カミキマインドの女を用意したら殺し愛がはじまった件 作:注釈n
演劇用語説明:
だいたい
顔合わせ→本読み(台本の読み合わせ)→立ち稽古(稽古場で演技しながら稽古)→
--小屋入り(本番数日前に劇場に入ってセッティング)--
→場当たり(裏方さんの確認メインのリハーサル)→ゲネプロ(通しの最終リハーサル)→本番
という感じらしいです。
「銀河鉄道の夜、ですか」
「そ。榊枝さんにはカンパネルラ役でお願いしようと思っているの」
どうかな、と付け加えながら、指導役の女性は目線を合わせるようにかがんだ。
それがなんだか子供扱いされているような気がして、榊枝と呼ばれた少女は少しむっとする。次には「あっ、銀河鉄道の夜っていうのは宮沢賢治の小説で〜」とか言われるんじゃないだろうか、なんて思った彼女は、わずかに語気を強めて返した。
「いいですけれども、ジョバンニは誰なんですか?」
「ええとね」
指導役はがさごそ手提げを漁って、端の少し折れた書類を取り出した。
「そうそう、カミキくん。結構イケメンだよ」
「はぁ」
別に容姿の良し悪しを聞きたかったわけではないのに、と思いながらも、彼女は自分の手にほんのり力がこもるのを感じた。
カミキヒカルも榊枝紗夜も、実力の上では(あくまでも中学生にしては、という留保は必要だが)ほとんど申し分なかった。その上、どちらも表面的には優等生に分類される。
その結果、この舞台の稽古は、本読みから場当たりまで、さしたトラブルもなく終わった。
強いて言えば、ザネリ役の少年が悪役側であることにヘソを曲げて、あまり稽古に身が入っていなかったことくらい。それであっても十人並の芝居はやってのけるのだから、ララライの層は厚いと言うべきか。
けれども、それは人間関係に何ら変わりがなかったということでもない。カミキは次第に榊枝を気にかけるようになっていた。
目は口ほどに物を言うらしい。ならば劇は口も目も手も足も使って演じるのだから、口の何倍も物を言うんじゃないか、とは飲み会の席での
思い出してて腹立って来たな。頭の中で3発くらい全力のパンチを入れてから、ゲネプロ中の
「ジョバンニさん、あなたはわかっているのでしょう」
優しげな口調で、「先生」役の姫川さんが語りかけた。
「あ……ぅ」
「大きな望遠鏡で、銀河をよーく調べると、銀河はだいたいなんでしょう」
ゆっくり、子供をなだめるように言う。
この「先生」は、ジョバンニをひどく気にかけているのだとはっきりわかる。あの「先生」は意地悪でジョバンニを指名したのだと言う人もいるけれど、きっとそうじゃない。むしろ、クラスに馴染めていないジョバンニに、何かきっかけを与えようとしているのだ。と、姫川さんの演技は雄弁に語っている。
ひょっとしたら、姫川さんはお子さんの姿をジョバンニに重ねているのかもしれない。大輝くん、今は3歳だっけ。
それでも答えられないジョバンニ。仕方なく「先生」は視線の先を変える。
「では、カンパネルラさん」
呼ばれて、
それは本当に、お手本のような「
最初に榊枝さんに話を持って行ったときは、ずいぶん不本意そうだったから、どうなるかと思ったけれども、なかなかどうして様になっているじゃない。やっぱりジョバンニがイケメンだからかな。
姫川先生の話が続くなかで、スポットが当たるのは他でもないジョバンニ。彼はちらりとカンパネルラの方を見る。その横顔が、まず何かに思い至ったかのようにハッとなり、ついで赤面してくしゃくしゃになりながら涙を流し、最後にぼうっと見つめた。
上手い。心の内がありありと浮かんでくる。14歳の少年が、ここまで役に没入できるのか。
ただ、それだけに、だろうか。彼の視線に、ディレクションにない
カミキジョバンニにとってカンパネルラは、男同士とはいえ、恋や愛よりも深く重大な感情を抱く相手なのかもしれない。
……というより、カミキくんが榊枝さんに? 最近、そこそこ話しているところも見かけるし。なんかこの前一緒に帰って行ったし。ついにカミキくんに春が……!
こほん。なんにせよ、解釈としてもおかしくはないし、これはアリだ。調整の指示は必要なかろう、と結論付ける。さて場面転換、頭も切り替え切り替え。
姫川愛梨さん、朝ドラ出るほどの女優なのに、今更こんな子供メインの舞台の脇役にも出るなんて、きっとすごく人格者で素敵な人なんだろうなぁ。
金田一敏郎は代表と演出家兼ねてるらしいので、この頃から演出もやっていてもおかしくないはず……ということで演出にしておきます(別のキャラを考えるのが面倒だったとも言う)