた……すごいじゃない。しかも杖も使わないで、魔法使えるなんて」

「俺んとこじゃ、普通だったよ」

「もしかして……。本当はやっぱり聖堂騎士……だったの?」

「……。その内話すよ」

 

 どこか感慨深げに見える使い魔の背中。それをルイズも、思う所があるように見つめる。

 ただ彼女にも一つ分かった事がある。目の前にいる少年はただの平民ではない。何やら曰く有りげな人物だと。

 

「そ、そう……。なるべく早く話してよね。なんてたって、私はあんたの主なんだから」

「あのな、俺には平賀才人って名前があるんだよ。平賀でも才人でもいいけど、あんた呼ばわりはやめろ」

「わ、分かったわよ」

 

 気圧され気味に返事をするルイズ。何故だか分からないが、さっきからどこか不機嫌そうなサイト。

 いや、思い当たるものがあった。聖堂騎士かもしれない人物を、泥棒呼ばわりしていたのだ。怒るのも無理はない。ルイズ自身も平民の泥棒呼ばわりされたら怒る。なんと言っても、名門ヴァリエール家の者なのだから。

 言いづらそうに、口を開くルイズ。

 

「その……。サ、サイト……。今ままで悪かったわ……。泥棒とか言って」

「……。分かったならいいよ」

 

 この話はこれでおしまいと二人は思った。もっとも、双方ともお互いの真意を勘違いしているのだが。

 

 ルイズは雰囲気でも変えたいかのように、いきなり明るい声を上げた。

 

「魔法使えるなら、ギーシュなんて相手にならないわね」

「魔法は使わない。これで十分」

 

 そう言って左手で愛用の大剣『ソード・オブ・テュール』を高々と上げる。その時ふと気づいた。召喚直後の事を。振り返る才人。

 

「そうだ、ルイズさ。使い魔って特殊能力貰ったりしない?」

「共感能力が付くとは習ったわ」

「何それ?」

「使い魔の感覚、視界を共有したりできるようになるのよ。後は知能が上がるってのもあるわね」

「力が強くなったり、速く動けるようになったりとかは?」

「そんなの聞いた事ないわよ」

「そっか……」

 

 では、今自分にあるこの能力はなんなのだろうか。

 召喚直後、全くただの人間程度の力しか出ず、鎧が重すぎて身動きできなかったが、何故か左手で剣を持つと急に力が溢れ出した。おかげで鎧が脱げられたのだが。

 

 ただこの能力、少し試したがとんでもない。

 補助系スキルでバフが掛かる能力なのだが、身体能力が大幅に上昇、時間制限なし、リキャストタイムもなし。ぶっ壊れスキルである。ユグドラシルなら、すぐさま修正が入りそうなしろものだ。ただし大きな欠点があるが。

 

 ともかく、この能力と愛用の武装があればなんとかなるだろう。

 

「さてと、行くか。ヴェストリの広場ってどこ?」

「案内するわ」

 

 ルイズはベッドから立ち。そしてサイトを見た。豪奢のフルアーマーを着込んだその姿は、さっきとは別人のようだ。まあ、それだけ鎧が立派過ぎるせいなのだが。

 平民の泥棒と思っていた少年は、実は魔法も使える聖堂騎士らしき人物だった。ルイズの胸の内に、わずかだが妙な不快感が浮かんできていた。

 

 

 

 

 ギーシュ・ド・グラモン。武門で知られるグラモン伯爵家の四男。

 トリステイン魔法学院で、美形知られた金髪の少年で、実際、モテる。それでいい気になって二人の女性に手を出した結果が、現在のありさまである。両方からフラれてしまった。

 もちろん自業自得なのだが、切っ掛けを作った平民ヒラガ・サイトを痛めつけ、少しばかりウサを晴らそうという訳だ。ハルケギニアでの、貴族から平民への感覚というのはこんなものだった。

 

 放課後。ヴェストリの広場には、野次馬の学生たちが集まっていた。ギーシュはまだ来ない対戦相手に対し、大げさに言う。もちろん周りの野次馬達に聞こえるように。

 

「どうやらあの平民は、怖くて逃げ出したようだね。やれやれ、負けるにしてもせめて杖を交えてからにしてもらいたもんだ。いや、平民には杖は使えなかったか」

 

 周囲から笑いが漏れてくる。

 

 大分気分のよくなった所で、決闘終了を宣言して勝ち名乗りでもあげようかとしていたギーシュ。建物から出てくる二人の姿が目に入った。

 一人はルイズだ。だがその後ろにいる人物は、見たことがない。白を基調とした豪奢な鎧に身を固め、左手には両手でなければ扱えないような大剣を持ち肩に担いでいた。これも装飾が豪勢だ。

 眉間に皺を寄せるギーシュ。誰だという疑問と共に。

 

 やがて二人はギーシュから少し離れた場所で足を止めた。するとルイズはこの場から離れていく。鎧の人物が声を発した。

 

「遅くなって悪かった。ちょっと準備に手間取ってさ」

「誰だ?君は?」

「決闘相手に決まってんだろ」

「ええっ!?」

 

 思わず目を見開いてしまうギーシュ。あのパッとしない平民が、こんな聖堂騎士のような存在だったとは。

 その時、ふと思い出す。この姿に見覚えがあると。ルイズが召喚した、騎士だと。

 

「き、君、あの時の!ルイズが召喚した騎士だったのか!」

「今頃、気づいたのかよ。いや、装備解除してたら気づかないか。まあいいや、決闘するんだろ。俺もさ、お前に八つ当たりされたのちょっとムカついてんだ。覚悟しろよ」

「え……」

 

 思わず臆してしまう色男。ただの平民相手と思い持っていた余裕が、消し飛んでいた。

 するとルイズから声がかかる。

 

「ギーシュ。決闘するんでしょ。名乗りは」

「あ、え……、ああ……。ぼ、僕はギーシュ・ド・グラモン。二つ名を青銅のギーシュ……と言う」

 

 途切れ途切れで、なんとも頼りなさげな名乗りだった。

 今度は才人の番。大剣を両手で地面に立てて言う。

 

「俺はギルド『リウムフス・ディ・マルティウス』所属……。いや、違うか。ルイズの使い魔、平賀才人だ」

 

 その宣言に、ルイズは思わず驚きを浮かべた。さっき使い魔になるなんて頼んでないと言っていた少年が、自ら使い魔と言い出した。何を思ってそんな事言いだしたのか、見当もつかない。

 対するギーシュ。なにやら立派そうな名前が聞こえたような気がする。やはり、どこか聖堂騎士なのかもしれない。額に冷や汗が浮き出していた。

 

「そ、そうかい……。で、ではやろうか。行け!ワルキューレ!」

 

 半ば不意打ち気味にギーシュは魔法を使った。得意の青銅製ゴーレム創造だ。その数6。しかも剣を皆持っていた。聖堂騎士ならば、相手にとって不足なし。最初から全力だ。

 

「おいおい、合図なしかよ」

 

 才人は不満を一つ零す。ユグドラシルでは決闘の際に、必ず合図があった。彼にとっては、ルール違反と言ってもいい。もっとも、ハルケギニアの流儀を調べなかった彼も悪いが。

 向かってくるゴーレム六体を見ながら、微妙な表情になる。正直、出来が悪い。もちろんユグドラシルと比べてだが。試しに攻撃を受けてみる事にした。

 

 全く動こうとしないサイトに、ギーシュはもしかして六体ものゴーレムを一気に作られて怖気づいたのか、などと思ってしまう。

 

「やれ!」

 

 バラの花の形をした杖をサイトへと向けた。そしてワルキューレ達は、フルプレートの騎士へ一斉に剣を振り下ろす。

 金属音が響いた。ただ、それだけである。

 何発食らっても、騎士は微動だにもしない。そして豪奢な鎧には傷ひとつつかなかった。

 

 不意に騎士が動き出した。左手の大剣を高々と上げ、振り下ろす。一体のワルキューレへ向かって。頭部から綺麗に地面へと垂直に。青銅製ワルキューレは真っ二つとなった。しかもその断面は、真っ平ら。青銅がまるでバターのように切られている。

 信じがたい大剣の切れ味に、唖然とするしかないギーシュ。

 

 一方、鎧を着込んだ才人は、少々困っていた。あまりの力の差に。もちろんこのゴッズアイテムクラスの装備あってこそ、という点はある。

 ムカついたので、痛い目に合わせてやろうと思ったが、力の加減を間違えたら相手は死んでしまう。

 

「どうしようか……」

 

 とりあえず、この鬱陶しい彫像達を始末することにした。大剣を左に構えると、一気に撫で斬りにする。それはホームランでも打つかのように。ワルキューレ達の上半身と下半身はあっさりと分かれた。そして身動きを止める。

 振り抜かれた大剣を勢いのまま、才人は右手一本で高々と天へと向けた。まるで勝利宣言のように。

 

 ところが、右手からすっぽ抜けた。大剣が。そして天高く飛んでいった。しばらく飛んで広場の一番端に落ちて突き刺さる。

 同時に倒れ込む才人。

 

(な、なんだ!?体が重い!重力系の魔法くらった?あいつそんな魔法使え……)

 

 そこで気づいた。別に魔法を受けたわけでもなんでもないと。

 

 これが、彼が手にしたぶっ壊れバフ能力の大きな欠点であった。

 左手に剣を持っている内はバフがかかるが、左手から離れた瞬間にバフはなくなってしまうのである。全てのパラメーターが一気に、数分の1になってしまうのだった。今彼が倒れているのは、単に鎧の重さに耐えきれないだけ。

 そもそもユグドラシルでの、彼の基本戦闘スタイルは右手に大剣、左手に盾だ。両手装備なんて使ったことはない。しかも才人は右利き。なまじ戦闘経験があるだけに、なおさら左手に宿るこの能力との相性が悪い。

 

 対するギーシュ。目の前で何が起こっているのか理解不能。

 あっさりと全ワルキューレを始末した騎士が、何故か大剣を放り投げ、倒れ込んだ。この伏せている状態に、何か意味でもあるのか。何かの攻撃が始まるのか。

 地面に伏せたまま動こうとしない相手に、身構えるしかない美少年。なんとも言えない、微妙な空気が辺りを包む。

 

 才人の方はそれどころではない。動けない事がバレれば終わりだ。視線だけで辺りを探し回る。

 

(一本くらいあるだろ!壊れてないの!)

 

 彼が探していたのは、ワルキューレが持っていた剣だ。出来に関係なく、バフ効果はあると信じて。

 

(あった!)

 

 見つけた剣に、なんとか左手を伸ばす。重い小手を装備した腕を。そして掴んだ。

 力が再び蘇る。あっさりと立ち上がる才人。ただ気持ち的には、動揺しまくり。なんとも気まずい。

 

「えっと……。あー……。一言あやまれば、俺は終わりにしていいぜ」

 

 どこか自信なさげな声。

 

「まあ……さ。俺も男だし、お前の気持ちも分からなくもないっていうか……。けど……それはお前の問題っていうか……」

 

 才人としては、弱点がバレない内にさっさと決闘を終わらせたいが、難癖のケリもつけたい。おかげで、微妙な言い回しになってしまった。

 ギーシュの方も渡りに船とばかりに、うなずいていた。これほど強いとは、予想外だったので。

 

「そ、そうだね……。男だからさ。過ちもあるんだよ……たまに……。だから……」

「それで?」

「あ、えっと……。その……君は関係ない……。僕の問題だ。悪かった……」

「よし!もうこれでこの話は終わり!じゃあな!」

 

 強引に締めに入る才人。慌てて飛んでいった大剣の方へ走っていった。

 呆気にとられるギーシュ。いったい何なのかと。彼だけではない、ここにいた誰もがこの決闘をどう解釈していいか戸惑っていた。ただ一人ルイズを除いて。

 

 大剣の場所へたどり着き、安堵のため息をこぼす才人。ついさっきまで持っていたワルキューレの剣と、愛用の大剣を取り替える。

 

「間に合った……」

 

 もう少し早く魔法を解かれていたら、途中でぶっ倒れる所だった。

 歩いてきたルイズが声をかける。

 

「また力が抜けたの?」

「そうだよ」

 

 ルイズは召喚後からの数日間、サイトの様子を見てて不思議に思ったことがある。突然、怪力の持ち主になったかと思えば、ただの少年レベルの力しか出せない時がある。

 そして怪力を持った時は、決まって左手に大剣を持っていた。ルーンの刻まれた左手に。

 この使い魔には、何か特別な力が宿っているのは間違いない。理由は分からないが。それに他にも知らない単語を、サイトはいくつも口にしていた。これは一度、ちゃんと話さないといけないと思うピンクブロンドの少女だった。

 

 話をしないといけない。そう思ったのはルイズだけではなかった。校舎の中。決闘の様子をマジックアイテムで覗いていた二人もそうだった。トリステイン魔法学院学院長オールド・オスマンと教師コルベールである。

 サイトの左手に印されたルーンは特別なものだった。その彼が決闘をするという。彼に宿った特別なルーンの意味を見極めようと、決闘を見ていたのだった。結果、出てきたのは疑問点だけ。やはりまずは話をするべきと、決めた二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 才人の電脳化はオーバーロード側の設定です。オーバーロードの現実世界では、電脳化が当たり前となってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。