微妙系RPGのヘイト担当悪役貴族に転生した俺は、世界の破滅を防ぐためバーサーカー系女主人公ちゃんたちとノーマルエンドを目指す 作:ぷうち☆りん
「ギュルルルルアァ!!」
クソッ! なんつー雄叫びだ!! 危うく竦み上がる所だったぜ! 全長は2〜30メートル位あるんじゃないか?
オレサマちゃんはと言うと顔面は蒼白で涙目だがしっかりと両足で立ち、戦旗を高く掲げている。あのサイクロプスを相手にタゲ取りする気か!? ムチャがすぎるぞ!?
『マキシマイズド・ドンムブ!』
俺は鈍足化の魔法を広域化してサイクロプスの足止めを阻んだ。
効果はあるにはあるようだが元々サイクロプスは鈍重なモンスターだ。
多少動きが遅くなったところでさして意味は無いだろう。サイクロプスの馬鹿力で振り回される棍棒は風圧だけで吹っ飛ばされそうな威力を有していて、それがバンバンと地面を打つ度にビリビリと地震の様な振動が辺りを駆け抜ける。
「さっきからギュルギュルと! 喧しいですわよ!!」
「ギュル……! ギュアアァ!!」
で、あるのに関わらずタゲ取りの上に更に【挑発】までかますオレサマちゃん、なんたるガッツの塊!
ジン姉さん、ユーシャちゃん、ミザリーちゃんといいこの世界の女の子、漢レベル高過ぎ!! その勇猛果敢な立ち回りはまさに戦姫、プリンセスのクラスに相応しい。
「オレサマ様!!」
「今、助けに参りましたぞ!」
「給料上げろ!」
更にウザイ、ムサイ、クサイの三兄弟が駆けつけてくれた。と、言うかお前ら給料貰っていたのか……。
「貴方達! 私をなんだと「よーし! ボーナスが欲しいなら気張れよ!!」
オレサマちゃんを遮る様に俺は3人に檄を飛ばし陣形を固める。前方に三兄弟。後方に俺とオレサマちゃんの二人だ。
【ドレイクユニバース】には陣形システムなんてものはないが、これはゲームであってゲームではない世界!
そのくらいのマスクデータは有る筈……!
「グギュルアアア!!」
「パリィ! ぐわー!?」
「ディフレクト! のわー!?」
「スウェーバック! ぎにゃー!!」
サイクロプスの薙ぎ払いにより3人はボーリングのピンかって位に土嚢の積まれた資材小屋に吹っ飛んでいった!?
つーか……3人共回避技使ってんじゃねー!! 【ドレイク・ユニバース】は相殺システムと重量加算システムがあるから回避技は漏れなくゴミ性能なんだぞー!!
……いや! ゲームの仕様をゲームキャラが知っている筈もない! 人生にミスや間違いはつきもの!
俺は……ミスを何でもそいつの資質に求める他責モラハラ上司(現実世界のアイツ等)とは違う!!
「オレサマちゃん……」
「何ですの! 逃走など私は許しませんわよ!! ここで逃げたらノツモリダ家の家名に傷がつきますわ!」
「そんなつもりはないさ! 俺だってノワール家の三男坊だ! キミ程じゃないが俺も俺で、それなりに看板背負ってんのさ!
それより、ヤツが棍棒を振り下ろすタイミングに合わせてその戦旗を棍棒にぶつける感じで振ってくれ!!」
「なっ……」
オレサマちゃんは俺の無茶振りに言葉を喪った。それはそうだろう。男のくせに、女の子に先頭に立って戦えって言ってんだもんな。物凄くカッコ悪いし貴族失格だよな。それでも……それでも勝つだめだ。
あの三兄弟が俺の考えを読んでくれれば
「……パンとチーズシチュー」
「へ?」
「ですから! パンとチーズシチュー! あとデザート! それで手を打ちましてよ!」
どうやらさっきの俺謹製のパンとチーズシチューを気にいって頂けたらしい。
「ああ! 大盛りでバターロールも付けてやるさ!」
「そこまで私食い意地は張っておりませんわよ!!」
「ギュルルア!!」
モンスター語はわからんがたぶん
『イチャついてんじゃねーぞ!!』とかキレ散らかしているのだろう。地団駄を踏んでサイクロプスは怒りを露わにしている。
「いくぞ! オレサマちゃん!」
俺はサイクロプスの棍棒に狙いを定めて、戦旗を振りかぶって……
「今だ!! 『マキシマイズド・ドンムブ!!』」
サイクロプスの振り下ろしに合わせて戦旗を棍棒にぶつける!! が、やはり力負けして押し返されてしまった。
『ギュルルアワハハハ!!』
まるで勝利を確信したかのようなサイクロプスの高笑い。大口開けてさぞやいい気分だろう……。夜だけどピクニック気分かよ?
「ガギャアーッ!?」
サイクロプスの棍棒はオレサマちゃんを叩き潰す事はなかった。
と、言うのは俺が『マキシマイズド・ドンムブ』を使ったのはサイクロプスに投げ飛ばした薬瓶達にだ。勿論ポーションではない。
オールクリアとは雲泥の差の威力だが調合失敗による失敗作ボム……俺特製の爆撃スキルさ。無論一個じゃない。俺はフツーの落ちこぼれじゃねーから一回、2回3回と失敗は繰り返すのさ。
タイミングを合わせた連鎖爆撃にサイクロプスの肌のあちこちは裂け、よろめく。
そしてトドメは……!
「ムサイ! クサイ! アレを使うぞ!」
「タイミングを合わせるんだ!」
「丸太は持ったな……! 行くぞぉー!!」
3人で丸太を抱えての突撃を敢行した!
オレサマちゃんのバフ効果で威力も速度も上昇していたその一撃はサイクロプスの脛を砕き……転倒させた。
「ギュルッ!? ガ……ガガ……! ガ……」
倒れ方がまずかった上に受け身が取れなかったサイクロプスはそのまま首の骨が折れ、昏倒して動かなくなった。
……俺たちの勝ちだ。
ー
「ほーら御覧なさいよーく御覧なさい。
そうそう見られるものではなくってよ♪
このオレサマ・ノツモリダとボン・ノツモリダが討伐したサイクロプスの棍棒でしてよ? オッホホホホ!!」
「「「おっほほほほ」」」
いや! お前らも高笑いするんかい!
そんなこんなで休み開けの学園ではオレサマちゃんが三兄弟に台車で運ばせた棍棒を広場にて誇示していた。
「この棍棒はサイクロプスの討伐記念として学園に寄贈させて頂きますわよー♪」
「いや、いらんでしょ! こんな呪いの装備!」
「まあ、なんですのその仰り様! 貴方も私の夫なのですから妻の後を三歩下がってついてらっしゃい!!」
「逆だよ逆ぅ!!」
落ちこぼれコンビから夫婦漫才師にクラスチェンジ!? じゃっかあしい!!
そんなクラスは『ドレイクユニバース』にはねえ!!
「に、ニセモノだ! こんなのニセモノに決まっている!」
カウのヤツは何だか必死に抗議している。そんな必死になることか? 仮に俺達がいい成績を出してもお前の成績が下がるわけでもなし。ここは相対評価じゃないんだぜ。
「いや、本物だぞ。私の鑑定スキルに間違いがなければだが」
「くんくん、くんくんくん……。あ、これ本物だよ。サイクロプスの血の匂いがする。オレサマちゃん凄いねー!」
おお……、ユーシャちゃんとクオタ君がフォローしてくれている。持つべきものはルームメイトだな!
「に、ニセモノだ!! 何かからくりがあるはずだ!! インチキだ! デタラメだ! コイツにこんな都合のいい事が起こる筈がない!」
カウはそれでも納得せずに癇癪を起こした子供の様に喚き散らした。 これにはモブ生徒の皆も口には出さないが
(ええ〜……。それってどうなの? カウ・マッセ君)
って顔になり出している……。ちょっと不味い雰囲気だな……。と、俺がなんとか泥をかぶろうと思案しだしたその時、
「何を推測でものを喋っているこの凡夫が。俺の弟がそんな卑劣な男だと糾弾するのならば、何らかの確たる証拠があっての事だろうな?」
う、お……!? (ガワの人が)身内の俺ですら竦み上がる位の武威を発しながら現れたのはゴン兄さんだった。一軍の司令官のプレッシャーにモブ生徒達は何人か倒れるものもいた。クオタ君は不動、流石だぁ……。
ちなみにユーシャちゃんは小剣の束に手をかけていた。サツマだぁ……。
「う、あ……その……」
ぺたりと尻もちをついてあわあわと口ごもるカウ。これじゃさらし者もいいとこ。 ざまあ見ろという気持ちも……100のうち3、いや5位はあるがフォローしとこう。
「運と周りの仲間が良かっただけだぜゴン兄さん。ほら、立てるか」
「う……煩い! 一人で立てる!!」
「お、おう……」
手を差し伸べたら振り払われて走り去っていってしまった。何とも気まずい雰囲気に……。
「運も人徳も力の内だよボン。誇る事だ。
そうそう常人には持てるものではないからね」
その空気を変える様に男装の麗人オーラ出まくりのジン姉さんが割って入ってきた。
「お、おお〜。三世大公のノワール家が揃い踏みだ……」
「やっぱり洞窟の試験の時も思ったけどオーラが違うよなあ……」
「お、俺サイン貰っちゃうかな?」
ギャラリーががやがやと騒ぎ出す。
まあ、俺のサインを貰いたがるヤツはいないんだけどねアハハ。……泣けてきた。
ー
一方その頃。
(くそっ……クソッ……見限られた!
見限られた!! あのゴン司令官に見限られた……!! 俺はもう……おしまいだ!!)
カウは学園端の物置にてくずおれながら咽び泣いていた。
(あの弟の方は上手くいっているというのに俺には何の才能もない……! 家柄だって格下なのはわかってるさ……! でも俺だって努力してるじゃないか!! それなのに何故アイツばっかりあんなに恵まれるんだ……! 不公平だ! ひどすぎる!!! 俺には血筋しか! 血筋しか誇れるものがないのに……!!)
『使えよ、無理するな』
ボンからマジックポーションを渡された時から解っていた。アイツは俺の底を見抜いていると……。
(あの時俺が使ったのは『マキシマイズド・バーンショック』、初級魔法に使用魔力を上乗せしたものでエクスプロージョンなんかじゃないんだ……!)
カウ・マッセ。彼は6属性を使える神童であったが麒麟児ではなかった。
実の所成長はもう頭打ち。彼の根底にあるのは自尊心ではない。非才を誰かに看破されて排斥される事への恐怖だ。
それに付け加えるなら他者への疑心もある。
(嫌だ、嫌だ! 死ぬのは怖くない……だが
母さんみたいに皆から用済みだと嗤われて馬小屋の端に追い立てられてネズミの様に死ぬのはイヤだ!!)
カウ・マッセは長男ではあるが庶子である。母親の身分が低いためか男爵家内での後ろ盾がない。更に後妻より生まれた弟がいる。わざわざ長男を学園に送ったのもマッセ家にそういった事情があるのだろう。
ともかく彼は鬱屈しきっていた。