世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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復活

 

 

 

 

 サハラの西端、商業都市エウメネスから、ガリアの東端、城塞都市アーハンブラへ向かう馬車が一台あった。

 馬車に乗っている人物は、いかにも商人風。だがその正体は、ネフテスの評議会議員ビダーシャルだ。ハルケギニア工作の役目に戻るため、ガリア王国へ向かっている最中だった。

 馬を操りながら、手にした書類何度も読み返すエルフの議員。眉間は狭まったまま。手にしているのは、アリィーから出されたロバ・アル・カリイエ調査報告書の写しだ。思わず言葉を漏らす彼。

 

「何度読んでも信じがたい……」

 

 その内容は、絵空事のようだった。

 ロバ・アル・カリイエ近辺の孤立した村や密輸組織のアジトからエルフが姿を消しており、しかも当のロバ・アル・カリイエにも人間自体がいない。いたのは動く躯だという。

 アリィーは優秀な戦士だ。騙されたとは考えづらい。しかも学者のルクシャナが付いていた。彼女の人柄はともかく、洞察力も人間の知識も確かだ。では、彼らは何を見たのか。地上に顕現した地獄でも見たと言うのか。

 ともかくもしこれが真実だとすると、強硬派の今までの報告は虚報という事になる。むしろそれ所ではない。ただ、こんな異常事態が発生しているなら、素直に報告した方がいい。大きな懸念材料なのはもちろんだが、軍事予算を増やす正当な理由にもなる。何故、虚報を上げているのか理解できない。

 

 落ち着きを取り戻すとビダーシャルは、魔法で報告書を焼いてしまう。そして変化の魔法で顔を変えると、アーハンブラの関所を潜って行った。

 アーハンブラは一応対エルフへの防衛都市だが、サハラ方面への玄関口でもあり商業都市的な側面も持っていた。もちろん関所では厳しい審査が行われるのだが、人間たちの審査をくぐり抜けるなどビダーシャルには造作もなかった。

 

 とりあえず宿を取り、馬車を預ける。そして腹ごしらえにと、適当な食事処に入っていった。もちろん顔は変えたまま。そして給仕に注文すると、何気なく壁を見た。ある張り紙に目が止まった。そして、視線を釘付けにされてしまう。

 

「なっ!?」

 

 思わず立ち上がると、張り紙に寄って行った。

 内容は指名手配犯の手配書だった。そこに描かれていた似顔絵は、見覚えのあるもの。いや、見覚えどころかよく知っている人物だ。何故なら、それはガリア王ジョゼフ一世、その人だったのだから。

 そこにはこう書いてあった。

 

 "以下の者は、王都リュティスにヴェルサルテイル宮殿へ忍び込んだ賊である。恐れ多くもガリア国王ジョゼフ一世陛下へと変装し、忍び込んだ。この大罪人を捕縛した者には……"

 

 続く内容には、賊の説明と、法外な懸賞金が書かれていた。そしてこの賊が捕まるまで、国王は宮殿から出ない。宮殿外にこの人物がいれば、手配犯と見なしていいとも。

 

 手配書を凝視したまま、身を固めるビダーシャル。

 

「どういう事だ……?一体、何があった?」

「ほう……。よく描けているな」

 

 突然、背後から声がかかった。手配書に気を取られている間に、警戒を怠ってしまった。すぐさま振り向くと、眉毛も含め全ての毛を剃り上げた、やけに体格のいい眼鏡の神官がいた。

 冷静さをなんとか取り戻そうとしながら、言葉をかける。

 

「こ、これは……神官様……」

「フッ……」

 

 不敵な笑みを浮かべる神官は、ビダーシャルを右手で抱き込んだ。そして耳元でささやく。

 

「余だ。ジョゼフ一世だ」

「なっ!?」

「声を上げるな。注目されるぞ」

「……」

 

 手を離したジョゼフは、ビダーシャルのテーブルに座る。そして平然と給餌を呼び、ビダーシャルと同じものを頼んだ。目の前に手配書があるというのに、その大胆さにエルフは半ば呆れていた。

 

 食事を終え、外に出た二人。やがてジョゼフはビダーシャルに、彼の宿を案内させる。そして部屋へと入った。さっそく、エルフが話しかけてきた。

 

「それで、何があった」

「ここで話す訳にはいかん。俺の手を取れ」

「……」

 

 早く状況確認をしたいビダーシャルは、とりあえず言う通りにする。それからほどなくすると、目の前の景色が一瞬で変わっていた。何もない砂漠に。唖然とした声を漏らすネフテスの評議会議員。

 

「な!?」

「瞬間移動した。砂漠のど真ん中にな。これは虚無の魔法だ」

「シャイターンの力なのか!?」

「そうだ。なかなか便利なしろものだろう?ここならば、誰にも聞かれず話しができる。すぐ、元の部屋に戻ることもできるぞ」

「……」

 

 精霊の力にはできない現象を目の当たりにし、心にざわめくものを感じざるを得ないエルフ。だが今は、それよりも優先させないといけないものがある。

 

「話してもらおう。あの手配書はなんだ?」

「ミューズが俺を売った」

「待て!あの女はお前の使い魔だろう。裏切るわけがない」

「そのはずだ。だが、何をされたのか分からんが、使い魔契約を維持したまま俺を裏切ったのも事実だ」

「……!?」

 

 ジョゼフの妙な言い回しに、引っかかりを覚えたビダーシャル。

 

「何をされたのか、と言ったな。お前の使い魔を、操った者がいるのか?」

「操ったのかどうかは分からん。ただ糸を引いている者はいる。直に会った」

「何者だ?」

「地獄の魔王」

「!?」

 

 一瞬、何を言われたのか分からなかった。いや、分かったとしても意味不明だ。

 

「持って回ったような言い方はするな。単刀直入に言え」

「言ったぞ。そうとしか表現しようがないからだ。あの化物はな」

「化物?」

「悍ましげな豪華なローブを纏っていた。見た目は大柄な白骨。ただし普通の白骨ではない。いかめしい姿をしている。さらに、腹には血の色の紅玉が浮いていた。魔王としか表現しようのない姿だ」

「なんだ、それは?ガーゴイルかゴーレムの類ではないのか?」

「そんな作り物の訳がない。あの威圧感はな。しかも俺の加速の魔法に、平気で追いついてくる吸血鬼を配下に連れてきていた」

「あの魔法に、追いついた!?」

 

 信じがたいエルフ。以前、加速の魔法を見せてもらった事があったが、目で追うことも難しかった。対応するのは不可能にすら思える。それに追いつくとは。

 ジョゼフはあの夜を思い出すかのように、その名を口にした。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王。それが地獄の魔王の名だ。ミューズの説明だと、ロバ・アル・カリイエの支配者だそうだ」

「!」

 

 目を見開き、ジョゼフを凝視するビダーシャル。ロバ・アル・カリイエの名に耳にして。脳裏に浮かんだのはアリィーの報告書だ。

 

「……。実は最近、ロバ・アル・カリイエへ密偵を送り調査させた」

「ほう……。それで?」

「人間はいなかった。いたのは白骨に黒い躯だそうだ。しかも皆、動いていたと」

「…………。躯の民か。そうなると、やはりアインズ・ウール・ゴウンはロバ・アル・カリイエの支配者というのは事実か。しかも魔導王は、人間たちを全て滅ぼしたようだな。だが、それほどの事が起こったというのに、エルフ共は気づかなかったのか?」

「正規の報告にはなかった。むしろその報告を疑ったからこそ、密偵を送り込んだのだがな」

「つまり、その地方を担当してるエルフ共は、魔導王に騙されてるという訳か。エルフにも無能は大勢いそうだ」

 

 鼻で笑うジョゼフ。それに、面白くなさそうな顔で応えるビダーシャル。

 元ガリア王は天を仰ぐと、腕を組んだ。

 

「もっとも、俺も人のことは言えんがな」

「……!?」

 

 信じがたい言葉がエルフの耳に入ったような気がした。この男が、反省を口にするなど聞いたことがない。

 ジョゼフは独り言のように言う。

 

「俺は、一晩で玉座も、使い魔も、国すら失った愚か者だ」

「どうしたのだ?お前らしくもない」

「何もかも失って、気づいてしまったのだ。あの狭い宮殿の中で、余は認められたいとか、誰が上か下かなどにこだわっていたと。さらに、そんなものに憤りを感じた果てに、弟に手を掛けてしまった。今、思えば、なんとくだらんものに凝り固まっていたのか」

「…………」

「それに気付かされた事だけは、感謝しよう。アインズ・ウール・ゴウンに」

 

 ビダーシャルは、ジョゼフを真っ直ぐに見る。素直な視線を送る。

 これまでは、その言動や見かけとは違いどこか覇気の欠けた捉え所のない人物に思えた。口にしていた数々の狙いも、本気なのか疑問だった。だが今は違う。意思の強さを感じる。

 当の体躯のいい眼鏡の神官は、エルフへ視線を返す。

 

「ビダーシャル。俺に手を貸せ。あの魔導王に一泡吹かせたい。お前達エルフも、すぐ隣に地獄の魔王がいては、安心して眠れぬであろう」

「……。確かにロバ・アル・カリイエ周辺のエルフに手を出したのは、その魔導王とやらと考えるしかない。何かを企んでいるのだろう。何も知らぬまま、非常事態というのは避けたい。いいだろう。手を組もう」

「決まりだな」

 

 満足げな笑みを浮かべるジョゼフ。ただのその笑みは、今までの作ったかのようなものではなかった。

 ここにいる人物は、エルフが脅威と定めたシャイターンだ。しかし何故だか、ビダーシャルは不思議とこの男といる事に、それほど不快感はなかった。

 

「ところで、どうやって私を見つけたのだ?」

「ああ、それか。どうも虚無の担い手は、エルフに敏感なようでな。アーハンブラにお前が来ると思って待っていたら、すぐ分かった。お前が町に入ってきたのがな」

「他のエルフだったかもしれないだろうに」

「そこは賭けだ」

「全く……」

 

 呆れ気味に、わずかに笑みを湛えるエルフ。それに肩すくめる、神官姿の元ガリア王。

 一息つくと、ビダーシャルはジョゼフへと話しける。

 

「それで、これからどうする?」

「まず人手が必要だ。当てはある。トリステインに行くぞ」

「ここから西の果てにか」

「俺の虚無を使えば、距離など意味はない」

「そうだったな。では行くか」

 

 二人は一旦、ビダーシャルの宿に戻るとアーハンブラを後にする。そしてひと目のなくなった所で、テレポートの魔法を使い、一気にトリステインへと向かうのだった。

 

 ジョゼフの話を信じたビダーシャルは、ガリア王国王都リュティスはすでにアインズ・ウール・ゴウンの手に落ちたと考え、王都には近づかないと決めた。おかげで、リュティスでビダーシャル捕縛の罠を張っていたナザリックの策を、彼は意図せず回避する事になる。双方共、何が起こったかを知らないままに。

 

 

 

 

 トリステイン魔法学院。放課後。コルベールの研究室に才人が訪れていた。必死に頼み込む彼に対し、弱り果てているコルベール。

 才人が何を頼んでいるのかというと、宝物庫にある場違いな工芸品を見せてほしいというのだ。しかも、いくつか欲しいと言う。理由は、異世界の力を取り戻すためというもの。

 眼鏡の中年教師は、確かに才人の言う事に思う所はある。正体の全く分からなかった破壊の杖を、彼は見知っていたのだから。場違いな工芸品は、聖地から持ってこられたと言われている。ただでさえ聖地という曰く付きなものなのだ。異世界などというものと、関係ある可能性は十分にある。彼にそれらの正体を教えてもらえれば、大きな助けになる。

 だからと言って、学院の宝物を譲るとまでは言えない。貸し出すならともかく。さらに訳を聞くと、壊すかもしれないからと言い出す始末。なおさら、渡す訳には行かなかった。

 

 床に這いつくばり、さっきから頭を下げ続けている少年剣士。

 

「本当に!本当に、お願いします!」

「そこまでするのは、一体どういう理由からかね。正直言わせてもらえれば、ガンダールヴの力だけでも君は十分強い。これ以上強くなって、どうすると言うんだい?」

 

 中年教師は、なだめる言葉を繰り返すしかない。

 しばらく黙り込んでいた才人だが。諦めて、自らの考えを口にする。

 

 自分以外のユグドラシルプレイヤー、つまりは異世界人がいる可能性が高い事。それが三年前のアカデミー襲撃事件を起こしたであろう事。しかもその性質は、残忍である事。さらにハルケギニアのメイジでは、束になっても彼らにまるで歯が立たないとも。

 もっとも、ユグドラシルの力が今使えない才人には、この話の証明のしようがないのだが。フーケ捕縛の時の、彼の戦いを見ていればそうはならなかっただろうが。あの時、コルベールは罠に引っかかって、見ていなかった。

 

 話を聞いて考え込むコルベール。しばらくして、口を開いた。

 

「分かりました。学院長に話を通してみますから。君も付いてきてください」

「ありがとうございます」

 

 大げさに礼を返す才人。

 彼がこれほどまでに場違いな工芸品にこだわったのは、フーケ事件での盗難品、破壊の杖が地球のものだったからだ。人間だけではなく、物品もこの世界に召喚されているのはないかと考えた訳だ。そして、その中には充電器があるかもと。

 

 学院長室を訪れ、話を持ちかける二人。全てを聞き終えたオスマンは、ゆっくりと話しだした。

 

「見ることは別にかまわん。手に取ることもな。だが、譲るという訳にはいかん。あれはあくまで学院のもので、わし個人の所有物ではないからの」

「そう……ですか」

 

 肩を落とす才人。一方の学院長。飄々とした感じで、髭をいじりだした。

 

「じゃが……ミスタ・コルベールが研究のため、持ち出すのは許可してよい。少々いじるのもな。君がこの手のものを、熱心に研究しとるのは知っとるからの」

「は?」

 

 唐突に名前を出されたコルベールは、困惑の表情を浮かべた。それを無視して話を続けるオスマン。

 

「その彼が、研究の最中、誤って場違いな工芸品を壊してしまう……なんて事もあるかもしれん。そんな事が起これば、ミスタ・コルベールには罰を受けてもらわねばならんな」

「ちょ、ちょっと待ってください!学院長!」

「もしもの話じゃ。もしもの」

「っ……!」

 

 言葉のない中年教師。このすっとぼけた老人の言っている意味は分かる。要は泥をかぶれと。

 すると才人が彼の横で拝むように、頭を下げていた。

 

「お願いします!コルベール先生!このお詫びは必ずします!」

「…………。はぁ……。分かりました。サイトくん。この借りは大きいですよ」

「はい!ありがとうございます!」

 

 こうして才人は、学院の宝物庫にある場違いな工芸品を手にする切っ掛けを得た。そしていくつか目星を付ける。

 一つは、両手で抱えるサイズの立方体の物体。黒鏡の立方体と呼ばれていた場違いな工芸品だ。その正体は電波中継用の小型軍事衛星。黒鏡とは太陽電池。また軍用無線機も入手できた。

 それぞれ軍用とは思えないほど、安っぽく見えた。おそらく、コスト削減のため中身に民生品を使っている可能性がある。軍用に特化していたら困ったが、これなら使えそうだ。中から部品を調達すれば、充電器を作り上げる事ができるかもしれない。

 彼は元々、電子機器メーカーに勤めていた。ライン工にすぎないが、トラブルの経験や自分なりに技術を習得するなどして電子パーツの扱いに慣れていた。

 その後、コルベールはもちろん、シュヴルーズなど教師達の力を借り分解に成功。

 数日後、かなり不細工だが、充電器を作り上げた。電源は衛星の太陽電池。ケーブル等その他部品も衛星の中から調達。コネクターは無線機から取り出した。各部品を木の箱の中にまとめ上げ、見た目はそれっぽいものが出来上がった。

 

 コルベールの研究室で、サイトは上部に太陽電池が取り付けられた木の箱を満足気に見る。横からコルベールが声をかけてきた。

 

「完成したようだね。後で、どういうものか教えてくれないかな」

「いいですよ。いろいろお世話になりましたし。そうだ。上手く行ったら、最初に見せてあげますよ。異世界の力」

「ほう。是非見せてもらおうかな」

 

 少しばかり楽しげな表情の中年教師。魔法よりも機械などに興味を持つ珍しいメイジだ。異世界の力とやらも、彼の好奇心を刺激していた。

 一方の才人。少しばかり違和感を抱きながら首をひねる。

 

「そういやぁ、場違いな工芸品って軍用品ばかりでしたね」

「……。そうだね」

「俺のガンダールヴも、武器を使う力だし。始祖ブリミルって、戦争の神様だったんですか?」

「それは……私からはなんとも言えないな。私は教師で神官じゃないからね」

 

 誤魔化しながらも、渋い表情を浮かべるコルベール。

 過去の苦い経験から、彼は戦争というものを忌み嫌っていた。だがこのハルケギニアで信仰の中心の存在が、戦争を望んでいるとしたらどう捉えればいいのか。胸に、居心地の悪いものを感じずにはいられなかった。

 

 翌日。朝から充電を開始し、放課後にはアダプターのバッテリーは満タンになっていた。一日中、晴天でこれだ。地球で充電していた時に比べて、何倍も時間がかかる。曇や雨だったら、どうなるのか。後々、問題になるかもしれない。だが、全く充電できないよりは、はるかにマシだ。

 

 才人はルイズとコルベールを伴って、学院の外、フーケを捕まえた場所にいた。巨大ゴーレムが暴れ回った場所だ。ここならば少々大きい能力を使っても問題ないだろう。

 鎧は身につけてないが、デルフリンガーは背負っている。二人が見守る中、アダプターをセット。中空を軽くタップするとウインドウが開いた。

 

「おお……」

 

 久しぶりの画面に、感動の声を上げてしまう才人。そしてバッテリー残量を確認。100%だ。自作の充電器は上手く機能したらしい。ただ、気になる事もあったが。

 そのタイミングで、ルイズが声をかけてくる。

 

「どう?なんとかなった?」

「ん?おう!」

 

 サムズアップを返す才人。彼女には、なんの意味かは分かってなかったが。機嫌よさげな声色なので、つい笑顔を返してしまう。

 才人は一呼吸入れる。とりあえず、機能確認だ。さっそく武装を装備。一瞬で、いつもの聖騎士姿になる。コルベールの驚きの声が上がる。

 

「な!?ど、どうやったんだい?」

「本当の才人って、こんなもんじゃないですよ」

 

 ルイズは自分の使い魔を自慢するかように、コルベールへ得意げな表情を向けていた。

 少年聖騎士は各種防御系、補助系魔法を発動。両手に大剣を構えた。

 

「さてと、久しぶりにやってみるか」

 

 それからいくつかの魔法やスキルを使う。その度に、驚きの声を上げるコルベール。ルイズも、今までとは違う能力も見せた才人に、視線が釘付けになっていた。

 デモストレーションのような、一通りの確認が終わると。二人の前に立った。そんな彼に呆れたような声をかける中年教師。

 

「異世界の力がこれほどとは……」

「まだ、半分も出してませんよ」

「あれでかね!?」

「はい」

 

 落ち着きを取り戻しつつあった、コルベールがまたも驚きの声を上げていた。

 しかしハルケギニアで驚かれるこの力も、終了直前のユグドラシルでは中の下程度のものだろう。彼はレベル90台止まりでカンストできなかったのだから。この世界にいると思われるプレイヤー相手に正面からでは勝てそうにない。

 

 それはひとまず頭の隅に追いやった。才人には、他にも気になる事があったからだ。まず最初の一つを口にする。

 

「デルフ。お前、精霊なのか?」

「え?精霊?」

「お前のステータス見たらそんな種族名出てきたからさ」

「精霊……精霊……。お!そうだ!思い出した。俺って作られたんだった」

「精霊作る?いや、召喚されたのか?剣の精霊なんていたのか……」

「違う、違う。えっと……確か……待ってくれ。もう少しで思い出せそうだ」

「後でいいから、思い出したら教えてくれ」

「なんだよ。大事な事なのか?」

「まあな」

 

 才人が気になったのは、デルフリンガーのスペックだ。正直、ユグドラシル基準だと弱すぎる。今の才人なら素手で折れる。これではプレイヤー相手に使えない。ただ彼の魔法を吸い取る能力は、ユグドラシルにはなかったものだ。できれば、戦いで使えるようにしたい。

 しかしそれ以上に重要な問題が、残っていた。バッテリーの充電率の横に表示されていた警告。黄色い文字で表示されたそれは、ナノマシン残量がかなり乏しくなっていると伝えていた。

 地球でゲームに接続するには、アタプターと体内ナノマシンが必須。このナノマシンは、プレイ時間に関係なく減っていく。地球では、ある程度以下になったら購入して補充する。もちろん自作など不可能な代物だ。これは、学院にある場違いな工芸品の中にはなかった。アカデミーにあるかもしれないが、何にしても、解決しないといけない問題である事は確かだ。

 

 ちなみに、エレオノールを通してアカデミーへ相談した虚無の件はすでに終わっていた。結果は分からないというもの。

 そもそも、虚無に関しては実在が全く信じられておらず、虚無の専門家とやらは儀式的なものに詳しいだけで、実体を全く知らなかった。ルイズが何かの能力を見せたとしても、それが虚無かどうか判断つかなかったのである。

 

 

 

 

 

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