カミキマインドの女を用意したら殺し愛がはじまった件 作:注釈n
もとより、榊枝紗夜という少女については、さして興味がなかった。
3年前の姫川愛梨との一件以来、歳がいくつも上の女性には内心身構えてしまうきらいがあったから、同年代、それも歳下で助かるな、とか、その程度であった。
もちろん尊敬なんて考えたこともない。どうでもいい相手にはいくらでもお世辞が言えるだけだ。
普段の稽古にしても、下手ではないが特別上手くも見えない。
共演が決まってからも、技量に対する印象はあまり変わらなかった。
たしかに整ってはいる。しかし逆に言えば整っているだけ。姫川愛梨のような指先一本一本の動きに意味を持たせる緻密な所作があるわけでもないし、金田一敏郎のような視野の広さがあるわけでもない。感情演技も外から見れば「それっぽい」が、共演者に感情が伝わってこない。比較対象の厳しさを考えて甘めに見ても、だ。
言うなれば無味乾燥。「適応型」と言えば聞こえはいいが、役に没入できないだけの演者に感ぜられた。
ただ、それでも彼女に近づいたのは、彼女の両親が原因だった。正確に言えば、彼女の両親が他界していることが。
ジョバンニは父親が帰って来ず、母親が病気で臥せっている。僕も似たようなものだが、
つまるところ、役作りの一環だった。
結論から言えば、これは失敗だった。
彼女は
普通、親を早くに亡くしていれば、何かしらその残滓が残るべきだ。だいたいは心的なもの、場合によっては食事のマナーや節々の所作にもあらわれることもある。
しかし、彼女はどこまで行っても正常だった。無理を言って部屋まで上がったが、それでも瑕疵はちっともみつからなかった。
ならば結論は一つしか考えられない。彼女は元から異常だった、と。
「僕と同類なんだろ? 榊枝紗夜」
仕掛けてみよう、と思った。
やるならば、本番に。
さて、榊枝紗夜はというと。
「お家デート!? お家デートしちゃったよ私!」
と、ベッドの上右へ転がり左へ転がり、手足をわたわたさせていた。
「これってもう恋人みたいなものだよね、ね!」
彼女の興奮は有頂天だった。中学生と言えばメルヘンチックな妄想に染まりやすい時期である。あのヒカルくんの態度はあんまり「恋する男子中学生」っぽくなかったものの、そんなものは家に男を上げたという明白なファクトが押し流してしまう。
「……でも、正直、ヒカルくんはいまいちピンと来ないんだよ」
そりゃもちろんカッコいいし、役者としても凄いけれど。それだけじゃなくて、何かこう、これだ! となるような決め手が欲しい。おとぎ話みたいに白馬に乗って迎えに来て、とは言わないが。
「高望みなのかな」
「そう彼女はひとりごちた」
「あ、いけないいけない。油断した。思ったより興奮してたのか私は。気をつけないと」