グッドエンドで世界が滅ぶなんてそんなのアリ!? ~ヘイト担当悪役貴族は主人公らとノーマルエンドへ辿り着きたい~ 作:ぷうち☆りん
「ありがとうございます……ボン様。
貴方が何者であろうと私は貴方に従います。 互いを死が別とうとも、私は貴方のお傍に」
ミザリーちゃんは俺の胸に顔を埋めながらそう言った。うわっ、やっぱりいい匂い。
ヘナヘナ顔になりそうだがここはビシッとキメないとね!! (キリッ)
ってあれ? 今さらっと重要なコト言わなかった? あなたが何者であろうともって……俺の正体がバレている……ってコト!? 背中から汗がダラダラ流れて止まらないよー!!
裏切ったらバラす(二重の意味で)なんてやだよー!!
しかし、そんな俺の不安も翌日に吹っ飛んでしまう一波乱が訪れるのであった。
なにせ俺の机に【魔族の信奉者は学園から出ていけ!!】なんてラクガキがされちまっていたんだからな。
ー
……どうしたもんか。リアクションとしては「どういう事だよこれは!」と怒るべきだろうか?
しかし俺はこの世界ではボン・ノワール。ノワール家の生き恥……いや、クジョ以外はそう思っていないけど!!
平民イビリや奴隷イジメを嬉々として行なっていた控えめに言ってもクソ野郎である。 今更ダブスタかよ。と言われるに決まっている。
この世界にダブスタなんて言葉があるかはともかく。
と、なると……黙って拭き取るしかねーな。
俺は携帯していた聖属性加護付きのハンカチを取り出して拭こうとしたその時。
「どうかなさいましたか?」
と、ミザリーちゃんがいつもの3歩下がって俺の後ろを甲斐甲斐しく守るというスタイルで尋ねてきた。
「い、いや何でもないんだ……ハハハ」
「……本当ですか?」
疑いの眼差しというよりは心底心配するような声色で聞いてくるものだからちょっと泣きそうになるぜ! こんな優しい子を脅して手籠めにしようとするなんて俺は鬼畜か……ってそれは俺であって俺じゃない!
「ああ……大丈夫さ。 なにも問題はないぜ」
「そうですか……しかしボン様? それは何ですか? 清掃用のハンカチの様に見えますが」
「えーっと……何でもないよ?」
「見せて頂けますか?」
音もなく俺の背中に回り込んでいた。
普段、後ろを甲斐甲斐しく守っていてもらったのが仇になったのか!?
「……!!」
彼女は絶句し、青ざめた。それは怒りによるものでも失意によるものでもない。俺に濡れ衣を着せてしまったことへの罪悪感によるものなのはバカボンたる俺でもはっきり解る。
「ごめんなさい、ボン様……やはり私はここへ来るべきではなかったのです……!」
彼女は聖属性加護のハンカチを俺から奪うと自分の手が被れるのにも構わずに懸命に俺の机を拭く。
「申し訳ありません! 申し訳ありません!! 私が……私が卑しい生まれだから……!! あぁッ……」
「ミザリーちゃん!!」
俺は叫びながらハンカチを引っ張ったが、ミザリーちゃんも握ったまま放さない。そしてミザリーちゃんの指に付いている傷から血が滲み始める。
魔族との混血児故に聖属性にアレルギー反応が出るらしい。
「もういいんだ、もういいから止めよう。 このままだと血が出てるからさ」
「ダメです……これ以上、ボン様のご迷惑をかけるわけには参りません」
「いやでも怪我しちゃってるし……」
ミザリーちゃんは俺を見据えると覚悟を決めた表情になって言った。
「お願いします。どうかお叱りください。 ボン様が私をお許しになられるのであればどんな罰でも甘んじてお受け致します」
「……じゃあ俯かないで。キミにはいつも笑っていて欲しいんだ」
「ボン様……」
何?小っ恥ずかしい事をヌケヌケと言っているがしょうがねーだろ!! こういう時はカッコつけるしかないんだっ!!
「こんな所にいましたのね!!
婚約者たる私をエスコートせずによくも他の女性と……!!」
ここでオレサマちゃんが現れる。……なんてワーストなタイミングなんだ。
「あら? ミザリーさんじゃありませんの?
どうなさいました?」
「……」
両者の間に微妙な空気が流れる。
俺は導かれしものではないのでどうすればいいのかわからない!
パーティーを再編成してくださいよー!
と言ってもそんな願いが誰かに届くはずもなく……
「あら? ミザリーさん、その手の火傷はどうしたんですの? ボン! すぐに手当をなさい! 全く貴方ときたら女性のエスコートや気配りがなっておりませんわね」
と、ミザリーちゃんの怪我を一目で見抜いてオレサマちゃんがツカツカと近寄ってきてハンカチを外そうとする。
だがミザリーちゃんは拒否するように振り払い、ハッキリ言い切った。
「いいのです。私の落ち度ですから」
「貴方の落ち度? なら、主であるボンの落ち度、そして婚約者である私の落ち度という事に他なりませんわ。私、回復魔法には自信がありましてよ?」
と、ミザリーちゃんの火傷を綺麗に治してしまった。脳筋タンクプリンセスだと思って本当に申し訳ない。
「それで、どうしてこんな火傷を……?」
とそこでオレサマちゃんが件の落書きを発見するやみるみる顔が険しくなった。
あの……ヒロインがする顔じゃないんですけど……。オーガやゴブリンもビビり散らかして逃げ出すレベルですよ……。
「……どういう事ですの?」
「違うんだ、これはその……」
「違うです! ノツモリダ様!! 私が卑しい生まれなのが悪いのであって、ボン様は一切悪くないのです!!」
取りすがる様に許しを請うミザリーちゃん。オレサマちゃんが普通の悪役令嬢なら即ミザリーちゃんを蹴飛ばし、婚約解消となるのだろうが……。
「わかりましたわ。もう結構です。ウザイ、ムサイ、クサイ。皆を集めなさい」
「「「ははーっ」」」
三兄弟へ命を下し、忽ちの内にクラスメイト達が集まりだした。
(今はノワール家よりノツモリダ家の力は強いんだな)
ともかく、皆が集まったのを確認するなり彼女は剣を振るって落書きごと机を一刀両断する。
クラスが騒然となり、教師まで駆けつけてくる始末。
だがオレサマちゃんは怯まない。
なんという烈女か、俺が婚約者ならカカア天下で枕を濡らすね。
「この様な愚劣! 劣悪! 悪辣極まりない下等な行為は決して看過できませんわ!
犯人は覚悟しなさい! そしてこのような蛮行は我々帝国貴族全員への辱めに等しいものですわ。よって我々が責任を持って調査を行います! よろしくて?」
「「「「は、はい……」」」」
か、貫禄ハンパねぇ……貴族のオーラ出まくり!! 俺とは大違いだわ~……。だってガワだけボン・ノワールだもの!
タバコが吸いたいなァ!!
ー
と、言うわけでその日の放課後。
俺達とユーシャちゃん達は食堂に集まった。
「へー、オレサマちゃんもなかなかやるじゃん。最初は何だこの食い物を粗末にするいけ好かねー女って思ってたけど」
と、ニカッと爽やかに笑って彼女の義憤と剛勇を褒めたのはザンテツ君だった。
「あ、あれは……。いえ、何を言っても言い訳になりますわね……。申し訳ありませんでしたわ」
「いいよもう。分かってくれたなら」
ユーシャちゃんはカラッとした女の子だ。
戦闘時はバーサーカーだけど。
「うむ。雨降って地固まるというヤツだな」
と、纏めてくれたのはチームのタンク兼軍師であるクオタ君だ。
雨降って地固まる……? ってこのドレイク・ユニバースの世界にこの諺ってあったかな?
ま、そんな話はどうでもいいよな。
「そんじゃあ、まずは今日の件について話し合おうぜ? ボンちゃんはどう思うよ?」
ザンテツ君は仕切りも心得ている。
やっぱりカースト上位モテモテ陽キャ剣士は違うな!
ユーシャちゃんもバリバリ前衛マルチアタッカーだし、ミザリーちゃんは先制ワンキルアサシンだし、オレサマちゃんはカリスマ系盾姫だし、クオタ君は賢者だし。あれ? 俺のポジションは?
アイテム袋の方がメシが要らないだけまだマシじゃね?
「す、すいません! 俺なりに努力します! どうかお払い箱だけは……!!」
「解ってるって。ミザリーちゃんを学園から追放するなんてマネはしないって。 つーか俺さぁ、実はこういう陰でコソコソするクソヤローとクソアマって反吐が出るほど嫌いなんだよな」
「そうだね。私もこんな真似は大嫌い!
許せないよ!」
「同感だな」
「「「いかにも」」」
と、ユーシャちゃんとクオタ君、後ついでに三兄弟も同意した。うおおー!!! みんな優しいぃ!! 仲間っていいな〜!!
何で田舎のマイルドヤンキーはいつもつるんでんだよ、って冷笑していたけどホントゴメン! ……と話が脱線してしまった!!
「で、犯人の心当たりってある?」
「……」
ありすぎる。だってボン・ノワールは自分を神童だと思い込んでいる自己愛系害悪系中ボスだもん。俺がやったワケではないが……!
いや、オレサマちゃんを見習ってグチや言い訳はよそう!
ボン・ノワールとしてのメリットを引き受けるならデメリットもまた享受しないといけないんだ……。
「う、うーん……俺は色々敵を作ってきた。
ミザリーちゃんみたいな可愛い子を侍らせた事で嫉妬されるかもしれん……。特に男の子から。それに俺、結構サイクロプスの事件の時に目立っちゃったから」
と、遠慮がちに答えるしかなかった。
クオタ君は腕組みをしながら静かに頷き、ザンテツ君もユーシャちゃんも同じだった。
うわあぁ……。 みんな、真剣に考えてるぅ……!
逆にプレッシャーかかるんですけどぉ!!
「あ、犯人解ったかも!」
ユーシャちゃんが閃いた! と言わんばかりにポンと手を叩いた。かわいい。じゃなくて……。
「え!? マジで! ユーシャちゃんってマジ名探偵!?」
「いや〜、それ程でも。えへへへ」
「自惚れるのは構いませんけど、先ずは貴方なりの推理を聞かせて頂きたいですわ? ユーシャさん。勿論、根拠と共に」
「それもそうだね……えーっと?」
ユーシャちゃんはコホンと咳払いをして、立ち上がった。
「犯人はズバリ……カウ君だよ!」
「な、なんだってー!!」
「ボンくん。そんなに驚く所じゃなくね? ぶっちゃけ俺もアイツが怪しいと睨んでたんだわ」
つい古臭いネタで反応してしまった。なおザンテツ君は現実世界のネタなんて知らないのでユーシャちゃんに同調し、これをスルー。
「だってアイツミザリーちゃんにアタックして振られてたじゃん。しかも100人女とヤッたとか見栄はってただろ?
恥をかかされた腹いせにやってやれー! って軽いノリでやりそうじゃん」
「それに私の事を平民上がりだってボン君との試験で言ってたっけ。私、そういう事には執念深いんだよね」
そ、そうなんだ……。
ユーシャちゃんの意外な一面を垣間見たな。
「更に付け加えるなら彼は公然の場でゴン様とジン様に叱責されていて、ボンを恨む動機もありますわ。
つまり状況証拠が出そろっている以上、犯人はカウという事で宜しいですわね?」
「「「仰る通りでございますオレサマ様!」」」
「誰が追従なさいと言いましたの!
カウは今日私用で留守とのこと明日問い詰めれば済むことですわ! 逃げたなら転送石の及ぶ範囲まで追えば良いだけの事でしてよ!」
と、オレサマちゃんは怒り冷めやらぬという感じで拳を握り締めて宣言した。
こ、怖っ!! やっぱりオレサマちゃんは味方になってもらってよかったよぉ〜!!
てか、みんな推理力高すぎじゃね?
俺なんて賑やかしのモブにして元凶という不甲斐なさ。
「ボン様、元気を出してください。
もし本当にあの軽薄なカウという男が犯人だとしたら私が確実に仕留めて見せましょう。例え、どのような手段を使っても」
「ミザリーちゃん……」
「ボン君ボン君、もし何かあったら私たちに相談してよ。ね、ザンテツ君」
「おうよ! 俺達は恋のライバル以前にダチだもんな!?」
頼もしい仲間たちだ。だけど、なんかモヤモヤするなあ。
カウが本当に犯人なのか? 確かに高慢ちきでマウント大好き。
一々揚げ足取ってくるヤツではあるけど。
……なんだろうな?
とにかく明日カウをシメるという結論に至り解散になったが、奇しくもクオタ君と俺だけがテーブル席に残る状況になった。
「あれ? クオタ君は解散しないの?」
「うむ。少し考えを整理したくてな。
今日はボン氏に付き合ってもいいだろうか?」
「え、あ、うん……」
俺の返答にクオタ君はニッコリ微笑み、「感謝する」と言って対面に座った。
しかし沈黙が続く。
気まずい……。せっかく頼れる仲間が増えたのに。
クオタ君は眼鏡の位置を直しながら、静かに口を開いた。
「単刀直入に尋ねさせてもらいたい。今回の一件、ボン氏はどう考える?」
「え……?」
ほぼ同じやり取りなのになんか名探偵と助手みたいだ。
思う、と考えるは違うよな、確かに。
……って今は真面目な時だぞ!? しっかりするんだ!! と己を叱咤激励しつつ、深呼吸をして答えた。
「俺は……カウは犯人じゃないと考えてる」
「と、言うと?」
「確かに動機はあるだろう。しかし、それにしてはやり方であまりにも稚拙で陳腐すぎる。あの程度でミザリーちゃんや俺の信用を損なおうなんてさ。
アイツも貴族の教育を受けているならそこまで損得の効かないバカじゃないさ」
「……私と同じ意見だな。 序に言うと私はあの内容に違和感がある」
クオタ君は口元を隠しながらテーブルに腕組するゲン◯ウスタイルを決め、慣れた仕草で推理を展開する。
「え、あの【魔族の信奉者は学園から出ていけ!!】って文面に何か不自然な所なんてあったかな?」
「大いにあるさ。キミ達……いや、私たちの世代ならこんな言い回しは普通しない。
もっとあけずけで品のない言い回しをする筈だ。ボン氏、キミなら何て書く?」
「うーん……。バケモノ! とか死ねクズ! 同じ空気を吸うのもイヤだとか?」
「……ボン氏は相手を挑発する才能に溢れているかもしれないな……。すまない。私は冗談をいうのが上手くないらしい」
「そんな事は無いと思うよ。俺、クオタ君のこと友達って思ってるし」
「……ありがとう、ボン氏。ならば私は親友という言葉を使って良いだろうか?」
「もちろんさ!!」
「フフ、嬉しいな」
照れくさそうに笑うクオタ君。 ああ……ゲーム内では影の薄かったクオタ君も、中身は普通の青年男子なんだなあ……と思うと感慨深くなってきちゃったよ。あれ? 俺達って一応10代だよね?
「話を戻そう。犯人はミザリー氏やボン氏ではなく、魔族そのものを嫌悪している可能性が高い。
その場合、あの文面の語彙、古風な言い回しはさながら演説の一節だ。
……私の父親くらいの年代の人物からしてみれば不自然ではない。
となると教師か上級生。そして極めて保守的な思想の強い人物だな。
恐らくあの犯行は個人的怨恨より、伝統派貴族としての行動だと考えるのが妥当だ」
「凄いよ! クオタ君は探偵みたいだ!!」
するとクオタ君は珍しく大笑いした後。
「そうかもしれないな。まあ、私も探偵業をしているわけではない。
商人の生まれだからかな。推論や仮説を真実の様に見せかけるのは得意なんだ。
それと、昔読んだ本に似たような事件の解決方法があったのを思い出しただけだよ」
「そんな事ないって!」
クオタ君は知性と教養を感じさせるな〜。
それに比べて俺ってば。
「はあ……せめて頭の良くなるポーションとかあればなあ〜」
「そんな便利なものがあれば苦労はしないだろうな。あるとしても常に新しい知識や技術を取り入れなければ同じ事だよ」
「ですよね〜」
「……しかし、魔族への差別意識というのは根強いものなのだな」
クオタ君はため息混じりにつぶやいた。
そしてさらに続ける。
「特に近年の魔族との交易によって多くの利益を得ている商人たちにとって、魔族に対する偏見を持つことは死活問題になるはずなのにね。私の実家もここだけの話、彼らとの交易で財を成し、一代伯の地位を得た」
「……そうなんだ」
俺にはよく分からない世界の話だ。
でもきっと難しい問題なんだろうなと思った。
「それと関連してもう一つ。犯人は君ではなくミザリー氏を狙っている。何故ならボン氏を狙うなら机に落書きする必要はない。私の実家が一代伯なのはさっき話しただろう?
だから君の過去は幾らか人伝で聞いているし、いくらでも攻撃材料になる。
だが犯人はそうしなかった。つまり敵意の対象は君ではなく魔族だ。
あと個人的な意見だが君は噂と違って大分感じがいい」
なんか褒められると気分がいいなへへへ。
このまま帰ってもいいがクオタ君とはもう少し雑談していきたいな。
「それにしても最近変な事が多いよなクオタ君」
「……というと?」
「ほら。田舎の夜にサイクロプスが出たり、ゴブリン討伐の時にラミアクィーンが現れたりさ……」
「ラミアクィーン?」
あ! しまった!! ラミアクィーンがいたって証拠はゴブリン達の巣穴を消した時に一緒に消しちゃったんだった!!
完全に俺のドジである。
「……ラミアクィーン。私の聞き間違いかな? まさかサイクロプスの件だけでも一大事なのにラミアの女王まで……?
あの顛末は調査団も来ていないし、あの時はキミとオレサマ嬢作り話とばかり思っていたが」
うわーん!! クオタ君が変な目で俺を見てくるよー!! どーしよ! ここは誤魔化さないと!! 必死に頭の中で言い訳を考えるが、何も思いつかない。
「ち、違うんだ!! 昨日見た悪夢の話!!」
「……そうか。そういう事にしておこう」
クオタ君は俺を見て優しく微笑んだ後、席を立ち、「また明日会おう」と言い残して去っていくのであった。
混血騒動を解決するためにもっと凶悪な地雷フラグを立ててしまった気が……!!
やっぱりイキリ散らすのはダメだな!
謙虚にならないと。