世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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それぞれの今

 

 

 

 

 地下に埋蔵された大量の風石のため空に浮かぶ大地アルビオン。

 この島国は今二つの勢力に分かれていた。アルビオン王国とそれに反旗を翻したレコン・キスタである。

 元々の原因は、アルビオン王国国王ジェームズ一世が、弟であるモード大公を死罪に処したことにある。さらに、モード大公を支持する者達にも懲罰は広がった。それが反感を産み出し、各地で反乱が発生。

 最初こそ散発的だったのだが、突如、オリヴァー・クロムウェルなる人物が現れ反乱軍をまとめ上げてしまう。

 それから王国軍は連戦連敗。王都からも逃げ出し、北へ北へと追い詰められていった。その北の領域もかなり削られ、残りもわずか。一、二年程でアルビオン王国テューダー朝は滅亡寸前まで追い込まれていた。

 だがこれほどスムーズに、テューダー王家が追い込まれたのには裏があった。手引をした者が。その人物は今、かつての王都ロンディニウムのハヴィランド宮殿にいた。顔に奇妙な入れ墨を入れた長い黒髪の妙齢の女性。ガリア王ジョゼフ一世の使い魔、シェフィールドだ。

 

 戦乱は北方のみとなっており、もはやこの町には関係ないかのように賑わいを取り戻しつつあった。その光景が窓から見える。

 しかし彼女の瞳には、その景色が映っていなかった。脳裏で流れるこれまでの出来事に、意識を奪われて。

 

 ジョゼフに召喚されてから半年ほどは、ひたすらハルケギニアの知識を学んだ。虚無の使い魔であるミョズニトニルンはあらゆるマジックアイテムを使えるが、逆に言えばマジックアイテムにその力は依存していた。マジックアイテムを知らなければ、力も十分発揮できない。

 ただ幸運と言うべきか、これにはロバ・アル・カリイエの神官としての経験が生かされた。神官階層はマジックアイテムの知識が豊富だったのだかだ。むしろ彼女が召喚されたのは、それも理由の一つだったのかもしれない。

 十分な知識を得たと判断した後に、ジョゼフから下った命がアルビオンを手足になるようにしろとの事だった。

 そして彼女は、争乱の収まらないアルビオンに旗頭を作り出す。単なる平民司教だったオリヴァー・クロムウェルにマジックアイテムを授け、偽の虚無の担い手を作り出した。権威欲にまみれていた彼は、あっさりと彼女の策に乗る。闇雲に戦っていた反乱勢力も、彼の偽虚無へと惹きつけられていった。

 

 アルビオンに来てからの努力は、もうまもなく実るだろう。だがアルビオンを手中に収めた後に、次の命令が下るはずだ。穏やかにしていられるのも、今の内だけ。

 そんな気分で窓越しに町を見る。行き交う人々に視線が止まった。ふと故郷の事が思い出された。神官だった彼女は、故郷の王宮で似たような景色を日々見ていた。

 だがあの国、マガーハ藩王国は、アインズ・ウール・ゴウン率いる化物の軍勢に滅ぼされた。王も父もその最後は見てはいないが、二人共生きてはいないだろう。むしろ生きていた方が悲惨だ。行く当てなどないのだから。

 

 やがてモモンの事が思い出された。漆黒の武神と言われた、並ぶもののない剣士が。逃してもらえるという話だったのに、こちらに召喚されてしまい黙っていなくなった形となってしまった。それには申し訳ないと思っている。

 それと彼に、後でアインズ・ウール・ゴウンの器を確かめればいいと言われたが、それも叶いそうにない。ロバ・アル・カリイエはあまりに遠すぎる。

 

 しかし、思い出にふけるのもここまで。もはや故郷も名前すらも捨てたのだ。シェフィールドは気持ちを整えるように、大きく深呼吸をする。

 

「今は……。陛下のために……!」

 

 敬愛する主であるジョゼフへ、全てを捧げる覚悟をあらたにする彼女だった。

 

 

 

 

 ハルケギニアからはるか東。広大なサハラを越えた更に東。ロバ・アル・カリイエがあった。

 いや、もはやその名で呼ぶのはふさわしくなくなっている。アインズ・ウール・ゴウン魔導国。むしろこの名で呼ばれるべきだろう。何故ならロバ・アル・カリイエと呼ばれた広大な領域は、全て魔導国によって統一されたのだから。

 

 ナザリック地下大墳墓がこの世界に現れてから三年。アインズ・ウール・ゴウン魔導国が建国してから二年。そんな僅かな期間で、長らく続いていたロバ・アル・カリイエの戦乱は収まってしまった。

 そんな偉業を成し遂げた魔導国の主、アインズ・ウール・ゴウンは自分の執務室で、最後の書類に魔導国の印章を押す。そして脇に控えているアルベドに声をかけた。

 

「今日の分はこれが最後か」

「はい」

 

 書類の束をアルベドへ渡すと、視線を窓の方へ向けた。まもなく正午の日差しが差し込もうとしていた。

 

 ここはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の首都。マガーハ藩王国の隣国ガナジャイディー藩王国の王都だった場所だ。

 ガナジャイディー藩王国はモモンとして最初に戦った相手であり、魔導国建国後も最初に攻め込んできた国だ。なので徹底的に叩き潰した。王都もまっさらに。そしてここに首都を作ったのだ。

 最初は旧マガーハ藩王国の王都近郊に作る案もあったが、仮想敵であるエルフの国ネフテス近くに作る事に反論があった。しかし世界征服を見据えると、あまり東寄りに作るのも問題があるという意見も出た。またここは更地となったので、ゼロから都市計画を進める事ができたのも利点だった。

 その様な会議の結果、ガナジャイディー藩王国の元王都が魔導国の首都となったのだった。

 

 ふとアインズは零す。

 

「最近……、皆の顔を見てないな……」

「まあ、アインズ様!お寂しいのですか?でしたら、私がお慰めいたします!」

 

 何故か興奮気味に、しかも前のめりに話しかけてくるアルベド。少々引いてしまうアインズ。

 

「いや……。その……。こんな事を言っては、皆に申し訳ないか。彼らを見ないのは、懸命に魔導国に尽くしてる証だからな」

「それは……そうですが……」

 

 急にしぼんでいくアルベド。そして一つため息を零すと、いつもの守護者統括の雰囲気を纏った。

 

「まだまだ魔導国が建国して、わずかな年月しか経っておりませんから。問題も次々に発生しています」

「ふむ……」

 

 書類を渡されそれに印章を押すという作業は、もはや日課だ。それほど案件が多いという意味でもある。ただアインズ自身は、書類の内容を半分も理解してないが。アルベドやデミウルゴスのような優秀な者達がいるので、それでもなんとかなると思ってはいる。

 ただ現状を全く理解してない訳でもない。アインズの半端な理解から把握しているこの国の現状は、安定したとは言い難いものだった。

 

 ロバ・アル・カリイエ征服過程で、各藩王国に対する対応は二つに分かれた。殲滅と服従。一度でも剣を交えた国は徹底的に潰した。逆にすぐに頭を垂れたものは、ほぼ自治権を認めた。

 このため征服事業が後半に入ると、ほとんどの藩王国があっさりと降伏した。短期間で広大なロバ・アル・カリイエを統一できたのはそれが理由の一つだ。

 

 ただ統一後、様々な問題が発生した。

 

 まず殲滅した地域は魔導国直轄地となったが、その統治をゼロから建て直さないといけない。新たな統治者の選定から政治システムの構築まで。しかもそれらは、まだ道半ばだ。

 

 また大胆なアンデッドの活用を進める事にした。アインズ自身は、これで人間でない自分達に慣れてくれたらと思って始めた。もっとも、単純に人手が足らない面もあるのだが。

 するとアンデッドの活用は、アルベドやデミウルゴスから称賛され、次々をとアイデアが出された。アインズ自身もアイデアを出す。それらを、全部叶えようとしたのがいけなかった。

 まず魔導国全領域の治安維持や軍組織の半分以上を、アンデッドにすると計画。統治のための行政官にも、アンデッドを回している。しかも単純作業用にと、低位のアンデッドも作り出していた。他にも征服を進める中、空軍の必要性を感じ、これも設立する事にした。他にも必要なアンデッドがあった。

 おかげで絶対数がまるで足らない。アインズとパンドラズ・アクターが、毎日アンデッド創造で作っているのだが今以上にペースを上げることはできない。またベースとなる死体の方も人間は十分あるが、行政官に回すエルダーリッチ等の魔法職系のベースとなるエルフも足らない。それ以外のアンデッドのベースも、十分とは言えなかった。

 そしてこれがまた問題を引き起こす。治安組織や軍を次々とアンデッドと入れ替えているので、戦士階層が代わりに失業していっているのだ。

 

 さらに止めとして、アインズはこの地にはびこる階層制度というものの廃止を宣言。元々、酷使された平サラリーマンであった彼にとっては、階層を固定化するこの仕組みは忌むべきものであった。

 だがこれは下位の階層の者達には歓迎されたが、上位の階層、神官階層や戦士階層には猛反発を受けた。一族の利権を保証していた根拠を失うのだから、当然と言えば当然。

 ただ優秀で従順な神官階層は、魔導国直属の魔法研究員という立場を与えたので、神官階層で反発しているのは無能と強欲な者達ばかりだ。

 しかし戦士階層は違う。これまでのアインズの施策で、一番割りを食っている階層だ。彼らがロバ・アル・カリイエのあちこちで、散発的に反乱を起こすのである。もはやもぐら叩き。しかも、戦慣れしているので始末が悪い。アインズすらも軍を率いて出ることがあった。

 

 これらの他にも彼自身、日々、絶対支配者としての研鑽を積まねばならなかった。

 

 この所、休んでいる気がしない。もちろんアンデッドは疲労しない。だが気疲れはする。

 窓の外に視線を送りながら、思いにふける至高の御方。

 

(サラリーマン時代と、なんか変わんないような気がしてきた。せめて気晴らししたい。だいたい、そんなに統治を急がなくてもいいんじゃないかな。一歩、一歩、ゆっくりとで。そうだ、休暇制度を取り入れよう。そうすれば、丁度いいスピードになるんじゃないかな?)

 

 アインズはアルベドの方へ向き直る。

 

「あ~……。魔導国の現状の統治についてだが、その進み具合について考えがある」

「アインズ様も懸念しておられたのですね。速度が遅いと」

「え……」

 

 もっと遅くていいのでは?と切り出そうとしたら、もっと早くしろと言われた。もうこれで休暇を取るなど、言えなくなってしまった。

 アルベドは話を続ける。

 

「現在、ネフテス国境の情報封鎖は上手くいっています。デザートエルフ達は未だロバ・アル・カリイエが戦乱の中にあり、マガーハ藩王国が存在してると思っているでしょう。しかし、いつ情報が漏れるか分かりません。可能な限り早く、魔導国を安定させなければ」

「そ、そうだな……」

 

 空っぽの頭蓋の中に、休暇なんてもう無理だという言葉が過る。するとそこに、ひらめきが舞い降りた。

 

「あ~……確かに、国内安定の優先順位は高い。しかしだ、同時に周辺の状況把握も重要だと考えてる」

「おっしゃる通りです」

「だが例えば、パンドラズ・アクターは知っての通り、デザートエルフの情報収集と拠点構築、そしてアンデッド創造を任され、ネフテス国と魔導国を転移魔法で往復と多忙を極めている。セバスのチームも魔導国の内政も一部担当してる。彼らも、ハルケギニアと魔導国を往復するような有様だ」

「多忙であるという事は、私共にとっては喜ばしい事です。アインズ様のお役に立てているのですから」

「ま、まあそうなのだが、そのためにどちらかに十分な時間が割けない様では困る」

「つまり情報収集に弊害があるのではと、おっしゃりたいのでしょうか?」

「そ、そうだ。そこでだ、一気に情報収集を進めたいと考えている」

「……」

 

 腕を抱え考え込むアルベド。

 黙り込んだ彼女を見て、アインズに緊張が走った。いつもこの展開で、アルベドやデミウルゴスが斜め上の解釈をして手に負えない誤解を作り出す。それだけは阻止しなければと。

 機先を制する至高の御方。

 

「なので、私はハルケギニアに一度行こうと思う」

「かつて仰っていた、生の情報を得ようというのですか」

「その通りだ」

「分かりました。アインズ様のご意思を皆に伝えておきます」

「え……」

 

 あっさりと受け入れられたので、拍子抜けするアインズ。今、居なくなられては困るとか言われると思っていたのだが。

 

「その……。上がってきた書類の承認や、アンデッドの創造はどうする?」

「書類に関しては、重要性の低いものはこちらで処理しておきます。よろしいでしょうか?」

「かまわない」

「アンデッド創造に関しては、ハルケギニア行きはそれ以上に優先すべきとアインズ様がお考えなのですから、私からは言う事はございません」

「いや……、本当に意見はないのか?その……予想される問題とか」

「……。確かに問題がないとは言いませんが、対応できるとは思います。行政官向けのアンデッド創造は、エルフの死体が不足気味なためペースの上げようがありませんし。単純作業のアンデッドに関しては、中位のアンデッドでも可能ですから、出動していない軍を一時的にそれに当てたいと考えてます。空軍に関しては構成や運用方針の検討が不十分なため、少々ペースが落ちても問題ないかと」

「なるほどな。さすがは守護者統括だ。見事な対応力だ」

「アインズ様……。お褒めいただき、ありがとうございます」

 

 深々と礼をするアルベド。腰の羽の動きが、やけに激しい。

 ただアインズ自身は、少し申し訳ない気分になってきていた。

 

(これって休暇取りたいから、部下に仕事押し付けてるようなもんだよな。でもなぁ……。ちょっと羽を伸ばしたいし。そう言えば、ダラダラ仕事を続けるより、昼寝を少し入れた方が仕事の効率は上がるって聞いたことある。そう、今後の作業効率上昇のための休暇だ。うん。最終的には魔導国全体のためになる)

 

 ナザリックの絶対支配者は、無理やり自分を納得させた。

 

「私の方も余裕ができれば、こちらに戻ってくる。重要案件は、さすがに私の承認が必要だろう」

「そうしていただければ、助かります」

 

 全ては決まったと、晴れ晴れした気分でアインズは席を立った。

 

「それでは私は準備を始める。先に、セバスへ私がハルケギニアに向かうと話を通しておいてくれ。後、シズにもだ。準備できしだい、彼らを直接呼ぶ」

「かしこまりました」

 

 アルベドの礼に見送られ、自室へと戻っていく至高の御方だった。「やった!休暇だ!」とか胸の内で万歳しながら。

 

 

 

 

 トリステイン魔法学院。授業も終わり、放課後となっていた。傾いた日差しが照らす広場には、二つの陰が伸びている。ルイズとサイトだ。

 

 才人はルイズに呼び出され、ここにいる。武装は部屋に置いたまま。ただ腰のポーチにはアダプターを入れ、デルフリンガーを背負っていたが。

 

「こんな所で何すんだ?」

「…………」

「ルイズ?」

 

 何故かうつむきながら顔をしかめているピンクブロンドの少女。才人は首を傾げるだけ。

 しばらくして、ルイズが絞るように口を開いた。

 

「サ、サ、サ、サイト!」

「は、はい!」

 

 思わず反射的に答えてしまった。ふと、もしかしてこれは告白シーンなのかなんて考えが過る。

 

「魔法を教えて欲しいの!」

「え?魔法?」

 

 予想していたのと違った。畳み掛けるように話してくるルイズ。

 

「サイトはいろんな魔法使えるでしょ!だから私に教えてもらいたいのよ!」

「いや、ちょっと待ってくれ。魔教えろって言われても、無理だよ」

「なんでよ!私がゼロで無能だから!?」

 

 半ば涙目になりながら頼んでくる小さな女の子。

 

 才人はルイズと違い、授業に常に出ているという訳ではない。暇な間はハルケギニアの事を学んでいた。文字や文化、習慣、社会制度など。魔法の知識についてはコルベールから、開いた時間に教えてもらっていた。

 その中で魔法というものが単なる能力ではなく、貴族としての存在意義と学んだ。一方で、平民との違いの証明であるとも。平民は魔法が使えないのだから。もっとも心情的な意味では、どう捉えていいか分からなかったが。

 

 その貴族のお嬢様であるルイズが、ここまで思い詰めていたとはと。魔法とはそれほど意味があるものなのだろう。理解し難い感覚だが。

 ただ理解し難いが、目の前の少女に悲痛な想いがあるのは分かる。気位の高い名門貴族の少女が、一大決心をして頭を下げてきたくらいなのだから。

 そんな姿のルイズに、彼は戸惑いながら答えた。

 

「そうじゃなくって……。俺の使ってる魔法は、系統魔法とも先住魔法ともまるで違うからさ。教えようがないんだよ。俺も系統魔法教えてもらっても、使えないぜ」

「……。それじゃ……私はどうすればいいのよ……」

 

 小さい体がさらに小さくなる。才人自身もどう答えればいいのか。何も出てこない。彼女を元気づけられそうなものは。

 だが、その時ふと一つの疑問が浮かんだ。ガンダールヴの話を初めて聞いた時の、学院長室で浮かんだ疑問が。

 

「あれ?そもそもだけど、あの爆発は魔法じゃないのか?」

「魔法な訳ないでしょ!」

「いや、系統魔法じゃないのは分かってるって。つまりさ、俺は始祖の使い魔ガンダールヴだろ?」

「ええ……」

「始祖の使い魔なんだよ」

「何がいいたいの?」

 

 落ち込でいるのもあって、不機嫌そうにサイトを見るルイズ。だが彼の方はと言うと、あっけらかんとしていた。そしてルイズを指差す。

 

「つまり、ルイズは始祖なんだよ」

「あんたバカ?私が始祖の訳ないでしょ!始祖がいたのは六千年前よ!」

「そうじゃなくって、始祖の魔法をルイズは使ってんじゃないのかって話だよ」

「な、なんでそんな話になるのよ!」

「だって、ガンダールヴがここにいるんだぜ。その主が始祖の魔法、確か虚無の系統だっけ、それを使えても不思議じゃないっていうか、その方が自然だろ?」

「……」

 

 一瞬、理解が追いつかなかった。口を半開きにして唖然と止まってしまうルイズ。

 才人は話を続ける。

 

「もしそうだったら、系統魔法使えないも当たり前だ。系統魔法使えても、先住魔法使えないのと同じでさ。虚無の魔法使えたら、他の魔法使えないんじゃないのか?」

「私が……虚無の魔法を?」

 

 少しばかり表情に明るいものが戻るルイズ。しかし、すぐに厳しい顔つきとなった。

 

「それ、どうやって証明するのよ」

「それは……」

「適当な事……。あ!できるかもしれないわ!」

「え?どうやって?」

「私のお姉さま、アカデミーに勤めてるのよ」

「アカデミーって?」

「魔法の研究機関」

「そっか!そこで調べてもらうのか!」

「そう!」

「よし!さっそく、ルイズの姉さんに頼もうぜ」

 

 すると急に表情が渋くなるピンクブロンドの少女。才人は首を傾げた。

 

「どうしたんだよ」

「私、エレオノール姉さま苦手なのよね。気が短いし、人をすぐ見下すし」

「よく似てんじゃん。やっぱ姉妹だな」

「なんですって!」

 

 急に怒り出したご主人さま。才人は慌てて逃げ出した。

 

「何で怒るんだよ!」

「どこが、似てるっていうのよ!」

 

 そう言って主様は、杖を手にしていた。才人は慌てて、アダプターを取り出し首にセット。

 

「ルイズ!それ、やばいって!『ホーリープロテクション!』」

 

 一方の才人は、高位の信仰系防御魔法を発動。しかし、ルイズ何もせず。

 

「ルイズ?」

 

 何かに耐えているような仕草の後、校舎の壁に向かって魔法を唱えた、今までの不満をまとめて吐き出すように。すると壁が爆発。

 才人は呆気にとられていた。

 

「えっと……」

「もう、部屋に戻……。あ」

 

 怒りの表情が急に消え失せた。視線は校舎の壁の方へと向いたまま。才人も釣られて壁を見る。

 ヒビが入っていた。壁に。二人の顔が青くなる。器物損壊である。

 

「ま、まずい!」

 

 才人は慌てて、ルイズの手を取ると校舎に入り込み魔法を発動。

 

「『テレポーテーション』!」

 

 一瞬で二人の姿が消えた。

 

 ルイズが気づいた時には、寮の自分の部屋にいた。才人は焦りの言葉を漏らす。

 

「やべぇ……。見つかってねぇよな」

「え?なんでここに?」

「転移魔法だよ。瞬間移動した」

「……。そんな事もできるのね」

「まあな」

「やっぱすごいわね。サイトは」

 

 どこか諦め気味に、らしくない事をいう主様。だがそれに才人は、ため息混じりに返す。

 

「今の内だけさ」

「どういう意味?」

「前に行ったろ?バッテリーがもったいないって」

「ええ……」

 

 ルイズは記憶を掘り起こすように答えた。確か最初に魔法を使うよう頼んだ時に、そんな事を言われたような気がする。

 使い魔は零すように言った。

 

「バッテリーが切れると、魔法が使えなくなる。それだけじゃなくって、この体から魔法の元みたいなものが毎日少しずつ抜けていってさ。それがなくなっても、魔法が使えなくなる」

「ど、どうするのよ?」

「どうしようもない。まあ、魔法が使えなくなるだけさ。ガンダールヴの能力は関係ないから、なんとかなるんじゃねぇの?」

「…………」

 

 ルイズの中に奇妙な安堵感が宿る。圧倒的な力を持った使い魔が、自分と同じく魔法が使えなくなる。自分は彼を見上げずに済む。共に歩けそうな気がする。

 ただ同時に感じた。この安堵感はどこか嫌な感じのするものだった。

 

 突然、地響きのような音が響いた。ついさっきまであった気分が、全て吹き飛ぶ。

 

「な、何!?」

「外だ!」

 

 才人が叫ぶ。二人は慌てて窓を開け、外を見た。

 巨大な黒い影が見えた。それが学院校舎中央の本塔を殴りつけていた。

 ルイズが呆気にとられた声を零した。

 

「何よあれ……。ゴーレム?大きすぎでしょ」

「とにかくやばい!一旦外に出るぞ!」

 

 才人は、またもテレポーテーションを発動。ゴーレムから離れた位置に転移した。

 

 校舎中から騒ぎが聞こえてくる。

 やがてゴーレムは外へと向かってあるき出した。学院の高い塀を大股で越えると、外に出ていく。そしてその巨体は見えなくなった。

 

 部屋へとまた戻る才人達。首からアダプターを抜く。とりあえず気持ちを落ち着かせると、ポツリと零した。

 

「なんだったんだ?」

「サイト!なんで追っかけなかったのよ!」

「え?」

 

 ルイズの剣幕に、唖然とする才人。畳み掛けるピンクブロンドの少女。

 

「学院が襲われたのよ!あんたなら、なんとかできたでしょ!」

「いや……。そんな事言われても。お前、守んないとって思ってたし……」

「え……。私を?」

「だって、他の建物襲いだしたら、ヤバかったろ?だから、一旦お前を逃がそうと思ってさ」

「あ……そう……。ありがとう……」

「一応、俺は、お前の使い魔だからさ」

「……」

 

 急に気恥ずかしくなるルイズ。その気持を吹っ切るように大声を上げる。

 

「あ、あのゴーレム、何のつもりで学院襲ったのかしらね」

 

 そう言いながら、大股で窓の方へ向かった。そして外を見る。ゴーレムが襲った場所を。

 

「あ」

 

 一言だけ口にして、固まるルイズ。脳裏から、気恥ずかしさは消えていた。

 動かないルイズを不思議に思い、才人が怪訝そうな顔で同じく外を見た。

 

「あ」

 

 同じ言葉を口にしていた。

 彼らが見たのは、ゴーレムが襲った場所。本塔に大きな穴が開いていた。そこはさっきルイズの魔法でヒビが入った場所だった。

 二人は同じく、青い顔をしていた。

 

 

 

 

 




『ホーリープロテクション』はオリジナルの魔法です。今度、出番はあるかな……。
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