グッドエンドで世界が滅ぶなんてそんなのアリ!? ~ヘイト担当悪役貴族は主人公らとノーマルエンドへ辿り着きたい~ 作:ぷうち☆りん
転生したら修羅場でした
青い空……広い海……。
初夏の気候は、控えめに言っても最高だ。
俺はそんな素晴らしい世界に生まれたことを感謝した。いや、転生なんだけど!!
「へぇ〜、私海って初めて見たよー!
なんか独特の匂いがするね! やっほー!」
と、ユーシャちゃんは水平線に叫ぶが木霊が帰ってくる事は当然なかった。
水夫達が笑いをこらえる中、ユーシャちゃんをオレサマちゃんが窘めた。
「ユーシャさん、少し燥ぎすぎではありませんこと? 私達はジン・ノワール様の助手としてこのセトナイの地に来ておりますのよ?」
「あ〜……ごめん。私ってばつい……」
ユーシャちゃんとオレサマちゃんは大分打ち解けている。今や良い友人と言った感じだ。ユーシャちゃんは誰とでも仲良くなれる才能があるし、体力測定で好成績を出した事も少なからず影響があるのだろう。
「ボン様。身体の具合は大丈夫ですか?」
「え? あ、うん。大丈夫」
と、10分くらいおきにミザリーちゃんが俺に具合を尋ねてくる。イメチェンして髪型を変えたとはいえ、こういう所は変わらない。ヤンデレ? 失礼だな。愛が重いだけだよ。
「しかしボン様。以前は数分おきに具合が悪いと仰せられ、私の不備を叱りつけておいてでしたが……」
「え? そうなの?」
思わず聞き返してしまった。
話せば長くなるのが俺は過労死した挙句にこの『ドレイク・ユニバース』の世界におけるヘイト担当章ボスであるボン・ノワールに転生してしまった男なんだ。
で、この世界は主人公がグッドエンド、トゥルーエンドを迎えると黒幕によって世界は滅びてしまう。
そのフラグ立てを防ぐために俺は現状アバター型主人公の特徴を一番持ち合わせているユーシャちゃんらと共に、ジン姉さんから招かれての海域調査を手伝う事になったのだ。
因みに男性陣は呼ばれなかった。
ゴン兄さんはてっきり俺がユーシャちゃんに一目惚れしたと思って気を利かしたらしい。なにその気ぶり!?
決して俺はユーシャちゃんに他意があるわけではない。 ないったらない。
はい、この話はやめよう。やめやめ。
けどザンテツ君やクオタ君のサポートを受けられないのは不安だなあ……。
ザンテツ君はチャラく見えても侠気がある前線指揮官キャラだし、クオタ君はクールな参謀、軍師キャラだからなあ。
あとオレサマちゃんが原作にいないキャラというのが未だに引っかかる。
最初は絵に描いた様な悪役令嬢だったのがなんやかんやあって、改心というか元々責任感が強い子だったようですっかり俺達に馴染んでいる。なお俺の婚約者でもある。
けどボン・ノワールに婚約者がいたというのは知らない。
俺はこのゲームに関してまあまあやり込んだけど設定資料集は購入していないからな……。
すいませんね、薄給で。
「ボン、調子はどうだい?」
「え? あ、ああ……大丈夫だよ」
などと一人でヤキモキしていたら気さくな調子でジン姉さんが話しかけてきた。
非常に長い銀髪を、後頭部で1つにまとめてお団子にしていて帝国の軍服姿がバッチリ決まった男装の麗人キャラ。
原作では条件を満たせば仲間にできるお助けキャラにして、当然苦労に見合う分の能力の持主でほぼ全ての魔法が使える。
以前カウがお披露目しようとして失敗しかけたオールクリアも当然標準装備。
頭も切れるし、武芸にも秀でており、更には容姿端麗。 絵に描いた様な完璧超人。いや絵に描いているけどさ。
だから迂闊な事を言って俺がボン・ノワールの中の人だとバレてはまずい。
「そうかい。船酔いは克服したの?」
「そうなんだよ。魔法学園では体を鍛えたから、三半規管とか強くなったみたいなんだ!」
「サンハンキカン? 何だいそれは?」
「えっ!?」
ジン姉さんが訝しんで聞いてくる。
ああー!? 言っている側からやらかしてしまった! ファンタジー世界に三半規管なんて概念があるわけねーだろ!! 俺のバカ! アホ! マヌケ! ボン・ノワールのなりすまし!!
な、なんと言って誤魔化すか。
「えぇーと、その……さ、サハギンだよ!
サハギン! サハギンの様に海でもスイスイ泳げて、船の上でバランスよく立っていられる位に鍛えられたって事さ!」
かなり苦しい言い訳だが……通じてくれ!
「そうか。魔導学園とはいえ体を鍛える事は決して無駄にはならない。 特に海では魔力の流れが乱れやすい。万が一何かあって戦闘になった際、鍛えた体力が勝敗を分けることもあるだろうからね」
「だ、だね」
良かった。信じて貰えたようだ。
海上では海に宿る魂、そして深海に住む冥王ゴルゴダの影響によりマナの流れが不安定になりがちなのだ。
大陸を超える転移魔法がなかったり、魔力を使う飛空艇やら気球とかの航空力学が発展していないのはだいたいそれのせい。
なおゲームでは使用MPや詠唱時間の増大で表現されている。
ま、こんな説明はどうでもいいけどさ。
「だからいざという時には弟を頼むよ。オレサマくん、ユーシャくん、ミザリー」
「はーい!」
「まあ、仕方ありませんわね。適材適所……という事にしておきますわ。
ボン、私に適当な指示を出したら承知しませんわよ!」
「勿論ですジン様。私の命に代えても」
お、重い……! やはりミザリーちゃんは思いが重い……!! あ、ダジャレじゃないよこれは。
ー
(船旅かあ。生前じゃそんな事を考える余裕もなかった。と、それよりもセトナイであったイベントって何だったかな……)
用意された個室の窓から見える蒼海を眺めながら俺はゲーム内のイベントを振り返る。と言っても重大なイベント、少なくとも三大竜や冥王ゴルゴダとの繋がりはなかったはずだ。
と、考えていると部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
と言うと入ってきたのはオレサマちゃんだった。
「何を難しい顔をしていらっしゃいますの?」
「そんな顔してた?」
「ええ。していましたとも。時々貴方は心ここにあらず、というか何かもっと遠くを見ている事がありましてよ。
ボン。確かに志を高く持つ事は私の夫として大切ですが足元を疎かにするのはよろしくありませんわよ」
「あはは……気をつけるよ」
と、俺は苦笑いする。この場合、正直に答えるべきか迷ってしまうな。
俺がボン・ノワールでなく、前世で過労死した冴えないサラリーマンの転生者であることは、まだ誰にも話していない。
妖精女王のオフェーリア様は感づいているだろうけど、ボンの母親であるクジョに知られるのはまずい。俺をボンのなりすまし、として暗殺か或いは俺の知識を利用しようとするに決まっている。
ゲーム内でも暗殺や破壊活動、政治工作、果ては王族のマインドコントロールに至るまで何でもござれだった女だった。
その位は平気でしてくるに決まっている。
そしてその毒牙はオレサマちゃんにだって向けられるに違いない。あの女は手段を選ばないなんて生易しいものじゃない。
最も相手の心を粉砕する手段を選り好みして使ってくる怪物だ。
「ほら、また言っている側から。
貴方は私の夫になる様に私は貴方の妻となるのでしてよ。その私にも秘密にしておく気ですの?」
「そ、それは……」
オレサマちゃんは鋭い。でも言ってしまって大丈夫だろうか?
「……私が信頼できないのですか?」
「そんな事はないよ! ただ、今は話せないんだ」
ああ、アニメやマンガとかで大事な事はもっと早く言えよ、とドヤ顔でツッコミを入れていたが大間違いだった……。
人にはそれぞれ事情があるのだと改めて思い知る。
「でもいつか必ず教えるよ。それじゃダメかな?」
「むぅ……」
オレサマちゃんは不満そうに唇を尖らせた。彼女の表情は素直すぎる。嘘をつけない性格なんだろう。だがこればかりは迂闊に話せない。
彼女を巻き込むわけにはいかないのだ。
「……わかりましたわ。今はそれで納得します。なら、紅茶を淹れてくださる?」
「ああ、お安い御用だ。何か注文はある?」
「蜂蜜とミルクを、両方たっぷりと」
それ、紅茶かなァ!? とツッコミはせずに俺は粛々とティーセットに紅茶を淹れる。もちろんオレサマちゃんには言う通りにこれでもかて蜂蜜とミルクを入れた。 なお俺のはストレートだ。
「ん……美味しいですわ」
「環境が美味しくさせてるのさ」
と、オレサマちゃんは幸せそうな笑顔を浮かべる。 可愛い。ゲームのヒロインと言われたら即購入レベル。
「どうかなさいまして?」
「い、いや何でもない」
「あら。そうですの」
オレサマちゃんは優雅な仕草で紅茶を一口飲むと、ふと真面目な顔になった。
「ボン、貴方にお尋ねしたいことがありますの。ユーシャさん、ミザリーさんについてどうお思いですの?」
「ど、どう思うとは?」
手から汗が止まらないので危うくティーカップを落とすところだった。
この流れはヒジョ〜に良くない!!
どうする? 現実(?)にはギャルゲーの様な選択肢はないのだ。
①愛しているのは君だけさ。マイハニー。
……何言ってんだコイツ。となるに決まっているだろ! 特にオレサマちゃんは誇り高い女性だ。
そんなおべんちゃらなんてすぐ見抜くに決まっている。
②ユーシャちゃんはもっと野菜を食べた方がいいよね。肉ばかりじゃ栄養が偏るし。
あとミザリーちゃんはもう少し栄養のあるものを食べた方がいいと思わない?
……真面目に話してんだぞオレサマちゃんは。
こんな誤魔化しはオレサマちゃんに対して失礼極まる。これもダメだ。
③よく、わからない。
……とぼけるつもりはない。これは本心だから。
俺はプレイボーイじゃないから簡単に割り切れるもんじゃない。 だから俺はこう答えた。
「よく、わからない」
「解らない? 全く……ユーシャさんはあの通り単純明快、竹を割った様な女性。ナタの強さはあれども剃刀の鋭さはない。
そんな彼女をどう指揮官としていくか。
ミザリーさんはその逆。剃刀の鋭さはあってもナタの強さはない。 そんな彼女をどう貴方の護衛にしていくか。
彼女達の将来をどう考えておりますの?」
あ、そういう事かあ……。
修羅場爆弾イベントじゃなくてホッとした……。
「因みにオレサマちゃんは?」
「決まっているではありませんの……。
破壊槌! これに尽きますわ!」
「へ、へえ〜……」
否定できない……一つ解ったのはオレサマちゃん
ルートに入ったらカカア天下間違いなし!
いや結婚するんかい。
すると、言っている側から尻に敷かれてしまう。
轟音と共に舟が大きく揺れ、互いにバランスを崩してしまったためだ。
「あいたた……。オレサマちゃん、ケガはない?」
「ございません。貴方は?」
「大丈夫。特に痛めた所はない。とにかく、状況を把握するのに上に行こう」
すっとオレサマちゃんは立ち上がって左右を見渡す。その落ち着きときたら流石職業がプリンセスなだけの事はあるよな。
ー
船上に上がると水夫達があたふたと駆け巡っている。どうやら只事ではないらしい。
更に先までの晴れた空が嘘の様に曇り始め、波が高くなってきていた。
「ボン様! ご無事でしたか?」
「二人とも大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だよミザリーちゃん。ユーシャちゃん。一体何があったんだい?」
俺は二人に尋ねるとユーシャちゃんが説明し始める。
「舟の底に穴が空いてそこからサハギンが侵入したみたい」
「ジン様は氷結魔法で船底を補修しております。ボン様はいち早く脱出を」
「な、なんだって!?」
そんなエンカの仕方なんて聞いた事ないぞ!?
というか大概のモンスターは舟の上から攻めてくるもんだろ!?
ジン姉さんの魔法レベルの高さならこの悪条件の中でも氷結魔法は発揮できるだろうけど、それもいつまで持つか。
(何かが変わり始めているのやもしれぬ。
モンスターが知恵をつけたか或いは……何者かがモンスターに知恵を与えたのか)
と、腕輪から俺だけに聞こえるオフェーリア様のお言葉が届いてくる。
いきなり戦略シミュレーションなんてジャンル変更なんてアリか!?
「は、早く逃げねえと海の藻屑だぞ!」
「な、何だ!? サハギン共が這い上がって来てやがる! 救命艇は使えねえ!」
「うわああ〜!? もうだめだぁ〜!」
水夫のみならず一部乗客も慌てふためき出す。
船上はさながらパニックムービーの様相を呈していた。
「落ち着きなさいまし!
それでも貴方がたは海を駆ける戦士なのですか!」
と、オレサマちゃんが水夫の皆さんを一喝する。
所謂鬨の声(ウォー・クライ)を無意識下で発動させたのか或いは本人のカリスマか。
兎に角水夫達も乗客も落ち着きを取り戻した。
「この中で戦えないものはおりまして?
断っておきますが戦う意思がないからといって私やジン様、そしてボンは見捨てる事は致しません。安心なさい。ノツモリダ家、並びにノワール家の名において誓いましてよ」
サドゥー先生からの薫陶なのか、それとも本人の指揮官としてのセンスなのか。
時間は残り少ない中戦えないものから保護するという宣言を彼女は行う。
「私は病気がちで……」
「僕には婚約者とその子供が……」
「ワシももう少し若ければ」
ぽつらぽつら、と非戦闘員が自己申告してくる。
「で、どうしますの。ボン」
「どうするって?」
「何を言っておりますの。貴方と私でラミアクィーンを討伐した事件を思い出しなさい。
貴方の小細工が功を奏して大事を成す事ができたでしょう? あの時の再来ですわ。悪知恵を出しなさい」
悪知恵はヒドくないか?
けどこれも信頼されていると言う事だろう。
うん。きっとそうだ。
そんなワケで非戦闘員の皆は船長室前にバリケードを築きつつ待機してもらう。
「私は?」
「ユーシャちゃんはマストの上に登って弓矢を射る事はできる?」
「できるよ! 木登りなら任せて!」
サムズアップしながらユーシャちゃんは朗らかに答える。
マスト登りは木登りじゃないが……いや、今は言うまい。
「水夫の皆さんは待機。第一陣は……俺たち三人で挑む!」
「ボン様、それは危険です。前衛は私なり、ノツモリダ様なりに任せ後方で指揮を」
「……それはできない」
ここで逃げたらそれこそ立場がない。
本物のボンなら我先に逃げ出すのだろうが……。
えーい! 正体バレしたらその時はその時!
ユーシャちゃんの言葉じゃないが……生きていれば何とかなる!
「まあ、いつもの強がりを言って。
膝は震えているし、顔色は青ざめておりましてよ。仕方がありませんわね」
「ボン様の場合は武者震いです。ノツモリダ様にはそれがお解りになりませんか」
「やっぱり私もサハギン達に突撃しようかな」
な、何故か三者に火花の様なものが見えた気が……気の所為だ。きっとそうだ。