ヴァリエール公爵領の隣にとある貴族の小さな領地があった。ワルド子爵領。現当主は美男と噂の青年、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ。
エリート街道を進み、王家の近衛隊グリフォン隊の隊長まで上り詰めた。しかしその後、女王戴冠式で大失態を犯し、グリフォン隊を除隊。今の肩書は空軍竜騎兵隊の一隊長にすぎない。しかも汚名返上の機会であるラ・ロシェール戦役では、消極的な戦いをさらした。後にこれらを受け、ルイズとの婚約をヴァリエール家から解消されてしまう。
だが今の彼にとって、このような事はどうでもよかった。
そんな彼の領地の居城の食堂に、錚々たる顔ぶれが集まっていた。
ガリア王であり虚無の担い手、ジョゼフ一世。ネフテス議員のエルフ、ビダーシャル。稀代の盗賊、フーケ。トリステインの虚無の担い手、ルイズ。彼女の使い魔で異世界人の才人。
そして、ハルケギニアの支柱とも言える存在であり、虚無の担い手でもある、教皇、聖エイジス三十二世ことヴィットーリオ・セレヴァレ。その使い魔であり、才人と同じ異世界人、ジュリオ。
虚無の担い手が三人に、エルフが一人、超常の力を持った異世界人が二人。これだけメンバーが一同に会していた。ただし使用人もおらず、日中だというのに窓のカーテンは閉じられていた。魔法の灯りに照らされた面々は、いかにも怪しげな集まりかのよう。
代表して、上座に座っているヴィットーリオが席を立ち、あいさつを始める。
「この会合を主催した私から礼を言わせていただきます。みなさん。お集まりいただき、ありがとうございます」
それに同じく礼を返す面々。ただジョゼフとビダーシャルだけは、変わらぬ態度。その後、ジュリオが全員を紹介した。それが終わると、しびれを切らしたようにガリア王が口を開く。
「さっさと話を始めてくれ」
「そうですね。このような機会は、そうそう得られないでしょうから」
教皇はそう答えると、さっそく最初のテーマを口にした。
「先日、ロマリア連合皇国の首都が、エルフの一団に襲撃を受けました。ジュリオの活躍により、火災鎮火とエルフ撃退には成功しました。しかし被害は大きく、多くの建物を焼失しました」
「エルフが何故、直接ロマリアを?」
髭の美男、ワルドが眉間にシワを寄せ尋ねてきた。それに答える教皇。
「私の虚無の魔法、リコードによって理由は解明できています。エルフはハルケギニアへの侵攻を計画していました。その大義名分を作るための工作だったようです。つまり今回のエルフの襲撃で、私が聖戦を発動。それに対応する形で、エルフの軍勢が攻めてくるという筋書きです」
真相を知り、厳しい表情が並ぶ。
そんな一人、フーケがこの場にいる唯一のエルフへ話しかけた。
「前に聞いたあんたたちの同僚……鉄血なんとか……だっけ?」
「同僚ではない。むしろ対抗勢力だ。それと鉄血団結党だ」
「ああ、それ。その連中の仕業かい?」
「おそらくな。ここ数年、様々な理由をつけて莫大な軍事費を確保していた。十分な軍備が整ったのだろう。しかも連中は、ハルケギニアの人間を殲滅するつもりでいる」
驚きの声が数人から漏れてくる。そこに呆れたような笑い差し込まれた。ジョゼフだ。
「ハッ!ハルケギニアの人間全てを滅ぼすほどの軍勢を、俺達だけで相手にするのか?教皇は、虚無の力で神罰でも起こすのか?いっそ、アインズ・ウール・ゴウン魔導国とぶつかるよう仕向けた方が、まだ現実味がある」
「アインズ・ウール・ゴウン魔導国……ですか。ジュリオから話は聞きましたが、正直、実感がありません。化物が国を統治し、すでにハルケギニアで暗躍しているなど……」
「まあ、実物を見なければ、世迷い言といわれても仕様のない話だからな」
ヴィットーリオにとっては、アインズ・ウール・ゴウン魔導国は聖典に載っている寓話のような話に思えて仕方なかったが、それでも大きな問題とは捉えていた。引き締めた態度のまま話を続ける。
「その魔導国とやらの他にも、ハルケギニアには大きな危機が迫っています。私達の足元、ハルケギニアの大地が崩壊しようとしているのです」
教皇の言葉に、唖然とする一同。言っている意味が分からなかった。
いくつもの危機的な話が出てきたが、ここでヴィットーリオは、何故かその整った顔つきを緩めた。
「大地の崩壊などという話は、すぐには理解し辛いでしょう。これから説明します。そして実は、エルフの侵攻、魔導国、そして大地の崩壊。これら三つの危機を一気に解決する方法があります」
「ええっ!?聖下!本当ですか!?」
思わずルイズが身を乗り出していた。それに頷く教皇。彼はヴィンダールヴの方へ、顔を向けた。
「ジュリオ。始祖の円鏡をテーブルの端に立ててください」
「あ、はい」
彼は、持ってきた円鏡を手にした。それをテーブルの端に、立てて置いた。まるでモニターでも設置するかのように。
ヴィットーリオは杖を取り出し、円鏡へ向けた。
「今から始祖の円鏡に様々な光景が映し出されます。まずはそれを見てください」
教皇は、リコードの魔法を唱える。すると円鏡に映像が映し出された。その内容はある一人の人物の生涯の記録、とでもいうものだった。その人物とは、始祖ブリミル。内容はこうだ。
六千年前。今のハルケギニアの人間たちの先祖である少数民族マギ族は、ヴァリヤーグと呼ばれる異民族の大規模な圧迫にさらされていた。そんな窮地に彼らの指導者だったのがブリミルだ。四人の使い魔を従え、虚無の魔法を使いこなす英雄だ。もっとも、現在、ハルケギニアで崇められているような、聖人や神かのような存在ではなく、ただの若者にしか見えなかったが。
魔法を得意としたマギ族は、少数ながらも抵抗し、やがてハルケギニアにたどり着く。そこを安住の地とした。
しかし地下に眠った風石の暴走により、全土で地殻変動が起こると予見される。その暴走を止めるため、風石溜まりを排除する事をブリミルは考える。しかしその場所とは、エルフの国だった。
エルフは、ブリミルの地殻変動の話を、ましてや自分たちの足元が震源地だという話を信じなかった。ブリミルは結局、巨大風石排除を強行。地殻変動を最小限に抑えたものの、エルフに甚大な被害を出す。その結果、使い魔の一人であるエルフに命を奪われることとなった。
重要な部分だけを掻い摘んだ、ダイジェストのようなものだったが、誰もがだいたいの内容を把握できた。ただし反応は様々。
そのざわめきが収まる前に、ヴィットーリオが口を開く。
「驚かれたでしょう。これが始祖ブリミルの真実です。そしてここで映し出された、地殻変動、風石の暴走がハルケギニアで再び起ころうとしています。我々が虚無に目覚めたのも、我々、マギ族の子孫に再び危機が訪れたからでしょう」
ここビダーシャルが慌てて声を上げた。
「待て!貴様、またエルフの土地で、大災厄を行おうというのか!?」
「違います。その逆です。我々、マギ族の子孫は、この土地、ハルケギニアから離れます」
「どういう意味だ?」
「そもそもヴァリヤーグも我々も、この世界の住人ではなかったのです。異世界人だったのですよ」
「何!?」
驚きの声を上げるビダーシャルやルイズたち。さらに教皇は続けた。
「その異世界とは"地球"。ジュリオたちの故郷です。マギ族はそこから異世界への通路、聖地の門を通り、この土地へ逃げてきたのです」
「それでは……。その地球とやらに戻ると?」
「はい。現在でも聖地には門がわずかに開いています。聖地周辺に流れ着く場違いな工芸品は、そこから出てきたものです。さらに私は『ワールド・ドア』という転移の魔法を習得しています。これを使い、聖地の門を拡大。我々を故郷へ戻します。我々がこの世界から消えれば、三つの危機は解決します」
「人間どもがいなくなる……」
「はい」
「……」
神妙な面持ちとなるビダーシャル。もっともエルフにとっては、魔導国の問題が残るのだが。
一方で別の意味で、腑に落ちないという表情を浮かべる者たちがいた。まずはルイズ。
「聖下。サイトから聞いたんですけど、今の地球は息もできないとんでもない所です。どうやって生きていくんです?」
「私もジュリオから、その話を聞きました。しかし、我々には魔法があります。空気を浄化できるでしょう」
「ですけど……。地球のどこに住むんです?ハルケギニアの人間、全員が住む土地なんてあるんですか?」
「そうですね。ですから奪い取ります」
「は?せ、聖下!?何を言って……」
「驚かれるのは分かります。他の解決方法があれば、私もこんな手段は取りたくありません」
「……」
黙り込んでしまうルイズ。とてつもない大戦争になる。冗談ではない。だからと言って風石の暴走への対策も、今の彼女には思いつかなかった。
ここで怪訝そうなジュリオが、ゆっくりと手を上げた。
「聖下。僕が聞いてた話と大分違うんですけど。風石の暴走は虚無の魔法で、なんとかするんじゃなかったんです?っていうか、ブリミル本人の記録があったなんて、聞いてませんよ」
「申し訳ありません。あなたの故郷に関わる事ですし、しかも侵攻する可能性もありましたらか、なかなか話を切り出せなかったのです」
憮然としたままのジュリオ。だがそのオッドアイの奥には、また違う疑惑の光があった。指を一本立てる。
「もう一つ」
「なんです?」
「さっき映像、本当の出来事ですか?」
「……。もちろん。この円鏡の記録を読み取ったのですから」
「おかしいな……。その記録、デタラメじゃないですか?」
ヴィットーリオは目を丸くする。しかし、すぐに落ち着きを取り戻した。
「円鏡の周囲で起こった出来事が、刻まれているのです。偽りが入るはずがありません。だいたい何故、偽りだと?」
「六千年前の地球に、あんな立派な鎧を来た騎士なんていなかったからです」
すると今度は才人から。
「あ。そっか」
「だろ?エジプト文明より何千年も昔だぞ?」
「そうだ。確かまともな鎧って、ローマとかくらいからじゃなかったかな。あ!後、6千年前じゃ騎兵もいなかった」
「詳しいね」
「武器についてはね。よくFPSとか歴史もののRTSとかやってたから、その流れで」
「へー」
地球を知っている当人たちから否定されてしまったヴィットーリオ。少しばかり動揺が走る。
するとジョゼフが笑い始める。
「ハハッ。確かにリコードは、ただ記録を読むだけの魔法だ。記録自体が真実である保証はどこにもない。これが偽りだとしたら、ヴィットーリオの計画は台無しだ。聖地の門の先に、何があるのか分からなくなったからな」
「時間の流れが……こちらと地球では違うのかもしれません。ハルケギニアでは六千年前と記録されていても、地球では数百年前の出来事かも」
「なかなか口達者だな。さすがは神官の頂点だ」
「……」
不機嫌そうになっていく教皇。一方、彼を小馬鹿にするように話していたジョゼフが、急に真剣味を帯びた表情となった。
「地球とやらは置いとくとしても、他にもおかしな所がある」
「なんでしょう?」
ガリア王は教皇には答えず、エルフへと顔を向けた。
「ビダーシャル。さっきのヤツが真実だとすると、マギ族とやらは聖地の門、つまりエルフの国から現れたことになる。そんな記録はあるか?」
「一応、伝承にはある。シャイターンの門から、シャイターンが現れたと」
「その時、何が起こった?」
「エルフの半数が、滅ぼされたと伝わっている」
「そうではない。さっきの話を見た限りでは、それは、マギ族とやらがハルケギニアに移り住んだ後の話だろ?エルフの足元から、突然、大量のマギ族が現れた直後だ。何も起こらなかった訳がない」
「確かに……。今、そのような事が起これば、ただでは済まんな。だが、マギ族とやらが現れた直後の話は、聞いた事がない」
「妙だとは思わんか?どちらも大きな事象だというのに、一方しかないとは」
「……。気には……なるな」
二人の会話を耳にした教皇の表情が、冴えなくなっていく。今度、ジョゼフはそのヴィットーリオの方へ振り向いた。
「それに、ブリミルは一人だが、何故、今ここにいる虚無の担い手は三人もいるのだ?あいつは四人もの使い魔を従えていたが、俺たちは皆一人だ。ブリミルと俺たちの虚無は、同じものなのか?」
「……」
さすがに言葉が出ない教皇。始祖の円鏡に向かって、探るような視線を向ける。しかし円鏡が答える訳もない。
すると再び、ジュリオが手を上げた。
「聖下。少し席を外したいのですが」
「……。かまいません」
「才人。ちょっと来てくれ」
声をかけられたガンダールヴは、小さく頷く。何事だと思いつつ。
食堂から出て少しばかり離れた部屋に入ると、ジュリオは隠密の魔法をかける。周囲に音を漏らさない、レンジャー用の低位の魔法だ。それを見て、ユグドラシルプレイヤーだけで話をしたいらしいと察する才人。
ジュリオはさっそく口を開いた。
「あの映像見て、どう思った?」
「分かんねぇよ。でも地球じゃないのは確かだと思う。後から教皇……聖下が言ってた時間の流れの違いって話だと、二千年前の地球に魔法があったことになっちまう。それもおかしい」
「だね。僕はって言うとさ、ヴァリヤーグとかの話、ゲームの実況映像に見えた。無限湧きの雑魚キャラ狩りみたいにさ」
「ゲーム!?」
思わず目を見開いてしまう才人。そんな彼に構わず、オッドアイの青年は淡々と話を続けた。
「だとすると、実際の歴史と違うのも当然。だいたいさ、系統魔法の四系統って、ファンタジーものじゃ擦り倒された設定だよ。そして虚無がユグドラシルでいう、超位魔法ポジションじゃないかな」
「超位魔法か……。そう言えば、虚無の魔法の取得条件って変だよな。アイテムが必要だし、成長して増えてくんじゃなくって、トロフィ解除みたいな感じだし」
「だろ?だいたい、一気に取得できてないのもおかしい。そのマギ族とやらの危機に目覚めるなら、全部開放してくれた方がいいに決まってる。なんでゲームっぽく、条件クリアで増やしてく感じになってんだ?」
ジュリオの言うことに納得してしまいそうになる才人だが、突拍子もない考えに今ひとつ頷けなかった。
「だからってゲームって……。あれ?」
「気付いた?僕たちも同じさ。ゲームの魔法を使えてる」
「!」
「もしかしたらだけど、この世界はブリミルがいたゲームシステムを取り込んでしまって、系統魔法がこんなに広がったのかもね。後、今いる妖魔も幻獣も、元々ブリミルのゲームにいたモンスターかもしれない」
「ちょっと待てよ。そうしたら今度はユグドラシルのシステムが、この世界に影響するかもって話か?」
「ありえなくはないだろ?ある意味、僕らがその証明になってる」
「そんな事になったら、この世界、メチャクチャになるぞ」
「貴族だけでなく、平民も魔法を使えるようになる。スキルも使えるようになる。種族もモンスターも増えるかもしれない。しかも強さは、今のものとは比較にならない。地殻変動はいつか収まるけど、こっちはずーっと続く。世界が一変するだろうね」
息を呑む才人。しかしふと大きな問題に気付いた。
「ん?待てよ。それはない。だいたい六千年前も二千年前にもゲームはない」
「そうなんだよね。これがこの説の最大の欠陥」
「なんだよ。大穴開いてるじゃん」
「そうだけど、僕らがユグドラシルの能力使えてる説明にはなる」
「う~ん……」
喉に引っかかるような違和感を覚える才人。だからと言って、ジュリオの説を否定することもできなかった。ポツリと零す。
「一度、聖地とかに行った方がいいのかもな」
「だね。だけどとりあえず、目の前の問題をなんとかしないと。ヴィットーリオの計画は、白紙になっちゃったし」
「だな。けど、エルフの軍隊に、アインズ・ウール・ゴウン魔導国に、地殻変動って、どうすんだよ」
「とにかく、解決方法見つける時間だけでも稼がないとさ」
「とりあえず、それしかないか……」
才人は自分の手に負えないと肩をすくめつつ、返事をする。そしてジュリオたちは魔法を解除すると、食堂へと戻って行った。
二人が戻ってきた食堂では、アインズ・ウール・ゴウンへと話題が移っていた。そしてワルドが疑問を口にする。ルイズたちも思いついた疑問を。
「そもそも、アインズという化物はどこからきたのだ?ミスタ・ヒラガとミスタ・チェザーレは、使い魔として召喚された。素直に考えるなら、アインズも何者かによって召喚されたはずだ」
「四人目の虚無の担い手でしょうね。その者を、探し出す方を優先すべきかもしれません」
ヴィットーリオが、誰もが思っていた考えを口にする。ここでルイズが入ってきた。
「聖下。サイトたちの考えだと、その四人目の虚無はもう死んでるんじゃないかって」
「どのような理由からでしょう?」
「街くらいあるアインズの住処と一緒に召喚されたからだとか。召喚した時に、その住処に押しつぶされたんじゃないかって」
「街ほどの住処とは……。しかしそうなると、死亡というのはありえますね」
ヴィットーリオ自身もジュリオ召喚時、彼は目の前に現れた。ルイズが以前思ったように、街が現れては押しつぶされてしまう。
しかし、そこにバツが悪そうな声が、挟まれる。フーケだった。頭をかき、ぼやくように言った。
「四人目の虚無は、死んじゃいないよ」
一斉に声の主へと視線が集まる。ワルドが代表するかのように尋ねた。
「何故、分かる?」
「……。私が匿ってるからさ」
「何!?」
驚きの声があちこちから上がる。教皇が穏やかそうに、しかし厳しい視線を向けた。
「詳しい聞かせてくれませんか?」
「……。分かったよ」
それかフーケの話が始まった。その驚くべき身の上話が。
彼女の本名は、マチルダ・オブ・サウスゴータ。そしてサウスゴータ家はアルビオン王弟家モード大公の臣下だった。
アルビオンのレコン・キスタの発生原因、前アルビオン国王ジェームズ一世のモード大公誅殺事件の時、同じく臣下であった者たちも死罪を言い渡された。マチルダはその生き残りだ。
さらに生き残ったのは彼女だけではない。モード大公の忘れ形見も生き残っていた。その名はティファニア。そして彼女こそが、最後に残った虚無であると。今はマチルダの隠れ家に、アルビオンに孤児と共に潜んでいるという。
話が終わると、ヴィットーリオ少しばかり考え、顔を上げた。
「そのミス・ティファニアからは、いろいろと話を聞かねばなりませんね。会わせていただけませんか?」
「会わせてって……お忍びでアルビオンに行くっていうのかい?実質魔導国に支配された国に、教皇様が」
肩をすくめて返すマチルダ。しかし教皇は平然としたもの。
「いえ、彼女に来てもらった方がいいでしょう。魔導国という存在を置いておいても、すでに帝国となった国に、アルビオン王家の縁者が住むのは危険すぎます」
「そうだけど……どうやって?今の国から出るなんて、至難の業だよ。アルビオンとトリステインはまだ休戦してないからね。建前上は、戦争状態なんだよ?」
「難しくはありませんよ。ジュリオ」
教皇はオッドアイの青年の方を向く。彼は虚無の担い手調査のため、アルビオンに何度か行った経験があるからだ。
すぐにジュリオは主の意図が分かった。視線を上げ、思い出すように答える。
「大きい都市にはだいたい転移できますね。ただ裏に魔導国がいるんで、覚られないようにしないと。それで、一番近い都市はどこです?」
ジュリオはマチルダに尋ねた。
「サウスゴータが近いっちゃ近いけど、そこからも大分離れてるよ」
「まあ、なんとかなるでしょ」
返ってくるオッドアイの神官の気軽な声。同時に頷く教皇。
「では、ミス・ティファニアを保護してから、再度、皆で会合を持ちたいのですが。いかがでしょうか?」
とりあえず賛同する一同。今ある問題、エルフの軍勢に、魔導国、そして地殻変動。それら対するには、まだ情報が不足していた。
解散しようとする一同の中、エルフが虚無の担い手へと声をかけた。
「ジョゼフ。私をシャイターンの力で、ネフテスまで転移させてもらいたい。お前の持った疑念も含め、祖国に持って帰りたい話がいくつもある。それに少々、戦力も必要だしな」
「俺は馬ではないぞ」
「だが、帰国の道中、私が魔導国に捕らえられて困るのはお前ではないか?しかし、転移するならそれはない」
「……。分かった。この借りはでかいからな」
「いずれ返そう」
わずかに口元を緩めるエルフ。それにガリア王は憮然としたままだが、不機嫌という程でもなかった。
一方、廊下に出たルイズと才人。さっそくルイズが質問を口にする。
「で、ジュリオと何を話したの?」
「え?」
「一度、席外して戻ってきてから、なんか難しい顔してたから」
「あ、ああ……」
ジュリオの説には明らかな欠陥がある。それでも話しておくべきか。もっとも、この世界の住人にとっては荒唐無稽過ぎる話でもある。ただ問題はあるが、辻褄は合う説だ。他の人間の意見も、聞いておいた方がいいかもしれない。
「分かった。帰ってから話すよ。それと魔導国の件で、お前に頼みたい事もあるしさ」
「頼みたい事って?」
「それも帰ってから」
二人はワルドの居城から出ると、転移魔法で一気に魔法学院へと帰っていった。
イザベラのシーン削除しました。というか冒頭いなかったのに、いきなり現れてますし。構成ミスです。