神々、君に背き奉る   作:アグナ

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首領談話

 きっかけは遡ること数日前。関西遠征より一月が経過した二月初旬の事だった。

 授業終業から帰路の道すがら、怜志のもとに一本の電話が入ったことに起因する。

 

「──自分と会いたい、ですか?」

 

『うん。正史編纂委員会、東京分室室長──関東全域を抑える委員会の次期総帥候補、沙耶宮馨本人からの正式な外交筋からの依頼だよ』

 

 一度、王ご本人と直々に謁見したい──そのような依頼が舞い込んだと川上泗水から連絡が入ったのである。

 

「……自分のスタンスは恵那や甘粕さんを通して向こうには伝わっているはずですが」

 

『その上で、ということだろうね。理由はまあ幾つか推測できるけど……いるかい?』

 

「いえ、その辺りは幾らか察しはつきますが……」

 

 何せ日本国内初の神殺しである。加えて怜志は、新米ながらも欧州先達の神殺したちと交戦し、新たに二つ目の権能をも手中に収めたデビュー早々華々しい戦績を誇る。

 そんな相手を相手が接触を望んでいないから放逐する──など。仮にも一国の中枢に係わる権力者たちに許される怠慢ではない。

 望もうが望まなかろうが、国内に発生した危険分子の調査は行って当然だろうし、何かしらの形で接触(アプローチ)を試みる流れは当然ともいえるだろう。

 

 さらに言うなら怜志は市井の一般人ではなく、『民』の呪術師。

 内乱とまではいかないものの、統治者たる『官』の陣営と草の根の『民』という陣営同士の立ち位置もある。

 万が一、怜志が『民』の呪術師の王として名乗りを上げれば、それだけで国内は一夜にして政情不安に陥ることだろう。

 いや、そうでなくとも往年に渡って燻ってきた微妙なパワーバランスを崩そうと「怜志(神殺し)」の名を使って馬鹿なことを考え出す野心家が現れないとも限らない。

 

 結論として、この手の話が出てくること自体、想定できた事態ではある。

 

『そう?』

 

「はい。我関せずでいるには自分のネームバリューが大きすぎるのは自覚してますから」

 

『そこまで理解した上で我関せずを通そうとした辺り、流石若君も職人組合(ギルド)の呪術師だねェ』

 

「……あの、自分から指摘するのもなんですが、そこは感心する部分なんですか?」

 

『僕的にはする部分かな? 神殺しになっても若君は変わらずってね。ほら、力を持ったら使ってみたくなるのが俗人の発想だろう? それで失敗した新米の企業人や政治家は珍しくない。君に限ってはない、とは分かっていたけどそれこそ一抹の不安を覚える程度には神殺しのネームバリューは重いからね』

 

「その割には京都であった時はいつも通りでしたよね?」

 

『そりゃあ一目見て分かったからね。話だって刀の件以外は何も言ってこなかったし、偉ぶる様子も特に見受けられない。華くんから様子を聞いてたっていうのもあるけどね』

 

 穏やかな口調のまま、ちゃっかり以前の接触で怜志のことを推し量っていたことを告白する泗水。見た目はいかにも穏やかな好青年像をする泗水だが、伊達に曲者ぞろいの組織の潤滑油をやっているわけではない。

 名義上の長は天国だが、組織を回しているのは泗水当人。

 そういう意味では職人組合(ギルド)の政治部分を一手に司る長官のようなものでもあるのだ。

 だからこそ彼は常にあらゆる可能性を考えて、組織のかじ取りを行っている。

 実際、彼を通して委員会からの話が回ってきたのも組織内の段取りを担う長官と外交窓口とを兼ねるその役目ゆえであった。

 

『それで、どうする? 嫌だというならばこちらで代替案を建てるけど』

 

「いえ、会います。恵那……清秋院のこともありますし、別に面倒くさかった以上の理由も持ってませんでしたからね。変に不干渉を貫いて、潜在的な敵とみられるのも不本意だ」

 

『拝命しました。それでは両者会談の場を持つ方向で調整しよう。場所は神奈川でいいかい?』

 

「そうですね……東京の、委員会都合の施設で構わないと伝えておいてください。向こうからこちらに来たいというならそれはそれで構いませんが」

 

 確定事項を当然のように言う泗水に怜志は一息置いて待ったをかける。

 立場上、強い(・・)怜志の下に委員会の代表が赴くというのは、確かに神殺しと魔術師の関係を考慮すれば当然の流れではあるが、今回に限ってはそういう常識をそのまま鵜呑みにするのは怜志はよろしくないと判断したのだ。

 

『ふむ? 態々自ら足を運ぼうと思った真意は何だい?』

 

 当然ながら電話越しの泗水は面倒嫌いの怜志が態々面倒な方を選ぶ理由を問いただしてくる。それに対して怜志は自分なりの気遣いだと言葉を返した。

 

「沙耶宮さんがどういった方なのかは恵那から多少聞いてます。その上で自分に話を持ってくる辺り……まあこちらから出向いた方が都合がいいでしょう、との配慮です。迎えもいらないとお伝えください」

 

『……成程、ね。書面上は申し上げるにしても対外的には対等の方が先方に受けは良いか。いや、この場合は先方というより周りかな?』

 

 少々迂遠な言い回しをしたが、流石は政を担う組織の頭脳(ブレイン)とだけあって、怜志の意図を簡単に読み切る泗水。

 組織を運用するものだからこそ分かる気苦労という奴を察して苦笑した。

 それに怜志は肩を竦めながら軽口で付け加える。

 

「優秀と言っても歳はそう離れてないと聞きます。年功序列制ですからね、一般的に。その辺りうちがルーズなのは、うちが家族経営だからですよ」

 

『はははははは! 確かに言い得て妙だね、その例えは! 若君のご配慮(・・・)も混みで先方にはそう伝えよう』

 

 十代の怜志は勿論のこと、泗水もまだまだ若手の部類だ。

 だからこそ彼もまた優秀な若手ゆえの意見に同調した。

 

 納得するように電話越しで再度了解の意を示す泗水に怜志は電話越しで見えないことを承知した上でお辞儀をしながら、

 

「お願いします」

 

 と、端的に答えるのであった。

 

 ────そして時系列は現在に。

 怜志の東京訪問はこのような流れで決められたのである。

 

 

………

………………

…………………………。

 

 

 千代田区三番町。皇居からも程近い、オフィスや高級マンションが立ち並ぶ街並みの中、道行く人々に気づかれぬようにしてその建物は街区の片隅にひっそりと佇んでいる。

 

 由緒ある『四家』の一角にして、正史編纂委員会の中枢を握る沙耶宮家邸宅。

 

 曰く大正時代に建てられたという洋館である。地所と歴史を考えれば相当な資産となるだろう建物だが、その見目は悪い意味で歴史の趣が目立ちすぎている。

 老朽化が建物を侵食しているため全体的な印象として非常にぼろく感じる上、幽霊屋敷じみた暗さ、陰鬱さのようなものが滲み出てるせいで書面上の価値に見た目が一切追いついていない。

 

 ともすれば、『権力者』たる沙耶宮の名前には似合わぬようなボロ屋であるが……この場所を指定された側の怜志は逆にらしいなと頷いた。

 呪術関係の施設は変に呪術的な細工を施すより、最初から人気を寄せ付けない造りの方が呪術的には優秀だし、何よりこの見た目ならば多少の不思議(・・・・・・)が起きても握りつぶすのは容易いだろう。

 

 実用的だな──などと世間一般の常識に合わせれば割とズレてる感想を抱く怜志の内心など知る余地もなく、門前から苦笑を浮かべて知った顔の青年が進み出る。

 

「いやあ、こんな場所で申し訳ない。本当は世田谷にある本邸に招くかという話もあったんですが」

 

「自分は何処でも。そちらの都合で良いと伝えたのは自分からですから。なので気に病む必要はないですよ、甘粕さん」

 

 くたびれた印象のスーツ姿の青年──甘粕冬馬。以前、恵那の付き添いで知己となった正史編纂委員会のエージェントの出迎えであった。

 沙耶宮薫の右腕だとは既に知っていた話なので怜志はその登場に特に驚くこともなく受け入れる。

 

「はは、そういってくださると助かります。まあ見た目は困難ですが、書斎の方はもう少し体裁が整っているのでそこまで我慢して頂ければ、っと再会を祝して久しぶりに雑談でもしたいところですが──」

 

「ええ。分かっています。先に要件を済ませてしまいましょう。案内はお任せしても?」

 

「そのための自分ですから。ではどうぞ、中に」

 

「失礼いたします」

 

 律儀にぺこりと一礼したのち、怜志は甘粕の後に続いて入館する。中に入ってみれば成程、見た目ほどに中身までもボロ屋というわけではなく、経年劣化は有れど貴人の住処を名乗るだけの体裁は最低限守られているようだ。

 短い道中、恐らくは沙耶宮の使用人らしき人物らと幾度かすれ違ったが、恐らくは彼らの働きのお陰だろう。

 こんな別邸と言えど管理を怠っているわけではないということだ。

 

 周囲の様子を観察しつつ、勝手知ったるとばかりに進む甘粕の後を追って怜志は屋敷の奥へさらにと進む。

 そして奥まった一室に辿り着くと甘粕は扉を叩いて中にいるであろう主人へ、確認の言葉を投げかけた。

 

「薫さん、天国怜志さんをお連れしましたよ。入室して構いませんか?」

 

「──問題ないよ」

 

「では……天国さん」

 

 促す甘粕に怜志は一度、頷くと入室前に気合を入れるようにして軽く一息入れた後。

 

「失礼いたします──」

 

 日本の呪術界を統べる若き長との対面を果たす。

 

 

「──この度は態々、こういった会談の場を設けて頂き、また王自ら遠路はるばるご足労頂き誠にありがとうございます。改めまして私は正史編纂委員会、東京分室を預かる沙耶宮馨(さやのみや かおる)と言います。以後、お見知りおきを──」

 

 

 滑らかな美声に合わせて完璧な所作で一礼する沙耶宮。

 お手本のような出迎えの振る舞いは流石に日本の裏事情における政を一身に担う俊英というだけはある。持て成される立場から見て素直に感心するしかない。

 完璧な歓待の礼法に、気品ある立ち居振る舞い。

 名門に生を受けた貴人としての風格がそこにあった。

 

 ただ怜志が受けた第一印象は高貴な生まれの貴人──というよりも俗的な表現でいうところの少女漫画の男性キャラクターという陳腐なものだ。

 というのも性別:女性に間違いない筈の目の前の人物は、何故か白いシャツにネクタイを付け、男物のスラックスを合わせた姿である。

 怜志は骨格の違いや僅かな重心の置き方などから事前情報通り一目女性と見抜いたが、謎に男装姿なのに加え、男にも女にも見えるショートボブ風に切りそろえた髪型は人によっては性別誤認は免れないだろう。

 

 男装の麗人──正しく少女漫画に出てくるような王子様がそこにいた。

 

「……別に、自分は個人の趣味嗜好やデリケートな心身のあれこれに口を出すような細かいことは言いませんが、一応場が場なだけ確認させてください。それが貴女の正装ということで?」

 

「日常的にこういう風に振舞っているのか、と問われているならばそうですねと。王がドレスの方が良いというならそちらに合わせますが」

 

 怜志の問いに茶目っ気を見せて言う沙耶宮の対応に、怜志は瞠目するように暫し黙り込むと肩の力を抜くようにして息を吐きながら半眼で応える。

 

「……──はぁ、いいえ。そのままで結構です、舞踏会に来たわけではありませんし。ああ、それと礼儀作法も細かくみない性格なので口調も崩していただいて結構ですよ。察するに、お互い、その方が身になる話が出来そうです」

 

「では王の許しに甘えさせてもらい──ふふ、やあ。改めて初めまして。こうして日本初のカンピオーネ殿に直にお会いできて光栄だよ、天国さん。こういう場だけど堅苦しいのを抜きに気楽にやろう」

 

「こちらこそ、よろしく沙耶宮殿。恵那から伝え聞いていた通りの人だな、貴女は」

 

 そう言ってどちらからともなく手を差し出し、握手をする。

 ……あの恵那の話が通じる相手とは聞いていたが、成程、予想された通りの曲者のようだ。チラリと壁際の背景と化す甘粕に視線を送ると苦笑しながら肩を竦められる。

 どうやら、これが地金で間違いないらしい。

 天才と変人、いや天才と問題児は紙一重ということなのかもしれない。

 

「格式ばった挨拶もそこそこに早速本題に入ろう。お互いに迂遠な腹芸は面倒だろう? なのでこの場の目的は早々に片づけるとしようか。──別件で天国さんに依頼したい仕事もあるしね」

 

「ふむ? ……まあいいでしょう。その話は後で聞きます」

 

「話が早くて助かるよ。それじゃあ、まず最初にこの場が設けられた理由だけれども──」

 

「それに関しては事情は察しています──日本初の神殺しに日本の呪術界を統括する正史編纂委員会が謁見したという事実が欲しかったのでしょう? 貴女ではなく、体面を気にする方々が」

 

 ──早い話、体面を気にするいずれかの組織人が言い出したのだろう。国内を統治する機構である正史編纂委員会が国内初の神殺しに一度も会談の場を持たぬままでいるのは体面に係わる、と。

 権力を掴む者として、『神殺し』という新たに国内に発生した『権威』に対して力関係をうやむやにしたままでは呪術界の統治に支障が出ることを憂いて。

 

 ましてや相手は『民』の出。下手に何もせぬままでは神殺しが自らの組織を旗揚げするという事態に陥った時、黙認したということにされてしまうし、そうでなくとも神殺しを新たな権力として周りが祭り上げる事態も考えられる。

 例え王が乗る気でなくとも──妙な動きが発生するより先に、お互いの立ち位置を確認する場を設けたいと。概ねこのようなところだろうか。

 

「おや、恵那と同じくこの手の俗事に興味がない手合いだと思っていたけれど、その認識はどうやら改めないといけないようだね。こちらの話も出来るとは」

 

 意外と話が通じる様子に一瞬虚を突かれるような表情をする沙耶宮。怜志がそうであるように彼女もまた怜志のことはある程度恵那から聞いていたのだろうし、別口で調査もしていることだろう。

 そしてその両面から受ける印象に相反する怜志の対応を意外と思ったのか。

 

 だが、怜志としては恐らく彼女の思う通り、恵那と同じく政治的なあれこれはどうでもよいというスタンスだ。違うとすればただ一点、

 

「戦においては時として軍政が必要になる場面もある……単に要点だけは押さえているだけです。そちらの認識の通り、その手のゲームに興味はありません」

 

 戦争であれ政争であれ、それが「いくさ」であるならば、どのような戦場であろうとも戦う気概があるというだけの話だ。好き嫌いは別として。

 

「ふ、確かに。印象通りの回答だね」

 

「ご納得いただけたようで」

 

 如何にもつまらなそうに語る怜志に、やはり想定通りの性格だったと苦笑する沙耶宮。優秀と言われるだけあって話が早くて怜志としては非常に助かる。

 

「では悪いけど、その面倒事の確認だけさせてもらおうか。神殺し、天国怜志は今後も僕らとは不戦不干渉の関係性である──これでいいかい?」

 

「ええ……俺としては神殺しになったからと言ってこの国を牛耳るつもりはありませんし、『民』の立場からの下剋上の意志もない。当然、貴女方を支配するつもりも逆に統治を任されるつもりもない」

 

 今まで身の回りの人間に示してきたスタンスだが、怜志は改めて公式な内容としてこの場に言質を残す。

 

「君臨せども統治せず──イタリアの神殺しであるサルバトーレ卿と同じ方針と受け取っても?」

 

「そのように受け取ってもらって構いません。ただ違う点があるとすれば、俺は別段、騒動を探し回るつもりもありません。平時は今まで通り、普通に過ごさせてもらいますよ。その上で職人組合(ギルド)の活動方針に乗っ取って、仕事の内容に納得いけば如何なる立場からの依頼も引き受ける所存です。刀匠としてでも、神殺しとしてでも」

 

「ふむ──」

 

 怜志の意志表明に対して沙耶宮は暫し考え込むように沈黙する。

 発言は予想された通り、お互いに過度には関わり合わないというものである。

 これは良い。

 今まで神殺しとして過ごしてきた怜志を見れば分かることだ。

 

 恵那の依頼で海外に赴く、国内のまつろわぬ神と戦う。

 或いは自らの陣営を通して国外への遠征。

 いずれにしてもこれらは怜志から能動的に動いた結果ではなく、周りが怜志を騒動の渦中に導いた結果である。

 

 神殺し、といえば一般的にヴォバン侯爵やアレク王子のように自らの意志で能動的に動き回り、各地で騒動を巻き起こす者たちが典型例だが──怜志はどうやらその枠から外れた手合いだ。

 他者の示しによって初めて立つ義の王。

 神殺しというものの一般常識からは遠い人物だ。

 

 それでいて聞いたところ、戦闘を嗜好するその特性はそれこそヴォバン侯爵や話に挙げたサルバトーレ卿を思わせる神殺しらしい人物のはずだが……。

 

 この場を借りて王は何者なるやを見極めんとする沙耶宮は、朧気ながら眼前の魔王がどういう気質なのかを事前の情報と直に見えた印象から組み上げる。

 

(──ああ、成程。彼は或いは先達や同期以上に面倒事を嫌う性質ということか)

 

 恐らくだが、怜志の興味はより純粋に戦闘、或いは戦争に注がれているのだ。先に挙げた人物らは戦闘の他、騒動を享楽と受け取って巻き起こす手合いであるが、怜志は違う。彼は本当の意味(・・・・・)で戦いにしか意義を見出していないのだ。

 だから態々、騒動を探しに足を運ぶことも無ければ頼まれたわけでもない渦中に飛び込むこともない。

 そこに戦場があると明確に頼まれて初めてその旗を振るのである。

 

 理由を探す労力も理由なき事柄に飛び込む行動さえ、迂遠だと厭うている。

 それでいてヴォバンのように餓えていないのはひとえに本能で理解しているのだろう。神殺しである限り、騒動は向こうから勝手にやってくることを。

 

 態々探さなくてもいずれ勝手に戦場が回ってくるのだ。

 だから、すべきことは戦時に備えるだけで良い。

 それはさながら好機を待つ戦国の世の武将が如くに。

 

 彼はいつだとて、騒動が起きるのを確信して待っている。

 そして──時が来た時。うちに秘めた衝動を爆発させるのだ。

 理性的に視えながら他の誰よりも本能に忠実なモノ。

 それが、新たな魔王の持つ性質か──。

 

「失礼──君がどういう人なのか、なんとなく分かったよ」

 

「それは、了解の意と受け取ってよろしいのでしょうか」

 

「構わない。こちらとしても現状路線の継続ということで余計なことを考えなくて楽だしね。まあ、僕としては些か残念ではあるけど」

 

「というと?」

 

「──せっかくの神殺し様だからね。いっそ、こんな面倒な場を用意させられる原因を作ったご老人たちに新王の一声で冷や水を浴びせるのも面白いとは思わないかい?」

 

「……梟雄、いえ、乱世の奸雄ですか」

 

「ははは、誉め言葉と受け取っておくよ。何せ、常日頃から戦場に備えてドンと構える戦乱の士の言葉だ」

 

 ジロリと冷たい視線を飄々と受け流しながら沙耶宮は言う。

 まあ何はともあれ、これで片付けるべき事柄は済んだ。

 

「さて、と──甘粕さん」

 

 なので沙耶宮は、ようやく壁際で暇そうにしている部下へと声を掛けた。

 

「ん、もういいのですか?」

 

「うん。ご老人たちが言うところの体裁は整えたし言質も取った。ここからは仕事の話をしよう。ちょっと一息入れられるものを持ってくるよう伝えに言ってくれないかな。頼むよ」

 

「やれやれ、私はパシリじゃないんですが……まあ、わかりましたよ」

 

 ぶつくさ言いつつも、沙耶宮の言葉の了承を示して一度部屋を辞す甘粕。

 その背中を途中まで追っていた怜志だが、さも此処からが本題だと座り直す沙耶宮の動きを察してその視線を元に戻す。

 

「話前にさらっと聞いた“仕事”の話という奴ですか」

 

「その通り。……ああ依頼先は勿論、神殺しの王として」

 

「聞きましょう」

 

 沙耶宮の言葉に怜志が間髪入れずに言葉を返す。

 見れば怜志も座り直し、先ほどまでよりもよっぽど真剣に見て取れる。その傍目には変化の少ない、それでいて分かりやすい態度の違いに沙耶宮は思わず苦笑しつつ、甘粕が戻るよりも先に“仕事”の話を切り出した。

 

 

 

「天国さん──君は妖怪退治に興味はあるかい?」

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