グッドエンドで世界が滅ぶなんてそんなのアリ!? ~ヘイト担当悪役貴族は主人公らとノーマルエンドへ辿り着きたい~ 作:ぷうち☆りん
場所は魔法学園敷地裏のゴミ捨て場。
「オネスト先輩〜。そこまでしてくれなくてもいいですよ〜」
「ごめんね〜。副部長のオネストにゴミ掃除まで
手伝ってもらって〜」
「気にすることはないよ。ゴミ掃除は誰かがやらなきゃいけないことだからね」
右パート寄りで綺麗に分けられたブロンドの髪と、顔周りをすっきり見せるサイドの刈り上げが特徴イケメンのオネストが爽やかスマイルで後輩生徒達の代わりに汚れた楽譜やゴミの仕分けをしていた。それに比べて俺は癖の強いワカメヘアーにねじけた性格を現す様な魚の腐った様な目。
悔しい!ビクンビクン。
と、何を一人で妄想と被害者意識を逞しくしていても仕方ない。
落書き事件の真相究明のため、オネストを呼びとめるべく踏み出したその時。
「悪ぃ。ちょっと時間いいスかセンパイ」
ザンテツ君、ユーシャちゃん、オレサマちゃんの先行していた三人がオネストの前に躍り出た。
「君は剣道部のザンテツ君だね。
それから……ユーシャ君とオレサマさんじゃないか」
「あの、今大丈夫ですか?」
「……」
「大丈夫だよ。ちょっと待っててくれるかな……よし、これで終わったかな」
ゴミ分別を終わらせたオネストは立ち上がると、パンパンと自分の服についた汚れを払う。そして、ザンテツ君達の元へ歩み寄ってきた。
「それで話ってなんだいオレサマさん?」
「ええ。話というのは他ではありませんわ。 貴方が公然の場で我が友人を侮辱した事を彼女に詫びて頂きたいのです」
オレサマちゃんはまっすぐに、凛々しく一片の曇りもない様子で告げる。
さて、オネストはどう出るだろうか……。
クオタ君とカウの二人がまだ到着していない以上俺が飛び出しても何もならん。寧ろマイナス。ここは物陰に控える。
(どういう事かしら?)
とオネストの同級生と後輩はアイツの後ろで固唾を飲んで成り行きを見守っているのが気配で分かる。
「それは申し訳ない事をした。心からお詫びしよう」
なんとオネストは深々と頭を下げてオレサマちゃんに謝罪したではないか
あれ?意外に素直?……なワケねえ!
コイツ、すっとぼけてやがる……!
ミザリーちゃんの名前を出さずに『謝ったんだから許せよ』という空気にしようとしているな!
「ちょっと待って!私たちにじゃなくて、
ミザリーちゃんに謝って下さいよ!」
しかしユーシャちゃんが流れを引き戻す。
オネストは予想外な一撃を食らって暫し固まる。
ざまあみろ。そんな俺やお前みたいなこせこせしたやり方はユーシャちゃんには通じねえんだ。思い知ったか!
……あれ? という事は俺のセコさやみっともなさもバレバレ? とほほ。
「ま、そーゆーこと。あんたは落書き事件の関係者どころか首謀者だもんな。
あとな、証拠はデマゴーのヤツが正直に話したぜ。覚えがねえとは言わせねえぜ?
吹奏楽部のイケメン副部長だけあって、
笛やラッパを吹くのは得意みてーだな」
おぉ、あとはオレサマちゃんが『この紋所が目に入りませんの!!』と家紋入りの印籠を出せば完璧! まさかここから刃傷沙汰って事もあるまい。一安心。
ボン・ノワールはクールに去るぜ。
が、カウとクオタ君が駆けつけ、俺も立ち会うことになってしまった。このうっかりボン兵衛に出来ることなんてないんだが。
すると……だ。
オネストは逆上するでもなく澄ました顔。
「ああ、そうだ。俺が指示した」
カウが自暴自棄になっていた時とは違う。
『俺は正しいことをしたんだ。なにが悪い?』と信じて疑わない、恐ろしい光が目に宿っている……。
「そこのボン・ノワールは薄汚いミザリーなどという魔族の混血児をこの学園に引き入れたゴブリンにも劣る学園の汚物。
帝国の名誉と伝統を守るゴン将軍ならびにジン・ノワール様の名誉を穢す犯罪者なのだ!
ならば当然の扱いを受けるべきではないか!そうだろう!
同じ空気を吸うことすら汚らわしい!
過ちは糺されねばならない!!
魔族の信奉者は学園、いや帝国から出ていけ!!」
は、犯罪者とは何だ!!確かに転生前にトイレで煙草を吸っていた事はあるが!!
イケメンがビシッと指差してくるからつい、俺が悪いのではないかと……。
ん?俺が悪いワケねえだろ!!
『語るに落ちたの。神の代行者を気取る愚か者めが。言うてやるがよい小童』
更に指輪からオフェーリア様からのお言葉だ。加護が発動したって事は、コイツ……!俺に精神操作の魔法を使いやがった!
見下げ果てた野郎だ!!誠実さの欠片もねえな!!
するとゲームのテキストってワケじゃないがヤツの放った一字一句が脳裏に浮かび上がる。なるほど、そういうことかよ。
つい、ひねたニチャッとした笑みが浮かぶとオネストの後ろにいた二人が眉を寄せた。哀しい。
「何がおかしい?笑って誤魔化すつもりか?
これだから魔族とその信奉者は……?」
オネストは攻撃を宣言!
俺は手札から罠カードを発動!!なんつって。
「いやさ。過ちは糺されなければならない。
過ちを絶対に許さないし吊し上げるってことは、最初から誰も失敗しちゃいけないってことだろ?神様みてえに偉ぶってるのがウケるからさ。笑っちまってごめんなあ?」
「貴様、何を意味のわからんことを……!」
「人間だってエルフだって獣人だって魔族だって失敗する。間違える。勘違いする。それを全部許さないなら、誰も生きていけねえよ。自分だけは絶対に間違えないって顔してるあんたの方がよっぽど傲慢だ」
我ながら、ヘイトタンクの中ボスらしい上から目線のSEKKYOUだなあ……。
と思わんでもないがミザリーちゃんの名誉を守るためだ。俺はミザリーちゃんの側にいるって手を握りながら誓ったんだ。
このくらいは言わせてもらいたい。
「聞いていて反吐が出ますわね」
「はえ?」
な、何だってオレサマちゃんが口を挟んだ。やっぱり俺の薄ぺらい人生訓なんてこの程度なのか?
たじろぐ俺に対してニヤリ、とオネストは勝ち誇った笑みを浮かべている。
「解ってくれたみたいだね。キミの様な聡明で懸命な、尊い血筋の持ち主の……」
「何を勘違いしていらっしゃいますの?
貴方は告発者でもありません 改革者でもありません。伝統を重んじる貴族ですらありませんわ。
本当に信念があるなら名を名乗りなさい。
本当に正しいと思うなら堂々と議論なさい。
貴方がやったのは机に落書きさせて陰から一石を投じて、清い池に無粋な波紋を広げただけ。それを扇動と呼ばず何と呼ぶのかしら」
「な、何っ!?扇動だと! 俺は学園の未来のためを思って……」
旗色が悪くなったとみるやオネストは話をそらすべく声を張り上げた。
しかしここにおわすは我が友人にして名探偵かつ名軍師のクオタ君!
その程度の言い逃れにはしっかり伏兵を張っているのさ!
「違うな。学園のためなら教師に報告すれば済むのに貴方はそれすらしなかった。
ミザリー女史本人に確認も魔族との共存はあるべきかという議論もしていない。ただ周囲の感情を煽った。 それは是正ではない煽動だ」
「ぐっ……き、君達も帝国の歴史で学んだだろう! 魔族は辺境を襲い!村を焼き払い!罪のない平民を殺して来た!!
それが正しいとでもいうのか!
襲われた人々の前で同じ事を言ってみろ!!言えるものかよ!! 家族を奪われた痛みが! 故郷を焼かれた苦しみが! わかってたまるものか!」
被害者を代弁するかの様にオネストは最後の切り札とばかりに熱弁を振るう。
確か被害者の気持ちは俺にはわからない。
けどな……。
「俺っちにそれ言っちゃう?
ぶっちゃけ俺ちゃん辺境伯の次男坊だよ?」
「わかるよ……アタシのお父さんもお母さんも……魔族に殺されちゃったから」
「魔族云々は知らないが、家族を奪われ、追い立てられて殺された者の気持ちはわかる。 僕の母さんは平民の愛人というだけで僕を実家に取り上げられて、馬小屋の中で凍えて死んだ」
いつもの快活で木漏れ日の様な顔と声ではない、偉ぶって胸を張る様な顔と声でもない哀しみと憂いを含んだ調子だった。
これが嘘だと思うならそいつは今日からでも遅くはないから人間を名乗るのを止めたほうが帝国とやらのためだろう。
後ろの二人は絶句して立ち竦むのみだり
で、お前はどっちだ? オネスト?
「ユーシャちゃんはよ。魔族に家族を殺されても誰かを憎むためになんて生きなかった。
泣いてる奴を励まして、腹減ってる奴に飯を分けて周りを笑わせてきた。テメェみてぇに陰から石を投げたりしなかったぜ」
ザンテツ君が判決の主文を代弁する。
彼の声は低く沈んでいた。
そしてオネストは法と秩序、矜持を遵守する意思を持つオレサマちゃんとは違う人間だった。
「畜生がァーッ!!」
逆上してゴミ捨て場の角材を俺に振り下ろしてきた!!まずい!?咄嗟に頭をガードした次の瞬間!!
「しゃらくせえんだよ!! セイヤァーッ!!」
気合の雄叫びより先にひゅおん、とザンテツ君の居合風を切る刃の降る音と共に角材は真っ二つ、返す峰打ちがオネストの手首を直撃していた。
後から出したのに先に当たるって……!
ザンテツ君の居合は神業だな!
「男ぶりなら五分の勝負だが、
刀を取ったら後れは取らねえぜ」
「ぐ……う……」
蹲るオネストだがもはや正義を失った堕天使に等しい。天使に対しての翼さながらに顔面蒼白の女生徒たちはそそくさとその場を立ち去っていく。
「わ、私たち……保健室に行ってくる!」
「か、関係ないから……!」
「お、覚えていろ……!お前らなんかに……!!」
「君は正義の使徒なんだろ?
正義の使徒たるものがそんな悍ましい顔をするもんじゃあない。
誇らしく裁きを受け給えよ」
「あ、出た。カウ君節♪」
「な、何だねユーシャ君!!」
「これにて一件落着ですわね!」
と、オレサマちゃんらしい幕引きとなった。俺の出番全然なかったよ。
で、デマゴーは停学2週間。
オネストの野郎は反省文提出と
吹奏楽部からの諭旨退部で終わり。
「今回の件により、オネストは部の名誉を著しく傷付けた。よって満場一致で退部を勧告する」
……と諭旨退部になったらしい。
懲戒処分にすると実家同士の話になって面倒なんだと。めんどくせえな、貴族って。
家の名誉だの派閥だの後援者だの。
ゴン兄さんもそういう奴らを相手に立ち回らなきゃならないんだよな。
俺をも使いこなす男になるのだぞ!と言ってくれたのはそう言う気苦労もあるのだろう。……励ましの手紙でも送ろうかな。
序に全校集会で校長の挨拶が
「無意味に差別的な言動や行動はしない様にしましょう」だってさ。
ナメんなっつの。
ー ???視点
こうして僕の周りの顛末は終わった。
俺……いや、僕自身は何も変わらない。
相変わらず才能は頭打ちだ。
恐らく家督はカマシが継ぐだろう。
才能も、地位も、名誉も。
初めから僕のものではなかった。
けれど――。
「「「ごめん!この通り!!」」」
「いいから頭を上げ給え。淑女は頭を下げるものじゃなく、紳士の背を支えるものさ」
「お詫びに今度はノツモリダ家の領土から採れたフルーツの盛り合わせを手配いたしますわ」
「ほんとゴメンね。週末ヒマなら猪狩りの仕方を教えるからそれで許して!」
「んじゃ俺っちは帝都のナンパ通りに連れてくわ。カウ君の脱ドーテーのためにさ」
顔を上げれば、そこには喧しくも、賑やかに嘶く馬鹿共がいる。
僕はもう、馬小屋の鼠じゃない。