世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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綻び

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、玉座の間。一段高い場所にある玉座には、この墳墓の主であるアインズ・ウール・ゴウンが身を収めていた。その脇に立つのは守護者統括であるアルベド。そして彼の視線の先には、各階層守護者。そしてセバスとパンドラズ・アクターの姿もある。全員が膝を付き畏まっていた。

 ナザリックの主は、言葉を発する。

 

「今日集まってもらったのは、私が独断でハルケギニアに行った件の結果報告と、現時点での情報共有のためだ。ただ、まずはお前達のこれまでの働きに、賛辞を送りたい。まず、デミウルゴス」

「はっ!」

「スクロールの素材開発、アンデッドの素材収集、空軍の構築など、多岐に渡る働き。私はお前を高く評価している」

「もったいないお言葉。感謝いたします。そのお言葉を支えに、今以上のアインズ様への貢献を心がけたいと考えます」

「うむ」

 

 デミウルゴスは魔導国の数々の策を具体化する要だ。彼とアルベドがいるおかげで、魔導国が回っていると言っても過言ではなかった。ちなみに、ハルケギニアで各牧場のドラゴンが強奪されたのは、デミウルゴスの仕業だったりする。空軍の素材とするためだ。

 

 それから、コキュートス、シャルティア、マーレ、アウラ、セバス、パンドラズ・アクターへ賛辞が送られた。それぞれ全軍の実践的な運用案策定と反乱勢力討伐、反乱勢力の討伐、新都市の建設、反乱勢力の探索と妖魔等の調査、ハルケギニアでの調査と拠点構築、ネフテスでの拠点構築と調査の成果に対してである。

 最後にアインズはアルベドへと声をかける。

 

「そしてアルベド。私の留守中、お前には様々な苦労をかけた。お前が魔導国をまとめあげてくれるおかげで、私も自由に動く事ができたというものだ」

「守護者統括として、当然の事をしたまでです」

「いや、本当に感謝している。お前の働きにはな」

「まあ、アインズ様。ありがたいお言葉。胸に刻んでおきます」

 

 恍惚の表情を浮かべながら、アインズに魅入るアルベド。それに至高の御方は、大きく頷いた。

 もっともそんな姿を見せながらも、魔導国に帰ってきた時の事を思い出していた。事務机の上に積まれた書類の山の事を。アルベドが彼に判断を仰ぐため、残しておいた書類だ。唖然としたまま見た忠実な側近は、渋滞したままの仕事の処理を催促しているように映ってしまった。もちろん、そんな事はないのだが。もう少し自由に判断していいんだよ、と言いたくなった。しかし、ぐっと堪える。あまり部下任せにしてしまうのも、心苦しい。とは言っても、懸案をうまく処理できる自信もないのだが。

 

 至高の御方は少しばかり天を仰ぐと、再び守護者達へと向き直る。

 

「お前達の働きに、私は報いたいと思っている。褒美を与えたい。要望を聞こう」

「褒美などと。アインズ様のお役に立てる事こそが、私たちへの褒美です」

 

 アルベドの言葉に全員が頷いた。

 予想した通りの答え。しかし彼は自分の至らなさを補ってくれている、配下に気持ちを何かの形で伝えたかったのだ。自己満足だとしてもだ。

 玉座のナザリックの主は、鷹揚に話し始めた。

 

「前にも言った事があるかもしれないが、私は恩には恩を仇には仇を返すべきと考えている。つまりは信賞必罰だ。それはお前達も例外でない。私は、お前達の恩に応えたいのだ」

「なるほど、そういう意味ですか」

「え?」

 

 デミウルゴスが納得顔で口を開いていた。いつもの光景。嫌な予感がする。

 アウラが尋ねた。

 

「どういうこと?」

「これから魔導国の版図は広がっていく。ただ正直な所、やがては私たちだけでは広大な領域を治めるのが難しくなっていくだろう。それを補うには、どうしても現地の者共を魔導国に加えざるを得ない」

 

 次に聞いてきたのは、マーレだった。

 

「そ、それと、アインズ様のご褒美になんの関係があるんです?」

「現地の者共は、愚かだからね。アインズ様の偉大さを理解できず、忠誠心の低い者もいるだろう。そんな連中を上手く使いこなすには、力だけではなく目に見える褒美も必要という訳さ。ロバ・アル・カリイエ征服の際に、アインズ様がお見せになった、飴と鞭のように。それを個人レベルで行うのさ」

「え?そ、外の人たちに、ご褒美あげないといけないんですか?嫌だなぁ……」

「分かるよ。マーレ。ただ、君のようにそんな作業が苦手な者もいるからね。そこでアインズ様、自ら模範を示しているのだよ。あのシェフィールドという人間を迎い入れたのも、その一貫だろうね」

 

 アインズには何故ここでシェフィールドの名前出てくるのが、さっぱり分からない。

 そして悪魔の知恵者が、真っ直ぐ主の方を向く。

 

「私は、アインズ様のお考えをこのように愚考いたしました」

「さ、さすがはデミウルゴス。よくぞ私の意図を察してくれた」

 

 違うんだよ。感謝の気持ちを伝えたいだけです。とは言えそうにないアインズ。いつのまにやら日頃のお礼の話が、作業講習みたいになってしまっている。

 するとシャルティアが、ここで口を開いた。

 

「あぁ……。そう言えば、あのシェフィールドとかいう人間は、確かにアインズ様に心酔してあおりんした。あれも、アインズ様の手腕の結果でありんすか。てっきり配下に加えたのは、虚無の使い魔が必要だっただけと思ってたでありんす」

「虚無の使い魔を手に入れる過程で、人間を心酔させる実験も考えておられたのだろうね」

 

 満足げなデミウルゴス。さすがアインズ様と言わんばかりに。すると脇からアルベドの声がした。

 

「アインズ様は、一手に複数の目的を常に潜ませてるお方よ。アインズ様。これからも守護者一同、アインズ様の意図を汲み取れるよう精進したいと考えております」

「そ、そうか。励んでくれ」

「はい」

 

 至高の御方は言葉を口にした直後に、これまで以上に勘違い深読みが激しくなりそうな気がしてしまった。しかし、この空気で否定するなんてできない。

 ここでまたデミウルゴスが、楽しそうな表情を向けてくる。

 

「そう言えば、この度のハルケギニアでの手際、このデミウルゴス、驚嘆を覚えずにはいられません」

「そ、そう思うか」

 

 どれを指して言っているのか分からないが、とりあえずうなずいておく至高の御方。

 

「はい。情報収集に行かれると言われ、戻ってくれば、虚無の手がかりとその使い魔を手中に収め、その上、アルビオンとガリアをも実質的に支配下に置いたのですから。ハルケギニアの半分を、征服したと言っても過言ではないでしょう」

 

 そこにコキュートスが言葉を添えた。

 

「シカモ、ワズカナ期間。一兵モ使ワズニダ。正直、未ダニ信ジガタイ」

「全くだよ。さすがはアインズ様。まさしく、端倪すべからざるお方です」

「運がよかっただけだ。大したことはしていない」

 

 一応、本当の事を言っておくアインズ。

 実際、運だ。休暇のつもりで行ったアルビオン内乱がたまたま最終局面で、たまたまニューカッスルに旧知のシェフィールドがやってきて、たまたまシェフィールドがアルビオンの要で虚無の使い魔で、たまたまシェフィールドが自ら配下になるなんて言い出した結果だ。

 アインズ自身は、何かを目論んで動いた事なんて一つもない。あえて言えばジョゼフとの面会だが、あれは失敗した。シェフィールドの機転でなんとか大事にならなかったが、それがなければハルケギニアで積み上げてきた策が無駄になる所だった。

 しかし、この玉座の間を包む雰囲気。真実を言っても、誰も言葉通りに受け取ってくれないだろう。実際、守護者達は満足げにうなずいていた。そういう事にしておきますと、言わんばかりに。

 

 一旦場が落ち着いた所で、アルベドが口を開いた。

 

「アインズ様。この度、手に入れたアルビオンとガリアですが、どうされるおつもりですか?」

「ハルケギニアには虚無という懸念材料が増えた。まずはこれの全貌を解明する事を優先する。二国はしばらく安定化に努めた方がいいだろう。特にアルビオンは内戦直後だからな」

 

 次にナザリックの支配者は、初老の執事へと顔を向ける。

 

「セバス」

「はい」

 

 洗練された態度で返してくる執事。

 

「シェフィールドと協力し、二国をうまく運営せよ。可能な限りもめ事は起こすな。それと現状では、人手が足らないだろう。必要な人員があるなら要望を聞く。後で、アルベドに通しておいてくれ」

「分かりました。アインズ様」

 

 深く頭を下げるセバス。

 するとアルベドが、次の議題を提示する。

 

「ところでアインズ様。ネフテス方面の成果が芳しくないようですが」

「申し訳ございません。アインズ様」

 

 パンドラズ・アクターが頭を下げる。彼はサハラ方面の最高責任者だ。最初から参加しているソリュシャンに加え、何名かのグレーター・ドッペルゲンガーも支援に出している。だが、いくつかの成果はあったものの、最大目標である精霊の力対策は、未だ目処が立っていない。拠点作りも難航している。

 

 全ては精霊の力の特性が原因だった。この魔法は簡単に言えば、周囲の精霊と契約しそれらを変幻自裁に操れる魔法だ。同じ精霊を攻撃、防御、探知などに用途を変化させて使えるなど応用範囲が広い。契約範囲も広くでき、持続時間が長いのも厄介さに拍車をかけている。

 もちろん相手を騙すことに長けたメンバーを送ってはいるのだが、騙し続けた状態を休む間もなく続けるのは不可能だ。スキルも魔法も持続時間には限界がある。これが町中での拠点作りや、情報収集を困難にさせていた。できた拠点は全て郊外だ。それも人が寄り付かないような場所。精霊の力の情報も、公共機関以上の情報は気づかれずに入手するのは困難だった。

 

 アインズは頭を下げたままの、自らが唯一作り上げたNPCに少しばかり視線を送る。そして側近のサキュバスへと顔を向けた。

 

「いや、デザートエルフ達が難物である事は私も分かっているつもりだ。目的達成はそう簡単ではないだろう」

「ですが、アインズ様。隣接している最大の脅威が、最も成果がでていない点は看過できません」

「それは……そうなのだが……」

 

 すると当の最高責任者が言葉を発した。

 

「アインズ様。一つ案があるのですが」

「何だ?パンドラズ・アクター」

「すでに報告したように、デザートエルフは二派に分かれています」

「穏健派と強硬派だな」

「はい。その穏健派の工作員が、ハルケギニアへと派遣されております」

「ん?ああ、シェフィールドから聞いた、ガリアにいるデザートエルフか。確か……、ビダー……シャルとか言ったか」

「はい。その者を捕縛してはいかがでしょうか?これまで確保した無法者のようなデザートエルフ共とは、引き出せる情報の価値は比較にならないと考えます」

「なるほど……」

「精霊の力が難物だとしても、馴染みのない土地で孤立したデザートエルフを捕まえるのは難しくないでしょう」

「分かった。その案を採用する。アルベド、デミウルゴス。パンドラズ・アクターと話し合い、チームのメンバーを選べ。セバス、現地での支援を頼む」

「「はっ!」」

 

 守護者達から、力の籠もった返答が出てくる。

 それから褒美の件に話は戻り、出された要求にアインズ自身はいろいろと苦労するハメになるのだった。できる限り応えようとしたせいで。

 

 

 

 

 サハラ東部。双月が照らす砂漠に、二頭の風竜が飛んでいた。見渡す限り砂の大地で、目印らしいものは何もない。しかし二頭の風竜は、目的地が分かっているかのように真っ直ぐ進んでいた。

 その竜の背中に乗っているのは、男女のエルフ。先頭を飛ぶのはルクシャナ。エルフの学者で、彼らから見下されている人間達の文化を研究している。そして、ネフテスの評議会議員ビダーシャルの姪でもあった。その彼女の風竜に続くのは、アリィーの風竜。ネフテスの騎士の称号を持つ戦士で、ルクシャナの婚約者だ。

 この二人が何もない砂漠のど真ん中を何故飛んでいるかというと、ルクシャナの叔父、ビダーシャルから頼まれたからだった。正確には依頼されたのはアリィーだったのだが、ルクシャナがこの用件に強引に加わったのである。もっとも、それをビダーシャルが許可するだけの理由もあったのだが。

 

 今、エルフの国、ネフテスは二つの派閥に分かれていた。彼らがシャイターンと呼ぶ虚無への対処方法の違いから。二つの派閥は、分かりやすく言えば穏健派と強硬派だった。ビダーシャルは穏健派の重鎮で、現在、ガリア王国での工作を行っている。

 その彼が一週間ほど前、ネフテスに戻ってきていた。ハルケギニアの現状報告と祖国の現状確認のため。彼にとって虚無はもちろん懸念材料だが、同時に強硬派である鉄血団結党の動向も気になる所だった。

 つい先日の議会で、鉄血団結党を中心とした勢力から出された軍事費増額の案が可決された。その理由がネフテスの東、ロバ・アル・カリイエの人間たちの介入頻度が上がっているからというものだった。ここ二、三年、同じ理由で軍事費が増額されている。だがネフテス東部の情報は、強硬派に属する組織が報告していた。そこでビダーシャルは、彼らの情報が真実か確認するようアリィーに依頼したのである。

 

 その依頼に聞き耳を立てていたルクシャナが、自分も参加させろと言い出す。もちろん最初は断った。しかし、エルフが卑下する人間たちの文化を研究する彼女。研究目的のため、ネフテス外から密輸入すらしている。逆に言えば、蛇の道は蛇といわんばかりに密輸経路などを知っている訳だ。

 今回は言わば極秘任務。鉄血団結党に察知されない様、成し遂げなければならない。結局、裏道を知っている彼女を頼る事になるのだった。

 

 星の配置を頼りに、目的地へ飛んでいくルクシャナ達。

 彼女たちの目的地は、密輸組織のアジトだ。お得意様となっている彼女は、一般人が知るはずもない場所まで組織から教えてもらっていた。もっとも、彼女が他の学者から変人扱いされ、情報を漏らす可能性が低かったのもあるのだが。

 やがて砂漠の地平の先に岩山が見えてくる。密輸組織のアジトだ。そこを指差すルクシャナ。

 

「着いたわよ」

「ああ」

 

 横に並んできた風竜のアリィーは答えた。

 やがて二頭の龍は、アジトから少し離れた場所に降りる。そしてルクシャナが魔法を使用。砂で人間サイズのゴーレムを作り出し、奇妙な踊りをさせながらアジトへと向かわせた。これは言わば合言葉のようなものだった。

 それからしばらく待ったが、アジトからの返事がない。眉間にシワを寄せるエルフの少女。

 

「何やってんのかしら?」

「留守じゃないのか?」

「人間の村を襲いに行ったとしても、総出って事はないわよ。留守は必ずいるわ」

「村を襲う!?」

「細かい事は気にしないの。密輸組織なんて、そんなものよ」

「細かいって!君は……!」

 

 頭の硬い婚約者を無視し、彼女は望遠鏡を取り出し覗く。しかし人影一つ映らなかった。首をひねるルクシャナ。

 

「行ってみましょう」

「大丈夫か?無法者の集まりだろ?」

「何言ってんのよ。あなた、戦士でしょ。もしもの時は守ってね」

「はぁ……。分かったよ」

 

 相変わらずのマイペースな婚約者に、振り回されるアリィーだった。

 

 アジトの入り口に近づくほど、眉をひそめていく二人。無法な連中と言っても、エルフには違いない。警戒して周囲の精霊とは契約しているはず。だが、アジトにいくら近づいても契約された精霊がいない。あたかも、アジトは無人かのようだ。

 とうとう二人はアジトの岩山の中に入った。中は真っ暗だ。明かりを灯し奥へと進む。

 魔法でくり抜かれた岩山の内部は、アディールの建築物かのように綺麗な造形だ。密輸組織の連中の腕前を感心するアリィー。しかし相変わらず、契約された精霊がいない。そして各部屋を回ったが、やはり人影はなし。

 一方で奇妙なものがいくつもあった。腐った後に乾燥して固まった、食べかけの食事。プレイの途中だったかのようなテーブルの上のカード。その他にも、何か作業の途中だったような痕跡がいくつも見つかった。盗賊団全員が、一瞬で消え去ったかのように思えてしまう。

 

 難しい顔をしたまま二人はアジトの外に出る。最初にアリィーが口を開いた。

 

「何者かに襲われたと考えるしかない。だけど……どうやったんだ?全員が一瞬で、消えてしまったかのようだ」

「…………。先に行ってみましょ」

「先って……、君は気にならないのかい!?」

「気になるわ。けど、真相を突き止めるには時間がなさすぎるもの。だいたい叔父様から頼まれたのは、ロバ・アル・カリイエの実情調査でしょ?」

「それはそうだが……。分かった、ここは一旦置いて先に進もう」

 

 風竜のところまで戻る二人。そして空へと舞い上がった。

 

 しばらく進みロバ・アル・カリイエに大分近づいた所で、ルクシャナが降りるよう指示する。しかし、ここからでは望遠鏡を使っても見えない距離だ。何か考えがあるのだろうと、アリィーは指示に従った。

 エルフの学者は魔法で砂山を作ると、その頂上に立つ。そこからぼんやりとロバ・アル・カリイエの地形が見えた。そしてまた望遠鏡を取り出した。そんな彼女に疑問をぶつけるエルフの戦士。

 

「おいおい、望遠鏡使ってもさすがにこの距離は無理だろ」

「まあ、見ててって」

 

 そういうと奇妙なアイテムを取り出した。また疑問を口にするアリィー。

 

「なんだい?それは?」

「蛮族のマジックアイテムよ。遠くが見えるようになるわ」

「魔法を使えばいいじゃないか。蛮族のものなんて使う必要ないだろう」

「両方使ったら、もっと遠くが見えると思わない?」

「それは……」

 

 うなずかざるを得ないアリィー。そしてルクシャナは遠見の魔法を唱える。二つの魔法に望遠鏡を加え、かなり遠方が見えるようになった。

 そして望遠鏡を覗き込むエルフの少女。一瞬、ビクッと体が動くが、そのまま身を固めてしまう。一言も漏らさず。

 怪訝な表情のエルフの戦士。

 

「どうしたんだい?何が見えたんだ?」

「…………」

 

 何も答えない彼女。しばらく望遠鏡で観察し続ける。やがて目を離した。今度はアリィーが見るように無言で指示。首をひねりながら彼は従う。そして思わず出てきたのは驚きの声。

 

「な……!?」

 

 すぐさま、望遠鏡から目を離し、もう一度覗き込む。信じがたいものが目に映っていた。

 畑らしい場所に白骨の躯が見えていた。しかもそれが立って動いていた。さらに鎧を着込んだ、黒い大きな躯もいた。こちらは土手を歩き回っている。一方で人間の姿は全く見えなかった。

 

 文字通り、幽霊でも見たかのような表情を婚約者に向けてくる戦士。口はパクパクと喘ぐばかりで、言葉が出ない。対するエルフの少女の方は冷静。これも学者故か。顎を抱え、難しい表情で考え込んでいる。やがて真っ直ぐとアリィーの方を見る。

 

「一回見ただけじゃ、なんとも言えないわ。でも、あそこに行く気もしないしね。早朝まで待ってみましょう。それからもう一度、見てみるわ」

「分かった」

 

 それから朝まで待った。日が昇り、早朝の朝日が辺りを照らす。二人は、もう一度ロバ・アル・カリイエの方を見てみた。

 やはり躯しかいない。しかも白骨の躯が、農作業でもしてるかのような動きを見せだす。息を呑むしかない二人。鉄血団結党の嘘を暴くつもりで来たが、それどころではないものを目にしてしまった。

 

 望遠鏡を仕舞い、二人は黙ったまま。やがてお互いの顔を見やる。最初にルクシャナが口を開いた。

 

「一旦、ここから離れましょう。詳しく調べるには、道具も人手も足らないし。後、近隣のエルフの村も気になるわ。やっぱり密輸組織のアジトが空だったのも、あの躯と関係あるのかもしれないし」

「そうだな。警戒しつつ覗いてみよう」

「ええ」

 

 急いで砂山から降りる二人。そして風竜にすぐに乗り、低空で飛び立つ。見つからないよう魔法で陽炎を作りながら。その後、いくつかの近隣の孤立した村や密輸組織の拠点を観察したが、アジトと同じようにひと気がなかった。嫌な悪寒を抱きながら、やがて二人は首都アディールに急ぐのだった。

 

 魔導国の情報遮断が、意外な形で崩れ始めていた。

 ちなみに早朝の村に人影がなかったのは、早朝の畑仕事は完全にアンデッド任せで、村の中での作業を優先していたせいだった。

 

 

 

 

 

 

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