ラ・ロシェール、アストン伯爵の居城。アンリエッタはここに滞在していた。グラモンは港にある砦に移っており、そこから直接指揮を取っている。だが、ここから港は見える距離だ。ここも戦場の一部と言っていいだろう。城下町の住人はすでに城内に避難している。ただし、ほとんどの男性は兵として徴用され、女性も後方の任務に就いていた。
すでに深夜となっていたが、アンリエッタは眠ることができなかった。トリステイン艦隊はほぼ壊滅し、上陸も時間の問題と報告を受けたからだ。ここは自分の存在を明らかにし、全軍の士気をあげるべきではないのか。それとも敵の奇策を警戒し、このまま大人しくしているか。
戴冠式での失態を挽回しようと意気込んで来たのはいいものの、足手まといになっている気がしてならない。焦りだけが胸の内にあった。
すると扉からノックが届く。
「陛下、お休みの所、申し訳ありません」
アニエスの声だ。前線で何かあったのかもしれない。アンリエッタは身を起こす。
「起きています。お入りなさい」
「失礼いたします」
その言葉と同時に、目つきの鋭い平民女性近衛兵が入室してきた。アンリエッタはガウンを羽織、ベッドから出る。
「何事です?」
「実は、不審者を数名確保しました」
「不審者?アルビオンの間者ですか?」
「いえ、それが……」
微妙な顔つきとなるショートカットの女性。言いづらそうだ。わずかに眉をひそめる女王。やがてアニエスは、仕方がないという感じで話しだした。
「その者たちは、自らをこう名乗っていました。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー、タバサ、サイト・ヒラガと」
「え?ルイズ?確かに、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと名乗ったのですか?」
「はい」
「そのルイズという者は、ピンクブロンドで、一見するわたくしより三つ四つは年下に見える小柄な少女ですか?」
「はい。おっしゃる通りです」
アンリエッタは息を呑み、口元に手を添える。間違いないルイズだ。確かに、学院の生徒を徴用するという話は聞いている。そして出兵が命じられたことも。しかし到着するにしては早すぎる。さらにアニエスは数名と言った。わずか数名の増援など、ある訳がない。しかもツェルプストーの名もあった。ゲルマニア貴族が何故いるのか。意味が分からない。
一つ、深呼吸を挟む女王。
「分かりました。わたくし自らが、その者たちと会ってみます」
「よろしいので?」
「ええ。もしもの時は、お願いします」
「……。お任せください」
アニエスは深く礼をした。
平民である自分を近衛兵まで取り立ててくれたのは、目の前の女王の口添えがあったからだ。その恩に報いなければならない。だいたい王族を守れずして、なんの近衛か。
城の中庭。そこに、兵たちに囲まれている学生姿の少女三人と少年と風竜がいた。
最初、才人はさすがに最前線に彼女たちを連れて行く訳にはいかないと考えていた。そこで少しばかり離れた丘などで、見守ってもらおうとした。だがキュルケが、いっそ城内に入ってしまった方が安全だと言い出す。建前上は、すでに学徒兵の派遣は決まっているのだから。
一同は、あっさりとアストン伯爵の居城に入る。王都方面から来た、たった一匹の風竜。伝令と勘違いした城兵は、侵入を許したのだった。ところがドラゴンから降りた者たちは、学生の格好をした連中。すぐに兵に取り囲まれた、という次第である。
アニエスたち銃士隊に守られながら、鎧に身を固めたアンリエッタが兵の囲みに入る。その先に見えたのは、確かにルイズだった。彼女の方も、驚きの声を上げていた。
「ひ、姫さま!?な、なんでここに……。あ!へ、陛下……。その何故、ここいらっしゃるのです?」
「それはこっちのセリフです。あなたたちこそ、何故ここに来たのですか?」
「えっと……その……、増援です……」
尻窄みになるような声で、とりあえずの理由を口にするルイズ。それに、半ば呆れたような顔つきとなるアンリエッタ。
「とにかく、中で詳しい話を伺います」
そしてルイズたちは、女王の指示で客間へと案内された。
アンリエッタは鎧を脱ぎ、普段の服装となっていた。テーブルを囲む一同。ただサイトだけは脇に立っていた。そんな彼女たちを、アニエス率いる銃士隊が囲んでいる。女王は知人と言ったが、警戒しない訳にはいかない。
お茶を一口だけ飲み、気持ちを落ち着かせる女王。
「ルイズ。では話してください」
「陛下。その前に一つお伺いたいことがあります」
「なんでしょう?」
「戦況はどのようになっているのでしょうか?」
「え?」
呆気に取られるアンリエッタ。彼女たちはこの人数で、本気で支援来たつもりなだろうか。そもそも物事には、順序というものがある。いきなりやって来て理由も説明せずに先に疑問を口にするなど、無作法と言ってもいい。
それを指摘した女王だったが、ルイズは必死に懇願した。ついには折れるアンリエッタ。アニエスに説明させることとなる。彼女の方も、ルイズの一方的な要求に少々不満げだ。
平民近衛兵は話を始めた。
「今日……。いや、昨日の戦いで、トリステイン艦隊はほぼ壊滅した。現状、残っている戦艦は一隻のみ。しかも、ほとんどの被害は、わずか一隻の敵艦によってもたらされた」
「い、一隻で!?な、なんですか、それは!?」
「敵の新型艦。黒い異様な形をした戦艦だ。乗っている竜騎兵隊は、全てガーゴイルで構成されているらしい」
「ガーゴイルの竜騎兵……」
言葉のないルイズ。だがそれはキュルケやタバサも同じ。一方、話を聞いていた才人も驚いていたが、同時に、これは手加減できないかもしれないと考えていた。それほど強い戦艦があるとなると。
それからアニエスの説明は続いた。敵の増援ペースが、自軍のペースを上回っている事。すでに戦力では逆転されている事。おそらく夜明けとともに、地上への攻撃が予想される事。
想像以上の悪い状況に、ルイズは寒気すら覚えた。このままトリステインが負けてしまう可能性がある。戦争で負けるとどうなるのか。そんなものは、演劇と歴史の教科書の中でしか知らない。それが自分たちに起ころうとしている。
すると肩を軽く叩かれた。振り向いた先には、サイトの頼もしげな表情。
「任せろ。なんとかする」
「サイト……」
ルイズの胸の内は急に軽くなる。この超常の使い魔が、心を支えてくれたかのように。
ガンダールヴの主は、アンリエッタの方へ振り向いた。
「陛下。これから全て説明しますので、お人払いをお願いいたします」
「待たれよ。ミス・ヴァリエール。近衛は残らせて……」
アニエスが不満を口にした。しかし女王の静止の手が挟まれる。
「分かりました。話を聞きましょう。アニエス。外で警護をお願いします」
「……。分かりました」
わずかに礼をすると近衛兵たちは部屋を出ていった。すると今度、ルイズが脇に座っている二人に話しかける。
「キュルケ、タバサ。あなた達も、席を外して」
「え?何でよ!誰がここまで連れてきたと……」
「キュルケ」
タバサの少し強めの言葉に、キュルケは黙り込んだ。渋々出ていく二人。最後に、残った異世界の聖騎士に声をかける。
「サイト。出発して」
「おう」
「私が、ここにいるって忘れないでよ。迷ったら、この城を見て」
「……。よし!行ってくるぜ」
妙に元気のいい返事をして、部屋から出ていく才人。
アンリエッタはそんな二人へ、不思議なものでも見るかのように視線を送っていた。
「あなたたちはどういう関係なの?そもそも、あの方は?」
「ご説明します。その前にこれを」
そう言って、ルイズが差し出したのは、始祖の祈祷書と水のルビーだった。婚約がほぼ白紙になってしまったのだ。これを彼女が持っていても意味はない。
しかし女王はそれを戻すような仕草をする。首を傾げるルイズ。
「陛下?」
「これから何が起こるか分かりません。王家の秘宝は、あなたに預けたままにしておきます」
「姫さま……」
アンリエッタは、最悪の事態が起こる可能性も考えている。ルイズはそれを強く噛み締めた。同時にルイズも、祖国を守る者として、あの強大な異世界の聖騎士の主として、強い気持ちを持たねばと自分に言い聞かせる。
少しばかり間をおいた後、おもむろにルイズは口を開いた。
「陛下。これから話すことは、他言無用に願いします」
「分かりました」
「では……」
それからルイズは話し始める。自分たちの目的、敗北の阻止とその方法を。
双月は中天に上がっていた。才人は、城の屋上に立っている。そしてアダプターをセット。ユグドラシルのシステムを起動。一瞬で装備を完了させる。
その身をアーマー・オブ・エイルに包み、右手には両刃の大剣ソード・オブ・テュール、左手には片刃の黒い剣デルフリンガー。純白の聖騎士姿となる。
さらに各種補助魔法を発動。バフ、情報系など。ユグドラシルで戦闘前にやっていたいつもの作業。
準備は万端。ただ一つだけ気になる点があった。体内ナノマシンの残量だ。正確な数値が出るわけではないが、かなり乏しいことがアラートメッセージで分かる。
「終わるまで保ってくれよ」
焦る気持ちが湧き上がりそうになるが、ふと真下を見た。ここにルイズがいる。揺らぎかけた気持ちを引き締めた。
「よし!いくぜ!テレポーテーション」
一瞬で城から消え去るサイト。次に現れた場所は、ラ・ロシェールの港だった。
さっきの城から見えていた、天に届くかのような巨木。これこそがラ・ロシェール港だ。枝が空中艦船への桟橋となっている。今は一隻も係留されていない。
その頂点に立つ聖騎士。暗視魔法はすでに発動中。港よりさらに奥に下がった場所に、戦艦が一隻見える。あれが唯一のトリステインの戦艦らしい。地上では、平地と砦に篝火が見えた。沖にはアルビオンの艦隊。思ったより多い。その中に一風変わった艦が見えた。
普通なら、夜に黒い船では見過ごしてしまうかもしれない。しかし、暗視魔法のおかげで視界良好の彼には関係ない。
「あれが敵のとんでも戦艦か。最初は、あれからだな」
両手の大剣を握りしめる才人。また転移魔法を発動させた。
そして次に出現した先は、当然、敵の黒い戦艦の甲板。
唐突に現れた才人に敵が困惑して動きを止めている間、一気に沈めてしまおうと考えた彼。しかし動きを止めてしまったのは、才人の方だった。
「え!?」
視界に見覚えのある存在が入った。
一部鎧で体を覆ってはいるが、大柄な体、刺々しい甲、その巨体を隠すほどの盾、そして波を描く剣。このシルエット。何度か見た存在、モンスターだ。ユグドラシルのアンデッド、デス・ナイト。
それだけではない。デス・ウォーリアにデス・ウィザード、デス・プリーストらしきの姿も見える。また火竜サイズの鎧を着込んだようなドラゴンと巨鳥。さらに少しレベルは落ちるが、他にもアンデッドらしい、シルエットが目に写る。
「なんで……ユグドラシルのアンデッドが……」
その時ふと思い出した。カリーヌから聞いた話を。"アインズ様"という言葉を。
「まさか……本当にアインズ・ウール・ゴウンが来てんのか?」
アインズ・ウール・ゴウンは異形種のみのギルドと聞いている。アンデッドを作り出すプレイヤーがいてもなんの不思議もない。むしろ目の前にアンデッドたちがいるのだ。この艦に乗っている可能性が高い。才人はそう思ってしまった。
しかし、実際にはそうではない。創造主ははるか東の彼方にいる。
ただ、才人がこう考えるのも無理はない。ユグドラシルでは創造したアンデッドは一定時間が経つと、消えてしまう。そのため、この場に使役されているアンデッドがいるなら、それほど離れていない場所に創造主がいると判断するのは自然だった。
予想外の状況に頭を整理している才人。しかし、対する魔導国のアンデッド兵たちは、ただちに行動開始、侵入者排除に動き出した。デス・ウォーリアが襲いかかる。
しかしあっさりと才人はかわし、右の大剣で相手を真っ二つに。そしてデス・ウォーリアは崩れるように、滅んでいった。
見慣れたアンデッドが滅ぶ光景に、いよいよユグドラシルプレイヤーがこの世界に存在すると確信する才人。
「マジかよ……。とにかく、やるしかねぇ!」
再び両手の大剣を握り直すと、純白の聖騎士は動き出した。そんな彼に向かって、甲板上の全てのアンデッドたちが襲いかかった。
コキュートスは艦長室で、甲板での異音に気づく。
「ン?何事トダ?」
ミラー・オブ・リモート・ビューイングを起動し甲板上を見たが、白いモヤのようなものが映っており、それがアンデッド兵に近づくと、アンデッド兵が崩れていく。
「コレハ……!?」
白いモヤがなんだか分からないが、少なくとも敵襲であることには違いない。しかも、この世界の者とは桁違いの強さを持った存在の。
第五階層守護者は、すぐにメッセージのスクロールを使用。二人の戦闘メイドに連絡を取る。
「敵襲ダ!ルプスレギナハ、アノ女ヲ守レ。ナーベラルハ、甲板ノ状況ヲ確認、報告セヨ」
『はい!』
引き締まった声が帰ってきた。
そしてコキュートスはアイテムボックスから武器を取り出し、装備。四つの腕で、ハルバート、メイス、ブロードソードを手にした。それぞれレジェンドクラス以上の武器だ。
「アレガ、例ノ、首謀者ナノカ?」
疑問の答はここではでない。ただ分かっていることは一つだけだ。あの白いモヤは、同格の可能性がある。自分でなければ、対処できないかもしれない。しかし、アインズはコキュートスが前線に出ることを許していない。
第五階層守護者は人形を手に取った。総指揮官であるデミウルゴスに連絡を取る。
「デミウルゴス。異常事態ダ」
『こっちからも確認した。どうも、同郷の者らしいね』
「私ノ、出撃許可ヲ貰イタイ」
『分かった。アインズ様にお伺いを立ててみよう』
人形を置くと、わずかに上を向くコキュートス。もう戦闘音はしない。このわずかな時間で、甲板のアンデッド兵は全て討ち取られたようだ。ますます同格の可能性は高くなった。
「急ガネバ、手遅レニナルカモシレン」
焦りを浮かべる、異形のもののふ。許可が間に合わなければ、撤退も考えなければならないかもしれないと考え始めていた。
ナザリック地下大墳墓。執務室にアルベド他、残っている守護者たちと共にいた。驚きを浮かべつつ、ミラー・オブ・リモート・ビューイングを見ていた。しばらく身を固めてしまうほどに。
直後に、デミウルゴスからの連絡が届く。コキュートス達の出撃許可要請だ。それを耳に収めたアインズに、様々な考えが浮かぶ。
(あの白いモヤ……。遠隔監視に対する認識阻害だ。ユグドラシルプレイヤーがいる。ハルケギニアには、セバスの店があちこちにあるし、シェフィールドからもそんな報告は受けてなかったぞ?なんで分からなかった?)
これがエルフの国、ネフテスだったら、アインズも納得しただろう。ネフテスでの情報網構築は、未だ道半ばなのだから。しかし、ハルケギニアで発見されるとは予想外だった。
顎を抱え考え込んでいるアインズに声がかかる。アルベドからだ。
「アインズ様。早急に対処しなければなりません。現地部隊への戦闘許可と共に増援を送り込み、敵を撃滅しますか?」
「いや、ここは現地にいる者だけで対応させる。現状、相手は少数だが、それが全員とは限らない。こちらが増援した結果、相手にも増援が現れ、偶発的な全面戦争などになっては目も当てられない」
「分かりました」
静かに頷く守護者統括。
ここでアインズは一つ勘違いをしていた。自分たちがギルドごと転移してきたので、相手もギルドごと来ているはずと思い込んでいた。そのため今見えている存在を、相手勢力のごく一部と考えていた。
ナザリックの絶対支配者は、メッセージを飛ばす。
「デミウルゴス。私だ。コキュートス他、空軍所属の者たちの出撃を許す。ただし、対象は正体不明の同格の者のみ。目的は相手の情報収集。勝利ではない。情報が十分集まったとお前が判断したら、撤収させろ。逆に情報収集が困難ならば、直ちに撤退だ。他の者は撤退を支援せよ。さらに、こちらの情報も可能な限り掴ませるな。いずれの結果となったとしても、首謀者探索任務の方は終了だ。ナザリックへ帰還せよ」
『了解いたしました。アインズ様』
通信を終え、腕を組み再び考えを巡らせる。
(もしかして、この陰謀の首謀者の狙いは、俺たちと相手ギルドをぶつからせることだったのか?けど、俺たちが見つけられなかった相手ギルドを、どうやって知ったんだ?首謀者は俺たちが知ってる連中の中には、いないんじゃないのか?ハルケギニアには、まだ他に知らない勢力がいるのか?)
あまりに想定外のことが起きすぎて、過剰にハルケギニアを警戒するアインズだった。
アインズからの許可をもらったコキュートスは、ナーベラルとルプスレギナへメッセージで主からの指示を伝えた。ただ現状、戦闘参加はナーベラルだけにし、ルプスレギナはシェフィールド護衛のままとする。
甲板へと向かう甲虫の姿をした異形種。闘志を湧き上がらせつつ。もちろん、情報収集が目的とは分かっている。一方で、二つのことを考えながら戦える程度の相手ならばいいが、とも考えていた。
フライの魔法で窓からでたナーベラルは、不可視化を発動させていた。船体に沿って上がり。そして艦の上空へ。甲板を見下ろせる位置に停止。
見えた甲板の状態に、驚きを浮かべる。全てのアンデッドが滅ぼされていた。その中で一つだけ人影があった。純白の騎士が。ナーベラルはすぐにメッセージを飛ばす。
「コキュートス様。甲板上に、白い鎧を纏った聖騎士らしき者がいます。アンデッド兵は全滅しました。その者に倒されたようです」
『ヤハリ、ソウカ。私ガ、向カウマデ、ソノ場デ待機。戦闘時ニハ、後衛ヲ頼ム』
「了解しました」
彼女はコキュートスが甲板に上がってくるまで情報収集しようと、高度を甲板ギリギリまで下げた。それから近づこうとする。
すると白い聖騎士が、ナーベラルの方を向いた。不可視化は、未だ発動中にもかかわらず。偶然か。移動をやめ、少々当惑に囚われる切れ長の目の戦闘メイド。
すると聖騎士から声が届いた。
「あんたが、こいつら召喚したのか?」
「!?」
驚愕に染まる彼女の脳裏。不可視化が看破されている。
聖騎士は続けて質問を口にした。
「どこのギルド所属だよ?なんでアルビオンの味方してんだ?」
「……。そういうお前こそ、何者?」
「いや、俺が先に聞いたんだけど」
「至高の御方に仕える者よ。それ以上は、何も答える訳にはいかない」
「至高の御方?」
聖騎士は首を傾げる。
ナーベラルはこんな仕草をするのも、無理はないと思っていた。凡百に、この至高の真の意味を理解できる訳がないと。
聖騎士は一つ息を漏らすと、会話を続ける。
「とにかく、俺は戦争を止めに来た。ここで帰ってくれるなら、こっちも引く」
「それはできない相談だわ。まだ仕事は終わってないもの。お前には、いろいろ聞かないといけない事がある。少し、おとなしくなってもらうわ」
「クソ……。やるしかねぇのかよ」
大剣を構える純白の聖騎士。ナーベラルは甲板を滑るように距離を取ると、魔法を唱える。
「マキシマイズマジック……」
魔法最強化を付与した瞬間、もう目の前に白い聖騎士が迫っていた。まるで、転移したかのような速度で。それどころか、右手の大剣が振り下ろされている最中だった。避けきれない。
激しい衝撃音と共に、ナーベラルは吹き飛ぶ。艦の後方の壁を突き破り、船体とぶつかってなんとか止まる。一体何が起こったのか、分からない。開けた瞼の先には、青白い甲冑のようなものが見えた。それがコキュートスの背中だと分かったのは、すぐ後だった。
叱責の声が届く。
「待機ヲ、命ジタハズダ!」
「も、申し訳ございません……。コキュートス様……」
コキュートスが聖騎士の攻撃を受け止め、ナーベラルを守ったのだった。
「ナーベラル。命ジタ通リ、後衛ヲ任セル。奴ハ、私ガ相手ヲスル」
「はい」
黒髪切れ長の目の戦闘メイドは、窓から外へと飛んでいった。一方のコキュートス。空いた壁の穴から出ていく。視線の先には純白の聖騎士。大剣を二本持ち、その内、一本は黒い。
(ソレニシテモ……。私ヲ、吹キ飛バストハ……)
強引に二人の間に割って入ったため、姿勢が崩れていたとはいえ、相手の攻撃を抑えきれなかった。膂力は尋常ではないと認識する。そして、自分に近いレベルの存在だとも。
相手は見るからに剣士。武人としての心が沸き立つが、今最優先するべきは情報収集だ。勝負ではない。コキュートスはスクロールでメッセージを発動。
「ルプスレギナ。女ヲ退避サセロ。ソノ後、我々ニ合流。ナーベラルト共ニ、後衛ニツケ」
『了解っす』
布陣が完了するまで、構えで牽制するコキュートス。しかし相手は動じる様子がない。あくまで自然体。芯から強い存在かもしれない。心してかからなければならないと、胸の内に言い聞かせる第五階層守護者であった。