神々、君に背き奉る   作:アグナ

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え。まだ実質なんも書いて無いのになんで伸びてんの?
こっわ……(ランキングに乗る自作を見ながら)

とはいえ、カンピオーネ二次の閲覧者が増えたということはカンピオーネ二次は未だに人気ジャンルということ……!
ならカンピオーネ二次を書く人も増える余地があるということでは!?

みんな、書こうぜッッッ!!!


神殺し Ⅴ

「うん! 迷った!!」

 

 唐突に間抜けな言葉を叫ぶのはサルバトーレ・ドニその人。

 人気のない暗がりの通路。

 無造作に剣を担ぎ、辺りを見渡しながら口にした現状であった。

 

「いやあ意外と広いんだねぇ、この山荘。これは競争の方は僕の負けっぽいかな?」

 

 迷子を主張する割には立ち往生もせず、散歩でもするかのようにのんびりと歩き出す様は如何にも享楽的な性分の持ち主らしい様である。

 

 ……怜志と別れた後、彼とは別口の侵入経路でヴォバン侯爵の待ち構える山荘へと潜り込んだ彼だが、意外なことに彼は事ここに至るまで誰に気づかれるでもなく、その深部へと歩みを進めていた。

 

 敵は諸共消し飛ばすを地で行くヴォバン侯爵。その気性から、彼が警備の網を張り巡らせなかったというのもあるだろう、そも獣の嗅覚で直感的に敵の存在を嗅ぎ分けるが故に警戒の必要がないというのがヴォバン侯爵の特色である。

 本来であれば、怜志がそうであるようにドニの下にも相当の障害が差し向けられて当然であるはずだが、意外なことに事ここに至るまでそのような存在は現れなかった。

 

 理由は二つ。一つは怜志の存在だ。

 要人救助を語り、山荘へと乗り込んだ彼だが、侵入が暴かれた時点で彼はその方針を解いて、それまでとは真逆に己の存在を喧伝する様にむき出しの闘気を振りまいている。

 そのため、行き当たりばったり(ライブ感)で進むドニの存在は彼の闘争心によって撹拌され、獣の嗅覚を以てしても気取られにくくなっていること。

 

 そしてもう一つはドニの気質である。

 知人や敵からもやれ馬鹿だ、やれ阿呆だと罵られる程度には漫然と振舞うドニであるが、一念に己が剣を鍛え続け、強者との戦を好み、挙句に神殺しへと至った彼は雑念や欲といったものをほとんど持たない。

 ともすれば、それは悟りへと至った修行僧や、一つの業を究めに極めた職人のような境地にあるといえる。

 

 大智は大愚に似たりという言葉を体現するが如く、呼吸する様に無念無想を体現する捉えどころのない彼は、侵入するという行為を決行した時点で、自然にその気配を空ろに紛れ込ませていた。

 そのため、思慮深く存在を消して任務に励もうとする方が目立ち、思慮浅く特に何をするわけでもなく突き進む方が隠れ潜むという奇妙な結果が紡ぎ出されることとなったのだ。

 

「んー……こっちかなァ……」

 

 極東からの来訪者、老獪なる魔王の視界から外れたまま自由気ままに動く鬼札(ジョーカー)。如何にも何も考えてませんという風に、ドニは勘任せに道を選び、鼻歌交じりに歩いていく。

 そんな様で目的地に辿り着くには通常、幸運の助けがいるものである。

 だが、幸か不幸かドニは神殺し。運も含めて勝負どころで勝因を掴み取るのに誰よりも長けた人類最強の一角である。

 

 直感的に選び取った解答は、思わぬ采配(サイコロ)を転がした。

 

「おっ?」

 

 歩みが止まる。なんとなく突き進んだ先、通路を曲がった向こうに広がる光景を眺め、ドニは喜ぶように声を上げる。

 

「これまた魔王城らしい、それっぽい扉だ。ボスはこの先だったり?」

 

 自身が怪我することも恐れず、ドニは背負った片手剣でトントンと肩を鳴らす。その視線は通路の向こうに見える鎖で施錠された両開きの扉に固定されている。

 魔術に疎いドニであるが、軽く眺めて呪力が見て取れる様子から、封印でもされているのだろう扉である。

 通常、こういったものを目の当たりにすれば呪詛返しやトラップを警戒し、慎重にふるまうものであるが、生憎とそんな小賢しい思考をドニは回さない。

 

 彼はそのまま無造作に扉の前まで近づくと……。

 

「えい」

 

 ガキン、と掛けられた封印ごとその手に握る魔剣で扉を真っ二つに斬り裂いた。

 

「よし、開いた。えーっと……たのもー!! 我こそは魔王サルバトーレ・ドニであるぞ!! なんてねっと」

 

 色々と間違った適当な口上を述べながら、ドニは部屋へと踏み入る。

 が、彼の望む何かしらの反応は特に返ってはこない。

 人気の失せた部屋はこれ以上なく無人を主張しており、期待していた敵からの反応も、魔王の姿も何もなかった。

 

 ……代わりに、奇妙なモノが、その部屋には鎮座していた。

 

「……石像?」

 

 ドニが首を傾げる。

 視界の先にあったのは彼が口にしたように、石像であった。

 相当数の人が収容できそうな大広間。四方を蝋燭が照らす像の足元には魔法陣を思わせる複雑な溝が蜘蛛の巣状に広がっており、何処からともなく絶え間なく流れ込む水が無機質な石の床面を蒼く彩っている。

 

 その中央に坐する石像。それは一目で女性と見て取れる像である。

 

 傍に小鳥と蛇を侍らせる女性像、豊満な肢体を持ち、石の身体ながらも艶めかしい魔力を感じさせる様は何処かの女神を思わせる。

 ただ処女神の類ではない。女神だと仮定して恐らくは母神の系譜だ。

 その証拠に、像の腹部はぽこりと膨らんでおり、そのモチーフが妊婦であることをこれ以上なく示している。

 

「──……なるほどね」

 

 ニヤリと不吉な笑みを浮かべるドニ。

 直感する、この像が起点だ(・・・・・・・)

 正体は知らない、詳細は知らない、アレが何なのか、この場がどういう役割なのかドニには見当もつかない。

 

 しかし判る。ヴォバンなる魔王が目論む儀式とやら、集められた巫女や魔女たちと同じく、儀式に必要不可欠な要素が目の前のこれだとドニは人並外れた直感で察した。

 

 ──奇しくも、それは怜志とヴォバンが見えたのと同刻。

 彼らが対峙する儀式の間より地下での話であった。

 

 

………

………………

…………………………。

 

 

「ふむ……」

 

「…………」

 

 刀を向ける若者を見下ろし、値踏みするような視線でヴォバンは山荘に現れた侵入者を観察する。

 年は若い。《青銅黒十字》を通じて呼び出させた供回りのリリアナ・クラニチャールとそう離れていないだろう。何なら東洋人特有の西洋人から見て幼く映る顔立ちは、彼女よりも年下に見えさえする。

 

 だが、齢はどうあれ、戦士としての完成度は彼女より遥かに隔絶していた。隙の無い立ち振る舞いに、衣服の下に見える肉体の完成度、ヴォバンを前にしても衰えるどころか凄みを増していく闘気。

 

 クッと、思わず口元が吊り上がる。

 ──戦士(チャンピオン)

 獣の嗅覚が訴えかける、眼前のこの男もまた自身の同族であると。

 

「不躾な侵入者にしては最低限の礼儀は弁えているようだな。どうやら名乗らずとも知っているようだが、先に名乗られた以上は私も名乗り返すべきだろう──サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。魔術師どもからは『侯爵』などとも呼ばれるこの山荘の主人だ」

 

 瞬間──轟! と、山荘に吹き付ける暴風の勢いが強まった気がしたのは気のせいではないだろう。けたたましく打ち付ける雨音、唸り声のように響く遠雷。正しく嵐の夜といった有様だが、場に満ちる緊張感はそれら雑音を掻き消して余りあるほどに研ぎ澄まされている。

 

 まるで本震を控える余震。真なる嵐を迎える前の静寂のように。

 

「察するに各地で攫った巫女の中に、君に縁があるものが紛れ込んでいたというところか」

 

「ええ。こちらの万里谷祐理は我が祖国日本における巫女の一人です」

 

 ヴォバンの予想を怜志は頷いて肯定する。

 突然水を向けられた祐理の方は驚いてビクリと反応するが、それを気にする者はいない。『王』の視線は互いの一挙一足に固定されており、それ以外に見ていない。

 

「そうか。では事後承諾で申し訳ないが、君の国の巫女とやらは貰っていく。私の取り仕切る儀式に必要なものでね。まあ許せ」

 

「……返す気はないと?」

 

「取引したいというならば礼儀に免じて応じよう。代わりの巫女を連れてくるでもいいし、私の獲物となる神を連れてくるのでもよい。然るべき代償を用意できるのであれば件の巫女とやらは君の下へ返却しよう」

 

「……取引ときましたか。一方的な略奪を行っておいて、あくまで交換でしか応じないとは『王』を名乗るにしては随分と横暴ですね。それに狭量だ」

 

「私からすれば寛大な処置なのだがね。少なくとも盗人同然に我が館に忍び込み、大切な儀式に水を差す侵入者に対して取引に応じてやるといっているのだ。これほどの慈悲はあるまい?」

 

「──確かに。では、その慈悲に甘えて、取引に乗りましょう」

 

 あまりにも傍若無人なその言い様。

 正義漢であれば怒りの一つでも見せるだろう言い分に、しかし怜志は冷静だった。ヴォバンの主張に彼は納得し、頷き、そして──刀を構える。

 

「やる気かね? 見たところ新参の王なのだろうが、このヴォバンを相手に巫女を取り返して見せると?」

 

「いいえ──俺は取引に乗ると言いましたよ」

 

「ふむ、私に見合う獲物を用意するということかね」

 

「はい。取り返すよりもそちらの方が単純(シンプル)だ」

 

 刀剣に呪力が満ちる。

 周囲に振り向いていた闘気が一点に収束する。

 

 ……爆発寸前の火山を思わせる光景。

 息を飲む魔女巫女を背後に控えさせながら一歩、怜志が歩み出る。

 

「俺が、貴方のお相手を務めましょう──今宵、そっ首叩き落とす」

 

「────」

 

 気負う様子もなく、ただ淡々と当たり前を告げるようになされる宣戦布告。

 さしものヴォバンも数世紀にも及ぶ人生を振り返って尚、此処まで堂々とした挑戦を受けることは無かったために言葉を無くして呆然とする。

 

 だが──それも一瞬のことだ。

 ごぼり、と噴き出す寸前の溶岩のような。

 くつくつと喉を鳴らす愉悦が儀式の間に響く。

 

「く、くくく──」

 

 静寂を引き裂く獣の笑み。牙を鳴らす獣性の気配。

 昏く隠しがたい破壊衝動は、斯くして爆発する様に広がっていった。

 

「ハハ、ハハハハハハハハ!! 首を落とす、だと? 生まれて間もないだろう若輩者がこのヴォバンを相手に!? 大きく出たな小僧! 口にした大言壮語は飲み込めぬぞ!!」

 

「撤回するつもりはありません──さて、騎士リリアナ・クラニチャール殿」

 

「は、はっ……!?」

 

 哄笑する魔王を傍目に、視線を向けることなく突如として言葉を振る怜志に、リリアナは呆然と反応する。

 

「話し合いは斯くなりましたので、娘たちの避難を任せられますか? ああ、あの魔王の妨害は全て俺が弾きますので、貴女は連れ出すだけで構いません」

 

「は、話し合い……? 今のが? い、いや避難を引き受けることに否はありませんが、まさかお一人でヴォバン侯爵に挑むつもりで!?」

 

「告げた通りです。嘘偽りはありませんよ」

 

「無茶です! ヴォバン侯爵は既に十を超える神々を下した神殺し(カンピオーネ)! 如何に同じ神殺し(カンピオーネ)と言えど……!」

 

 知り合って間もないリリアナだが眼前の少年は、神殺しであっても礼儀と良識を備えた好漢である──リリアナはそのような印象を抱いている。

 故にその諌言は怜志の身を案じてのモノ。歴戦の魔王から巫女たちを庇護すべく、身体を張ることを選んだだろう彼の無茶を心配してモノだった。

 

 しかし──。

 

 

「…………はぁ(・・)

 

 

 ため息。まるで心底、鬱陶しいと言わんばかりの呆れ。

 およそ今まで怜志に抱いていた印象を木っ端と砕くような冷えた反応。

 ……初めて、怜志の視線が老王から外れる。

 

 無機質な瞳、可能な限り感情を排したような視線で怜志はリリアナに告げる。

 

「気遣い不要、巫女たちを連れて逃げてください──いや、逃げろ(・・・)。これは王命だ」

 

「……──ッ……了解、しました」

 

 人間らしい配慮はそれで真っ二つに断ち切られた。

 言いかけた言葉を噛み締めながらリリアナは感情を排して、怜志の語る通りに巫女をまとめて離脱を図るべく行動を開始する。

 騎士の背後、心配そうに怜志の背を見つめる万里谷祐理(救助者)の視線すら黙殺する。視線を戻した怜志の瞳には、既に目の前の魔王しか映っていない。

 

 それらのやり取りを傍から見ていたヴォバンは興味深そうに言葉を漏らす。

 

「良いのかね。君の目的は彼女たちの救助であるハズだが?」

 

「貴方の首を落とせば、その目的()達せられます」

 

「クッ──成程! そういう手合いか(・・・・・・・・)!」

 

 言動からしてヴォバンは米国を守護する神殺し(カンピオーネ)のような、民草の守護に熱を上げる手合いかと思っていたが、違う。

 眼前の少年は、そのような情に厚い手合いではない。

 

「いいだろう。そこまで言うからにはやってみせろ! このヴォバンの首──落とせるものなら落として見せるがいい!」

 

「言われずともそうします──では……ああ、戦争を始めよう」

 

 構える刃に映る怜志の口元、鈍い輝きに映るそれは三日月に歪んでいた。

 次の瞬間──首輪を外された猟犬のように、剣士は地を蹴って走り出した。

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