グッドエンドで世界が滅ぶなんてそんなのアリ!? ~ヘイト担当悪役貴族は主人公らとノーマルエンドへ辿り着きたい~   作:ぷうち☆りん

13 / 17
転生したらラブコメでした

 で、翌日の昼休みの話。

 

「おはよう、クオタ君」

「ああ、おはようボン氏」

 

 場所は学園の食堂。 俺はクオタ君に昨日の落書き事件に関する犯人だと思われる人物に関してメモを取り、内容を精査してもらう事にした。

 なお思いつく犯人候補は二人。

 

「ふむ……」

 

 クオタ君は俺がメモから手を離すタイミングを見計らった後ゆっくり目を通す。

 字が汚いとか言われたらどうしよう。

 生前の圧迫面接の場を思い出して喉はカラカラ。手に汗が滲む。

 

「成る程。ボン氏はビルデ・グラマラス女史かモーロック・マインド教師の何方かが怪しいと踏んだのだな?」

「ああ」

 

 ビルデ・グラマラスは俺というよりボン・ノワールの母親であるクジョから恐らく

「甘やかしてダメ息子にするかさっさと退学にして地元に返せ」とか厳命を受けているはずだろう。

 という事はミザリーちゃんの出自を知っていても不思議じゃない。

 

 モーロック・マインド先生はやたら俺に厳しい。いや厳しいから犯人だと決めつけたワケじゃなくて、お年寄りだし何十年も同じ教科書を使い続ける位頑固というか保守的。だから犯人なんじゃないかな

 

 

「確かに可能性はあるね。但し真犯人ではないと私は見る」

「そ、そうなの?」

「まずビルデ女史だが享楽的にして奔放、かつキミに含むところがあるという教師らしくない人物だ。

 だが、教師らしくないという理由だけで【魔族の信奉者は学園から出ていけ】と生徒の机に書くような人物であるとは結びつかない。

 そしてモーロック先生だがこれも同じ。

 保守的である事と差別主義者であるという事は別の問題なんだ。

 それにモーロック先生は三世大公、三代続けて大公を出した名家の生まれであるキミにも反省文をきちんと書かせる公正な人物。

 そんな公正な人物が魔族に対してのみ差別や迫害を行うと考えるのは難しい」

 

 い、言われてみれば確かに……。

 俺は自分の浅知恵と浅慮さに落ち込む。

 

「ゴメン。無駄な時間を取らせて」

「そんな事はない。寧ろ私には足を棒にしても得られる事はなかった位に有益な情報だったよ。ビルデ女史が怪しいというならボン氏が直接お伺いを立ててみるといい」

 

 えぇ〜!? 犯人はお前だ! と名探偵みたいに指差せって? 

 

「いや、それは流石に問題になるんじゃ」

 「ああ。私の伝え方が悪かったな。そうではなくて『貴方は犯人を知っているか、心当たりがあるのではないのですか?』くらいの事でいいんだ。

 キミのメモによると俺を試してアリの巣を観察する様にして楽しんでいやがる。とある。

 という事はキミが真犯人を暴いたら彼女にすればそれはそれでよし。と考えてると私は見る。無論、現時点で私の予測が外れていたら全く意味がないけどね」

 

 肩を竦めつつもコーヒーを嗜むクオタ君。

 カッコいいなあ。

 

「あと私からのアドバイスとしてはその落書きを見ても気にしない事だね」

「えっ?」

「もしもキミが【魔族の信奉者は出ていけ】というメッセージに狼狽えたり反論したりするのも犯人の思う壺だ。

 どんな事をされてもどんな事を言われても常に余裕のある対応で行きましょう。という感じかな」

 

 なるほど。確かにそれは大事だよな。

 今まで俺は相手のペースに乗せられてばかりだったしな。

 

「ありがとうクオタ君。それじゃあ早速やってくる!」

 

(何、あの子! 急に席を立っちゃって?)

(きっと別れ話よ)

(きゃ~! お耽美よ! お耽美の修羅場よ! ショック〜! クオタ君は地味ストイック系で注目してたのに〜!!)

 

 なんかヒソヒソと不名誉な誤解が広まっている様な……いや! 今はそれどころじゃねえ! 

 

 ー

 

「あの〜すいませんビルデ先生!」

「あら♡どうしたのお昼休みに♡

 まさか私と情熱的な補習に勤しみたいの♡」

 

 補習室にて教師がボッチ飯+投げキッスというシュールな構図に出くわした俺はやや怯んだがすぐさま質問する。

 

「今日俺が授業を受けた後に何方かここの教室に来られませんでしたか?」

「え〜。何それ〜? 

 もしかして私がボン君に内緒のプレゼント置いていった事でオレサマちゃんがミザリーちゃんに妬いちゃった? それとも新しい落書きでもあったのかしらぁ?」

 

 口笛吹きながらとぼける姿勢。

 内緒のプレゼント、新しい落書き……。

 あからさまに私が今回の騒動に於いて主犯です。と言いたげだ。

 ある意味吊り橋の様な仕掛け方だ。

 渡って見せろというなら真ん中から突っ切るか……!! 

 

「なんか自分が犯人だと言いたげスね」

「ひどいわボンくん。 私はキミの将来のために行動しているのにぃ♡ぐすんぐすん」

 

 単刀直入な言葉を受けていきなり目頭を押さえた。 こりゃウソ泣きだな。

 確かに俺の将来のために行動はしてるよな。 但し俺を破滅させるためにだが。

 

「私が犯人だという証拠はあるの?」

 

 しかもまた急にマジメなトーンになり浮ついた笑みは消えた。

 更にサドゥー先生かそれ以上にスパルタ的なオーラを醸し出しながらこっちを品定めする目つきに変わった。

 普段からこうされたらたまったもんじゃないな。思わず背筋が寒くなり、氷柱の様にピンと伸びてしまった。

 

「ないですね。ただやりそうな人は知っているんじゃないですか?」

 

 しかし凍りついてままではいられない。

 俺の質問にビルデ先生は暫し沈黙した。

 

 そして口を開く。

 

「どうしてそう思うの?」

「貴女は人を観察するのが趣味でしょう」

「へえ?」

「俺やオレサマちゃんのことも調べている。ユーシャちゃんやミザリーちゃんのことも知っている。なら学園の人間関係だって把握しているはずです」

 

 再びしばしの沈黙。

俺はその間まるで吹雪の中にいるかのような錯覚を感じ、

やがてビルデ先生は肩を竦めた。

 

「五十点ね」

「不正解ですか」

「不合格よ。言葉は正確に使いなさいね。ズバリ言って私は誰が犯人か知らないわ」

「……」

「でも、こういう事をやりそうな人種なら知っている。追試として貴方に真犯人を探し出す課題を与える事にするわね♡」

 

 またおとぼけ、誘惑モードに切替わる。本当に感情と表情とテンションが目まぐるしく変わる女性だな。

 しかし、これでハッキリしたぞ。

 コイツは俺が犯人を探し出す事を前提にしてるんだ。だったら答えは一つ。

 

 俺がやるしかない。

 

「分かりました。必ず犯人を見つけます」

「宜しい。じゃあヒントの代わりにちょっとした小話をしてあげる」

 

 窓の遮光カーテンを空けてビルデ先生は外を見る。視線の先にあるのはザトゥー先生のスパルタ補習ランニングを受けているオレサマちゃんとミザリーちゃんの姿があった。

 

「若いっていいわよね〜♡ひたむきで、高潔で、純粋で♡」

「先生だって若いですよ」

「あら嬉しい♡ボーナスで5点プラスしてあげちゃう♡」

 

 いや55点じゃ不合格のままだよ!! 

 とは突っ込むまい。

 

「ねえボン君」

「混血児ってね。最初は皆シンデレラか醜いアヒルの子みたいなのよ」

「……」

「誤解を解くために歩み寄って、相手が自分を好きになる努力をすれば報われる。誰かが助けてくれるって信じてる」

 

 彼女は再び窓の外を見た。

 オレサマちゃんとミザリーちゃんは競い合うでもなく懸命に走っている。

 その『なりたい自分になるため』の懸命さにどれほどの違いがあるというんだ。

 

「でも助けてくれる人なんて現れない。相手がこちらの手を払い除け、石でも蹴飛ばす様に除け者にしてせせら笑うの。

 ああ、これで俺達は一つになれる。友情や絆の力こそ最高。ってね」

「……」

「そうして期待するのを止めるの。

 ああ、なんて私はバカだったんだろう。周りから笑われるのだって当然だってね」

 

 ビルデ先生は笑った。だがその笑みはどこか諦めてしまった人間の哀しさを秘めていた。

 

「まあ、御伽話は大抵ハッピーエンドになる理由って現実はそんなに甘くないからって事なんでしょうけど。犯人は教師の中にはいない。

 私から言えるのはこれだけね♡」

 

 先生は現実はそんなに甘くはない。

 だから他人に尽くしたって無駄だし無意味。見て見ぬふりをして自分の気が合うヤツらだけとつるんで面白おかしく生きればいい。と言いたいのだろう。

 確かにそうさ。

 ユーシャちゃん達は逞しいし、正しいし、優しい。 そこにいるのは居心地はいいし暖まるし、幸せだ。

 けどさ……。幸せになるため、居場所を守るために他人を貶めたり不幸にしたりするのは違うと思う。

 

 あと先生の話は正直なところ半信半疑だ。この人は平気で嘘をつく。俺を堕落させようとしているのも事実だ。だから今の話だって同情を誘うための作り話かもしれない。

 けど……ふとミザリーちゃんの顔が浮かぶ。

 もし何度も裏切られて。何度も傷付いて。それでも手を差し伸べる人が現れなかったら。

 

(ゲームでの最終決戦の時と同じになるのかな……)

 

 それだけは嫌だなと思った。

 

 ◇

 

 一方その頃。

 クオタはサドゥー先生の指導のもと、

 ランニングを続けるオレサマとミザリーを眺める学生達に聞き取り調査をしていた。

 取り巻きはほぼ全てが男性である。

 うら若き女性が汗振り乱し、上着が透けるほどに喘ぎつつ走り続ける様は彼らにとって公開処刑の娯楽に等しいのだろう。

 

「うっせーな! 今いいとこなんだから黙ってろ!」

「魔族の信奉者ぁ? 知らねーよ。

 魔族なんてさっさと始末すりゃそれでいいだろ」

「あー、それにしてもミザリーとかいうヤツエロい身体してんな。ボンが使い古した後俺も使ってもいいかな?」

「お前馬鹿かよ。アイツはガキの頃からミザリーにご執心だったらしんだぜ。死ぬまで独占するに決まってんだろ」

「でもアイツオレサマと婚約してるし。

 ユーシャとかいうメス猪女も囲ってんだろ? クソ、死なねーかなー」

 

 聞けば聞くほど清廉潔白なものは暗澹たる気持に囚われるだろうが、クオタが清濁併せ呑む商家の生まれであった事は幸いだった。

 よくあることだ。と思考をフラットに遮断する事で偏見や私見が推論に紛れる事を防げる。と、同時に現実を改めて知り、今一度考えさせられる事もある。

 

 魔族の信奉者は学園を出ていけ。誰が何のために、落書きなどという手段でわざわざ警告する必要があるのか? 

 過ちは糺すべきという潔癖の現れか? ミザリーを試金石として俗悪な泥濘を浮き出して溝さらいをしようというのか。

 それはそれでやり方としては効率的だ。

 ミザリーが親友であるボンの関係者でなければだが。

 

(思想からは逃げられても感情からは逃れられんか)

 

 と、頭を振りつつも口元の笑みに不快さは見られなかった。

 クオタがボンに対して奇妙な友情を感じていたのはボン・ノワールは彼の基準から見ても聡明な割に自己評価が低く、かつ激情家であった事かもしれない。

 

「おーい。クオタ」

「言われた通り落書きについて女子生徒から聞いたがまるで知らないと言っていた」

「私は明日デートの約束を取り付けた」

 

 首から上はイケメン。

 声はゲーム内においてメジャー声優のサブ役故のイケボ。

 下はムキムキマッチョというバランスの悪いオレサマの従者。

 ウザイ、ムサイ、クサイの三兄弟がクオタに合流する。

 

「申し訳ありません。手間を取らせておきながら」

「礼には及ばない」

「我らはオレサマ様の意志に従い忠義を尽くすのみだ」

「私は給料分ですが」

 

 彼等の主君であり幼馴染でもあるオレサマのメンツもあってか協力は惜しまない。

 しかしこうも空振りとあっては方法を練り直す必要がある。

 

(教師と生徒の両方から当たったが進展なし……まさか部外者ということもあるまいが。何せ敷地の近くにゴブリンの巣が出来た事件もあったからな)

 

 少々論理が飛躍しているのは焦りもあったせいかもしれない。

 そんな折、場が騒然となる。

 

「……ボン、さま。私は……あなたのためなら……」

 

 譫言の様にボンへの忠義以上の内心を吐露しながら彼女は倒れた。

 おお! と男子生徒は沸き立ち、あわよくば白馬の騎士になるべくして駆けつけようとしる者もいたが! 

 

「触るな!! 軽度の熱中症だ!」

 

 凛々しい偉丈夫。やや肌の白い事も加味して白馬の王子がそのまま降臨したかの様に、男子生徒を退ける者が現れる。

 

「何もここまでする事はないでしょう! 

 これは補習ですか! それとも貴方のサディズムを満たすための拷問ですか!」

「……」

「水だ! 誰か水を持ってこい!」

 

 オネストは真っ先に水筒を取り出した。だが彼自身はミザリーに近寄ろうとしない。そして視線は水筒の水もしんまで凍る様な絶対零度の視線。

 

「早く飲ませてやれ!」

「あ、ああ……けどもうサドゥー先生が飲ませてるから……」

「……チッ」

 

 サドゥーは反論せず、ミザリーの介抱を粛々と行う。意に介していないのか、それとも己の名誉などよりミザリーの介抱を優先させようとしているのか。

 

「ざけんなバカヤロー!」

「クソ教師!」

「サディストの変態ヤローが!」

 

 狼に率いられた痩せ犬達はこれ幸いと手負いの虎に吠えかかり侮蔑する。中にも彼の花崗岩の如き背中に物を投げるものまでいた。

 

「お止しなさい!! ザトゥー先生の真意を知らない小物が!」

 

 しかし痩せ犬は痩せ犬。気高き雌獅子の一喝に恐れ慄き散っていく。そうして騒動は終わるなか、サドゥーはミザリーを保健室に運んで行く。

 

(何かがおかしい……。彼は確かにミザリーを庇った……が本当に心配している人間はあの場で真っ先に介抱へ向かうはずだ。

 それなのに彼は教師を糾弾することを優先した。

 サドゥー教師が悪者になる事そのものが目的であるかのように。

 状況を改善しようというよりかは周りを扇動……。扇動?)

 

 思考を纏めていく彼の中で何かが繋がり始めるが彼は成果を焦らない。

 

「ウザイ氏、ムサイ氏、クサイ氏。調べてほしい生徒が一人います」

 

 ー

 ミザリーちゃんが倒れたって聞いて俺は矢も盾もたまらず保健室に駆けつけたのだが、上級生の一人とぶつかってしまった。

 

「すいません!」

「チッ……気をつけろ。魔族の信奉者だけあってゴブリンみてえにコソコソ動き回りやがって」

 

 俺は振り返りって掴みかかろうかと思ったが寸前で止める事が出来た。クオタ君が教えてくれたからだ。気にしたら負け。真犯人の思うツボだと。

 

(あいつが犯人かも、コイツも怪しいって疑ってたらキリがないぜ。疑心暗鬼を生ずってな)

 

 ただでさえ学年もクラスも違うんだ。

 岩礁のようなゴン兄さんや海原のようなジン姉さんの威光を傘にきたワカメ野郎な俺の事を疎ましく思う奴らなんて沢山いるさ。

 

(まあ、いい。ミザリーちゃんの容体は……)

 

 そこにはオレサマちゃんとユーシャちゃん達、ザンテツ君達がいた。

 

「全く! 従者が倒れたならもっと早く駆けつけなさい! 主人としての自覚がまるでなっておりませんわよ! 

 これでは私が倒れた時が思いやられますわ……」

 

 眉間に指を当てて悩まし気にオレサマちゃんが俺を叱咤してくる。すいません。

 

「まあまあ。生きていれば何とかなるよ! ボン君も林檎食べる?」

 

 と、ユーシャちゃんは向日葵のようなからりとした笑顔で俺を励まして林檎を剥く。

 器用だなあ……。まるでプロの腕前。

 

「ユーシャちゃん皮むき旨いねぇ!」

 

 ザンテツ君がすかさず感心してユーシャちゃんを褒めた。

 思考と反射速度に於いて俺は完全に恋のレースに於いて性能差を見せつけられている。 

 

「そう? 普通だよ〜。私の家って母さんが酒場で働いて、父さんが野菜作っていたからね」

 

 酒場? キャバクラ? 

 いやドレイク・ユニバースにキャバクラなんてない!! 

 くっ……! 仮にキャバクラだとしたらザンテツくんに資金力の差で勝てるのに! 

 いや資金力で勝つ事のどこに意味がある? 

 ならば……ここで差をつける!! 

 俺はアクセルを全力でベタ踏み!! 

 いけーっ!! マグナーム!! 

 

「そうなんだ! 一度会ってみたいなあ! 

 きっとユーシャちゃんみたいに素晴らしい人なんだろうなー! だってユーシャちゃんは優しいし、強いし、可愛いし、何より一緒にいるとホッとするからさ」

「ボン?」

 

 婚約者であるオレサマちゃんの機嫌がみるみる悪くなるがここは敢えて……走る! 

 するとユーシャちゃんの手が止まった。

 

「ごめん……二人とも魔族に襲われて死んじゃったんだ」

 

 その瞬間、保健室の空気が止まった気がした。俺の脳裏に、ゲーム開始時の説明文が遅れて蘇る。

 アクセルを踏み込んだ結果がクラッシュだ。あまりにも無神経過ぎる発言に俺は青ざめて何も言えなくなる。

 迂闊すぎる……! ドレイク・ユニバースのアバターキャラ主人公はそういう設定だったのを今まで忘れていた……!! 

 だから生きていればなんとかなる! って口癖だったんだと……! 

 

「ごめん! ホントごめん! ごめんよ!」

 

 俺は馬鹿野郎だ。ただただ謝るしかなかった。

 

「だ、大丈夫大丈夫!! 生きていれば何とかなるよ!! 

 あ、ごめん指切っちゃったかも……! 手当してもらってくるね!」

 

 彼女は俺を罵るどころか気を遣って逆に保健室の先生に診察してもらいに行くという有様。本当に俺はどうしようもないクソ野郎だ……!! 

 

(どうして上手くいかないんだろう。

 何をやっても失敗ばかりだ。

 でも、どうして……。俺の胸の中では怒りが湧き上がってきているんだろう?)

 

 それはまるで火種が消えた燻りの様に静かなものだったが、次第に熱く大きくなり燃え盛る炎へと変わっていく。

 

(いや、もうわかっている……! ミザリーちゃんを悪し様に言いやがって!! お前らに彼女の何がわかる? お前らなんかが彼女を語るな! 彼女は強くて臆病で優しくて可愛くて綺麗で儚くて脆くて壊れそうで触れると温かくて……! そんな大切な存在なんだ! それを……!! お前らは彼女を侮辱しやがって……!!)

 

『これ、小僧。ドレイクスレイヤーに飲まれるでないわ』

 

 薬指の指輪から妖精女王であるオベリア様の声が聞こえてハッとした。す、すみません……。

 

『奴は人の失意、絶望、悪意、欲望を喰らい、併呑する事で自らを強化する故にな。指向性はないゆえ、そなた個人を捕捉してはおらぬであろうがゆめゆめ己の秤を揺らし、零さぬようにして歩むがよい』

 

 了解しました……。

ん?ということはユーシャちゃん、オレサマちゃん、ミザリーちゃん、そしてまだ見ぬ作中のヒロイン達に目移りするのもドレイクスレイヤーの精神攻撃!? 

 クソッ!! 何て卑劣な! 許せねえ!! 

 

『それはそなたが好色なだけじゃな』

 

 ですよね〜……他責はほどほどに。

 

「さっきから何をブツブツと言っておりますの? 許せねえとかなんとか、私に何かご不満がありまして?」

「めめめ、滅相もありません」

「いやいや、熱いじゃん。

 ミザリーちゃんを追い詰めたカウが許せねえってんだろ?」

「そうですわね。

 聞けばカウは予定日になっても帰って来ないとか。

 きっと露見するのを恐れて逃げましたわね!! かくなる上はマッセ家に直談判!!」

 

 い、いや! カウが犯人とは思えんし、そんな大ごとにしたら貴族派閥での内乱に発展しかねない! 

 

 と、その瞬間……。

 

「う、ううう……」

 

「ミザリー!!」

 

 慌てて彼女の側に駆け寄ると彼女は何か呟いている。

 

「申し訳……ありません。私、もう一人ぼっちはイヤ……」

「ミザリー……! 大丈夫だよ……大丈夫だからな! 俺はここにいる! ここにいるから!」

「ボン……」

 

 その後も彼女はうわ言のように俺達の名前を呼ぶ。それが嬉しくもあり悲しくもある。俺はただ彼女の手を放課後が過ぎても握り続けるしかできなかった。

 




ゲームの中の世界だからお伽話も熱中症もある。いいね?
いや、ラジフィジリムアーヴァンテ症候群とか言われても
はあ?とならない?俺はなるね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。