世界征服なんて面白いかもしれないな   作:ふぉふぉ殿

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はじめてのハルケギニア

 

 

 

 

 サハラ西部。ネフテス国西端の街、商業都市エウメネス。エルフの街でありながら人間も住んでいる。半ば治外法権的な街であった。

 そこを出てからしばらく経つ。砂の海かのような風景はもはやなく、だんだんと荒野と言った雰囲気になっていた。

 そこを進む大型の馬車が一台。ゼバス一行である。

 ハルケギニアとエルフの調査の目的のため、行商人というカバーで旅を続けていた。馬車にはそのための商品が積んである。

 ちなみにエウメネス付近までは手ぶらのままフライの魔法で来ており、その後ゲートの魔法で馬車を含め荷物一式を持ってきた。砂漠を馬やラクダなどで旅するなど時間の無駄である上、シャルティアがそんな砂だけの風景など見たくもないと言いだしたからだった。

 

 ハルケギニアに入るまで後わずか。

 パンドラズ・アクター、ソリュシャンのチームとはすでに別れている。ここにいるのはセバス、シャルティア、ユリ、それと一応サポートのヴァンパイア・ブライドだけだ。

 

 ふとシャルティアが窓を開け、御者をしているセバスに話しかけてきた。

 

「一つ聞きたいんでありんすが……」

「何でしょう?シャルティア様」

「何故、パンドラズ・アクターは盗賊を全員殺させなかったんでありんす?」

 

 実はセバス一行は、エウメネスに着く前にエルフの盗賊に襲われた。正確には襲わせた。あえて危険そうな道を進み。

 シャルティアが彼らの相手をしたが、当然、勝負にならなかった。ただエルフの魔法を調べるのも任務の一つだったので、彼らの魔法を知るという意味では成果があった。

 そして最後のボスと側近らしき人物を始末しようとした時、パンドラズ・アクターが止めたのである。

 

 セバスは彼女の問に答える。

 

「あれですか。デザートエルフの国の中枢に近づくためだそうです」

「どういう意味でありんす?」

「盗賊のボスと入れ替わり、デザートエルフの治安組織にわざと捕まります。捕縛後、さらに治安組織内部の者と入れ替わる。次は上の機関の者と入れ替わる。と言った具合に、政治の中心に近づいていくとのことだそうです。パンドラズ・アクター様なら、記憶も読み取れますし。ソリュシャンも姿だけなら真似できるでしょうから」

 

 シャルティアの対面で聞いていたユリが、感嘆の声を漏らした。

 

「さすがアインズ様が直に創造されたお方。見事なお考えです」

「もっとも、あまり重要な人物と入れ替わってしまっては支障が出るでしょうから、限度はあるでしょうが」

 

 話を聞いていたシャルティアは、分かったような分かっていないような返事を返す。

 

「ふ~ん」

「シャルティア様。もうまもなくハルケギニアです」

 

 興味なさそうに窓の外を見る吸血鬼。

 

 馬車の行先に林が見え始めていた。一部が道のように切り開かれた部分が見える。これはハルケギニアの東の国、ゲルマニアに密入国するための道だ。

 

 通常サハラからの商人は、帝政ゲルマニアの南、ガリア王国領東端の都市、アーハンブラを経由する。しかしそこは対エルフ防衛拠点でもあるので、東から入ってくるものには厳しい審査が行われる。

 当然、密輸業者はそこを通るわけにはいかない。なので抜け道がいくつかあった。特にゲルマニア方面には。新興国であるこの国は、まだまだ国家の統制の行き届いてない部分があったからだ。その道をセバス達は事前に調べていたのだった。

 

 しばらく秘密の道をセバス一行は、ゲルマニアのアーレシュタインに入る。ハルケギニアの東端では大きめの街だ。

 その中の商館に訪れていた。ここはゲルマニアの有名な商業組合に所属しているそうだ。事前にエウメネスで情報を集めていたおかげだ。

 

 ロバ・アル・カリイエから持ってきた特産品の取引に入る。品定めをしていた、商館長は驚きの声を漏らしていた。

 

「これほどの品をどこから?」

「実は、以前はエウメネスとロバ・アル・カリイエの間を、行き交っていたのですよ」

「それは……ずいぶんと危ない橋を渡り続けましたね」

「ええ。ですが、さすがに歳です。今ではエウメネスに店を構え、東方を行き交う行商人との仲立ちを始めた所です。この商品はその手始めという訳です。ですからお値段の方も、考えたいと思います」

 

 そう言って値段を提示。驚く商館長。

 

「そうは言われても、いくらなんでもこの額は……。よろしいのですか?」

「これからのお付き合いもある事ですから」

「なるほど。あなた方を我らが商業組合は歓迎します」

「それと、いくつか教えていただきたい事があるのです。ハルケギニア本土での商いには、不慣れなものですから」

「知っている事なら、お答えしましょう」

 

 やがてセバスはハルケギニアにおける、いくつかの情報を手に入れた。

 その中の一つに魔法に関するものがあった。ロバ・アル・カリイのマジックアイテムを鑑定するなら、どこが最適かなどと自然な話に混ぜながら。そこに出てきた名前は、『トリステイン王立魔法研究』、通称アカデミーだった。

 

 

 

 

 ゲルマニア領内から、ガリア領内へと入るセバス一行。

 ゲルマニアは各領主の自主性が強いため、領国間では関が設けられており、商品を運ぶには少々不便だった。一方のガリアは王権が行き届いているため、そこまで厳しくはなかった。そこでガリア領内へと向かったのである。

 先を急ぎたかったのもあるが、様々な国々を訪れ情報を集めるという目的もあった。

 ゲルマニアで一応商業組合に入会したため、関所ではトラブルなく抜けられる。

 

 しばらく林の中の街道を進む一行。窓が開くと、馬車の中からうんざりした声が漏れてきた。

 

「セバス。もうこの景色は見飽きんした。サハラみたいに飛んでいきなんしょ」

「シャルティア様。そうはまいりません。この辺りは人家に乏しいとは言え、砂漠のように人目が全くない訳でもありません」

「見つかったら、目撃者を始末してしまえばいいんでありんしょ」

「今回の任務はあくまで情報収集です。下手な騒ぎを起こして、任務に支障が出ては、アインズ様の意に反する事になります」

「うう……。はぁ……分かりんした。なるべく急いでくれなんし」

 

 力なく窓を閉めるシャルティア。アインズの名前を出されては、黙るしかない。

 だが彼女がこう言うもの無理はない。ハルケギニアの東の端から、西の端の国へ行こうとしているのだから。サハラは広かったが、ハルケギニアに入って以降よりずっと短い期間で通り抜けた。

 それがただの馬の馬車でゆっくり進む羽目になっているのである。

 ソウルイーターにでも引かせれば、はるかにマシだったに違いない。もっともそれでは、騒ぎどころでは済まなかったろうが。

 

 

 

 

 しばらく街道を進んでいると、小さな宿場町にたどり着いた。そこで馬車を止める。

 

「しばらくお待ちを。話を聞いてまいります。ユリ」

「はい」

 

 セバスと共にユリが、小さな商店へと向かった。旅路の買い出し間の雑談という体で、情報収集を行っていたのだった。

 こんな小さな町でやる事もないかもしれないが、右も左も分からぬ土地なので、片っ端から手を付けているわけだ。

 

 シャルティアは配下のヴァンパイア・ブライド二人に挟まれ、あくびをしていた。

 戦闘力と転移魔法を買われチームに採用されたが、その戦闘はサハラでの盗賊襲撃だけ、転移魔法も任務終了時か撤退時くらいしか出番がない。退屈で仕方がなかった。

 

 ふと何気なく、嘆いている声が彼女の耳に届く。窓のカーテンを少し開けると、酒場から追い出される老夫婦が見えた。

 その老人たちの救いを求める言葉に"ミノタウロス"というワードがあった。

 吸血鬼に口元が緩む。

 

 すっと立ち上がり、ノブに手をかける。ヴァンパイア・ブライドが慌てて声を出す。

 

「シャルティア様。どちらへ?」

「散歩でありんす」

「ですが、セバス様より待つようにと……」

「すぐ戻ってきんす」

 

 そう言って、外に出る直前に不可視化の魔法を発動させた。他の者からは勝手に馬車のドアが空き、すぐに閉まったように見えただろう。もっとも、それを目にした人間は一人もいなかったが。

 

 老夫婦は肩を落としながら、村への細い道を歩いていた。

 

「待ちなんし」

 

 不意に脇の森から声がした。声につられ振り向く二人。その視線の先には紫調のゴスロリファッション身を包んだ少女がいた。赤い双眸と口元に牙のある少女が。

 

「き、吸血……」

「チャームスピーシーズ」

 

 『チャームスピーシーズ』は精神操作系の魔法で、術者を親友と認識させる魔法だ。

 急に、表情が緩みだす老夫婦。シャルティアへと笑顔を向ける。

 

「ああ、あんたかい」

「ええ。何か困ってるようね」

「そうなんだ……。村から少し離れたところに、ミノタウロスが住み着いたらしくってな。それを何人もの狩人見かけてんるんだよ。近くの村でも、子供が何人か行方知れずになってる。前にもミノタウロスが住み着いて、とんでもない事になったから……。村長としては、早く手を打たないといけないんだが……。それで退治してくれそうな人を、探してるんだ。けど相手がミノタウルスじゃ、誰も引き受けちゃくれない。領主様にも……」

 

 長い村長の話を、ぶった斬るように言葉を割り込ませるシャルティア。村の事情など知ったことではないので。

 

「そのミノタウロスとやらは、どの程度強いの?」

「そりゃ、オークや吸血鬼なんかよりもよっぽど!」

「そう」

 

 その後も二人は言葉を連ね、盛んに強い強いと言っている。

 

 だがシャルティアには、そもそもハルケギニアでの強さの基準が分からないので、彼らの言う強さがどの程度か見当もつかなかった。

 もっとも人間どもが恐ろしいと口を揃えるエルフも、彼女にとっては大したことがなかったので、たかが知れているだろうとは思っていたが。

 ともかく殴ってみれば分かるという、至高の女教師ような答を導きだした。それに退屈しのぎという面もあったので、戦うことは端から決まっていた。

 

「それじゃ、私がなんとかしてあげるわ」

「え!?あんたが?そりゃ無理だよ!」

「とっても強い人を知ってるから、その人に任せれば大丈夫よ。安心して」

「そ、そうかい……。あんたがそう言うなら」

 

 やがて、村長夫婦にここで待つように言うと、馬車へと戻った。

 馬車ではセバスが少々困ったような声を漏らす。

 

「シャルティア様。待つように言ったはずですが」

「情報収集に行ってたでありんす」

「それは私とユリがやりますので、シャルティア様は……」

 

 すると説教を黙らせるためか、吸血鬼は言葉を挟む。

 

「おもしろいモンスターの情報を、手に入れたでありんすよ」

「モンスター?」

「ミノタウロスでありんす。この辺りじゃ、強いモンスターらしいでありんすから調べるのも悪くないとは思いなんし?」

「……。分かりました。行ってみましょう」

 

 セバスは軽くため息をつくと、やがて馬車を宿屋に一時預ける。見張りとして、ヴァンパイア・ブライドは残していった。

 そして、村長夫婦の案内の元、ミノタウロスの住処に訪れる。二人はその後、慌てて村へと帰っていった。

 

 老夫婦は大雑把な居場所しか知らなかったのだが、周辺を探すとセバスが大きめな牛のような足跡に気づく。それを辿った先には洞窟があった。

 そしてユリが洞窟付近で腰を落とし、何かを拾い上げた。石ころと間違えかねない白いものだ。

 

「これは……人間の子供の骨ですね」

 

 ミノタウロスの食事跡。食いカス。シャルティアは口端を緩めた。どうやらここが住処らしい。

 

「留守でなければ、いいんでありんすが。さて、行きなんしょ」

 

 シャルティアを先頭に、セバス、ユリがついて行く。

 

 だんだんと光の乏しくなる洞窟を進みながら、ユリはチラチラと左右に視線を送っている。普通なら気づかないようなわずかな白いかけらを、いくつも目にしていた。

 ポツリとつぶやく眼鏡の戦闘メイド。

 

「人間の子供を主食としてるようですね」

「大人のものは見かけませんね」

 

 セバスの方も洞窟内を歩きながら観察していた。話を先頭で耳にしていたシャルティアは、期待値を下げる。

 

「つまり弱いものばかり狙って、こそこそ隠れ住んでるって事でありんすか。あまり楽しめないかもしれんせん」

 

 すると奥の方から気配がした。足を止める一同。やがて管楽器の低音のような音が届いた。

 

「何者かな?ここ私の住まいでね。無断で入らないでもらいたい」

 

 現れたのは巨体に牛の頭。手には大斧。まさしくミノタウロス。声自体はなんとも奇妙な響きであったが、言葉遣い自体は丁寧だった。

 シャルティアは少しばかり表情を緩めると尋ねた。

 

「お前はミノタウロスでありんすか?」

「違……、いや、この姿では否定できないか。実は元人間だ。名をラルカスという。こんな姿でも一応貴族なのだよ」

「元人間?どういう意味でありんす?」

 

 怪訝な表情が並ぶ。

 

「ここにいたミノタウロスは私が退治した。だがその生命力に惹かれ、その身を自分自身に移植したのさ。結果、強大な力を手に入れた代償として、こんな姿になってしまったという訳だ」

「強大なんでありんすか」

 

 わずかに口元を緩める吸血鬼。強さ以外の相手の都合など興味がないという態度で。

 下がっていた期待値が上がる。

 

 対するラルカスは、違和感を覚えた。ミノタウロスは、かなり上位の脅威となる亜人である。それを恐れる様子が全くない。メイジにも戦士にも見ない、良家の一行としか思えない者達が。

 この身を手に入れて、一度も感じなかった感覚が浮かんでくる。悪寒が。

 ラルカスは落ち着いた態度を崩さず、尋ねた。

 

「次は君たちの番だと思うが。自己紹介してもらいたい」

「私たちは、至高の御方に仕える者でありんす。かの方より、この地を調査せよとの命を受けんした。それで面白そうなモンスターがいると聞いて来んした。楽しめるのを期待してやす」

 

 そう言って、わずかに口を開いた。そこに牙が光っていた。

 

「吸血鬼……か」

「そうでありんす。残酷で、冷酷で、非道で、そして可憐な吸血鬼でありんす」

「バカな……。どうやってここまで来た?」

「は?歩いてに決まっていんしょ。本当は飛んで来たいんでありんすが、口うるさいのがいんして、飛ぶのを禁止されてるんでありんすよ」

「……?」

 

 ラルカスには、何を言われているのか分からない。

 ハルケギニアの吸血鬼は太陽に弱い。日中に出歩くなどありえない。一応精霊の力、ハルケギニアでは先住魔法と呼ばれる魔法を使えるが、亜人の中では弱い方だ。空飛ぶ魔法など使えない。

 その時ふと気づいた。後ろに控える執事とメイドも異質だと。この光がほとんど届かない洞窟の奥で、まっすぐ自分を見据えている。この暗所で目が見えていた。魔法を使った形跡もないのに。

 

 この身になってから、初めて冷や汗というものが流れていた。

 

「お前たち何者だ……?」

「おつむが足りないでありんすか?さっき言ったでありんしょうに。はぁ……。もう面倒でありんす。頭を垂れ、我等が下僕となるか、ここで死ぬか選びなんし」

「な……!?」

 

 言っている事がめちゃくちゃだ。

 急に怒りが湧いてくる。見下されたからか、それともミノタウロスの本能からか。

 

「ふざけるな!ここから今すぐ出ていくなら先程の言葉、不問にしよう。だが出ていかぬなら、その身が原型を留めぬと思え!」

 

 そう言って手にした大斧をシャルティア達へと向けた。

 だが向けられた方から返されたのは、嬉しそうな笑顔だった。

 

「それはそれは、楽しみでありんす」

 

 

 

 

 




 セバスはパンドラズ・アクターに敬称つけるのかちょっと迷ったんですが、つけてしまいました。
 後、暗視については、ある程度以上のレベルのナザリックの面々はできるんじゃないかなと勝手に思っています。
 能力やスキル、アイテム等かは置いといて。
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