IS 俺とあいつのインフィニット・ストラトス 作:yosshy3304
「あんな裏を知らない小娘に、何が出来ると言うんだっ!!」
「待てっ、円夏っ!!」
中庭のちょうど中間辺り。寮の方へと走って行く円夏に向かって、静止の声を掛けるも、円夏がそれを無視する。伸ばした手が力無く落ちた。
「はぁ、如何すればよかったんだ?」
千冬は溜息を吐きだした。この頃独り言が多くなっている気がする。妹の悩みすら解決できない駄目な姉。そんなフレーズが浮かんで、更に落ち込んだ。
「そこの生徒、出てこい。」
だが、落ち込んでばかりもいられない。この様子を見ていた生徒が居るのだから。千冬に声を掛けられ、傍の木の裏から一夏が出て来る。
「…なぁ、円夏とラウラの事なんだけど。」
「…少なくとも今は無理だな。こちらの話を聞いてはくれないから。」
一夏は一度は不味いと顔を顰めたものの、すぐに真面目な顔になって問いかけてくる。そういえば一夏はラウラの境遇を知らないし、無人機のコアにMクローンを使われている事を知らないと言う事に今更ながらに気付いた千冬。
一夏が何を聞きたいのか判った千冬は、流石にいう訳には行かず、ただ力付くで誤魔化す。それなりの雰囲気が手伝ってか、何を勘違いしたか知らないが、一夏はそうかとだけ頷いて、寮の部屋へと歩き出した。
「はぁ、貴様等も出てこい。」
溜息を一つ。一夏にも誤魔化す様になってしまった自分に自己嫌悪しつつ、まだ見ている人間に声を掛けた。
「…ばれたか。」
「ばれたか…ごふっ!!」
一人は植え込みの中から。貴輝が這い出してきて、その言い方を真似てふざけた暁美が木の上から降りてくる。ハートが確実についていた。直後貴輝に蹴りを入れられていた。
「お前もだ、束。」
「ばれたか…うわっ!!」
ついでにもう一人。悪友と言うか親友と言えるか、束の気配がある事に気付いた千冬が再度呼びかける。
「何処から出て来るんだお前はっ!!」
「ちょっ、ちーちゃん、暗いよ怖いよ出してー!!」
ただ暁美と同じくふざけながら、しかも千冬の立っていた地面が盛り上がり、其処からヒョコッと顔を出すという、天災の名にふさわしい登場の仕方をしてくれたが。
思わず上から蹴り押し込むようにして蓋をした千冬は悪くはないと思う。いきなりの事で灯りが無いのか、泣き叫ぶ束を無視をして貴輝にアドバイスを貰おうと声を掛けた。暁美ではないのは、こういったフザケはもうたくさんだと言う意思表示であろう。
「如何したらいいと思う?」
「思いっきりぶつかり合うしかないんじゃね?」
「学年別トーナメントだね。」
貴輝の答えは、何とも男らしいものだった。それはやるな、お前こそなと言うもの。殴り合えという訳ではないが、元兵器で競い合う訳だから、それよりも危ない。安易に採れる事ではないが、暁美がもう少ししたら始まるイベントの名前を上げた。
確かに公式に殴り合える上、一年の試合はそれ程期待されていない。多少の泥臭い場面は大丈夫である。
だがそれまで千冬の胃が持つか心配になってしまう程、事態は切迫していた。出来るだけ二人の間に入れるよう配慮するしかないのだ。結局は。
その結論に至った千冬の足元で、何か音がする。
『よし、ならこのモグラ君一号で地上まで穴を掘ってやる。』
どうやら束が何か作っていた音のようだ。名前からして穴掘り機械であろう。
『ただ失敗したら、何かにぶつかった瞬間ドカンだけどね。』
「ちょっとマテェェェェェっ!!」
追加で齎せられた情報に突っ込みを入れる羽目になったが。千冬は押し込んだ四角い形に切り取られた芝生を捲り、束に一撃を入れた。
「よう、一夏。」
「おう、弾。」
寮に帰ってきた一夏が、寮の広間。ソファーと自動販売機の置かれている場所で缶ジュースを飲んでいる弾を見つけた。珍しいとも思いながら、如何したのか聞く。
「あのさ、俺達の部屋っていつ出来んだろうなって考えてた。」
「ああ、クラス対抗戦時に無人機に壊されたんだよな。」
誤解されるような言い方だが、弾も一夏も一人部屋を貰う筈だったのだ。無人機襲来時に無人機の放ったビームで端に増築していた部分を消し飛ばされていた。材料の再発注の関係で、今だ完成してない。
「部屋の人と上手く行ってないのか?」
「行ってるさ。ただ、その、なぁ…」
「ああ、そうだな。」
一夏が何故早く部屋が欲しいのか聞く。弾の歯切れは悪く、その意味に気付いた一夏はただ頷いた。
要は手を出しても問題ないのに、彼女の事を思うと手を出せない。一緒の部屋なもんだから悶々としてしまい、それを解消する部屋が欲しいと。
襲われても全然構わないと言う態度で接してくる箒の無防備さに、同じような考えを抱いていた一夏は大いに同意してしまったのだ。
「飲むか?」
「サンキュー」
「早く部屋が欲しいよ。」
「まったくだ。」
偶々と言いつつ、その実一夏が帰ってくるのを待っていたのだろう、弾の手には開けられていない常温になったスポーツドリンクの缶が握られていた。
それを一夏に差し出す。一夏も一言礼を言って、それを受け取りプルタブを開ける。しみじみと呟いた弾と、それに同意した一夏。お前らは縁側の爺さんかと帰ってきた貴輝に突っ込まれるのはもう少し後の話。
追加で弾の格好が『やらないか』になっており、セリフを腐らせた女子が興奮しすぎで鼻血を出したのは本当に余談である。