世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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再会

 

 

 

 

 シェフィールドはドーマー男爵の陣へと向かう兵の後に続きながらも、まるで彼の背中が見えてなかった。脳裏にあったのはモモンとシズカについてだけ。

 今でも記憶の底にこびりついている。突如、ロバ・アル・カリイエの祖国マガーハ藩王国に現れ、敵国を圧倒し、マガーハ藩王国に数々の勝利をもたらした漆黒の武神。そして祖国滅亡寸前に、自分を助けに来てくれた義理堅い恩人。まさしく英雄の中の英雄と言えるかもしれない。

 彼女自身は、そんな英雄をどこかあこがれの気持ちで見ていた。しかし今は、モモンの名を聞いてもそんな気持ちは微塵も湧き上がらない。胸にあるのは、主であるガリア王ジョゼフ一世の姿。彼の意思を実現する事こそが、自分の存在意義と全身が訴える。

 

 ただそんな想いとは別に、モモン達についてはいくつも疑問があった。

 確か彼らは、ハルケギニア出身と言っていた。もし目的の仇討ちを果たしていれば、こちらに戻ってきていてもなんの不思議もない。またロバ・アル・カリイエではもちろん目立つ姿だったが、それはハルケギニア出身だからなのだろうと思っていた。

 しかしこちらに来て二年経ったが、ハルケギニアにおいても彼らは異質だ。そして疑念が湧き上がる。漆黒の武神と魔弾の射手とは、一体何者なのか。

 ただ彼女には、その正体がなんとなく想像がついていた。問題は、何故、今ハルケギニアにいるのかだ。もしジョゼフの障害となるなら、対策を考えなければならない。

 

(そう。私は祖国も名も捨てた。真なる主に出会えたのだから。その主を脅かす者は何人たりとも、許す訳にはいかない!)

 

 表情を厳しくすると、兵の案内に従ってモモンとシズカがいる天幕へと近づいた。

 

 

 

 

 その天幕の中では、モモンことアインズが椅子に座って黙り込んでいた。傍らにはシズが椅子に座って、銃の手入れをしている。ただ警戒を怠ってはいないが。

 アインズの脳裏には未だ、ウェールズの言葉が響いていた。王の責務。さらに、マガーハ藩王国滅亡の時のプーリヤンカの言葉も。愚かな王を正すことができなかったので落城寸前の城に残ると、彼女は言っていた。王とはなんなのか。

 確かに彼は、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長だった。しかし治める民がいる訳でもなく、ギルドのメンバーは別に臣下という訳でもない。会議の議長のようなものだ。調整役だ。王とは違う。

 では魔導王とは何か。王には違いない。国の向かう先を決められる、絶対支配者だ。では、その国の行き先はどこなのか。今まで成り行き任せでここまで来てしまったが、もう決めなくてはならないだろう。

 

(ナザリックの存続という意味では、大分達成できてると思う。かなりの戦力を持ってるし。ここまで調査しても他のプレイヤーが見つからない所を考えると、いないのかもしれない。なら俺たちを脅かす存在は、デザートエルフくらいだろう。対策の重点を、デザートエルフに向けたほうがいいな)

 

 パンドラズ・アクター達の活躍により、かなりエルフの情報は集まっていた。ただ彼らの使う精霊の力は応用範囲が広く、十分対策ができているとは言いづらい。また拠点作りも、ハルケギニア方面に比べるとまだまだだった。サハラ方面の増員を考えた方がいい。アインズは、隠密に長けたモンスターを召喚すると決めた。

 

(そして一番考えないといけないのは、魔導国のあり方だ。世界征服ってフワッとしか考えてなくって、あちこち見れて冒険みたいだなんて思ってたけど、それで終わりでいい訳がない。で、どうするかだけど……)

 

 ずっと黙り込んだまま思案を巡らせていると、外から兵の声がかかった。

 

「ミスタ・モモン、ミス・シズカ。おられますか?」

 

 思考を一旦切るアインズ。

 

「はい。何か用件でも?」

「クロムウェル総司令官付き秘書、ミス・シェフィールドが面会を希望されています」

 

 アインズは首を傾げる。レコン・キスタのトップの秘書が、何故レコン・キスタでは立場の低い貴族の、しかも傭兵に会いに来たのか。見当もつかない。ともかく会ってみる事にした。席を立つと答える。

 

「分かりました。入っていただいて結構です」

「では」

 

 そうして天幕の入り口が開かれ、黒いローブを着たシェフィールドと呼ばれた女性が入ってきた。

 だがその姿を見た時、アインズは唖然とする。見知った人物だったからだ。しかも行方知れずの人物だ。思わずその名を口にしてしまう。

 

「プ、プーリヤンカ……」

 

 そう言った瞬間、女性は口元に指を添えた。黙っているようにと。理由は分からないが、とりあえずアインズは従う。

 シェフィールドは深く礼をすると、自己紹介を始めた。

 

「はじめまして。レコン・キスタのオリヴァー・クロムウェル総司令官の秘書をしておりますシェフィールドと申します」

「…………。その……私は、モモン、こちらの連れはシズカといいます」

 

 初対面のような彼女の口ぶりに面食らうアインズ。もちろん何か事情があるのだろう。なんと言っても二年ぶりの再会だ。ロバ・アル・カリイエからはるか西の地に来て、何もなかったというはずがない。

 シェフィールドは案内した兵へ話しかけた。

 

「三人で話しをしたいので、外で待機していただけないでしょうか」

 

 彼女の言葉を受け、兵たちは頷くと少しばかり天幕から離れる。そして中に入るシェフィールド。そして腰から何やら笛を取り出した。その笛で奇妙な曲を奏でると、元に戻した。アインズは何気なく尋ねる。

 

「それは?」

「『沈黙の笛』です。ここでの会話が外に漏れないようにするマジックアイテムです。サイレントに近い効果があります」

 

 シャルティアが連れてきたミノタウロスから聞いたことがある。サイレントは確か一定範囲の音を消す魔法だ。隠密用に使える魔法だとか。ユグドラシルにも似たような魔法がある。ただこれは、音を漏らさないアイテムのようだが。

 あらためてシェフィールドは礼をした。

 

「お久しぶりです。モモン殿、シズカ殿」

「え、ええ……。こちらこそ、ご無沙汰しております」

 

 なんともビジネスメールのような返答になってしまったアインズ。唐突な展開に調子が狂う。それを無理やり振り払うかのように、疑問を口にした。

 

「それで……まず、これまでの経緯……王都ダラムトゥールから何故、姿を消したのか教えていただけますか?」

「あの時、助けに来ていただいた身で恐縮なのですが、それについてはお話する事はできないのです」

 

 シェフィールドは、ハルケギニアに来てからの真相を完全に伏せる気でいた。この眼の前の人物の正体が予想通りなら、ジョゼフにとって大きな脅威となる可能性があるからだ。そもそも、彼がその脅威なのか確かめないといけないが。

 

「私は、ハルケギニアに来てから、お二方について考えた事が何度もあります」

「はあ……」

 

 彼女が何を話そうとしているのか、今ひとつ掴めない至高の御方。

 

「モモン殿の黒染めの鎧に二本の大剣。シズカ殿の見慣れない銃。ロバ・アル・カリイエでは見かけないものばかり。当時は、ハルケギニアにはそのようなものがあるのだろうと思っていました」

「……」

「しかし、こちらに来て二年。お二人の装備は、見たことも聞いたこともありません。さらに戦場でのご活躍ぶり。よほど名の知れた戦士なのだろうと思っていたのですが、ハルケギニアでお二人の名を一度も耳にした事はありませんでした」

「何を、言われたいのですか?」

「お二人は、本当にハルケギニア出身なのでしょうか?」

「……」

 

 アインズは気づいた。目の前の女性が何を言いたいのか。おそらくは自分たち正体に薄々感づいていると。この状況にどう対応するか、頭を巡らせるナザリック地下大墳墓の主。

 しかしその答えがでる前に、シェフィールドが口を開く。

 

「ただ私は、それを詮索しようとは思いません。その代わりと言ってはなんですが、私についての詮索もご遠慮願いたいのです。お互い、ハルケギニアでは初めて会ったという事にしていただけないでしょうか?」

「…………。分かりました」

 

 どうにも納得いかないが、とりあえず頷くアインズ。もっとも後から記憶を覗き見るなど、打つ手はいくらでもあるのでこの場は収める事にした。

 

「この度のご活躍について、十分な恩賞でお応えします。今後共、私共に手を貸していただけると、嬉しく思います。それでは失礼します」

 

 事務的な口調の言葉を連ねた後、シェフィールドは軽く頭を下げ天幕から出ていった。

 残されたアインズに不機嫌さが漂う。

 

(なんなんだ?人を突き放すみたいに。二年ぶりに会ったって態度じゃないだろ。しかも二年前、俺、助けてやろうとしたんだぞ。そりゃ世話になった分を返そうと思って行ったから、恩に着せる気はないけどさ。それにしたって、仲が悪かった訳でもないのに久しぶりに会った相手に、あれはないだろ)

 

 じわじわとした不満が浮き上がる。隣にいるアイパッチの戦闘メイドの方を向いた。

 

「シズカ。彼女の様子をどう思う?」

「モモンさんにつきまとわなくなったのは……いい事だと思います」

「そ、そうか……」

 

 なんとも期待外れな解答。

 ただ、言われてみれば、ロバ・アル・カリイエの頃は少々まとわりつくという感じがあった。何か理由をつけては、食事やら外遊やらに誘おうとした事も。今、思い返すと、デートに誘っていたかのようだなんて思うのはうぬぼれか。ともかく、関係は良好だったと言える。だからこそ、今の彼女の変わりように当惑していた。

 するとあまりの変わり様というのが、引っかかった。いくら、二年間会っていなかったと言っても。しかも当時、落城寸前の状況で、ナザリックの力を持ってしても行方が分からなかったというのはやはり妙だ。

 

「ん?まさか……」

 

 アインズに直感が走る。ユグドラシルでの経験から来るものが。

 ものは試しとばかりに、モモンことアインズはアイテムボックに手を突っ込むと、ペンダントを一つ取り出した。そして急いで天幕を出る。

 

「プ……ミス・シェフィールド!」

 

 本陣の方へ向かうシェフィールドに声をかけるモモン。護衛に囲まれた彼女は、足を止め振り向く。

 

「まだ何か?」

「その……。こ、これを首にかけてもらえないですか?」

 

 そう言って、ペンダントを差し出す。だが相手の方は怪訝な表情を作るだけ。

 

「どのような、おつもりでしょうか?」

「あ~その……。お、お近づきの印というか……。まあ、そんなものです」

 

 かなり苦しい言い訳だ。自分でもそう思うが、うまい言葉が出てこない。しかし相手の表情は渋いまま。

 

「いえ、そのようなもの受け取れません」

「で、では、この場で首にかけるだけでかまいません」

「…………」

 

 シェフィールドは、ため息を一つもらす。

 確かに、ロバ・アル・カリイエでの出来事を、少々の会話で綺麗さっぱりなかった事にしてくれというのは、虫が良すぎるかもしれない。これくらいは、してやってもいいだろうという気になった。ただしこれが最後だ。

 

「分かりました。この場だけです」

「申し訳ない」

「……」

 

 渋々、モモンのペンダントを首にかけるシェフィールド。

 その瞬間、頭から何かが抜けていくような感覚に襲われた。今まで感じていたものが、全て裏返るような衝撃が訪れる。一瞬目眩がするほど。

 

 シェフィールドはペンダントの飾りを両手で強く握りしめながら、身を縮めしばらく動かなかった。不審に思った護衛が声をかける。

 

「ミス・シェフィールド?どうかされましたか?」

「…………。な、何でもありません」

 

 大きく深呼吸をし、姿勢を正す総司令官の秘書。そして護衛に言う。

 

「しばらくここで待っていてください。ミスタ・モモンとの話がまだ残っていました」

「……はい」

 

 どこか不自然に思いながらも、言われた通りにする護衛達。彼らを残し、モモンとシェフィールドはまた天幕へと戻っていった。

 

 天幕の中でまたシェフィールドはまた沈黙の笛を取り出し、吹いた。一つ息を呑み、漆黒の武神に尋ねる。

 

「こ、これは……、精神操作を防ぐマジックアイテムですね」

「何故分かったのです?」

「それは後ほど。ですが、これの効果があったということは……私は精神操作を受けていたという事になります」

 

 やはりとモモンことアインズは、胸の内でつぶやく。彼女のあまりの変わり様に、いくつかの疑念を抱いたのだった。その一つが、精神操作を受けているのではというものだった。

 漆黒の武神は疑問を口にした。

 

「今の状態はどうですか?以前と違う点は?」

「なんというか……奇妙な感覚です。昨日まで感じていたものが、全く違う印象になってます」

「具体的には?」

「まずその前に、これまでの経緯を話したいと思います。その……先程は失礼しました。命の恩人を前にして、あのような粗略な対応をしてしまい……」

「いえ、気にしてませんよ。精神操作を受けていたなら、しかたないでしょう」

「ありがとうございます。では、お話します。二年前、落城寸前の王宮からどうやって姿を消したかを」

 

 シェフィールドは差し出された椅子に座り、同じく座っている二人に向き直ると話を始めた。

 

「あの日、私は使い魔として召喚されてしまったのです」

「つ、使い魔として召喚!?」

「はい。脱出の準備のため自室に戻った所で、召喚魔法のゲートが現れ取り込まれました」

「それで、姿が見えなくなったのですか……」

 

 これならいくらナザリックの力を持ってしても、見つけられないのは当然だ。すでにロバ・アル・カリイエには、いなかったのだから。

 だが使い魔としての召喚となると、当然の疑問が浮かび上がる。アインズは尋ねた。

 

「召喚主は誰です?」

「ガリア王国国王ジョゼフ一世です」

「ガリア王が?いったい何の目的であなたを?いや、そもそもロバ・アル・カリイエにいたあなたという存在をどうやって知ったのです?」

 

 知らない相手を召喚するなど、どうやったのか。それ以前に意味があるのか。役に立つかどうかも、分からないのに。

 セバスの報告書にハルケギニアの使い魔の情報はあったが、貴族の成人儀式のような説明だった。だがその実体が、こんなものだとは。アインズの知る召喚の常識から外れている。

 

 黒いローブを着込んだ妙齢の女性は、神妙な様子で話を続けた。

 

「それが、ハルケギニアの召喚魔法は、召喚主にふさわしい存在が自然と選ばれるようなのです。召喚主自身も、何が呼ばれるか分かりません。どうも私は、ジョゼフ一世にふさわしい存在だったようです」

「…………。では、召喚されたとなると、ジョゼフ一世と契約を?」

「はい。召喚後、意識を失っている間に使い魔の契約を結ばれました」

「寝てる間に使い魔契約!?」

「はい。しかもこの契約は、どちらかが死ぬまで解除されないそうです。また主も、使い魔は一体しか持てません。一生のパートナーという訳です」

「…………」

 

 唖然とするアインズ。

 

(自分が知りもしない相手を勝手に呼び出しておいて、一方的に使い魔契約とか。詐欺まがいの社員募集出してるクソ企業みたいじゃないか。しかも主にとっても、死なない限り使い魔一体だけって縛りもクソだ。状況次第で、必要な召喚モンスターは変わってくるし)

 

 ハルケギニアの召喚魔法の出来の悪さに、呆れるしかない至高の御方。なんでそんな仕様が通ったんだ、などとメーカーに文句いうような言葉が思い浮かんでしまう。

 さらに意識を失っている見知らぬ女性に、了解も得ずに一生ものの使い魔契約を結んだジョゼフとやらも、クソだと思ってしまった。

 またこれで、彼女の様子がおかしかったのも分かった。使い魔契約によって、魅了か支配の魔法がかかったのだろう。使い魔の意のままにするための付随魔法に違いない。それが精神操作阻害のマジックアイテムで、解除された訳だ。

 

 話を続けるシェフィールド。

 

「ただ私は使い魔になる事により、特殊な能力を得ました。あらゆるマジックアイテムの用途を判別し、使用できる能力です。このペンダントがどのような効果を持つか分かったのも、それが理由です」

「触っただけで、分かったのですか?」

「はい」

 

 興味を惹かれるアインズ。

 マジックアイテムに触っただけで、その機能と使い方まで分かるとは。かなりレアな能力だ。機能を判別する魔法はユグドラシルにもあるが、使えるかどうかは種族やクラス、アイテムの種類による。何でも使用可能なんてチート要素はない。

 

 腕を組んで話を聞いていたモモンは、おもむろに尋ねた。

 

「それで、これからどうされます?」

「その前に、お二方についてお聞きしてもかまいませんか?」

「……。なんについてでしょうか?」

「先程話した、モモン殿の正体についてです」

「……」

 

 黙り込むモモン。

 おそらく彼女はもう、自分の正体に半ば確信を持っている。では、それを明かすべきかどうか。だいたい知って、どうするというのだろう。祖国を滅ぼした仇討ち?いや、落城寸前の彼女は、祖国の滅亡を受け入れていた。しかも支配層であった自分の責任であるとも。

 しばらく考えた後、答えを聞いてみることにした。

 

「誰だと思われたのです?」

「……。アインズ・ウール・ゴウン殿ではと……」

「確か彼の素顔は、半分ただれていたと伺ったのですが。私の素顔は、ダラムトゥールの王宮で何度か見たのでは?」

「ええ。確かにまるで違います。ですが、系統魔法にも精霊の力にも姿を変える魔法があります。エルフを一蹴するほどのメイジが、姿を変える魔法を持ってないとは考えづらいです」

「……。それで私が、アインズ・ウール・ゴウンだとしたら、どうすると言うのです?」

「祖国を……マガーハ藩王国を見せていただくことは、できるでしょうか?」

「え?」

 

 話がいきなり明後日の方向に飛んだ。答えに詰まるモモン。

 シェフィールドは言葉を続ける。

 

「あの日、モモン殿はこういいました。アインズ・ウール・ゴウン殿を見極めるのは今でなくてもいいのではと。私は今、アインズ・ウール・ゴウン殿を見極めたいのです。どのような国作りをしているのかと」

「……確かに、そんな事を言いましたね」

 

 細かな会話は覚えてないが、似たような話をした気がする。彼女が覚えているのだからそうなのだろう。それはともかく、どうするべきか。厄介な話に、考えを巡らせる至高の御方。

 視界に入る彼女は、ハルケギニアではあまり見ない姿だ。黒いローブに目の下の入れ墨。しかしアインズは、それを見慣れていた。マガーハ藩王国の神官の姿だ。つまりは、マガーハ藩王国国王の側にいたのだ。そして今はガリア王とレコン・キスタの総司令官の側にいる。

 ふと思った。何人もの国の主を見てきた彼女ならば、何かヒントをくれるかもしれない。魔導王というものを扱いかねているアインズに。

 

 モモンは、シズカの方を向いた。

 

「シズカ。外に出て、この天幕に誰も入らないようにしてくれ。ただし、相手はなるべく傷つけるなよ。面倒事は避けたい」

「はい」

 

 小さく頷いたシズカは、アサルトライフルを手に外へと出ていった。

 そしてモモンは、悠然と立ち上がる。さっきまであった、どこか慎ましい雰囲気が消える。そこには威圧感すらあった。

 

「大したものだ、と言っておくべきかな」

 

 そう言って、偽装を解くアインズ。豪奢な黒いローブに身を包んだ白骨の人外が、シェフィールドの前に現れた。腹に紅玉を収め、いかめしい頭蓋の眼窩に赤い光を灯す化物が。

 対するシェフィールドは一瞬怯んだが、一つ深い息をすると、静かに口を開いた。

 

「やはり、そうだったのですね」

「私の姿を見て、あまり驚かないようだな」

「実は、一度そのお姿は目にしています。あの落城の日、城内から魔法を使ってですが。最初は、別の仮面を被っているのかと思いましたが、どうしてもそうは思えませんでした。あの姿は、アインズ・ウール・ゴウン殿の真の姿にしか」

「そうか」

「あの……なんとお呼びすれば?」

「ん?ああ、私はアインズ・ウール・ゴウン魔導王という」

「魔導王陛下……」

 

 その言葉を口にした彼女は、一度、深く礼をした。

 

「その……魔導王陛下。先程の件ですが……」

「では、今から行くとするか」

「え?今からですか?どのように?」

「私は転移魔法を使う事ができる。ハルケギニアからロバ・アル・カリイエへ行くことなど、私にとっては一歩あるく程度のものでしかない」

「……!では、よろしくお願いいたします」

「ああ。ゲート」

 

 アインズが手をかざした先に、人間がすっぽり入るほどの黒いモヤが現れる。ただモヤの先は見えない。

 

「後に付いてきてくれ」

「分かりました」

 

 モヤへと進んでいくアインズと、シェフィールド。

 

 抜けた先、視界が開けると、広がる畑が目に入った。その先に見える山の形、空の色、ただよう空気の匂いに温度、シェフィールドにとって覚えのあるものばかりだ。帰ってきた実感が、彼女の胸に湧き上がる。

 ただし、まるで見たことのないものもあった。というより異様なものが。

 白骨の躯が畑を耕していた。真っ黒で巨大盾を持った恐ろしげな躯の騎士が、畑の縁を進んでいた。馬車には馬の代わりに、黄色い淡い光を放つ白骨の馬が繋がれていた。

 驚愕したまま、身を固める彼女。故郷は、死者の国に成り果ててしまったのかという思いが、彼女の頭を過ぎった。

 

 

 

 

 

 

 

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