だが、重ねて強調させていただく。
カンピオーネは名作である。
シリーズ累計百万部を突破しているゆえに!
カンピオーネは名作である。
令和のこの時代に某スレで未だに一瞬スレ建てされる故に!
カンピオーネは名作である。
ハーメルンにて生息する物書きたちが、彼ら(創作欲)に抗うほどの力を所持できないが故に!!
いつもの発作です、じゃあ本編どうぞ……。
ハワイ──ホノルル国際空港。太平洋航路に起こる
ハワイに訪れる、或いは去る者たちを持て成す施設に溢れている。
せっかくのハワイ渡航。普通ならば仕事の合間に観光の一つでもしたいと考えるのが俗人の思想であるが、生憎とその“仕事”以外に関心を持たない神殺しには無縁の話であった。
「やはり飛行機での国外移動は時間がかかるな。『馬』を使えば一時間と掛らないのだろうが、流石に不法入国は気が引けるし、義に反するか」
到着早々目移りしそうな光景を全て無視して怜志は真っ先にターミナル前のバス・タクシー乗り場へと歩を進める。
海外渡航用にと購入しているその辺の雑貨屋で手に入れた安物のデジタル腕時計に目を落とすと時刻は午前十時を回ったぐらい。
合流の約束をしたのが昼前であることを考えるとやや早い到着だが、日本人らしく数分前行動を心がける怜志にはちょうどいい時間だ。
見慣れぬ場所、見知らぬ土地。そういった環境下では時間的余裕は多ければ多いほどいい。神殺しとしては異様ともいえる生真面目な感覚を心に持ちながら怜志は空港の外に出る。
「おお……」
そして軽く感嘆。照りつける日差し、青い空、常夏の風、そして街路に差すヤシの木。イメージそのままのハワイの景色に少しだけ怜志は感動した。
価値基準が少々戦国時代に寄ってるだけで人並程度には怜志にとて情緒があるのだ。
「正しくハワイといった光景だな。さてホノルル美術館はどうやって行くのだったかな」
今回の旅程の目的地にして、幸徳井家の問題児との合流ポイントの名を口にしながら怜志は感動もそこそこに早速移動を開始しようとサッとバス停を眺める。
しかし──旅の一歩目は、いつしかを思わせるようにいきなり出鼻を挫かれる。
「…………ふむ」
怜志の足が止まる。
周囲には恐らく観光目当てと思われる人の行き交う喧騒の川。
その中で、ひときわ目立つ影が怜志の前に立ちふさがった。
印象は一言、『白い女』だ。幼い白人の少女。見目からして恐らくは十二、十三歳前後といった所だろうか。常夏の島には似合わない西洋の貴族令嬢を思わせる白いサマードレスに、白い日傘。今時の流行からは大きく後退した長髪に、太いカールを掛けてる様は一般にイメージされる令嬢の様そのままだ。額に付けた雫型のアクセサリといい、白いフリルといい、時代錯誤も甚だしい。
ただその衣装が似合うほどに少女は恐ろしく美しかった。それこそ通りがかる人々が十人いれば十人が振り返るほどに。
だが、誰も少女を見ない。否、気づかない。
怜志を除く人波は、誰一人としてアンティークドールを思わせる美貌の令嬢に気づくことは無い。
「『隠れ蓑術』──それをおいても非現実的だな。直感だが、普通の魔術師というわけでもあるまい。ま、傍迷惑な行き倒れよりはマシか……初めまして、お嬢さん。俺は天国怜志。身分については、恐らく略しても問題ないと見るがどうだ?」
「──王のご慧眼に感服いたしますわ。はじめまして、遠き極東より来訪した『王』よ。御身にひとつお伺いしたい儀があり、こうして拝謁させていただきました」
どこぞの行き倒れ剣士とは異なり、身なりの通りに如何にも丁寧な挨拶を返す令嬢。スカートの裾を摘まんで礼をする様は堂に入っており、見た目と相まってそれこそ感嘆の吐息の一つでも漏らしそうになる振舞いだが、言動が、怜志の警戒心を煽る。
誕生から向こう、騒動の連続でそれなりに名が通ってきた怜志の『王』としての顔だが、それでも名を聞いただけで『王』を連想するほどにまでは至っていない筈だ。
極東に生まれた七人目の神殺し──その異名は未だにマイナーの領域を出ていない。にもかかわらず目の前の少女は一目で名前と身分を結び付けた。
名門名家の魔女──それにしては些か。
怜志は目を細めながら間合いを見図りつつ、応じる。
「用件を聞いても構わないが生憎と此処へは“仕事”で来ている。そう長く時間は取れないが──」
「構いません。それほど長くは希少な『王』の時間を取らせませんわ。それにこれはその“仕事”に関わる内容でもございます。御身にとっても有意義なものになるのではないかと愚考しますが」
「──ほう?」
怜志の身分のみならず目的も知っている。
暗にそう告げる少女にいよいよ怜志は警戒心を高める。
──袖口に仕込んだ鉱石を、利き手に落とす。
「良いだろう。空港内にカフェがある。話はそちらで聞かせてもらおう」
「格別のご配慮、感謝いたしますわ」
来た道を今度は少女を連れて引き返す──直前。
そういえばまだ肝心なことを少女に聞いていないことを怜志は思い出した。
「失礼、聞いていなかったな。貴女の名前を教えていただけるだろうか」
「申し訳ございません、まだ名乗っておりませんでしたね──私はグィネヴィア。どうぞ、お見知りおきを。極東に生まれ出でた七番目の王よ」
………
………………
…………………………。
カフェテリアに入店すると店員は怜志たちを一瞥して、二人掛けのテーブルに何てこともない様に案内する。
かのアーサー王の伝説に語られる妃の名を名乗る少女は一般人には認識できない筈なので、恐らく怜志一人を見てのことだろうが対面して話すにはちょうど良い。
案内されるがまま着席すると怜志はコーヒーを、グィネヴィアは紅茶を注文する。手早く店員とのやり取りを怜志が済ませると飲み物が運ばれてくる前に、早速怜志は胡乱な少女との会話を始める。
「単刀直入に聞くが、俺に聞かせたい話とは?」
「では御身の流儀に合わせてこちらも端的に済ませましょう。ひとえに目的は情報交換。これから御身が赴く先……《カルイキの刀》を狙う者に関する情報、それを提供する代わりに幾つか御身にお聞かせ戴きたい情報がございますの」
「成程、確かに分かりやすくて助かる」
薄々察していた通り、目の前の少女は相当に怜志のことを知っている。やはりただ者ではないのだろう。テーブル越しの間合いは約二メートルほど。
この間合いなら怜志の居合抜きがあらゆる動作を上回る。つぶさに令嬢の動向を観察しながら、怜志は少女の言葉に耳を傾ける。
「《カルイキの刀》、に関してはこれから現地で聞くとして……“狙う者”というのはかの英国の神殺し、アレクサンドル・ガスコインのそれで間違いないか」
「ええ、王子を名乗るかの神殺し。このグィネヴィア、あのお方とは些か縁がありますの。ですので、御身にとって有益な情報を提供できると思いますわ。そうですね──例えば」
そう言ってグィネヴィアが語りだす。
《
かの王が持つとされる弑逆してきた五つの神と五つの権能。
その特性と効果、概要と応用、および王子の人格とそこからなる基本戦術。
……怜志が事前に調べ上げた賢人議会の論文にすら乗っていないような秘匿情報まで、さながら宿敵を知る敵役のように、少女は詳らかにこれより邂逅することとなる王子の姿を明らかにした。
長々とした情報を語り終える頃に、一息入れることを勧めるようにして店員が注文した飲み物を運んできた。
「──ご静聴、感謝いたします」
「……どうやら、こちらの想像以上に曲者のようだな、貴方は」
「お褒めの言葉である、と──そう受け取らせていただきますわ」
今となっては慇懃無礼に映る礼を向けてくるグィネヴィアを睥睨しながら、脳裏に手に入れた情報をまとめ上げて、改めて会話を再開する。
「──確かに有意義と言える情報であった。かの王が他の王らと毛色が違うのはこちらも事前に調べ上げていたが、その手練手管までは承知していなかったからな。これで少なくとも初見で事に当たる不利を強いられることは無くなっただろう」
「ふふ、私の情報が御身のお役に立てたというのであれば光栄ですわ」
「それを踏まえて、こう返そう。魔術師連中が知らぬであろう希少な情報を対価に、貴女は俺に何の情報を求める。察するに、大抵の情報は自由自在と言った様だが」
「そうでもありませんわ。私の知識は西洋のそれに偏っています。ですので東洋の知識──例えば、『鋼』の系譜に属する神代の刀を打つ一族などは寡聞にして存じ上げませんでした」
「そうか、俺に伺い立てた本命は
「はい、御身の出生とする家門。その成り立ちに関して聞きたいことがございます」
天国一門──眼前の少女の狙いは極東の伝説にあるらしい。
静聴の姿勢を崩さない怜志を見て、話を聞くことと受け取ったか、先ほど以上に饒舌な舌運びでグィネヴィアは自身が調べ上げたらしい情報を語りだした。
「小鴉丸に天叢雲剣、極東の帝室に所縁ある品を数多く輩出してきた天国一門は非常に謎めいた家門です。遥か古は、鍛治の神・天目一箇神に起源を求めるとされ、人でありながら神々の刀工を今に語り継ぐ神代鍛冶、神を祖とする例は他の王族貴族にありがちですが、今なお神代を語り継ぐ一族はこのグィネヴィアの耳にすら他に例を聞きません」
「だろうな、特殊な家柄であることは生まれた俺自身が十分に心得ている」
「ええ、神を祖とする一門。正しく貴方方がそれほど古き時代より“鋼”を鍛えて来た証明でしょう。そして──そのさらに深淵たる起源は恐らくスキタイから反映されてのものではないでしょうか」
「……刀の起源、というのであればそうかもしれないな」
──スキタイとは、かつて大陸に絶大な版図を有していた遊牧民族だ。シルクロードを跨いで遥かはギリシャからインドを股に掛け、巨大な貿易網を構築して人類の文化史に非常に大きな影響を与えたとされる。
また彼らは独自の金属加工職人を抱え、民族独自の装飾品と加工技術は後世における様々な分野に影響を齎したと言われている。
例えば神話に、例えば刀工に。
「かの民族を通じて伝わる赤熱の鉄人バトラズはその性格と性質の多くを後に続く英雄神・剣神に受け継いでおられます。極東、日本もその例にもれず、例えば建御雷神などは雷と鉄を司る、スキタイ民族の影響が垣間見える典型的な『鋼の軍神』。これは正に大陸の刀工技術が遠き極東の地まで流れ着いた証明でありましょう」
「そうだな、刀の起源は大陸由来……果たしてスキタイ民族の影響がどれほどに及ぶかまでは考察の領域を出ないが、古い時代の中華から我々の刀工技術が流れて来たのは認めよう。だが迂遠だな、俺に考古学を問いたかったのか」
「申し訳ございません、もう暫しお付き合いくださいまし。スキタイに流れた文化、鋼の英雄を語る伝承はオセット族のナルトの叙事詩に語られます。かの叙事詩の英雄バトラズといえば、かの英雄が有していたとされる魔法の剣は有名な逸話です。聖剣伝説──各地に散らばる岩に刺さった剣の伝承は元を辿ればナルトの英雄に端を発すると言われております。例えば、アーサー王の伝説に名高きエクスカリバー、そして……神剣クサナギ、別名を天叢雲剣」
「……は、随分と飛んだな。由来が同じだからと言って西洋の聖剣と東洋の神刀が全く同じものであるとするのは些か拙速が過ぎると思うが?」
「そうでもありません。遠き東西両剣はナルト族の逸話を丁重になぞっておられます。英雄バトラズはその最後に鋼の聖剣を海中に投ぜしめるとともに自らも亡くなりましたが、この流れは聖剣を有した東西両雄も汲んでおられます。アーサー王はその末路に聖剣を泉へと返し、神剣クサナギを手放したがために倭建命はお亡くなりにならせました。劍と共に生きる『鋼の軍神』の特色──東西にはその名残がしっかりと残されています」
「…………」
土地に伴う変異があるとはいえ元を辿れば同じもの──東西の文化圏に存在する『剣』をグィネヴィアはそう断じた。
段々と、目の前の少女が怜志に求めるものが見えて来た。遥か古き時代より大陸から刀工文化を色濃く受け継いだと思われる神代鍛冶、天国。
その由来が、“鋼”を鍛えるものだとするならば。
「私が貴方方にお聞きしたいことは一つです。聖剣の伝承者、鋼の鍛冶師──貴方方はもしや『鋼』を創ることが出来るのではなくて?」
「……──それが真実だとして何が目的だ」
「その回答は肯定と受け取って構いませんか」
空気が硬直する。これまでにない緊張が両者の間を奔る。
……彼女の言う通り、かつて天国は『鋼』を創った。
まつろわぬ者たちを征服する“神武”の英雄。大陸より伝わった神代の秘術を使い、天国は極東に『鋼』を齎したのだ。
だが、その秘中は天国の正統後継者の間にのみ語り継がれる秘中の中の秘中。幽世に潜むご老公たちでさえ、その全容を掴み切れてはいない筈の秘事である。
それを外様の、それも西洋の魔女に見切られたとあっては流石の怜志も穏やかな内心とはならない。
もしやこの女、気づいているのか? ──天国の“宿願”に。
「──お前、なんだ」
「……ふふ、私はグィネヴィア。この世の最後に顕れる王を探す魔女にございます」
──風が吹く。
「さて、長々とお付き合いいただき感謝いたしますわ。此度の邂逅はとても有意義なものでございました。改めてお礼を申し上げます、天国の王よ」
「……逃がすと思うか、お前にはこちらも幾つか聞きたいことが出来た」
「それはまた何れの機会に。貴方が王子に勝利することが出来たのならば再び邂逅する機会もございましょう──」
「──ッ!」
──抜いた。相手が女子供であっても容赦はない。
問答無用で奔る怜志の居合抜き。
神速の一太刀は確かにグィネヴィアの首筋をなぞり、その頭を容赦なく刎ね飛ばすが──。
「チッ──!」
鮮血の代わりに舞い散る白い花弁。刀越しに手ごたえはなく、気づけば目の前の女は風に舞う花と化していた。
何処からともなく声のみが響く。
『ふふふ。それが鋼の霊刀──その切れ味は確かに拝見させていただきました。やはり《カルイキの刀》と同類のモノ。この地に伝わるかの刀も、やはり貴方方が創り上げた鋼の一振りだったようですね』
「なに──?」
『それではごきげんよう。かの王子は私にとっても宿敵……是非、何れまた貴方とお会いすることを願っていますわ』
意味深な言葉を残して魔女の気配が完全に消える。
どのような術かは定かでないものの、怜志の気配感知をすり抜けて完全に離脱することに成功したらしい。油断したつもりはないものの、先手を取られていた時点で、向こうの方が上手だったと見るべきだろう。
「幸徳井さんの予知通りか。やはり人柄はともかく、星詠みとしては天才だな」
納刀し、立ち上がる。
……騒ぎの一幕に反応する周囲の人間はいない。
どうやら、あの隠れ蓑術の影響だろう。
あの女の言葉に乗るのは癪だが、確かに有意義な出会いではあった。
「あのような者が蠢いていることが知れた。それだけでも収穫はあったと判断するべきだろう。ついでだが、かの王子を迎撃する理由も増えた」
戦えればそれで満足──その程度のつもりだったが、怜志にも怜志で大義名分に乗る理由が増えた。あの女が宿敵と呼ぶ神殺し。
或いはかの王子ならば、きっとその詳細を知るはずだ。
「是が非でも捕えさせてもらうぞ、怪盗」