世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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引き金

 

 

 

 

 トリステイン王国近衛隊、グリフォン隊の隊長ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドは、今日の仕事を終え、トリスタニア郊外の別邸に帰ってきていた。本領はトリステインの東方だが、近衛隊隊長という立場上、ずっと王都に住んでいる。

 屋敷の扉が開くと、執事が礼をして迎える。そして隣に控えていた緑髪のメイドが、彼の荷物を受け取った。そして二人でワルドの私室へと向かう。

 ひと目がなくなった廊下で、メイドがポツリと話しだした。

 

「一体、どうなんってんだい?」

「安心しろ。警察は土くれのフーケ脱走を、公表していない。三年前のアカデミー襲撃事件の犯人は手がかりすら見つからず、稀代の盗賊逮捕の手柄を学生に取られてしまった。その上、脱走までされてはな。連中の信用は地の底だ。なんとしても、秘密裏に捕まえたいらしい」

 

 憮然とワルドの話を聞くメイド。彼女こそ、土くれのフーケだった。ワルドがある目的のため、脱走させ匿っている。

 しかしそんな恩ある相手に対し、フーケは不機嫌そうに返してきた。

 

「そんな話、してんじゃないよ。いつになったらアルビオンに行くのかって聞いてんだよ」

「…………。今はまだ、というだけだ」

「本当かい?見捨てられたんじゃないのかい?」

「……」

 

 唇を強く結び、何も答えない美男の金髪子爵。

 

 彼は近衛隊隊長でありながら、アルビオンのレコン・キスタに内通していた。

 本来の計画では、ウェールズに恋心を抱くアンリエッタ王女をそそのかし、彼を救出するという名目でニューカッスルの城内に侵入。彼女の名を使いテューダー王家の信用を得た上で、彼らが保持している始祖の秘宝を奪取。さらにテューダー王家も討ち取る。その大きな成果を足がかりに、レコン・キスタでの高い地位を確保。オリヴァー・クロムウェルの虚無の力を利用させてもらう。というものだった。

 フーケを脱獄させ仲間にしたのも、自分の計画を手伝わせるためだった。

 ところが、予定より遥かに早く内戦は終了してしまった。計画は全て台無しに。しかもそれ以来、全く音沙汰なし。

 レコン・キスタには、彼が内通を確約した宣誓書がある。これを公表されれば、身の破滅だ。だからと言って、なんの土産もなくレコン・キスタに行っても、末席にただいるだけとなってしまう。クロムウェルの虚無の力を利用するなど、夢のまた夢。

 

 袋小路に入ってしまったかのような気分のまま、私室の扉を開け中に入る。フーケも後に続いた。そして灯りを点けた。

 目に入ったのは、彼の椅子に腰掛けている全ての毛を剃り上げた見知らぬ神官。その人物が一枚の紙を手に、見せびらかせてきた。

 

「これはなんだと思う?」

「な、何者だ!?」

 

 ワルドは慌てて、声を張り上げた。館内中に届くように。

 

「賊だ!賊が侵入したぞ!」

「騒いでも無駄だ。お前の声は外には届かん」

「な、何!?」

「こいつの魔法でな」

 

 神官は、顎で部屋の隅を指した。するとそこには、一人のエルフが佇んでいた。

 

「エ、エルフ……!」

「さてと、さっきの質問の答を言ってしまおう。これは、お前がレコン・キスタと内通している証拠だ。裏切りの宣誓書だ。サインを確認するか?」

「お前達は一体……」

 

 ワルドは警戒心を最大限に引き上げる。フーケも。そして二人は杖を抜いた。すると神官は、つまらなそうな口ぶり。

 

「無粋なヤツだな。話を聞こうとは思わんのか」

「ああ、お前を抵抗できなくしてな!」

 

 杖を神官に向けた。同時に詠唱開始。

 

「え!?」

 

 次の瞬間に出てきたのは、抜けたような声だった。手から杖がなくなっていた。気づくと神官の手に、二本の杖があった。しかもいつのまにか席から立っており、そして落ち着いた様子でまた座る。

 すると脇から声がかかった。エルフからだ。

 

「いい加減、話を進めろ。ジョゼフ」

「寿命が長い割には、気が短いのだなお前は」

「無駄を避けたいだけだ」

 

 状況が把握できない髭の子爵。その時、ふと肩を叩かれた。フーケだ。

 

「話を聞こうじゃないか。今の所、私たちに手を出す気はなさそうだしさ」

「……。分かった。何の用件か話を聞こう。まずは何者だ?」

 

 警戒心を緩めるワルド。するとジョゼフと呼ばれた神官が口を開いた。

 

「俺はガリア王ジョゼフ一世だ。そしてこいつは、ネフテスの議員ビダーシャル」

「なっ!?ガリア王!?」

 

 思わず驚きの声を上げるワルド。だが脇から冷静な声が挟まれた。フーケだった。

 

「あんたかい。ガリアで指名手配されてる偽ガリア王ってのは」

「偽ではないぞ。俺が本物だ。ヴェルサルテイル宮殿にいるのが偽物だ」

「大した演技力だよ。肝も据わってるようだしね。けどね、追われてるアンタがどうやってガリア王だって証明する気だい?」

「先程の杖、どうやって奪ったと思う?」

「……」

「あれはな、虚無の魔法だ。始祖の秘宝がなくば、始祖の血を継いだ者でなくば、すなわち王族でなければ虚無の担い手にはなれん」

「……!」

 

 黙り込む二人。確かにさっきどうやって杖を奪われたのか見当もつかない。しかも、近衛隊隊長と稀代の盗賊フーケから奪ったのだ。

 するとさらに別の声が届く。ビダーシャルだ。

 

「ジョゼフが虚無なのは確かだ。エルフである私が、それを何度も確認している」

「……。分かった。あなたがガリア王かどうかはともかく、虚無の担い手である事は受け入れよう。それで、説明して欲しい。この状況と、私への用件を」

「よかろう」

 

 ジョゼフは、緩んでいた表情を引き締め話し始めた。

 アインズ・ウール・ゴウン魔導王率いる化物の国が出現し、ロバ・アル・カリイエ全土を支配。さらに、ハルケギニアとサハラで暗躍していると。ガリアの玉座から、自分が追い出されたのも連中の仕業だと。アルビオンすら、魔王の手中にあるとも。エルフと手を組んでいるのも、共通の敵を相手にしているのが理由だった。

 

 一方、黙って聞いていたワルドは渋い顔。

 魔王の暗躍などというおとぎ話のようなものを、信じるなど無理だ。だいたい、真実だと証明しようがない。そんなものに相対するため手を組もうなどと言われても、うなずける訳がない。

 するとジョゼフは鼻で笑う。

 

「フッ……。そんな顔をするのももっともだ。逆の立場なら、笑い飛ばすか無視するかのような話だからな」

「確かに笑い飛ばすような話だ。だが、あなたが虚無であることも確からしい。魔王を信じるのは無理だが、虚無の力を借りれるなら手を貸してもいい」

「ん?もしかしてレコン・キスタに組みしようと思ったのは、それが理由か?」

「そうだ」

「ハッ!運が良かったな」

 

 小馬鹿にしたような自称ガリア王の表情に、顔を顰める美男の子爵。

 

「何がだ?」

「あのオリヴァー・クロムウェルとかいうヤツは、虚無でもなんでもないぞ。マジックアイテムで虚無を偽装してるだけだ。元司教の詐欺師だ」

「な!?バカな……。だ、だいだい何故そんな事を知っている!」

「俺が仕組んだのだからな。あの神聖アルビオン共和国とやらは」

「……!」

 

 言葉のないワルド。

 確かに、ガリアの影というものはレコン・キスタに接触してからなんとなくは感じていた。ある意味、寄り合い世帯にすぎない連中に賭けたのも、その後ろ盾を期待していたのも理由の一つだった。目の前の神官がガリア王ならば、あの国の真相を知っていても不思議ではない。

 ジョゼフは、不敵な表情に戻っていた。

 

「だが本物の虚無は、もうお前の目の前にいる。お前の望みがなんだか知らんが、手を貸せば期待に応えてやろう」

「……。分かった。手を組もう。フーケ、お前はどうする?」

「…………」

 

 腕を組み考え込んでいる様子のフーケ。しばらくして口を開く。

 

「その魔王の事は知らないけど、関係するかもしれないものについちゃ、心当たりがあるよ」

「何だと!?」

 

 ワルドだけではない、ジョゼフもビダーシャルも一斉に顔色を変えた。続きを話す、緑髪の女性。

 

「私を捕まえた人間。ガンダールヴとかいう虚無の使い魔らしいんだけどさ。正直、異常だった」

「ガンダールヴだと!?だが、さすがはガンダールヴという所か。確か……あらゆる武器を使える……だったかな」

 

 虚無を頼ろうとしていただけに、ワルドはある程度虚無についての知識があった。しかし、盗賊の方は小さく首を振る。

 

「武器を使えるどころじゃなかったよ。魔法も使ってた」

「ガンダールヴが魔法を!?」

「それだけじゃない。私の30メイル級のゴーレムを、力で圧倒してた。殴られて、吹き飛ばされてたよ。しかも、剣士のくせに空も飛ぶ。重装備なのに、見えないほど速く動ける。ゴーレムを何体も出したけど、全部あっけなく木っ端微塵さ。勝負にすらなりゃしない」

「なんだ、それは!?」

 

 唖然としたワルドの声。フーケは肩をすくめる。

 

「そうだよ。なんだ、あれはだったよ。ただ思い出してみると、ハルケギニアのとは大分意匠の違う鎧や剣を持ってたし。あれだけ強いのに、ハルケギニアじゃ聞いたこともない名前だったからね。だいたい名前も、ハルケギニアらしくなかった。あの強さは、ガンダールヴってだけじゃない気がするよ」

「そいつが魔王と同じ存在だと?人間ではないのか?」

「姿は平民の少年。けど、中身までは分からない」

「……。確かお前を捕まえたのは、トリステイン魔法学院の生徒だったな。今でも学院にいると思うか?」

「いるも何も、アンタの婚約者の使い魔さ」

「ルイズ・ド・ヴァリエールの!?」

「ああ」

「ガンダールヴの名前は?」

「ヒラガサイト」

「…………」

 

 難しい顔で顎を抱えるワルド。ジョゼフ達の方も今での態度とは違い、真剣味を帯びたような表情を見せていた。なんと言っても、三人目の化物らしき存在が分かったのだから。

 

「一度、試したほうがよさそうだな。そのガンダールヴを。力のほどと、魔導王の仲間か敵かを」

「どのように?」

「双方を戦わせる。それで分かるだろう」

 

 ワルドは小さく頷いた。見極めるような視線を向けつつ。

 先程のヒラガサイトも得体が知れないが、この目の前の自称ガリア王も得体がしれない。虚無である事は別にして。しばらく観察するために、指示に従っておこうと考える。

 そんな彼の気持ちを他所に、ジョゼフは顔をフーケの方へ向けた。

 

「それで、お前はどうする?手を組むか?それとも逃げ出すか?」

「組むよ」

「随分と決断が早いな。何か得でもあるのか?」

「……。魔導王にヒラガサイト。もし、そいつらが同じ類のもんなら、他にもいるんじゃないのかい?化物みたいなのが、この世界に」

「……」

「しかも魔導王の方は、もう動いてる。もしかしたら、この先、とんでもない事が起こるかもしれない。なら、生き残るためには、最新情報を知れる立場にいた方がいいからね」

「矢面に立つハメになるかもしれんぞ」

「何も知らないのが、一番怖いさ」

「フッ……」

 

 ジョゼフは、わずかに口はしを上げる。そして席を立った。

 

「ではまず、あの連中が戦う舞台を作るとするか。さっそく手を借りるぞ。お前達」

 

 裏切りの子爵に、稀代の盗賊、そして工作員のエルフは小さく頷いた。

 

 

 

 

 トリステイン王国の王宮では、盛大な儀式の最中だった。アンリエッタ王女の戴冠式である。

 ゲルマニアとの同盟の前に王位を継ぎ、双方が対等な立場となるために、この儀式は急がれた。国力の差は歴然としている上に、王位不在のトリステインと皇帝を戴くゲルマニアが同盟を結べば、トリステインの立場がどうしても下になってしまう。それを可能な限り防ぐための儀式だ。もちろんアンリエッタ自身が、早く王位に就くべきと考えたのもあった。

 

 戴冠式が行われる謁見の間は、近衛隊であるグリフォン隊を筆頭とし多くの衛兵たちが守っていた。彼らが守っているのはトリステイン王家の面々はもちろん、様々な要人もだ。トリステイン貴族、さらに各国からの招待客もここにはいた。帝政ゲルマニア、ガリア王国、そしてブリミル教の総本山ロマリア連合皇国。そして、現アルビオンを統治する神聖アルビオン共和国も。

 アンリエッタは玉座に身を収めながら、アルビオンの使節団たちへ厳しい視線を向けていた。心の内には、苛立ちが湧き上がり始める。今でも、ときどき夢に見る。ウェールズとの別れの夜の出来事を。そして目が覚めると夢だと気づき、涙した事が何度もあった。

 彼らは、そのウェールズの命を奪った者たちだ。しかも、そんな連中を自分の戴冠式に呼ばねばならない。自分の弱さに、憤りすら感じる。

 これは宰相であるマザリーニの提案によるものだ。最初アンリエッタは、アルビオンを招待する気はなかった。しかし、まだ同盟を締結していない状態で、敵意をあからさまにするのは下策と説得されてしまった。

 

 次期女王は心を落ち着かせるため、視線を別の所へ送った。

 そこには馴染みの顔が見えた。ルイズだ。彼女はヴァリエール公爵家の一員というより、王女の元相手役として招待されていた。アンリエッタの数少ないわがままだった。ただ今日は、以前共にいた立派な騎士はいない。立場上は使い魔なのだから、よほどの事がない限り王宮に入れるはずもなかった。

 ルイズの妙に緊張した表情を見て、少しばかり笑みを零すアンリエッタ。気持ちの落ち着きを取り戻す。

 

 儀式は粛々と進み、ロマリアから遣われた神官を証人として、母である王妃から王冠がアンリエッタに被される。ここにトリステイン女王が誕生した。

 そして、トリステイン貴族、各国要人たちは順番に祝辞を述べていった。最後の順番となったのは、神聖アルビオン共和国だった。アンリエッタは女王然とした姿勢は崩さないが、表情は硬いものになっていた。そんな彼女の様子にあえて無視してか、アルビオン使節団の代表は作り笑顔で祝辞を述べる。

 

「トリステイン女王、アンリエッタ・ド・トリステイン陛下。この度の即位、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「我々は誕生間もない国。歴史ある国である貴国と……」

 

 そこで言葉が途切れた。アンリエッタは一瞬、口上を忘れたのかと思った。しかし、すぐに違うと悟る。何故なら、代表の胸から剣が突き出ていたのだから。同時に鮮血が飛び散った。

 

「ヒッ!」

 

 彼女の頭の中が真っ白になる。

 

 前のめりに無言で倒れる代表。その背後から出てきたのは、儀典用の鎧に身を固めた衛兵だった。剣を振り上げ、勇ましく宣言する。

 

「女王陛下!ご命令、果たしましたぞ!陛下の愛しきウェールズ殿下の仇を、討ち取りました!」

 

 悲鳴が一斉に上がる。

 驚きと怒りを混ぜ込んだような表情で、アルビオン使節団の一人がアンリエッタへと叫んだ。

 

「ど、どういうおつもりか!戴冠式の最中に使節の命を奪うなぞ!」

 

 すると先程の衛兵が怒声を上げる。

 

「黙れ!簒奪者共!正当な王位継承者であらせられるウェールズ殿下のお命を奪った上、虚無を詐称するクロムウェルなぞに、頭を垂れる愚か者が!」

「き、貴様!皇帝陛下を愚弄するとは!暗愚な王の血を引くウェールズなど、死んで当然!愚鈍な王家は、滅亡こそがふさわしい!」

「ウェールズ殿下が、愚鈍だというのか!」

「そうだ!」

 

 その一言、止まっていたアンリエッタの頭が動き出す。怒りに満ちていく。

 

「なんですか!そのもの言いは!ウェールズの命を、命を奪ったくせに!愛するウェールズの……!この背教者!」

「なっ!」

 

 憤怒の表情に染まる、アルビオン使節団。

 ブリミル教徒にとって、背教者は最大の侮蔑の言葉だ。しかも神聖アルビオン共和国は、虚無と称するオリヴァー・クロムウェルを皇帝としている。ブリミル教の真髄を、戴いていると言っていい。その国の使節団を背教者と罵るのは、逆鱗に触れるも同然だった。

 

 使節団の一人が、アンリエッタを指さして叫ぶ。王に対し、こんな無作法はありえない。それほど我を忘れていた。

 

「その言葉、本国に必ず伝えますからな!覚悟していただこう!」

「させるものか!」

 

 代表を刺殺した衛兵が、切りかかってきた。すんでの所でかわす使節団員。

 

「ヒェッ!」

 

 それを合図に、一斉に逃げ出すアルビオン使節団。彼らを追う衛兵。騒然とする謁見の間。

 怒声が響き渡る中、ルイズはこの光景をどう捉えればいいかパニックになっていた。ただあるのは、これから悪い事が起きるという予感だけだった。

 

 

 

 

 トリスタニア郊外。ワルドの別邸。彼の私室には鍵がかかっており、誰も入れない状態だった。通常の方法ではだが。

 そこに二人の姿が突然現れる。衛兵姿のジョゼフとメイド姿のフーケだ。テレポートの魔法で、転移してきたのだった。待っていたビダーシャルが迎える。

 

「結果は?」

「上々も上々」

 

 心から楽しげにジョゼフは返す。そこにフーケが言葉を挟んできた。

 

「堂に入ってたじゃないか。演劇の才能があるんじゃないのかい?」

「かもしれんな。悪くはなかったぞ。それにしても、あの小娘、見事に踊ってくれた。あやつの道化ぶりは、期待以上だ」

「ま、薬の効果もあるしね」

 

 盗賊は不敵に笑う。その会話を黙って聞くエルフ。

 

 戴冠式での騒ぎは当然、彼らが起こした。

 アルビオン使節団を刺した衛兵はジョゼフだ。ワルドの手引で、衛兵に潜り込んでいたのだった。アンリエッタとアルビオン使節団を怒らせるための薬を作ったのはビダーシャル。少しばかり、不快感を強くする程度の薬だが。それを、彼女と使節団の食事に混ぜたのはフーケ。さらにアルビオン使節団が逃げ切れるよう、うまく誘導したのも彼女だった。ワルドはというと、策ための手引と事後処理を行った。今でも王宮で、表向きの対応に追われているだろう。

 

 偽衛兵は適当な椅子に座ると、独り言のように言う。

 

「これで、アルビオンとトリステインは戦争状態になる」

「しかも女王様は、愛するウェールズなんて言っちゃったからね。ゲルマニアとの同盟も白紙さ」

 

 ジョゼフの言葉に、フーケが続く。

 トリステインとゲルマニアの同盟は、双方の女王と皇帝の結婚が前提条件だ。もちろん政略結婚ではあるが、建前上は愛が結ばれるという形となっている。だからこそ、愛情が他にあるなどと口がさけても言ってはいけなかった。しかしアンリエッタの一言で、何もかもが破綻した。

 

 そしてビダーシャルがつぶやく。

 

「アルビオンと小国トリステインの戦争。ガンダールヴは戦場に出ざるを得ないという訳か。魔導王も自らの領域を守るため、手を出さざるを得ないと」

「ああ。この戦を見極めねばならん。俺たちの存在を悟られないようにな」

 

 さっきまでの浮かれた気分は、ジョゼフからはなくなっていた。いくら虚無やエルフがいようとも所詮は小勢。魔導王に見つかれば、一瞬で殲滅されるだろう。警戒しすぎるという事はない。

 一同は頭を切り替えると、次の段階への準備を進める事にする。

 

 

 

 

 

 

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