布瑠部の方陣は透き通る世界で循環する   作:Another2

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どの時間軸にも存在しない幕間の話、まだ夏の間に書き上げておきたかった。

台詞多め、と言うより台詞8割ぐらい。


ガコンッ(5回転目)

 夏、それは平均気温が30度を優に超え、刺し殺すような照りつける日光、粘着性かと思わせる程肌にまとわりつく湿気、それらが混じり合った温風、そして極め付けは……

 

ミィーンミンミンミン‼︎

 

 この暑い中でも絶えず響き渡る蝉の声、山奥などの田舎になれば風物詩として愛されるだろう、川のせせらぎや風が揺らす風鈴の音に涼を感じるのも悪くない、しかし此処は発展都市キヴォトス、何処に自然由来の川のせせらぎがあると言うのか、この温風に吹かれた風鈴にどこに風流を感じれると言うのか、この耳障りな蝉の声をどう愛せというのか‼︎そんな胸中に満たされながらキヴォトスの先生である彼は今日も仕事をする。

 

 いつからだっただろうか、夏が嫌いになったのは、少なくとも幼少の頃はそうではなかったと思う。

 

“アッツ…”

 

「言うな、口にすればさらに熱くなる」

 

“しかしだねぇ……暑いのは事実なのであって……”

 

「夏……だからな」

 

“そうだね、夏……だからね、暑いのも仕方ないよ、でもさぁ…”

 

「言うな‼︎」

 

“いーや‼︎限界だね‼︎ハッキリと言わせてもらう‼︎なんでこんなクソ暑い季節に限って冷房が壊れるかなぁ⁉︎死人が出るよ⁉︎”

 

「だから言うなって‼︎私だって我慢してんだから‼︎今年の夏の暑さは異常そのもの‼︎何処もエアコンの類の故障が頻発していると言う報告は上がってただろう⁉︎態々リンが言いにきてたんだし‼︎」

 

“それは……そうなんですが”

 

「今エンジニア部の馬鹿共が急ピッチで直してる、あいつらにとっても死活問題だからな、文字通り生死に直結する事だ、かなり真剣に取り組んでいた」

 

“あぁ、なんかコンピュータの類がオーバーヒートしかけたんだって?”

 

「うむ、ミレニアム最大の危機という訳だ、まさかその原因が夏の暑さとは笑い物だが」

 

“ゲヘナも静かだったねえ、流石に日射病でぶっ倒れるのはごめんなのか皆冷房が効いてるとこに居たよ”

 

「お陰で鮨詰め状態の目も当てられん惨状ではあったがな……そういえばゲヘナと言えばあの忠犬共の飼い主な、とうとう過労でぶっ倒れたんだそうだ」

 

“ヒナね、いつまで経ってもその呼び方変わらないよね君……それで倒れたとは?何も聞いてないんだけど?”

 

「いやなに、元々の過労気味だったのに対して今回のこの気温がとどめだ、ドクターストップが掛かったとよ」

 

“そりゃそうだ、この際ヒナにはゆっくり休んでほしいんだけどねえ……責任感が強いとは言えまだ学生なんだから夏休みを謳歌すれば良いのに、ゲヘナと言えば万魔殿は?”

 

「死屍累々だった、と言えば満足か?」

 

“うん、それだけでもうなんとなく察したよ、壊れたんだね、エアコン”

 

「あぁ、基本全滅だ、今や何処も扇風機や冷えピタなんかで凌いでるらしい、プールや海は人で溢れかえってるしな、水風呂も一種の手段だ」

 

“トリニティは……皆阿鼻叫喚だった、普段の優雅の仮面は放り捨てたみたいだ”

 

「ククッ腹の探り合いで忙しい奴らにはお似合いと言える、極限状況とは人の本性が現れる、それは誰も例外ではない、我々もそうだ」

 

“唯一変わりないのは……アイツらだけかな……黒いんだから熱籠れよ”

 

『クックック……お生憎ですが私達も全滅ですよ、先生』

 

“げえっ黒服!マコラ!塩撒け!塩!”

 

「こいつは悪霊よりタチ悪いだろ」

 

『散々な言われようですね、残当ですが、それとこちら差し上げますね、貴方達には返したくとも返せない恩がありますので、ではこれにて…』

 

“もう二度と来んな”

 

『……それと先生貴方にひとつ申し上げたいことがあります」

 

“なんだよ、つまらない事だったぶん殴るからな”

 

『これより私をはじめとしたマエストロ、ゴルコンダとデカルコマニーは避暑地に出向きますので‼︎暫くは会えなくなりますよ‼︎いやー!暫く先生と会えないと思うと私、この身が張り裂けそうなほd(グシャア)グハァッ‼︎』

 

“よーし死ね!今この場でその身を割いてやる!”

 

「落ち着け先生、殺したら殺せないだろ」

 

“落ち着けるか‼︎この野郎!よりによって暑さで苦しんでる俺たちに対して自慢しにきたんだ!この怒りは到底許せるものじゃない!

 

「悪い黒服、さっさとどっかいってくれ、このままだとこのアホが何をしでかすかわからん」

 

“ウオオオ‼︎離せエエエエ‼︎”

 

『既にしでかされてると思うんですけどね……では其方の代物、大事に使ってくださいね、それこそ私達だとおもっt「早く行け」はい』バシュン

 

“怒ったら余計に熱くなったんだけどォ⁉︎”

 

「当然だろう、暑さで頭をやられたか、一先ず開けるか」

 

 中から出てきたのはかき氷機であった、氷を入れれば今すぐにでもキンキンのかき氷が出来るだろう。

 

“なにこれ、これで頭冷やせって事?”

 

「だろうな、しかしかき氷とはまた懐かしいものを、最近食べてなかった」

 

“シロップはどうする?まぁあれ全部味一緒だけど”

 

「え⁉︎そうだったのか⁉︎うーむ、ならばジュースを買ってこよう、先生は準備をしておいてくれ」

 

“いや、私も行くよ、生徒だけを働かせるってのもちょっとね、仕事も終わってるし”

 

“それにしても本当に暑いねえ、マコラのその方陣の能力でさ、暑さに適応できないの?”

 

「出来たらとっくにやってる、出来ないから今まさに暑さに嘆いてる訳だが」

 

“だよねえ…君の戦法で涼しくなれるのない?”

 

「諦め悪いな?知ってたが……一応“満象”の指向性を変えれば放水は可能だが……やめておいた方がいい、蛇口を捻ってホースで放水するのとは訳が違う、例えるならそう……消防車の放水ポンプ並の勢いと言っておこう」

 

“それは末恐ろしいね、鵺で飛行もキツそうだ”

 

「そういう事だ、大人しくアイスで体を冷やそう、そう言えば先生、アンタ……夏は好きか?」

 

“どうしたの藪から棒に……夏かあ、夏は嫌いだな、理由は散々言ったと思うけど”

 

「そうか、私は案外嫌いじゃない、季節の巡りを感じ取れるからな、夏の暑さに嘆くのも、冬の寒さに震えるのも、春先の暖かな空気を味わうのも、秋暮れの空に思いを馳せるのもそう、季節の巡りに一喜一憂し一年を感じる、故に私は全ての季節が好きだ」

 

“君って本当に学生?下手な大人より大人してるよ”

 

「れっきとした学生さ、通ってた学校には停学処分を喰らってるがな、ハハハ……」

 

“中々乱暴だったようだね”

 

“……本当はね、私も好きだったんだよ、夏”

 

「ンン……では何故嫌いになった?歳のせい、という訳じゃないだろう」

 

“……案外そうかもね、歳を重ねるたびに夏が嫌いになる”

 

“でも一番の要因は苦い思い出があるからかな”

 

「なんだ!アンタにもそう言うのがあったのか、言えよ照れ臭いな!親友である私たちに隠し事があるのか?」

 

“ハハハ……そうだね、隠し事は……良くないかな”

 

 幼少の時の記憶は朧気だけどそれでも覚えてる事がある、と言うよりかは忘れられない記憶、あの時もこんな感じの暑さの時だった。

 

 幼い頃の私はなんでもできると思ってた……思い込んでいた、今より活発で、やんちゃで、迷惑ばかりかける子供だったと我ながら思うよ、度胸試しと称して深い川への飛び込んでは危険だと大人に怒られ、肝試しと称して夜中に飛び出しては今何時だと大人に怒られ……他にも色々馬鹿やって大人達に怒られて育ったよ。

 意外と不快感はなくてね、最終的にあっちが仕方のない奴と言って怒りを収めてくれてたんだ。

 

 そう言えば私にも親友がいてね……あぁ君とは別のね、そいつとはずっと一緒だった、そいつと一緒に遊んでる時が一番楽しかった、そいつと二人ならなんでもできると思った、幼少の身に感じた、無敵感?最強感?って言うのかな、私たちは二人でずっといたものだからお互い欠けることなんて考えたこともなかったよ。

 

 それでね、その日はいつものように馬鹿なことをやろうとしたんだ、花火で遊ぼうってね、それで大人達が腰抜かす様な花火やろうぜってなって火薬の量をいじっちゃったんだ、子供故の過ち、無知故の弊害って奴、素人の私たちがそんなことをするものだからまぁ誤爆、友人は軽い火傷を負ったよ、あの時の大人達の怒りっぷりはねえ……怒髪天を突くって言うのかな、長い事治ってた火山が噴火したような感じ?兎に角すごく怒られたよ、私たちも泣いたさ、だって初めて本気で拳骨を喰らったんだもの。

 

 私はひたすらにごめんなさいとしか言えなかったよ、だってそうでしょ?私が友人をそんな事に誘わなかったら火傷を負わなかったんだから、向こうは気にしてなかったけど私は自分の浅はかさを悔いたよ、そしてその時初めて知ったんだ、自分達のために叱ってくれる大人の優しさって奴にね。

 

「それで?その時に叱ってくれた大人というのが……」

 

“うん、当時の私の先生”

 

“だから私もこんな大人に、子供に寄り添える先生になりたいなって思ったんだよ”

 

「そうだったのか……その時の友人はどうしたんだ?」

 

“ソイツとはその翌年の夏かな、大喧嘩してそれっきりでもう会えなくなった”

 

「それは…」

 

“うん、喧嘩して翌日だったかな、交通事故で亡くなってね、即死だってさ、酷いものだよ、あんなに罵り合って、殴り合いすら起きたというのに、ソイツが死んだなんて信じられなかった、信じたくなかった、明日になればまたいつものように憎まれ口を叩き合いながら最終的にお互い謝ってまた馬鹿をやる物だと思ってた……でもそうはならなかった、こんな事なら喧嘩なんかするんじゃなかった、そうすれば今もこの胸を締め付ける苦しみはなかったというのに”

 

「アンタは後悔してるんだな、謝罪をできなかった事に対して」

 

“そうだよ、私はあの日から今に至るまでずっと後悔してる、意固地にならずにただ一言「ごめん」って言えたらよかったのに……もう聞き届けてくれない位置まで行っちゃって……ずっと今も悔やんでるよ”

 

「……」

 

“マコラ……私はみんなに寄り添える先生になれてるかな?”

 

「さあな、私はそれを知らん、知らんが……少なくとも私が見た大人の中でアンタ以上の先生は居ないだろう、それはきっと、アイツらも同じだ」

 

“そっか……そうだといいんだけどね”

 

“でもね、時たまこうも思うんだよ”

 

「……」

 

“私はちゃんと先生としての役目を果たせてるんだろうかって”

 

「それは……」

 

“分かってるよ、こんなことを思うのは傲慢だって、思っちゃいけない事だって分かってる”

 

“それでも思わざるを得ない、これまで幾多もの生徒の悩みを解決してきたつもりだし、学園間に蔓延る問題も解決したつもりだ、でもそれは結局マコラの力を頼ってたからなんじゃないかって”

 

“一度思い始めたら止まらないんだ、堰き止めていたダムが決壊するかのように、思いの濁流は止まらない……偶にね、背負い込んだ責任に押し潰されそうになる、不安に締め付けられそうになる、その度に私は全てを投げ出したくなる……私は、()()弱い……()()みんなが思ってる程立派な大人じゃないんだよ……”

 

「それは違う、断じて違うぞ先生、私たちは、キヴォトスに存在する全生徒は、先生なら誰でも良かったんじゃない、アンタだったからこそ!アンタが真摯に向き合ってくれたからこそアンタに全幅の信頼を寄せてるんだ!」

 

“俺は、教師として当然の義務を──”

 

「そう!当然の義務だ!しかしな先生、世の中その当然の義務すら実行できない愚物な大人が吐き捨てるほど存在する!アビドスとアリウス分校の連中も!大人に利用されていた!この世界には子供を悪事に利用する大人が蔓延っている!」

 

“それは…”

 

「私でさえそうだ!この身に宿る力の所為でどれだけの大人に言い寄られたか!利用されたか!……まぁその度に私はソイツらを潰してきたがな」

 

“ハハ……君らしいや”

 

「だが!アンタは違う!アンタは子供達に寄り添い!向き合い!そして無謀ながらも時にはその身を挺して子供達を守った!それは他の大人達にはなかった事だ、だから私たちはアンタに応えるんだ!だからこそ私たち生徒は先生であるアンタを信頼も信用している!尊敬される存在なんだ!」

 

“俺が……?”

 

「そうだ!皆先生に対しては同じ思いだ!アンタがどんなことを思おうが勝手だが、この一点だけは譲らねえ!何故ならそれは!全生徒の思いを踏み躙る事になるからだ!……アンタは誇っていい、アンタは()()()()()()誰にとってもな」

 

“うん、ありがとう……!”

 

「胸の中のシコリは、取れたか?」

 

“うん!もうスッキリだよ、こんな思い始めてかな”

 

「それはよかった、アンタも大人とは言え一人の人間だからな、弱音を吐きたくなる時もあるだろう、その時は溜め込むんじゃなく周りの生徒を頼れ!私たち生徒は困った時にはアンタを頼りにする、だからアンタも困ったら私たち生徒を頼れ!それが本当の信頼関係というものだ」

 

“ッ!そうだね、ありがとう、マコラ”

 

 本当に、ありがとう……もう止まる事はしない、ウジウジ悩んだりすることもしない、私はみんなが誇る先生なのだから、いつまでも悩んでなんかいられない。

 

“そう言えばマコラの過去の思い出って何かないの?”

 

「ン〜?そうだな、それは……また今度話してやる!」

 

“なにそれ!私だけ話して不公平じゃないかい⁉︎”

 

「その代わりアンタと悩みを解決してやったろう!それであいこだ」

 

“かき氷、いざ作るとなると味に悩むね”

 

「ジュースを染み込ませたスペシャルなかき氷だ、シングルも自由、ミックスにするのも自由だ」

 

“私は手堅く、コーラで行こうかな”

 

「ククッ、良い選択だ、なら私は──」

 

 そうして私たちは互いに手作りのかき氷を食べた、結果

 

“……”キーン

 

「……」キーン

 

 まぁわかりきってた事だ、だって互いにがっついて食べたんだもの、そりゃ頭が痛くなる。

 

「……(スッ)」ガコンッ

 

“あ!マコラ今頭痛に()()させたね⁉︎狡い!”

 

「ハッハッハッ‼︎能力の有効活用と言え、既に頭痛の適応は済ませた、ならば後はなんの遠慮もなくかき氷を食せるというものだ」

 

“なんて贅沢で無駄な能力の使い方……”

 

 こうして私は何気ない夏を過ごして行った、今までは夏が嫌いだった、それでも──

 

「先生よ、まだ夏は嫌いか?」

 

“いいや、ほんの少しだけ、夏が好きになった”

 

「フッ……そうか」

 

 偶にはこんな夏を過ごすのも良いのかもしれない。




夏の暑さにやられて幼少の長い記憶を思い出す+若干鬱になりかけてた先生回でした。

先生の過去話は最強コンビを元ネタにしてるけど彼方と明確に違うのは最後に言葉すらかけられなかった事、友人君は先生の数少ない同年代の親友でした、その最後が喧嘩して仲直りも出来ずにさよならです、辛いね、因みに友人君は本編には出ません、死んでますので、メロンパン入れにもなりません、やったネ。

かき氷食べて頭キーンからのガコンッがやりたかった、それだけなのになんでこんな文字数に……?

※先生は偶に一人称俺になると作者が嬉しいのでそうした、後悔はない

【最終決定】IF世界線のマコラ

  • アビドスIF
  • ゲヘナIF
  • トリニティIF
  • ミレニアムIF
  • アリウスIF
  • ゲマトリアIF
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