カミキマインドの女を用意したら殺し愛がはじまった件   作:注釈n

1 / 5
オリ主の苗字は「榊枝」(さかえだ)ちゃんです。名前はまだ(決めて)ない。


目覚め

 ()()を彼女が初めて自覚したのは、小学校の授業の一環で育てていた昆虫が、死んだときだった。

 いつから、()()が彼女の中にあったのかは、彼女自身にもわからない。ただ、それ以来ずっと、片時も離れることなく心の底にへばりついている。

 

 昆虫を育てたのは、「命の大切さを理解する」ための授業である。

 とはいえ、小学生には無理のあることで、彼女のクラスも例に漏れず。先生のありがたいお話を、男子生徒のほとんどは興味のなさそうに、女子生徒も半分ほどはぼけっとした顔で、残りはめざとく先生の雰囲気を感じ取って、うわべだけの悲しそうな表情を浮かべて聞いている、という状態だった。

 

 彼女も命の大切さなどわからなかった……というわけではない。むしろ、飼育担当でもあった彼女は、人一倍よく理解していた。

 理解していたからこそ、()()に気づいてしまったのである。

 

榊枝(さかえだ)さんを責めてはいけませんよ」

 と、先生が言った。榊枝というのは彼女の苗字である。

 

 彼女はこれに言外の意味を読み取った。つまり、アタマに「悪いのはあいつだが」と付くのだと。

 これは根拠のないことではなかった。彼女は先生に嫌われているという確信があった。小学生ながら役者として働いていた彼女は、それを鼻にかけていると思われていたのだろう。「舞台のお仕事があるから休みます」と伝えるたび、先生にはいちいち棘のある言葉をかけられていた。

 もっとも、彼女自身も、自覚的だったかはともかくとして、十分増長していたのだが。

 

 さて、そんな言葉を聞いた彼女は、こう理解した。「あの虫を殺したのは私なのだ」と。クラス皆の関心を集めた(と彼女は思っていた)あの虫を殺したのは、他でもない彼女自身であると。

 そう思った途端、彼女は奇妙な高揚感を覚えた。

 

 舞台の稽古でほめられたときのよう、ではない。

 テストで良い点を取って、お母さんに今から見せるのだ、というときの、あの感じ。少し近い。

 楽屋で、先輩のために用意されていたはずのお菓子を盗み食いしたとき、これも違う。けれども一番近いかもしれない。

 

 この、なんとも言い難い、しかし心の芯から湧き上がるような多幸感を、どうにかして理解したい、と彼女は思った。

 それからというもの、彼女はあれこれ実験をしてみた。

「死」が鍵になっていることは気づいていたから、問題は何を対象にするかだった。

 

 

 

 まず、アリを踏み潰してみた。全然ダメ。

 今まさに死のうとするセミを眺めてみる。まったく違う。

 つみれ汁を飲む。つみれの一つ一つに、いったいいくつの命があることか。ちっとも高まらない。

 

 

 

 

 タイの活き造りを食べた。舞台の主役をとったお祝い。少しだけ、ぴくりと()()が震えた。

 

 おじいちゃんの末期に、手を握った。あまり記憶にはないけれども、抱っこされている写真を見せられた。お父さんとお母さんはとても悲しそうにしていた。かくっと、あっさり、その命が事切れた。()()がずいぶん昂って、思わず俯いて動けなくなってしまった。周りからは、情に厚い少女なのだと思われた。

 

 飼い犬を殺した。生まれたときからずっと一緒にいた犬だった。お父さんとお母さんの次か、その次くらいには好きだった。この手で殺した。

 偶然に恵まれたと言っていい。

 毒入りの餌が撒かれているというニュースをたまたま見ていて、一人での犬の散歩中に通った公園がたまたまその場所で、たまたま、目の前に、青っぽく染まったその毒餌があった。

 わずかに逡巡した後、リードをくいっとそちらに寄せた。想いが伝わったかのように、犬はあっさりと毒を食らった。普段は拾い食いなんて滅多にしなかったのに。

 あとは、想像通り。

 獣医さんに、「手遅れです」と言われたとき、()()が、かつてないほどに主張した。「これだ」と。

 

 

 ふと父母の方を見た。父母が一番好きなのだということを、脈絡なく思った。




ちなみにカミキとは若干考えが違うと思っています。むしろカミキはつみれ汁大好きだし、蟻の巣穴に水注いで楽しんでいたタイプだと思う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。