アルビオン艦隊旗艦ネプチューン。深夜の士官室で寝ているボーウッドの耳に、激しいノック音が届く。
「艦隊司令!起きてください!」
すぐさま飛び起きるボーウッド。こんな時間に呼び出しがかかるなど、緊急事態の他ない。そして、だいたそれがなんだか想像ついた。軍服のまま寝ていた彼は、上着を羽織りながら尋ねた。
「敵襲か!?」
「とにかく、甲板へお上がりください!」
黙って、返事を耳に収める艦隊司令。おそらくは夜襲を受けたのだろう。艦隊戦で夜襲とは。劣勢となり奇策に出たか、と考える。
部屋から出ると、起こしにきた伝令を置いて、先に進む彼。階段を駆け上がり、甲板へと出る。そこにはすでに艦長が望遠鏡を手に、ある方角を注視していた。その先には、A五番艦。あのシェフィールドの艦があるはずだった。しかし今は影も形もない。
艦隊司令は疑問を口にした。
「A五番艦は?出撃したのか?」
「いえ、それが……。沈んでしまいました」
「沈んだ?敵襲でか?」
「かもしれません」
「かもしれない?どういう意味だ?」
それから艦長は経緯を説明する。
見張りから、A五番艦が襲撃されているという報告を受けた。さっそく甲板上から望遠鏡で見る。確かに何やらA五番艦の甲板上で、騒ぎが起こっているらしかった。なにしろ深夜なので、よく分からなかったが。その後、フクロウを使い魔に持つ偵察兵を呼び出す。夜目が利くフクロウとの共感覚で、状況を把握しようとした訳だ。そして準備が整ったところで、A五番艦がバラバラになり落ちていった。
こちらへの襲撃に備え警戒させたが、一向に敵は来ない。それどころか、沈んだA五番艦から離脱する敵影も見られなかった。
渋い表情のボーウッド。
「敵襲ではなく、事故ではないのか?」
「分かりません」
「あの女……総司令閣下は?」
「脱出した竜騎兵は、確認できませんでした」
「では死亡したのか?」
「でしょうな」
「……。分かった」
あの鬱陶しい女がいなくなって、少しばかり気分が晴れるボーウッド。確かに彼女の戦艦の働きは、抜きん出たものがあった。それは否定できない。しかしこのままでは、ゴリ押しで総司令になった人物の発言力が強くなる可能性がある。皇帝付秘書に過ぎないにもかかわらず。
だがもう彼女はいない。これで戦争に勝利すれば、手柄は自分たちのものだ。さらに皇帝は右腕を失い、今回のようなゴリ押しもやりにくくなるだろう。
「終わりよければ……と言ったところか」
ともかく、戦争はまだ終わっていない。今は目の前の敵に集中すべきだ。
「総司令官戦死につき、私が総司令を引き継ぐ。同時に全艦に集結命令。至急、会議を開き、今後の方針を決める。伝令を出し、これらを伝えよ」
「はっ」
副官は礼と共に、さっそく動き出した。旗艦ネプチューンから、伝令のための竜騎兵が方々へ飛び立った。
それを注意深く見ていた人物が、トリステイン側にいるとは気づかずに。
アストン伯爵の居城。サイトは立ち上がると、少しばかり首を回した。それを心配そうに見つるルイズ。
「大丈夫なの?あんた?」
「怪我はしてない。まあ、ただ……えっと……」
「何よ。ハッキリいいなさいよ」
どこかサイトらしくない。出かけていった時の頼もしさが、なくなっているような気がする。何かあったのか。実は怪我を隠しているのではないのか。
ルイズは少し語気を強めにして、問いかけた。
「無理しようと、してんじゃないでしょうね?」
「えっと……なんとかさなるさ」
「何よ!やっぱ無理しようとしてんじゃないの!どうしたのよ!」
渋い表情になるサイト。しかし口を開こうとしない。ルイズは確信した。厄介な問題が発生したのだと。不安が彼女を包みだす。
「あ、あんたの主は私なのよ!だから正直に答えなさい!」
「なんとかなるって、言ってるだろうが」
喧嘩腰になる二人。
そんな二人にキュルケはため息を漏らす。お互いを気遣っているのに、この有り様とは。お子様かと思ってしまう。
「サイト。そんな態度じゃ、ルイズは余計心配するわよ。正直に言ってみたら?」
「……。言っても変わんねぇよ」
「確かにあんたは、とんでもなく強いわ。けど、なんでも出来るって訳でもないでしょ?私たちでもアイデアくらいは出せるわ。少しはマシな方法が、見つかるかもしれないわよ」
「……。分かったよ」
キュルケの言い分も一理あると考えた才人は、自分の状態を話した。間もなくユグドラシルの能力、魔法などが使えなくなることを。しかも、残された時間はわずかだと。だからまだ力が使える内に、アルビオン艦隊をなんとかすると。
ルイズは、悲痛な表情で問い詰めた。
「全然、大丈夫じゃないじゃないの!」
「仕様がねぇだろ。俺しかできねぇんだから。アルビオン艦隊、追い返すなんて」
彼の言う通りだ。最強の黒い戦艦は沈めたようだが、それでもたった一隻。アルビオン軍には、まだまだ多数の空中戦艦が残っている。
「それは……そうだけど……。途中で力が使えなくなったら、どうすんのよ!空からどうやって地上に戻ってくるのよ!」
「ガンダールヴは使えるし。それにこの鎧かなり頑丈なんだぜ。落ちてもなんとかなるんじゃねぇの?」
「落ちてもって……!」
うつむき、唇を強く結ぶルイズ。
何故こんな時、自分は何も出来ないのか。こんなにも非力なのか。サイトは以前、自分の失敗魔法の爆発を、虚無の魔法かもしれないと言ってくれた。それに少しばかり希望を見たこともあった。しかし、今では意味のない推測だ。あの程度の爆発が、何の役に立つのか。
両拳を強く握りしめる。
するとふと指に温かみを感じた。何気なく拳を解き、指をみる。水のルビーが嵌った指を。そこが暖かくなっていた。
不意に声が届く。サイトの方から。しかしサイトの声ではない。別人だ。あのデルフリンガーとかいうインテリジェンスソードの声だ。
「嬢ちゃん。あんたのカバンの中……何が入ってんだ?」
「え?」
ふとカバンを開く。そこにあるのは、始祖の祈祷書と呼ばれる国宝の本だけ。アンリエッタから預かったもの。それをデルフリンガーに見せようと、指輪の嵌った手で持った。
その時だった。わずかに開いた、祈祷書のページから光が漏れ出した。
「えっ!?」
思わず祈祷書を広げた。ただ、何が起こったのか知ろうとして。
そこには文字が書かれていた。古い文字が。以前見た時は、真っ白で何も書かれていない本だったのに。しかも、その古い文字が何故か読める。読み始めるルイズ。
始祖の祈祷書を開いたまま、動きを止めるピンクブロンドの少女。そんな彼女を、才人とキュルケは不思議そうに見る。
「どうしたんだよ?」
「何か書いてあるの?」
二人の問いかけに答えず、ルイズはひたすら祈祷書を凝視。
彼女の視線の動きは、文字を読んでいるように見える。二人は何を読んでいるのかと、始祖の祈祷書を覗き込んだ。しかし、何も書かれていない。真っ白のページがあるだけ。
キュルケが眉をひそめて聞いてきた。
「何よ。なんかあるの?」
「……」
しかし答えないルイズ。一心不乱に、始祖の祈祷書を読み進めていた。
無視されているようで、少し不満げに言葉を口にするキュルケ。
「ちょっと、ルイズって……」
「サイト」
読み終わったのか、ルイズは祈祷書を閉じる。そしてサイトの方を向いた。瞳に力強さ湛えた表情で。
「あんた言った通りだったわ」
「何が?」
「始祖の使い魔の主は、虚無の担い手よ」
「え……!?えっ!じゃ、お前……」
「ええ」
「マジか!やっぱ魔法使えねぇ訳じゃなかったか……。やったじゃねぇか。これで正真正銘メイジだな」
「へへ……」
サイトの嬉しそうな声を耳にして、妙に顔がニヤけてしまうルイズだった。
しかし事情をまるで知らないキュルケは、不機嫌なまま。
「一体、何がどうなってんのよ!?」
すると脇から声が入ってきた。タバサだった。
「ルイズは、虚無の魔法が使えるということ」
「タ、タバサ!いつの間に……って、どこ行ってたのよ?」
キュルケが驚いて尋ねる。それに相変わらずの淡白さで返す青髪の少女。
「様子を見てくるって言ったはず」
「様子を見るって……。どこまで行ってたのよ?」
「シルフィードに乗って、ラ・ロシェール港まで」
つまりは、この城から離れ、前線近くまで行ったわけだ。城内の様子を見るだけと、思い込んでいたわがままボディの赤髪少女。その大胆さに言葉がない。
しかしタバサは彼女の反応に構わず、ルイズの方を向いた。
「虚無の魔法はどんなものが使えるの?」
「え?」
一瞬、聞かれた意味が分からなかったが、すぐに頭が切り替わる。今は戦争中なのだ。そして、まだアルビオン艦隊は健在である事を思い出した。
もう一度始祖の祈祷書を開く。書いてある魔法は一つだけ『エクスプロージョン』。祈祷書を読み進めると、その効果を知るというより、頭の中にイメージとなって入ってきた。
再び顔を上げるルイズ。
「アルビオン艦隊を壊滅させられるわ」
驚きの表情が並んだ。そんな中、サイトが最初に冷静さを取り戻した。
「ここからできるか?」
「できないわ。たぶんラ・ロシェール港からも無理だわ」
「となると、敵艦隊に飛び込むしかないか……。分かった。俺が転移魔法で、一瞬で敵艦隊に連れて行ってやる」
「まだ魔法使えるの?」
「まだな」
「だけどこの魔法、詠唱、長いのよ」
「その間、守ってやるよ。異世界の力使えなくても、ガンダールヴは使えるしな」
「……」
またサイトの頼もしさが戻ってきていた。それに応えるように、ルイズも強く頷いた。
しかし、キュルケの慌てた声が飛び込んでくる。
「敵のど真ん中で、ルイズ守り続けるなんてできるの?だいたい、どうやって帰るつもり?サイトの魔法、使えなくなりそうなんでしょ?」
「やるしかないんだよ。なんとかするって」
「なんとかって……」
するとまたタバサの冷静な声が挟まれた。
「たぶん、ルイズを守る必要はない」
「え?」
一斉に小さな青髪少女の方を向く一同。彼女はサイトの方を向き、質問を一つ。
「サイト。さっき言ってた転移魔法について、詳しく聞きたい」
「なんて言うかな。瞬間移動する魔法、って言えばいいのかな。パッて消えて、次の瞬間には遠くの場所に現れる。そんな魔法。目的地との間に、何があっても関係ない」
「分かった。だったら、なんとかなる」
それからタバサは自分の考えを説明しだした。
まずルイズは詠唱を開始する。そして完了直前に、敵艦隊へ転移。そして魔法を発動。目標は敵艦隊の中心、旗艦。旗艦の位置はタバサが知っていた。実は、ラ・ロシェール港から監察していた時に、一つの戦艦から、方々へ伝令の竜騎兵が出ていくのが見えた。おそらくあれが旗艦だと。ちなみに夜間だったので、タバサは夜目の利くシルフィードと共感覚を通して見ていた。
結果を確認したら、また転移で戻る。ただし、いつサイトの魔法が使えなくなるか分からないので、タバサとシルフィードも共に転移する。もしもの場合は、シルフィードに乗って帰る訳だ。ただそのため、サイトの重い装備は置いていく。その状態では、シルフィードでは運べないので。さらに各種情報阻害を解除した。もし相手のギルドがまだ遠隔監視していたら、居場所を教えるようなものだからだ。
キュルケは、一同がいなくなった事をごまかすために残る。
タバサの作戦を聞いた一同は頷いた。そして才人はウインドウを操作。武装を解除。ただしアイテムボックスには戻さない。床に置いた。ユグドラシルの能力が使えなくなると、アイテムボックスから出せなくなるので。
そしてキュルケに急かされ、ルイズは詠唱を開始した。虚無の魔法の。エクルプロージョンの。
その間に才人は、ルイズとタバサと共にシルフィードの元へ転移。シルフィードの背に乗る。それからほどなくして、ルイズは合図を出した。詠唱が完了したと。頷く二人。
「行くぞ!」
才人はアルビオン艦隊の方を向く。黒い戦艦から見た光景をイメージ。
「テレポーテーション!」
次の瞬間には、月明かりに照らされた艦隊が目に映った。さっきまで見ていた光景を思い出す。そして目標を指を差した。
「あれ」
艦隊の中央にある比較的大き目の戦艦。ただし、レキシントンのような特別なものではなく、よくある形状のものだ。すぐさま才人は、ニ回目の転移を実行。旗艦の直上に出た。
一方のルイズ。アルビオン艦隊を見下ろす。同時に、脳裏に艦隊、と言うか自分たちを含めここにある存在が映り込んでいた。まるで、ゲームの全体3D マップを見るかのように。しかも、艦に積まれている兵器、乗っている一人ひとりすら、感じられた。
それら全てがターゲットだ。どれを破壊するかしないか。ルイズはそれらを定めた。そして杖を旗艦に向ける。虚無の魔法が顕現した。
アルビオン旗艦ネプチューンを中心に、光が広がっていく。アルビオン艦隊は集まっていたために、突如起こった異常事態に対応できず、次々と光に包まれていく。
ただ、その光は才人たちにも迫っていた。
「や、やばい!こっち来てる!自爆しちまう!」
「大丈夫。私たちはなんともないわ」
ルイズの落ち着いた声が耳に入った。どうしてそうなるのか分からないが、今は彼女の言葉を信じることにした。
光が収まった後、見えた光景に、三人は驚きを浮かべる。アルビオン艦隊が炎を上げながら、ゆっくりと落下していくのだ。逃げ出すドラゴンや、甲板で慌てふためく船員の姿も見える。だが燃える戦艦の外観からは、大砲、いや、武器という武器が全て消え去っていた。
ルイズとタバサは、虚無の力の強大さに驚愕する。
一方の才人は二人と見方が違った。確かに威力は驚くべきものだが、ユグドラシルにも似たような広範囲魔法はある。しかし、効果が対象によってバラバラなのが気になった。
ユグドラシルでも広範囲魔法の効果が、対象によってバラバラというのはある。だがそれは相手側の耐性、防御魔法などが原因だ。
だが今見えている光景は、そのような理由ではないだろう。落下している艦隊の材料が、属性耐性を持っているなんてことはないはずだ。しかも何もしていないのにかかわらず、自分たちを含め無傷な者もいる。
ルイズの使った虚無の魔法は、どのような効果を持つ魔法なのか。ユグドラシルの理屈では理解できない魔法。自分の主は、とんでもない力を手にしたのでは。息を呑み、彼はルイズの背中を見つめていた。
やがて、一同は城へと戻る。タバサの予想通り、才人は転移できなくなっていた。シルフィードの背中で、アダプター問題以上の厄介事発生にため息を付く。ただ今は、これで戦争が止まることを喜ぶべきだろうと考え直した。
アンリエッタは執務室で、強く手を組み、唇を結んでいた。
この行為が始祖ブリミルに祈っているものなのか、単に心配を紛らわせるためのものなのかは、本人でも分からなかった。
ルイズから聞いた話を頭の中で繰り返す。自分の使い魔は異世界人であり、その力は強大でアルビオン艦隊を壊滅することができると。
正直、夢を見るにも程があると思った。とても信じられる話ではない。しかし、あまりに真剣な表情に、わずかだが時間を与えてしまった。夜明けまでと。そして最前線に命令を下した。夜明けまでは、アルビオン軍に近づいてはならないという勅命を。
だが今思うと、自分自身もその夢想にすがってしまったのかもしれない。祖国の窮地に、英雄が現れ救ってくれるなどという物語に。
そんな自分の心の弱さに、嫌気が差す。そして女王がこんなことでどうすると、言い聞かせるのだった。
すると不意に、強めの声が部屋の外から彼女に届いた。アニエスの声だ。
「陛下。失礼いたします」
「お入りなさい」
入室許可と共に、入ってきたアニエスは当惑に染まっていた。アンリエッタは何か起こったとは感じた。ただそれが吉報か凶報かは、彼女の表情からは読み取れない。
女王は冷静を装う。
「何か動きがありましたか?」
「その……。説明は難しいです。とにかく、御覧ください」
「……。分かりました」
アンリエッタはアニエスに従い、城の塔の最上部まで上がった。そこから見えた光景は、信じがたいものだった。
沖にいくつもの光が見える。アルビオン艦隊だ。そのほとんどが、炎を上げながら落下している最中だった。
「こ、これは……一体?」
「それが……」
アニエスは見たものを説明しようとした。その時、下から声が響いた。
「陛下!女王陛下!こちらにおられますか!?グラモン元帥がお越しです。急ぎ話があると!」
お互いの顔を見合う二人。おそらくは敵軍に起こっている件の話だろうと、想像する。
アンリエッタは下を向くと、答えた。
「わたくしはここです。すぐに向かいます」
若い女王は、女性近衛兵と共に、元帥の元へと向かう。
執務室では、すでにグラモンが控えていた。入ってきたアンリエッタを見ると、わずかな挨拶の後、すぐさま口を開いた。
「陛下。敵軍が壊滅状態にあります」
「わたくしもこの目で見ました。一体、何が起こったというのです?」
「何がとは?陛下のお考え通りではないのですか?」
「何の話です?」
そう返されたグラモンは、眉をひそめる。思い違いがあるのだろうかと。
劣勢が明らかになった戦況で、グラモンは夜襲を考える。日が昇れば、総攻撃をされる可能性が高い。今のうちに、ある程度敵を削っておこうと思ったのだ。
ところが、アンリエッタから命令が届く。今夜は敵に手を出してはならない。近づくことも許さないと。そんな命令にもかかわらず、理由はなかった。
女王が、何か秘策を実行しようしているとは想像がついた。しかし、戦争のせの字も知らない若い女王が、勝手なことやって逆効果になってはたまったものではない。その時は、不満をぶちまけていた。
ところが結果的に、アルビオン軍はほぼ壊滅状態となってしまう。
ここに来たのはその報告と、どんな秘策を使ったのか尋ねるためだった。ただ、どうも女王自身は、分かっていないような様子だ。
アンリエッタは、不思議そうに問いかけてきた。
「何が起こったのか、教えて下さい」
「……。承知いたしました」
腑に落ちないながらも、グラモンは自分が目にしたものを口にする。
最初、例の黒い戦艦で、何か騒ぎが起きているのが確認された。ただ夜間な上、あまりに距離があり、遠見の魔法ですら状況が掴めなかった。そうこうしている内に、黒い戦艦は沈んでしまう。
その後、敵艦隊が集まっていく様子が確認された。何かの軍事行動かと思い、迎撃準備を命令。しかし、しばらくすると、その集まった敵艦隊の中央が巨大な光に包まれる。そして光が消えると、アルビオン艦のほとんどが、炎を上げながら、ゆっくりと落ちていったのだった。
話を聞いたアニエスは、信じられないという顔つき。直に見たグラモン自身も、未だに理解しかねていたのだから無理もない。
しかしアンリエッタだけは、落ち着いている。どこか納得した様子で。元帥は口を開く。
「やはり陛下の策だったのですか。何をなされたのです?」
「それは言えません。正直に言うならば、わたくし自身もよく分かっていないのです」
「いずれ、話してくださいますな」
「申し訳ありません。今はまだなんとも言えません」
ルイズは他言無用にと言ってきた。その理由と範囲を聞かねばならない。そもそも、アルビオン艦隊を壊滅させた力の正体を知っておく必要があるだろう。
グラモンは追求を諦めた。
「……。分かりました。その話は一旦、置いておきましょう。それよりも、戦についてです。勝ちはほぼ決まったようなものですが、ここで陛下には前面に出ていただきたい」
「わたくしが?」
「陛下が最前線で勝利を宣言なされれば、陛下を侮っているやからも少しは口を慎み、政務を進めやすくなるでしょう」
「分かりました。アニエス。鎧の準備を」
威勢よく、近衛隊隊長に指示するアンリエッタ。すぐさま踵を返すと、私室へと戻っていく。
胸の内では、ルイズへの感謝で一杯だった。そして異世界から来た英雄に、恩義と共にどこか憧れのような気持ちを抱いていた。
その後、夜明け前にわずかに残ったアルビオン艦隊は、撤退を開始する。戦場を照らす朝日の中。将兵たちの前で、新女王は高らかに勝利を宣言するのだった。