世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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ラ・ロシェール戦役:虚無の聖騎士

 

 

 

 

 才人の目の前には、青白い立った昆虫のような存在。そしてさっき女性は後方に下がり、宙に浮いている。

 戦闘は目前。しかし、動じる様子の見えない才人。コキュートスはそこに、強者の余裕があると感じた。だが実は違う。あったのは余裕ではなく、疑問ばかり。考え事をしていたので、動いていないだけだった。

 

(あの青い虫みたいなの……。コキュートスとか呼ばれてたっけ。ユグドラシルのプレイヤーだよな……たぶん。だけど、どう見ても人間じゃねぇ。アバター?もしかしてアバター機能すんの?じゃあ、俺、なんでこの姿?いや、もしかしてモンスター?確かに、話すモンスターもいたけどさ。あんなのいたっけ?だいたい至高の御方って何?)

 

 疑問はこれだけではない。相手にしている二人。ナーベラルとか呼ばれていたマジックキャスターらしき女性と、コキュートスと呼ばれていた戦士らしき立った昆虫。そのHPやMPなどの情報が丸見えなのだ。情報阻害をしていない。これが低レベルのプレイヤーなら納得する。しかしその総量から、女性の方はレベル60辺り、昆虫の方はおそらくカンストしている。そのレベル帯にしては、戦闘の基本ができていない。

 

(どういうこと?もしかして、自分たち以外にユグドラシルプレイヤーはいないと思ったから手ぇ抜いた?まさか、補助魔法全くかけてないなんて事ないよな。何考えてんだ?)

 

 疑問が頭の中で観覧車状態。いくら考えても答が出るわけもない。

 すると中にもう一人の信仰系マジックキャスターらしい女性が、浮き上がってきたのが見える。さっき言っていた、ルプスレギナというのが彼女かもしれない。こちらも不可視化を発動させているが、才人は看破していた。彼女もHPとMPが見える。レベルは60前後くらいか。これまた準備不足の様子。渋い表情になる才人。相手の狙いが分からない。

 そもそも最末期のユグドラシルに、レベル60程度のプレイヤーが残っていたのが信じられない。途中引退した者が、最後だからと数年ぶりにログインしただけかもしれないが。またも疑問が増えていく。

 

 当惑が才人の頭を包み込む。その時、ふと後ろを振り返った。ルイズのいる城が目に写る。才人は一つ深呼吸をした。ここに何しに来たのかを思い出す。目的をもう一度噛みしめ、前に向き直った。

 

「あの人にも言ったけど、俺は戦争を止めに来たんだよ。ここで帰ってくれるなら、こっちも引くから」

「オ前ノ持ッテイル情報ヲ、全テ差シ出スナラバ、手ヲ引コウ」

「じゃあ、そっちも教えてくれよ。所属ギルドとかさ」

「ソレハ、デキナイ」

「勝手な事言うな」

「ナラバ、相対スル他ナイナ」

「……チッ」

 

 覚悟を決める才人。相手の都合なんて知った事ではない。今、やるべき事をやるだけだ。

 

 対するコキュートス。目前の純白の騎士も、戦う覚悟が決まったようだと確信した。同時に湧き上がる戦闘意欲。

 

「デハ、参ル!」

 

 青白い昆虫姿の武人は三つの武器を手に、純白の聖騎士に突貫。

 一方の才人。スキルを発動。

 

「『瞬踏』!」

 

 瞬間的に移動速度を上げるスキルだ。ただしある程度リキャストタイムがあるため、連発はできない。その代わり一日の使用回数は多い。よくタンク役の時、味方を守るために使っていた。また重装備の才人では、とてつもなく速くなるという訳でもない。このため移動距離もたかが知れている。

 だがこれは、ユグドラシルでの話だ。今の才人はそうではなかった。

 

「ナッ!?」

 

 コキュートスは目の前にいた聖騎士を見失った。爆発的に加速したのは分かったが、それからの動きを追えなかった。彼の六つの目を以ってしても。

 同時に聞こえる激突音。振り返ると、ルプスレギナがかなりの速度で、彼方へと吹き飛ばされていた。状況に理解が追いつかない第五階層守護者。

 

「ルプー!」

 

 激突音で、ナーベラルはルプスレギナが攻撃されたことに気づく。そして彼女の方を向いた時は、空の向こうへと小さくなって姿が目に写る。

 驚愕の表情に染まる戦闘メイド。そんな彼女の視界に影が入る。もう目前に純白の騎士の姿があった。

 

「テレ……」

 

 転移魔法を唱えようとするが、間に合わない。

 

「比良弾き!」

 

 ノックバックを目的としたスキル。だがその効果は絶大だった。ナーベラルも音速以上の速度で、かっ飛んでいく。

 それを見たコキュートスは、瞬時に、船首へと下がる。同時に、転移してきた才人の剣が振り下ろされていた。偶然、彼の攻撃を回避する事ができた。それが勘で避けたのか、思わず引いてしまったのか、当人でも分からなかった。

 

 才人は、船首の方にいる青白い昆虫へ狙いを定めたまま。構えを維持。そして一つ分かった事を脳裏に浮かべた。

 

(こいつらPvPの初心者だ。全然、戦い方がなってねぇ)

 

 最初の布陣で、才人が一番困る戦い方は、前衛のコキュートスとかいう青い昆虫がタンク役をこなしながら、後衛に攻撃させる事だ。そして攻撃をさばききれなくなった才人を、コキュートスがアタッカーとして攻撃する。

 しかし最初、後衛を意識した様子もなしに、この青い昆虫は突っ込んできた。そこで才人はヒーラーであろう、ルプスレギナの方を狙う。そして彼女をあっさりと撃破。彼女も、攻撃される事に備えていた様子がなかった。次に、敵から目を離したナーベラルを攻撃。こうして何もさせずに、後衛を排除。サシの勝負に持ち込んだ。

 

 だがコキュートスたちが、このような戦い方をしてしまうのも仕様がなかった。何故なら彼らは、まともにプレイヤーと戦った事などないからだ。特にチーム戦は。確かにナザリックがギルド連合に攻撃された時、彼らは戦った。しかし多勢に無勢な上、それ以前の問題があった。

 ユグドラシルでは、戦えるNPCはAIが弱く設定されている。もちろんプレイヤーよりAIが賢ければ、ゲームにならないからだが。そのためスペックを十分生かすことができない。ギルド連合と戦ったと言っても、当時の状態では経験として活かせない。

 そもそもユグドラシルではプレイヤーが作ったNPCは、拠点から出られない。このため、彼らがプレイヤーと戦うとすれば、ギルドメンバーしかいなかった。そのギルドメンバーも、自分の作ったNPC達と戦おうとはしなかった。むしろ愛でて、悦に入る存在だった。

 今のナザリックのNPC達は、意思を持った。ゲームでの脆弱なAIとは違う。今なら経験を活かせるだろう。しかし、総じて同格との戦闘経験不足。ロバ・アル・カリイエで戦闘はしたものの、技術など必要のないほどの格下。これでは戦闘テクニックなど学べるはずもない。

 

 彼らの行動から、才人に一つ考えが浮かぶ。目の前の存在はNPCなのではと。それならばレベルが高い割に、稚拙な戦い方も理解できる。しかしユグドラシルでは、ギルド所属のNPCは話せない。ではなんなのか。やはり答は出なかった。

 

 一方、得体のしれない純白の聖騎士と対峙するコキュートス。瞬時にチームを崩壊させた手並みに、驚愕する他ない。

 情報収集などという余裕はなさそうだ。むしろ主の脅威となる可能性がある。撃滅すべきか。

 だが考えている暇などなかった。相手が動き出そうとする気配がある。ここは戦いに集中する。魔法を発動。

 

「ピアーシング・アイシクル!」

 

 氷の槍が数十本、壁が迫るかのように放たれる。こんなものが通用するとは、当然思っていない。隙を作り出すための牽制だ。

 だが相手はわずかに構えを変えた。すると黒い剣の前辺りで、直撃コースの氷の槍、数本が霧散した。

 

「何!?冷気耐性ダト!?」

 

 どうも相手は冷気耐性を持っているらしい。どの程度のものかは分からないが。だがこれで、得意とする冷気属性の魔法もスキルも当てにすることができなくなった。コキュートスの手札が一枚減った。

 もはや出し惜しみしている場合ではない。スキルを発動させる。

 

「羅刹!」

 

 本来は複数ターゲットを同時に攻撃するスキルだが、それを目の前の聖騎士一人に集中。手数で押し切ろうと考えた。

 才人へと、同時に迫る攻撃。

 

「くっ!」

 

 タイムアクセラレーターでもかけたかのように、攻撃を捌いていく。それほど才人の動きは素早い。しかし全てとは、いかなかった。

 捌ききれなかった攻撃を、思わず左手で防ごうとしてしまう。ユグドラシルでは、左手にはシールド・オブ・ローズルという盾を装備していた。その癖が出てしまった。だが今、左手にあるのは片刃の大剣、デルフリンガーだ。

 紙でも切るかのように、あっさりとバラバラになるデルフリンガー。

 

「デルフ!」

 

 才人もデルフリンガーのスペックの低さは気にしていた。だから今回は対魔法用の盾として使うつもりだったのだが。やはり、最前線で使うべきではなかったか。

 思わず叫ぶ才人。

 

「おい!デルフ!」

「安心しな!俺は大丈夫だ!」

 

 何故か元気な声が返ってきた。

 

「え!?無事なのか?」

「そうだよ。それより、目の前の敵に集中しろ!」

「お、おお!」

 

 アイテムボックスから、代わり剣を取り出す。これまた黒い大剣。分厚い板のような無骨なデザインの両刃の剣。これは引退した仲間からもらったものだ。なんでも名作漫画を、リスペクトしたものだとか。その名を『龍殺』と言う。

 

 コキュートスは動きを止めていた。

 相手の聖騎士は剣戟に押され船尾近くまで押し出されたが、なんとか踏みとどまった。何発か当たり、ダメージを与えたにも関わらず仕留めきれていない。鎧も剣もかなり頑丈だ。そんな中、左手にあった黒い片刃剣だけは、異常に柔らかかったのは気になったが。

 しかし今、彼の心を捕らえて離さないのは聖騎士ではない。さっき聞こえた別人の声だ。

 

(他ニモ、何者カガイルダト!?姿ガ見エン。不可視化カ?シカシ、私ガ看破デキナイ不可視化トハ……。ダイタイ、何故、今マデ、攻撃シテコナカッタ?)

 

 新たな敵の発見が、彼に困惑を生む。もしコキュートスが汗を流せていたなら、背中に冷たいものを感じていただろう。

 状況は、すでに彼の理解を超えていた。このまま戦闘を続けるべきか。そんな迷いの隙を、純白の聖騎士は見逃さなかった。スキル発動。

 

「八艘斬り!」

 

 コキュートスには、相手が八つに分身したかのように見えた。しかも動きがまるで追えない。ふと、体が勝手に仰向けに倒れ込んでいた。そして自分の両手、両足が切り離されている事に気づくのだった。

 

「ア……アリエン……」

 

 剣士として正面から戦って、力負けした。創造主の武人としての誇りを受け継いでいた彼には、この結果は受け入れ難い。ただこんな状態でも、まだ魔法もスキルも使える。戦おうと思えば戦える。しかし、負けを潔く受け入れるのも武人である事を知っていた。

 

 純白の聖騎士が側まで近づいてきた。コキュートスへと視線を下ろす。

 

「どうする?まだやるか?」

「オ前ノ、勝チダ」

「なら、いろいろ教えてくれ。いったいお前たちは何者なんだ?やっぱりアインズ・ウール・ゴウンのプレイヤーか?」

「……。敗者トシテハ答エルベキナノダロウガ、主ノ命に背ク訳ニモイカン。サッサト、止メヲサセ」

「なんなんだよ、それ?いつまでロールプレイやってんだ?」

 

 半ば呆れる才人。死ぬかもしれないのに、なんでこんな事やっているのかと。もしかして、この世界はゲームの中だと思っているかもとすら考えてしまう。

 

 その時、周囲に違和感を覚えた。ゲートの魔法が発動する気配を。すかさず後ろへ振り向いた。同時に左手の黒い大剣を振り下ろす。

 激しい激突音。ゲートから半分出てきた赤い鎧の人物の槍と、龍殺がぶつかった。それぞれ攻撃は逸らされる。その勢いで、出てきた赤い鎧の人物は、ゲートの中へと押し戻された。

 

「チッ!あ!マズ……」

 

 思わずコキュートスの方へ、振り返ると赤いスーツ姿の人物が、青い昆虫を抱きかかえていた。その次の瞬間には、転移魔法で姿を消す。

 

「くそ、逃げられた。……まあ、いいか。敵が増えたら、相手しきれないし」

 

 才人は一人だ。ギルドの仲間はいない。数で押されれば、対応しきれない。相手プレイヤーとの戦いをやめるには、いい頃合いとも言えた。

 一呼吸挟む才人。後始末に入る。残った艦内の雑務役のアンデッドを、対低位アンデッド用のスキル『退散』で滅ぼす。そして、沖の方を見る。結局、アルビオン艦隊の内、制圧したのはこの一隻だけ。まだまだ戦艦は残っている。しかし、もうナノマシンが保ちそうにない。

 

「あ~、くそ!」

 

 悪態をつきつつ、力ずくで黒い戦艦をバラバラにした。そして落ちる破片の中、転移魔法で城へと戻った。

 

 

 

 

 アストン伯爵の居城。ルイズのいる客間。今はルイズとキュルケの二人だけ。アンリエッタは自室に戻っていた。タバサはかなり前に様子を見てくると言ったきり、戻ってきていない。

 そこに出現した才人。そして座り込んだ。いきなりの聖騎士の出現に、驚くルイズたち。

 

「サ、サイト!」

「ただいま」

「無事だったのね!」

「まだ終わってねぇ」

「えっ?」

「とんでもねぇことがあってさ。黒い戦艦しか沈められなかった」

「とんでもないことって?」

「後で話す。それより、一旦、休ませてくれ」

「え……。ええ」

 

 この超常の聖騎士が、休まねばならないほどの出来事とはなんなのか。一体、何があったのか。ルイズの頭に不安の影が過る。

 

 腰をおろし天井を何気なく見上げる才人。考えを巡らせる。

 いろいろな事がありすぎた。

 まずユグドラシルプレイヤーがいる事は、ほぼ確定。しかもアルビオンを支援している。もしかしたら、操っているかもしれない。アルビオン内乱はここ数年で急に拡大し、あっさり終わった。あのプレイヤーが所属するギルドが、裏で糸を引いている可能性もある。

 しかもあの戦いでの経緯を考えると、相手ギルドにはそれなりの人数がいるらしい。そして、アンデッドも多かったのを考えると、ギルドはアインズ・ウール・ゴウンの可能性が高くなってしまった。これは、かなりまずい状況だ。こっちは一人だけなのだから。

 

 ただ、いい結果もなかった訳ではない。あらかじめ確認はしていたが、やはり実戦でも発揮された。ガンダールヴの力が。

 ガンダールヴは武器が使えるだけではなく、バフがかかる。人間が着込むと起き上がるのも難しい才人の装備が、ガンダールヴの力を使えば軽快に動ける。このスキル、ユグドラシルの能力を発動させた状態で使うとどうなるか。

 結果は今の戦いで明らかだ。パラメーターはユグドラシルでの数値上限を超え、まさしくチートという状態になる。

 本来、ユグドラシルにおいて人間種はオールラウンダー、異形種はスペシャリストという方向性に育ちやすい。同じ条件で戦うと、人間種の方が不利になる。ただでさえ、才人はカンストしていないのだからなおさらだ。それを覆したのが、この世界の特殊スキル、ガンダールヴだ。

 ユグドラシルのスペックでは、今の才人に正面から勝つのはかなり厳しいだろう。だがこの最強の状態も、また残りわずかだ。また危機が訪れている。ナノマシンの量が限界を切ろうとしていた。

 

「はぁ……。ナノマシンは、作るって訳にはいかないよなぁ。そうだ、デルフ。どこだ?」

 

 共に戦場にいた相棒を探す。すると腰の辺りから声が聞こえた。

 

「ここだよ」

「だからどこだよ」

「お前のナイフ。ナイフに移った」

「移った?」

「前にさ、俺のこと精霊って言ってただろ?」

「そんな事……言ったな。確か」

「俺って剣に宿れる精霊なんだわ」

「へー。すげぇ。でも良かったぜ。死ななくって」

「精霊って死ぬのか?」

 

 そんな言葉を交わしながら、才人は素直に喜んでいた。

 それにしても、意外な所でナイフが役に立った。元々、ナイフはユグドラシルの能力が使えないときに、手軽にガンダールヴの能力を使えないかと買ったのだが。

 すると、いいアイデアを思いつく才人。左手の両刃の黒い大剣を、右手で指さした。

 

「そうだ!お前さ、こっちの龍殺に移れねぇ?」

「黒いのに?やってみる」

 

 黙り込んだデルフリンガー。才人はしばらく待った。そして返事が出てきた。ナイフから。

 

「ダメだ。なんだこの剣。すげぇ、入りづれぇ」

「入りづらいとかあるのか?」

「ああ。お前のナイフは安物だからな。簡単に入れた。けど、黒いのはかなり難しいな」

「龍殺に入ってくれると、魔法も吸い取れて助かるんだけどなぁ」

「魔法か……。魔力が足らねぇのかもしれねぇな。そんな事より、こらからどうすんだ?」

「そうだなぁ……」

 

 ウインドウで状況を確認する。もう、ナノマシンは限界だ。戦闘中に切れては洒落にならない。しかし、アルビオン艦隊は健在だ。やはり、やるしかないのか。残りわずか、できる所まで。

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。その玉座の間には、重い空気が漂っていた。

 アインズが身を収める玉座の脇にはアルベドが立っていた。そして彼の正面には、各階層の守護者たち。その脇にはプレアデスが控えていた。だがここにいない者もいる。その者たちが丁度、玉座の間に入ってきた。コキュートスと、ルプスレギナ、ナーベラルの三人。謎の聖騎士と戦った者たちだ。

 アインズは彼らに声をかけた。

 

「ご苦労だったな。体の具合はどうだ?」

「問題アリマセン。ペストーニャノ手ニヨリ、完全ニ回復シテオリマス」

 

 代表してコキュートスが言葉を返す。その彼の手足は、完全に元に戻っていた。

 実はルプスレギナ、ナーベラルもダメージを負っていた。ルプスレギナはかなり削られており、もう一太刀受ければ死んでいただろう。一方、ナーベラルはそれほどダメージを受けていなかった。しかし、かなり吹き飛ばされた。態勢を戻せるようになった時には、陸地すら見えず、自分がどこにいるのか分からないほどに。それから急いで来た方向へと飛んで戻る。A五番艦に戻った時には、すでに勝負はついていた。彼女がデミウルゴスに救援要請を出す。それからすぐにアインズへ支援要請。急遽、シャルティアを派遣。デミウルゴスと共に、彼らを撤退させたのである。

 

 コキュートスたちは、それぞれの場所で膝をついた。

 ナザリックの絶対支配者が話を始める。

 

「さて、今回集まってもらったのは言うまでもない。ハルケギニアで遭遇した、同格の者についてだ。あれが、我々と同じ世界から来た者と判断するのに異論はないか?」

 

 一同は、それに頷いた。話を続けるアインズ。

 

「コキュートス、ルプスレギナ、ナーベラル。今回、相手は遠隔監視への認識阻害を発動させており、我々からは姿すら見ることができなかった。直接戦ったお前たちの考えを聞きたい」

「ハッ」

 

 また代表してコキュートスが口を開く。もっとも今回、戦闘メイドの二人は戦いに参加する間もなく退場させられたので、これと言った情報は口にできないのだが。

 

「マズハ、ナザリックノ戦ニオイテ、初ノ敗北ヲ刻ンダコトヲ、謝罪イタシマス」

「良い。勝利が目的ではないからな。それで?」

 

 コキュートスは、自分が感じた相手についての情報を報告する。

 見た目は聖騎士。種族は不明。純白のフルプレートと両手に大剣を装備。鎧と右手の大剣は、レジェンドクラス以上のもの。ただし何故か左手の剣は異様に脆く、戦闘中に破壊。動きは戦士系とは思えないほど速く、忍者かと見紛うほど。力もコキュートスに匹敵。さらに転移魔法を確認。スキルも移動用と攻撃用のものを確認。いずれも、コキュートスが対応困難なほどのもの。

 さらに報告を続ける第五階層守護者。

 

「ソシテ冷気耐性ヲ、備エテイマシタ」

「それらのスペックの上に冷気耐性もか……。他に耐性は?」

「申シ訳ゴザイマセン。確認デキタノハ、ソレダケデス」

 

 アインズは腕を組み、情報を頭の中で整理する。

 

(いろいろ盛りすぎじゃないか?重装甲で、剛腕で、俊敏なんて構成可能か?魔法も使えるから、純戦士じゃないのに。要素を絞れば、人間種や亜人種より異形種の方がスペックは高くなる。異形種ならもしかして……。でも、どうやるんだ?マジックアイテム使えば……。う~ん……。耐性の方も、種族由来かもしれない。二つを考えると、相手は異形種……なのか?冷気耐性のある異形種となると……)

 

 ユグドラシルの知識をいろいろと組み合わせてみるが、どうやればそんなキャラクターが作り上げられるのか答が出ない。ただ突出したスペックから、異形種の可能性が高いと考える。

 アインズは質問を切り替えた。

 

「率直に聞かせてくれ。どの程度の強さと思った?」

「無礼ヲ承知デ、言ワセテイタダケルナラ……」

「許す」

「たっち・みー様ニ、匹敵スル強サヲ秘メタ者カト」

「な、何!?」

 

 思わず前のめりになるアインズ。それは他の者たちも同じだった。一様に驚きの表情を浮かべていた。

 

(ワールドチャンピオンが来てるのか!?いや聖騎士で、他にワールドチャンピオンなんて他にいたっけ?聖騎士じゃないかもしれないけど。戦士系だと……)

 

 そこまで考えて、ある事に気づいてしまった。

 最末期のユグドラシルでは、公式大会は行われなくなっていた。しかし、戦争屋と言われる戦闘狂たちの、非公式大会はずっと続いていた。そこに、アインズの見知らぬ強者がいたのかもしれない。

 だいたいその頃の彼は、ナザリックの維持ばかり考えて、誰が強いとかどこのギルドが上位に来ているとか、あまり関心がなくなっていた。そのため、仮にたっち・みークラスの存在がいたとしても、気づかないのも無理はなかった。

 

 黙り込んだままのアインズ。そこにコキュートスが言葉を加える。

 

「サラニソノ者ニハ、仲間ガオリマシタ」

「仲間だと!?どのような者だ?」

「申シ訳ゴザイマセン。姿ヲ確認スルコトガ、出来ナカッタノデス。オソラク、不可視化ヲ使用シテイタト思ワレマス」

「お前が、看破できない不可視化だと?不可知化ではないのか?」

「イエ。声ハ聞コエマシタノデ、不可視化カト」

 

 困惑が増す、至高の御方。

 

(そこまで高位の不可視化なんてあったっけ?それとも何かのマジックアイテムとの併用か?分からんことだらけだ。一旦、落ち着いてから考え直した方がいいな。少なくとも、プレイヤーは二人はいるという事か……)

 

 とりあえず、報告を優先することにした。

 

「もう一人の能力は、どうだった?」

「ソノ者ハ、一切、戦闘ニ参加シテオリマセンデシタ」

「まさか監察役か?我々と同じように」

「ソコマデハ、図リカネマス。タダ相手の者共ハ、我々ノ存在ヲ、把握シテイナカッタヨウデス。何度モ、所属ギルドヲ尋ネテキマシタ」

「……」

 

 またもアインズは黙り込む。

 

(もし監察役なら、相手のギルドがあの陰謀の首謀者ということになる。だけど、目的はなんだ?こっちを知らなかったとなると、直接対決するためじゃなさそうだし……。やっぱり連中も嵌められたのか?さっぱり、分からん)

 

 するとデミウルゴスから声がかかる。

 

「アインズ様」

「ん?なんだ?意見があるなら言ってくれ」

「はい。今回の相手は、全く未知の存在です。一度の遭遇で、全てを知るのは困難かと」

「それはそうだな。むしろ、ハルケギニアに同格の者が存在すると分かっただけでも、大きな成果だ」

「はい。さらに陰謀の首謀者も、不明なままです。ハルケギニアに対しては腰を据えて、じっくり対応すべきかと。ここはハルケギニアよりも、ネフテス攻略を優先させるべきと愚行いたします。」

「ふむ……」

 

 デミウルゴスの言う事はもっともだ。というより、アインズの考えが、デミウルゴスを超えたことなどない。少なくとも、彼自身はそう思っていた。

 周囲を見回す、ナザリックの絶対支配者。

 

「他の者の意見を聞きたい。何かあるか?」

 

 それからいくつかの意見が出る。そして今後の方針が決まった。

 セバスの商会とはまた別の情報網を構築する事。これにはシェフィールドの立場を利用する。前者は平民からのアプローチ、後者は王侯貴族からのアプローチという訳だ。

 さらにエルフの国、ネフテスへの攻略を進める。少々強引な方法も場合によっては選ぶ。できれば、魔導国の安定にある程度目処がついてから隠蔽を解きたかったが、そうも言っていられない状況になってきた。相手にも、自分たちの存在を知られてしまったのだから。魔導国が発見されるのも、時間の問題だろう。

 大まかな方針が決まり、具体化のために各守護者は動き出す。

 

 そしてアインズは自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。天井を見上げつつ考える。ハルケギニアのプレイヤーについて。

 聖騎士らしき魔法戦士。おそらく異形種。そしてもう一人は、魔法が使えるようだがそれ以上は分からない。高レベルのマジックキャスターなら、攻性防壁を仕込むなどもっと高度な情報阻害をしているはず。だが、そうではなかった。ただ何者であろうとも、最末期のプレイヤーならカンストは想定しておくべきだろう。さらに不可解な部分があるので、ワールドアイテムか二十を所持しているギルドに所属している可能性がある。またギルドが見つかっていない所を考えると、ギルド拠点は城や塔、空中都市など目立つものではなく、地下か水中にあるものと予測する。

 

 こんな具合に、至高の御方は、正解とかなりズレたイメージを頭に描いていた。

 

 

 

 

 

 




コキュートスのスキル『羅刹』については詳細が分からず、ある程度自己解釈が入ってます。
複数ターゲットを攻撃するスキルなのですが、ターゲットの数だけ攻撃できるのか、攻撃回数は決まっていてそれを各ターゲットに分散できるのかが、分からなくて。
本作では後者と解釈しました。

『龍殺』については、某有名ファンタジー漫画を参考に。黒くでかい鉄塊です。ただ、あそこまで大きくありません。

ユグドラシルの非公式大会は独自設定です。ただ戦闘要素のあるゲームだと、プレイヤーが勝手に作ったりってあるので、たぶんユグドラシルにもあるだろうと思いまして。
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