グッドエンドで世界が滅ぶなんてそんなのアリ!? ~ヘイト担当悪役貴族は主人公らとノーマルエンドへ辿り着きたい~   作:ぷうち☆りん

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転生したら体力測定でした。後編

では午後からは反復横跳びによる敏捷力。遠投による精密さと技術力のテストを行う!」

 

(よ〜し! 筋力テストでは散々な成績だったが持久力はまあまあいい感じだった。

 ここからいい感じに巻き返してみせるぞ!)

 

 決意を新たに俺は反復横跳びのテストに参加する。

(ワン・ツー・サン。ワン・ツー・サン)

 イメージするのは自身をメトロノームの様にリズム良く。そして、そのリズムを崩さない様に。

 

(なんだ!? なんだか動きがいい意味で違う! まるで俺がヤジロベーになったみたいに力の伝達とバネが力強くスムーズだ)

 

 ザザッ!! ザザザッ!! とグラウンドに砂埃が舞い、何人かがゲホッ! ゲホッ! と咳き込む。

 

「な、何よ……何だアイツの動き!?」

「速いのもそうだけど……無駄が無くないか?」

「さっきの筋力測定と別人だぞ?」

「おい! 見ろよクオタ君! カウっち!」

「ああ、もう見ているとも」

「ボン、君という男は……」

 

「そこまで!」

 

 サドゥー先生が声を張り上げて終了の合図を送ってきた。ま、マズい! 周りに砂埃を巻き上げたのがルール違反だったのかな? 

 二つも評価不能があったら落第になって学園に残れない! 

 

「ま、待って下さい! まだやれます! 

 ですから評価不能だけは!?」

「何を言っているボン・ノワール。貴様の評価はもう十分だ」

「そ、そんな! 敏捷力の判定は不合格って事ですか!?」

 

 世界の滅亡もかかっているがユーシャちゃんたちとここでお別れだなんてイヤだ! 

 土下座一つで何とかなるなら屁でもないがサドゥー先生はそんな甘い人ではない……! 

 

「何を勘違いしている。ボン・ノワール。貴様は合格だ。評価A!」

「ええ!? な、何でですか!!」

 

 一転して評価A!? 一体どういう事!? 

 するとサドゥー先生の視線が厳しくなる。

 

「不服か」

「そ、そうではなくて理由をですね」

 

 と、尋ねると一瞬『はて?』とでも言いたげな顔になったがいつもの鬼軍曹フェイスになると、端的に説明してくれた。

 

「ボン・ノワール。貴様は筋力こそ低いが重心移動が極めて優秀だ。更に無駄な力みも無い。よって敏捷力評価Aとする」

「はっはー! やったじゃんよボン君!! 

 見ろよアイツ等の度肝抜かれた顔!」

 

 ザンテツ君が自分の事の様に喜びながら俺に駆け寄ってバンバン背中を叩いた。

 さらに指差す方を見ると、先の陰険三人組を含めたギャラリーは呆気に取られている。

 ただ、ベノムとさっきの持久走で大活躍だった生徒に驚いた様子はなかった。

 

「ザイード、すっかり盛り上がる所を取られちまったな?」

「……」

「あァ、お前はウシワカって呼ばないと返事しないんだったっけなァ」

 

 先の耐久力トップと称賛された生徒がベノムに声をかけられた。

 ハーフアップに前髪を片側に垂らし、後ろを結んだ髪型が印象的なイケメン。

 ザンテツ君と同じ様な肌色だがチャラチャラした雰囲気はない。

 なんというか……ニンジャとかアサシンというかそういう近寄りがたい雰囲気がある。

 因みに『ドレイク・ユニバース』にはしっかりニンジャや倭の国はあったりする。

 国産RPGだから性能はメーカー保証付きである。

 

「……」

 

 ともかくも時間が押しているのかザンテツ君とウシワカと呼ばれた生徒が向き合う。

 あ、よく見ると小柄でザンテツ君の方が頭一つ高い。

 

「さっきはどうも、なザイード君。

 さすがに連敗する気はねーけど、フェアプレイで行こうや」

「……」

 

 気さくな態度で握手を求めるザンテツ君。

 転じてザイードはマスクを鼻の位置まで持ち上げて、右手できちんと握手に応じた。

 

「華奢な手だね〜。背丈も低いしもしかして女の子だったりしちゃう?」

「……」

「悪ぃ。バカにする気はなかった」

「……」

 

 ザンテツ君の揺さぶりにも謝罪にも

 ザイードは答えなかった。まさか〜。

 今どきそんなコッテコテなストーリーってある? ……ないよね? 

 いや、これ10年以上前のゲームだし……。

 というかザイードやウシワカなんてキャラは俺の記憶にないんだけど……? 

 

「ザンテツ。無意味な私語は慎め」

「あ、すんませんッス」

「お前には、負けない」

「お? 決意表明? いいじゃん! 俺っち好きだぜ! そういうの!」

 

 サドゥー先生からの指摘に詫びを入れるザンテツ君。そのタイミングでザイードの決意表明がなされた。

 ……中性的な声だ。判別がつか〜ん!! 

 なんて益体もない事を考えていると。

 

「聞いているのか? お前には、負けないと、言った」

 

 体育座り中の俺の前に音もなく移動して目線を合わせてくるザイード。

 え? 俺? なんかやらかしちゃった? 

 

「ん? 何それ? ヤバいなあ。ちょっと熱くなってきちゃったよ……」

「所定の位置に戻れ。ザイード」

「……」

 

 ザンテツ君が若干ヒリついている……。

 確かにザンテツ君は精神系のバッドステータスになりやすいキャラだったけど。

 いや、なんでもかんでもゲームのデータに当てはめるのは危険だ。

 俺には皆がデータの存在だとはどうしても思えない。転生前の俺よりよっぽど泣いたり、笑ったり、悔しがったり、喜んだり……。生きているんだって思う。

 そんな俺の胸の内よりは注目すべきはザンテツ君とザイード君の勝負だろう。

 

「始め!」

 

 初速は僅かにザンテツ君が上だった。

 やっぱり抜刀術は体捌きは重要だよな。

 しかし! 

 

「なっ!?」

 

 スタートダッシュに出遅れたザイードが徐々に追い上げ、中盤にかけて反復横跳びの速度を上げていく。

 俺がヤジロベーなら彼は踊り手。

 右へ左へひらりひらりと、

 まるでダンスをしているかの様に砂塵を立てずに素早く動くザイード君。

 

「嘘だろ!?」

 

 スピードは全く落ちていない。

 むしろ余裕さえ感じさせるぐらいだ。

 ザンテツ君が慌ててペースを上げるものの……サドゥー先生から止めの合図が出る。

 

「そこまで! ザイード、ザンテツ共に

 評価A+とする!!」

「はぁ!? サドゥー先生! 俺っちはまだやれるって!!」

 

 ザンテツ君が珍しく、は失礼だけど本気の顔つきで抗議するがサドゥー先生は頭を振る。

 

「何を勘違いしている貴様ら! 

 この際だからこの場にいる全員にはっきりと言っておく!! 

 今日は貴様達の成長と適正を測るテストであり、雌雄を決したり特定の誰かを辱める場所ではない! 

 況して己の意に沿わぬという理由で妨害や挑発を行うなどとは以ての外だ!!」

 

 サドゥー先生の鬼気迫る一喝。

 水を打った様に場は静まり返り、その後は粛々と敏捷力のテストが続く。クオタ君とカウの評価はC。ベノムは相変わらず評価Bだった。

 

 サドゥー先生のお叱りが無ければイキリ散らかしてクオタ君やカウにイヤな思いをさせてしまっていたかと思うと汗が止まらない。すっかり大事な事を忘れていたのを思い出させてくれたサドゥー先生には感謝だな。

 

(それにしてもベノム・ヴィラールはB.B.Bかぁ……)

 

 最後の技術力テストの準備中、ふと彼の事を思い出した。

 全てが高水準と言うよりかは意図的に能力を隠している様な気がしないでもない。

 だけど能力を隠しているなら肩に乗せているスライムはなんだろう? 

 独特のビルドツリーを持っているという可能性もあるけど……。

 

「おい。ボン・ノワール君! ヒーローになり損ねちまったな?」

 

 ってうわあ!! いきなり本人に話しかけられた!! 何となくユーシャちゃんに似た顔つきではあるが若干ヤニ臭い気がする。

 学生だって言うのにどういう事? 

 

「ヤニ吸う?」

「す……吸わないっての! こんな所で!!」

「……。へぇ〜? まあいいさ。

 コイツがアンタに挨拶したいってんでな」

 

 と、彼の後方に陣取っていたザイード君がずいっと出てきた。

 

「ウシワカ……だ」

「え? いや……ザイード君でしょ? 

 さっきサドゥー先生がそう呼んでたし」

「……」

 

 ザイード君は何も答えない。

 数秒が数分にも感じられる様な気まずい沈黙が続いてしまう。

 

「ヒャハハハハハ!! ボン・ノワール君。そいつはウシワカって呼ばねえと返事しねぇヤツなんだわ! 面白ぇだろ?」

 

 まるで空気を引き裂く雷鳴の様な笑い声だ。 ヒャハハハハハってすっごい甲高い笑い方だなあ……。いや、人のクセや無意識の特徴を笑うのはダメだな。控えよう。ベノムはヒャハハ笑いをする。メモメモ……。

 クオタ君ではないがデータに入れておこう。

 

「ごめん。ウシワカ君。俺はボン・ノワール。改めてよろしく!」

「ウシワカだ」

「知ってるってば!! 今ベノムから説明されたばかりだから!」

「……」

「ヒャハハハハハ! 最高だなお前ら!」

 

 またしても沈黙。またしてもヒャハハ笑い。これが俺のベノムとザイード君とのファーストコンタクトとなったのだ。

 

 ー

 

「では最後に技術力のテストを行う。

 貴様らが得意な道具や魔法であの的を撃ち抜け。5回投擲や射出を行い、その合計点で評価を行う。何か質問はあるか?」

「はいセンセー。例えば隕石の魔法を使って的を全部吹っ飛ばしたら評価はどうなるんです?」

 

 ベノムがニヤリと不敵な笑みを浮かべて、サドゥー先生に質問する。

 いやいや学生にそんな凶悪な魔法を使える筈が、いや……まさかね? 

 まさか、ホントにやるつもりなのかベノムは? 

 

「その場合は評価不能として扱う。

 失格ではないがこれは破壊力を測定する試験ではない。貴様の肩に乗せたスライムを的へ投擲し、誘導するというのならば構わんがな」

「へーい」

 

 いやいやボールは友達、って言って思い切り蹴飛ばすマンガの主人公じゃないんですから……。と言っても通じないから俺は黙っている事にした。

 

 ともかくザンテツ君は投石、クオタ君はシールドソーサー、カウのヤツはファイアーボールで試験に挑んだ。

 ザンテツ君は評価B。クオタ君の評価はCだった。

 シールドソーサーだと小さな的を狙うのも一苦労だからまあ、仕方ないか。

 カウのヤツは意外に、というのは失礼だが評価Aマイナス。全部真ん中の赤い部分に当たっているのにマイナスってのはなんだろう。

 ザイード君は投げナイフでカウと同じくらいの命中精度でAプラス評価だったけど。

 俺、ナイフの刃がナイフの柄に刺さるの初めて見た。

 

「一体なんでだ?」

「ああ、あれはだねボン氏。魔法で的を狙うのは評価が厳しくなるんだよ。

 魔法の誘導性は我々の一般的な武技の類よりも容易に調整できるからね。

 だが、カウ氏のように全て中央に当てるとなると一朝一夕でできるものじゃない」

 

 と、俺の独り言にクオタ君が眼鏡を直しながら説明してくれた。流石の博識データキャラだなあ。

 道理でドレイク・ユニバースの魔法命中率が高めに設定されているワケだ。

 相殺システムのせいで持ち味は死んでたけど。

 あ、という事は俺はマジックアローで申請したから評価が落ちるってことか? 

 えーい、まあいい!! 

 

「次! ボン・ノワール!」

「お前、ガラス瓶、使わないのか?」

 

 うおっ!? いきなり背後に立たないで欲しい! ビックリする!! 

 振り向けばザイード、いやウシワカ君がジト目で俺を見ている。

 

「え、いや、そのー……魔法の方が楽かもなーと思って。アハハ……」

「……お前、切り札、隠す。ベノムと、同じ」

 

 機嫌を損じてしまったのかウシワカ君はぷいとそっぽを向いて去っていく。

 切り札を隠すっていうのはベノムの事か? 

 確かにオールBってのは不自然な気がする。

 

「ボン・ノワール! いつまで休んでいる! 棄権希望か!?」

 

 と、サドゥー先生から怒号が飛ぶ。いかんいかん今はテストに集中しなければ! 

 

「は、はい! すぐに準備します」

 

 果たして結果はBプラス。

 一発はド真ん中に行ったし真ん中の赤い円内に2発入ったんだけど一発は端っこで、最後の一発はプレッシャーのせいで外してしまった。本番に弱いのね……俺ってば! 

 

「ドンマイ! ドンマイ! 最初の筋力測定とは雲梯の差だからさ!!」

「うむ。E.B+.A.B+。ボン氏の成績は平均以上だ、間違いなく合格だろう。あと雲梯ではなく雲泥の差だな」

「む……ま、まあこんなところで失格になられてはライバルとして張り合いがないからな! 精進したまえ!!」

 

 ザンテツ君、クオタ君が温かく励ましてくれて、カウはどこに需要があるのか分からん男のツンデレをかましてきた。

 

(キャ〜! 素敵〜! 謎の転校生ザイードと公爵家次男ボンの急接近に焦り出す男爵家の嫡男カウ! 推せる〜!)

(薄い本が厚くなるわ〜!)

(でもあのニヒルなベノ×ボンの強気受けもイケる〜!!)

 

 なにやら外野貴腐人の皆様から生暖かい声援を感じる。

 ……こっちの世界にもナマモノお耽美はあるのだろうか? 

 ナマモノって言ってもゲームのキャラだろ? うっさいわ! 

 というかこういう黄色い声援はいら〜ん!! 

「次、ベノム・ヴィラール!」

 

「……珍しい。ベノム、やる気」

「へ? やる気?」

 

 相変わらずポケットに手を突っ込んでヘラヘラした感じだけど……? 

 とにかくベノムが指定したのはサドゥー先生が指定した通りにスライムだ。

 試験が開始される腰にぶら下げていたチェーンのアクセサリーが鎖の鞭に早変わり。

 地面を叩くや、スライムは矢のように的に体当たりした。

 土埃が舞い、ヒュオン! と小気味良い音を立ててスライムが鏑矢の様に変化して的の真ん中を射抜いていく。

 1回目、2回目、3回目、4回目、とそれはもうビデオのリプレイのように寸分違わぬ動きとタイミング。

 

「これがやる気って事? ザイード君」

「……」

 

 まさかの無視!? あ、ウシワカって言わないと答えてくんないんだった……。

 こだわりが強いタイプだなあ。

 こほん、と咳払いして再び俺は彼に尋ねる。

 

「これがベノムのやる気って事? ウシワカ君」

「違う。仕掛ける、最後」

 

 5回目に何を仕掛けるって……? あっ!? 

 なんと的が外枠だけを残してボロボロになっていくじゃないか!? 

 そうか。4回的に向かって体当りした時に飛沫を飛び散らせて腐食させたんだ。

 だけど外枠だけを残す精度で行うだなんて……並大抵の技術じゃない。チートって言い換えてもいい。

 

「仕上げだ。イービル!!」

 

 ピシッ、パシイッ! と二度鎖の鞭が地面を叩きや、スライムがライオンの姿に転じて的の輪をくぐってしまったではないか!! 

 まるでサーカスのベテラン芸人のようにベノムは一礼をすると、歓声があがった。

 

「最後の一発は評価不能……っスか?」

「……ベノム・ヴィラール! 評価B! 四回目までの成績を基準とする!」

「ククッ。そこが落としどころだよなァ」

 

 苦虫を噛み潰す様なサドゥー先生の顔を見て満足したのかベノム君は元の大きさに戻ったスライムを肩に乗せて待機スペースに

戻った。……と、とんでもない生徒がいるなあ。

 

 因みにクノボ君はやる気はあったけど、

 全部場外ホームラン。

 いや……鉄球を棍棒で打つってどんだけー!! 

 

「クノボ・デイ! 評価不能! 次」

「んあ? 仕方ねえだなあ〜」

 

 あまり気にしていないのか呑気な様子で歩いていく。クノボって名前は聞いたことがない。ネームドモブってヤツかな? 

 

「クノボくん!」

「んあ? なんだ〜? あんた〜?」

 

 うおっ、でかい。2メートルは優にあるぞ! 太っちょに見えるし浦島太郎みたいな髪型だが腕はバキバキ。

 三兄弟より腕の筋肉がキレてるぜ! 

 

「あ、あのさ。ボールは打つより投げたほうが的に当たりやすいよ」

「んあ? ……そうだなあ〜。アンタ頭がいいだなあ〜」

 

 ニカッと屈託のない笑顔を見せるクノボ君。そして……。

 

「よし。これでテストは終了とする」

「待ってくださいサドゥー先生!」

「また貴様か? 今度は何だ?」

 

 うう、あれこれ騒ぎばかり起こすからマークされてしまった気がする。とはいえここは引けない。

 

「クノボ君はバッティングで評価不能の結果でした。でもクノボ君の実力は投擲で発揮されるなので再テストをしてあげてください!」

「そうか。しかし規定により一度失格となった者は……」

「俺、頼む、この通り」

「んなっ!?」

 

 今まで蚊帳の外だったザイード君がクノボ君とサドゥー先生の間に割って入り、片膝立ちの姿勢になると深々と頭を下げる。

 おお〜っと! ウシワカ君の予想外の行動に周囲もどよめく! 

 

「ボン・ノワール、ザイード。二人の熱意と、その志に免じて特別に再テストを許可しよう」

 

 鉄球を的に毎回罅を入れるレベルで投げるから俺とザイード君で取り替えるのが大変だったよ。

 ザンテツ君たちも途中で手伝ってくれたから助かったけどね。

 果たして結果は……? 

 

「ボノク・デイ! 評価Bとする!!」

「んあ? やっただ〜!」

「良かった、ボノク」

 

 ザイード君も心なしか嬉しそうだ。

 俺も嬉しいけどな。

 こうして体力テストは波乱が幾つかあったが終了したのである。

 

 ー

 

 話はテストの結果発表後。

 ボン・ノワールの成績は中の上にして平均よりやや上、と言った程度のもの。 悪くはないがゴン・ノワールやジン・ノワールと比較すれば首を傾げる成績だ。

 ただ、それは数字だけを見ればの話だ。

 

 

「私の裁可も得ずに勝手な真似を……」

 

 成績表を見て、息子からの手紙は目の端にて一瞥するに留めたクジョは校内に潜めたスパイの一人であるビルデを睨めつけてながら報告を聞いている。

 

「どうして校長でもない貴方の裁可がいるんです?」

 

 しかしビルデは主従ではあり得ない様な気さくかつ鷹揚な態度で応じた。

 その様子はさながら忠義ではなく才能で仕える食客にも見える

 

 

「死にかけの孤児である貴様を拾ってやった恩を忘れるとは。やはり犬の子は犬、魔族の子は魔族ですね」

「一つ知識と小じわが増えて結構な事じゃありませんか♡」

 

 そしてこのやり取り。

 犬の下には犬が集い、虎の下には虎が集うのは世の習いというものだろうか。

 

「それに貴方への恩は返しますわよ。ボン・ノワールという四代目大公を育て上げるという形で」

「できるものですか。甘く、手緩く、騙されやすいあの愚物が」

 

 親のものとは思えぬ暴言。

 しかしビルデは反論どころか便乗するかの様に続けた。

 

「ですわね〜♡

すぐ調子に乗って♡女の子を見ると鼻の下を伸ばして♡

 ……手柄も持ちものも平然と人に譲って、困っている人間を見捨てられないそんな子は、飼うよりも育てる甲斐があるものよ。貴方が切り捨てるのなら私が拾い上げても不服はないでしょ?」

「愚かな」

 

 クジョはビルデの宣戦布告に対し吐き捨てる様に一言だけ。その後は何も言わなかった。

 

 〜

 

 更に場所は変わり……。

 

「ダグラスよ! 聞いたか! おい!」

「……聞いております」

 

 ゴンの股肱の臣である老騎士ダグラス。ゴンは猛将でありながら市政も重んじ、幕僚も平民が出自のものも軽んじない。

 豪放磊落にして剛毅果断。皇帝からの覚えも目出度く、臣民からの信望も篤い。

 唯一の欠点があるとすれば……

 

「見ろ。このサドゥーからの評価を。成績においてら取り立てて見るところはなし。しかし人を和ませ、繋げる事にかけては貴方やジン・ノワールを補って余りあり……だぞ! どうだ! これはつまり宰相の気風ありという事ではないか!! なあ!!」

 

 それは贔屓目と論理の飛躍であるが部下は咎め立てない。

 そうした子煩悩ならぬ弟煩悩をゴン・ノワールの人間くささと好ましく感じているのかもしれない。

 

「……兄さん」

「おう、ジンよ! どうした!」

 

 幹部候補生からこの度ゴンの幕僚として招集された実妹のジン・ノワールが口を挟む。

 

「少し気になる事があるんだ。

 この辺りでの海流周りの変化に関する調査で漁師からの陳情があっただろ? 

 その調査に僕とボン、オレサマさんやボンの友人たちを派遣させて欲しいんだ」

「しかし、ボン殿は学生ですぞ。

 学業を疎かにしてまで、辺境の軋轢や内政を学ぶ経験を積ませるにはまだ早いのでは」

 

 ダグラスの抗議も最もだ。成績が振るわねば廃嫡も辞さないクジョからのボンへの風当たりは更にきつくなるだろう。しかし。

 

「ジン! 危険はないんだな!」

「もちろん」

「解った! 許す!! だが俺も」

「それはダメだよ」

「いや、しかしだな」

「ダメだよ」

 

 さすがに僻地の拠点調査などに天下の将軍が参じては鼎の軽重を問われる。ゴンは三度粘ったが渋々引き下がった。

 

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