漆黒の書斎を遠雷が照らし出した。
山荘の一角に用意された部屋、そこに家主たる王がいる。
「ほう──」
老人であった。口に出した声は翁のそれらしく年相応に老いているものの、明晰であり、知的ですらある。どこぞの大学で教授を務めている、と言われても信じられるほどに。
実際、広い額と深く窪んだ眼窩、青白い肌色などは如何にも年を重ねた
しかし──獣のように細められた
「神を呼び出すための星辰が整うまであと一刻程。もう暫し私の嫌う退屈が続くと思っていたが──」
──そう、彼こそが魔王である。
獣であり、覇者であり、略奪者であり、簒奪者であり──
神々を殺害せしめ、人々に恐怖と混沌を齎し続け、世界の秩序に反しながら数世紀に渡って暴虐と闘争の日々に耽る男──サーシャ・デヤンスタール・ヴォバンである。
王が嗤う。可憐な生贄たちに混ざりこんだ、獣の気配を感じ取って。
ギシリ、と身体を預ける
……立ち上がる。
「ふふ、何処の誰かは知らぬが
ビリビリと隠すことなく山荘を揺らす峻烈なる闘争心を気取ってヴォバンは称する。武芸者、それもその腕に絶対の自信を有し、それ故神にまで刃を届かせた生来の戦士。ヴォバンのように泥水を啜りながらも強者をねじ伏せ、成り上がった餓狼とは違う、根っこからの強者。『鋼』に代表される武神たちと同じ、極限の実力者。
「面白い。『鋼』と見える前に同じ武を司る戦士と刃を交えるのもまた一興。持て余す退屈を晴らすには悪くない前座だ」
歩き出す。騒ぎを聞きつけてやってきたというならば向かう先は儀式の間だろう。潜んだ敵を炙りだす狩りを愉しめないのは残念ではあるが、それとは別の楽しみはある。
これほどまでに隠すことなき闘争心。挑発するような存在証明。
それは──幾瀬ぶりの
狩りは好きだ、横暴も好む──しかし、それ以上に心を満たすモノがある。
闘争──これに勝る愉悦はない。
「ふむ、此処は年長者として懐の広さを見せるべきであろうな。良いだろう、その挑発に乗ってやろう──尤も」
轟ッ! と一際強く雷が鳴る。
一瞬、照らし出された老人の影は、狼のように不気味に長く伸びていた。
「──私に徒労を踏ませるような輩なら、無惨に食い散らかすだけだが」
………
………………
…………………………。
「イタリアの魔術結社、《青銅黒十字》、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵の信奉者である祖父君──成程、事情は大体把握しました。君のような騎士が何故暴君に与するのか、事情を聴くと同情を禁じ得ませんね」
「はっ……」
儀式の行われる大広間に続く通路、そこに二つの足音が無機質に続く。
少年と少女。王と騎士。
極東より来訪した天国怜志とイタリアの騎士リリアナ・クラニチャール。
二人は軽く自己紹介をしたのち、互いの事情を共有しつつ、同じ道を歩いていた。
「しかし如何な信奉者とはいえ、実の孫娘を死地に送り出すとは。かの魔王の悪名があるにせよ、随分と情が無い。西洋の魔術師とはそういうものなのですか?」
「どうでしょう。事情は家柄やそれぞれの家族仲によって異なりますから。ただ我々、西洋の魔道を歩む者にとって王の命令は絶対にございます。……心中はどうあれ、王命に従うのは当然の事かと」
「──承知。それがそちらなりの処世術ということですね。まつろわぬ神に立ち向かう戦士とはいえ、同じ穴の貉、嵐が過ぎるのを待つが如く、犠牲を最小限に抑えて回る方向を重視する。情が無い、と言ったのは詫びましょう。重ねた苦労、お察しします」
「えっと……はい」
目を伏せ軽く頭を下げる怜志にリリアナは困惑する様に眉を顰める。
まさか王たるものに同情されるとは考えなかったのだ。
思わず三歩ほど前を歩く少年の横顔を観察する。
(日本に誕生した
聞くところによると彼は何らかの魔術結社や組織に与する者ではないものの、魔術にも心得がある刀匠の出であるという。察するに在野の魔術師、集団に与せず技を鍛えることを選んだ類の家系なのだろう。
それが何の因果か神に出会い、殺したことで神殺しとなった。実に荒唐無稽な経緯だが似たような話には聞き覚えがある。
英国を拠点に活動するイギリスの魔王、『
あちらは職人ではなく研究者の家だが──閑話休題。
公にはまだ知られない彼であるが、彼の幼馴染──祖父母の代から親交が続く家系の娘は彼が神を殺したことを知っており、そしてその娘の友人である巫女がヴォバン侯爵に攫われたことで、彼は此処、オーストラリアの大地を踏むこととなった。
目的は当然、その友人── 万里谷祐理の奪還。
そのために眼前の少年は単身最古の魔王に挑むべくやってきたのだという。
(……侍、という奴だな。若干、知識に怪しいところはあるがヴォバン侯爵の脅威を正しく承知の上で恐れずやってきた。理由も行動も、個人的には好感が持てる、けど)
リリアナも騎士である。幼馴染たっての願いとはいえ命がけで遥かな格上に挑むという彼の行動原理は無謀と思いつつも理解できる、好感すら持てる。
尊敬すべき蛮勇である。──けれど、そう、けれど。
騎士であり、
(マリヤという少女を助けるだけなら何故、この方は己の存在を喧伝するような振舞いをする?)
──既にバレたから、とはいうが要人奪還が目的ならばやりようはまだ色々とあったはず。こうも悪目立ちするのでは返ってヴォバン侯爵の注目を浴びてしまうだろう。
そうなっては目的の達成は難しくなる。少なくとも交戦を避けて少女を助けるというのは不可能だ。一戦交える程度は覚悟する必要があるだろう。
「…………」
最初はあの遭遇からの、この理性的な会話を出来るまでに温厚な人物と思えた。話してみれば印象通りでこちらの言葉の意図を察したり、冷静に物事に当たっていたりと己と同じ真面目な気質の人間に思えていた。
だが……これはそうではないんじゃないかと思い直す。
思えばサルバトーレ卿。彼は神や同族との戦以外では無関心であり、抜けたところはあるものの、会話も穏やかに行えていた。
卿と同じ匂いが目の前の少年からもしている。理性的なのではなく、単純に関心が薄いというか、まるで
「ところで──」
「! 何でしょう?」
突然の呼びかけにギクリと、思考の海からリリアナは浮上する。
まさか不遜な探りが悟られたか──。
思わず喉を鳴らすリリアナにしかし、怜志は特に気に掛けることなく別の話題を振っていた。
「イタリアにも魔王は居るだろう、サルバトーレ・ドニ。祖父君からの指令とはいえ、君たちの国にも王は居る。侯爵の横暴に無理に付き合う必要はなかったのでは?」
「それは──」
実にタイムリーな話ではあったが、内容は警戒していたそれとは違った。
少しだけほうっと安堵の息を吐きながらリリアナは質問に返す。
「……確かにサルバトーレ卿であれば関心を持つでしょう。あの方も戦を好むお方だ。ヴォバン侯爵からの庇護を求めれば駆けつけるやもしれません」
「……でしょうね」
こくりと頷くリリアナに、怜志は憮然と瞑目した。
──彼女は恐らく知らないのだろう。
既に駆けつけている問題児の存在に。
そっと、怜志は同情した。
「ですが、私の個人的な感情はどうあれ、一門としてはヴォバン侯爵に付いていますから。騎士として、王に仕えるのは当然の義務です」
「……その理論で行くと今、侵入者である俺と行動を共にするのは不味いのでは?」
「それは……ええ。──ですが、我々ただの人間では王たる御身には逆らえない。王には王を。侵入者を敢えて懐に呼び込み、王自ら討伐して頂くがため、こうして貴方を引き入れているのです」
「なるほど。確かに──それならば、しょうがないですね」
「ええ。騎士として情けない限りですが、これは仕方がないことなのです」
そう言って少しだけ不敵に微笑むリリアナに、怜志もつられて薄く笑みを浮かべた。
王の横暴に振り回されるだけの憐れな臣下……そう思っていたが、この少女も中々どうして強かである。
「とはいえ──仮に、庇護を求めたところで結果は変わらないとも思います」
「む、それは何故」
「簡単です。──ヴォバン侯爵は既に十を超える神々と見え、倒し、生き残ってきた現存でも最古参の魔王です。そんな相手に誕生したばかりの王ではとても敵うとは思えない。まして複数の権能を有するヴォバン侯爵に対し、卿は未だ一つばかり。仮に戦ったとしても卿では厳しい戦いになるでしょう」
「──
リリアナは気づかない。
その発言で、僅かに怜志の声音が変じたことに。
……見えて来た大広間を見据えながら会話は続く。
「その理屈で行くと新参の俺も同じ結論に至るのですが」
「ですね。とはいえ、貴方はマリヤの救助に来たのでしょう? 戦うのではなく、奪還が目的であるならば侯爵が相手でも出し抜ける可能性はあります」
言葉には励ましの色があった。
本心からの激励なのだろう。相手が最古参の魔王であっても、少女を助けることだけならきっとできると、騎士なりの応援。
だが──怜志は。
「ク──ふふ……」
「ん──王?」
不意に予想外の音色を聞いた気がしてリリアナは前を歩く少年を見た。
少年に変わった変化はない。
口元には薄い笑み、竦むことなく歩む足取りにも、敵地にあって油断なく振舞う様にも何ら変化はない。
しかし──それでもリリアナは何かが違うと予感した。
「──確かに先行する経験者にようやく舞台に立ったばかりの雛鳥とでは結果は見えている。まして歴戦ともあれば尚の事。未熟な兵では熟練の戦士には届かないだろうな」
淡々と紡ぐ言葉。変わらない、変わらないがしかし。
言葉に滲み出る──歪んだ衝動。
それはあの時、竜と戦う姿に映っていた──。
「だが、それは
「それは──どういう──?」
「ああ、何……簡単な話だよ、西洋の騎士」
振り返らずただ歩み進める少年。
彼はいよいよ辿り着いた大広間に踏み込みながら、言う。
「──戦場において事の善悪なし。皆、遍く対等なり」
──運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり。
何時も敵を我が掌中に入れて合戦すべし。
死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死するものなり。
運は一定にあらず、時の次第と思うは間違いなり。
武士なれば──我が進むべき道はこれ他なしと、自らに運を定めるべし──。
「勝負はやってみるまで分からない。それだけの話だよ」
生い茂る草を薙ぎ払う様に、怜志は大広間に踏み入った。
──聞いた通り。大広間には巫女や魔女の素質を備えた少女たちがいた。
人種も年齢も無差別。だが顔に浮かべた表情は等しく不安に満ちており、この状況に憔悴しているのは明らかであった。
彼女たちを見渡して思わず怜志は言葉を漏らす。
「……多いな」
ぼそりと呟いた言葉には若干の苛立ちが混ざっていた。
聞いてはいたがこれは惨い。
集められた三十ほどの少女たちは良くて十代後半、中には年齢が二桁に届いているかどうか怪しげなほど幼い人物も混ざっている。
元より彼は仁の人柄。
……少しだけ、被り直す。万里谷祐理までと考えていたが、取りあえずは彼女らを退去させるまでは我慢すべきだろう。
「──失礼、婦女子方。多少の無遠慮は大目に暫し、俺の言葉に耳を傾けてほしい」
すっと背後に続いていた騎士が下がるのを察しながら怜志は一歩踏み出す。
怜志の言葉に合わせて顔を伏せていた少女たちが一斉に顔を上げた。
不安、恐れ、困惑──そして、僅かな期待。
怜志は頷く。
「俺は天国怜志。極東は日本に住まう刀匠一門の末席──神を殺し、
紡がれた言葉の意味を咀嚼して少女たちが息を飲む。
「この場に訪れた目的は要人救助──我が国より攫われた巫女の救出です。第一に優先すべき目的、俺の任務はそれに当たる」
少しだけ動揺と不安で場が揺らぐ。
懸念は最もだ。怜志が巫女の救出のみを目的とするならば、他の少女らは見捨てられる可能性があるということ。言外に告げられた残酷な言葉に少女たちは再び絶望しかける。しかし、怜志に彼女たちを見捨てるつもりは毛頭ない。
「だから──それを踏まえた上で、可能な限り俺は貴方方を庇護します。俺の手の届く限りは貴女方を無事に家族の下に返して見せます。なので、どうか安心してください」
少女たちの懸念を振り払う優し気な笑み。
……それが限界だった。
「あ──」
つぅと少女たちの一人が涙を流す。
それをきっかけに堰を切る様に抑えていたものが溢れ出す。
静かに涙する者、嗚咽を押さえる者。
態度は種々様々だが、共通しているのは絶望からの涙ではないということ。
助かった──その安堵が波のように広がってゆく。
「……これで良いだろうか?」
「ええ。……手前勝手ですが、巫女たちを代表して申し上げます。王よ、ありがとうございます」
「大したことではないよ。それに火事場はこれからだ。っと、その前に」
感謝を述べるリリアナを嗜めつつ、怜志は辺りを見渡す。
──居た。
写真で確認した少女の影を捉え、怜志は彼女に歩み寄る。
「失礼、君が万里谷祐理で間違いありませんか?」
「え──あ、はい。そうですけれど、貴方は──」
日本特有の巫女装束に、亜麻色の長髪。
写真通りの特徴の少女は、予想通り怜志の問いを首肯する。
当惑する彼女に怜志は頷き、改めて名乗った。
「先ほど名乗った通り、俺は天国怜志。幼馴染──清秋院恵那に頼まれて、君を連れ戻すために此処に来ました。改めて、よろしく」
「恵那さんの幼馴染……? あ、もしかして恵那さんの御婆様からの付き合いだという刀匠の」
「やっぱり聞いていましたか。──うん、恵那の祖母と俺の祖母は旧知の仲でね。その付き合いで俺も恵那や清秋院方々とは良くしていただいている」
「そうでしたか──はい、貴方のことは恵那さんから聞いてます。なんでも同じ剣術を高め合う
ふわり、と儚げに少女が笑う。
思わず怜志をして、ほうとため息が出るような美貌。
自分とは違う本当の意味で美人な大和撫子、とは幼馴染の言葉だったが、成程、そう言ってのけるだけの魅力が確かに眼前の少女にはある。
「こちらこそ改めて初めまして。万里谷祐理と申します。恵那さんとは同じ正史編纂委員会に務める巫女の仲間として、また家ぐるみでお世話になっています。どうぞ、よろしくお願いしますね」
「ん──よろしく」
淑やかに頭を下げる媛巫女に怜志も改めて武骨ながら頭を下げる。
場所が場所なら彼女のようにもう少しきちんとした挨拶と紹介を行いたいものの、そうも言ってはいられない。
未だに此処は死地、惜しいが事態は切羽詰まっている。
「さてせっかくならばこのまま親交を温める自己紹介などしたいところだが──すまないね。残念ながらそんな余裕はない」
「……心得ております」
怜志の言葉に祐理は気丈に頷く。──ありがたいと怜志は内心で思った。
名乗った際、軽く微笑んだことからも予想以上に芯の強い少女だ。
パニックになってもおかしくない状況で、彼女は冷静に最善を務めようとしている。
助けなければ、という使命感がより強くなるのを怜志は自覚した。
「──よし、まずはこの場を離れます。儀式の詳細は把握してませんけど、この場にいては強制的に巻き込まれる、という可能性も無きにしも非ずです。安全な場所まで、とはいかないまでも山荘の外にまでは離れるべきです」
「異論はありません──ですけど、大丈夫でしょうか。辺りにはヴォバン侯爵の支配する方々が警戒しています。私たちでは彼らの包囲を抜けるのは……」
「承知している。君含め婦女子の方々を戦場には立たせないさ。敵は全てこちらで引き受ける。流石に君たちを抱えて運ぶことはできないが……道は何とか付けられる。とはいえ君たちには自らの足で此処を逃れてもらう必要があるのだが──」
口にしつつ、さてどうだろうと怜志は舌で唇を舐める。
眼前の少女は気丈だ。リリアナという騎士もいる。
だが、周りの少女たちは果たして彼女たち程心を強く在れるかどうか。
涙する様子を見るに、自らの足で立って逃げる気力があるのかという不安が過る。
……場合によっては少々強引に『煽動』する必要があるかもしれない。
内心に不安と不穏な思惑を抱えた怜志だが、懸念は一瞬のモノ。
怜志の言葉に続く祐理の言葉が、その内心を打ち消した。
「──分かりました。では、私は彼女たちを起こして回ります」
「……出来るのか?」
「分かりません、けど、私でも皆さんを励ますことだけなら出来ますから。何とか、やれるだけのことはやってみます」
「それは……うん、実に頼もしい」
──やはり強い、と改めて怜志は舌を巻いた。
ならば信じよう、とも。
はあと息を吐いて怜志は意識を切り替える。
情は刃の下に、思考は冷徹な機械の如く。
目的、方法、状況、容認できる最低限と認められる失点の数。
戦士としての思考、その疾走を開始する。
「じゃあ──そちらは任せた。俺は君たちの道を切り拓こう。然らば──」
怜志は視線を祐理から切った。
大広間を見下すバルコニー、その奥へと続く闇を見据えて、無言で怜志は刀を抜いた。
「天国さん?」
「……わかっていたことだが、流石に虎の穴──いや、狼の巣窟で騒ぎすぎたようだ」
怜志が告げたその直後──闇の向こうから突如として影が飛び出す。
狙いは祐理を庇うように立っている怜志その人。
鼻につく獣臭と肌を泡立たせるような殺意を向けながら一身に怜志へと飛び掛かる。
「フッ──!」
一閃。刹那に瞬く電撃のように煌めいた居合斬りは飛び掛かってきた影──人ひとり覆い隠せるほどの大きな狼をその顎から胴体にまで掛け、真っ二つに切り裂いた。
「きゃあああ!?」
驚いて悲鳴を上げる祐理。
それを黙殺しながら怜志は目の端で仕留めた敵の影を追う。
(血が出ない。これは──ヴォバン侯爵の持つ狼の権能とやらか)
与えた致命傷からして周囲に血液や内臓がぶちまけられてもおかしくない派手な殺害にも拘らず、仮にも生き物とは思えない青黒い液体をまき散らして虚空へ霧散していく。
権能による召喚獣の類。そう結論付けて怜志はバルコニーへと視線を戻す。
──狼が現れた闇の向こうから、カツン、カツンと規則正しい足音が響いてくる。
「──やれやれ、騒々しい。君かね、不遜にも王の住まう屋敷で騒ぎを起こす痴れ者は」
ひっと誰かが悲鳴を嚙み殺す気配がする。
深淵より歩み出る老爺。およそ人とは思えない凶眼を宿す人物は、一見して友好的に見える──まるで獣が舌なめずりするような笑みを浮かべて怜志を見下ろす。
「──────ハ」
いやはや、これは中々──想像以上に。
「──……家主に連絡もない急な来訪、それ自体には詫びを入れます。──ですが、暴君の治世に我が国の媛巫女が付き合う義理は持ち合わせておりません。然るに、返してもらいに来ました」
「ほう──?」
両雄、遂に相まみえる。
神を殺し、遥かに人の領域を逸脱した戦士たち。
──
最新の魔王は最古の魔王へと、その刀を向けた。