グッドエンドで世界が滅ぶなんてそんなのアリ!? ~ヘイト担当悪役貴族は主人公らとノーマルエンドへ辿り着きたい~ 作:ぷうち☆りん
「う〜、トイレトイレ」
俺の名はボン・ノワール。
微妙系RPG『ドレイク・ユニバース』においてヘイト担当サンドバッグ系中ボスにした異世界転生者だ。
ゲームの世界の中なのにお腹は空くし、
トイレには行きたくなるしタバコも吸いたくなるというのはどういうワケなんだろうなァ!?
ともかく、学園の男子用トイレに入ると小便器の方は先客がいた。
「あっ」
「あっ」
そこにいたのはカウ・マッセ。ゲーム内には登場はしていなかったがなんやかんやあって、マウントを取られたり、助けてやったり、助けられたり……。ま、なんやかんやあってこの間の落書き事件の解決後、ユーシャちゃん達のグループに参加している。
で、ユーシャちゃんというのはこの『ドレイク・ユニバース』の女主人公。
魔族を両親に殺されてもなお哀しみに押しつぶされたり、誰かに責任を押し付けたりせず明るく快活な女の子だ。
戦闘時には薩摩系、というか覚悟キマりすぎなバーサーカーになるのは御愛嬌。
え? やけに詳しい?
ストーカーじゃん、キモキモキモーっ?
う、煩いな! これも世界平和のために必要なんじゃい!
「キミは何をブツブツと一人で喋っているんだい?」
スカした態度なのは相変わらずだが厭味ったらしいトーンではなくなっていた。
「い、いや何でも」
「……そうか。そろそろ学力テスト並びに体力測定だものな。隙間時間にも暗記に精を出しているのは感心だね」
とカウは好意的に解釈してきた。え、何それ。知らん……怖……。学園ものRPGの世界だからオートで進んで行くものじゃないのかー!?
「あ、あぁ」
「では、僕は失礼するよ。僕は君と違って準備万端だからね。
まあどうしても、というのならキミの勉強会には付き合ってあげないこともない」
カウ・マッセはそう言い残すと手をしっかり2度洗いながら悠々と去っていった。え、これは何かのフラグ?
そういうお耽美な趣味は……ないです。
「あ〜! タバコが吸いたいなァ!!」
転生前の数少ないストレス解消法だったし。
ん? 何やら懐かしいタバコの様なニオイがする気が……。いや、この世界にタバコはないから俺の勘違いだろう。
そんな事よりビルデ先生とサドゥー先生にテストに関して尋ねるのが先だ!!
ー
……と、バタバタとボン・ノワールが男子トイレから立ち去った後のこと。
便器に座り、帝国のゴシップ誌に目を通しながら男子生徒がタバコを吹かす。
傍目にはユーシャ・アベルの親戚筋かと勘違いしうる面影がある。
しかしその顔は精悍ではあるものの、
どこか下卑た雰囲気を漂わせその瞳は雷雲の様に曇り、禍々しさに満ちていた。
「『ラーベリング家の呆れた差別エリート教育! オネスト・ラーベリングの虚像を暴く!』か……。へぇ〜……あの全校集会でチラッと校長が触れたヤツか。
確かにアイツは『魔族の信奉者であるボン・ノワールは許される存在ではない。ヤツを捨て置くだなんてこの世は救い難いバカばかりだ』って言ってたな」
男は吐き捨てるように呟くと、ゴシップ誌を足元のペットスライムに消化させた。
「俺はの
ズルくて、卑劣で、そのくせ尊大で。
そんなお前が破滅していく様を見るのは娯楽の少ないここでは愉快痛快だったよ。なあ?」
とペットスライムに本心を語ると、果たしてそのペットスライムは肯定も否定もせず、縦横にプルプルと揺れるのみだった。
ー
「ねえねえボンくん。今日の夕方勉強会しない?」
昼休みの学食にて肉のサグラダ・ファミリアを建築していたユーシャちゃんが話しかけてくる。ホント屈託のない笑顔だ。
「まあ! 夕方に!? お勉強回……ですって!?」
「「「仰る通りでございます!」」」
「誰が合いの手を入れろと言いまして! しばきますわよ!」
すると俺のテーブルに座っているオレサマちゃん並びにキラワレモン三兄弟が驚愕と共に立ち上がる。
いや、仰る通りでございますの使い方間違ってない?
「うん? そうだよ? どうかした?」
「うぐ、わ、私の口からそのような口に出すのも憚られる様な破廉恥な事を言わせるおつもりでして!! はしたないですわよ!」
耳まで真っ赤になりながらオレサマちゃんはユーシャちゃんを指差してあわあわと慌てふためく。一方の指差された方はきょとんとした顔をしている。
そんな純粋な彼女を俺の欲望のままに……
って違うわい!! 中の人などいない!!
『ドレイク・ユニバース』は全年齢対象です!
「あ! そうだ!! ならオレサマ様ちゃんと一緒にやろうよ!」
「な、何ですって! 貴方正気ですの!?」
「当たり前じゃん! 皆で一緒に楽しくやろうよ! それじゃ、約束だからねー!」
「お、お待ちなさい!!」
オレサマちゃんは耳年増というか、エロ孔明というか……。意外と欲望に忠実なキャラなのかな?
「うむ、旨いっ」
「やはり鮮度が違うな」
「イチゴには練乳だな」
ウザイ君達はこれ幸いと主人のオレサマちゃんのお皿の物を食べてるし……。
(聞いた聞いた?)
(ボンくんを取り合うお嬢様と武道のエリートの恋の鞘当て……ってコト!?)
(いや〜ん♡爛れてるぅ〜♡)
(……許せない)
なんか噂好きのモブ女生徒からそんな声が聞こえてきた、というかミザリーちゃんからも!? 誤解だ! 誤解なんだ!!
ー
「ええ♡この学園では年に2回、学力と体力の両方を試験する制度があるわよん♡
健全な精神は健全な肉体に宿る♡とまでは言わないけどぉ♡
健全であるコトにこしたことはないわよね〜♡」
不健全が服を着ているようなエロ魔法教師に健全な精神を語られてもなぁ……。しかし相変わらずいつも補習室にいる人だ。
「ま、それはそれとして。私からの課題、『潜在適正の把握と解放』はちゃんとやっている?」
「それはまあ……」
そしてこの落差である。
落書き事件の後、ビルデ先生はどういう心代わりか俺を誘惑する事はなくなった。まあ、誂ってきたりはするけれど。
「そう。じゃあその成果を見せてもらいましょうか?」
椅子から立ち上がっただけなのに爆盛フルーツバスケットばりにお胸がばるんばるんに揺れ動く。どういう伸縮性なんですかその衣装!? 魔法って不思議!
調合実験室へ向かうまでの道中、男子生徒はビルデ先生のドスケベぶりに鼻の下を伸ばし、俺を見るなり舌打ちしていく。女性からは露骨に嫌悪の眼差しを向けられた。
な、なぜ……?
ー
「ふふふ、年頃の子を誂うのは楽しいわ♪ あとここまで来るまでに会った女の子、何人が処女だと思う?」
「ぶふっ!?」
調合実験室に着いて準備をテキパキ整えながらのド直球下ネタトークに俺は面食らった。知るかいそんなの!!
「知りませんよ! それに何なんですその過剰なお色気攻撃は!!」
「うーん、ダメねぇ。それじゃ0点」
「れ、0点!?」
「そうよ。さっきまで私が使っていたのは毒属性と木属性の複合魔法なの」
「そ、それは植物性フェロモンみたいに相手の感情をコントロールできるって事ですか!?」
「ショクブツセーフェロモン? 何それ?」
あ、しまった。ドレイク・ユニバースに近代科学の概念はあまりないんだっけ。話をごまかそう。
「あ、いえ。つまり植物の持つ毒を抽出、濃縮……大昔の魔女がグツグツ鍋で煮込んで作るヤバそうな毒薬でも一瞬で作れると」
「あら、解ってるじゃない。30点あげちゃゃう♪ そう言えばあの三兄弟から聞いたわよ♡調合失敗ボムを一斉に投げつけ、マキシマイズド・ドンムブでタイミングを調整して連鎖爆発させたんですって?
案外テクニックは凄いのね♡わりとカワイイし♡」
言い方ぁ!! あと顔と身体が近ぁい!
メッチャいい匂い!!
褒められたら伸びるタイプ? やかましいわ!!
「だから貴方は今の魔属性の他に調合に不可欠な毒や木属性に適正があるんじゃないかしら? 私の誘惑に耐えたんだからわりとあり得ると思うわ♡」
「凄い自信っスね……」
呆れつつも俺の頭に電流が走った。
殆ど手に入らないタバコの類似品を毒と木の複合魔法で作れば……。
「あ、言っておくけれどお酒や麻薬を造ろうなんてしてもダメよ〜。捕まるわよ。悪くすれば族滅。良くても死罪よ」
良くて死罪て。族滅て。中世ですか? 中世だったわ……。
さらば我が愛しのメ◯ウス……。
ー
「じゃあ早速始めましょうか。
まずはこのサカール草とバイアグ卵。
この二つをこの溶液に入れて魔力を注ぎ込むの……」
と、ビルデ先生が実演してみせる。
出来上がったのはピンク色の溶液。
「これを霧吹きに移して暫く安定させれば……完成♪ 『ピンクフロイド』よん♡」
「麻薬じゃないですかーい!!」
「麻薬じゃないわ♡ 天然由来成分を使用した合法媚薬よ♡」
と、悪戯っぽくウィンクをしてくる。あざとい! てかバレるわ! こんなに派手なカラーリングじゃ!!
あと天然由来成分って。おい開発陣。設定はどうした設定は。
「ほら、早くやってみてちょうだい♡さあ、始めるわよ……ん♡」
ビルデ先生が俺の背後に回って優しく手を添える。密着されているから柔らかいものが背中に当たっているんですけど────!!!!
「ほら、集中集中♡」
「む、無理ですよ!」
すると、途端に先生は真面目な表情になる。
「うーん。やっぱり貴方は自分以外の人間を意識しすぎる傾向にあるわね」
「ダメなんですか?」
「普通ならね。貴方は魔術師には向いてないわ」
「は?」
まさかの痛烈なダメ出し!?だが俺を見るビルデ先生の眼差しにはふざけている様子はなく、かつ暖かかった。
「強い魔術師ほど孤独になるものよ。魔術しか信じられなくなるから。でも貴方は違う」
「俺は……」
「じゃあ今日はこのくらいで終わろうかしら? そのピンクフロイドは記念にあげるわ♡」
俺が返答に窮すると、ビルデ先生は取り敢えず満足したのか俺の煮え切らなさに飽きたのか。餌を食い残す猫の様にすっと離れた。
ー
「あ、そう言う事でしたのね……」
「何が?」
「……」
オレサマちゃんが想像の翼を広げていた様な事にはならず、俺達はほぼいつものメンバーでの勉強会となった。
効率はともかくワイワイガヤガヤするのは正直楽しい。
生前のブラック営業していた会社での会議の時の会議とは雲泥の差!
「あー、ヤベーな。俺っちってば全然勉強してねーもん。こりゃ数学は切るしかねーかなー……」
「そうだな。選択と集中ではないが長所を伸ばした方が効果的だ」
「クオタ君は何が得意なん?」
「得意科目か。私には特にないな」
あ、これ。セミプロが「俺? 人並みだよ」というレベルだ。知らんヤツがやったら嫌味だが、クオタ君の冴えた頭脳と一歩引いた物腰を知っているからそうだとしか言えない。
「俺っちは体育と美術が得意かな。数学は……壊滅だわ〜」
「私もー。モーロック先生からは平均点を今の4倍にしなさいって言われたし」
「……貴方。30点でも40点でも平均が100点を越えるじゃありませんの!」
「でへへへ。実はそうなんだよね〜。
ま、生きていれば何とかなるよ!」
グッ、とガッツポーズを固めながらユーシャは胸を張るがオレサマちゃんは呆れ顔のままだ。
「全く仕方がありませんわね……。
カウ。貴方は確か全科目が得意なんでしたわよね? 彼女に基礎から教え直してあげなさい。基礎の復習は私たちにも役立つはず」
「な、何故僕が彼女にそんな事を……」
「まあ! マッセ男爵家の跡取りでありながらまだ入学試験で恥をかかされた事を根に持っておりますの?」
「そんな事はない!!」
「そこを何とか? お願い!
あの時の事は謝るから! ホントゴメン!」
両手で拝むポーズをするユーシャちゃんにカウは照れたようにそっぽを向く。
「やらないとは言っていないだろう!
君には猪狩りのやり方を教えてもらった借りもある……。今回だけだからな」
「ありがとー!」
「ふん……」
とカウが照れ隠しにユーシャちゃんの申し出を受け入れ、ユーシャちゃんは嬉しそうに感謝の意を伝える。
男のツンデレに需要はあるのか?
知らんけど。
「あ、因みにカウくんは好きな子とかいるの?」
「な、何だね藪から棒に!!」
「それは俺っちもキョーミがあるなあ。
こないだナンパ通りに連れて行ったらさ、
真っ先にカウ君から見て半分位の背丈の子に話しかけたけど、
もしかしてそっちの趣味?」
え? カウってロリコンなの?
YESロリータNOタッチの教えはどうした教えは。
「違う! あれは彼女が親とはぐれていたから心配しただけだ!」
「本当ですの?」
「当たり前だ! 君とて普段から貴族たるものは平民を守る責務があると言っているだろう!」
「だよね。困っている人を助けるのは当たり前だよ!」
ユーシャちゃんはカウの手を取って同志を見つけたかの様に目を輝かせていた。純粋な善意で接してくる女子に慣れていないのはお互い様みたいで、反応に困っていた。
俺は考え込んでしまった。
自分がこうも嫉妬深く醜かった事に。
「クオタ君はどうなん? 気になる子とかいんの?」
「私は……特にいないな」
「おっ! クオタ君は文系硬派って感じ? やるじゃん!」
何がやるのか良く解らないが冷静沈着なクオタ君が女の子を追いかけ回す姿は想像ができないなあ。
「ザンテツ君は?」
「俺? そーだなー……まず一年のキララちゃん。アリスちゃん。バネッサちゃん。
二年のカトリーヌさん、モネラさん、ガンジスさんそれから三年の……副担任の……食堂で給仕をしている……あと学園に野菜を卸している……」
「はぁ……もう結構ですわ」
まさに両手に余るというかモテモテというか。この間の落書き事件ではまさに某遠山のお奉行様ばりの活躍だったし。
そりゃモテるよね。非モテは哀しい。
「それでキミはどうなんだ? ボン・ノワール」
「えへん、えへん」
まさかカウからこんな恋バナを振られるとは……。たじろいでいるとオレサマちゃんが咳払いをする。
(解っておりますわよね)というヤツか!
確かにオレサマちゃんとは婚約者だし、ここで他の子の名前を出すのはヒッジョーにマズい!!
「……」
ヒィ! 髪型を変えたミザリーちゃんの視線が怖い!!
(私は貴方の側にいられればそれだけで……)
メカクレおかっぱロングからゆるふわ前分けウェーブパーマに髪型を変えて目元をパッチリさせたから益々魅力的になったね最高。なんてよそ見する俺は最低。
Yaw! 最低の裁定する俺要再訂。
なんて現実逃避のラップをしている場合じゃないんだ!!
「それでそれで?」
「そ、そりゃあ勿論……オレサマちゃんだよ〜。婚約者以外の子に手を出しちゃったら浮気になっちゃうし〜……ははは」
「そっか。ご馳走様」
「つまり家の事情で私とは付き合っているだけの事ですの?」
な、何でェ!?
謝ったのにそんな謝り方があるか!!
って詰めてくるクレーマーじゃないんだから!!
オレサマちゃんの機嫌がみるみる悪くなる……ど、どうする!?
「そう言えば筆記用具やノートを出すときにチラリ、と見えたがボン氏のカバンには香水らしきものが入っていたな。
恐らくはオレサマ女史のためにプレゼントとして心を込めた贈り物をしたいがために調合を頑張っていたのではないかな?」
流石名探偵にして我が心の友!!
助け舟ならぬ助け飛空艇の到来で一気に局面が有利になる!!
「あら、そうなの?」
「い、いや〜。まあその……」
「ふふ、仕方がないですわね……。
折角ですし、テストの後にでも試してみますわ♪」
だ、大丈夫だよな。ほら俺は落ちこぼれだしさ……なんか香水の作用で一波乱なんて事はないよな? ないよな?