神山飛羽真がコミケに行く話。

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Q1.何故ウマ娘が出てるの?
Q2.何故あのアニメネタがあるの?
Q3.何故大秦寺さんまでいるの?
Q4.その他諸々

A.趣味です。


神山飛羽真、コミケに行く

 ウマ娘の間でも神山飛羽真という小説家は人気である。

 例えば図書委員のゼンノロブロイはロストメモリーやエターナルストーリーを既に何十回も見返しているという話だし、少々下世話かもしれないが有名作品だからという理由で手に取るウマ娘もいる。

 

 そんなわけで、アグネスデジタルというウマ娘もその存在は知っているし本を読んだ事もある。

 だがまさか、こんな事になるだなんて思うはずもなくて。

 

 

「…………」

 

(ひょ、ひょえぇぇ〜!!?)

 

 

 8月の某所。大きな展示会場とだけ語るそこでは、とある催しが開催されていた。

 一般の人々が各々に書きたい本──概ね趣味に関係する本を出す場所である。

 アニメ、漫画、ゲーム等を始めとして、様々なジャンルの様々な思いつきによる様々な本が並ぶのがこの会場だ。

 

 そして、アグネスデジタルはそこに自分の大好きな『ウマ娘本』を制作して出展していた。

 そこに神山飛羽真が通りかかり立ち読んでいる、というのが顛末である。

 

 

(アイエェェェ!! サッカサマ!? サッカサマナンデ!? 何でプロの作家に本を読まれているのでしょうか!?

 Why!? 何故!? 私が作る本はいわゆる……いわゆる描写がマイルドですが『そういう』本ッ!

 プロを相手に見せてよろしいものだろうかッ!? いや、ないッ! お目汚しをすみません!! むしろ生きていてすみません〜!!)

 

 

 ジャンルは違えど神山飛羽真はプロの作家。

 オリジナルを描いた『公式様』であり、手が届かない尊敬すべき人である、というのがアグネスデジタルの見解だ。

 対し、自分のそれは日々通うウマ娘達の様子を見て感じた『尊み』を元に自分の妄想を広げ、内なる感情を叩きつけたような本。

 そんなものをプロに、公式に見てもらってしまっている。

 どれほどの人間が理解できるかは不明だが、ともあれそれはオタクにとって悶絶モノなのだ。

 

 

「……うん、成程ね」

 

「ひえっ!? すみませんすみません! 私の邪な欲望が塗りたくられているようなモノを見せてしまい……」

 

「凄いねこれ!!」

 

「本当にすみま……へっ?」

 

 

 本を閉じ、神山飛羽真は楽しげな顔でサークルスペースに座るデジタルへ話しかけた。

 メイショウドトウもかくやと言わんばかりの謝罪加減に目もくれずに飛羽真は自分の感想と興奮を並べ上げていく。

 

 

「ウマ娘達への凄い情熱が伝わってきたよ! これは実際にいる子をモデルに書いているのかい? 

 特に9ページの『福王 光』と『南雲 葵』のやりとりが……」

 

「う、うわわ! よ、読み上げないでくださいぃ〜! は、恥ずかしくて顔から灼熱が……」

 

「……あ、ああ! ごめんね。つい。でも、本当に凄いと思ったんだ」

 

「し、しかしながら私は神山飛羽真先生のような英雄的に偉大なものではなくその辺のしがないウマ娘でして……。

 そんな私の妄想が溢れんばかりの代物を見せてしまい……」

 

 

 元々アグネスデジタルは自己肯定感が低い。

 仮にそれを差し引いても趣味の一環でやっているような事にプロ中のプロからこんな風に言われれば恐縮するのは当然ではあるが。

 飛羽真側に特にそんなつもりはないが萎縮してしまっているデジタル。

 しかし飛羽真はデジタルの言葉に笑いかけながら言葉を返した。

 

 

「俺は英雄なんかじゃなくただの小説家。それに自分の妄想とか想像とか、そういうものが形になって『物語』になるんだ。君はウマ娘を見てこの『物語』が心に溢れたんだろう?

 だったら、俺と何も変わらない。自分で物語を生み出すのは凄い事だ」

 

「しかしですねぇ……私達としましては、これはいわゆる『二次創作』の立場にいるのですから……」

 

「でも、みんな大なり小なり何かの影響を受けて物語を書いてるわけだし、君はこのウマ娘達に『こんな風な未来があったらいいな』と思って、それを書いた。誰かに迷惑をかけないなら、発想は自由だよ」

 

 

 飛羽真は辺りを見渡した。

 凄まじい数の人で溢れかえっている。

 中には目当ての本を手に入れようと修羅の形相の人もいるが、それは皆がこの人の書いた物語が見たい、この人の描いた絵が見たい、そんな想いで溢れているからだ。

 サークルとして本を出している人達の側はアグネスデジタルと同じく自分の中の感情を叩きつけた本を出しているのだろう。

 あるいは、この催しをきっかけに人と交流を図る人もいるだろう。

 なんであれ、この場には『本』と『物語』と『人の繋がり』が溢れている。

 それは神山飛羽真という作家にとってこれ以上ない空間だ。

 

 

「君の本は素晴らしいよ。それにいいところだね、此処は。……目当ての本を買うには、ちょっと苦労しそうだけど」

 

「あ、あり、ありが、ありがとう、ござ、ございま……」

 

「だ、大丈夫!?」

 

 

 プロから熱烈に褒められてしまいデジタルの緊張度は天元突破。やや過呼吸気味である。

 基本的にウマ娘ジャンルに生息しているデジタルにとって飛羽真は全く関係ないジャンルの人だ。

 だが、とはいえとんでもない有名人かつ有名小説家。褒められればこうもなるだろう。

 デジタルを心配しつつ、とりあえず飛羽真は試し読みさせてもらっていたデジタルの新刊を購入。

 500円を差し出した際の受け取る手も信じられないくらいブレブレでデジタルの容体が本気で心配になってくる状態であった。

 

 と、購入を終えたあと、ふと隣のサークルから声が聞こえた。

 

 

「すみません、新刊を一冊」

 

 

 別段普通の会話。

 ただ、飛羽真はその声にとてつもなく聞き覚えがあった、というだけで。

 右隣のサークルを見る。

 するとそこには飛羽真と同じくらいの長身の、髪の長い男性が立っていた。

 

 

「……大秦寺さん?」

 

「ッ!!!?!!!?!!!?!」

 

 

 跳ね上がり、思わず腰の音銃剣錫音に手をかける彼の名は、『大秦寺 哲雄』。

 神山飛羽真の『剣士』としての仲間の1人なのだが。

 

 

「か、神山飛羽真……!? 何故ここに……!?」

 

「いや、前から興味があったので、創作の良い刺激になるかなーって……そっちは?」

 

「い、いや、君には関係の無い事だ。し、失礼する」

 

 

 大秦寺は購入した新刊を手提げに収納してそそくさと退散。

 手提げがだいぶずっしりとした見た目をしていたので、恐らくここで購入しただけの1冊では無いのだろう。

 飛羽真が目をパチパチさせて戸惑っていると、隣のサークル主と思わしき男性が声をかけてきた。

 なお、その男性は声色で男性と判断できるだけであり、実際はウマ娘をモチーフにしたと思わしき着ぐるみを着ている。

 

 

「あの、今の方のお知り合いですか?」

 

「え、ああ、知り合いというか……ええっと、仕事仲間? みたいな感じで……」

 

「差し出がましい話かもしれませんが、こういう場所に来る人は職場とかにそういう話をバラしたく無い人も多いらしいですから、そっとしておいてあげてください」

 

「な、なるほど……」

 

 

 大秦寺はこの場所に来ている事をあまり知られたく無いのだろう。

 確かに今の態度から窺い知るに、あまり詮索されたく無いのであろう事は見てとれた。

 個々人色々と事情もあるな、と飛羽真が納得していると。

 

 

「あと、もし良ければこれを……こっちのぬいぐるみは無償で配ってますので」

 

「え、ああ、ありがとうございます……凄く精巧だ!?」

 

 

 忠告してくれた着ぐるみ姿の男性からぬいぐるみを貰い、あまりの出来の良さに感嘆するのだった。

 なんでもデジタルとも知り合いで、トレセン学園でトレーナーをしている人らしい。

 ちなみにぬいぐるみは着ぐるみと同じデザインをしており、モデルのウマ娘はアストンマーチャンと言うのだとか。

 

 

 

 

 オタクと言われる人種にとってこの場所はどういう場所だろうか。

 ある者にとっては『聖域』、ある者にとっては『混沌』、ある者にとっては『天国』、ある者にとっては『地獄』。

 果たして欲望と妄想渦巻くこの空間にどのような印象を抱くかは人それぞれだが、神山飛羽真にとっては『素晴らしい場所』であった。

 アグネスデジタルのように自分の物語を書き上げる者がいれば、何かに感銘を受けてイラストを描いているものもいる。あるいは自分と同じように小説という形式で本を出す者もいる。

 想像力と本に溢れたこの空間は飛羽真にとって楽しい以外の何物でもなかった。

 

 さて、今度足を踏み入れたのはコスプレスペース。

 所狭しとコスプレイヤーとカメラマンがひしめいている。

 俳優やアニメキャラ、果ては事象のコスプレといったジャンルを問わない様々な格好をしており、中には衣装を自作した人も多いのだろう。此処もまた人々の想像力と創造力が溢れている。

 そんな中でとあるコスプレが目に止まった。

 それは、驚くほど見覚えのある姿だった。

 

 

(セ、セイバー!? 俺!!?)

 

 

 声を出さなかっただけ上出来かもしれない。

 コスプレスペースの一角に、なんと『仮面ライダーセイバー ブレイブドラゴン』──自分が変身した姿がいたのだから。

 流石に気になり、飛羽真はセイバーのいる場所へと移動しようと歩みを進める。

 が、かと思ったらセイバーの側が飛羽真に気付いた素振りを見せた。

 セイバーは慌てて周りの人に一礼をしてから小走りで飛羽真の元へ駆け寄ると、またも一礼の後、興奮気味な声を発する。

 

 

「あ、あの! 神山飛羽真先生、ですよね!」

 

「あ、ああ、そうだよ」

 

「やっぱり……! あの、ろ、ロストメモリーとエターナルストーリー、凄く面白かったです! 俺、ファンで……!」

 

「え、そうなんだ! 嬉しいなぁ、ありがとう!」

 

 

 セイバーの仮面から自分のファンだという言葉を聞くのは中々に不思議な感覚だったが、やはり嬉しいものだった。

 近づくと作り物であることは分かるが、やはり仮面であれスーツであれかなり精巧に作られている。人に向けないように逆手に握られている火炎剣烈火も相当な作り込み。

 飛羽真もジオラマは作るが、どうやったらこんなにもリアリティのあるスーツが作れるのだろうと感心しきりだ。

 

 

「あの、君のそのコスチュームは……?」

 

「あ、これは……前にこの姿をした剣士に助けられたことがあったんです。本の怪物? みたいなのから、俺や、俺の近くにいた人を庇って戦ってくれて……」

 

「…………」

 

「ネットを探ったら俺みたいな人が沢山いて、その人達と色んな意見を交換したんです。『自分は青い剣士に助けられた』とか『黄色い剣士なら知ってる』とか……」

 

(倫太郎と賢人……青と黄色なら凌我さんとユーリの可能性もあるかな……)

 

 

 恐らく彼等の戦い、メギドとの戦いに巻き込まれた人だ。

 彼等の戦いはどうしても人目に触れ、都市伝説レベルではあるがその存在が噂されている。

 とはいえ、何であれ救った命がこうして今も元気でいてくれているのは飛羽真にとっても嬉しい事だ。

 まさか自分の格好をしたコスプレイヤーになっているのは流石の飛羽真も想像の埒外だったが。

 

 

「それで俺、助けられたって人達と連絡取ってこのコスプレを作ったんです。

 写真とか撮ってる場合じゃなかったですし、撮ってた人のも何故かデータが残ってないし……だからみんなの記憶を継ぎ接ぎして、何とか作ったんです。あっちにも2人」

 

 

 セイバーが指差す方には写真撮影に応じる2人の剣士がいた。

 水の剣士、『仮面ライダーブレイズ』。

 雷の剣士、『仮面ライダーエスパーダ』。

 どうやら先の青と黄色の剣士はこの2人で、そのコスプレらしい。

 そしてセイバー同様、かなり精巧な作りだった。

 ついでに何故か大秦寺が2人の写真を撮っていた。特に剣を構えた姿を重点的に。

 

 

「でもどうして、剣士の格好をしようと思ったの?」

 

「あの、それは……何て言えばいいか、この姿に俺は勇気を貰ったんです」

 

「勇気?」

 

「もうダメだ、死ぬんだって思った時に炎とこの姿の剣士さんの剣が俺を守ってくれました。

 誰かを助けるために、漫画やアニメみたいに命をかけて戦っていて……。

 そんな綺麗事が本当にできる人がいるんだって思って……俺も、俺もそんな風になりたいなって……」

 

「それで、セイ……剣士の格好を?」

 

「このコスプレを作って家に置いておけば、いつでもこの剣士が家にいて、俺を見ていてくれるような気がして。

 あの時命をかけて助けられた俺の命、ちゃんと生きなきゃって思えるから……あ、あはは! 子供みたいですよね!」

 

 

 神山飛羽真にとって──否、仮面ライダーにとってその言葉はどれだけ救われる言葉であろうか。

 泣かなかった自分を褒めてやりたいと、心底に飛羽真は思った。

 自分が助けた命が、人が、こんな風に剣士を想い、それを糧に生きている。

 夢と希望を与える事ができた、守れたのだと、噛み締めるように実感する。

 思わず飛羽真はセイバーの両肩に手を置いていた。

 

 

「子供みたいで、何も悪く無いよ。素敵な想いだと俺は思う。きっと、立派に生きてほしいと剣士も思ってると思うよ」

 

「……! あ、ありがとうございます!!」

 

「……こちらこそ」

 

「え?」

 

「いいや、こっちの話さ」

 

 

 朗らかに笑う飛羽真。

 セイバーである彼は、「本にサインを頂いたりなんて……できますか?」とおずおずと聞いてきたので飛羽真は即答で了承。

 飛び上がるような勢いでセイバーは本を持ってくるために自分の荷物へと一旦戻っていった。

 

 

「良いものだな、こういうのも」

 

「あ、大秦寺さん……」

 

 

 と、いつの間にかブレイズとエスパーダのいた方から大秦寺がやってきて、飛羽真に並んでいた。

 その表情は真顔が多い大秦寺のそれとは異なり、どこか柔らかい。

 

 

「向こうにいたブレイズとエスパーダのコスプレも、恐らく同じ想いであの姿なんだろう」

 

「聞こえてたんですか?」

 

「私は耳がいいからな。……彼等の姿はあくまで上辺だけ、仮初でしかない。

 だが、あの衣装に込められた想いは、きっと私達にも負けない。聖剣も素晴らしい作り込みだった」

 

「…………」

 

「私達の戦いは救えなかった者も多い。それは忘れてはならない事実だ。だが、同じくらい救えた命もあった。彼等のようにな」

 

「そう、ですね」

 

「だから、剣を振るおうと思える。私も、人を守る剣を鍛えているのだと自信を持てる」

 

「はい。本当に、来て良かったです!」

 

 

 大秦寺さんも聖剣以外でこんなに饒舌になるんだななんて考えつつ、自分が守ってきたもの、救ったものを見て目を細める。

 大切な想いを噛み締めつつセイバーがサイン用の本を持ってくるのを待っていた────その時だった。

 

 

「「!?」」

 

 

 爆発音と共に会場の一部、壁面に大穴が空いた。

 悲鳴、逃げ惑う人々、一瞬にして会場が阿鼻叫喚に包まれる。

 壊された壁面の向こう側、うだるような熱風と共に会場へ侵入してきたのは1体の怪物。

 

 

「メギドだと……!?」

 

 

 現れた怪人の名を大秦寺が語る。

 それは2人にとってよく知った怪物の名前であり、同時に既に終わった戦いの筈だ。

 メギドは両腕の鎌のような武器を振るって周辺を破壊せんと暴れている。

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「う、うわあぁぁぁぁ!!!」

 

「な、なんだよこいつ! コスプレじゃないのかよぉ!!」

 

 

 瞬時に会場は阿鼻叫喚へと変わる。

 怪物が現れただけならコスプレでスルーするところだろうが、実際に超常の力で蹂躙を始める怪物を前にすれば無理もないことだった。

 無数にいる人々があちこちに逃げ惑う。

 会場にひしめく人数は尋常な数ではなく、当然誰もが思うような行動はできず、それだけでパニックは伝播し加速する一方だ。

 

 

「ッ、まずいッ!?」

 

 

 大秦寺が叫ぶ理由は飛羽真にもすぐ分かった。

 さらに最悪なことに、怪物の射程圏内に逃げ遅れた女性が倒れていたのだ。

 散乱した机に足を取られ転んでしまったのだろう、当たりどころも悪かったのか足から血を流しとても動けそうにはない。

 

 

「ハァ……! まずは1人……!」

 

 

 メギドが醜悪な声を発しながら、右手をかざした。

 先程までの鎌の一撃とは違う。だが、間違いなく彼女を狙った一撃。

 メギドの右手から放たれる閃光。

 駆け出す飛羽真と大秦寺だが、間に合うような距離ではなく、無慈悲にもその一撃は────

 

 

「わああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 外れた。

 いや、正確に言えば『滑り込むように女性を抱きかかえ、勢いのままに転がるセイバーが救った』のだ。

 飛羽真は変身していない。

 そう、あの『コスプレの仮面ライダーセイバー』だった。

 

 

「だ、だい、大丈夫ですか!」

 

「は、はい……痛ぅ……」

 

 

 足からの出血は止まっていないものの、敵の攻撃に当たるという最悪の状況は免れた。

 舌打ちをするメギドに対し、仮初のセイバーは立ち上がる。

 

 

「チッ、しゃしゃるな偽物がッ! 剣士のごっこ遊びはお呼びじゃないんだよッ!!」

 

「そう、だと思う……俺はあの剣士さんじゃない……」

 

 

 メギドの言葉を肯定するセイバーの声と足は震えていた。

 絵面だけならヒーローとヒールが相対している。

 だが、その実は本物の怪物と格好だけの一般人。

 無謀と言われれば一切の否定ができないほどに、残酷なまでに力が足りていない。

 しかし、それでもセイバーはその場を動かない。

 

 

「それでも! 俺をあの時助けてくれた剣士さんならこうするから!! 困ってる人を見捨てるような人間になったら、それこそ俺は胸を張ってあの剣士さんに会えないッ!

 こんな格好、嘘でもする資格が無くなるッ!! だからッ!!」

 

 

 ハリボテの火炎剣を構える。コスプレ用のそれは鉄パイプや木刀にすら劣る。

 不恰好な構え。偽りの姿。勝ち目などという言葉を使うのも微温湯い。

 だが、セイバーはそこをどかない。

 

 

「フン、ならば先に死ね。いずれ剣士共もそっちに送ってやる。あの世で仲良く、泣き喚けッ!!」

 

 

 標的をセイバーに向け、再び両腕の鎌より衝撃波を飛ばそうとするメギド。

 避けられる技量など無い。守れるような装甲も無い。

 けれども彼にある『意思』は。

 

 

「ああぁぁぁぁ!!」

 

「やあぁぁぁぁ!!」

 

 

 2人の影が飛び出してメギドへ片腕ずつ組み付いた。

 右腕に組み付いたのはブレイズ、左腕に組み付いたにはエスパーダ。

 言うまでもなく、それは今が立っているセイバーと同じく『コスプレ』でしかない。

 

 

「ぬっ!? ぐっ、鬱陶しい……わぁ!!」

 

 

 メギドが両腕を大きく振るうとその勢いに負けた2人が吹き飛び、奇しくもセイバーの近くに倒れた。

 鍛えた人間ではなく、再三だが彼等に身を守る鎧はない。

 地面に身体を強く打ち付けた痛みが広がるが、彼等は構わず立ち上がる。

 セイバーは思わず2人に駆け寄った。

 

 

「なんで……! 逃げなよ2人とも!」

 

「バカ! お前が死んじゃうだろ!!」

 

 

 ブレイズが怒鳴る。声は震えている、ともすれば泣きそうな声だった。

 

 

「あんたのいう通りなんだよ! あたしだって、黄色の剣士様にちゃんと向き合って話せる人間でいたいの! 友達見捨てるとか、マジで無いから!!」

 

 

 エスパーダは既に泣いているようだった。

 怪物への恐れか、あるいは友人を失うかもしれないという想像か、あるいは両方か。

 そして驚くべきことに、どうやら着ているのは女性のようだ。

 

 2人に共通するのは、セイバーが灯した『意思』。

 あの時救ってくれた剣士達に恥じない生き方をしたい、見捨てて逃げるなんてできないという硬い意思。

 3人が並ぶその姿は、作り物でもまるで。

 

 

「まるでお前達のようだ。セイバー、ブレイズ、エスパーダ……見紛う程に、気高い」

 

 

 剣士を長く見てきた大秦寺をして感嘆させる彼等の想い。

 

 

 さらに『意思』は、周囲に伝播する。

 

 

 未だ混乱する会場。

 逃げ惑う人々、我先にと駆けようとする人々。

 恐怖の中で自分の命が惜しいと感じる事を誰が責められるだろうか。

 

 だがそこに、一石を投じる声が響いた。

 

 

「狼狽えるなッ!!」

 

 

 会場スタッフが落とした拡声器を使い、声を荒げる女性が1人。

 その姿は何らかのアニメの何らかの制服を身に纏っており、長いピンク色で猫耳にも似た髪型が特徴的なウィッグを被っていた。

 

 

「狼狽えるなッ! 私が好きなアニメはこういう避難で悲劇が起きた!!」

 

 

 誰もが静まり返る。

 は? と言わんばかりにメギドですら、呆気に取られていた。

 

 

「だから避難は最速で! 最短で! 確実に! 助け合って、手を繋いで!! 誰も死なずにッ!!

 ……また次、みんなでここに来るためにッ!!」

 

「ね、ねぇ、アニメじゃ無いんだよ……! 早く逃げよう……!」

 

 

 女性の隣にいる友人と思わしき、少し小柄な女性がおずおずと声をかけた。

 しかし、コスプレイヤーの女性は拡声器を離すことはない。

 

 

「アニメを真に受けて何が悪いッ! これもその好きなアニメの言葉よッ! っていうか怪物が出るなんてほぼアニメでしょッ!!

 なら、アニメや推しから学んだことを活かしなさいッ!!!!」

 

 

 メギドからすれば巫山戯た言葉だったことだろう。

 だが、この場にいる誰もが、その気迫と言葉を浴びた誰もが、思い思いに立ち上がる。

 

 

「……そ、そうだな……。よし、今までの待機列で鍛えた誘導を見せてやろうぜッ!!」

 

「私の推しはこういう時慌てない! みんなを助けるために動くの!」

 

「俺の推し悪役だから寝返っていい!?」

 

「はっ倒すぞッ!!」

 

 

 

 

 想いは、広がる。

 

 

 

 

「ねぇ! 小道具で包帯持ってきてたでしょ! 何処だっけ!?」

 

「この鞄の中! だけど、巻き方知ってるの!?」

 

「そんなんスマホ見ながらよッ!」

 

「無茶だな!?」

 

「無茶でもやるの! 私が今してるコスプレ、私の推しは医者なのよッ!?

 こういう時、怪我人放っておくわけないでしょ! 推しのこと二度と応援できんわッ!」

 

「あーはいはい! 分かったよッ!」

 

 

 

 

 誰もが自分にできることをしている。

 

 

 

 

「おいっ……しょおぉぉ!! ふいー、瓦礫は退けました! あとは手当を……」

 

「あ、ありがとう……流石はウマ娘さん……!」

 

「いえいえ。デジたんの推しウマ娘ちゃん達は、誰かを見捨てて走り去るなんてしません!

 絶対に絶対です! ウマ娘だから出来ること、きっとありますしッ!」

 

「応急処置は任せてくれ。こういう時にトレーナーの勉強は役に立つ」

 

「マーチャンさんのトレーナーさん! 流石に着ぐるみのまま手当は無茶ですよッ!?」

 

 

 1人1人を見れば本物に比べれば拙い、ごっこ遊びかもしれない。

 だけど、そこにある意思は本物だ。

 皆がそれぞれに心に思い描いた物語が、あるいは物語の登場人物が、あるいは現実の誰かがいる。

 それをきっかけに創作を始めた者、そしてその創作物を求める人々がここにはいる。

 創作物、あるいは推し、それらに心動かされた者達が、それを真に受けて助け合う。

 

 

「くだらん……何だこの茶番は? 自分が物語の登場人物にでもなったつもりか?」

 

 

 この光景を一蹴し、吐き捨てる悪者がいる。

 

 

「ならばまずは剣士ごっこの3人を切り刻んだ後、そこらの馬鹿共を根こそぎ『吸収』してくれるわ」

 

 

 人の想いを踏み躙らんとする怪物がいる。

 

 

 

 

──────そして。

 

 

 

 

「させない」

 

「あぁ。行くぞ、飛羽真」

 

 

 

 

 悪に立ちはだかる男達がいる。

 

 

 

 

「……神山、先生……?」

 

「君の姿は、とても勇敢だった。だから、『俺があげた』と言ってくれた君の勇気を、少し借りるよ」

 

「え……?」

 

 

 

 

────ブレイブドラゴン!────

 

────ヘンゼルナッツとグレーテル!────

 

 

 

 

「「変身ッ!!」」

 

 

 

 

────烈火、抜刀!────

 

────銃剣、撃弾!────

 

 

 

 

「貴様らぁ……ノーザンベースの……!!」

 

 

 

 

───ブーレイブドラゴーンッ!!────

 

────音・銃・剣・錫・音!!────

 

 

 

 

 悪を阻む英雄(ヒーロー)が、ここにいる。

 

 

 

 

「これ以上は、やらせないッ!」

 

 

 

 

 火炎剣烈火を携えた剣士、『仮面ライダーセイバー』。

 音銃剣錫音を携えた剣士、『仮面ライダースラッシュ』。

 

 あの日見た背中が、再びその姿を現した。

 

 2人の剣士は3人の勇敢な者達に向き直る。

 セイバーは奇しくも、同じ姿をした2人が向き合うような形となった。

 

 

「え、あ、神山、先生……先生が、あの時の……?」

 

「ああ、隠しててごめん。俺が剣士、仮面ライダーセイバーなんだ」

 

「仮面、ライダー……あの時は、ありがとうございます! 今も……俺、何もできなくて」

 

 

 心優しき青年は自らの無力を呪う。

 守りたいと思っても、剣士のようになりたいと思っても、結局『本物』がいなければ何もできなくて。

 憧れに胸を張れる自分ではないと、ぎゅっと拳を握りしめた。

 

 

「そんな事ないさ」

 

 

 対するセイバーの声色は穏やかに、彼を認めるように響く。

 

 

「君の勇気を見せてもらった。俺こそありがとう、俺に憧れてくれて。俺から勇気を貰ってくれて。

 本を読んで影響を受けた人生みたいに、助けた人達の中で俺達の意思が息づいているんだって、強く感じたんだ。

 だから、此処は俺達が守る。君達は君達にできる事をして、生きてほしい」

 

「神山、先生……」

 

 

 対し、スラッシュは何も語らずに再びメギドへ視線を向けた。

 彼は背中から青年達に語り掛ける。

 

 

「怪我人や避難誘導には人手が必要になる。君達が救うんだ。

 奴を倒すのは……我々の役目だ」

 

 

 静かに音銃剣錫音を構えるスラッシュの気迫は尋常なものではない。

 続くようにセイバーも振り返り、火炎剣烈火の切っ先をメギドへと向けた。

 メギドは圧を感じ、青年達にその背はとてもとても大きく、頼もしいものに見えた。

 コスプレのセイバー、ブレイズ、エスパーダは顔を見合わせ、強く頷く。

 偽りの姿でもやるべき事、やれる事があるのだと。

 あの時憧れた剣士達が、自分達に託してくれているのだと。

 

 

「分かりました。俺達にできる事をします! だから……」

 

 

 これだけは伝えたいと、セイバーからセイバーへ。

 憧れた、あの背中に。

 

 

「頑張って、仮面ライダー!!」

 

 

 それはきっと、彼等にとって最高のエール。

 だから神山飛羽真は、力強く応じた。

 

 

「ああ! この場所は必ず守る!」

 

 

 そして決意を持って、飛羽真は宣言する。

 彼が口にする言葉において、最も重く、最も固く、最も信じられる言葉を。

 

 

 

「『約束』だ!!」

 

 

 

 仮面ライダーとの『約束』を胸に、青年達は散乱した物や瓦礫の中に巻き込まれた人の救助、避難誘導の手伝いにそれぞれに駆ける。

 一方でメギドと向き合うセイバーとスラッシュは仮面の奥で笑って見せた。

 

 

「負けられないですね!」

 

「フッ……いつもの事だな!」

 

 

 2人はメギドへ駆け、それぞれの剣を振るう。

 メギドは両腕の鎌で2本の剣を受け止めるが、畳みかけてくる剣士達の猛攻を何度も受け止めつつもその勢いにじりじりと後退していく。

 

 

「くっ、うぐっ、ええいッ!!」

 

 

 状況に耐え兼ね2本の剣を乱暴に跳ね除け、思い切り後方へ跳躍し無理くりに距離を取ったメギド。

 一瞬にして体勢を立て直し、2人の剣士を近づけさせまいと両の鎌から衝撃波を乱射。

 ある程度狙いをつけている為その多くはセイバーとスラッシュ目掛けて飛んでくるが、一部は壁面や天井など明後日の方向に飛んでいく。

 衝撃波を剣で受け止め、受け流し、何とかやり過ごしながら機を伺う2人だが、ある1つの衝撃波が最悪の方向に飛んでしまっている事にスラッシュは気付いた。

 

 

「ッ、危ないッ!!」

 

 

 怪我人に肩を貸そうとしているブレイズとエスパーダのコスプレイヤー。

 彼等の命を刈り取らんと数発の衝撃波が無慈悲に迫っていた。

 スラッシュの声で状況に気付くも、怪我人もいる中で既に回避が間に合うような距離ではなく、彼等は思わず仮面の中でぎゅっと目を瞑り。

 

 

「ぐあぁぁぁッ!!?」

 

「……? ……!?」

 

 

 全く襲い掛かって来ない衝撃波と呻き声に、恐る恐る目を開ければ、そこにはスラッシュの背中があった。

 スラッシュが割って入り、自らを盾としたのだ。

 剣で受け止めようとしたのだがそれすら間に合わず、乱暴に自分の身体を差し出す事しかできず、攻撃は全て直撃。

 さしものスラッシュも膝をついてしまった。

 しかし、それでも彼は背後の命を気遣う。

 

 

「ぶ、無事か……?」

 

「僕等は……でも貴方が! なんでそんな……!」

 

 

 無茶をした事を心配する様なブレイズの声に、スラッシュは戦友を、本物のブレイズを思い出した。

 彼もまた友人を心配し、誰かを気遣える人間だな、と。

 

 

「何を言っている? 君達も同じ事をしただろ……?」

 

「え……」

 

「そ、それは、あたし達は、無我夢中で……」

 

「つまり意識せず、誰かを助けようとした、という事だ。私の知る剣士達と、同じだな」

 

 

 ゆっくり、痛む体を押しながらスラッシュは立ち上がる。

 

 

「君達の姿はとても精巧だが、偽者だ。だが、君達の心にあるものは、間違いなく本物だと断言できる」

 

「ここ、ろ……?」

 

「君達を救った剣士も、誰かの為に自らを投げ打つ様な危なっかしい者達だ。

 そんな心を、君達は感じてくれている。力より大事な、誰かを想う心を。私は、それを嬉しく思う」

 

「そんな……褒めすぎでしょ……あたしらなんて、何も、ただのコスプレイヤーで……」

 

「私は刀鍛冶だ。君達の聖剣は本物でなくても、そこに宿っている本物と遜色ない想いは、分かるつもりだ」

 

 

 セイバーが未だ1人で戦っている。

 今回のメギドはそれなりだが手ごわい。

 そうでなくとも被害を最小限に食い止めるためにすぐに加勢しなければと、スラッシュは駆けだそうとした。

 だが、1つだけ。彼等に伝えておきたいと最後に言葉を紡ぐ。

 

 

「水の剣士ブレイズ、雷の剣士エスパーダ。それが君達を助けた剣士の名だ」

 

「ブレイズ……」

 

「エスパーダ、さま……」

 

「彼等の想いと名前を、覚えておいてくれ。君達の勇気が絶えない事を祈る」

 

 

 ソードオブロゴスとして、民間人に剣士の正体や名前が知られるのはあまり喜ばしい事ではないのかもしれない。

 だが、無意識であったとしても彼等の想いを正しく理解し、受け取っている彼等であればと、スラッシュはほんの少しの甘さを見せる。

 音銃剣錫音を遠距離戦用の『銃奏モード』へ変形させ、スラッシュは戦線へと復帰した。

 後姿を見送りながら怪我人と共に避難する彼等は、思わず呟く。

 

 

「「カッコイイ……」」

 

 

 呆けてる暇はないとすぐに我には返ったものの、その後姿は2人の目に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 会場の被害を食い止めるために、セイバーはメギドを会場の外へと追いやっていた。

 銃奏モードのスラッシュの援護もあり、セイバーは攻撃を掻い潜ってメギドに接近。

 近寄る事ができれば剣士の間合い。火炎剣烈火を巧みに振るってメギドを追い詰めていく。

 メギドも相当に技量があるのか攻撃を捌いてはいるものの、徐々に、徐々に追い詰められているのを肌で感じていた。

 セイバーはかつてのメギドの戦いや世界崩壊に立ち向かった歴戦の剣士だ。

 ソードオブロゴスの剣士の中では最も経験が浅いが、その実力は並ではない。

 

 

「ハアッ!」

 

「グ、オオォォ!!」

 

 

 遂に烈火の一振りがメギドの胴体を捉え、大きな袈裟斬りが炸裂した。

 火花を散らして吹き飛ぶメギドはダメージを堪えつつゆらりと立ち上がるが、既に息も絶え絶え、といった具合だ。

 

 

「ち、ぃっ。やはり、力が足りない……! 此処にいる人間を取り込めれば……!」

 

「人を取り込む……!?」

 

「そうだ……! 此処にいる人間達の『想像力』を糧に、俺の本は進化する!

 想いや願いが物語を形作り、ページを増やしていくようにッ!!」

 

「だから今日、この場所を狙ったのかッ!?」

 

(……! そうか、あの時しようとしていたのは、人を取り込もうとしていたのか)

 

 

 スラッシュが想起したのは、メギドが現れた際に一番最初に襲った女性に向けた光。

 あれだけ今まで行ったきた攻撃とは気色が違っていたし、その時に『まずは1人』と口走っていた事にも合点がいく。

 

 

「『想像力』を吸収するのなら神山飛羽真、貴様のような著名な作家を取り込む事が最も早い。

 が、その絶対数は少ない。ならば所詮素人共のお遊びでも、此処にいる連中を取り込んだ方が早いからな。

 何万人もの人間が一堂に会するこの場……絶好の狩場だよ……!!」

 

 

 話を信じるのであれば、このメギドは人間を取り込み、その人間の想像力を糧に成長するという事だ。

 この会場に集まる無数の人々は各々に自分の『物語』を思い描いている事だろう。

 もしこの会場の人間全てを取り込んだらどれほどの怪物になってしまうのか、それこそ想像が及ばない。

 

 

「絶対にさせない……ッ!!」

 

 

 けれどもそれをセイバーは許さない。

 

 

「物語を作る人の想像力は、その人だけのものだ! 誰かを傷つけるためにそれを奪うなんて、俺がさせないッ!!」

 

 

 人を守る『剣士』として。

 物語を綴る『小説家』として。

 神山飛羽真という男は、そんな行いを断じて許さない。

 

 

「貴様の決意など、知るかッ!」

 

 

 対し、メギドはセイバーの怒りを受け流し、言葉を吐き捨てて真上へ跳躍。

 すると突如、背中から翼が飛び出し、正しく鳥の様に遥か上空へ向けて飛び立って見せた。

 恐らくは逃走。分が悪いと見ての判断だろう。

 

 

「逃がすわけにはいかないぞ」

 

「はい! 大秦寺さんは『これ』を使ってください。俺は『こっち』で追います!」

 

 

 『これ』と言ってセイバーがスラッシュへ差し出したのはビリジアンの色をしたワンダーライドブック。

 『こっち』と言って取り出したのは赤色の大鷲が描かれたワンダーライドブック。

 2冊の本を見せたセイバー、そしてその意図はスラッシュにも瞬時に伝わった。

 

 

「そういう事か。流石、本の選定が的確だ」

 

「ありがとうございます。行きましょうッ!」

 

 

 セイバーは火炎剣烈火をソードライバーへ納刀、同時に開いたブレイブドラゴンの本を閉じる。

 同じくスラッシュも音銃剣錫音にセットされているヘンゼルナッツとグレーテルの本を閉じ、取り外した。

 

 

────ストームイーグル!────

 

────ジャッ君と土豆の木!────

 

 

 セイバーが左手に持つ『ストームイーグル』とスラッシュが右手に持つ『ジャッ君と土豆の木』が起動する。

 それぞれソードライバーと音銃剣錫音に変身時と同じ要領でセット。

 流れるような動作の後、再び変身時と全く同じくセイバーは剣をベルトから引き抜き、スラッシュは引き金を引いた。

 

 

────タ・ツ・マ・キ! ドラゴン・イーグル!────

 

────音・銃・剣・錫・音!────

 

 

 瞬時に2人の姿が変わる。

 セイバーはブレイブドラゴンから身体の中央が真っ赤に染まり、胸に大きな鳥を模した意匠が追加された『ドラゴンイーグル』に。

 スラッシュは左腕の鎧に緑の差し色が加わり、蔦が巻き付いたような意匠が施された『ヘンゼルジャッ君』に。

 次いで、スラッシュはソードオブロゴス専用の携帯『ガトライクフォン』を取り出すと、それを縦に折り畳んで宙へ投げた。

 

 

────ライドガトライカー!────

 

 

 ガトライクフォンは巨大化・変形し、前輪2輪と後輪1輪の三輪自動車へと変形する。

 電子音声の告げた通り『ライドガトライカー』の名を持つスーパービークルはソードオブロゴスの共通装備。

 それに跨った後、スラッシュは音銃剣錫音の銃弾を地面に向かって撃った。

 すると見る見るうちに地面から大きく太い蔓が生え、1本の巨大な木が天に向けて伸びた。

 これがジャッ君と土豆の木に秘められた物語の力、巨大な木を生やす事ができるのだ。

 

 セイバーはドラゴンイーグルの力で空へ飛び、スラッシュは天高く聳える木を道にしてライドガトライカーを走らせる。

 今なお飛翔を続けるメギドであったが、追いつくのにそう時間はかからなかった。

 

 

「ヌウッ……!?」

 

「追いついた! ハアッ!!」

 

 

 メギドの右翼に向けて火炎剣烈火の一振りが炸裂する。

 すれ違いざまに翼の根元を切り裂かれ、メギドは大きくバランスを崩していた。

 次いで追いついてきたスラッシュもライドガトライカーを駆りつつ、音銃剣錫音の銃撃で無防備なメギドに何発もの銃弾を浴びせ続けた。

 

 

「グッ! アッ! ガアアァ!!」

 

「もう片翼も、貰っていく!」

 

 

 怯んだところでスラッシュは銃の狙いをメギドの左翼へ集中的に変え、その羽を撃ち抜いた。

 左右両方の翼を大きく損傷したメギドは最早空中での姿勢制御もままならず、重力に従っていくしかない。

 

 

「飛羽真! 下で決着をつけるぞ!」

 

「はいっ!!」

 

 

 再びメギドを追う形で2人は地上へ帰還する。

 小さくクレーターを作りながら地面に激突したメギドは落下のダメージも含め、ゆっくり立ち上がるだけでも精一杯のようだ。

 対してセイバーは上空から鳥の様に素早く着地し、スラッシュも木の途中でライドガトライカーから跳び下り、しっかりと三点着地で地上へ戻った。

 メギドは既に息も絶え絶えの様子ではあるものの、剣士達への敵意は一切衰えていなかった。

 

 

「ふざ、けるな、ノーザンベースの、剣士共ォ……!

 貴様等剣士など、私の力が完成さえ、すればァ……!!」

 

「言った筈だ! 人の想いを、物語への情熱を、そんな事には使わせないッ!!」

 

「たかが素人の書く物語に、何をそんなに熱くなる……!!」

 

 

 メギドの物言いに、セイバーはより強く、火炎剣烈火を握り締める。

 飛羽真の心に猛る業火が烈火をさらに赤熱させているかのようだと、隣に立つスラッシュは想った。

 

 

「さっきもお前は、此処にいる人達の事を『素人共のお遊び』と言った!

 確かにプロじゃないかもしれない。だけど、誰かが綴った物語の影響を受けて自分達の物語を広げるその想いは、かけがえのないものだ!

 子供の頃に読んだ物語の影響で作家になった人だっている。人は皆、何かの影響を受けて生きている!

 その想いが、想像力が溢れるこの場所を、お前の軽い言葉で片付けさせるわけにはいかない!!」

 

 

 本の影響で作家を始める人もいれば、漫画を読んでスポーツを始める人もいる。

 物語を読んだ事で自分の中に「こうなったらいいな」「こんな物語も見たい」と想像が溢れる事もある。

 神山飛羽真はその一切を肯定する。こんな怪物に踏み躙られていいものではないと断言する。

 

 

「これ以上、この場所を踏み荒らさせはしない! だから……!」

 

 

 セイバーは火炎剣烈火をソードライバーに納刀し、トリガーを引き、再度剣を引き抜く。

 

 

────必殺読破! 烈火、抜刀!────

 

────ドラゴン! イーグル! 二冊斬り! ファ・ファ・ファイヤー!!────

 

 

「物語の結末は、俺が決めるッ!!」

 

 

 結びの一撃、最後の攻撃を放とうと、本の力が籠められた火炎剣烈火を構えるセイバー。

 セイバーのやろうとしている攻撃がどういうものなのか瞬時に察知したメギドは身体に走る激痛を無視し、なんとかその場を離れようとする。

 しかし、もう1人の剣士がそれを許さない。

 

 

────ジャッ君と土豆の木! イェーイ!────

 

────錫音、音読撃! イェーイ!────

 

 

 銃奏モードの音銃剣錫音にジャッ君と土豆の木ワンダーライドブックをマガジンを収めるような要領で読み取らせて発動するスラッシュの攻撃。

 銃からは普通の銃弾よりも固い豆が発射され、メギドが立つ四方の地面へ向かって打ち出された。

 地面に埋められたそれらは一瞬で発芽し、太く長い蔦となり、まるで生きているかのようにメギドを縛り上げる。

 結果、蔦の根は地面にアンカーとなり、それに巻き付けられたメギドは一切の移動を封じられていた。

 

 

「決めろ、飛羽真」

 

「はいッ!」

 

 

 セイバーが剣を振るうと大きな炎の竜巻が出現し、それは一目散にメギドへ向かっていき、その身を飲み込んだ。

 植物である蔦も燃えてしまうものの、竜巻が決してメギドを解放する事は無い。

 

 

「『火炎竜巻斬』!!」

 

 

 竜巻に自ら突入し、その回転の勢いと炎を利用して内部のメギドを叩き斬るドラゴンイーグルの必殺技。

 高らかに宣言された技の名前と共に、セイバーの一撃がメギドを切り裂いた。

 剣を振るった勢いのまま竜巻よりセイバーが脱出すると、瞬時に竜巻は大きな爆発を起こし、メギド諸共爆散。

 爆発の後には服が焼け焦げ、あちこちボロボロな1人の人間が倒れている。 

 それがメギドに変わっていた人間であるという事はセイバーにもスラッシュにもすぐに分かった。

 その変身が解けている。即ち、此処に剣士達の完全勝利となったのだ。

 

 

 

 

 

 決着がついてからほんの数分の後に、飛羽真達の仲間の剣士4人がやってきた。

 それぞれ『新堂 倫太郎』、『富加宮 賢人』、『神代 凌牙』、『神代 玲花』。

 倫太郎と賢人に駆け寄り、凌牙と玲花はメギドに変身していたと思わしき人物の下へ足を運んだ。

 

 

「無事ですか、飛羽真!? メギドが現れたとソフィア様から聞いて驚きました!」

 

「大丈夫だよ倫太郎。大秦寺さんもいたし」

 

 

 とても心配そうな顔を見せる倫太郎の表情は彼の人の良さをありありと表している。

 一方で大秦寺の方には賢人が声をかける。

 

 

「流石、腕は衰えてないみたいですね大秦寺さん」

 

「ああ。正直そこまで強いメギドでは無かった」

 

 

 実のところセイバーとスラッシュの2人がかりでなくても問題なく倒せたであろう、というのが大秦寺の見解だ。

 2人とも被害を食い止めるために本気で臨みはしたし、確かに多少は手ごわかったが、あくまで『多少は』のレベル。

 他にも手札を持つセイバーがドラゴンイーグルだけで倒せたというのが、その事実を裏付けていた。

 

 それよりも問題は『何故メギドがいたのか』というところに尽きる。

 メギドは既に現れないというのが通説。

 メギドを誕生させる存在は既に世界におらず、メギドを生み出す『アルターライドブック』も残ってしまったものについては剣士達の拠点の1つ、『サウザンベース』で厳重に保管されている。

 では今回のメギドは一体何者なのか?

 この点に関して答えを持っていたのは、神代の兄妹だった。

 

 

「すまない、今回の件は私達サウザンベースの落ち度よ」

 

 

 飛羽真達の下へやってきた玲花がまずは頭を下げた。

 メギドに変身していたと思わしき人間を凌牙が無理矢理立ち上がらせ、サウザンベースに連れていこうとしている。

 よくよく見れば焼け焦げたその服装は、玲花達が身に纏っているそれによく似ていた。

 

 

「奴は元・マスターロゴスの信奉者だった。その多くは元・マスターロゴスの真意を知って私達と共に戦ってくれたが……。

 中にはそのまま奴を信奉し続けた者もいた。今回のメギドに変身したアイツも、その1人よ」

 

 

 マスターロゴスとは、かつて飛羽真達が倒した強敵であり、元々はソードオブロゴスの頂点に君臨する男だった。

 結果として『退屈しのぎ』と称した傲慢の行いを前に全ての剣士から離反され、最終的に倒されたのだが。

 しかし仮にもソードオブロゴスを収めていたものだけあり、今なお隠れて信仰を続ける者もいるらしい。

 

 

「元・マスターロゴスの信奉者の炙り出しは続けていたのだが、奴に関しては発見が遅れてしまった。

 その上、サウザンベースで保管中のアルターライドブックまで持ち出されてしまって……。本当にすまない」

 

 

 かつての刺々しさは何処へやら、今回は完全にサウザンベースの不始末だという責任感もあり、玲花の態度は本当に謙虚だ。

 無論、飛羽真達もそれを責め立てる気は無い。

 

 

「玲花さん達のせいじゃないし、結果として皆は守れたんだ。

 それにもし責任を感じるなら、後で此処の復旧や怪我人の手当てを手伝ってほしい」

 

「勿論。奴に関しては『御手洗家』の人間に引き渡し、処罰を決定します。

 その後はお兄様と一緒に此処に戻ってくるつもりよ」

 

「神代家に並ぶ名家まで出てきたか。随分大事になっているようだな」

 

 

 大秦寺の言葉通り、御手洗家はソードオブロゴス内で神代家と同等の立ち位置にいる。

 神代家は元々マスターロゴスの側近をしていた事を考えれば、その影響力がどの程度かは分かるだろう。

 

 ────その後、今回の一件を機に御手洗家の息子がアルターライドブックに目を付けたというのは、また別の物語。

 

 

 

 

 

「神山センセー!」

 

 

 騒動がひと段落し、会場の人々も大方の避難が完了。

 怪我人も大体が治療されるなり病院に搬送されるなりした会場は一先ずの落ち着きを取り戻していた。

 最早催しどころではなくなってしまったものの、会場に残っているメンバーもいた。

 今走ってきたコスプレのセイバーもその1人。

 その後ろからやってくるブレイズとエスパーダ、勿論コスプレなのだが、その姿に倫太郎と賢人はそれはもう大層驚いてしまい。

 

 

「ぼ、僕!? 飛羽真、これは一体……!?

 ハッ! まさか本で読んだことのあるドッペルゲンガー!?」

 

「エスパーダ……!? セイバーまでいるじゃないか。

 飛羽真、何者なんだ彼等は」

 

「ははっ、コスプレイヤーさんだよ。俺達の衣装を作ってくれたんだ」

 

 

 見た目は完全にセイバー達のそれなので倫太郎や賢人が面食らったのも無理はない。

 あまりにもそっくりな、かつ自分自身の変身した姿を凝視することなど滅多にないのでついつい見つめてしまう2人。

 

 

「あ、あの、このお2人は、もしかして……?」

 

 

 見つめられつつブレイズがおずおずと声を出す。

 変身を解いた飛羽真や大秦寺と一緒にいることを考えても、彼等の仲間であることは明白だ。

 何より自分達を見てこの青年2人が口にした言葉は、聞き流せるものではない。

 

 

「……勘づいているだろうから言ってしまうが、彼がブレイズ、こっちがエスパーダだ」

 

 

 大秦寺の言葉の後、コスプレのブレイズとエスパーダの2人の表情が──仮面のせいで全く見えないものの、雰囲気からして笑顔になった事が窺い知れた。

 

 

「あのっ、俺! ブレイズさんに助けてもらったんです!

 それでその、このコス作って! ちょっとでも、ブレイズさんみたいになりたくて! その……!!」

 

「わ、私! エスパーダ様がいなかったら死んでて!

 でも写真とか何にも残ってなくて! だから、あの、どうにか形にしたくて……! 本当にずっとお礼言いたくて……!!

 ……え、ウソやだ、しかも超イケメン……!?」

 

 

 あまりの勢いにたじろいでしまうものの、倫太郎と賢人も内容はどうにか理解できた。

 感極まって語彙力が完全に消えているが、感謝している、憧れてくれているという想いは十二分に伝わる。

 2人の剣士はお互いに顔を見合わせた後、『助けられた人』と向き合い、朗らかな笑みを見せた。

 

 

「ありがとうございます。貴方のような人がいるから助けられた命があるのだと、胸を張って僕は剣士を続けられます。

 これからも辛い事もあると思いますが、君も胸を張って生きてください!

 ……僕のコスチューム、とても嬉しいです!!」

 

「君の姿を見ればお礼の気持ちは十分に伝わった。

 こちらこそありがとう、俺の姿を覚えてくれていて。

 どうかこの先の未来も、元気に過ごして欲しい。俺へのお礼はそれで十分だ」

 

 

 言葉の後、2人は自分自身に影響を受けてくれた命と固く手を握った。

 飛羽真と同じ、自分達に助けられたと、だからこうして生きていることを示してくれる事が嬉しかったから。お礼を言いたいのはこちらの方だという想いを込めて。

 そしてそれきり──ブレイズとエスパーダは完全に固まってしまった。

 

 

「……? どうしたの?」

 

 

 飛羽真の言葉にも応答はない。

 倫太郎と賢人が肩を揺すってみても物言わぬマネキン状態の2人を見て、何処からかアグネスデジタルが生えてきた。

 

 

「これは……供給過多!!」

 

「知ってるのかい、デジタルちゃん!?」

 

「推しのファンサを独り占め、その上自分にだけ向けられる言葉なんて、オタクなら万札積んでも欲しいものです!

 そんなものを不意打ちで! 無料で! 自分だけに受けてしまえば……!!」

 

「ど、どうなるの……!?」

 

「デジたんなら尊みとしんどみで爆発します」

 

「うむ……ありがちだな」

 

「大秦寺さんは何でそっち側なんですか」

 

 

 デジタルと大秦寺は腕を組みながらうんうんと頷いている。

 こんなに大秦寺さんと意気投合する人、いやウマ娘は初めてみたな、と1人想う飛羽真であった。

 

 

 

 

 

 その後の話をしよう。

 結局今夏の催しは中止──と思っていた飛羽真達の予想を跳ね除けて2日目が開始された。

 嘘だろ、と思ったが2日目も大盛況。

 メギドに開けられた会場の大穴は『マジの怪物に開けられた穴』として記念撮影ブースになっている。

 商魂逞しいというべきか、あの場にいる『彼等彼女等』は凄まじいタフネスであることを飛羽真は思い知った。

 なお、現地のオタク曰く、

 

 

『これくらいで中止になっちゃ夏の待機列は耐えられない』

 

『テレビ東○だってそう簡単にアニメやめないだろ? アレだよ』

 

『あの会場にも穴はあるんだよな……』

 

『えぇ……』

 

 

 との事らしい。

 言葉の意味はよくわからないがとにかく凄い自信だなと思った。

 同時に、冬も行ってみようかな、と思えるような愉快な人々であるとも思う飛羽真達。

 

 そして、時期は巡って冬。

 あの日のメンバーはみんな居て、ブースで本を出したりコスプレに精を出している中でセイバーと飛羽真は再び再会したのだが。

 

 

「……あれ!? あの時の女の子!?」

 

「あ、はい! 私が今はセイバーに入ってます!」

 

(しかも何故かドラゴンイーグルに進化してる……!?)

 

 

 コスプレのセイバーが助けた、足を怪我した女の子。

 何と、彼女がセイバーのコスプレをしていたのだ。

 どうやらあの時のひと騒動でコスプレ、本物の両方のセイバーに惚れ込んでしまったらしく、めでたくコスプレイヤーメンバーの仲間入りをしたらしい。

 しかもその時に見たドラゴンイーグルの姿をキチンと目に焼き付けていたらしく、コスプレがドラゴンイーグルになっている。

 オタクって凄い、改めてそう思った。

 

 さて、では前回までセイバーだった青年はというと。

 

 

「あ、神山先生! 来てくださったんですね!」

 

「ああ! 久しぶ……スラッシュになってる!?」

 

 

 何故かスラッシュになっていた。相変わらず音銃剣錫音まで凄い作り込み用である。

 なお、飛羽真と一緒にいた大秦寺は驚きのあまり完全にひっくり返っていた。

 

 

「こっちの2人がこの仮面ライダーさん……スラッシュさん、でいいんですか? に惚れ込んじゃって……」

 

「だってメチャクチャかっこよかったんだぞ!? 推すしかないだろ!」

 

「推しは何人いても良いっしょ!

 ってかマジ、スラッシュ様も身長高くてカッコいー……」

 

 

 あの日、スラッシュに助けられたコスプレのブレイズとエスパーダの力作であるそうな。

 しかし戦闘の中でどうやってスラッシュとドラゴンイーグルを記憶してここまで形にしたのだろうか。

 オタクって凄い、改めてそう思った。

 

 

「あの! スラッシュさんあの時はありがとうございます!」

 

「ウチらホント、あの時の背中がカッコ良すぎて、それで……!!」

 

 

 さて、『推される側』になってしまった大秦寺。

 彼は顔をサッと手で隠すと、一言。

 

 

「そ、そう言ってくれることに感謝する。失礼」

 

 

 そそくさと去っていってしまった。

 ブレイズとエスパーダは顔を見合わせ、何処となく気落ちした雰囲気を纏わせた。

 

 

「迷惑……でしたか?」

 

「いや、大秦寺さんは俺達にもあんな感じだよ。

 凄い人見知りで、それに照れてるんだと思う」

 

「人見知り……! それもまた親近感湧くわー」

 

 

 冬の催しも沢山の人で、沢山の想像力で溢れている。

 溢れんばかりの人で埋め尽くされた会場を見渡して、飛羽真は笑顔を見せた。

 

 

(創作物や実在する誰かが、誰かに影響を与えて想いが広がっていく)

 

 

 1人の小説家として、物語を綴る者として思う。

 人と想いが集まり、ぶつかり、交わり、情熱も欲望も何もかもが混沌とするこの空間。

 でもきっと、どんな想いも結局は『好き』の想いで満ちていて。

 

 

「やっぱり良いところだなー、此処は!」

 

 

 伸びをするにも苦労しそうな人混みを前に、それでも掛け値無しに神山飛羽真はそう思えたのだった。




ずっと飛羽真がコミケに行く話は書いてみたかったので、折角だから夏コミの時期に書き上げてみました。
前書きの通りウマ娘が出る事含め、諸々は趣味です。

深罪の三重奏は『剣士達が助けられなかった人』がクローズアップされていたように思います。
でもそれだけの筈はなくて、きっと飛羽真達が助けられた命だって沢山あるはず。
今回の話は、そんなところからも生み出されたものでした。

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