淵見くんは淵を見る。   作:かげのかげたろう

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(風邪引いたので)初投稿です。

小説家になろう様でも投稿しておりますので、よしなに。


3/いつもの居酒屋。

 

 ゴンッ、とジョッキが机に叩きつけられる。

 

「どーして淵見くんは見てないとこでいっつも巻き込まれるの?」

 

「はい、すいません」

 

 向かいにはどデカいジョッキ片手に、ほろ酔いでほんのり頬を赤らめた酒村さんがとろんとした目で俺を責め立てるような目で見つめている。

 平謝りをすれば「この前も言ってた……」とぼやき、すかさずジョッキを煽って空にして注文用のタブレットで大ジョッキのビールを頼んでいる。かれこれ十分ほど、このジョッキを空けては注文するの光景は見ている気がする。

 はて、何杯目だろう。大人気居酒屋チェーン店牛富豪の貯蔵は充分だろうか。

 

「この前は私に何も話さないで、全部終わった後に報告してきたよね?」

 

「酒村さんに頼りすぎるのは良くないかなって」

 

「頼っていいの!もしもがあるんだから」

 

「前回は何とかなったからいいじゃないですか」

 

「何とかならなかったらの話をしてるの私は!」

 

「はいすいません」

 

 お酒が入ると、普段温厚な酒村さんは顔をふにゃりとさせながら絡み上戸になる。何か言う事が無ければずっとほんわかーふにゃーんとしているのだが、言う事があればこのように善意マックスのお小言を頂くのだ。

 お小言の要素が心配のお言葉なので俺は肩身を狭くしながら聞き入るしかない。先刻のように運が良いし大丈夫だよね、とは言うもののそれは事情を知っていればの話である。

 知らなければ普通に心配して、もし何かあったらと怒ってくれるのが酒村伊吹という優しい女の子なのだ。

 

「前回も死にかけたって聞いてるし!けろっとしてたから気づかなかったけど!」

 

「いやまあそれは誤解で」

 

「口答えしない!」

 

「はいすいません」

 

「淵見くんはただでさえトラブルメーカーなんだから!大体淵見くんが悪いの!」

 

「いやあれはあっちから」

 

「口答え!」

 

「はいすいません」

 

 なにこれイジメ?そう錯覚するほどに申し立てが通らない。

 親が子を叱るように、ぴしゃりと叱りつける酒村さんに俺は何も言う事が出来ない。俺に非があるわけではないのに。勝手に厄介事が飛び込んでくるだけで。

 指折り過去の出来事を思い返しかけ、ふるふると頭を振るう。

 

「淵見くんってどうしてそんなに引き寄せるの?」

 

「引き寄せられた側からの意見聞きたいんですけど、そこのところどうですか?」

 

「私はなんか気づいたらこうなってたし。あの喫茶店働く事になったのも成り行きだし」

 

「たまたま俺が居たからじゃないんですかあの時は」

 

「淵見くんが居たから、今ここに私が居ると思うんだけど」

 

「そんな人外ホイホイみたいな言い方」

 

「事実じゃん」

 

 ぐう。

 

「それで今回はどんな子をホイホイしたの?」

 

「……どんな子、と言われても」

 

「可愛い?」

 

「可愛いと言うか、綺麗?」

 

「また女の子連れ込んで。えっち」

 

「酒村さんの時と同じだってそう言う感じじゃないですほんとに」

 

「ふーん?」

 

 まるで俺が女たらしのような扱いはやめて頂けるだろうか。目で訴えるが彼女の中での俺は女たらしなのだろう。

 度々出会う人外が、ただたまたま性別が女であるだけなのに。俺が選んで引き寄せている訳でもないし、ましてや望んで出会っている訳でもないのに。

 

「まあ今回は天使さんだから穏便に事は運ぶと思うけど」

 

「初手誘拐されかけたんですがそれは」

 

「しょっちゅうじゃん」

 

「多けりゃ大丈夫って事でもないんですが」

 

「まあ淵見くんだし」

 

「ほんと何なのその信用は」

 

「信頼、だよ」

 

 大ジョッキを傾ける酒村さんは、にこりと笑って。

 

「私の時はどうにかしてくれた。から、これからもそうなる」

 

「買い被りすぎですよ、あれはたまたま」 

 

「そのたまたまをいつも引き寄せるのが、淵見くんだから」

 

「今回もそうなるとは限らない」

 

「んーん、何とかなるよ」

 

 淵見くんだからね。そう言ってまたタブレットで大ジョッキビールを注文する酒村さんは、お叱りモードが終わったのか目元を柔らかくした。

 ……酒村さんと違って、俺はただの人間なんだけど。思いながら酒を煽る。

 これまでだって、俺は何かをした訳ではない。俺が居ても居なくても、きっとどうにかなっただろう。俺個人の価値というのはそういうもので、ただこれまでは俺がそこに居ただけなのだから。

 

「淵見くんは自己評価をもっと上げた方がいいと思うけどなあ」

 

 俺の思考を見透かしたかのように、そう言われる。

 

「……そんなに?」

 

「全然低いよ、おえーってなるくらい」

 

「おえーって」

 

「おえーじゃ足りないくらいだけど」

 

「げぼー、くらい?」

 

「もっとかな」

 

「俺の自己肯定感を何だと思っているんだ」

 

「みそっかす」

 

「言い過ぎだろ」

 

 酒が入ってけらけらも笑う酒村さんを尻目に、煙草を懐から取り出して咥えて火を点ける。喫煙席という神スペースに煙を昇らせながら、ぐびぐびとジョッキを空けていく彼女の頭に目をやる。

 綺麗な白髪だ。人離れした色の無い髪色は、おおよそ人の手によるブリーチや遺伝による色素では表せない白なのだろう。

 というか人では無いのだから。人離れしているのは当たり前だろうか。

 

「最近帰省はしてるんですか?」

 

「する訳ないじゃん。あんなところ」

 

「お父さんがそろそろこっちに飛び込んで来るかもなんで一回帰って下さい」

 

「げ。それは嫌かも」

 

「また俺が力比べとかするの嫌ですからね」

 

「淵見くんならなんとかなるでしょ?」

 

「だから俺はフィジカルはゴミなんですって」

 

「もし来たら前回同様にお願いね」

 

「絶対嫌です」

 

 鬼め。というか鬼。実際鬼なのだこの酒村 伊吹という女は。

 ひょんな事から此方側に流れ着いた、迷子の鬼。色々あって此方側で過ごす事にして、なんやかんやで俺の職場である喫茶店で働いている割と凄い鬼。

 出会った当初はこんな穏やかでは無かったのだが、気付いたらこうなっていたのだから人の心というのはわからない。人じゃないけど。

 

「そう言えば、その落とし物ちゃんはご飯食べてるの?」

 

「………………あ」

 

「忘れてた?」

 

「……すっかり。こういうの久々だったし」

 

「なんか、女の子を住ませ慣れてるのクズっぽいよね」

 

「女の子って言うからクズっぽく聞こえるんじゃないですかねそれ」

 

「女の子以外住ませた事あるの?」

 

「…………ある、あった、一応ある」

 

「それ、前に言ってた勘違いしてた子じゃないの?」

 

「男に化けてるからカウント出来ますセーフ」

 

「女の子じゃん」

 

 知るか。化けてる女って気づく訳ないだろ。こちとら一般人だ。

 こーんこんこんと高らかに笑う金髪を思い出して、すっかり化かされた出来事を思い出していると「生でーす」と大ジョッキが新たに届く。

 ……はて、何杯目だろうか。にっこりとそのままジョッキに口をつける酒村さんを見て、数えかけてやっぱり辞めた。

 

「さてと」

 

 ぐいっ、と酒村さんが一気にジョッキを飲み干す。

 

「じゃあ、今日はお開きかな」

 

「早いですね」

 

「落とし物ちゃんがお腹空かせてるだろうし、仕方ないから今日はこれくらいにしてあげる」

 

「……助かります」

 

「まあ、次にツケ払ってもらうけどね」

 

「夜通し飲むとか言ったらぶん殴りますよ」

 

「受けて立つ」

 

「すいませんでした」

 

 鬼に殴って勝てる訳ないだろ。

 

「潔すぎだよ、もっと張り合おうよ」

 

「張り合うというかど突き合う事になるというか嫌というか」

 

「もう、男の子でしょ?強気で来なさい」

 

「その調子でいつだか壁に叩き付けられたのを俺は覚えている」

 

「弱音を吐かない!鬼だって倒せる事は倒せるんだよ?一応!」

 

「俺には無理ですよ何もかもが足りない」

 

「そんな事ない!諦めないで!」

 

「血の気が多い」

 

 目からは喧嘩上等とか対戦募集とかそんな思考がチラついて見える。競うとか刺激とか、そういう感じの概念が好きなのは鬼の一族としての特有のものだか、仕方ないのだが。

 仕方ないが、だが腕相撲で壁に叩き付けられた思い出がどうにも思い出される。何故腕相撲で壁に叩き付けられるんだ。

 腕を思わず摩る。思い出した痛みを紛らわすようにジョッキを煽り飲み切る。

 

「今日は私持ちでいいよ」

 

「え、まじ?」

 

 にこ、と頷きが返ってくる。

 

「でも一つ約束」

 

「やっぱ普通に割り勘にしましょういやあ平等って良いと思うんですよ」

 

「変な約束じゃないから安心して普通の約束だよ」

 

「本当に?」

 

「本当に」

 

「でも俺約束って割と碌でも無い事ばっかしてしかいない気が」

 

「それ多分淵見くんの周りがアレなだけなんじゃないかな」

 

 それだと貴女もアレの部類に入るんですがそれは。

 煙草の火を灰皿に押し潰して、諦めて聴く体勢に入る。なんだろうか。次は腕相撲してとかだろうか。

 酒村さんは空のジョッキを机の端に寄せて、笑んだままこちらを見つめる。

 

「今回で困った事があったら、すぐに私を呼ぶ事」

 

 小指が立てられる。

 

「いい?」

 

「……はい」

 

「宜しい」

 

 小指を結ぶ。

 

「ゆーびきーりげーんまーん、嘘ついたら毎日私と晩酌するゆーびきーった」

 

「しまった罠か」

 

「罠とは何よ呼べばいいだけじゃない」

 

 指切られた。これ無効にするにはどうすればいいんだ。腕切り落とせばいいか?

 この先、何か困った事があれば呼ばなければいけない縛りが出来てしまって思わず頭を抱える。

 脳内で思考が巡る。天使様案件に絡む鬼様、何も平穏に過ぎる筈が無く。一抹の不安。

 

「…………変な事、しないで下さいね」

 

「変な事になってなければね」

 

 二人で席を立ち上がる。はて、何でもパワーで解決する思考の鬼には無意味なお願いだっただろうか。

 

「じゃあ、ご馳走様です」

 

「はい、ご馳走します」

 

「てことで暫くは多分飲めないと思います」

 

「まあ。ひと段落したらまた声掛けてよ、働く所は同じなんだし」

 

「はい」

 

「……本当にいつも気になるんだけど、何でまだ敬語なの?」

 

「なんか、こう、歳上じゃないですか」

 

「まあそれはそうだけど」

 

 歳上(人生何十周分差)だし。

 

「そろそろ敬語抜いてね、捻じ切るよ」

 

「何を?」

 

「さ、お店出よっか」

 

「ねえ、酒村さん。何を捻じ切るの?」

 

「いやー今日も楽しかったねー」

 

「酒村さん?お願い、何を捻じ切ろうとしてるの?ねえ?」

 

「帰ったら一人酒だなあ」

 

「酒村さん?」

 

 声は届かず。今日はこんな所で居酒屋現地解散となった。本当に一体何を捩じ切られるのだろうか。

 ひやり、というかひゅんとした。

 鬼怖い。超怖い。

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