世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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二つのエルフの脅威

 

 

 

 ガリア王都にあるヴェルサルテイル宮殿。そこには二つの目立つ館があった。小さい方は、王女イザベラがいるプチ・トロワ。大きい方が本宮殿であるグラン・トロワ。ただし後者は現在、高い壁に囲まれており、空からでもないと壮麗な姿を見ることができない。

 そこには重臣や近衛兵、王族すら許可なく入れず、宮殿内がどうなっているのか知る者は国王ジョゼフ一世以外では皆無だ。例外的なのはシェフィールドくらいだった。

 この過剰なまでの警備体制は、建前上、国王襲撃の轍を二度と踏まないためとなってはいる。それでも、やりすぎだと誰もが思っていたが。

 

 そんな異様さを放つヴェルサルテイル宮殿のグラン・トロワ、その玉座の間に一人の少女が招かれていた。ガリア王国王女、イザベラであった。

 彼女がこの宮殿に入るのは、本当に久しぶりだ。前回来たのは、ガリア王襲撃事件以前。それ以来、一度もここに足を踏み入れていない。父の姿も見ていない。

 だが今、こうして宮殿内に招かれた。

 

 イザベラの視線の先には、父親の姿があった。玉座に座った姿が。それはまさしくジョゼフ一世そのもの。わずかな仕草すら違和感を持つことなどない。

 しかし彼女は知っている。本物の父から聞いている。目の前の存在が化物である事を。だいたい今のジョゼフは、髭も頭髪も剃り上げていた。目の前の存在は、そうではない。以前のガリア王のままだ。

 そしてガリア王を除けば、こうしている玉座の間は異様な気配に包まれていた。周囲は黒尽くめの鎧を着込んだ巨躯の騎士たちが囲んでおり、さらに王の脇にも黒尽くめのローブ姿の人物たちがいた。しかも皆、仮面を被り素顔が分からない。素肌すらわずかも見えない。

 唯一変わらないと言えるのが、ガリア王の後ろで控えているシェフィールドだ。涼しい顔でイザベラの方を見ていた。彼女がイザベラの父を裏切り、祖国を化物に売り渡した張本人だ。思わず歯ぎしりしてしまいそうになるガリア王国王女。すると脇から小声がかかる。地下水と呼んでいる護衛のメイドだ。

 

「姫殿下。そろそろご挨拶を」

「ええ……」

 

 冷静さを取り戻すイザベラ。王女らしい整然とした挨拶をする。

 

「父上。お招き感謝いたします」

「感謝?」

「え、ええ。お元気そうな父上のお顔を久々に拝見できましたから、その……娘として嬉しいのですわ」

「そうか」

 

 いかにも以前のジョゼフらしい、蛋白な反応。一瞬、本当の父親と面会している気分になりそうになるが、そうではないと自分に言い聞かせるイザベラ。落ち着いた態度を装う。

 

「この度のお招きは、どのような理由があるのでしょうか?」

「ああ。お前に頼みたいことがある。トリステイン魔法学院。そこに北花壇騎士団の団員を潜ませているだろう?」

「は……はい。シャルロットですね」

「そうだ。あいつだったな。シャルロットに命じろ。サイト・ヒラガという者がいる。そいつをここに連れてこいとな。客人として迎えると言っておけ」

「!」

 

 思わず目を見開いてしまうイザベラ。何故ここで、サイトの名前が出てくるのか。自分たちの情報が、化物たちに、魔導国に漏れているのではないかと。この命令は、自分を試すためなのかと。

 化物たちに囲まれた中で、心臓を鷲掴みにされたような心持ちとなる。すると側のメイドが口を開いた。

 

「姫殿下。私がシャルロット……七号へ指令を伝えておきます」

 

 地下水の声に、なんとか冷静さを繕おうとするイザベラ。無理やり平常心の表情を作り出した。

 

「た、頼むわ」

「はい」

 

 メイドは、王女の命に静かに頷く。

 その様子を見ていたシェフィールドが、ジョゼフの耳元に小声で話しかけていた。イザベラたちに嫌な予感が走る。

 やがて彼女たちの方を向くジョゼフ。

 

「サイト・ヒラガを呼び出すのは、地下水に任せる。イザベラ。お前はここに残れ」

「な、何故でしょう?」

「父と共にいるのが、そんなにいやか?」

「い、いえ……。そのような……」

「なら、問題ないな。イザベラに客間を用意してやれ」

 

 話しかけられた、仮面を被ったローブ姿の側近は、無言で頷く。そしてイザベラを、奥へと案内していった。

 ジョゼフはそれを見届けると、残ったメイド、地下水を下がらせた。ただちに行動に移れと言いつつ。

 

 二人が去った玉座の間。シェフィールドは、イザベラが出ていった扉へ探るような視線を向けていた。

 

「イザベラのあの様子……。何かを隠しているのは間違いないかと」

「ああ。ジョゼフの記憶にあるあの娘は、どこか父親にかまってもらいたげしていたからな」

 

 彼女の疑問に答えるジョゼフ(ドッペルゲンガー)。

 

「はい。今日は落ち着きのなさや、余所余所しい態度がいくつも見られました」

「あの娘を確保したが、我々で探るのか?」

「今回の作戦指揮はアルベド様が担っています。アルベド様に報告し、指示を仰ぎましょう」

「分かった」

 

 やがて二人も、奥へと下がっていった。

 

 

 

 

 エルフの国、ネフテスの首都アディール。その郊外に、ビダーシャルの別荘があった。そこに数名の人物が集まっていた。

 別荘の主、ビダーシャル。彼の姪であり、学者でもあるルクシャナ。彼女の婚約者で、騎士としてファーリスの称号を持つアリィー。虚無の担い手である本物のジョゼフ。さらにネフテスの最重要人物がいた。統領であるテュリュークだ。統領は、この国の元首というべき立場だった。老エルフは、渋そうな顔つきでこの場にいた。

 

 ジョゼフは当初、ビダーシャルを送ったらすぐに帰るつもりでいた。しかし彼に引き止められた上、ハルケギニアとまるで違う都市や文化に興味をそそられ、しばらく滞在する事にする。

 ただ人間の姿では外も歩けない。そこで新たな虚無の魔法を手にする。『フェイクカバー』、姿を変える上、属性までも変える魔法だ。おかげで精霊すら騙せる。ただこの魔法は姿を変えている間、魔力を消費し続けるため効率が悪い。短時間での使用に限られた。虚無の魔法を、次々と増やしていくジョゼフ。何にしても、宿敵の国を半ば旅行気分で楽しんでいる神官姿のガリア王だった。

 一方のテュリューク。ビダーシャルから極秘に、ジョゼフとの面会を依頼された時は、かなり困惑した。シャイターンとの会談など予想外のものだ。彼の意図が読めない。しかし、ビダーシャルの人柄を知っている統領は、結局それを了解する。

 

 そんな五人は、別荘の居間にいた。外は相変わらずの強い日差しが照りつけているが、この部屋はエルフの魔法で爽快な温度に保たれている。

 五人がここにいるのは、もちろん今後についての話をするためだ。

 ビダーシャルもジョゼフも平然としており、半ばリラックスしていた。対するルクシャナは、目の前のシャイターンへの興味でいっぱいだ。対して、彼女の婚約者、アリィーは眼前の宿敵へ厳しい視線を向けている。シャイターンと統領が同席しているのだ。一瞬の油断も許されない。そしてテュリューク。長い人生の中、多くの者たちを見てきたその目で、シャイターンであるジョゼフを見極めようとするが、今まであった誰にも当てはまらず、蜃気楼でも見るかのような気分になっていた。侮れないという気持ちと共に、心を引き締める。

 

 統領は、ビダーシャルへ厳しい視線を向けた。

 

「ビダーシャル。このアディールにシャイターンを連れ込むなぞ、君の議員生命に関わる。それどころか、君の同志にも悪影響が出るかもしれん。それに考えが及ばぬ君でもあるまい。連れて込んだ理由を聞かせてもらおう」

「分かりました。今、我が国に大きな脅威が迫っております」

「今更、シャイターンの解説をしようというのかね?」

「はい。我々はシャイターンを見過っていました」

「何じゃと?」

「シャイターンは真の脅威ではなく、真の脅威はその使い魔なのです。シャイターンは脅威を呼び込む、呼び水に過ぎません」

「……」

 

 怪訝そうに顔をしかめる老エルフ。

 

「シャイターンの使い魔……従者については、多少、記録があるが、それが脅威だったなどという話はないぞ」

「記録が不正確だったという事でしょう。あるいは長い年月が経ち、内容が変わってしまったか」

「そこまで言うなら、何か確証があるのじゃろうな」

「はい」

 

 するとここで、ジョゼフが口を挟む。

 

「待て、ビダーシャル。直に体験した方が分かりやすいだろう」

「どうするつもりだ?」

 

 すると顎でアリィーを指すジョゼフ。

 

「おい、お前。俺を捕まえてみろ」

 

 ただでさえシャイターンに敵意を持っている彼は、舐めた態度取られたと感じ怒りを顕にした。

 

「この蛮人が……。ファーリスである僕を試すつもりか?いいだろう。思い知るがいい。だが僕は蛮人とは違う。無駄な暴力は好まない。手加減してやろう。武器なしで捕まえてやる」

「いや、魔法も武器も使ってかまわん。全力で来い。俺は杖しか使わんがな」

「こ、このっ!後悔するなよ!」

「フッ……」

 

 それから二人は別荘の外、開けた場所に出ると、追いかけっこを開始した。ジョゼフはテレポート、転移魔法を使い逃げ回る。あるいはフェイクカバーで、様々なものになりすます。アリィーは、そんな彼に振り回されるだけ。彼の魔法も剣技も、ジョゼフには役立たずだった。

 その様子を眺めていたビダーシャルたち。勝負が見えた所で止めさせる。そして別荘へと戻って行った。

 

 露骨に悔しそうな表情のアリィー。憮然としたまま椅子に座り、黙り込んだ。そんな姿の婚約者にまるで気を使わないルクシャナは、ジョゼフへの好奇心をさらに強くする。学者としてだが。一方、テュリュークは目の当たりにしたシャイターンの力に、息を呑む。

 やがて落ち着いた所で、ビダーシャルが話題を戻した。

 

「ご覧頂いたように、我々では対応が難しい能力をシャイターンは持っています。ですが、かのシャイターンの使い魔は、彼をはるかに超える能力を持っています。私はその使い魔に、反射の魔法を破られました。方法は、剣を振り下ろしただけ。しかも、全力ではありませんでした」

「なっ!」

 

 驚きの声が一斉に上がる。ビダーシャルの魔法の腕前は誰もが知っていた。反射の魔法も、エルフの魔法では高位のものだ。それを破綻させたのが、魔法でもなんでもなくただの斬撃だけというのが信じられない。

 それから転移魔法を使うだの、戦艦を一瞬で木っ端微塵にしただの、死者を生き返らせただの、使い魔は異世界から来ただの、神話のエピソードのような話が続く。

 

 ネフテスの統領は、わずかに冷や汗を浮かべながらつぶやいた。

 

「シャイターンの真の脅威とは、強大な使い魔を従えている事か……。そのための、この度の会合なのじゃな」

「いえ、今回の会合の目的は、シャイターンの脅威を伝える事ではありません」

「ん?どういう意味じゃ?いい加減、勿体ぶるのもほどほどにしてくぬか?」

「申し訳ございません。正しく理解していただくために、回りくどい説明となってしまいました」

 

 わずかに頭を下げた後、ビダーシャルは真剣味を帯びた顔を向ける。

 

「最大の脅威がシャイターンの使い魔である事には代わりありませんが、問題なのはその使い魔を主が制御できない点なのです。すなわち、使い魔契約を自力で打破してしまうほど強大なのです」

「何じゃと?」

「ハルケギニアに出現したシャイターンは四人。その四人共、使い魔を召喚しましたが、二人の使い魔は主から離れました。残りの二人も自由意志で、主と共にいます。こちらも、いつまでいるかは分かりません」

「主から離れた使い魔は、何をしておるのじゃ?」

「ロバ・アル・カリイエを支配し、国を立てました。しかも、住人は皆殺しにされております」

「なっ!?」

 

 長い時を生きたテュリュークも、さすがに言葉がない。一瞬、目眩がするほどに。

 もっともビダーシャルの言った事は誤りだ。実際にはロバ・アル・カリイエ、アインズ・ウール・ゴウン魔導国には多くの人間が住んでいる。アリィーとルクシャナの調査不足により、誤解が発生してしまっていた。

 

 ネフテス議員の話は続く。

 

「その国の名はアインズ・ウール・ゴウン魔導国。建国者はシャイターンによって、異世界から召喚されたと目されています。その存在は異世界で都市国家の王だったようで、しかも都市国家ごと召喚されたようなのです」

「都市国家ごと……。ならば、その配下の者たちもおるのか」

「はい。超常の軍勢が、またたく間にロバ・アル・カリイエを支配してしまったのです。さらにハルケギニアでも暗躍しており、すでに二つの大国を支配下に置いています。しかも、その者の正体は人間やエルフ、いや、生物ですらありません。地獄の化物と呼ぶしかない存在です」

「……!」

 

 言葉を返せないネフテスの統領。いくつも並んだ、耳を疑うような話をなんとか咀嚼しようとした。

 だが、しばらく考えを巡らせている内に、疑念がふつふつと湧いてきた。あまりにも荒唐無稽すぎるのだ。

 この情報源は、ビダーシャルの近しい者と、宿敵であるシャイターンからだけ。確かにビダーシャルたちを信用してはいるが、それでも少なすぎる。そもそもシャイターンが、エルフに協力している理由が分からない。

 テュリュークは、鋭い眼光をジョゼフへと向けた。

 

「名をなんと言ったかな?」

「ジョゼフだ」

「ではジョゼフ殿。一つ聞いていいかな」

「なんだ?」

「シャイターンであるお主が、何故、エルフに手を貸す?」

「俺はアインズ・ウール・ゴウンに目を付けられててな。今のままでは、隠れ続けねばならん。共通の脅威のために、手を組んだ。何か不思議な所があるか?」

「……」

 

 老エルフは目を細める。

 このジョゼフという男、どうにも信用しがたい。真意が測れない。ビダーシャルはこのシャイターンに、騙されている、あるいは洗脳されているのではという考えすら浮かぶ。

 顔をビダーシャルに戻す。

 

「つまり君は、地獄の化物の国が東にあり、その脅威に対処せよというのじゃな?」

「はい」

「じゃが、東からはそのような報告は上がっておらんぞ?」

「なんらかの陰謀があり、そのため隠蔽工作を行っているのかもしれません」

「一国を丸ごと隠蔽?少々話に無理がなかろうか?」

「統領が、疑念を持たれるのも無理はありません。しかし、超常の存在が、この世界に出現しているのは確かなのです」

「……」

 

 あまりに真剣に訴えてくるビダーシャルに、テュリュークは折れる。

 

「分かった。ただ君たちだけの情報では、動けん。じゃから、こちらでも独自に調査しよう。東の連中、エスマーイルたちを介さずにな」

「お願いします。なるべく早い方がいいかと。想像以上に魔導国の手は長く、早いです。おそらくはこのネフテスにも、なんらかの手を打ってあるでしょう」

「……。そうか」

 

 統領は半信半疑という顔つきで、とりあえずは頷いた。地獄の化物が、世界中で暗躍しているなどという、演劇かのような話を鵜呑みにしろというのが無理というものだ。少なくもと、自ら確証を得るまでは本格的に動くわけにはいかない。統領たる者、国を左右することを安易には決断できない。

 そんな国のトップの態度に、焦りを浮かべるビダーシャルだった。

 

 しばらくしてこの会合は解散となる。アリィーはシャイターンであるジョゼフの捕縛を進言するが、それは自分たちだけでは不可能と先ほど証明されたため、テュリュークに却下される。そしてビダーシャルに一任された。

 一方、ルクシャナはなんとかジョゼフを、シャイターンを研究対象にしたかった。だがビダーシャルに止められる。彼は、ジョゼフがシャイターンであるという点を除いても、侮れない人物と認識している。好奇心だけで近づくのは、危険すぎだ。

 代わりに彼女には、エルフとシャイターンの歴史に関する調査を頼んだ。ジョゼフが持った、六千年前の出来事の疑念解明のために。もっとも、彼女をジョゼフに近づかせないための口実でもあるのだが。

 

 

 

 

 ビダーシャルたちがテュリュークと会談をしていた同じ頃。アディールから少しばかり離れた観光都市のとある別荘でも、エルフたちが集まっていた。こちらは鉄血団結党の会合である。彼らもまた脅威について話し合っていたが、対象はビダーシャルと全く違っていた。シャイターンについてだ。

 今回、彼らが集まったのはロマリアでの工作の結果を聞くためだった。

 軍人の少女、ファーティマが、報告を続けていた。

 

「以上がロマリアでの作戦の結果報告となります」

 

 一旦、話を終わらせる小柄なエルフ。

 全てを耳に収めた党首、エスマーイルは眉間にシワを寄せつつ、腕を組む。口を閉ざしたまま。他の面々も厳しい表情。言葉を発する者はいない。彼女から出てきた内容が、あまりに予想外のものだったからだ。

 

 工作部隊で生き残ったのは、目の前にいるファーティマだけ。ナージブをはじめとした腕も確かな軍人たちが、皆倒されたという。しかも、たった一人のシャイターンによって。さらにその力は圧倒的で、高位の魔法すら通じないと言う。

 ビダーシャルからの報告とはまるで違う内容。彼に騙されたと思う者も少なくなかった。

 やがてエスマーイルがようやく、言葉を発した。

 

「ご苦労だった。ファーティマ・ハッダード少校」

「はっ!」

「ナージブ上校たちを失ったのは残念だが、作戦自体は成功と見ていいだろう。それに貴重な情報も手に入った」

 

 すると別のエルフが、慌てたように話し出す。

 

「党首。シャイターンがそれほど力を持つとなると、話は変わってきますぞ」

「いや、変わらない。脅威であるのは初めから分かっていた事だ。ただ目的の達成が、容易ではなくなっただけだ」

「新たな手を打ちますか?」

「小細工する暇はない。むしろ侵攻を急いだ方がいい。それほどのシャイターンを有している上、教皇が襲われたというのに、未だ聖戦が発動されていない。我々と戦うには、不十分な点があるのだろう。連中の準備が終わる前に、攻め込むべきだ」

「なるほど……」

 

 納得顔の一同。厳しい顔つきのままエスマーイルは、イビン将軍の方を向いた。

 

「将軍」

「はい」

「軍の仕上げを急いでもらいたい。出兵はそう遠くない。私も議会工作を急ぐ。なんとしても、出兵決議を可決させる」

「分かりました」

 

 力強く礼を返すイビン。

 その後、しばらく話し合いが続いた後、この会合は解散となる。今回の会合により、ハルケギニア侵攻軍の仕上げのための実戦訓練、ロバ・アル・カリイエのマガーハ藩王国への侵攻日時が早まることとなった。

 

 

 

 

 トリステイン魔法学院の広場。放課後。ルイズは杖を構え、地面に突き立てた棒の先に結び付けられた一振りのロングソードへと向けていた。

 その剣はなかなかの見事な作りで、非常に高価な品物に見える。実は才人が使っていた剣の一振りだ。レジェンドクラスとまではいかないものの、それに近い。才人が使った剣の中では、三番目に長く使っていた剣である。当然、この世界の基準では、常軌を超えた性能を持つ。

 しかし今は、ルイズの魔法のターゲットだった。

 

 才人は警告するように、ルイズへ声をかけていた。

 

「いいか、絶対壊すなよ。代わりなんてないんだからな。寸止めだぞ。寸止め」

「分かってるわよ」

「だって、さっき少し欠けたじゃん」

「おかげで、コツは掴んだわ」

「壊しながらコツ掴むんじゃ……」

「うるさい!集中できないでしょ!」

「はい……」

 

 黙り込むガンダールヴ。

 

 今、彼らが何をしているかというと、ルイズがユグドラシルの者たちと戦えるようになる訓練である。

 才人がジョゼフと戦った時、ジョゼフのエクスプロージョンの魔法で、ユグドラシル製のナイフが一部破壊された。当然、そのナイフは、この世界基準なら異常な硬さを持っていた。

 この経験から、彼に一つのアイデアが過る。ユグドラシルには様々な無効化スキルがあるが、虚無の魔法は、そういうものを突破できるのではと。防御力を無視して、ダメージを与えられるではと。

 そこで、才人の手持ちの武器を使って練習しているという訳だ。もっとも、新たに入手などできない武器ばかり。エクスプロージョンの発動一歩手前で止める、という形で練習をしていた。

 

 しばらく訓練は続いたが、大分、日も傾いて来たので、今日は終了となった。

 寮へと戻っていく二人。ルイズが首を回しながらぼやいていた。

 

「サイトの世界のもの標的にすると、なんか神経が疲れる」

「魔力消費量、多いのか?」

「そうじゃなくって、頭使うっていうか、精神すり減るっていうか」

「特殊な素材で出来てるからかもな」

 

 ここで思い出したように、話題を変える才人。

 

「そう言えば、ジョゼフと会った時、フーケいたよな」

「いわたわね。でも脱走したなんて話、聞いてないのよね」

「釈放されたって事?」

「あれだけ物盗んで、釈放って事はないと思うけど……」

 

 フーケは以前、この学院に忍び込んだ盗賊で、彼らが捕まえた。しかしそれがまさか、アルビオンの大貴族お嬢様だったとは。それが盗賊を経て、今はジョゼフの仲間である。どんな数奇な人生だったのだろう。

 さらに話題を変える才人。

 

「後、ワルドっての、ルイズは知ってたみたいだったけど」

「あの人、私の婚約者だったの」

「婚約者いたのか!?」

「いたのよ」

「いた?いなくなった……っていうか婚約解消されちゃったのか?」

「何で、私がフラレたみたいになってんのよ!」

「ごめん……。そういう意味じゃ……」

 

 平謝りのガンダールヴ。ただルイズの方は気にしていない。

 

「父さまと母さまが、決めたの」

「いいのかよ。お前の気持ちとか聞かないで」

「う~ん……。正直、いいかなって。十年も会ってなかったし。子供の頃は、王子様みたいとか思ってけど、この前会ってみたら、なんか覇気なくなったっていうか……少し拍子抜けしちゃったわ」

「なんか、あったのかなぁ」

「いくつも失態を重ねたそうよ。しかもそのせいで、一気に降格。そんな有り様だから、さすがに父さまたちも、娘を任せられないって」

「ふ~ん……」

 

 ルイズがフリーと知って、不思議と才人の気持ちが軽くなる。妙な嬉しさも湧いてきた。

 そんな二人が校舎に入ろうとする時、声がかかった。

 

「ルイズ、才人。話がある」

 

 振り向いた先にいたのは、タバサ。それと見知らぬ屈強そうな男性が一人。才人は一応、アダプターをセットし、ルイズの前に出る。

 

「タバサ……。その人は?」

 

 タバサが紹介しようすると、男は前に出て突然膝をついた。唖然とする才人とルイズ。すると膝をついた男性が悲痛な声を上げていた。

 

「お二人の力を、お借りしたいのです!どうか、イザベラ姫殿下をお救いください!」

「え?」

 

 ますます困惑する虚無の主従だった。

 

 

 

 

 




虚無の魔法『フェイクカバー』はオリジナルです。虚無の幻影魔法『イリュージョン』の上位版のようなものです。
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