トリスタニアへの街道を進む王家の馬車が一台。周囲には数名の騎兵が護衛としてついていた。その馬車の中には三人の姿。ピンクブロンドの小さな少女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。そして正面に彼女の母親、ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレ。すでに狩装束からドレス姿に戻っている。残るはルイズの使い魔、平賀才人。彼は主の隣に座っていた。ちなみにカリーヌが連れてきたマンティコア隊の近衛兵は、御者の隣に座っている。馬車の中は身内のみという訳だ。
カリーヌはサイトの方を見る。真剣な顔つきで。
「さて、話してもらいましょうか。本当の事を」
「本当の事ですか……」
才人には、何を聞かれているのかは分かっている。そこにルイズが入ってきた。
「母さま、ですから学院長から止められてると……」
「学院長には、後で私から謝罪を入れておきます。それに、口の硬さには自信がありますしね」
「母さま……」
全く引き下がる様子の見られない母に、ルイズは口を塞ぐしかない。こうなったカリーヌを止められるのは、父か二番目の姉くらいだ。
すると横のサイトが口を開いた。
「話しちまおうぜ。どうせ、お前のお姉さんに例のこと聞かないといけないんだし。後で知ってややこしくなるより、今知ってた方がいいだろ?それになんか、ヒントになるかもしれないし」
「……」
少しばかり考え込むルイズ。
どの道、ガンダールヴと虚無の担い手について、調べなければならない。もしかしたら、サイトが異世界なんてものから呼ばれたのかも関係しているのかもしれない。そして彼の推察が当たっていたら、家族への影響も大きい。ならば先に知っておいた方がいいと、ルイズは考え直した。
ピンクブロンドの小さな少女は、使い魔に向かって首を縦に振る。
「分かったわ。話しましょう」
「よし。それで、えっと……公爵夫人。本当の事を話します」
「伺いましょう」
ピンクブロンドの中年女性が頷くと、少年剣士は話を始めた。
内容は以前、ルイズに話したものと同じだ。ゲーム世界から来たとは言わず、異世界から来たと説明した。元々は、いくつもの異世界に飛べる世界に住んでいたとも。そして戦いの腕前は、直前にいた異世界で磨いたと告げた。
カリーヌは言葉を挟まず、神妙に聞き入っていた。話を疑わず、そのまま受け取る。彼女にとっては、先程の戦いが彼の言葉を信用する証となっていた。
そして話は終わる。
「だいたいこんな所です。細かい話はまだまだありますけど」
「それは後ででいいわ。少し頭を整理したいから」
かつての世界中を旅した英雄すらも聞いた事のないあまたの話に、少々面食らう部分があった。一呼吸して、気持ちを落ち着けるカリーヌ。そして今度は娘の方を向いた。
「次は先程の話を聞きましょう。ルイズ」
「先程の話?」
「姉に相談する事があるとか言ってたわよね」
「ああ、あれはエレオノール姉さまに……と言うか、アカデミーで調べてもらいたい事があるので、姉さまに頼んだらなんとかなるかもと思ったんです」
「調べてもらいたいもの?」
「はい。サイト、左手」
主の意図を察したガンダールヴは、カリーヌに左手の甲を見せた。目を細め、刻まれている使い魔のルーンを凝視する彼女。しばらくすると、その目が見開いた。
「これは……!ガンダールブのルーン?」
「知ってるんですか?」
才人は疑問を口にした。頷く元英雄。
「ええ……。若い頃、方々を旅しましたから。始祖の使い魔のルーンについても……。え!?あなた、まさか虚無の使い魔?」
「そうです」
頷くサイトの顔を、息を呑み見つめる元英雄。そして二人の言う相談の意図を察した。
一つ大きく深呼吸。そして娘の方に考えを告げる。
「つまりエレオノール、いえアカデミーに相談した事というのは、あなた自身の事ね」
「はい」
「ミスタ・ヒラガサイトが始祖の使い魔という事は、主であるあなたは、もしかして始祖の系統、虚無の担い手かもしれないと……」
「サイトはそう予想してます」
「確かに、ありうる話だわ。そもそもあなた達は、メイジと使い魔の常識から外れすぎてる」
主はどんな魔法も爆発にしかならず、その使い魔は異世界からの来訪者だ。こんな二人が、一般的な主と使い魔の訳がない。思わず納得してしまうカリーヌ。ただ証がないのも事実だった。
「分かりました。私からエレオノールに話を通しておきましょう。ただ虚無はあの子の専門外。信用できる虚無の専門家を紹介してもらいましょう」
「あ、ありがとうございます。母さま」
「感謝されるような事ではないわ。むしろ、先に知っておいてよかったと思ってます。本当に虚無だったら、政治問題にすらなりかねないわ」
「え!?せ、政治問題?」
「まあ、それは一旦置いときましょう」
娘をなだめる母親。
虚無と言えば神話の領域と思われ、実在を信じる者などいなかった。だが一方で、ハルケギニアの一大信仰であるブリミル教の根幹をなすものの一つだ。
それが実在したとなると、どれほどの影響があるのか。国家を揺るがしかねない大事件となるかもしれない。ルイズが虚無の担い手なら、ヴァリエール家はその中心となってしまう。さすがの元英雄も、頭を抱えたくなってきた。
一つため息を漏らすカリーヌ。
「それにしてもここ数年、我が家には厄介事ばかり。始祖は一体、何を我が家に押し付けようとお考えなのかしら」
その言葉に首をかしげる才人。
「厄介事……って、他にも何かあったんですか?」
「少し前の話よ。我が家だけではないのだけど、あちこちの竜牧場が襲われたのです。しかも、牧場の全ての竜を盗まれた所もあったとか。数十頭もの風竜を一晩で」
「ええっ!?でも風竜ってってかなり大きいですよね?それを数十頭って……」
才人はタバサのシルフィードの事を思い出していた。生徒の使い魔の中では飛び抜けて大きい。それでもまだ子供だという話だ。数十頭となると、普通に移動させるだけでも、一日では無理に思える。
カリーヌは話を続けた。
「ええ。それだけの数を一晩で盗むとなると、空中艦でも持ってこないと無理です。それでは目立って仕方ないはずだけど、目撃者は全くいないそうよ」
「……」
言葉のない才人とルイズ。それからルイズが母へといろいろと質問している間、才人はふと妙な事を思いついていた。転移魔法を使えば、数十頭の風竜を持ち去るなど簡単だと。
気づくと、ルイズが別の話題を始めていた。
「そう言えば、あのアカデミー襲撃事件の犯人はどうなったんでしょうか?」
「まだ、捕まってないそうよ」
全く聞いたことのないアカデミー襲撃事件とやらに、興味を引かれる才人。主に尋ねる。
「なんだよ。アカデミー襲撃事件って?」
「二、三年前だったかしら。アカデミーに賊が入ったのよ」
「賊?盗賊か?もしかしてフーケ?」
「違うわ。だいたいフーケは人殺したりしないし」
「人殺し!?」
何やら不穏なキーワードが出てきて、顔をしかめる才人。ルイズは話を続けた。
「アカデミーの衛兵がその賊の相手をしたんだけど、直に戦った衛兵はみんな殺されちゃったそうよ」
「みんな!?いや、いくらなんでもそれはないだろ。重症でも、生き残った人もいたんじゃないのか?」
「いた事はいたわ。それが母さまとエレオノール姉さまなの」
思わず、驚きの表情のままカリーヌの方を向く才人。それに応えるように、かつての英雄は口を開いた。
「あの日は、王宮に用件があって、偶然トリステニアに来てたのです。その帰りに久しぶりにエレオノールに会おうと思って、アカデミーに寄ったわ。ただあの子は忙しいようで、会えなかったけど」
「じゃあ、襲撃はその後ですか?」
「ええ。あの子を待ってたんだけど、深夜になっても来なかったわ。諦めて寝ようと思った時に、妙な胸騒ぎがしたのよ。それでアカデミーに使い魔を向かわせたら、警報が鳴り響いていて、衛兵たちが慌ただしく動いていたのが見えました。私はすぐにアカデミーに向かったわ」
「その時に、賊と戦ったんですか……」
「少し違うわね。エレオノールを助け出した後、賊と鉢合わせてしまったのです」
神妙に聞き入るサイト。ルイズも何度か聞いた話ではあるが、同じく集中していた。続きを話すカリーヌ。
「その時の感覚は今でも忘れません。妖魔やエルフとも違う、異質な殺気。すぐに逃げる判断をしたわ」
「すぐ逃げた……!?それほど強い相手だったんですか?」
「ええ。気配だけで分かるほど」
「……」
さっきの手合わせで、才人はカリーヌの強さを実感した。しかも、あきらかに手を抜いていた状態でだ。メイジとしてだけではなく、戦士として純粋に強いと感じている。その彼女が、咄嗟に撤退を決断してしまうほどの相手とは。それほどの強さなら、衛兵たちが皆殺しになってしまうのも理解できる。
「どうやって逃げたんです?」
「賊を遮る者が、割って入ってきたのよ」
「え!?ちょっと待ってください。そんなとんでもない賊を、止められるような衛兵がいたんですか!?」
「そうではないわ。どうも私たちを追おとした賊は、命令違反してたらしいのです。それを賊の仲間が、止めに来たようだったわね」
「仲間!?仲間がいたんですか!でも止めたとなると……強さは同じくらいって事ですよね」
「そうなるわ」
「……」
言葉のない才人。隣のルイズが、すかさず続きを話す。
「ただ、犯人の名前は分かってるわ」
「名前?どうやって分かったんだよ」
「その賊共が揉め合ってる時に、名前を言ってたんだって。確か……」
ルイズが上を向き思い出そうとしている所で、カリーヌが先に口を開く。
「賊の一人はシャルティア・サマという者でした。そして二人はアインズ・サマとやらの配下らしいです」
「ア、アインズ!?」
思わず叫んでしまう才人。
アインズと言えば、ユグドラシルではその名を知らないものはいない。悪名高いギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。ただ、彼自身はユグドラシルをプレイするのがかなり遅かったのもあって、噂レベルでしか知らない。しかもその時点では、あのギルドはかなり活動が大人しくなっていた。もっともその噂からすれば、人殺しも厭わない集団のように思える。
しかしここで違和感を覚える才人。今カリーヌはアインズ様と言った。アインズは組織名ではなく、個人名かのように聞こえる。だとすると、アインズ・ウール・ゴウンではないだろう。
だいたい彼自身、ユグドラシルの全プレイヤーの名前を知っている訳ではない。アインズと名乗るプレイヤーがいても、なんの不思議もない。
ただここで、一つの可能性に気づいてしまった。この世界に、他のユグドラシルプレイヤーがいる可能性だ。そのユグドラシルプレイヤーが、シャルティアとアインズではないのだろうか。しかも、大勢の人間を殺してしまうような、残忍な性格のプレイヤー。
始祖の使い魔は、一人だけではないのかもしれない。虚無の担い手も。
その連中を相手にする時が来ないとは、断言できない。しかし今の才人では、戦いにすらならないだろう。サービス終了時点でのプレイヤーなら、ほとんどレベルカンストのはずだ。最低でも精神操作、時間操作、即死などの対策が必須。ガンダールヴの力だけでは話にならない。元の力を、なんとかして取り戻さないといけない。焦りを感じ始める少年聖騎士。
そこで不思議そうな顔をしたルイズが、尋ねてくる。
「何よ。シャルティアとかアインズとか知ってんの?」
「……。いや、たぶん勘違いだと思う」
「ふ~ん……」
ルイズは、関係ないのかと話を終える。
ただカリーヌだけは、サイトの態度を難しそうな表情で見ていた。あのシャルティアという存在と相対したからこそ、脅威の度合いが分かる。何か対策のヒントがあるなら、眉唾でも聞いておきたかった。
もっとも、これまで聞いた話の情報量があまりに多いので、一旦ここは口を閉ざす事にした。今、急いで聞かなくてもいいだろうと。
やがて馬車の中は静かになる。そして王都トリスタニアが、遠方に見えてきた。
王宮に到着後、ルイズたちはアンリエッタ王女と謁見を済ます。王女は豪奢な鎧に身を固めた、親友の使い魔に驚きを浮かべた後、彼に質問攻め。才人は、真相を告げず適当にごまかした。
それからルイズだけが、アンリエッタの私室へと案内される。扉を締めた後、二人きりになった親友同士はすぐに表情をくずした。そしてルイズへと飛び込んでくるアンリエッタ。それを小さなピンクブロンドの少女は抱きとめる。その心すらも包むように。
「姫様……。さぞ、お辛かったでしょう。私なんかでいいなら、なんでもお話しください」
恋人を失った幼馴染を慰めるうまい言葉が思い付かない。できる事と言えば、ひたすら話を聞くくらいだ。
その長いピンクブロンドの髪を抱きかかえながら、アンリエッタは高揚感に溢れたように話し始めた。
「ありがとうルイズ。私、ウェールズ殿下にお会いしたのです」
「え?」
一瞬、何を言われたのか理解できないルイズ。王女の話は流れるように続いた。
「たくさん……たくさん、お話しました。幼い頃の話、年頃になってからの話……」
「ウ、ウェールズ殿下がいらしたのですか?」
「そうよ。この部屋に。そして最後は……最後は口づけを……」
「ああぁ、姫様……」
ルイズの頬に涙が流れていく。愛する人を失って、あまりのショックに幼馴染の心は壊れてしまったのだと。そして彼女を強く抱きしめる。
だが彼女の気持ちを察したのか、高ぶっていたようなアンリエッタの声が、落ち着きを取り戻す。
「ルイズ……。安心して、全ては夢の話です」
「ゆ、夢?」
「そうです。ただ……夢とは思えないほど、現実感がありました。今でも彼の唇の暖かさを覚えています。ですけど最後は……ウェールズ殿下は別れを告げました。そして自分の事は忘れて、幸せになって欲しいと」
「そうですか……」
ルイズの言葉に安堵感が宿る。アンリエッタは気が触れた訳ではなかった。
それにしても、愛する者が死への旅立ちの最後に夢枕に立つとは。恋人なんてものを持ったことがない彼女は、それほどの愛情というものが分からない。アンリエッタを少し羨ましいと思ってしまった。
やがてアンリエッタはルイズから離れる。その顔にはもう悲しみはない。むしろ、力強さが宿っていた。
「ルイズ。私は決心しました」
「何をでしょうか?」
「王位を継ぎます」
「え!?王位を?」
トリステイン王国の王位は、先王が亡くなってから王が不在のままだ。王妃を王位に付ける動きもあったが、本人が拒絶。王位継承権を持つ者は何人かいるが、国内のパワーバランスを考え宰相であるマザリーニが、その動きを牽制していた。
王女は落ち着いた様子で話を続ける。
「ええ。今、我が国の王位は空位。これでは国をまとめる事はできません。それではアルビオンのレコン・キスタに対応できないでしょう」
「レ、レコン・キスタ?」
いきなり出てきたレコン・キスタという言葉にルイズは一瞬戸惑うが、すぐに幼馴染の胸の内にあるものに思いが至る。
「ま、まさか、姫さま……ウェールズ殿下の復讐をなされるおつもりですか!?」
「……。そこまで浅はかではありません。しかし、あの者たちが始祖ブリミルに繋がるデューダ―王家を滅ぼし、あまつさえ彼ら率いるオリヴァー・クロムウェルは虚無を自称しているのです。始祖への冒涜と言っていいでしょう。そんな異端者に、備えない訳にはいきません」
「それは……確かにそうです」
ルイズにとってはうなずける話だ。もしかしたら、自分が虚無の担い手かもしれないので余計に。ただ、どこかアンリエッタに気丈さと同時に不穏なものをわずかに感じていた。幼馴染だからこそ分かる違和感を。
ウェールズへの想いが、すぐに吹っ切れる訳がない。むしろ強くなったような気すらする。もしそれが玉座につく事を決断させたのなら、彼女の選択は正しいのだろうか。何があってもアンリエッタを支えるつもりだったルイズの脳裏に、少し迷いが浮かぶ。
ところで、実はアンリエッタがこれほどウェールズを強く想うようになった原因は、シェフィールドにあった。
アインズからウェールズの件を頼まれたシェフィールドは、魔導国での初仕事という訳で張り切りすぎてしまった。ウェールズを『アンドバリの指輪』というマジックアイテムで一時的に蘇らせ、深夜のアンリエッタの寝室に忍び込ませた。死んだと思われていた王子が月光に照らされ、恋人の王女の元を訪れる。
さらに数々の演出も盛りだくさん。赤面してしまうほどの別れの舞台をセッティング。おかげで王女は心に、失った初恋の相手への恋慕を深く刻み込む事になる。ウェールズの願いとは真逆に。
そんな結果になったなど、知る由もないシェフィールドだった。
意志の強さを感じさせる瞳で、ルイズを見るアンリエッタ。
「ルイズ。私に力を貸してください」
「……。はい!私はいつまでも姫さまの味方です」
「ありがとう。ルイズ」
王女は幼馴染の手を両手で握りしめる。あたかも、祈るかのように。そして顔を上げた。
「実は、宰相のマザリーニ枢機卿より、帝政ゲルマニアとの同盟を考えて欲しいとの提案がありました」
「ゲルマニア……とですか……」
ゲルマニアは何かと因縁のあるツェルプストー家、つまりキュルケの実家のある国だ。しかも強引なやり方で国をまとめた帝国。周辺国からは野蛮な国と思われている。しかしそれだけに、強国であるには違いない。それを拒否する理由は、今のルイズにはなかった。
「悪くない考えだと思います」
「あなたもそう思ってくれるのですね。ならば、私の結婚の手伝いをお願いできないでしょうか?」
「け、結婚?え?何故そんな話が?」
「実はゲルマニアと同盟を結ぶために、かの皇帝は私との結婚が条件と言っているのです」
「はぁ!?ウェールズ殿下がお亡くなりになって間もないというのに……。あの蛮族の皇帝は……」
そこまで言った所で、アンリエッタはルイズの口元に指を添える。
「ありがとう、ルイズ。あなたの心遣い、感謝しています。ですがこれは、我が国を守るため、レコン・キスタに備えるためには必要な事なのです」
「姫さま……」
「我が国は小国。これは否定しようがありません。やむを得ないのです」
「……。はい」
頷くルイズ。ただその視線の先にいる幼馴染は、望んでいない政略結婚に憂うのではなく、剣でも掴みにでもいくかのような勇ましさを感じてしまった。危うささえも。しかし、ルイズが口にした言葉も本当だ。ならばすべき事は一つしかない。
「分かりました。それで何をすればいいのでしょうか?」
「あなたに婚礼の際の、巫女になって欲しいのです
「み、巫女!?私ごときが!?」
「はい。たった一人の幼馴染だもの。あなたにお願いしたいのです」
そう言った幼馴染は机の方へ向かうと、引き出しから何かを取り出す。戻ってきた彼女は、一冊の本と指輪を手にしていた。
ルイズは不思議そうな目で、その二つを眺める。
「姫さま、それは?」
「これは『始祖の祈祷書』と『水のルビー』です。我が王家に伝わる始祖の秘宝です。これをあなたに預けます。巫女はこれを式の時まで、肌見放さず持ち歩かねばなりません。苦労をかけますが、お願い。ルイズ」
「……。はい!任せてください」
自身ありげに大きく頷く。もう覚悟は決めた。
それからだいたいの日程と、巫女としてやるべき事をアンリエッタは伝えた。それをメモするルイズ。王宮を出る頃には日は落ちかけていた。
その後、エレオノールへの虚無関連の相談をもちかけたのだが、暇が取れないという事で一週間後という事になる。公爵家夫妻は王都の別邸に、ルイズ達は学院へ戻る事となった。