アルビオン王国テューダー朝がレコン・キスタに滅ぼされ十日ほどが経った。その後、レコン・キスタは神聖アルビオン共和国を名乗り、その総司令官だったオリヴァー・クロムウェルは皇帝を称する。
そんな歴史的事件があったのだが、それより目前の事だけに頭がいっぱいな人物がトリステイン魔法学院にいた。平賀才人である。
放課後。広場で対峙する二人を三人の生徒が眺めていた。その三人は、ルイズにキュルケにギーシュ。対峙している一方は、雪風の二つ名を持つタバサ。そして相手は豪奢な鎧に身を包み、二本の大剣を手にした才人だ。左手にはデルフリンガー、右手にはソード・オブ・テューを装備している。
ただ二本の大剣は、以前とは大分様変わりしていた。デルフリンガーは買った当初のような錆ついた姿ではなく、黒光りした見事な片刃の剣となっている。一方のソード・オブ・テューは包帯のような布でぐるぐる巻きにされていた。
片刃のデルフリンガーは峰打ちができるが、両刃の剣であるソード・オブ・テューはそれができないので、もしもを避けるためにこんな姿となっている。
それでは才人とタバサは何をやっているかというと、稽古、要は戦闘訓練だ。
ユグドラシルの力が使えなくなった才人が、ガンダールヴの力に慣れるために、練習相手を頼んだのだった。
最初はいろいろと世話になっているコルベールに頼もうとしたが、教師としての忙しさもあり諦める。次に頼んだのはギーシュ。あの決闘以降、彼とは話すことが多くなった。友人と呼んでいいかもしれない。彼自身も自分の未熟さを思い知ったのか、二つ返事で了解。
そして次はキュルケに声をかけてみた。フーケ騒動以降、才人に興味を持ったのか何かとからんでくる。それで頼んだのだが、厄介な条件を付けられたのでこちらも断念。
すると何故か隣にいたタバサが、練習相手を立候補。彼女もフーケ騒動以降、才人と話す事が多くなった。無口な彼女には珍しく。
ただその内容は、あの力、ユグドラシルでの能力が中心だった。あんなものを目の前で見せられては、興味を持つのも無理はない。ただ彼女は好奇心というよりは、まるで調査しているかのような雰囲気があったのは気になったが。もっとも真相を言うわけにはいかないし、アダプターのバッテリーが切れた今では、言った内容を証明しようがない。
勝負の方はややタバサが優勢だが、一方的という訳でもなかった。
理由の一つは鎧の頑強さ。才人の鎧、アーマー・オブ・エイルを傷つけるのは系統魔法では、まず不可能だ。さらにデルフリンガーの能力。これまでの練習試合で彼が思い出したのだが、魔法を吸収し効果をなくす能力があった。それを切っ掛けに、錆も消え失せた。そしてユグドラシルでの剣士としての経験。もっとも二刀流は初めてなので、試行錯誤もあるのだが。
ただそんな彼からして、タバサも妙に実戦慣れしているのは気になった。攻撃や避けるタイミングが絶妙だったのだ。学院ではトップラクスのトライアングルメイジとして魔法技術ばかり着目されるが、戦い方も抜きん出ている。ユグドラシルの能力にやけにこだわる点といい、この青髪の小さな少女に、妙な違和感を覚える少年聖騎士だった。
「はい、そこまで」
横からギーシュの声がかかる。制限時間が来たようだ。才人はタバサの元による。
「ありがとな。今日も、付き合ってくれて」
「……。大分動きがよくなってきている」
「そっか」
「元々基本ができてたからだと思う。どこで剣技を身に着けたの?」
「え……。ロ、ロバ・アル・カリイエで騎士やってからさ」
「ホント?」
「ホント、ホント」
仰々しく頷く才人。すると急に手が引っ張られた。ルイズだった。
「ほら、練習終わったんだからとっとと帰るわよ」
「あ、ああ……。じゃあ、またな!」
残った三人に手を振る才人。広場に立ったままのタバサに、キュルケとギーシュが寄ってくる。三人は、小さなピンクブロンドの少女に引っ張られていく聖騎士を、それぞれの思いを抱きながら見つめていた。
金髪の美少年が口を開く。
「よくあんな重い鎧着て、あれだけ動けるよな」
「ええ、しかも大剣を二本も持ってよ」
赤髪の少女も感心するやらあきれるやら。サイトが日々体を鍛えているのは知っているが、それでも異常だ。
青髪の小さい少女がポツリと、訝しげに零した。
「普通じゃない。あれだけ重量の装備を、使いこなしてる」
「そうね。フーケの時といい、何者かしら?」
キュルケはギーシュとの決闘時点では、平民の割には中々やる程度にしか思ってなかった。しかしフーケ捕縛時のサイトを見て、もはやハルケギニアの人間の枠から外れていると考え始めている。ロバ・アル・カリイエから来たなどというのも嘘だろう薄々感じていた。それはタバサも同じ。
もっとも彼らにも思い違いがあった。才人はユグドラシルの力もガンダールヴについても教えてないので、タバサ達にはこれらの区別がついていなかったのだ。
ともかくサイトは珍しい平民の使い魔から、得体のしれない人物になりつつあった。人間的には、親しみやすくはあるのだが。
ルイズの部屋で鎧を脱ぐ才人。その左手には小さなナイフが半端に握られていた。大剣を手にしながら、装備を扱うのは一苦労なので、こういう時のために買っておいたのだった。
装備を片付けている最中、ルイズはずっと不満げだった。
「分かってる?あんたは私の使い魔なのよ!なんでタバサとかといつも練習してんのよ!」
「そりゃ、強くなってお前を守るためだよ。俺はお前の使い魔だし」
「…………。私じゃ、練習相手にならなくて悪かったわね」
「いや、そういう話じゃなくてさ……」
最近、ルイズはタバサ達と練習すると、何故か突っかかってくるようになった。正直どう返せばいいのか、彼自身戸惑っていた。
確かに、彼女は系統魔法が使えないのを気にしている。だから、授業でも戦闘訓練のようなものには参加できない。それを見せつけられるんで、怒っているのかもしれない。もっとも、もしかしてヤキモチ焼かれてる?という淡い期待もあるのだが、そんな訳がないとも思っていた。
対するルイズの方も、何故、こんなにも苛立つのかが今ひとつ分かっていなかった。もちろん自分の使い魔なのに、タバサ達といっしょにいる事が多いのが不満なのかもしれない、などと思ってはみたがどうにもしっくり来ない。相談できる相手もおらず、ただモヤモヤした感情をついサイトにぶつけてしまうのだった。そして後で後悔するのだが。
そんな事を思っている二人の耳に、ノックの音が入る。同時に声も。
「ミス・ヴァリエール?いらっしゃいますか?」
メイドのシエスタの声だ。ルイズとサイトは顔を見合わせる。夕食にはまだ早い。だいたい夕食で呼び出すなんて事はない。では用件はなにか。首を捻りつつもルイズは答えた。
「いるわよ。なんの用?」
「ミスタ・コルベールから頼まれたんですが、学院長がお呼びだそうです。学院長室に来るようにとの事です」
「学院長が?分かったわ。すぐに行く」
そう答えると、シエスタは去っていった。学院長からの用件となると、すぐに思いついたのがサイトとガンダールヴについて。また虚無の話でもあるのかと思う。ただそれなら、サイトにも呼び出しがかかるはずだ。自分だけというのは引っかかったが、ともかく学院長室へと向かった。
だが、学院長のオスマンから出てきた用件は、予想とまるで違った。なんと王宮からの呼び出しあったと言う。しかも王女、アンリエッタから直々に。明日、迎えの馬車が来るので準備をするようにとの話だった。
翌日の朝。ルイズは、トリステイン魔法学院の正門の前で唖然とした表情のまま固まっていた。何故なら迎えの馬車から出てきたのは、彼女と同じピンクブロンドの中年女性。ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレ。つまりルイズの母親だったからだ。
アンリエッタ王女、直々の呼び出しの話を聞いたのは昨日。魔法学院の生徒と王女という立場の二人だが、浅からぬ関係があった。
ルイズが幼い頃、彼女の遊び相手を担っていた。公爵家の娘であるルイズは、王女のアンリエッタに釣り合う立場だったというのもあったが、母親である王妃からの勧めでもあったそうだ。
二人は気が合ったのか、ルイズはアンリエッタの事を親友のように思っている。ただお互い成長するとルイズは遊び相手の任を解かれ、王宮へも簡単には入れなくなった。それ以降は、せいぜい手紙をやり取りするのが精一杯。
そんな彼女から王宮へ訪れるよう言われた。理由はなんとなく想像がつく。アンリエッタが恋心を抱いているウェールズ・テューダーの国、アルビオン王国がレコン・キスタによって滅ぼされたのだから。親友をできる限りなぐさめてやろうとルイズは気持ちを引き締め、王宮からの迎え馬車を正門で待ち構えていた。そしてやって来た迎えの馬車から出て来たのが母親だった、という訳である。
目を見開いたまま、言葉をなんとか絞り出すルイズ。
「か、母さま?」
「久しぶりね。ルイズ」
「どうして、いらしたのです?いえ、なんで王宮からの迎えの馬車に?」
「父さまと共に、王宮に呼び出されたのです。最近は、辺りが騒がしいですからね」
ルイズは察した。おそらく両親もアルビオン王国の件で呼び出されたのだろう。引退したとは言え、父親は元重臣、母親は近衛隊マンティコア隊の元隊長で、かつては烈風カリンと称された英雄だ。
カリーヌは話を続ける。
「王宮であなたに呼び出しがかかったと耳にしたものですから、私が迎えの役を担ったのですよ。久しぶりに顔も見たかったですしね」
「母さま……」
「それで、後の騎士はどなたかしら?」
「あ」
母親の問に思わず振り返るルイズ。視線の先にいたのは、フル装備をしたサイトだった。
王宮に行く際に、サイトをどうするか考えたルイズ。最初は留守番させようと思ったが、公爵家の自分は、将来王宮に出入りする可能性もある。一度、王宮を体験させようと思ったのだった。ただ正装なんてもってない彼。みすぼらしい平民姿で王宮に行く訳にもいかないと考えた末に思いついたのが、あの立派な鎧で身を包む事だった。あの豪奢な見た目なら、王宮につれていっても恥ずかしくない。
才人自身も一度、ハルケギニアの城に行ってみたかったので軽い気持ちで頷いた。
フルプレートを着込んだ才人は、背に二本の大剣を背負い、左手には鞘に入った小さなナイフをもっていた。これを手にしてないと、フル装備では立つのも難しいので。
豪奢な鎧に見包む騎士へ、公爵夫人は訝しむような視線を送る。高名な騎士のように見えるが、何故それが娘の従者のように後についているのか。
ルイズは慌てて、紹介を始めた。
「か、彼はヒラガ・サイトと言って、私の使い魔なのです」
「ほう……彼がそうなのですか」
ルイズは進級できた事を両親に手紙で伝えていた。その中に、人間を使い魔としたと書かれていた。人間を使い魔にしたなど信じがたかったが、進級したのも事実なので信じざるを得なかった。
カリーヌはサイトに話しかける。
「素性を聞いてもいいかしら?母としては、娘の使い魔がどんな人物か知っておきたいのよ。それに、立派な鎧に大剣を二本も背負って。どこかの国の近衛兵だったのかしら?」
「えっと……」
言葉につまりながら、主へとわずかに顔を向けた。どこまで明かすべきかと、合図を送る。それに小さく首を振るピンクブロンドの少女。
使い魔の少年は口を開く。
「ロバ・アル・カリイエから来ました」
「ロバ・アル・カリイエ……。それで、どういう役職でしたの?」
「役職?」
「そうですよ」
そんな設定は考えていなかった才人。今まではロバ・アル・カリイエ出身と言えば、相手はそれ以上詮索しなかったので。想定外の展開に戸惑う、少年聖騎士。だが、上手いかわし方が思い浮かばない。
「あの……役職はですね……」
才人へ向けられるカリーヌの目線が、だんだんと厳しくなっていく。やがてそれは少しずれ、ルイズへと向かった。ピンクブロンドの少女は直感した。この恐るべき母親が、不快感を抱いていると。
「ルイズ」
「は、はい」
「母に隠し事は許しませんよ」
「あの、その……。が、学院長か止められてるんです!」
「学院長が?そうですか……。ならこの話は後にしましょう。それより、確かめないといけない事がありますから」
「確かめないといけない事?」
首を傾げるルイズ。公爵夫人は落ち着いた様子で話し始めた。
「ええ。ここに来た理由の一つはルイズを迎えに。もう一つは使い魔の品定めしようと思ったのよ。娘の側にいる者の力量をね」
「ま、待ってください、母さま!姫殿下から呼び出しを受けてるのです。急がないと!」
「分かってますよ。だから少し早めに来ました。時間の余裕はあります」
「な……」
言葉のない娘。ようやく王宮からの迎えの馬車に、母親が乗っていたのか理解した。
カリーヌは視線を使い魔の少年へ向ける。
「あなた名前は?」
「平賀才人って言います」
「手合わせしてもらえるかしら?」
「えっと……。どうする?ルイズ?」
聞かれたルイズは返答に詰まる。だが、この母を前にして拒否権はない。彼女はサイトの方へ向き直る。
「サイト、母さまはスクウェアクラスよ。タバサより強いわ。気合い入れなさいよ!」
「スクウェアクラスか……。よし!分かりました。やりましょう」
許可がでると同時に、才人はカリーヌの方を向いて頷いた。彼自身も、今の力がどの辺りか試したくもあった。
そんな様子を見ていた彼女は、わずかに口元を緩める。スクウェアと聞いて怖気づくのではなく、あっさりと勝負を受け入れるとはと。
「では、まずその鎧を脱いでもらいましょうか。いつも鎧を着てる訳じゃないんでしょ?」
「そうですけど……」
「私は、日常でのあなた力の程を知りたいのです。普段の格好になってくれない?」
「……。分かりました」
鎧を脱ぎ始めながら、少年剣士は考えていた。鎧を着ない状態での訓練はあまりやってなかったと。装備の重量に慣れるためというも、目的の一つだったからだ。
素顔を晒したサイトに、カリーヌは少々驚く。意外に若い事に。ルイズとそれほど年齢は違わないように見える。
「では勝敗は、降伏するか戦闘不能になるか、ある程度怪我をしたらという事にしましょう」
「け、怪我!?母さま!これから王宮に行くんですよ!怪我してる姿で、姫殿下に謁見なんてできません!」
「それなら心配しなくて大丈夫です。治療に長けた知人を連れてきてますから」
娘の慌てぶりを他所に、カリーヌの言葉と同時に近衛兵が一人馬車から出てきた。おそらくマンティコア隊の、治療担当のメイジだろう。それにしてもここまで用意していたという事に、ルイズは唖然とした。ただの腕試しでは済まないのではないかと。
厳しい表情で、サイトの方へ振り向いた。
「サイト!母さまは本気よ!」
「らしいな」
一方の才人。主の不安を他所に、少しばかりが楽しくなってきていた。ユグドラシルでの緊張感を、思い出して。
カリーヌも革製の狩装束に着替える。さすがにドレス姿では戦えないので。さらにフライ等、空を飛ぶ魔法は使わないルールとなった。
二人は広場へ移動、中央で対峙。離れた場所にルイズと治療のための近衛兵が佇んでいる。試合開始の合図を任されたルイズは、不安顔で二人を見つめていた。正直彼女には、この勝負がどんな展開になるのか想像がつかない。
少年剣士へ探るような視線を向けるかつての英雄。二本の大剣を手にする彼は、多少不慣れな部分も見られるが剣士の構えとしては悪くない。さらに表情に怯えが見られない。だからと言って、無謀さから来るものにも思えなかった。
「随分と落ち着いてるのね。こういうのに慣れてるのかしら?」
「慣れてると言ったら、慣れてます」
「フッ……。それは楽しみね」
カリーヌは、娘の人間の使い魔とやらを軽く試すつもりだったが、不思議と高揚感が湧いてきていた。
対する才人は、左手の剣、デリフリンガーことデルフに話しかけた。
「デルフ」
「なんだよ」
「とりあえず盾役に徹してくれ。魔法吸い取りまくれ」
「いいぜ」
二刀流から、少しばかり構えを変える才人。デルフリンガーを逆手で持つ。右手に剣、左手に盾を持っているかのような姿。それを面白そうに見るカリーヌ。無策で戦うような相手ではないらしい。
気をもみながらもルイズは開始を宣言した。
先に動き出したのは、少年剣士。デルフリンガーを前に、右手の大剣を背負って突撃。初手は奇襲。ソード・オブ・テュールの広い腹で斜めから薙いでしまおうという手だ。そんな彼に、自らへと杖を向けるカリーヌが目に入った。
「え?バフか?」
自分へかける魔法はバフという発想が出てしまうのは、ユグドラシルプレイヤーだったからか。しかし彼女が使ったのは、ウインドの魔法。風を起こし自分を吹き飛ばした。その分、距離が空いた。舌を打つ才人。
「チッ!やられた」
カリーヌが杖を向けてくる。そしてエア・ニードルが複数放たれる。見えない空気の太い針だ。才人は攻撃を察し、すぐに二本の大剣を盾のように並べた。金属を叩くような音が響く。ただデルフリンガーに当たったものからは、音がしなかった。
「あの黒い剣……。マジックアイテムか……」
デルフリンガーを注視する彼女。
豪奢な剣からは激突音がしたが、一方の黒光りする剣には激突音もなく消えた。魔法を無効化する何らかの効果があるらしいと推察する。
「だから盾のように構えてたのね。となると……」
彼女は剣の腕も試そうと接近戦も考えていたのだが、あの黒光りの剣の前ではブレイドの魔法で作った剣は無効化されてしまうだろう。真正面からの接近戦は無理そうだ。やむを得ず、また距離を取る。
ただちに動き出そうとしたサイトに向かって、カリーヌは魔法、エア・ハンマーを放った。だがこれもあっさりと防御。黒光りの剣で。そしてまたサイトが接近、距離を取るカリーヌ。そして彼女の魔法。それが防がれる。この繰り返しがしばらく続いていた。
「反応が早い。動きも無駄があまりない。慣れてると言ったのは、口だけではなかったようね。それに……」
彼女はサイトの対応力に驚くと同時に、その訳も予想がついた。おそらく自分の口元に一番集中している。魔法には詠唱が必要だ。魔法を放つためには、まず先に口が動く。その後に杖の先を見ている。
しかも動きの素早さを考えると、丸見えの場所で詠唱の長い強力な魔法は逆に不利を招きかねない。小技の使い方が、勝敗の分かれ目になる。
対する才人は追いかけるのをやめ、二本の大剣を盾のようにしながら足を止めていた。鎧を着てないのでいつもより機敏に動けるが、カリーヌが自分をウインドで吹き飛ばし簡単に距離を取る。追いかけ続ければ、体力切れで負けてしまう。
「マジックキャスターは遠距離戦が基本だけどさ。こう逃げられちまうと、何もできねぇよ。今の俺じゃ、魔法もスキルも使えねぇし」
「投げナイフとか用意しとけばよかったな」
デルフリンガーがふと、そんな言葉を零した。それが才人の脳裏に、一つのアイデアを浮かび上がらせる。
「それだ」
才人はしゃがみこんだ。それを面白げに眺める彼女。カリーヌはこの少年の次の手が半ば予想できていた。縮まらない距離をどう詰めるか。飛び道具しかないだろうと。
掴んだ小石をカリーヌへと投げつける才人。しかしエア・シールドであっさりと跳ね上げられた。
だが才人の方は、小石を投げたのと同時にダッシュ。もっともこれも百戦錬磨のかつての英雄は読んでいた。そして右手にある豪奢な大剣を警戒。
すくい上げるかのような軌道を取る大剣。だがその大剣は、地面に突き刺さった。一瞬、カリーヌは剣を操りそこねたのかと思った。
「このっ!」
才人は掛け声と共に、地面を剥がすように右手の大剣を振り上げた。土が舞い上がり、カリーヌの視界を塞ぐ。
しかし動揺はしない元近衛隊隊長。未だエア・シールドは発動されたままだ。土も跳ね上げられ、すぐに消え失せるだろう。
「無駄な……いや!」
すぐに注意を左へ移した。黒光りの大剣が振り下ろされていた。エア・シールドを消失させながら。
「チッ!」
思わず舌を打つ。
すぐさまエア・ハンマーを唱えるが、それもデルフリンガーは吸い取ってしまう。直撃の軌道を描く片刃の剣。
だがサイトへと、一歩踏み込む彼女。剣の根本が彼女に当たるが、根本だったせいで十分な威力が出ない。
「なっ!?」
才人から、思わず驚きの言葉が漏れる。
カリーヌはそのまま肩から彼にぶつかる。姿勢を崩す少年剣士。
「くそっ!」
二本の大剣はその重量のため、一旦バランスを崩すと元に戻すのに隙ができる。そして構えを戻した時に、首元の刺激に気づいた。カリーヌの杖が、首に当てられていた。
肩を落とす才人。
「参りました。降参です」
「いい腕をしてますね。戦い方も巧みです。盾として使っていた黒い剣を、最後の最後で攻撃に使うなんて」
「けどこっちも、まさか突っ込んでくるとは思ってなかったですよ」
「魔法だけで戦うのが、メイジでないと考えていますから。接近戦も嗜んでますしね。ただ、正直、あなたには驚かされました。娘の側に立つ者としては、合格と言っておきましょう」
「あ……ありがとうございます」
とりあえず感謝の言葉を口にする少年剣士。これでルイズも、自分に強く当たれなくなるかもしれない。なんと言っても、母親からの許可がでたのだから。などと考えていた。
カリーヌはルイズへと声をかける。
「ルイズ。やるべき事は終わりました。王宮へ向かいますよ」
「は、はい」
二人の戦いに気圧されていたピンクブロンドの少女は、母親の言葉で目を覚ましたかのように、気持ちを切り替える。
ただそれでも、ついさっきの戦いが目にこびりついている。やはりサイトは強い。魔法が使えなくなっても。この使い魔の隣に、自分は立っていいのだろうか。そんな考えが、頭によぎっていた。