IS 俺とあいつのインフィニット・ストラトス 作:yosshy3304
目を覚ましたシャルロットは、一瞬今どこに居るのかわからなかった。見慣れた本宅の天井ではなく、古めかしい木目が見える。ああそうか、確か佐藤工房に泊めて貰ったんだと思いだした時、甘い香りが漂ってきた。
ベッドから起き上り、床に足を付けた。本宅ではスリッパに足を通していたが、フローリングの床は地熱を利用した床暖房で暖かい。
ドアを開け、そこそこ長い廊下を歩き、リビングの扉を開けた。
「フンフンフ~ン、あっ、シャルちゃんおはよう。」
少し、いや正直に言おう。かなり音痴な鼻歌交じりに暁美さんが挨拶してきた。無地の赤いTシャツにデニムの短パンに白いエプロン姿だ。
「おはようございます?…貴輝さん起こしてきましょうか?」
「ああ、貴ちゃんはまだ寝てるんじゃなくて、ちょっと出かけてるの。」
シャルロットは今はお客様の立場である。朝食を手伝おうかと一瞬悩むも、曲がりなりにもお客様の立場でそんな事をすれば、面目を潰してしまうと考えられる。なので手伝えること、ここに居ない今だ寝ていると思われる貴輝を起こしに行こうかと提案するも、貴輝は朝早くから出かけているからと断られた。
「ああ、座ってて。…手持無沙汰ならテーブル拭いといてね。」
「あ、はい。」
シャルロットが所在無さげに立ち尽くしてるのを確認した暁美は座って待っているように言う。だが、前世の原作を知っている暁美が、それではシャルロットが恐縮してしまうと気づき、テーブルを拭いておいてくれるように頼んだ。
シャルロットもやはり何もしないのは居心地が悪かったらしく、一つ返事を返した。
「ただいまぁ。」
「おかえりぃ!!」
玄関の開く音がして、貴輝が帰ってきた。朝食作りで手を離せない暁美が大声で玄関に向かって叫ぶ。トストストスと廊下を歩く音がして、リビングに貴輝が入ってきた。手には一枚の紙。それをシャルロットの前に置く。
「なんですかコレ?」
「うん?結婚届。」
「うえ?」
思わず手に取ったシャルロットが何なのか聞く。貴輝は軽く答えた。シャルロットは思わず可笑しな声を上げる。結婚と聞いて、まず思い浮かべるのは自分と貴輝の結婚話。いや、それしか思い浮かばない。
その話は実は間違いだったのではないか、そう問いかけたいと瞳が言っていた。
「あー、先に朝食食っちまうぞ。」
「え、あ、はい。」
シャルロットが貴輝の顔を不安げに見つめていると、頭を掻いて貴輝が先に朝食にすると言い出した。ちょうど出来上がったらしく、『暁美ちゃん特性、これぞ日本の朝食定食、へいお待ち。』と何故かハイテンションで暁美がお盆に乗せて持ってきた。
内容は白飯に合わせの味噌汁、沢庵に焼いた鮭の切り身と卵焼き。味付け海苔が一袋ついている。
本当に日本の朝食という内容に、何故か感動を覚えるシャルロット。すでに結婚届の事など頭の中から何処かにいってしまった。
手を合わせて、いただきます。二人がシャルロットが箸を使えるのか心配になるが、危なげなく使いこなすシャルロットを見て安堵の息を吐いた。
「でね、シャルちゃんを守る為に、今回の騒動を利用しようと言う事になったの。」
「ま、守るですか?」
朝食を食べ終え、食後のお茶でまったりとしている所で暁美が話を切り出した。こういう話の場合は暁美に任せるのが一番である。
「自分の状況ってどこまで把握できてる?」
「えっと…」
シャルロットは社長派と副社長派に分かれてデュノア社の実権を握る為の嫌がらせが日々ある事を話す。それはまるで自分なんか関係ないと言わんばかりである。
実態はもっと複雑であり、更にはシャルロットが胆であった。デュノア社は社長が作り上げ大きくしていった。奥方には借金をしただけなのだ。これで経営が悪くなれば、借金の方にデュノア社を奪えるのだが、ACの登場により経営は持ち直し、社長派が有利になる。
そこでシャルロットが関わってくる。シャルロットは紛れもなく社長の血をひいており、少なくとも今のままではシャルロットに遺産相続としてデュノア社が行ってしまう。
奥方としては、泥棒猫の娘に自身の物と思い込んでいる物が行ってしまう。奥方が子供を産めば万事解決なのだが、夫婦中は冷え切っており、そもそも体を重ね合わせる機会がない。
ただ、シャルロットを暗殺してしまえば、隠し子が居たというスキャンダルで社長を退陣に追い込み、子飼いの副社長を社長の席に押し上げることが出来る。
また、社長派としてもシャルロットは目障りであった。隠し子である事からスキャンダルに発展する恐れがあり、暗殺を警戒しなければならないし、何よりも若すぎる。放っておいたとしても、どこかで社長の血を引いていると確信された場合、シャルロットを使って新しい派閥が出来上がる。そういう意味では佐藤工房の提案は渡りに船であり、本妻さんは悔しがっているだろう。
もしここで間違いでしたとなると、社長派はシャルロットを政略結婚の道具にするのは目に見えている。
「そんな…」
「だから、本当に結婚しちゃえばいいのよ。」
話を聞いて落ち込むシャルロットに暁美は本題を打ち明けた。勘違いを勘違いのまま利用しようというのだ。うちなら新しい派閥が出来る心配もいらない。何せ欲しかったら自分で作り出す。
「バツイチの覚悟があるなら、名前を貸してやる。」
「でも、いいんですか?」
「俺なら気にするな。」
シャルロットに好きな人が出来たのなら離婚すればいいだけだ。バツイチになるが、それでも疎まれて暗殺されるよりは遥かにマシだろう。
貴輝の言葉にシャルロットは少し考え出した。