世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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ラ・ロシェール戦役:開戦

 

 

 

 

 トリステイン東方、ヴァリエール公爵領。その中心である公爵の居城のテラスで、中年の貴婦人が茶を飲んでいた。ただその姿は貴婦人には見えず、遠目には男性に見えるだろう。何故なら、狩装束に身を包んでいたのだから。彼女こそ公爵夫人、カリーヌ・デジレである。

 厳しい視線を東の町並みや平原へと向け、そして今度は館の方へ振り返る。つまり西の方へ。

 

「そろそろ始まった頃かしら」

「さようでしょうな」

 

 脇に控えている執事のジェロームは頷いた。

 

 カリーヌがここにいるのは、東の守りを任されたからだ。

 そもそもヴァリエール家は東の守りの要だ。想定される相手はゲルマニアとガリア。今回の戦争では中立の立場だが、状況次第でどう動くか分からない。故に東を空にする訳にはいかない。トリステインは少ないながらも、ある程度、東の守りに戦力を割かなければならなかった。その総司令の立場を彼女は任されたのである。ヴァリエール公爵が、学院の教官に専念できるのも彼女がいるおかげだ。

 

 カリーヌの狩装束も、いつでも戦に対応できるようするため。そして緊張感を保つためでもある。

 だがそんな心持ちの中、頭に浮かぶのは娘、ルイズの事。アルビオンとの戦力差を考えると、彼女は戦争に出ざるを得ないだろう。メイジとしては不出来な娘の無事を、祈らずにはいられなかった。そして彼女の使い魔、ヒラガサイト。異世界の聖騎士が彼女を守ってくれるよう。カリーヌはふと、独り言のように始祖ブリミルへ祈っていた。娘たちが無事に帰ってくるようにと。

 

 

 

 

 日は十分上がり、朝食を終えるような時間となったラ・ロシェール。トリステイン、アルビオン両軍が対峙していた。もうまもなく火蓋が来られるだろう。

 トリステイン艦隊司令、ラ・ラメ―伯爵は、余裕の笑みを浮かべる。

 

「舐められたものだ。たったあれだけの戦力で、ここを落とせると思っているとはな」

「しかも、敵艦隊は風下です。動きも制限されるでしょう」

 

 ラ・ラメ―に答える、トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』艦長、フェヴィス。

 

 ハルケギニアの空中戦艦は空を飛んではいるが、移動方法は帆船と変わらない。このため風上を取ることが、艦隊戦の基本だった。

 そもそもラ・ロシェール駐留艦隊は十二隻。さらに地上には陸軍が控え、いくつもの砲台もある。駐留竜騎兵隊もいる。確かにアルビオンの旗艦レキシントンは、トリステインにはない巨艦だ。しかしそれを含めてもたった五隻の上、不利な位置取りの中、空と陸からの攻撃に持ちこたえるのは不可能と彼は考えていた。

 

 三艦隊に分かれたトリステイン艦隊は、ラ・ロシェール港周辺に広く包み込むように展開しており、前に出ていない。アルビオン艦隊が、港を落としに来るのを待つつもりだ。メルカトールは、一番奥の中央艦隊に鎮座していた。

 

「空と陸との同時攻撃で、すり潰してくれる」

 

 少しずつ大きくなってくるアルビオンの戦艦を見ながら、鼻で笑う艦隊司令。

 

「ん?」

 

 すると敵旗艦艦隊が歩みを止めた。そして、側面を見せ始める。ずらっと並ぶ砲が目に入る。戦闘準備に入ったように見える。しかし射程外だ。このまま突っ込まず、側面に回り込むつもりかもしれない。だがもう一つの考えが浮かんだ。

 

「まさか撤退!?」

 

 ありうる話だ。こちらの戦力に臆したのか。確かにこのまま突っ込むのは、相手にとって自殺行為には違いない。

 ラ・ラメ―は叫んだ。

 

「いかん!敵を逃すな!左翼艦隊は……」

 

 そこまで言いかけた時に、炸裂するような破壊音が耳を貫く。

 

「な、何事だ!?」

「司令!コンケランが!」

 

 艦長のフェヴィスが左を指差す。すると隣の艦『コンケラン』のマストの一本が折れ、船体に穴が空いていた。

 

「バ、バカな……。敵の砲撃?何故届く……!?」

「司令!」

 

 今度は前を指差す艦長。敵旗艦レキシントンから発砲煙が上がった。直後に響く破壊音。周りの艦が次々に被弾していた。

 顔面蒼白の司令官。状況が理解できない。

 

 彼らは知らなかった。巨艦であるレキシントンには、一般の艦よりも巨大な砲が積まれていた。その射程はトリステイン艦の1.5倍程度あった。長らく平和だったトリステインは、アルビオンの情報収集に不十分な部分があったのだった。

 

 余裕の開戦が、まさかの痛打。ラ・ラメ―は、腹立ち紛れに怒声を上げる。

 

「両翼の艦隊を展開させろ!敵艦隊を左右から挟み込め!竜騎兵を出せ!敵旗艦を集中攻撃!中央艦隊は降下する!」

「はっ!」

 

 慌ただしく、信号旗が上がる。それを受け、トリステイン艦隊は一斉に動き出した。

 ハルケギニアの戦艦の大砲は上下に対し仰俯角があまり取れない。特に俯角はないに等しかった。このため砲弾を回避するのは、下降するのがセオリー。もっとも、自分たちも攻撃しづらくなるのだが。ただ、一方的に攻撃される状況を回避したのは確かだった。

 

 

 

 

 夕刻に差し掛かっても戦闘は続いていた。むしろアルビオン側はよく保っているとも言えた。

 初戦こそアルビオン優勢だったが、すぐに数的不利が露呈する。長射程の砲を持っていたのは旗艦レキシントンだけだったので、射程の長さを生かすには限界があった。乗っている竜騎兵の数も劣勢で、トリステイン軍の竜騎兵をさばき切れなくなっていた。自慢の長射程の砲も、すでにいくつか潰されている。

 

 そんな中、指揮に専念しているトリステイン側の竜騎兵隊隊長がいた。ただ当人は、消極的と言われてもしようがない戦いぶり。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。元グリフォン隊隊長だ。戴冠式での事件の責任を取らされ、降格し竜騎兵隊隊長となっていた。

 だがそんな不名誉を挽回するような意気込みは、全く見られない。

 

「これでは、叱責を受けるかもしれんな」

 

 皮肉めいた笑みを零すワルド。だがここで、討ち取られる訳にはいかない。彼はジョゼフ一味の眼であり、今回の謀略の結果を見届けなければならなかった。

 デミウルゴスが探し出そうとしている事件首謀者達の一人は、戦場のど真ん中にいたのだった。経歴ある正式な軍人として。

 

 そんな彼が意識しているのは、眼下にある旗艦レキシントンではない。敵艦隊から少し離れた場所にいる異質な黒い艦。何人かの竜騎士が手を出したのが見えたが、一瞬で撃ち落とされていた。ライトニングの魔法らしきもので迎撃したようだが、どうやって落としたのか分からないものもあった。

 

「おそらくは、あれが魔導国とやらの艦だろう」

 

 味方の劣勢に対し、助ける気がないかのような黒い艦。それがどのような動きを見せるのか、注視するワルドだった。

 

 アルビオン艦隊旗艦レキシントンでは、慌ただしく乗員が動いていた。それは指揮室でも同じだ。ボーウッドが腕を振り上げながら、命令を発する。

 

「A五番艦に支援を命じろ!」

「もう三回目です!」

「それでもだ!」

 

 『A五番艦』。シェフィールドが乗艦している艦の名だ。見かけも異質だが、名前も異質だった。通常の艦のようなまともな名前がない。ただの番号のみ。

 そのA五番艦は今回、独自に動くと事前に言われていた。艦隊指揮はボーウッドに任せるといいつつも。当然、ボーウッドはシェフィールドに反論する。しかし総司令権限で、拒否されてしまう。それでも艦隊として動いてくれるだろうと、期待はしていた。シェフィールド自身も、共に沈む訳にはいかないからだ。

 しかし実際は違った。味方の危機に駆けつけようとしない。敵の射程外で、時々来るトリステイン竜騎兵を撃ち落としているだけだ。

 

「何を考えている!あの女は!」

 

 冷静なボーウッドが、踏み抜かんばかりに足を床へと叩きつけていた。

 

 一方のA五番艦。艦長室ではミラー・オブ・リモート・ビューイングに写る光景を、コキュートスが腕を組みながら見守っていた。

 

「ソロソロカ……」

 

 アルビオン軍の劣勢が明らかになるのを、待っていたのだった。

 今回の作戦には、空軍の実戦試験という目的も含まれていた。アルビオン軍に下手に活躍されては、試験結果が不明瞭になる。それを防ぐため、ここまで動かずにいた。

 コキュートスは控えている、黒いローブを着た仮面の人物に命令を下した。

 

「本艦ヲ、上昇サセヨ。目標ハ、敵旗艦直上」

 

 ローブを着た人物は黙ってうなずき出ていく。この人物の正体はエルダーリッチだ。そもそもこの艦に乗っているのは、ほぼアンデッド。甲板にいるガーゴイルは、スケリトル・ドラゴンやボーン・ヴァルチャー、デス・ナイト、デス・ウォリアー、デス・ウィザード、デス・プリーストが偽装したものだ。

 

 コキュートスはシェフィールドの方を向くと、声をかけた。

 

「コノ艦ハ、通常ノ操舵ハ、シナイ。体ヲ、シッカリ固定シテオケ」

「は、はい!」

 

 彼女は柱にある固定器具に、渡された服にある金具を取り付ける。あたかも、柱に縛り付けられたような姿となった。

 

 やがて推進用の帆を畳むと、翼のような帆を展開。急上昇し始めるA五番艦。

 この艦は一般的なハルケギニアの艦と大きな違いがあった。それは風がなくとも自立航行ができる点だ。艦の後方に、ロバ・アル・カリイエのマジックアイテムの大型なものが積んであり、精霊石の魔力を使い風を放出、推進力としていた。

 

 トリステイン艦砲の射角限界を超えると、風上にある旗艦へ真っ直ぐに向かった。ハルケギニアの艦船ではできない操艦だ。

 敵艦隊の上を抑えたA五番艦。コキュートスは次の命令を下す。

 

「空挺部隊ヲ、出セ」

 

 甲板のボーン・ヴァルチャー、ガーゴイルに偽装した骨だけのワシが一斉に飛び立った。そして、スケリトル・ドラゴンに各種アンデッドが乗り、同じく飛び立つ。

 

 魔導国空軍の基本的な運用方法は、艦隊戦か空挺作戦だ。

 それというのも創造したアンデッドでは、まともな空軍を作れなかったからだ。

 ユグドラシルは基本的に地上で戦うゲームであり、MPを使わずに飛ぶ方法は限られる。空を飛べるアンデッドは、さらに乏しい。また飛べるアンデッドのほとんどは他のモンスターに比べ、空中機動力が限られた。これらの理由から、この世界の空中騎兵のような事をアンデッドにさせる事ができなかった。結果的にスケリトル・ドラゴンなどに他のアンデッドを乗せ、敵地に送り込むという運用方法となったのである。

 

 コキュートスは続けて指示を出す。

 

「ルプスレギナ。部隊ノ観察ト、事後処理ヲ頼ム」

「了解っす!」

 

 元気よく頷く赤髪の戦闘メイド。部屋を出て、甲板に立つ。そして不可視化を発動。空挺部隊と共に、敵旗艦、メルカトールへと向かった。戦闘に参加するためではなく、実験の成果を確認するためと、作戦終了時の処理のために。

 ただ本人は、少々不服そうだ。せっかくの戦争なのに、誰も殺せないのだから。

 

 メルカトールの甲板では、ラ・ラメ―とフェヴィスが呆然と真上を見上げていた。

 突然、敵艦隊から一隻の艦が急上昇。そして風向きを無視して、真っ直ぐ進み、彼らの乗艦の真上に位置した。その艦船としてはありえない動きに、あたかも幽霊船でも見たかのように思考が止まる二人。

 そんな二人の視界に写る敵艦から、黒い影がいくつも飛び出した。ようやく我に返る。

 フェヴィスが叫んだ。

 

「竜騎兵だ!敵竜騎兵接近!迎撃せよ!旗艦を直接狙うとは……!司令官閣下、艦内に避難を!」

「わ、分かった!」

 

 慌てて、艦内に入るラ・ラメ―。一方、甲板に残るフェヴィス。

 この世界の艦船には艦橋が存在しない。そのため指揮を取るには甲板にいた方がいいのだが、今、最も危険なのも甲板だ。こういう時のため一応、艦内には指揮室という指揮専門の部屋がある。ただやはり状況把握は、甲板より難しかった。

 

 急速に大きなっていく黒い影。それが風竜サイズでない事をフェヴィスは確信する。

 

「まさか火竜か!?いかん!旗艦に取り付かせるな!」

 

 上がった信号旗に反応し、護衛のための竜騎兵が一斉に攻撃をしかけた。しかし、それに全く反撃しない敵竜騎兵。にも関わらず、一騎も落とせていない。

 やがて敵竜騎兵が、着地の衝撃と共にメルカトールの甲板に降り立った。その数三。

 それを唖然とし、口を開けたまま見つめる旗艦艦長。

 

 目の前に写るそれは、火竜などではなかった。大きさこそ近いが、黒い鎧を着込んだドラゴン、あるいはドラゴンの形をした作り物とでもいうべきか。しかし、何故か意思を感じる。威圧感と言ってもいい。顔の鎧の隙間から見える四つの赤い光が、目のように思えたからだろうか。しかも狂気を孕んだ目に。

 

 甲板にいる兵たちの誰もがその異様な見た目に、動きを止めてしまっていた。そんな彼らを無視して、ドラゴンの背に乗っていた兵たちが降りてくる。二メイル半弱はあろうかという巨躯の黒い騎士たちが。

 そして彼らが雄叫びを上げた。

 

「グォォォーー!」

 

 耳を貫く咆哮に叩き起こされたかのように、意識を掴みなおすフェヴィス艦長。黒い騎士達を指差し、叫ぶ。

 

「て、敵兵を排除せよ!」

 

 だが、それがまずかった。黒い騎士たちはその声に一斉に反応し、フェヴィスの方を向く。そしてその中の一体、巨大な盾を持った騎士が凄まじいスピードで迫り、あっという間に彼の目前に立った。

 

「な……!あ……」

 

 押しつぶされるような威圧感。何故か分からないが、体中が総毛立つ。

 思わず杖に手が伸びる。しかし、それを騎士に向ける間などなかった。黒い騎士のフランベルジュが、肩口から袈裟懸けに彼を切り裂いていた。

 

「オォォォ!」

 

 鮮血を浴び、歓喜しているかのような叫びを上げる盾の騎士。それを合図に、他の黒い騎士たちも動き出した。敵への攻撃を開始。

 トリステイン兵たちもそれに反撃。甲板上が、剣戟の音と銃声、魔法の着弾音に溢れる。

 だがそれもすぐに変わった、悲鳴に。黒い騎士たちは、トリステイン兵の攻撃など意に介さなかった。というよりまるで通じない。数としては圧倒的多数なトリステイン兵が、次々と討ち取られていく。

 兵たちはパニックに陥った。

 

「な、なんだこいつら!」

「に、逃げろ!」

 

 艦内へ逃げ出す兵たち。それを追う黒い騎士。そして作り物の黒いドラゴンも動き出す。尻尾を甲板に打ち下ろし、穴を開ける。前足でマストをへし折る。

 旗艦メルカトールは、破壊音と阿鼻叫喚に満ちていた。

 

 指揮室に逃げた艦隊司令ラ・ラメ―。上からはいくつもの破壊音と悲鳴が届く。不安が彼の心を鷲掴みにしていた。

 側に控えていた護衛の一人に命ずる。

 

「甲板の様子を確かめてこい!」

「えっ!?いや、しかし……」

 

 護衛も異質な不安を感じていた。体が甲板に行くことを拒否している。

 その時、ドアをかるく叩く音がした。ノックというより、誰かがぶつかっていると言った方がいい。艦隊司令は叫ぶ。

 

「だ、誰だ!?」

「あ……う……」

 

 何を言ったかよく聞き取れなかったが、声には覚えがある。

 

「フェヴィスか?負傷したのか!?」

「う……」

 

 フェヴィスが重症を負ったらしいと察するラ・ラメ―。護衛に命じた。

 

「扉を開けよ!」

「は、はっ!」

 

 開いた扉の先には、確かにフェヴィスがいた。しかしその姿は異様だった。何故なら、肩から腹に向かって裂かれており、内蔵が外へはみ出していたのだから。死んで当然の状態。だが何故だか、立って動いている。

 盾を持った黒い騎士、デス・ナイトのフランベルジュで殺されたものは、スクワイア・ゾンビというアンデッドとなる。だがアンデッドというモンスターが認識されてないこの世界では、悪夢から抜け出た化物という他ない。

 

 ラ・ラメ―は目を見開き、口を半端に開けたまま固まってしまった。それは護衛たちも同じ。何を見ているのか、理解できる者はここにはいない。

 すると突然、フェヴィスが一番近い護衛に襲いかかった。喉元に噛みつく。

 

「ひ、ひゃぁぁ!」

 

 血しぶきを上げる護衛。空気が抜けるような悲鳴と共に倒れた。今度、フェヴィスはラ・ラメ―の方を向いた。

 全身から血が引いてくような感覚に襲われる艦隊司令。

 

「こ、こ、殺せ!フェヴィスを殺せ!」

「え……いや……」

 

 殺せと言われても、体を切り裂かれた人間はすでに死んでいるのでは。死んでいる人間をどう殺すのか。などという的外れな思考が、護衛たちの頭を駆け巡っていた。

 混乱したまま動けずにいるラ・ラメ―達の視界に、別の人影が入る。さっきフェヴィスに首を噛みちぎられた護衛だ。それが首から血を出したまま立ち上がった。首の骨が折れたのか、頭は背中の方に倒れている。

 またも言葉がない彼ら。

 

「な……!?」

 

 死んだ護衛も、ゆっくりとラ・ラメ―達へと歩き出した。

 

「ふゃぁぁぁ!」

 

 悲鳴とも泣き声ともつかない叫びをラ・ラメ―は上げ、杖を抜き、ファイアーボールを何発も放った。本来、大量の火薬を積んでいる戦艦の中で火属性の魔法を使うなど論外なのだが、そんな常識すら彼の頭から吹き飛んでいた。

 炎に包まれ、崩れていくゾンビ達。スクワイア・ゾンビは並の人間より遥かに強いが、ゾンビ自体は炎耐性が低いという欠点があった。ラ・ラメ―は知らずに、未知のモンスターの弱点を付いていたのである。

 

 得体のしれない化物を倒し、肩で息をする艦隊司令。

 

「な……なんなのだ?こいつらは……」

 

 だが安心できたのは、この一瞬だけだった。頭の上から破壊音と共に、木片が振ってくる。

 

「何だ!?何が起こっ……」

 

 見上げた先の天井は、なくなっていた。そして空いた穴から、作り物のようなドラゴンが覗き込んでいる。赤い四つの目を光らせて。さらに、覗き込んでくる影が増えた。巨大な黒い騎士たちが目に写る。

 

「あ……。ま、待って……」

 

 それがラ・ラメ―の最後の言葉だった。

 

 十分後。旗艦は船体だけを残し、破壊し尽くされる。次に魔導国空挺部隊は、隣の艦に狙いを定めた。

 わずか一時間程で、旗艦を含めた三隻が空飛ぶ木片と化した。その後、アンデッド達はA五番艦へと戻って行く。もはや、それらの艦には死体とゾンビしかいない。

 そんな艦に、不可視化を維持したまま降りるルプスレギナ。

 

「後始末かぁ……。あ~あ、人殺ししたかったなぁ」

 

 ぶつくさと愚痴をこぼしながら、仕事に取り掛かる。

 その内容は、ゾンビたちを滅ぼすこと。要は、魔導国と未知のモンスターの存在を悟らせないための情報隠蔽だ。そのために信仰系マジックキャスターである彼女が、今回の作戦に呼ばれたのである。

 

 

 

 

 旗艦を含めた中央艦隊に大きな損害を出したトリステイン軍は、一時大混乱に陥る。一方のアルビオン軍も数の劣勢を覆せず、大損害を受けた。さらに日が落ち、視界が悪くなる。両軍は距離を離し、戦いは一旦止まることとなった。

 

 かなりの被害を受けたアルビオン軍旗艦レキシントンの甲板に立つボーウッド。頭上には双月が上がっていた。

 五隻の内、一隻は撃沈され、一隻は航行不能となり放棄された。生き残っている艦も損傷が大きい。A五番艦を除いて。

 もはや艦隊としての体をなしていない。初戦は完全に失敗した。相手も無視できない被害を受けたが、それらは全てあの得体のしれない黒い艦のものだ。

 後ろを振り返る。離れた場所にいる無傷のA五番艦が目に入った。それに睨みつけるような視線を送るボーウッド。

 

「なんなのだ?あれは……」

 

 わずかな時間で三隻を沈めた。しかもA五番艦自体は攻撃に加わっていない。竜騎士隊だけの成果だ。そもそも艦自体も、あり得ない動きをしていた。

 彼の中では、その突出した戦闘力に驚くよりも、得体の知れなさの方が勝っていた。

 

「皇帝は一体、何をアルビオンに連れ込んだ……」

 

 ボーウッドは、悪魔と取り返しのつかない契約をしてしまったような気分になっていた。

 

 

 

 

 

 

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