ヴェルサルテイル宮殿の本宮殿、グラン・トロワ。今は、アインズ・ウール・ゴウン魔導国のガリア支部とでも言えるような場所となっていた。たまにシェフィールドがいるが、彼女の任地はアルビオンなので、基本的には異形種しかいない。
だが今は違う。魔導国の客人として、二人の人間と、インテリジェンスナイフが招かれていた。
広めの食堂に、長いテーブルが置かれている。その両端にユグドラシルプレイヤーが座っていた。一方は、アインズ。その脇にはアルベドとコキュートスが控えていた。二人共、装備を解除していない。本来なら客人を迎えるにはふさわしくない装いだが、たっち・みーを想起させる圧倒的な力を持つ才人の前で、警戒を解く訳にはいかない。主に懇願し、許可をもらった。
反対側には、その才人たち。才人の両側に、ルイズと地下水が操る男が腰掛けていた。こちらも警戒感を解いていない。二人が同席しているのは、アインズが追加で招待したのもあるが、何よりも二人の側から離れる訳にはいかないからだ。才人も純白のフルプレートのまま。
双方の前には、お茶と茶菓子が置かれていた。ほどなくして、場が落ち着いた所で、アインズが最初に口を開いた。
「さ、遠慮なく口にしてくれ」
「わざわざ用意してもらって悪いけど、さっさと話を終わらせたい」
やはり警戒を解かない才人。目の前のものに毒が入っているとは思えないが、それでも用心に越したことはない。
せっかくのもてなしを拒否されたアインズだが、気にはしていなかった。
「まあ、こんな状況ではやむを得ないか。では、さっそく話を始めよう。まずは礼を言いたい」
「礼?」
眉をひそめる聖騎士。礼をされるような事をした覚えがない。そもそも、接触する機会自体がほとんどない。
そんな彼へ、魔導王の方は他愛のないかのように言う。
「ラ・ロシェールで、コキュートスたちを相手にした件だ」
「ここでやり合うって言うのか?」
思わず背中の大剣に手を伸ばす才人。礼とはそれかと。鎮まっていた闘志を湧き上がらせる。
だがアインズには、緊張感がまるでなかった。右手を上げ、軽い口調で返す。
「誤解しないでくれ。そういう意味ではない」
「ん?」
ゆっくりと剣から手を離す才人。一方のアインズは、会話を楽しむかのよう。
「こう言ってはなんだが、拙い戦いぶりだったろ?私の配下の者たちは」
「……そんな所も……あったかな」
「それを、あの戦いで学ぶことができたという話だ。彼ら自身が、成長するきっかけとなったと言う意味での礼だ。それに、トドメを刺さなかったのもな」
「……」
ふと才人は思い出した。先程のアルベドたちとの戦闘で、彼らは情報隠蔽をしっかりとやっていた。ただでさえスペックが高い相手を、さらに手強くしてしまったかもしれない。厄介事がまた増えたと、少し憂鬱な気分になる。
それにしても、いきなり感謝されるとは。オーバーロードという死を想像させる姿とは、大分違う印象だ。正直、意表を突かれた。才人はこのアインズというプレイヤーの人物像が、ジョゼフたちから聞いた時のものと少し変わってきていた。
アインズはそんな彼の気持ちに構わず、話を続けた。
「ただ、負けっぱなしというのも私は好きでないのでね。いつか何かの形で、勝負を挑みたい」
「……」
黙り込む才人。何かの形での勝負というのが気にはなった。
やがてアインズの気配が変わる。姿勢を正す魔導王。
「さて、順序が逆になってしまったが、まずは自己紹介と行こう。こちらの世界ではなく、以前の世界でのものだ。私はギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長だ。本来はモモンガと言う」
「俺は、ギルド、トリウムフス・ディ・マルティウス所属……えっとその……」
口を濁すガンダールヴ。まさしく黒歴史を明かさねばならないので、その後悔していたハンドルネームを。覚悟を決めて口にする。
「ゲ、ゲルハルト・ヘルツェンバイン……だ」
「な、何?」
「だ、だから、ゲルハルト・ヘルツェンバインだ!」
「……」
何やら、中二くさい響きがアインズの耳に入った。もし今のような頭蓋の顔でなかったら、失笑しそうな表情になっていただろう。最強のポーカーフェイスができるこの顔に、感謝する至高の御方。
微妙な気恥ずかしさの漂う空気を、アインズは無理やり変える。笑いが漏れそうだったので。
「あ~……。なんだ……どちらの名も聞いたことがないな」
「俺もモモンガってプレイヤーは知らない。アインズ・ウール・ゴウンは知ってるけど。有名だったし」
「まあ、私自身は、そこまで知られていなかったからな。だが君の強さは、ワールドチャンピオンに匹敵すると考えている。それなりに知られていても、不思議でないと思うのだが」
「……」
才人の今の力は、ガンダールヴによる底上げによるものだ。本来ならば目の前の三人より、レベルは下だ。だが、誤解させておいた方がいいに決まってる。
純白の聖騎士は、他愛のない事のように話し始めた。兜をかぶっていなかったら、こわばった顔が丸見えだったろう。
「えっと……やり始めたのが大分遅かったからさ。そのせいかも。公式大会も、最後の大会しか見てないし」
「そんなに遅かったのか。それでよく、そこまでの強さを手に入れたものだ」
「非公式の大会に出てたからかな」
「そっちの大会か。そちらの方には気を配ってなかった。というか、私自身はそこまでPvPにこだわっていなかったしな。非公式の方のランカーには、あまり詳しくない」
「ランカーって言っても、回数は多いし、一定回数でリセットされるし、参加者も入れ替わりが激しいから、コロコロ順位は変わってたよ」
実は才人自身は他の参加者に比べレベルが低めだったせいで、成績と呼べるようなものは残していない。ただ、レベルの足らなさを技術で補っていた面があった。今の剣捌きも、その時の経験のおかげだろう。
それから、当時のお互いについての会話は続く。ふと、何か懐かしい気分に包まれる二人。かつてのユグドラシルでの心持ちが蘇る。アインズは、気持ちがほぐれていくような感じがしていた。
「そうだ、私の事はアインズと呼んで構わん。君の方は確か……」
「才人!才人って呼んでくれ!」
「あの名を後悔しているのかな?仲間たちは君をどう呼んでいたのだ?」
「……。ゲル君……」
「ハハッ。いや、すまない。笑って悪かった」
「決めた時は、かっこいいって思ったんだよ」
「まあ、そんな事もあるな。しかし……君と話しているとかつてを思い出す。あの世界が、今でも続いているかのようだ」
「続いてる……。あ」
突然、脳裏に浮き上がるジュリオの説。才人は、思わず声を漏らしてしまう。そして神妙な面持ちで、話し始めた。
「続いてるかもしれねぇ」
「ん?どういう意味だ?」
「この世界が、ユグドラシルの影響を受けてるかもしれないって、考えてるヤツがいるんだよ」
「ここに来てない、ロマリアのプレイヤーか?」
「知ってんのか?あいつの事」
「情報収集には力を入れているよ。しかし……我々が能力を使えている理由はそれか……。その考え……案外真実かもしれんな」
「え?」
意外な言葉に、目を見開いてしまう才人。呆気にとられつつ。魔導王は手を組むと、かつての調査結果を口にした。
「実は、我が国で奇妙な報告が上がっている。フロストドラゴンが存在するというものだ」
「フ、フロストドラゴン!?なんでこの世界に……」
「この世界のドラゴンで確認されたものは、風、火、水属性のものだ。いずれも我々の世界のものとは違う。見つかったフロストドラゴンも、単にこの世界の氷属性のものであり、誤認しただけの可能性はある」
「なんだ」
ただの見間違いかと、胸をなでおろす。だが、アインズの態度は変わらない。
「しかし、この世界のものとは考えられないモンスターも確認した」
「え……」
「ゴブリンだ。遭遇回数はほんのわずかだが、現地の者たちは今まで見たこともない亜人だと言っていた。しかも、被害すら発生している」
「ゴブリンって……。あのゴブリン?」
「そうだ。中レベルくらいまで相手にするあのゴブリンだ。報告にあるのは、低レベルのものだがな」
「……」
腕を組み、うつむく聖騎士。
始祖の円鏡の映像と、自分たちの能力の辻褄を合わせるために出てきた説に、まさか証拠らしきものが出てくるとは。
エルフの軍勢に、地殻変動。そしてこうして対面している、アインズ・ウール・ゴウン魔導王。さらにこの世界のユグドラシル化。難題だらけで、頭が痛くなってきた。トラブルが連発した時の、かつての仕事場の感覚を思い出す。混乱して、何から手を付けていいか分からない状態を。
黙り込んだままの才人を他所に、一つ間を挟む魔導王。おもむろに視線を上げた。考えをまとめるかのように。
「だがそうなると……。世界征服事業に、本腰を入れねばならないか」
「はぁ?世界征服!?」
才人は、呆れたような声を上げてしまう。
子供の頃は、よく見た子供向けコンテンツで聞いた言葉。成長と同時に、ただのネタとなってしまう言葉だ。実際、兜の中の彼は、少々、小馬鹿にしたように顔つきとなっていた。
しかし、当のアインズは大真面目。
「冗談やネタではないぞ。本気だ」
「なんで世界征服なんて、やるんだよ」
「考えてもみろ。この世界が、かつての我々の世界と同じになるのだ。我々に匹敵、あるいはそれ以上の強者が現れる可能性がある。その強者、脅威に対処せねばならん」
「それは……そうかもしれないけど……」
「だが現時点では、我々の力は圧倒的。この力を以って世界を統べる。強力なモンスターやレアアイテムを全て、我々が管理する。そうやって強者の発生を防ぐ」
「……」
「逆に、現在、弱者であるこの世界の住人には、我々の世界の強力なモンスターへの対抗手段がない。それに我々が対処する。Win-Winという訳だ」
「……」
何も言い返せない才人。
さすがは魔導王と呼ばれる事だけはあるのか。さっきまで同じプレイヤーという感覚があったが、今はまさしく王様だ。ものの見方が違う。誰かの上になど立ったことない才人は、地球でも、ユグドラシルでも、ハルケギニアでも、俯瞰で考えるような発想はしてこなかった。
ふと、このアインズことモモンガというプレイヤーは、地球では会社経営でもしていたのだろうか、などと思ってしまう。
魔導王はゆっくりと右手を差し出し、真っ直ぐに才人の方を見た。
「そこでだ。我々と手を組まないか?サイト」
「え?俺とあんたたちが?」
「そうだ。それならばより効率的に、世界征服が進む。それにジョゼフたちと手を組んでも、世界の変化には対処できないだろ?連中は、単に魔導国をなんとかしただけだからな」
「そっか、イザベラの記憶覗いたんだよな。あのおっさんが、俺に誘いかけてんの知ってんのか」
「そして君が、ジョゼフの提案に消極的なのもな」
「……」
「それにだ。君は確かに強いが、その力を持ってしてもトリステイン魔法学院は襲われた。あの程度のメイジたちに。個人の力など、所詮はそんなものだ。味方は、多ければ多いほどいい」
「……」
才人は口を開けない。
ただでさえ問題山積だというのに、またも新たなトラブル発生だ。頭の中が沸騰しそうになる。だいたい世界征服というものが、実感できない。創作物の中なら、いくらでも想像つくが。現実となると話が違う。
身を固めるように黙ったままの聖騎士。そんな彼に、魔導王は一押しを加えるように言葉を発した。
「もし断るなら、君は我々にとって最大の脅威となる。潰さねばならなくなるが」
「脅しかよ」
「気分を悪くしたなら、すまない。だが、事実だ」
「……」
確かにアインズの言う通りだ。この世界で魔導国とまともに戦えるのは、才人とジュリオくらいだ。虚無の担い手ですら、彼らの支援なしには戦えない。エルフたちもビダーシャルの力から想像すると、手強いとは思えない。
またも腕を組んで考え込んでしまうガンダールヴ。元々ただのライン工、そしてカンストに届かなかったパラディン、ギルド長でもなんでもない一ギルドメンバー。その程度の彼に、世界を統べるだのなんだのの話は手に余り過ぎる。
すると脇から突然、叫びのような声が上がった。ルイズだった。
「じょ、冗談じゃないわ!あ、あんたたちみたいな化物が支配者!?そんな地獄みたいな世界、誰が歓迎するって言うのよ!」
「小娘。口を慎みなさい」
アルベドがから、殺意の籠もった言葉が放たれた。矢のように。その瞬間、ルイズは、体が凍りついたかのように動きを止めてしまう。
異世界人。才人の側にいてそれが何なのか分かっていたつもりだったが、今、はっきりと理解した。自分たちとは根本から違う存在だと。
この存在が、自分たちを支配する。それがどのような状況か、想像もつかない。少なくとも、慣れ親しんだ世界が様変わりするに違いない、という確信だけはあった。
魔導王は軽く手を上げ、配下を制止する。
「アルベド。彼女も一応、客人だ。多少の無礼は許してやれ」
「……分かりました。アインズ様」
静かに頭を下げる守護者統括。
「ルイズ……とか言ったか。お前がそう思うのも無理はない。なんせこの姿だからな。ロバ・アル・カリイエでも、似たような感想を持った者は大勢いた。しかし、今ではほとんどいない。そうだな。一度、我が国に招待しよう。そうすれば、我々がどのような統治をするか理解できるだろう」
「……」
どう答えていいか、戸惑うルイズ。化物の国に招待など、直ちに断りたい。
一方、才人は黙ってアインズたちを見ていた。見極めるように。そして視線をアルベドへと向け、おもむろに口を開く。
「アインズ。聞きたいんだけどさ。彼女って、NPCか?」
「……そうだ。他の配下のものもな」
「そうは見えないんだけど。ユグドラシルと、全然違うし」
「ああ、それか。私もこちらの世界に来て驚いたがね。彼らは皆、意思を持っている。設定や創造主の影響を大きく受けているがね」
ジュリオの予想通りらしい。ただ才人には、まだまだ気になる事があった。
NPCの設定は、創造主によって様々。性格まで細かく決めているものから、スペックに注力しているもの。デザインばかりに力を入れ、最低限しかないものもいる。設定だけでは意思を持つのは無理だ。足らない部分を、創造主の性格が埋めているのだろう。だが穴だらけの設定でも、意思に関わると考えられるもので絶対に外せない項目があった。
「カルマ値はどう影響してる?」
「……。私は見た通りオーバーロードだ。カルマ値は最低だよ。だからと言って、別に弑逆心が強いという訳でもない。君はどうだ?」
「俺もそうだよ。パラディンだからカルマ値は最高レベル。だけど、聖人のようかって言うと、全然そうじゃない」
「カルマ値など、その程度なのだろう」
「NPCの方は?」
「……。影響がないとは言えないな」
「……」
口を噤む聖騎士。
アインズ・ウール・ゴウンは異形種のギルド。ついこの前も、悪魔のNPCに遭遇したばかりだ。平均カルマ値は、かなり低いのではないだろうか。ジュリオの予想通りなら、彼らはアインズには絶対服従だろう。しかしアインズが、何かの理由でいなくなったらどうなるのか。最悪の想像すらできてしまう。
さらに才人は、質問を加えた。
「後さ、イザベラをなんで捕まえてんだ?記憶は読んだんだろ?もう用ないじゃん」
「ジョゼフへのカードとなる可能性がある。実の娘だからな」
「あんた……」
「確かに、姑息なやり方だが、私は大切な者たちを守るために手段は選ばない」
するとここで地下水が、話に入ってきた。
「魔導王陛下。ジョゼフ一世陛下は、家族に愛着がありません。人質の意味はないかと。イザベラ様を、開放していただけないでしょうか?」
「以前のジョゼフは、そうだったようだな。だが、ここから追い出されてからは、少々様子が変わったように感じる。イザベラの記憶を読んだ限りではな」
「……」
アインズと同じ感想を、地下水も抱いていた。オレルアン邸での会合の時に、二人の間を縮めようとしたのが裏目に出たようだ。
区切りがつくと、魔導王はいかにも支配者らしい悠然とした態度を見せる。聖騎士へと語りかけた。
「さて。どうかな、サイト。私の提案を受けてくれないか?」
「ちょっと待ってくれ。頭ん中がいっぱい、いっぱいだ」
「まあ、それは分からんでも……ん?」
急に言葉を切るアインズ。突然、メッセージが入ってきた。
「すまない。メッセージだ。出てもかまわないかね?」
「いいぜ」
さっそくアインズは、メッセージに出る。
「エントマか。どうした?」
『至急、帰還していただきたいとの、デミウルゴス様から要請です』
「何があった?」
『デザードエルフ共が、魔導国へ侵攻してきました』
「な、何!?」
思わず声を上げてしまう至高の御方。一同は、一斉に怪訝そうな表情に変わる。何事かと。
「いつもの偵察隊ではないのか?」
『いえ、空中戦艦を伴った軍勢です。敵を撃退はしましたが、ムルヤール村をはじめ被害も出ています』
「な……!?」
『デミウルゴス様は、急ぎ対応を決めたいとお考えです』
「……分かった」
メッセージを切るアインズ。一つため息をつくと、おもむろにサイトたちへ顔を向けた。
「悪いが、魔導国でトラブルだ。ただちに戻らねばならん。ここで失礼する」
「何があったんだよ?」
「……。いずれ話そう。次の機会にでもな。君もその時までに、私への返答を考えてもらいたい。では、再会を楽しみにしている」
「あ……ああ……」
才人は、とりあえず頷く。少なくとも、この場で返事ができる話ではない。ジュリオたちとも相談もしたい。会談が打ち切られるのは、渡りに船だ。
アインズは立ち上がると、配下に命令を下す。
「アルベド、コキュートス。撤収だ。作戦参加者を全員を、ナザリックに帰還させよ。詳細については、帰還した後に話す」
「はい」
「ハッ!」
流れるように動き出す、魔導国の面々。すぐに食堂から出ていった。
残された才人たち。魂が抜けたかのように、しばらく呆然としていた。ルイズが、何気なく口を開く。心ここにあらずと言った様子で。
「なんか……いろいろあったわね」
「ああ……。ありすぎた」
そんな二人に、苦渋の声が届いた。地下水だ。
「しかし、イザベラ様を助け出せませんでした……」
「とりあえずは、彼女は無事だと思う。アインズはたぶん……、イザベラに酷いマネはしないだろうし。お客様待遇だと思うぜ」
「あのような恐ろしげな化物を、信じるのですか?」
「まあな。俺も同じ世界出身だからさ。なんとなく分かる」
確かにアインズの見た目は化物だが、中身は人間だ。あの姿はアバター。それに話した感じ、無駄に痛めつけるような事はしないように思えた。一方で、彼女を人質に平然と取った。やる時はやる人物でもあるとも思った。
やがてガンダールヴは立ち上がる。
「とりあえず、帰ろう。転移阻害は消えてるだろうし。全部、一旦、帰ってからだ」
「うん」
大きくうなずくルイズ。
イザベラを助けられなかった上、世界征服なんていうとんでもない話まで舞い込んだ。
そんな状況なのに、どういう訳かルイズはそれほど動揺していない。何気なく、純白の鎧に身を包んだ聖騎士を見上げる。
あんな化物たちを前にして、平然としていた。もちろん、同じ世界の出身というのはあるだろう。そもそも強さも桁外れだ。だが今、それらが憧れにも似たものとなって胸に刻み込まれた感じがする。
私の騎士様などという、幼い頃読んだ童話のような響きが、頭の中に浮かんでいた。