十九世紀初頭。イタリアの魔術師が書き残した著書により、その呼称は広がった。
曰く、覇者。曰く、王者。曰く、魔王。曰く、エピメテウスの落とし子。
曰く、曰く、曰く──。
彼らを讃える、或いは戒める名は数あれど、その意味するところは一つだ。
即ち、人の身で神々を殺戮して見せた
人知未踏の天上に打ち勝ち、あまつさえ天上を天上たらしめる至高の権能を簒奪し、己がモノとして振るって見せる者たち。
グリニッジの賢人議会が認識するところ、その数は五名。
一人──サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵。確認される最古参の王にして、その悪行から欧州全土に魔王の代名詞として恐れられる神殺し。
二人──羅濠教主。中国に君臨する神殺し。ヴォバンと同じく最古参の魔王の一角であり、魔術結社『五嶽聖教』の長。フットワークの軽いヴォバンとは異なり、その身は廬山の山奥にあるという。
三人──アイーシャ夫人。「妖しき洞窟の女王」、「永遠の美少女」とも謳われる妙齢の魔王。特定の居住地を有さず、その動向は常に不明なれど、他の魔王たちと比べても特異的なその権能から最古参の魔王たちすら警戒する女王。
四人──アレクサンドル・ガスコイン。近代に入ってから出現した魔王の一人で、魔術結社『王立工廠』を率い、コーンウォールに拠点を構えている。同じく英国に構える賢人議会にとっては宿敵ではあるが、多くが戦に愉悦する魔王の中において、直接的な武力衝突を好まない比較的穏健な若き魔王。
五人──ジョン・プルートー・スミス。正体不明の怪人、アメリカに潜む冥王。自国民の保護に熱を燃やす様から『ロサンゼルスの守護聖人』とも呼ばれる王だが、周囲に甚大な犠牲を要するその権能から、崇拝と恐怖、二面の人気を集める者。
以上五名こそが魔術社会に広く知られる魔王たちであり、この五名こそが唯一、神々にさえ抗って見せる人類最高戦力である。
しかし──今宵、この一幕でその認識は書き換わる。
最古の魔王に挑むは新進気鋭の二つの冠。
一つは後に『剣の王』と語られるイタリアの魔王、サルバトーレ・ドニ。神王ヌアダを殺害せしめた魔剣の主にして、他の魔王にもれず、後の世に度重なる騒乱を持ち込むこととなる神殺し。
そしてもう一つ──『仁王』天国怜志。
《鋼》の軍神を討ち果たし、その権能を簒奪せしめた極東の神殺し──。
………
………………
…………………………。
──地を蹴ると同時、薄闇の向こうで蠢く気配を察知する。
バルコニーからこちらを見下ろすヴォバン侯爵。
さながら舞台の見世物を大上段から眺めるように、挑む怜志に構えるそぶりもなく、ただ悠然と振舞い、こちらを観察している。
傲岸不遜──誇りある気質の人物であれば憤りすら覚えるだろう、完全に侮り切った態度であるが、それが許されるほどに魔王は暴虐に卓越していた。
「ン──」
闇から孤影が飛び出してくる。
進む怜志の進軍を阻む敵手の存在。振るわれた両刃のロングソードを刀で打ち払いながら、怜志は眉を顰める。
「十、二十、三十──三十七。剣持ちの前衛十七、控えの長物持ちを十三、弓兵銃手が七といった所か。これを越えねば、といったところか?」
「この程度で務まるのであれば、このヴォバンが出るまでもない。さて、無謀にも我が無聊を宥めると言ってのけたのだ。少しはらしい見世物の一つでも見せてみるがいい」
「ふむ……では、そのように」
鼻を鳴らすヴォバンの挑発に、怜志はこくりと一つ頷くと挨拶代わりと言わんばかりに、怜志の進軍を一に阻んだ騎士だったらしい死者を、その得物ごと一刀両断に叩き切った。
「──!」
多勢に無勢──数の暴力に加え、敵はいずれも
だが──。
「──遅い」
数的劣勢、熟練練度──それがどうしたと言わんばかりに、王は進撃を再開する。
交錯は常に一瞬。すれ違いざまに首を刎ね、心臓を穿ち、或いは胴を横一線に、頭蓋から股下に掛けて両断し、突き進む。
一撃必殺。体系化した剣術というよりは刀を熟知しているが故の所作。最も効果的に切れ味を発揮する振りを最も効率的に奏で続ける。
「成程、従僕を一蹴して見せる程度にはやるようだな」
「…………!」
飛び上がり、バルコニーに降り立つ怜志。
かの魔王までの距離は既に二十メートルもない。
守る従僕は全て打ち払い、敵は眼前に身一つ。
であれば一足のうちに踏み込み、刀の間合いに敵を捉えるのは容易。
──などと、そんな理性的な判断は、警鐘を鳴らす本能によって打ち消される。
怜志の身を貫く餓えた獣性の気配。
刹那、怜志は視線をやることもなく殆ど反射的と言える領域で刀を脅威の方向へと振り切る。果たして刃越しに肉を切り裂く手ごたえと、甲高い悲鳴。
怜志の着地を背後から狩りに来ていた狼を紙一重で切り捨てる。
「群狼……上か」
天井を見上げる。
……そこには十頭を超える狼たちが群れを成して
「さて、これはどう凌ぐ?」
「無論、切り捨てる」
嗤うヴォバンに応える怜志。
瞬間──やってみせろと狼たちが吼えた。
天井を駆け、壁を疾走し、調度品やぶら下がるステンドグラスをも足場に跳ねまわりながら四方八方、上下左右から一斉に襲い掛かる狼たち。
視界を散らす緩急の効いた連携と、こちらの警戒網の穴を目ざとく嗅ぎ分ける野生。先の従僕たちとは異なる先鋭化した群れの脅威が怜志を襲う。
「ふっ──はっ!」
奔る剣閃が狼の首を捉え、落とす。
滑らかに命を絶つ刃は首の骨ごと狼の命脈を完全に殺し切る。
フェイントを織り交ぜながら襲い来る狼たちを正確に見切り、躱し、反撃の一太刀で確実に殺す。最小限の動作で敵の攻撃を潜り抜けて刀を振るう様はよく出来た舞のようだ。生と死の境で踊る
ヴォバンも感心する様に息を吐いた。
「大した腕だ。我が従僕も、狼たちすらも一蹴して退ける剣技。魔術師どもに言わせるところの聖騎士に匹敵する腕前といったところか」
襲い来る群狼を捌きながら着実にヴォバンへと迫る若き戦士。その実力を評価しながらもヴォバンはだがと続ける。
「剣の腕も、その刀も、大口を叩くだけあって大したものだが、よもやただそれだけでこのヴォバンに勝とうなどと考えているわけではないだろうな?」
答えない。剣士は無言のまま、遂に群狼を退ける。
そしてそのまま、瞬足の踏み込み。
視界にヴォバンの首筋を捉えながら、身を低く疾駆する。
まるで一つの目標へと直行する猟犬のようだ。
ようやくヴォバンが構えらしい、構えを見せる。
それは──。
“……ボクシング?”
胸元付近で両拳を構え、軽く片足を引いて立つ様は格闘技のそれ。かの魔王が武の逸話など有するなど寡聞にして聞いたことは無いが、それなりに遣えるのだろう。構える様は堂に入っている。
しかし──残り三歩。こちらが速い。
両手で刀を握りしめ、怜志は顔の付近にまで刀を高く構えると、そのままヴォバン目掛けて突撃。
慣性と重量を添えた突進突き……と見せかけ、手首を返して、最小の起こりで横薙ぎに繋げる。点の攻撃から面の攻撃への切り替え。それも接触直前の最も集中力が殺到するタイミングでの完璧な太刀筋の変更。
加えて刀剣の間合いだ。欧州人らしく、ヴォバンは怜志に比べて痩身長躯だが、それでも手足の間合いでは紙一重で届かない──。
──その、人の領域の常識は……次の瞬間、木っ端と砕け散る。
オオオオオオオオォォォォォォォォンンンンンンッッッ!!
巨大な咆哮が、山荘を大きく揺らした。
「なにッ……!?」
氷のように冷静沈着だった怜志の表情が初めて崩れる。
突然の咆哮に驚愕したわけではない。音に身を竦ませたわけでもない。
怜志の動揺はその視界──目の前で起こった出来事が原因であった。
刀に合わせてクロスカウンターで放たれたヴォバンの右ストレート──それが突然、膨張する。老いた腕は逞しい太腕に、手入れされているであろう爪は獣のような鉤爪に、せいぜいが一メートルあるかどうか怪しい筈の腕は、三メートルにも及ぶ巨腕と化す。
「くっ……おおッ!!」
刀の間合いを上回り、後の先を取るクロスカウンター。
直撃すれば人間の頭蓋など一撃で陥没させうるだろう、一撃を見て怜志は咄嗟に対応する。横薙ぎからさらに切り替え、態勢を崩しながらも強引に直上へと刀を振り上げる。とても肉を切りつけたとは思えない衝撃と衝突音。
今まで武器や骨ごと従僕も狼を切り捨てて来た怜志の刀が初めて弾かれる。
だが、そんなことを気にする余裕は今の怜志にはない。……弾かれること自体は想定内。筋がズレたこの一閃で巨腕を切り飛ばせるとは怜志とて思っていない。
この一撃の目的は巨腕の直撃を逸らし、刃を通して戻ってくる反作用を推力に身体を射線上から離すことにある。
間一髪、直撃を避ける怜志。
しかし完全に避けきることは出来ず、爪が怜志の頬と肩口を軽く抉る。
「痛ッ……ふっ……!」
痛覚を刺す刺激。だが、呼吸一つで怜志は浅傷の痛みを吹き飛ばすと、刀の柄から片手を放して地を突く。崩れた態勢、それを逆手にとって片手のみで行うクラウチングスタート。振り返ることなく、全力でヴォバンの脇をすり抜ける。
『ほう! 今のを避けるか!』
「ッ!」
すれ違いざまに響いた感心を呟く狼王の声。
怜志はそれに意を止めることなく、振り返らずに駆け抜ける。
悠長に構えていれば背を向ける怜志にヴォバンの反撃が刺さるだろう。視界に敵手を捉えたい衝動を噛み殺しながら、怜志は走り抜ける。
不意に背筋に走る悪寒──跳べ。本能が囁き、怜志はその予感に身を任せる。
果たして、寸前で背筋を掠める何かが通り過ぎる気配。
それが巨腕から繰り出された裏拳であると認識したのは、怜志が天井まで飛び上がり、天井に刃を突き刺し、見下げた後の事だった。
「……そういうことか」
納得は、眼下に広がる光景に対してだった。
──天井から見下ろすバルコニー。そこには知的に見える老紳士の姿はなく、在るのは数十メートルに達する巨躯の影。丸太のような剛腕と鋸のような牙を備え、灰色の体毛に身を包む者──正しく、
「狼を呼ぶのみならず、狼と化す権能……それが貴方の力か」
『その通り』
怜志の確信を肯定する狼男、否──最古参の神殺し、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。
『そして貴様はその程度か? 剣の腕では認めよう、ヴォバンを前に挑む胆力も悪くない。生死の狭間に在って生を掴み取る直感も大したものだ』
「…………」
『だが──それだけでは話にならん。貴様も神殺しを名乗るなら、力の一つでも見せてみるがいい。今のままでは前座すら務まらんと知れ!』
「…………」
遠吠えのように響く魔王の喝破。それを聞き入れながらも怜志は、反応一つ見せることなく白鳥を思わせる優美な様で音もなく儀式の間へと舞い降りる。
見上げる者と見下げる者、構図は再び元に戻る。
『ふん──』
無反応な怜志につまらないとばかりに鼻を鳴らすヴォバン。
それを傍目に、怜志は自分の頬に触れる。
……先ほど、負った傷口に。
「………………痛いな」
不快な鉄錆のような匂い。
熱を帯びてジクジクと脈動する刺激。
傷口から覗く、眩暈を覚える赤色。
「…………痛い」
──自慢ではないが、怜志は果し合いにおいて手傷を負うことはまずない。
己も刀も熟知する怜志は、紙一重で避け、紙一重で当てる技量に卓越している。天性の才能もあるだろうが、ひとえにその真面目な性分から稽古の反復によって、無意識レベルで振るえるほど練り上げた怜志は──一撃を浴びずに、一撃を浴びせることに特化している。
故に並みの敵手では、怜志に傷一つ付けることなく切り捨てられるのみである。
だから、早々に、怜志が傷を受けることは無いのだ。
「……痛い、痛い」
『──ぬ』
茫洋と、傷口を撫でつけながら泣き言のように呟く怜志。
傷を負って戦意を喪失した? この程度の浅傷で?
嗤うように思い描いた予想は、しかし口を突いて出ない。
ヴォバンは眼下で立ち尽くす少年を前に、無意識で身を低く構える。
意識的な行動ではない。獣よりも研ぎ澄まされたヴォバンの直感が訴えているのだ。……ようやく目覚めた、戦士の気配を察して。
「……そうか、俺は傷を負ったか。であれば、俺は、死ぬ可能性があるのか」
当たり前の可能性を口ずさむ。傷を負うということは、死に直面するということ。血を流すということは命を減らすということ。
つまり、自分は殺しかけ、そして殺されかけたのだ。
即ちは殺し合いであり、戦であり、死闘である。
「……──
思わず、
「くふ……ふふ……」
今さながら差し迫る死の気配に、心臓が
「ふ、はは……そうか、死ぬか。俺は死ぬかもしれないのか」
生と死の境に自己があることを自覚して、身体が
──殺される、殺される、殺される。
俺は殺し、殺される。一手違えば命を失う瀬戸際の綱渡り。
それはなんて、恐ろしく、嗚呼、なんて──。
「──
『──貴様』
「態々、外国くんだりまで足を運んだ価値はあった。この巡り合わせに感謝しよう、サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。俺の渇きを癒す敵が、存分に殺し合える強敵が、この地上にある事実に!」
怜志の様子が豹変する。
血に飢えた──というよりは戦に酔うその本性。
一方的な殺戮ではない、紙一重の均衡に揺れ動く様に愉悦する
──以て。
「──おん・ちしゃなばいしら、まだやまからしゃややくかしゃ・ちばたなほばがばていまたらはたに・そわか」
──仏心返上、その本性は原初に返る。
アジア全域にその名を語る、《鋼》の軍神。
毘沙門天──改め、まつろわぬクベーラより簒奪せしめた権能が起動した。
「──ハ」
獣のように喉を鳴らす声。怜志が疾駆する。
刀を構え、ヴォバンに立ち向かう様は先の流れの再現だ。
だが、違うとヴォバンは直感する。
何故ならば今眼前に立つのは剣士ではなく、神殺し──。
神々よりその権能を簒奪し、魔王を名乗る最強の戦士!
『──面白い。ようやく本気というわけか、ならば見せてみろ! 貴様の力とやらを!』
飛び掛かる怜志を真っ向から迎撃するヴォバン。
リーチの差は依然、変化したヴォバンが優位だ。
刀は巨腕の間合いの外、攻撃は当然のようにヴォバンが先んずる。
迫る巨腕。受ければ人体は粉砕確実の剛腕である。
先ほどは避けたが、次も同じ手法で逃してくれるほど敵は甘くないだろう。
追撃の手は先より厳しく、貪狼のようにこちらの隙を噛み締めて離すまい。
だから……。
逃げることなど愚策も愚策。
敵陣突破こそ、この身に許された唯一無二の突破口。
「
巨腕と怜志が交錯する。巨大な鉤爪は怜志が刀を振るうよりも、彼を三枚に引き裂きにかかる──しかし、その確信は硬質な手ごたえに弾かれ、驚愕に変わる。
『鎧──だと!?』
淡く輝きながら怜志の総身を覆う鎧。
東洋の──日本で語られる大甲冑と呼ばれるそれである。
兜こそないものの、大袖、肩上、胸板、脇板、鳩尾板、栴檀板、弦走、脇楯、立挙、長側、蝙蝠付韋、揺糸、草摺、引合緒、胴先緒と揃っており、それぞれの部位には梵字が浮かび上がっている。
重厚な見た目とはいえ、ヴォバンの爪に抗うほどの強度を持たぬと見えるそれは、しかし予想に反し、まるで鋼のような硬度を通していた。
動揺したヴォバンの隙をついて怜志が懐に潜り込む。
振りかぶる刀、首目掛けて振るいあげた一撃は、剣先に至るまで呪力を行き届かせ、研ぎ澄ました渾身の一撃。
首関節の隙間に捻じ込むような完璧な筋は直撃すれば、ヴォバンの首とて落とすだろう。
『──チィ!』
故に逃れる。跳躍し、距離を取る。
選んだ択は単純なものの、怜志は目を見開いた。
「速い、巨体に見合わず身体能力も常識外か……!」
天井まで飛び上がり、張り付いて疾駆する様は先ほどの狼たち同様のもの。だが、ヴォバンの場合はその巨躯である。通常であれば体の重さで速度に何らかの枷が掛かりそうなものだが、そんな様子はなく、寧ろ使い魔のそれよりも遥かに俊敏だ。
……何に由縁する狼かは知らぬものの、あの運動性能であれば刀の間合いに踏み込むのには苦労するだろう。こちらが近接戦に特化した戦術を使う上、巨狼の爪をも弾く鎧を有していると分かれば、距離を取って遠方から攻める選択は当然の発想だ。
距離を保たれたまま、一方的に狙い撃ちされる展開は目に見えている。
故に──怜志は虚空へと手を伸ばした。
「──
紡ぐ呪言、それと同時に怜志は掴み取った手綱を引く。
気づけば──怜志は白馬に跨っていた。
『──なんだと!?』
再び驚愕するヴォバン。
怜志はただ一言、跨る白馬に命じた。
「進軍せよ」
──ヒイイイイィィィィヒヒンンンンンン!
嘶き、突撃。
白馬はバルコニーを飛び出すとそのまま空中を蹴り、光と見まごう速度で距離を取るヴォバン目掛けて突貫。さながらミサイルのようにヴォバンの腹部に頭突きを見まい、その巨躯を山荘の天井へと打ち付ける。
『おおおおお!?』
衝撃と痛みに吼えるヴォバン。
動揺する感情とは対照的に冷徹に冷え切る戦士としての考察が脳を巡る。
鎧に白馬──複数の権能を有する神殺し?
否、違う。そうではない。
恐らくは──かのジョン・プルートー・スミスと同じく、一つの権能からなる複数の特性。
「そして──
『!!!』
馬上の神殺しが刀を構える。垂直に刃を立て、両手で柄を握りしめながら、祈るような所作で半眼のままに唱える。
「のうまくあらたんのうたらたやや・あたきゃろぼたらやちしゃや・ばいしらまんだや・まからじゃや・やきゃしゃちばたば・そとたそそしつらばらそわか・だやきまたたたびはらしゃやめいばたやたほせいじくしゃ・ばいしらばいしらまだや・まからしゃやきばだかぢたらまじゃうとばば・なばしゃたやしゃなほば・ぎゃばていしつでんとばたらはたぢ・そわか────」
朗々と流れる呪言に伴い、白刃が白く、より白く──白輝を帯びていく。
ゾッと狼と化すヴォバンの総毛が逆立つ。
アレは不味い。あの一撃だけは絶対に受けてはならない。
獣を上回る死への洞察が、理論も原理も解き明かさぬまま、ただ必至の結末だけを嗅ぎ分ける。
オオオオオオオオォォォォォォォォンンンンンンッッッ!!
雄たけびを上げるヴォバン。瞬間、山荘の窓ガラスが木っ端と砕け、開いた穴から暴風雨が吹き込み、儀式の間を蹂躙する。
視界を確保することすらままならない、天災。
その最中にあって、されど神殺しの剣士の太刀筋に微塵の瑕疵もなく──。
「隋軍護法の加護ぞ我にあり──怨敵死滅! ハアアアアアアアッッッ!!!」
斯くして振るわれる戦勝必然の鋼の刃。
振るわれた白刃はヴォバンを飲み込み、文字通り、魔王住まう山荘を消し飛ばした。
※主人公君は攫われた諸々の方々を若干忘れてますが、リリアナさんのお陰で何とか巻き添えにならない場所まで退避できていた模様。