世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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故郷

 

 

 

 

 ロバ・アル・カリイエ、かつてのマガーハ藩王国にアインズとシェフィールドは来ていた。ここはムルヤール村。アインズ達が最初に訪れた人間の村であり、魔導国の西端だ。

 緋色に染まった久しぶりの故郷に立ったシェフィールドだが、その目は泳いでいた。なんと言っても、目に入る動くものは躯ばかりなのだから。

 悪夢にでも迷い込んだような気持ちのまま、目の前の光景へ前のめりになる。そして隣に立つ異形の王へ尋ねた。

 

「ま、ま、魔導王陛下……。あ、あれは?」

「ああ、農作業の最中のようだ」

「え?は?の、農作業……?そ、それはそうですが……」

 

 農作業と聞いたが、あんな骨しかない身でも食料が必要なのか。そもそも、ここに住んでいた人間たちはどうなったのか。嫌な予感が走る。

 

「その……マガーハ藩王国はどうなったのでしょうか?」

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国に組み込んだ」

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国……。魔導王陛下のお名前を冠した国となったのですね。この国は」

「ここだけではない。ロバ・アル・カリイエ全土が我が領土だ」

「と、統一されたのですか!?ロバ・アル・カリイエを?」

「そうだが」

「わずか二年で、ですか!」

「もう少し短かったがな」

「な!」

 

 開いた口が塞がらないとはこういう事かと、思い知るシェフィールド。

 百年は続いた、ロバ・アル・カリイエの戦乱が二年も経たずに収まってしまうとは。アインズ・ウール・ゴウン魔導国の強大さを、直截に物語るものだ。思わず息を呑んでしまう、元神官の女性。

 そんな彼女の胸中に構わず、アインズは先に見える建物の集まりを顎で指した。

 

「まずは村の中心まで行ってみよう」

 

 先へと進んでいくロバ・アル・カリイエの覇王に、緊張感を抱えながら続くシェフィールド。

 

 建物に囲まれた村の中心が見えてくる。すると、動いているものが彼女の目に入った。むしろを広げ、座り込んで作業をしている。よく見ると人間だ。胸をなでおろすシェフィールド。別にいなくなった訳では、ないらしい。ただそうなると、あの躯達は何なのかという疑問が湧く。

 

「その……魔導王陛下……。畑にいたあの躯達はなんなのですか?」

「ああ、あれはこの村に貸し出したアンデッドだ」

「アンデッド?」

「妖魔の一種……負の魂を持った存在、と言った方が分かりやすいか。あれらは私が作り出した」

「よ、妖魔を作ったのですか!?」

「そうだ。私は様々なアンデッドを作り出す事ができる。いくらでもな」

「……!」

 

 またも口を開けたまま固まってしまうシェフィールド。妖魔を作り出すとはと。隣にいる存在は、メイジなどという枠の存在ではない。人知を超えた神や悪魔の類なのかもしれないと、認識を改めた。

 ただ同時に不安も浮かぶ。なんと言っても、妖魔なのだから。

 

「あの妖魔……アンデッド達は大丈夫なのでしょうか?」

「問題ない。全て私の支配下だ。国民を襲う事はない。法を犯さなければな。アンデッドは不平も言わず、不眠不休、寿命もなく、食事などなくとも活動し続ける。様々な用途に使えるという訳だ。ここでは、農作業や警備に使ってるようだな。あれらは魔導国が、有料で貸し出している」

「妖魔を有料で貸し出してる!?」

 

 ハルケギニアで、ガーゴイルという魔法人形を警備などで使っている場所はある。ただしガーゴイルは動くために魔力が必要だ。そのため王宮などの一部重要施設でしか使えない。農作業で使うなど、ありえない。

 しかしアンデッドはそれらが必要ない。これで農民たちは重労働や夜間の見張り役から開放され、別の仕事に手を回せる。国の収入も増す。異形の王の施策に、思わずうなるシェフィールド。

 

 一方、村人たちは近づいてくる人物に気づいた。手を止め慌てて立ち上がると、深く礼をした。村人の一人が駆け寄ってくる。

 

「これは、魔導王陛下!何故このような場所に!その、このような姿で申し訳ありません。すぐにおもてなしの準備を……」

「いや、私にかまわなくていい。仕事を続けてくれ」

「は、はい……」

「まあ今回は視察……散歩のようなものだ。気にすることはない」

「そう言っていただけると、助かります」

 

 そう答えた村人は、元の場所へ戻っていく。やがて他の村人も作業を再開した。

 村人達の直ぐ側まで来たアインズ達。すると一人の村人が、立ち上がり声をかけてきた。

 

「魔導王陛下……。その隣にいらっしゃる方は、もしかしてプーリヤンカ様では?」

「ああ、そうだが」

「帰ってこられたのですか?」

 

 とりあえず、頷くシェフィールド。そんな彼女にアインズは尋ねた。

 

「知人か?」

「いえ……」

 

 すると村人は、ばつが悪いかのように話し始めた。

 

「私はかつてこの辺り一帯の代官をやっておりました」

「代官を!?」

「はい。もっとも所詮、辺境の代官です。プーリヤンカ様と面会したのも、数える程です。ご存知ないのも無理はないでしょう」

「しかし……代官と言えば戦士階層では?何故、農作業を?」

 

 その答は隣に佇む異形の王から出てきた。

 

「私が階層制度を廃止したからだ」

「階層を全てなくしたのですか!?」

「そうだ。ロバ・アル・カリイエ全土で禁止にした」

「ロバ・アル・カリイエ全土から……!」

 

 シェフィールドは表情も身も固めてしまう。あまりの驚きに。

 確かに不合理な制度ではあった。生まれにより立場が決まるなど。このため、ビャールナン王や彼女の父のような、無能な人物に国のトップに付くとどうにもならなくなる。

 しかし何百年続いていたか分からないほどの、頑強な制度でもあった。それをわずか数年でなくしてしまうとは。

 彼女には、魔導王のいかめしい頭蓋が荘厳なものに見えてきた。

 

 アインズは雑談でもするように話しかける。

 

「さてと、次は王都に向かうか」

「ダラムトゥールにですか?」

「いや、そこは王都ではない。王都は別に建設した」

 

 するとアインズはこめかみに指を添えた。

 

「アルベド。私だ。これから王都へ向かう。客人を一人連れて行くので、客間を準備しておいてくれ」

 

 横でその様子を見ていたシェフィールドは、遠距離連絡をしていると察する。彼女自身も遠距離連絡用の魔法人形を使い、アルビオンからガリアのジョゼフと連絡を取っていた。魔導国にはマジックアイテムではなく、魔法として存在するらしい。

 指示を終えると、アインズはゲートを発動させる。二人は村人の礼に送られ、ゲートを潜って行った。

 

 

 

 

 ゲートの先にあったのは、シェフィールドが似たようなものすら見たこともない城だった。表現しづらい形をしている。ロバ・アル・カリイエにはもちろん、ハルケギニアでも見たことはない。ただ作り自体は見事なのは確かだ。

 シェフィールドは、感想を言葉にするのに困っていた。

 

「これは……その……堂々たる城ですね。このような意匠の城は、見たことがありません。さすが魔導王陛下の居城だけはあります」

「そ、そうか……」

 

 とりあえず褒められているらしい、と安堵するアインズ。

 

 魔導国を建国した後、王都と王城をどうするかが議題に上がった。王都はそれほど時間もかからず決まったのだが、王城のデザインは少々もめた。

 まずロバ・アル・カリイエの城のデザインは即却下。ナザリックの者が、下等な人間たちと同じものを作る訳がないと。次の案はユグドラシルでもよく見た中近世ヨーロッパ風の城。ただこれはハルケギニアでよく見るので、こちらも却下。そしてエルフの国、ネフテスの近代建築のような建物だが、ただのビルのような見た目はアインズがサラリーマン時代を思い出すので、至高の御方自らが却下。

 その後、守護者達を含めたナザリックの者たちが、それぞれが好みのデザインを押すが定まらず。その時、ふとアインズが安土城という言葉を口にしてしまう。それが切っ掛けで、デザインが決定。魔導王の居城は安土城ベースの和風の城となっていた。

 ただ安土城は当時としても、かなり奇抜なデザインだった。以降の城に比べ、仰々しいところがある。アインズ自身は正直失敗したという気持ちもあった。なので、ナザリックの面々以外の感想が気になっていた。

 

「正直……どのような感想を持った?」

「壮麗な城だと思います」

「そ、そうか……。壮麗か……」

 

 なんとも微妙な声色の反応の魔導王。シェフィールドは神妙になる。こんな見事な城に、何か不満でもあるのかと。もっとも、城のデザインについてとやかく言えるほど知識はないが。

 ふと辺りへと意識を向ける。

 

「ここは、どこなのですか?」

「ん?ああ……。ガナジャイディー藩王国の元王都だ」

「こ、ここが!?」

 

 彼女自身は、敵対した隣国のガナジャイディー藩王国に踏み込んだ事はない。ただ元は一つの帝国が分裂したのが、ロバ・アル・カリイエだ。各藩王国の文化自体は似通っている。ここにも、彼女が馴染んだものがあったはずだ。

 しかしこの町には、その気配すら残ってなかった。町の建物も見たこともない造形で、道は幾何学的に作られており、雑然としたよく見る町とはまるで違っていた。王都を一旦平地に戻し、作り直したかのようだ。

 一方で、人影はまばらだ。むしろ警備のアンデッドの方が目立つ。

 見知った町とのあまりの違いに、当然の疑問が浮かんだ。恐る恐る尋ねる。

 

「ガナジャイディー藩王国自体は……いかがされたのです?」

「滅ぼした。住民もろとも跡形もなくな。魔導国建国後、最初に攻め込んできたのがガナジャイディー藩王国だ。その火事場泥棒に、私は見合うだけの罰を与えた」

「……」

 

 息を呑むシェフィールド。先に手を出したのがガナジャイディー藩王国だったとは言え、兵や支配者層だけではなく、住民までも殺してしまうとは。

 さらに疑問は続く。

 

「では……他に攻めてきた国も同じく……」

「そうだ」

 

 あっさりと言い切るアインズ。対するシェフィールドは、またも息を呑む。この脳裏を叩くような感覚は、祖国に戻ってきて何度目か。

 一体どれほどの人間が、あの死者の軍勢に命を奪われたのか。

 だがその理由を、残酷さからとか、単に報復的な意味でやったとは思えなかった。先にあのムルヤール村の光景を見たからだ。

 思い浮かんだ理由の確認を取るためか、尋ねるシェフィールド。

 

「統一事業の後半は、戦はほとんど起こらなかったのでは?」

「そうだ。ロバ・アル・カリイエの三分の一程度支配した後は、次々と恭順する国が出てきた。時間的には、それまでの方がかかったな」

「そうですか」

 

 納得顔の虚無の使い魔。

 恭順すれば繁栄を、逆らえば滅亡を。相手にその選択肢を見せつけたのだ。だからこそ建国から二年も経たずに、ロバ・アル・カリイエ全土を統一できたのだろう。

 アインズは雑談でもするかのように話す。

 

「もっとも統一後の方が厄介だ。未だに問題山積だ」

「統一して一年も経っていないのです。それは無理からぬことかと」

「それはそうなのだがな……」

 

 やがて城門の前まで来た。自然と門が開く。見えた先に真っ直ぐで長い階段が続いており、館は登った先にあった。たどり着くには少々時間がかかりそうだ。

 これも山城だった安土城を真似てしまった結果なのだが。ただ平地に作った城なので、山の代わりに無駄に石垣が高くなっていた。ともすれば、ピラミッドの上に天守閣や各種館があるような奇妙なデザインだ。どちらも知らない者からすれば、こういうものなのだろうとは思うだろうが。ちなみに無駄に高い石垣の内部にも施設はあった。

 

 アインズはため息を漏らしながら、天守を見上げた。なんでこんなデザインを、了解してしまったのだろうと。

 気持ちを切り替えると、隣の女性に話しかける。

 

「こんな階段を登るは、少々辛いだろう。一気に上にいってしまおう。グレーターテレポーテーション」

 

 シェフィールド達は階段の最上段まで転移する。そして館の正門の前にたどり着いた。正門が開かれる。その先にいたのは、白い衣装に身を包んだ黒髪の女性だった。ただし頭から角が生えており、腰からは黒い羽が生えている。

 人間でないのは確かだ。しかも、その美しさは人間離れしすぎていて、妖魔などとはとても言えない。彼女もまた人知を超えた存在に思えた。

 彼女はアインズに対して、深く礼をする。

 

「おかえりなさいませ、アインズ様」

「ただいま、アルベド。留守中、仕事を任せてすまなかった」

「いえ、配下の者として当然の事です。それで、その方がお客様ですか?」

「そうだ。紹介しよう。名は……なんと呼べばいいかな?」

 

 隣に立つ、妙齢の女性の方へ視線を送るアインズ。かつての名、プーリヤンカか、それとも今のシェフィールドか。

 問われた元神官の胸の内は、もう決まっていた。故郷に帰っても、新たな道に進むと。

 

「シェフィールドとお呼びください」

「そうか。名をシェフィールドという」

 

 頷くアルベド。次にアインズは頼りにしている片腕を紹介する。

 

「シェフィールド。彼女は我が腹心、アルベドだ」

「はじめまして、アルベドと申します。アインズ・ウール・ゴウン魔導国において守護者階層を拝命しております」

 

 角の生えた美麗な女性は丁寧な対応を見せる。見事な立ち振舞に、シェフィールドは称賛の気持ちすら浮かんでいた。

 そんな彼女に構わず、アルベドは振り返ると口を開いた。

 

「お客様の案内を」

 

 そう指示されたのは、アルベドの後で控えている女性。

 普通のメイドがいた。彼女も見た目だけではなく、立ち振舞が洗練されていた。もっともシェフィールドには、メイドはこれまで見た人外ではなく人間のように見える。てっきりアインズの配下には人間はいないのかと思ったが、そうではないらしい。ただロバ・アル・カリイエの人間ではなく、ハルケギニアの人間に近く見えたのは気になったが。

 メイドの後に続き、ほどよい大きさの客間に入る。造形も調度品もこれまた素晴らしいもので、また出されたお茶と茶菓子も口にしたことがないほど美味だった。

 

 やがて一息つくと、おもむろにアインズは尋ねる。

 

「この国をどう思った?率直な感想が聞きたい」

「感想……ですか……」

 

 ややうつむいて考え込むシェフィールド。しばらくして顔を上げ、口を開く。

 

「ムルヤール村と王都を見て、魔導王陛下の統治の見事さに感心いたしました」

「ふむ……」

「ただ、問題が山積しているとも伺いました。統一を急ぎすぎたのが原因と思われます。ですが、陛下のお力を持ってすれば、ロバ・アル・カリイエの統一は足場を固めつつ実行しても可能であったのではと考えます。そうすれば、発生した問題も多くはなかったのではないかと」

「そ、そうか……」

「しかしそれが予測できない、魔導王陛下とは思えません。理由が他にあったのではと考えています。急ぐべき理由が」

「急ぐ理由?」

「ロバ・アル・カリイエに……、いえ、世界に危機が迫っているのでないでしょうか?だからこそ、統一を急ぎ、全ての力を陛下の元に結集せねばならないのかと」

「は?」

 

 話があらぬ方向に進み始めている。アインズの脳裏に嫌な予感、というかよく見た光景が思い浮かんだ。しかし、最後まで一応聞いてみようと考える。せっかくのナザリック以外の人物の意見だ。参考にするかどうかは、全部聞いてから決めていけばいい。

 

「……。先を続けよ」

「はい。魔導国統治に問題を抱えながらも、アルビオンへ訪れハルケギニア自体への干渉を開始されたのも、それが理由ではないでしょうか?そして。当然、隣国であるエルフの国のネフテスにも、手を打っているのでは?」

「ま、まあ、確かにネフテスにも部下を派遣してはいる……」

「やはり……。その……不躾ではありますが、お聞きしたくあります。世界の危機とはなんなのでしょうか?」

「…………」

 

 アインズは表情を全く変えない、いや変えられないのだが、ともかく黙り込んだままだった。しかし胸の内は当惑状態。

 

(世界の危機ってなんだよ。っていうか何?この流れ。彼女もアルベドとかデミウルゴスと同じ思考パターンなのか?これ頷いたら、魔導国は世界を救うために存在するみたいになっちゃうよな。参考になればって話を聞いてたけど、無視するか?でも否定して、じゃあ何が目的?とかツッコまれても困るし……)

 

 思考をぐるぐると空回りさせていた至高の御方を前に、シェフィールドは何かに気づいたかのように、いきなり深く頭を下げる。

 

「失礼いたしました!」

「え?」

「配下でもない私に、陛下が真意をお教えになるはずもありませんでした。差し出がましい事をお聞きしました。申し訳ございません」

「いや、まあ……その……。許す」

「では、そのお答えがいただけるよう、陛下の信頼を勝ち得たいと思います。私をアインズ・ウール・ゴウン魔導国の末席に加えていただけないでしょうか!」

「待て、待て、待て!何故そうなる!?」

 

 動揺したように返すアインズ。

 あまり色よい返事の出てこない魔導王に対し、シェフィールドは猛アピール。

 

「私を配下にしていただければ、陛下にとって大きな貢献ができると考えております。言いそびれておりましたが、私は虚無の使い魔です。先程言いました、あらゆるマジックアイテムが使えるというものも、この力によるものです」

「何!?虚無の使い魔?いや、待て、虚無の魔法は実在したのか?」

「はい。私を召喚したジョゼフ一世。彼こそ虚無の魔法の使い手です」

「単なる神話ではなかったのか……」

「はい」

 

 思わぬ有益な情報の収穫に、顎を抱え考え込むアインズ。

 虚無については実在が疑わしいと報告にあったので、調査の優先順位が低かった。しかし存在が証明されたとなると話は別だ。ハルケギニアにおける、最大の脅威になる可能性がある。少なくとも、その詳細を知っておく必要はあるだろう。

 それはともかく、彼女に聞いておかないといけない事がある。アインズは姿勢を変えると疑問を口にした。

 

「一つ聞きたい。何故そこまで私の配下になりたい。私は、世界に危機が迫っているなどと言ってないし、世界を救うともいってないぞ」

「…………。理由は非常に矮小な私事からです」

「ん?」

「私は、ビャールナン王、ジョゼフ一世国王と、国の主を何人か側で見てきました。また他の王の事も調べて知っております。ビャールナン王はまさしく愚物であり、ジョゼフ一世の中身は幼子も同然。トリステインの王族は王位を継ごうという覚悟もなく、未だ玉座は空位のまま。ロマリアの教皇は、みずからの足元すら治める事ができません」

「……」

「愚かな王ばかりのこの世界で、魔導王陛下は人知を超えた統治の片鱗を見せていただきました。私が仕えるのはこの方しかいないと確信したのです。王のありようを、魔導王陛下は示してくださったのです!」

「……」

 

 アインズは、またも身を固めたまま動かなかった。

 

(いや、王のありようを知りたいのは俺の方なんだけど。どうするかなぁ……。)

 

 眼の前の女性に視線を向けるアインズ。信念を持ったかのような顔があった。おもむろに尋ねる至高の御方。

 

「一つ、質問をしよう。お前ならば、今後、魔導国をどう進める?」

「私ごときの意見など……」

「参考までに聞くだけだ。先にどういう考えを持つか知っておきたいしな」

 

 口をつぐみ、難しい顔で黙り込むシェフィールド。しばらくして口を開いた。

 

「世界の危機に対処するためには……」

「いや……世界の危機なんて……」

「はい?」

「つ、続けよ」

「はい」

 

 シェフィールドの頭の中では、世界の危機が迫っている設定は決定事項らしい。ツッコミを入れて話が脱線するのも面倒なので、そのままにしておく至高の御方。

 

「魔導王陛下の元に世界中の力を結集し、全ての者が陛下の望まれる力を得ることが理想です。しかし急がれている以上、成長を待っている時間もないでしょう。ならば世界を使いこなすしかありません」

「世界を使いこなす……か」

「世界にあるものを知り尽くし、全て管理するのです」

「…………」

 

 眼の前の女性が熱く語るのを耳に収めながら、ふとアインズはユグドラシルでの事を思い浮かべていた。

 

(世界を知って管理するか……。俺のプレイスタイルって収集癖から来てたのかもな。魔法もアホみたいに習得したし。無駄な魔法もかなりある。あちこち冒険行ったのも、ボス討伐とかよりアイテム集めが主目的だったような気がする。そして集めた宝を並べて悦に入ってたなぁ。もちろん管理もしっかり。俺のやり方か……。そんなスタイルでやってみるかな、王様。ダメだったら……そん時はそん時だ)

 

 アインズは自分が唯一作ったNPCを思い出した。あのドッペルゲンガーは、アイテムへのこだわりが半端ではない。あれが自分の本質だったのではと。

 王様だからと構えても、結局の所、上っ面をなぞるような事しかできそうにない。ならいっそ、自分本来のスタイルにまかせてみる気になっていた。

 

 異形の王は、わずかに笑いを漏らした。

 

「フッ……。そうだな。私の元に全てを集めるとするか」

「魔導王陛下……」

「お前の考えは分かった。いいだろう。シェフィールド、魔導国の臣下に加えよう」

「ありがとうございます」

 

 シェフィールドは深く頭を下げた。

 

「とりあえずはハルケギニア方面担当とする。現在ハルケギニア方面のトップは、セバス・チャンという者に任せている。その下に付け。魔導国の詳細については、セバスから聞くがいい」

「はい」

 

 頷いた彼女は、自分の上司となる人物の名を聞いて、少々驚きを浮かべた。

 

「え?セバス・チャン様?もしやセバスチャン商会の商会長でしょうか?」

「そうだが?知っていたのか?」

「知っていたといいますか……近年、急速に成長している商会なので、ハルケギニアではかなり名が広まっております」

「まあ、ハルケギニアの拠点を広げろとは命じたからな」

「さすがは魔導王陛下……」

 

 想像以上の魔導国の手の長さと速さに、感服するしかないシェフィールド。やはり至高の王は目の前にしかいないと、確信するのだった。

 そんな彼女を他所に、アインズはアイテムボックから指輪を一つ取り出す。そしてテーブルに置いた。

 

「これを渡しておこう」

「これは?」

「これも精神操作阻害のマジックアイテムだ。ペンダントだけでは、もしも破壊した時に対応できないからな。念のためだ」

「ありがとうございます」

 

 手にした指輪を左手の薬指に嵌める、妙齢の女性。アインズはその様子を見て、左手の薬指に嵌めるという意味を思い出していた。ただ、こっちの世界でも同じ意味なのかと疑問にも思ったが。

 頭を切り替えると、話題を変えるアインズ。

 

「さっそくだが、いくつか聞きたい事がある」

「まず、ジョゼフ一世の使い魔であるお前と、レコン・キスタを率いるクロムウェル……だったか。あれとはどういう関係だ?」

「あの者はアルビオンを手駒にするための傀儡です。正体はただの平民司教であり、マジックアイテムにより虚無の担い手に偽装しております」

「何故、アルビオンを手駒に?」

「ジョゼフ一世からの命でしたので。ただ、その目的については聞かされておりません」

「ふむ……」

 

 目的も知らせずに命令だけ出したのは、理解し難い。その時、ふとアインズは思った。もしかして自分みたいに、口を滑らしただけだったりしてと。眼の前の黒髪ロングの女性は、アルベドやデミウルゴスみたいな所がある。ジョゼフは、引っ込みがつかなくなっただけかもしれない。

 ともかく、虚無の担い手でもあるのだ。一度会ってみる事にした。

 

「ジョゼフ一世に会ってみたい。手引を頼む」

「構いませんが、ジョゼフを配下に加えるのですか?しかし、あの男に忠誠心を求めるのは無理かと」

「会ってみるだけだ。まあ、状況次第でもあるがな」

 

 とりあえず、それっぽい事を返す至高の御方。

 

「最後の質問だ。アルビオン王家の者たちの遺体を、どうするつもりだったのだ?なるべく傷つけるな、と命令を出してたようだが」

「様々な用途に使おうかと。例えば、レコン・キスタへ王位を禅譲するように演出するなどでしょうか」

「王家の者はすでに死んでるぞ。どうやるのだ?」

「死者に偽りの命を与え、下僕とするマジックアイテムがあります」

「ほう、それは面白い。アンデッドを作るマジックアイテムか。いや、待て。この世界では、アンデッドはいないはずだ。蘇った死者は、永遠に存在できないのか?」

「はい。与えられた魔力を元に動いてますので、限界があります。ただし、動いている間は、傷ついてもすぐに直してしまうほど強力です」

「なかなか興味深いな」

 

 その死者を蘇らせる、マジックアイテムを欲しくなってきたアインズ。今はとりあえず頭の隅に置いとく。

 

「王家の者を傷つけずに確保した理由は分かった。だが二人を粗略に扱うのは許さん」

「はい。分かりました。ただ……その……理由を伺ってもよろしいでしょうか?」

「ウェールズとの約束だ。そうだ、もう一件もお前に頼もう」

 

 ウェールズとの約束は、王家に恥をかかせぬ事。もう一つは、婚約者のアンリエッタ王女にメッセージを伝える事だ。

 前者の約束から、遺体で謀略などさせる訳にはいかない。ただ後者をどう叶えるか、アインズにはさっぱり思い付かなかった。そこで王女と同じ女性のシェフィールドなら何か思いつくのではと、丸投げする事にした。

 

 アインズはアルベドに、シェフィールドが配下に入った事を伝える。そしてナザリック地下大墳墓の全ての者へ知らせるよう指示を出した。

 やがて全ての話が終わると、二人は王城を出てゲートの魔法でニューカッスルのレコン・キスタの陣へと転移する。その頃には、すっかり日は落ちていた。

 シェフィールドは長時間モモンの天幕にいた事になってしまったので、あらぬ噂が立つのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

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