世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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もう一人のプレイヤー

 

 

 

 

 平賀才人がトリステイン魔法学院に現れる三年前。サハラの東、ロバ・アル・カリイエで巨大な力が胎動し始めた頃。

 西のハルケギニアでも数千年ぶりの奇跡が起ころうとしていた。

 

 ガリア王国。王都リュティスのヴェルサルテイル宮殿。

 ここに一人の偉丈夫がいた。青い髪、青い顎髭。まぎれもなくガリア王家の血を引く証だ。彼こそが現国王、ジョゼフ一世である。

 今はいるのは宝物庫。衛兵達は外で待機させており、他には誰も居ない。ここに来た理由は特にない。なんとなく気が向いただけだ。

 

 棚の上には、王家伝来のものから、各地の秘宝が並んでいた。そのような珍品を前にしても、王の瞳はどこか覇気がない。

 

 それも無理もないかもしれない。子供の頃、あの召喚の儀式の光景が脳裏に蘇る。召喚失敗が。皆の前に晒した無様な姿が。以後も魔法は使えていない。

 にも関わらず、死んだ前王は魔法の使える弟シャルルではなく、自分を後継として指名した。選ばれた理由がわからない。魔法が使えない哀れな子への慈悲なのか。

 

 そんな考えを強めるかのように、彼に向けられる弟からの哀れみの視線。自分を支えるという言葉と共に、いつもあるそれ。

 実際、助けてもらっているのは確かだ。だがその無垢な厚意は、少しずつジョゼフの重みとなっていた。

 

 ふと足を止めた。目の前にあるのは『始祖の香炉』と呼ばれる特別な秘宝だ。

 ハルケギニアに広まっている宗教。始祖ブリミルへの信仰。その始祖が残した秘宝が四つあるという。その一つがこれだ。

 もっともだからといって、特別な何かがある訳でもない。何人ものメイジが調べてみたが、なんの変哲もない香炉だ。

 だいたいこれが本物の『始祖の香炉』なのか証明しようがない。ただのガラクタを、ありがたがっているだけかもしれない。

 ジョゼフは、それはまるで自分のようだと思った。魔法の使えない王、まがい物の王である自分に似ていると。

 

 気の迷いか、自然と手が伸びていた。そして『始祖の香炉』に触れる。

 急に頭が殴られたような感覚に襲われた。脳裏に言葉が走る。それは告げていた。自分が本当は何者であるかと。

 

「フッ……フフ……。そういう事だったのか。まさかこの俺が"虚無"だとは。ハハ……ハハハハ……!」

 

 誰も居ない宝物庫に、狂気を孕んだ笑いがこだましていた。

 

 それからしばらくして、王弟シャルルは命を失う事になる。兄の謀略によって。

 

 

 

 

 ガリア王ジョゼフ一世が、虚無に目覚める同じ頃。一足先に虚無に目覚めた者がいた。ガリアの南、ロマリアに。

 しかもその人物は、このハルケギニアで最も高貴な存在だった。聖エイジス三十二世こと教皇ヴィットーリオ・セレヴァレ。

 ハルケギニアに広く信仰されているブリミル教徒の頂点に立つ者だ。宗教国家ロマリア連合皇国の主でもある。

 

 そんな権威の塊のような人物が、緊張の面持ちを浮かべていた。

 ここは彼のプライベートな礼拝の場。フオルサテ大聖堂の大礼拝堂で、大勢の信徒たちを前にするよう場所とは大違いだ。むしろ懺悔の場のよう。そんな場所に教皇がいた。

 

 やがて杖を手にし、詠唱をはじめた。

 

「我が名はヴィットーリオ・セレヴァレ。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」

 

 詠唱が終わると同時にゲートが現れた。

 

「おお……」

 

 思わず感嘆の声を漏らす教皇。

 虚無に目覚めるまでは、魔法が全く使えなかった彼が魔法を使えている。始祖は答えてくれたと感じていた。

 

「ん?」

 

 だがそんな彼の眉間が歪む。

 召喚ゲートから途切れ途切れにノイズのような音が聞こえ、大小様々な四角が現れては消えていた。

 失敗したのかもしれないとも思ったが、なんと言っても虚無の召喚魔法だ。普通のものとは違うかもしれないと、考えをあらためる。

 やがて一人の少年が、ゲートから抜け出すように現れた。気を失いつつ。

 ヴィットーリオは確信した。やはり始祖は自分に全てを託したのだと。

 

 

 

 

 突然、右手に痛みが走った。

 目を覚ます少年。一人の姿が視界に入る。絹のように光る長い金髪を自然と流している、端正な面持ちの青年だった。

 

「目が覚めましたか?」

「……」

 

 椅子に座り、優しげに彼を眺める青年。

 目覚めるまで待っていたようだ。

 

「混乱してるでしょうが、まずは落ち着いてください。お茶でも入れましょう」

 

 そう言って立ち上がると、歩き出した。先に簡単なキッチンらしきものがある。

 

 少年の意識がハッキリしてくる。どうも今までベッドに寝かされていたようだ。これまでの記憶を掘り起こし始めた。

 

(何が一体、どうなってんだ?)

 

 そして手を見た。馴染みだが、馴染みではない手が見える。

 ベッドの側の壁に鏡がかかっていた。何気なくそれを見る。自分の姿が映っていた。

 

「えっ!?」

 

 唖然とした声を思わずだした。金髪の少年の姿があった。その瞳はオッドアイだ。

 

 声を聞いた青年が思わず振り返る。

 

「大丈夫ですか?驚くのも無理はないでしょう。説明しますので、しばらく待っ……」

 

 金髪の青年が、再び背を向けた瞬間、少年は右手で空中をタップした。

 

「タイムストップ」

 

 全てが停止した。金髪の青年も、何もかも。空気すらも。

 そんな中、少年だけが動いていた。一人つぶやく。

 

「時間対策してないか……。って、ゲーム終わってないじゃん。終了したんじゃなかったのか?ユグドラシル」

 

 彼もまたユグドラシルプレイヤーだった。

 

 ただ、ゲームが終了していなかったとしても、納得がいかない。疑問がいくつも出てくる。

 ユグドラシルの終了の時まで、彼はあるかも知れない未踏を目指して彷徨っていたはずだ。それが、ベッドで寝ているなんて状況になっている理由が分からない。

 それに、どこかユグドラシルと雰囲気が違う。

 

「もしかして別のゲーム?ユグドラシルを最後までプレイしてくださった方には、先行特典として新作ゲームをプレイできます、みたいな」

 

 その説を確かめてみる事にした。また空中をタップ。ウインドウが現れる。

 

「最近、メーカー通知確認してなかったからなぁ……」

 

 メニューからメーカー情報を確認してみる。

 しかしサービス終了のお知らせと感謝の言葉が最後の通知だった。

 首をかしげるしかない少年。

 その時、ふと気づいた右手に奇妙な文字のような入れ墨がある事に。

 

「なんだこれ?」

 

 これは使い魔のルーン。だが彼がそれを知るのは少し先の事だった。

 

 不意に違和感に気づいた。ふと周囲を見渡す。

 

「チッ、時間切れか……」

 

 世界が動き出した。

 

「……ててください」

 

 途切れていた青年のセリフの最後の部分が耳に入る。黙り込みながら青年を凝視した。見極めるように。

 

(NPC……か?なんかこの状況、新規プレイのチュートリアルくさいし。こいつ始末したら、変なトロフィー手に入ったりして。レアアイテム手にいれる条件だったりしてとか)

 

 物騒な事を考える彼。

 ともかくこれが何かのゲームだとしても、訳がわからないままプレイする気はない。

 また空中タップ。ウインドウを出現させる。先行特典かもしれないが、こんなストレスの溜まる状況ではやっていられない。

 ログアウトする事にした。メニューから選択し、タップする。

 

「ん?」 

 

 何故かログアウトできない。

 

「えっ?もしかしてバグ?」

「どうしたのです?とにかく、お茶でも飲んで落ち着いてください」

 

 青年の言葉を無視して、次の行動を開始。GMコールだ。

 しかし反応なし。思わず立ち上がる少年。

 

「ふ、ふざけんな!バグまみれのアルファ版かよ!ログアウトとGMコールバグってるとかクソか!最悪だろ!こんなもん出すな!」

 

 何もない空中に向かって叫ぶ少年。長髪の青年には訳がわからない。言っている事も分からない。

 とりあえず落ち着いてもらうしかない。少年の手を引き、テーブルへと招く。

 

「酷く混乱するのは分かりますが、とにかく落ち着きましょう。さ、これでも飲んで」

「……」

 

 渋々、言われるまま椅子に座り、テーブルに用意されたティーカップを手にした。

 そして中に入っているお茶に口をつける。

 

「ん?」

「どうですか?お口に合いますか?」

「味がする……」

「入れたばかりですし、いい茶葉を使ってますからね」

 

 しかし少年の耳には、青年の言葉は入ってこない。

 今度はやたらとティーカップの匂いを嗅ぎだした。さすがに唖然とその様子を見るしかない青年。

 

「匂いが……ある」

「えっと……」

「ありえない……。どうなんってんだ!?」

 

 すると急に立ち上がり、部屋の入口へと駆け出した。外へと飛び出す。ここは二階のようで、眼下には中庭が見えていた。

 丸見えのこの場所で、ウインドウをタップ。装備を全て解除。下着だけとなる。これ以上は取れない。というか存在していないはず。

 しかし最後に残ったパンツに手をかけた。そして勢いよく下ろした。

 見えた股間には粗末なもの。

 

「えっーー!」

 

 自分のものが粗末だった事に対しての悲鳴ではない。それ自体がある事に対してだ。

 

 一方、その様子を伺っていた長髪の青年。慌てて彼を部屋へと引き戻す。

 

「神聖なこの場所でなんという格好を!とにかく、服を着てください!」

 

 そう言って、棚から着替えを取り出すが、オッドアイの少年は無視。

 

(ありえない……。ありえない……。ありえない……。X指定のゲームじゃなけりゃ、こんなもん付けたりしない。だいたい味と匂いって、違法行為だろ。何?もしかしてここって違法アングラゲーム?メーカーがハッキングくらって?いやいや、あそこがこんな酷いハッキングくらうなんてあるか?)

 

 差し出される着替えを無視し、パンツを力強く握りながらも呆然としている少年。

 そんな彼の脳裏に、様々な説がいくつも浮かんでは消えていく。

 最後に、信じたくないものが現れた。

 

(まさか……異世界ものってヤツ?あれって本当に起こるの?もう、オカルトだろ!けど……)

 

 最後の考えに拒否感を抱きつつも、否定できない自分がいた。

 ふと顔を上げると、厳しい目で見つめてくる長い金髪の青年が見える。着替えを突き出す姿が。

 

「はぁ……」

 

 オッドアイの少年は大きなため息をつくと、パンツを履いた。

 そしてウインドウを操作。一見、普通の服に見える軽装の武装を選択し、装備する。

 彼は一瞬で服を身に着けていた。今度、驚くのは青年の方。

 

「な、何をしたんです?」

「装備を変えたんですよ。軽いのにね」

「え?」

 

 何を言われているか分からない。

 少年の方は肩を落としつつ、テーブルのティーカップを指差す。

 

「あの……お茶をいただいてもいいですか?冷えちゃってても構いませんから」

「あ、はい……」

 

 小さく頷く青年。

 少年の態度の変わりように、戸惑う。それから先程の、一瞬で着替えた魔法らしきものにも。

 自分は一体何を召喚してしまったのか。正常な召喚ができたのか。

 教皇として信者へ常に落ち着いた姿を見せていた彼が、なかなか動揺を抑えられずにいた。

 

 すでに少年はお茶を全て呑んでしまっていた。

 彼もテーブルに座ると、自分でお茶を注ぐ。そしてらしからぬ態度で、一気に飲み干した。気持ちを落ち着けるために。

 

「とりあえず、自己紹介から始めましょう」

「はい」

「私は、ヴィットーリオ・セレヴァレ。ただもう一つの名前の方がよく知られているでしょう。聖エイジス三十二世とは私の事です」

「そうですか」

 

 オッドアイの少年のリアクションは淡白なもの。ブリミル教徒なら腰を抜かしかねない事実が、彼にとってはどうでもいい話らしい。

 ブリミル教徒どころか、ブリミル自体を知らない可能性すらあると考えるヴィットーリオ。

 

 今度は少年の番である。だが口を開こうとした瞬間、さっき見た鏡へと目をそらした。そこに映っている姿を噛み締める。そして大きく深呼吸。

 

「僕はジュリオ・チェザーレといいます」

「これはまた、大層な名前ですね」

「そう思われますか」

 

 何故かは知らないが、こちらの世界でもこの名は知られているらしい。

 この名は、かのローマの大英雄、ユリウス・カエサル。そのイタリア語読みだ。

 自分でも大げさなハンドルネームだとは思っている。まあ、ゲームの中なのだから、"いい年こいて"中二をやっても構わないだろうなんて思ってはいたが。

 

 ヴィットーリオはすっかり落ち着きを取り戻し、少し真剣味を帯びた表情になる。

 

「では、あなたがここにいる理由をお話したと思います」

「はい」

 

 ジュリオの方も、一応は話を聞く事にした。

 

 ヴィットーリオの話はこうだった。

 まずここは、ハルケギニアという土地のロマリア連合皇国と言う。そしてこのハルケギニアでは、ブリミル教という宗教を多くの人々が信仰しているそうだ。つまり目の前の人物は、そのトップという訳だ。

 ハルケギニアに住む人々には二種類いる。魔法を使える者と使えない者だ。前者はその力にで王族や貴族となりこの土地の支配者階層を形成してるとの事。宗教関係者もこの支配者階層と同列らしい。ヴィットーリオ自身もそうだ。

 ちなみに、ハルケギニアでは彼ら魔法を使えるものをメイジと呼ぶ。彼らは一人に付き一体の使い魔を召還する事ができるそうだ。ジュリオはその使い魔として呼ばれた訳だ。

 

 ここで魔法は四属性からなるもので、系統魔法という。その他にコモンマジックという属性のない低位の魔法もあるそうだ。他に妖魔やエルフなどが使う、先住魔法という異質な魔法もある。

 さらにこれらを超える虚無という魔法が存在する。ただ伝承に残るばかりで実際どんなものかも分からず、存在を疑問視されていた。しかし、ついに出現した。その担い手こそが、ヴィットーリオなのだと、彼は自身を指さした。 

 

 腕を組み、天井を仰ぎながらオッドアイの少年は聞いた話を咀嚼する。やがて首を戻す。

 

「なんで僕を召還したんです?」

「いえ、あなたを望んでという訳ではないのですよ。主に相応しい使い魔が、自ずと召還されるのです。もっとも、人間が召還されるとは思いませんでしたが」

「普通は違うんですか?」

「ええ。人間が召還されたという話は、聞いた事がありません。逆に言えば、虚無だからこそでしょうか」

「……」

 

 また口を噤むジュリオ。そして右手を見た。文字のようなものが書かれている。なんでもこれが、使い魔の証だそうだ。

 しかし、それに不機嫌そうな視線を向けていた。

 

 説明を受けている最中に気づいたが、どうも使い魔の契約というのは、精神操作の効果があるらしい。

 ただ彼のパッシブスキルによりレジストされていた。使い魔の立場を考えれば、そんな魔法を付与するのも分からなくはないが、やられる側にとっては好ましいものではない。

 

 ふとオッドアイをヴィットーリオに戻す。

 

「それで全てですか?」

「いえ、まだありますよ。ただ、一気に話しても混乱するだけでしょうから、おいおい話します」

「そうですか」

 

 素直に頷く少年。

 邪気のなさそうな表情を作りながら、彼は警戒を解かなかった。、"本来の職業"の経験が警告している。目の前の人物はうさんくさいと。

 

 一旦話を終えたヴィットリーオは、先程まで柔らかだった表情を少しばかり厳しくする。

 

「次はこちらから質問させてください。あなたは何者ですか?」

「何者……ですか。なんと言えばいいやら……」

 

 そう言いつつ、先程の鏡をまた見る。金髪オッドアイの少年の姿が映っていた。

 自分であるが自分ではない。

 だいたい使い魔を召還するにしても、なんでゲームの中の自分なのか。実際の自分は、魔法が使えないからか。

 そもそもゲームの中に干渉できる魔法とはなんなのか。それ以前にゲーム自体、フィクションだ。実態は存在しない。それを召還できているとは。むしろ、これこそ虚無の力なのか。

 

 何かがおかしい。

 

 そう感じずにはいられない。これも”本職”の勘か。ともかく分からない部分が多すぎる。それに目の前の人物も、どこまで信用していいのか。

 

 ジュリオは大きなため息を漏らすと、話す内容を決めた。

 

「ぼくはユグドラシルという世界から来た、マジックキャスターです」

 

 こうして彼の自己紹介が始まった。ユグドラシルプレイヤーとしての彼の紹介が。それも限られた部分だけを。今のジュリオには、こんな状況で全てのカードをさらす気など全くなかった。

 

 

 

 

 




ジュリオの設定、少し変更しました。
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