IS 俺とあいつのインフィニット・ストラトス 作:yosshy3304
「…何が起きたのですか?」
「ふぅ、状況把握が速すぎるぞ。」
目を覚ましたラウラの第一声に、千冬は一つ溜息を吐く。眼帯が取れており、処理用ナノマシンが機動しており、金色に輝いていた。
「VTシステムは知っているな?」
「ヴァルキリートレースシステム…ですか?」
千冬の当事者なのだから、と本来は箝口令が敷かれている為、他言すれば然るべき罰を受けると前置きして話し出した。ラウラも軍属だけあって、千冬の略称で発した言葉を理解する。
「ああ、過去のモンドグロッソ優勝経験者のデータを再現したもの。研究も使用も世界で禁止されているそれが、お前の機体に搭載されていた。」
「しかし、あれは…」
千冬が説明を続けるが、ラウラは一つ気掛かりな事があって質問する。VTシステムの発動条件だ。幾ら戦闘で興奮していたとはいえ、心の中には余裕を残していた筈なのだ。VTシステムの発動は起こらない筈である。だが現実に起きた事を考えると、何処か心の隅に力を求める思いがあったのではなかろうか。力がある事が強いと言う事ではないと知っているのに。
「感情の揺れや機体ダメージによって発動するはずなのだが、今回は外部から強制発動だった。」
だが、そんなラウラの疑問に千冬は答える。IS学園の観測用のコンピューターがハッキングされた事も。そこを足掛かりにされた事も。
「そんな馬鹿な。シュヴァルツェア・レーゲンには最新のクラッキング対策が施されていた筈です。」
「…正規の認証コードが使われたんだ。」
だがラウラがまたも待ったを掛ける。シュヴァルツェア・レーゲンは軍用なだけあって、クラッキング対策は最新の物を使っている。それこそ束クラスではないとクラッキング出来ないレベルの物。
だが千冬の答えに愕然とする。正規の干渉用の認証コードを使われたと言う事は、軍が今回の事件を起こしたと言う可能性が高い。裏切り者が居る可能性に思い至ったのだ。
「そんな、一体誰が…」
「その事で、後で査問会への出頭命令が来ると思うぞ。」
愕然とするラウラに、査問会からの出頭命令がある事を告げる千冬。流石に怪我人を動かす事は出来ないと、千冬が自身の持てる力を使ってつっぱねて居るが、ラウラは軍属であり、軍の上層部も慌てているようで、出頭命令と形で強制してきたのだ。
「そう、ですね。私は破棄されるんでしょうか、任務を失敗した道具は…」
その事を告げる千冬であったが、ラウラは目に見えて落ち込む。ラウラの言葉を聞いて千冬はやはりと思った。ラウラに強さの定義等を教えてきたのだが、それでも試験管で生まれ、軍属であるというコンプレックスなのだろうか?人間では無く、物であるという考え方をする。
「道具じゃねぇっ!!ラウラは人間だっ!!」
そんな所に区切られていたカーテンを開けて一夏が叫ぶ。そういえば円夏のお見舞いに来ていたんだったなと思い出す千冬。
「だが、私はこの生き方しか知らないんだ。」
そんな一夏の叫びもラウラには届かない。何故ならその生き方しかしてこなかったから。
「なら、一緒に探そうぜ。生き方を探さないのが人形や道具って言うんだ。」
「そうなのか?」
ここで更に言い募っても、それは押し付けるだけ。千冬はそう思って口を出そうとしたが、一夏は言い聞かせたりするのではなく、手を差し伸べた。
「おう、だって道具にも名前はあるだろ。でも生きていない。動物だって生きているが、人間だけだぜ。生きる意味なんか考えるの。」
「そうか、そうだな。生きる意味か。」
一夏の言いたい事は分かるが、何処か無理矢理感のある言葉に千冬は嘆息するも、ラウラも納得したのか頷いているので良しとしようか。
「はぁ、お前は誰だ?」
「わ、私はラウラです。」
「ならそれでいいんじゃないか?」
「は、はいっ!!」
なので千冬は、ラウラにラウラはラウラである事を認識しているか確認の意味を込めた言葉を投げかける。ラウラが確りと答えたのを見た千冬は、小さく笑って立ち上がる。
「ああ、そうだ。変な事するなよ。」
「するかっ!!」
最後に一夏をからかうのを忘れずに、カーテンを開けて出て行った。一夏とラウラの楽しげな話し声に気分を良くしながら。
「聞いていたんだろ。お前は円夏で、私の妹だ。もう生き方を探す生き方をしているんだろ。」
「…わ、私は。」
「ラウラに謝っておけよ。」
IS学園の怪我人用のベッドは多く、部屋も幾つかに別れている。千冬の方へと行った一夏を追いかけて、ラウラの寝かされている部屋の前で、一夏の何処か無理矢理な御高説を聞いていた。
千冬の言葉に、何であんなに目の敵にしていたのかと思う。言葉にならずしかし、後悔している様に俯いた円夏の頭をポンポンと二回撫でて、喧嘩したのなら謝ればいいとだけ、千冬は言って立ち去ったのだった。
夕暮れ時、一夏も寮に帰った時間。ラウラは窓の外を眺めていた。
「ふん、道具がいっちょ前に感動するのか?」
声が聞こえた。だがそこに嘲りの色は無い。どちらかと言うと、確認と言うか前置きと言うか。だからラウラも言い返す。
「何、人形には感動したくても出来ないだろう?」
「くっくっ、違いない。」
一々笑い方が教官に似ている奴だとも思うが、そちらへと顔を向けた。案の定円夏が其処に立っている。
「私は織斑 円夏だ。心ある人間さ。」
「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。生き方を探し始めた人間だ。」
円夏の言葉に、一夏の言葉を聞いていた事を知った。態々、その言い回しをしてくる。だから、そのまま返してやった。
差し出してきた手を握り、もう嫌な感情は無い。だから、二人で笑いあった。